BLACK PSYREN   作:どるき

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Call.10「漆黒の超電磁砲」

 倒れ込む蓮太郎に延珠が駆け寄る。蓮太郎の体にある傷口が開き、血が流れ出していることに延珠も気が付く。

 

「待っておれ、今手当をしてやるぞ」

 

 延珠は見様見真似ながら、ポーチから取り出したフェブリン糊を吹き付ける。この時代の生体接着剤の性能向上は著しく、吹き付けるだけで傷の治りが数十倍に飛躍するほどである。当然糊である以上血止めの効果もあり、血液の流出も収まる。

 

「夏世……」

 

 ガストレアを殲滅し、合流したアゲハを待っていたのは、胸を小太刀で一突きにされた夏世の姿であった。僅か一週間の付き合いとはいえ、目の前で見知った子供が死んでいく姿などアゲハとて好ましくない。

 

「アゲハ! 早くその刀を抜くのだ。まだ助かるかもしれぬ」

 

 延珠は呆然と夏世を見つめるアゲハに伝える。まだ助かる見込みがあることを。もとより高い治癒能力をもつ呪われた子供たちは、常人なら死ぬような外傷に対しても高い生命力を発揮する。バラニウムによる傷は常人並みの脆弱性を見せるものの、心臓を刺されても生きている可能性があるとすればそれこそ呪われた子供たち特有の生命力の強さに他ならないからだ。

 アゲハが言われるがまま小太刀を引き抜くと、夏世はごほっと血を吐いたのち、息を吹き返す。

 

「大丈夫……なのか?」

 

 夏世の手がかすかに動き、アゲハの手を握る。がしりと強く握ったその手は、肯定の意味であろうか。アゲハは会話こそできないものの、夏世の意識があることを確認しする。

 

「桜子、トランスで通訳してくれ」

「任せて」

 

 桜子はお得意のトランスでアゲハと夏世の精神をつなぐ。テレパシーの応用で、口がきけなくても思念で会話できるように舞台を整えたのだ。

 

『ご心配をおかけしました。しばらく戦えませんが、私は大丈夫です』

『胸を一突きにされていたぜ。平気なのか?』

『幸い私は右胸心でして。左側を刺されても運よく心臓は逸れているようです。バラニウム製の武器による傷なので治りは遅いですが、これくらい応急手当をすれば平気です』

 

 アゲハと桜子は夏世の自己申告に安堵する。トランスによる思念だだもれのテレパス故に嘘ではないのは手に取るようにわかっているのも、その理由として大きい。

 

 ひとまず手負いの蓮太郎と夏世を教会に運ぶと、アゲハと桜子は生存者探しの為に外に出る。延珠は祭壇に置かれていた七星の遺産の監視と、ガストレアに蓮太郎たちが襲われた場合の保険として教会内に残った。

 三十分ほど探し回り、そろそろ生存者などいないだろうとアゲハ達が思った矢先に、桜子は怪しい死体のミルフィーユを発見する。

 

「これ……怪しいわね」

 

 死体が折り重なる姿に疑念を持った桜子は、その山を崩して死体を並べる。上に重なった二人分の死体を退けると、桜子の目に知った顔が映る。

 

「伊熊将監……」

 

 死体の山の最後にいたのは伊熊将監であった。桜子は彼もまた死体かと肩を落とそうとした瞬間、桜子は将監の息遣いに気が付く。

 

「―――生きているの?」

 

 確認のために有線トランスで思念を覗いて確認しても、正真正銘目の前の将監は生きていた。生き残ったことが奇跡的なのであろうか。

 桜子は将監を抱えて教会に戻り、夏世の隣に寝かせた。桜子の姿を見て、先ほどまで寝ていた蓮太郎が起きだす。

 

「その男……伊熊将監じゃないか」

「重症だけど生きているわ。アナタの方こそ、もう起きても平気なの?」

「傷は生体接着剤で塞いだし、足りない血は増血剤を打った。戦闘は無理だけどこれくらいはもう平気だ」

 

 蓮太郎の言うように、彼の顔色は良好である。二人で将監に応急処置を施したのち、しばらくしてアゲハが血相を変えて戻って来た。

 

