宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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ルールとマナーを守って楽しくデュエルしよう!!


第87話  校長のオ・ネ・ガ・イ

 ある日のこと、丈たち特待生四人は校長室に呼ばれていた。

 中等部にいた頃に何度か校長室は訪れたことはあるが、高等部のそれは中等部よりも内装が質素だった。広さならこちらの方が上だか並べられた調度品に飾り気がないのである。

 部屋にはその部屋の主の性格が現れるという。これが本当ならこの部屋に鮫島校長の人となりが現れているのだろうか。

 

「よく来てくれました。宍戸くん、天上院くん、藤原くん、亮……いえ、丸藤くん」

 

 今は校長という立場であって、サイバー流師範ではないという意思表示だろう。鮫島校長が名前呼びから丈たち三人と同じ苗字読みに直した。

 校長という職業、いや大人というのは大変なものだ。子供なら考えなくていいことを考えなければならない。

 

「校長、僕達に用事ってなんですか?」

 

「宿題なら特別カリキュラムの方も通常授業の分もしっかりしてますけど」

 

 吹雪と藤原の言葉を受け鮫島校長は「いえいえ」と手を振った。

 

「貴方達が真面目な優等生であることは私も知っていますよ。そもそも貴方達がもしも宿題忘れの常習犯だったとしても、いきなり校長室に呼んだりはしません。最初は実技担当のクロノス先生か特待生寮の寮長をしてもらっている大徳寺先生がやんわりと注意をするでしょう。

 私が貴方達を呼んだのは一つお願いがあるからです」

 

「お願い?」

 

 校長がわざわざ自室に招いてまでする頼み。それも呼び出したのが自分達特待生ということは特待生にしか出来ないようなお願いということだろう。

 そこはかとなく厄介事の臭いがしてきた。

 しかし相手はアカデミアの校長で亮の師匠でもある。ただでさえ特別カリキュラムで一般生徒より忙しいというのにこれ以上に厄介事を抱え込みたくはないが…………仕方ないだろう。

 

「はい。知っての通りデュエル・アカデミアは次世代を担うデュエリストを要請するためのデュエリスト養成校です。毎年多くのデュエリストやカードデザイナーを排出している本校ですが、卒業後すぐにプロ入りできるのは一握りです」

 

 デュエル・アカデミアはエリート・デュエリスト養成校であるが、ストレートにプロデュエリストになれるのは多くとも十人前後。そこからプロ入り後も第一線で活躍するという条件を付け加えれば更に絞り込まれるだろう。

 プロの世界は厳しい。学生時代は多くの大会で優勝を飾ったデュエリストが卒業後プロになってからは全く活躍できずに消えていくというのは珍しいことではないのだ。

 

「勿論アカデミアではプロ入り以外にもカードデザイナーや大学進学なども目標としています。けれどやはり殆どの生徒が卒業後にプロになることを目指しているのも事実。

 プロになるにはタクティクスやセンスも必要ですが、カードに対する深い知識も必要不可欠です。多くのカードの特性を知り、それを使いこなす。強力なカードの固執するのではなく、数多くのカードを組み合わせた『コンボ』を考える。これがプロデュエリストに必要な素養なんです」

 

「それは分かりますが、ここに俺達を呼んだこととどんな関係が?」

 

 丈が尋ねると鮫島校長は眉を寄せて押し黙る。そして重々しく口を開いた。

 

「カードの特性を知るには使うのが一番手っ取り早い。ですがこのアカデミアで少々困った事態が起きているのですよ」

 

「困ったこと?」

 

「こう言ってはこそばゆいかもしれませんが、特待生である貴方達はこのアカデミアで代表のような立ち位置にいます。事実多くの生徒は貴方達をそういう目で見ているでしょう。だから、ですね」

 

 言い難そうに一度口をつぐんだ校長だったが、ここまできて話すのをやめるという選択肢もないのだろう。

 申し訳なさそうに先を続けた。

 

「皆さんは全員が高いステータスのモンスターを豪快に召喚して押して押しまくるという戦術をとるでしょう。人とは有名人の影響を受けやすいもので、アカデミア内でもそれにつられて低ステータスモンスターを軽視し、高ステータスモンスターを偏重するような風潮が生まれつつあるのですよ」

 

「!」

 

