日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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不幸とはこのことを言うのでしょうか?

扉を開いて、最初に出てきたのはマダム・ポンフリーだった。

マダムは二人を見ると、時計をチラッと見てから

 

「面会はあと五分だけです。一応、病人ですからね。早く寝かせないといけません。」

 

とだけ言うと、ジンのベッドに二人を案内した。

ベッドに着くと、ジンは二人が同時に来たのを見て驚いた顔をした。困惑していたようだが、すぐに我に返って二人に話しかけようと口を開いた。が、ハーマイオニーが話し出す方が早かった。

 

「ねぇ、ジン。純血主義の事、どう思ってるの?」

 

噛み付くような質問の仕方に、ジンは二人の間で既に一悶着あったことを悟った。

面倒なことになった。  そう思って顔をしかめて、どうすべきかと考える。しかし、さっきと同じで全くこれといった対策は思い浮かばず、とりあえずマルフォイに釘を指すことを優先した。

 

「ドラコ、とりあえず頼みがあるんだが「いいから質問に答えて!」‥‥‥お、おう。」

 

「余計なことは言わなくていいわ。YESかNOで答えて。あなたは純血主義に賛同しているの?」

 

「とりあえず落ち着けよ、グレンジャー。ちゃんと質問には答えるさ。」

 

「なら、今すぐ答えて。純血主義に賛同しているの?」

 

「………YESかNOなら、YESだな。」

 

そう言った瞬間、ハーマイオニーが固まった。

少し待って、いざ詳しく話そうとハーマイオニーの顔を見たら、今度はジンが固まった。

泣いていた。はっきりと。

混乱して、何もできずにいる間にハーマイオニーは医務室から走って出て行ってしまった。しばらくの間、沈黙が続いた。それを破ったのは今まで黙っていたマルフォイだった。

 

「よかったじゃないか、ジン。これでもうあの穢れた血とはおさばらできる。もう、話しかけてくることもないよ。」

 

「!!? お前、グレンジャーに何かしたのか!?」

 

「いや別に。ただ、君が純血主義を肯定するなら、二度と君に近づかないって約束しただけさ。」

 

そう言って、上機嫌に「それよりも」と本を持ち上げて話題を変えようとした。しかし、ジンの険しい顔つきで直ぐに固まってしまった。

 

「なんで、そんな約束したんだ?」

 

荒々しさはないが重い感じの声の響きに、確かに苛立ちや怒りが感じられた。そんな声を聞いたことがなかったマルフォイは「いや、だって………」としか返せなかった。

 

「なあ、俺はお前に純血主義云々はいいが人間関係については気を使ってくれって、前から頼んでただろ? それなのに、何で自分の友人ですらないのに、グレンジャーが俺に会う会わないを勝手に決めてるんだ?」

 

「そ、それは、あいつが勝手に………。一体どうしたんだ、ジン? いいじゃないか、マグルなんて。いずれいなくなるんだ。」

 

「俺はマグルの追放に賛同した覚えはない!!! お前の勘違いだ!!!」

 

ジンは直ぐにしまったという顔をしてマルフォイを見たが、もう遅かった。マルフォイの驚いた顔は徐々に怒りに染まり、こちらを睨みつけて、

 

「ああ、そうかい。そうだったのかい。君も、今までの奴と同じでただのご機嫌取りか。なんだ? 笑えばいいさ。友達ができたと浮かれた僕は、相当可笑しかったのだろう? 愛しのグレンジャー様に報告でもして笑いあえばいいさ。」

 

とだけ言い、振り返ることもなく医務室を出て行った。

ジンは今度こそ完全に沈黙した。しばらくして、マダム・ポンフリーが就寝時間になったからと寝かせに来るまで、身動きひとつ出来ないでいた。

 