「大変だ、外に来てくれ」

「どうしたの?」

「馬鹿でかいガストレアだ」

 

 アゲハに従って外に出ると、遠くに巨大な黒い影が見えた。桜子はライズで視力を強化して眺めると、驚くことにガストレアは遠くの海に立っていた。五十キロ程度は離れた位置でありながらその巨体さはライズなしでも姿を確認できるほどである。

 これが噂のゾディアックなのかとアゲハが考えていると、蓮太郎の携帯電話に着信が入る。

 電話の主は木更であり、簡潔に内容をまとめると現在位置から南東にある巨大超電磁砲モジュールを使用したステージⅤガストレア『スコーピオン』の狙撃作戦を行ってほしいということである。レールガンの近くにいる人間は蓮太郎周辺の人間のみであり、自衛隊の徹甲弾攻撃も効果を発揮しない以上、最後の希望はそれ以外にないと木更は告げる。

 木更の話により周囲にVXガスが散布されているとも知り、アゲハは切り札を切るに切れない状況であると口惜しむ。アゲハにとって暴王の月(メルゼズ・ドア)がゾディアックガストレアに通用するか否かは重要な問題であるというのに。

 アゲハは首を横に振って気合を入れなおすと、蓮太郎の手を引く。

 

「さっさと行こうぜ。アレを使えば倒せるんだろう?」

「でも、もし失敗したら……夜科アゲハ、アンタは怖くないのか?」

「失敗したときを考えたらそりゃあ怖いぜ。現にそれで救えなかった人だっている。だけど何もしなかったらそれまでだぜ」

「心配するな。蓮太郎、妾がいる」

 

 蓮太郎は頭をボリボリとかきむしり、また十歳児に励まされたと心の中で悪態をつく。

 アゲハは将監、桜子は夏世、延珠が蓮太郎を抱え、総勢六人の一団はレールガンモジュール『天の梯子』を目指す。外周壁を人間離れした跳躍力で駆け上がり内部に侵入すると、木更からのナビゲートに従い地下二階にあるコントロールルームにたどりついた。

 作戦本部からの遠隔操作によりめまぐるしく動くコンソールはさながらSF映画のようにアゲハの目に映る。

 

「準備は全部向こうからの遠隔操作、俺達は引き金を引くだけか」

「これなら外す心配はなさそうね」

 

 アゲハと桜子が設備を見て安堵していたのだが、本部の木更から悪い知らせが入る。

 

『大変よ、里見君。落ち着いて聞いて。チャンバー部にバラニウム徹甲弾が装填されていないわ』

「なんだって?」

 

 急いでチャンバー室に向かったアゲハ達は驚く。チャンバー室にはロボットアームによる自動装填システムがあったのだが、肝心の弾丸が存在していないのだ。

 蓮太郎は最後の手と言わんばかりに右腕を弄り、義手を外す。

 

「蓮太郎、まさかお主」

「ああ、俺の右腕を弾丸に使う。超バラニウム製だから問題は無いはずだ」

「なあ、バラニウム製なら何でもいいのか?」

「たぶん」

「だったら一発目はそれで試してみてくれ。俺はさっきの場所に戻って使えそうなものを探してくる」

「わかった」

 

 アゲハと桜子が天の梯子から外に出て、中には蓮太郎たち二人が取り残される。出来ることならこの一発で仕留めたいと思っていたのだが、事態は急変する。

 インジケーターが溜まり、いよいよファイルセイフロックを解除しようとする手前で、その進みが止まったのだ。

 

『こっちの遠隔操作を受け付けてくれなく……あとは……うで……』

「木更さん? どうしたんだ、おい!」

『里見君……世界を……』

 

 遂には木更との通話すら維持できなくなる。天の梯子が稼働したことによって発生した電磁波が影響し、外部との通信を遮断したからだ。

 いままで心配と言えば迎撃完了まで一発で足りるかという点だけであったが、本部からのサポートがなくなったことでここに手動で狙いをつけなければならないという不安要素が加わった。

 一応は標準のセミオート照準システムがガストレアを照準に収めてこそいたが、急に動いて外してしまったらと言う不安が蓮太郎の頭をよぎる。

 

「絶対に当たる。心配するな」

 

