日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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更新、遅くなると言っておきながら過去最速の更新です(書きだめを抜きにして)

正確な更新日時を伝えられなくて申し訳ないです


トロールからの逃走劇

三人がトロールに会う前………

 

 

 

 

 

大広間ではハロウィンパーティーが開かれていた。いつもは青空を描く天井はコウモリの群れで大部分が隠れ、壁やテーブルにはロウソクの代わりにカボチャのランタンがある。

そんないかにもハロウィンという飾り付に、マルフォイは親友が一人いないことを忘れ、見入っていた。

金色の皿にはご馳走が乗っており、空腹をこれでもかと刺激する。

マルフォイ、ブレーズ・ザビニ、パンジー・パーキンソン、ダフネ・グリーングラスの四人は早速、何を食べようか盛り上がり始めた。

 

「ねえねえ、ドラコ! あれ、美味しそうじゃない?」

 

「ああ、パンプキンパイか。ハロウィンの特別メニューだな。今食べないと、しばらくは食べられないな。」

 

「おい、ダフネ。あっちのローストチキン、取りに行こうぜ。」

 

「フフ、分かったわ。ちょっと行ってくるから、二人で待っててね。」

 

そうして、マルフォイはパンジーと二人きりになった。しばらくはパンプキンパイを頬張っていたが、パンジーは何か意を決したように話しかけようとした。が、ドアが乱暴に開かれる音で遮られた。

入ってきたクィレルはダンブルドアのところまで行くと、息を切らしながら話した。

 

「トロールが………地下室に………お知らせしなくてはと思って」

 

そう言って、クィレルは倒れた。大広間はパニックになり、どうにか騒ぎを収めることに成功したときにはダフネとブレーズは二人のもとに戻っていた。自身もパニックになり、せっかくの二人きりの時間を潰されたパンジーはひどく不機嫌だった。対し、ドラコは何か焦ったように周りを見渡していた。

 

「? どうしたんだ、ドラコ。パンジーならお前の隣にいるぜ?」

 

マルフォイの様子に気がついたブレーズが話しかけるが、ドラコはますます焦ったように周りを見渡していた。

 

「おい、どうしたんだよ? 何探してんだ?」

 

ブレーズがマルフォイの肩を掴んで問い詰めることで、ようやく話し始めた。

 

「ジンがいない! きっと、まだ用事が終わってないんだ! スリザリンの列のどこにもいないんだ!」

 

「はぁ? そんなはずは………」

そう言って、ブレーズ自身も周りを見渡すが、それらしい姿はどこにもなかった。スリザリンにいる東洋人はジンだけだ。加えて、彼は意外と長身なのだ。視界に入りやすく、入ればすぐにわかる。しかし、確かにどこにもいない。ダフネ、パンジーの二人も見つけることができないのだろう。徐々に二人の顔も青ざめていった。

 

「監督生に連絡しましょう。」

 

なんとか冷静さを保っているダフネが言った。四人で必死に人ごみをもがいて、先頭の監督生の所までたどり着いた。しかし、それは無意味に終わった。

 

「ジン? ああ、あの東洋人か………。今はここの生徒を寮まで送り届けるのが先だ。トロールは先生方が仕留めてくれるはずだ。心配することはない。」

 

「そんな! ジンがトロールに襲われているのかもしれないんだぞ!?」

 

「いいから! 先生には話を通しておく。お前らはさっさと列に加われ!」

 

そう言うと、列を率いて寮に向かい始めた。

 

「わ、私のせいだ! 私が二人にしてなんて頼み事なんかするから………」

 

「落ち着いて、パンジー。何も襲われたと決まったわけじゃないわ。」

 

「おい、どうすんだ? とりあえず、このまま寮に向かうか?」

 

パニックになるパンジーをダフネがなだめ、ブレーズはどうすべきかマルフォイに相談した。

既に、マルフォイの答えは決まっていた。

 

「隙を見て列を抜け出そう。ジンを探すんだ。」

 

流石にそう来るとは思っていなかったのか、三人から思わず否定と疑問の言葉が出る。

 

「お、おい、マジで言ってんのか?」

 

「そうよ。私達が行っても、何かなるわけじゃないでしょ?」

 

「ドラコもいなくなるなんて嫌よ!」

 

「行かないなら、僕一人でも行くさ。」

 

そう言うと、マルフォイは監督生の隙を伺い、いつでも抜け出せる準備をし始めた。

三人は呆然として、その様子を見ていた。

真っ先に我に返ったブレーズは、ドラコの隣に行くと同じように抜け出す準備をし始めた。

 