今までで一番最悪な気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、寮に帰ると待っていたのはゴイルだった。事情を聞くと、どうやらマルフォイはクラッブとゴイルの部屋におしかけているとのことだ。スリザリン寮は二人部屋だから代わりにゴイルが来たらしい。前までマルフォイの荷物が置いてあった所を見ると見事に何もなくなっていた。

昨日の夜にあれだけの荷物の移動を済ましたことに感心すればいいのか呆れればいいのか………と思ったが、それほど自分に会いたくないのかと思うと何とも言えなかった。

とりあえず、自分の荷物を整理して、その日の授業を受けに行った。

授業中でも、マルフォイはジンと顔を合わせようとしなかった。他のスリザリン生は何があったんだと遠巻きに見ているだけだった。ジンもほとぼりが覚めるまでは話しかけないほうがいいかと思い、そのままにしておいた。

 

 

そのまま一週間ほど時間が経った。

 

 

依然としてドラコは俺を無視していた。流石にこれはマズいと話しかけようとしたが、どうも上手くいかなかった。グリフィンドールとは合同授業は魔法薬学以外なく、グレンジャーともあれから会話をしていない。ため息をつきながら、朝食を頬張っていると久しぶりに誰かから話しかけられた。

 

「よう、お前、マルフォイと喧嘩したんだってな。」

 

「ああ、そうだけど。悪い、お前の名前、なんだっけ?」

 

「ああ、俺はブレーズ・ザビニってんだ。よろしくな、ジン・エトウ。」

 

「よろしく。というか、何で俺の名前を知っているんだ?」

 

「ああ、お前、一部の奴の間じゃ中々の有名人なんだぜ? 知らなかったのか?」

 

「あ、ああ。特に目立つような覚えはないんだが………。」

 

「そうかい。なら、教えてやるよ。名家でもないのにマルフォイと対等に話してんのが問題なんだよ。スリザリンってのはさ、学校に行く前からお互いを認識してる奴が半分近くなんだぜ? 名前だけ知ってる奴を含めると八割は知り合いだって言っていい。そんな中、特に名高いマルフォイ家と誰も知らない様な奴が初日から今までずっと仲良くやってたんだ。嫌でも目に付くだろ? みんな気になってんだぜ? あいつ、一体どんな手を使ったんだってね。」

 

「………別に特別なことなんかしてないさ。ただ、普通に接していただけだ。」

 

「あー、成る程ねぇ。つまり、いきなり対等に話しかけちゃったのか。そりゃ、大抵の奴には無理だな。」

 

「ドラコの家って、そんなに有名なところなのか?」

 

「おう、そうだ。魔法使いの間じゃ、知らない方が珍しいって。そんなことも知らなかったのか?」

 

「ああ、恥ずかしながらな。あいつ、家については珍しいことは自慢げに色々話してくれるけど、そう言った‘当たり前,みたいなの中々話してくれなかった。」

 

「ふーん。ま、あいつらしいっちゃあいつらしいか。」

 

「ドラコとはここに入る前から?」

 

「ああ。まぁ、家の付き合いでね。喧嘩したんなら、お前から謝るしかねぇぞ? あいつ、自分からは絶対謝らないから。」

 

「ハハ、そんな気がする。でも、中々上手くいかないんだよな………。」

 

「ま、でもそこまで気にしないでいいぞ? あいつ、お前のこと相当気に入ってたしな。そのうち話せるようになる」

 

「そうなのか?」

 

「そうなんだよ! まぁ、あいつ素直じゃない所あるから分かりにくいだろうけど。」

 

「ツンデレってやつか?」 

 

「なんじゃそりゃ?」

 

「うーん。ま、本音の代わりに嫌味を言う奴、かな?」

 

「おお、正しくマルフォイだな! よし、あいつを今度からツンデレと呼ぼう。」

 

「やめてくれ。余計に仲直りができなくなる。」

 

「大丈夫だよ。あいつはちょっとからかう位の方が面白いんだ。ああ、そうそう。俺のことはブレーズって呼んでくれ。お前とかはよしてくれよ。」

 