 突然延珠が蓮太郎の唇を奪う。何かの映画でみた景気付けの真似事であるが、元より延珠は蓮太郎を異性として意識しているためドサクサまぎれに念願をかなえたとでも言うべきであろうか。

 

「急に何を……」

「こういう時こそ互いの愛を確かめあうのだ」

「ドサクサに紛れてお前は……大体十歳のガキが愛を語るんじゃねえよ。互いの気持ち以前に法律が許してくれねえだろ」

「ホーリツ上は十六歳になれば蓮太郎のお嫁さんになってちゅっちゅしてもいいのだ。それまでに妾が蓮太郎を骨抜きにすれば問題はないぞ」

「いい加減にしろ、このマセガキ!」

「それじゃあ妾たちの未来の為に、あのガストレアを打ち抜くぞ。蓮太郎には朝飯前だろう?」

「確かにそうだな」

 

 延珠と他愛のない会話をしているうちに、自然と緊張がほぐれてきたことを蓮太郎も自覚する。これならいけると胸にこみ上げる自信を込めて、蓮太郎は狙いを定める。

 

「手を貸してくれ延珠。終わりにするぞ」

 

 二人の手によりトリガーはゆっくりと引かれ、レールガンモジュールは蓮太郎の漆黒の拳を亜光速で射出する。大それたロケットパンチはスコーピオンの頭を殴り飛ばし、衝撃波一撃でその息の根を止めた。

 教会の付近で将監が落としたと思しきバスタードソードを発見し引き抜いたアゲハは、崩れゆくスコーピオンの姿を見てこれで一体倒したかと呟いた。

 

「これは必要なかったか。ついでだ、あとでアイツに返してやるか」

 

 一時間後、本部から駆けつけたヘリコプターによりアゲハ達は回収された。重傷者である蓮太郎、将監、夏世の三人は勾田大学病院に搬送された。

 

――――

 

 後日、蓮太郎の回復を待って叙勲式が行われることとなった。影胤掃討作戦の生還者六人に対してのものであるが、蓮太郎が最後の引き金を引いたこととアゲハ、桜子両名はパートナー不在のため正式な序列が交付されていなかったため、事実上蓮太郎の為に行われる式典である。

 この場にイニシエーターである延珠は招かれなかったため、正装をしたアゲハ達三人は来賓したセレブラントたちに囲まれる。まるで見世物小屋のようだとイラつくアゲハを窘める桜子を他所に、蓮太郎はそれを反面教師として眺めつつ聖天子の美貌の前に背筋を伸ばしていた。

 気品にあふれる彼女を前にしてだらしない姿などできないという蓮太郎の態度の現れである。

 聖天子は大きく手を振って来賓の注目を集めたのち、厳かに声を発する。

 

「お集まりの皆様……ゾディアック『スコーピオン』の撃破、並びに元序列百三十四位の蛭子影胤、小比奈ペアの撃破をIISOと協議した結果、今回の戦果を『特一級戦果』と評価し、里見蓮太郎×藍原延珠ペアを序列千番台へ昇格させることをここに発表します。

 並びに協力者である伊熊将監×千寿夏世ペアを千百番台へ昇格、夜科アゲハ、雨宮桜子両名はペア結成時の最低序列として二万番台を保障することを付け加えます」

 

 来賓は三人にスタンディングオベーションでほめたたえる。流石にこれにはイラついていたアゲハも気を晴らす。こそばゆさを残す三人に、聖天子は言葉を重ねる。

 

「御三方、この決定を受けますか?」

「よろこんで」

 

 三人にはこれを拒否する理由は無かった。




スコーピオン狙撃作戦+叙勲式(さわりだけ)の話

今回スコーピオン戦で
①ノヴァゲハが倒して手柄をれんたろーにする
②将監の剣を射出して倒す
③原作通り
を考えましたが、
①はアゲハが英雄になりすぎて後のれんたろー出世が絡む流れを使えないため断念
②はれんたろーが射手をやる意味が消えるので断念
結果、予備の弾を探しに行くという理由でアゲハを不在にして③となりました

次回はその後の余談になります

そういえばwin標準のIMEがレールガンと入れたら超電磁砲と変換しやがる

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