戦闘描写が自分の一番の課題なので、いろいろ試しながら書いていこうと思います。というわけで前半戦です。
「ハチマ──」
「もういる」
キリトの横を蒼い影がすり抜けていく。ボス担当のパーティがその姿をハチマンと認識した時には既に彼の一撃がボスの脇腹へと振り抜かれた後だった。
「……さすがと言うかなんと言うか……」
「まじで置いてかれてそうだわ、俺ら」
「いいから続くぞ。気ぃ抜くな!」
クラインの激に風林火山の面々は武器を構え突撃していく。既に追い付いていたらしいキリトはハチマンと交互に前衛後衛を入れ替えながら、ボスを相手に高速の攻防を続けていた。
「スイッチ」
「任せろ!」
ゆらりと後ろへ下がるハチマンと入れ替わり、鋭く前に出て斬撃を放つキリト。
重さを感じさせないハチマンの動きとは違い、彼の動きは鋭く力強い。速さも並々ならぬものがある。
「……反則だろ、まじで」
腕力もあって、速さもある。もう一つ彼の強みはその反射神経にあった。
振られる刀に対して本人の余裕があるギリギリで捌く。ボス戦だからかいつもより早く回避動作を取っているものの、それでも張り付いて攻撃し続けることにおいて彼の右に出るものはいないだろう。
その攻撃性の高さにハチマンはぽつりと呟いた。
縦に振られた刀を半身反らして回避し、右手に持った剣で横に薙ぐ。武者の鎧に守られていても、彼の剣は脇腹へと刃をめり込ませた。そのままボスの横薙ぎを屈んで避けると左手を地面近くまでおろして構え、一閃。
体術スキルによるカウンターで腹部を打ち上げた。
「ハチマン! スイッチ!」
「ん」
しかしそれでも被弾は避けられず、防御力のない彼らは頻繁に入れ替わる。キリトが大きく後ろへ下がると同時に、蒼い影が彼の目の前に現れた。
「頼むぜ、ハチマン」
返事をすることもなく、ハチマンは一目散にボスの首へ向けて刀を振っていた。並みのモンスターならば一太刀で首を斬るそれも、ボスにはダメージとしてしか通らない。
わかっているのか何も言わず、彼は音もなくボスから離れた。
回避し、張り付くキリトとは違いハチマンの戦闘は一撃離脱。攻略組最速と謳われる速さを武器に死角からひたすら攻撃しては離脱を繰り返していく。側面から、背面から、影を纏う斬撃がボスへと何度も振り下ろされる。
「やっぱりすげぇよ、ハチマン」
「お前ら二人ともアホみたいな強さだぞ、俺から言わせりゃ」
ボスの周りに湧く取り巻きのモンスターを担当する風林火山のリーダー、クラインは苦笑いを浮かべてキリトを見つめた。
取り巻きの湧きはひとまず止んだようで、今攻略組のプレイヤーの視線はハチマンとキリトへ向けられているのである。
「……あいつもな、躊躇いなく冷たいこともバンバン言うけど、あんな風に立ち回られたらそら誰も何も言えないわな。というか、目標プレイヤーにされてるって、気づいてないんだろうなぁ」
クラインの独り言は隣のキリトにまで届いたのか否か。
スイッチ。という掛け声と共に自分の前にまで戻ってきたハチマンの肩に彼はとん。と手を置いた。
「お疲れさん、だいぶいいペースだな」
「このまま終わればいいんだけどな、まだ半分に差し掛かるかってところだ、何があるかわからないぞ」
「まーな、っと、湧いて来やがった。ハチマン、後ろは任せれてるからお前はキリトとあいつやっちまえ」
「当たり前だろ。こんなもん、とっとと終わらせるに限る」
ゆらゆらと脱力を保って刀を右手に持つハチマンは、キリトが下がると同時に影を纏って前へと進んで行った。
「よし、あと半分だ!」
そうして何回目かの斬撃がボスを捉え、HPバーを半分以下へと減らした。緑から黄色へと変わったそれを確認したキリトの声に合わせるように、ボスは大きく声をあげた。
「うるせぇな……咆哮か……?」
「ハチマン、パターンが変わるかもしれない! 気を付け──って、なんだよこれ」
「……なるほどな」
咆哮の終わりと共にハチマンとボスを囲む光の壁。見るからに外部との接触を遮断するそれは、やはりハチマンの隣へ行こうとしていたキリトを通さない。
独り、ボスと対面するハチマンは刀を肩に担いで小さく息を吐いた。
「強者を求めるってのはこういうことか。ボスとタイマンさせるとは、ずいぶん性格悪い奴だな、茅場も」
「ハチマン!」
「キリト! モンスターの湧きがおかしい! 数が多い!」
足軽の姿をしたモンスター達は、これまでの比にならない数が湧き彼らの前に立ちはだかる。
まるで、大将の一騎討ちを邪魔させぬようにと。
「っ! 全員モンスターを即殲滅! ハチマンくんを助けます!」
「ハチマン! すぐに助けるからな!」
「つっても、どうするよこれ」
「どうにかする! いいから絶対死ぬなよ!」
「……なるべく早めにな。怖すぎてどうにかなりそうだ」
「ああ!」
ハチマンの視界に映るマップから、キリトの姿が遠ざかる。
誰もいない完全な孤立。普段なら望ましいこの環境も今の彼にとっては絶望的な状況である。震える手を、ゆっくりと握る。
「……なんでこうなるんだかな。このゲームに来てからまともでいられた試しがない。挙げ句こんなヤバい状況で、怖くないわけがないだろ」
生きてきて、ここまで強く手を握ったこともないであろう。実際にやっていたら爪が食い込むほどに力を込めて、彼はボスを見上げた。
「……けどな、死ぬわけには行かない。俺は何がなんでも帰る。その為にここにいて、こんな適材でも適所でもないことをやってるんだ。これくらい、どうにかしてやる。ぼっちに孤立は最適環境だ。これだけは負けてたまるかよ。だからな──
──お前を殺すぞ、化け物野郎」
ブンと一振り。そのまま切っ先をボスへ向けて、彼はその濁った目で睨み付けていた。
前回のに比べ、ハチマンは余裕がありません。その解消法は決めているものの、どうしてもメンタル弱くなりがちです。書きたいことを上手く書くって難しいですね、ほんと。だからこそ楽しいんですけどね(笑)
ではでは。