「わかったよ、ブレーズ。俺のことはジンって呼んでくれ。みんなそう呼ぶんだ。色々教えてくれてありがとな。」

 

それからしばらくはブレーズと過ごすようになった。ブレーズのおかげで今までマルフォイぐらいしかいなかった知り合いが一気に増えた。ブレーズの言った通り俺は一部では有名人だったらしく、一人と話せば直ぐに色んな人が話しかけてきた。マルフォイ家が有名だったことも本当で、ドラコと対等に接していた人物は数える程しかいなかった。中でもセオドール・ノット、ダフネ・グリーングラスとはブレーズの仲介もあってそこそこ仲が良くなった。

しかし、依然としてドラコともグレンジャーとも話せずにいた。

 

談話室に新しいお知らせが届いていた。

「飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンとの合同授業です。」

多くのものが飛行訓練の開始を喜び、グリフィンドールとの合同を嫌がった。

 

「まあ、飛行訓練って言っても最初はそこまで飛ばせてくれねぇだろうな。」

 

「ああ、ブレーズか。そんなものなのか?」

 

「さあ? ただ、お堅いこの学校のことだ。安全第一とか言って持ち方からやるに決まってる。ほとんどの奴は既に飛び回ったことがあるのによ。マルフォイとかがいい例だ。あいつは私有地で何回も飛び回ってたそうだ」

 

「ああ、そんなこと言っていたな。クィディッチが上手いとか。」

 

「まあ、クィディッチについてはホントかどうかは知らねぇが、飛んでたのはホントだろうよ。お手並拝見だな。」

 

「程ほどにな。」

 

そう言って、朝食を食べに大広間へ向かった。

いつものように、ふくろう便の時間になるとドラコのところにお菓子と手紙が落とされる。それを自慢げに広げ、グリフィンドールの席にいるポッターへ見せつける。俺と喧嘩してから毎日のことだ。ポッターも感づいているのか、イライラしながらスリザリンを睨んでくるときがある。

今日はドラコがクラッブとゴイルを連れてロングボトムの何やらガラスの球のようなものをめぐってチョットしたいざこざを起こしたこと以外は何もなかった。

 

午後三時、飛行訓練が始まった。ブレーズの言ったように、持ち方と乗り方から始めるようだ。

監督をしているマダム・フーチは箒にまたがる方法を見せて全員の指導に回っている。初めてやる俺は何点も注意された。ドラコは流石というか、持ち方以外は何も言われなかった。尤も、持ち方を注意されたときポッターとウィーズリーが笑っていたのは気になったが。

いよいよ、宙に浮かぶ練習に移った。

 

「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴って、二メートルくらい浮上したらすぐ降りてきてください。笛を吹いたらですよ。――イチ、二の」

 

そう言った瞬間に、なぜかロングボトムが宙に浮かんだ。

 

「こら、戻ってきなさい!」

 

先生は大声を出すが、ロングボトムは完全に箒の制御ができていない。

 

「先生、あれ、魔法使わなきゃ戻すのは無理だと思います。」

 

とりあえず助言すると、先生は慌てて杖を取り出そうとしたが、遅かった。ロングボトムは真っ逆さまに落ちると、嫌な音を立てて地面にぶつかった。

先生も俺も、グリフィンドール生も顔を真っ青にしてロングボトムを見た。手首が折れていたそうで、先生はロングボトムを医務室に連れて行った。大したことではなくてホッとしていたら、朝に見たロングボトムのガラス球を見つけた。落としたのだろう。

後で渡そう、久しぶりに話もしたいし。

そう思って拾い、ローブにしまうと、後ろから尖った声が聞こえた。

 

「おい、今、盗んだものを返せ。それはネビルのだ。」

 

振り向くと、真顔のポッターが立っていた。

 

 

どうやら、とことん不幸なことが続くらしい。

 

 

 




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