「お前も行くなら、俺も行くさ。もう一人増えたって別に変わんないだろ?」

 

その言葉に、ダフネとパンジーも抜け出す決意ができたようだ。

 

「私も行くわ。二人じゃ心配だもの。いいでしょう?」

 

「私も行く。もともと私のせいだもの。」

 

その言葉に、今度はマルフォイが呆然とした。

 

「いいのかい? トロールがいるんだぞ?」

 

「どうした? 皮肉にいつものキレがないぞ? その言葉、そっくりそのままお前に返してやる。」

 

思わず口に出た疑問も、あっさり返されてしまう。

呆然とした表情は、次第に笑顔に変わり、少し嬉しそうに言った。

 

「じゃあ、合図をしたら一気に向こうの廊下まで行こう。いいな?」

 

三人は迷うことなく頷いた。

 

「よし、ちょっと待てよ………。今だ!」

 

その言葉に、四つの影が列から抜け、別の廊下を走り抜けた。

 

 

 

 

 

同じ頃、別の場所では。

 

 

「………ちょっと待って。ハーマイオニーだ。」

 

「あいつがどうかしたの?」

 

「トロールのことを知らない。知らせないと!」

 

「………わかったよ。でも、パーシーに見つからないようにしなくちゃ」

 

二つの影がまた別の廊下を走り抜けていた。

 

 

 

 

 

トイレから出ると、トロールが待ち受けていた。

突然のことに驚いて、立ち尽くしてしまったが、それは相手も同じことだった。

数秒見つめあった後に、トロールは唸り声を上げながら、持っていた棍棒を横薙ぎに振った。

棍棒が空気を切る音、壁が破壊される音、そしてグレンジャーの悲鳴が響き渡った。

ようやく動けるようになった俺は、すぐさまトロールから逃げようと二人に声をかけた。

 

「おい、二人共、走るぞ!!」

 

しかし、ロングボトムは反応できたがグレンジャーは腰が抜けたのか、座り込んで動けないでいた。

グレンジャーの腕を引っ張るも、一人ではあまりに遅い。

 

「ロングボトム! 反対側を頼む!」

 

二人がかりで何とかグレンジャーを引っ張り、立たせた瞬間、さっきまでいた場所に棍棒が振り下ろされた。

 

 

 

 

血の気が引いた。  そして、

 

 

 

 

「ウオオオオアアアアアァァァァ!!!!!」

 

「うわああああああああぁぁぁぁ!!!!!」

 

「キャアアアアアアアアァァァァ!!!!!」

 

三人で叫びながら廊下を走った。

トロールは唸りながら、後をつけてきた。

 

 

 

 

 

 

「おい、今の声!」

 

「ああ、ジンに間違いない! 近いぞ! やっぱりトロールに襲われているんだ!」

 

「あそこの角からよ!」

 

パンジーがそう言った途端、ジン、ネビル、そして二人に引きずられるようにして走るハーマイオニーが角から飛び出してきた。

マルフォイは無事であったことに安心しつつ、声をかけようとする。

 

しかし、すぐ後に巨大なトロールが現れた。

 

それを見た四人は固まった。そして、

 

 

 

「「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

 

「「キャアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!」」

 

 

 

一緒に逃げ始めた。トロールに追われるのが三人から七人になった。

 

 

 

 

 

「な、なんで、お、お前らが、ここに、いるんだ、よ!」

 

「き、君を探しに来たんだよ!」

 

「来るの、お、遅い! つ、つか、やばい、い、息、が、続かん!」

 

俺の息絶え絶えの問いかけに、マルフォイが走りながら怒鳴って答える。

流石に、いつまでも走っていられず、ロングボトムなんかは意識が朦朧とし始めている。

 

「キャアァァ!!」

 

突然、鋭い悲鳴とともにパンジーがこけた。それに巻き込まれ、となりを走っているダフネもこけた。

トロールは直ぐに二人のところまで追いつくと、緩慢とした動きで、しかし、確かに棍棒を振り上げた。

とっさのことで、全員、何もできずに、ただ二人の恐ろしい未来を想像してしまった。

 

一人を除いて。

 

「ラカーナム・インフラマーレイ!!」

 

そうグレンジャーが叫ぶと、杖から明るいブルーの炎が飛び出し、トロールの顔を襲った。

トロールの皮膚は魔法を通さないほど頑丈だ。しかし、皮膚に覆われていない部分、目や口の中は、十分に魔法が効く。

顔を燃やされたトロールは痛みに標的を見失い、怒りに声を上げながら、あらぬ方向へ棍棒を振り回す。

 

「今のうちに!!!」

 

グレンジャーの声を聞いて、ドラコ、ブレーズ、俺の三人は足元にいる二人の救出に向かった。

二人を引き離すのが先か、トロールの視界が戻るのが先か。その勝負だった。

 

 

わずかな差で、トロールの視界が戻る方が早かった。

 

 

怒りに目を光らせながら、五人に増えた足元の標的を潰さんと棍棒を振り上げる。

 

「ロングボトム!!! 頼む!!!」

 

何も考えず、咄嗟に声が出た。藁にもすがる思いで、ロングボトムを見る。

なんでもいい。時間が欲しかった。

ロングボトムも何とかしようとしたのだろう。杖を振り上げ、誰もが知る呪文を唱えた。

 

「うぃ、ウィンガーディアム・レビオーサ!!」

 

そんな呪文で身を守れると思えず、思わず目を瞑り、衝撃に備える。しかし、棍棒は来なかった。

何かがぶつかる鈍い音がして、次に、大きな何かが倒れる音がした。恐る恐る目を開けると、ノックアウトされたトロールがいた。

 

「………何が起きたんだ?」

 

「………棍棒が浮遊して、トロールの頭に落ちた。」

 

「………ロングボトムか。」

 

状況が分かるに連れ、体から力が抜けて、その場に仰向けに倒れこんでしまった。

 

「じ、ジン! 大丈夫!?」

 

「ああ。でも、疲れた。力が出ない。」

 

駆け寄ってくるロングボトムとグレンジャーに、手を挙げながら答える。

全員、助かったことがわかったのだろう。緊張が切れて、パンジーが側にいたダフネと、なんとグレンジャーに抱きついて泣き始めた。

 

「ご、怖がっだあああぁぁぁーーーー!!! ありがと、ありがと、ありがとぉ!!」

 

それに釣られて、ダフネも、グレンジャーも泣き始めた。

ブレーズはうつ伏せに倒れたままピクリとも動かない。「やべぇ、マジやべぇ」と呟いているから、気を失ってはいないのだろう。

さっきまで立っていたはずのドラコは壁にもたれるようにして座っている。乾いた笑いを上げながら。

ロングボトムは一番まともだ。倒れた俺たちの周りをウロウロしながらどうすればいいか分からないでいた。

 

 

その後、マクゴナガル先生達を連れたポッターとウィーズリーが到着し、事情を説明することになった。

俺とグレンジャーとロングボトムの三人がハロウィンパーティーに参加していなかったこと。

それを知った四人が監督生に報告するも、対応してもらえなかったこと。そして、どうしても心配で抜け出したこと。

最後に、どうやってトロールを倒したかを。

全部を聞き終えたマクゴナガル先生は顔を青くした。そして、抜け出した四人から、ついでにポッターとウィーズリーの二人から、罰として一人五点引いた。その後、もし抜け出していなかったら俺たち三人の命はなかったとして、運の良さと勇気を称え、その場にいる人全員に一人十点を与えてくれた。

グリフィンドールとスリザリンの両方に三十点もの点数が入った。

 

 

 

この日から、グレンジャーとロングボトムはドラコ達四人から、暖かくとまでは言わないが、それなりに歓迎されるようになった。

パンジー曰く、

 

「特別よ、と・く・べ・つ! だって、もしあの場にいたのが別の人だったら、私達は死んでたわけでしょ? 流石に、命の恩人を「穢れた血」呼ばわりしないわよ。事実でもね。ハーミーだからいいのよ!」

 

と、グレンジャーに愛称までつけて言い切った。ついでに、

 

「ねえ、なんであなた、ハーミーとネビルをファミリーネームで呼ぶの?」

 

「うん? いや、最初からそう呼んでたから。」

 

「それじゃ、あまりに他人行儀よ! いい? 私達はトロールを倒した仲よ? 名前で呼びなさいよ! もしくはハーミー!」

 

「あ、ああ………。じゃあ、名前で。」

 

というやり取りの後、名前で呼ぶようになった。二人が嬉しそうにしていたので、結果的には良かったのかもしれない。

 

グレンジャー改め、ハーマイオニーは無事、ポッター達と仲直りできたようだ。ポッター達も抜け出してまで助けに来てくれたのだ。当たり前と言ったら、当たり前かもしれない。

しかし、ポッター達がスリザリンと仲良くするのは別問題のようで、相変わらずドラコ達とは仲が悪いままだった。ハーマイオニーが苦笑いしながら言っていた。

 

トロールとの追いかけっこという最悪の事態は、俺にとっては最高の結果をもたらしてくれた。

ホグワーツに来て初めて、何の悩みもなく一日を終えることができた気がする。

 

 

 




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