 アカデミア内で自分が有名人であるという自覚は丈もあった。だがそれがこのような事になるとは考えてもいなかった。

 他の三人もそうだったのか亮は複雑そうに腕を組む。意図してのものではないとはいえ自分が他の生徒に悪影響を与えてしまった事を気にしているのだろう。

 

「特待生に選ばれるような皆さんに今更言うことでもありませんが、デュエルモンスターズは決して高いステータスのモンスターだけが強いわけじゃありません。ステータスが低いモンスターにも低いことを活かした利用法や、低くともモンスター効果が有用なモンスターが多くいます。

 デュエルモンスターズ初期から存在する伝説の超レアカードにして、あの伝説のデュエリストの一人も愛用していたという『時の魔術師』などその一つでしょう。別に高ステータスモンスターだけがレアカードではありません」

 

 時の魔術師はタイムルーレットに成功すれば相手フィールド上のモンスターを全滅させるという擬似的なサンダーボルトを内蔵したモンスターだ。ただし失敗すれば逆に自分のフィールドを全滅させ、更に破壊されたモンスターの攻撃力の半分のダメージを受けるデメリットをもっている。

 吹雪から借りた決闘王国(デュエリスト・キングダム)のDVDに時の魔術師で戦う城之内克也のデュエルがあったので良く覚えている。

 

「そこで皆さんにはアカデミアの生徒に高ステータスモンスターがデュエルの全てでないことを教えて欲しいのです。こんなことを生徒に頼むのも恥ずかしい限りなんですが、今回は貴方達に憧れる形でこのようなことになったので、私達教師がするよりも効果的でしょう。私もこのことを頼んだ身として協力します」

 

 自分達が起こしてしまった問題だ。自分達で拭うのが正解だろう。

 丈は隣にいる三人とアイコンタクトでの会議を終える。会議の結果は全員が了承。代表して丈がコクリと頷いた。

 

「分かりました。俺達に出来ることでしたら、でもどうするんですか? 幾らなんでも俺達に全校生徒の前で特別講義しろ、とかは止めてくださいよ。人に教えることなんて慣れてませんし、そもそも俺達は一年生ですから」

 

「はははははは。私もそんな無茶は言いませんよ。宍戸くん、ここはデュエル・アカデミアですよ。ならばここはデュエルをするのが一番効果的でしょう」

 

「デュエルを?」

 

 しかし自分達がデュエルをしたのでは結局は元の木阿弥だ。四人の中で一番下級モンスターをデッキに多く投入しているのは、丈のHEROデッキだろう。

 ただしHEROデッキを使えば低コストモンスターが見直せるかと問われれば首を傾げるところだ。確かにデッキに投入されているモンスターは下級モンスターが殆どでも、メインで活躍するのは融合モンスターなのだから。

 

「ただし単にデュエルをするのではありません。全員に、とは言いません。皆さんのうち誰かが高ステータスモンスターに頼らないデッキを構築して貰い、そのデッキで最上級モンスターが多く投入されているデッキとデュエルをし勝利する。そうすればアカデミア生もステータスばかりに固執するのを止めてくれるでしょう」

 

「成程。良い案だと思います」

 

「丈に同意します。鮫島師範……いえ鮫島校長、デュエルで高ステータスモンスターに頼らないデッキの力を見せれば他の生徒も考えを改めてくれるでしょう」

 

「おや亮は乗り気なのかい? じゃあこれは亮に任せるということで……」

 

「断る」

 

 議論終了と思い喜んだのも束の間。亮は吹雪の提案をバッサリと却下する。

 

「前にも言っただろう。俺はサイバー流一筋だと。授業などならば妥協するが、それ以外でサイバー流を捨てる気はない」

 

 キッパリと迷いなく言い切った。サイバー流馬鹿と言ってしまえばそれまでだが、ここまでくると逆に尊敬してしまう。

 亮を除く三人はこんな風に育てたサイバー流師範、鮫島校長に冷たい視線を送る。

 

「亮……そんなにサイバー流を愛して。私は良い弟子をもった。門下生の中では若かったが、お前に未来を託して正解だった」

 

 しかし当の鮫島校長は亮の言葉に感激してハンカチで涙を拭いていた。丈たちの視線などまるで気付いていない。

 

「だがお前がそう言うのであれば止むを得ない。無理に他のデッキを使うことを強要するのは私の本意ではない。ーーーー宜しい、ここはこの私が亮と……丸藤くんとデュエルをします。そして高ステータスがデュエルモンスターズでないことを全校生徒に示しましょう」

 

 鮫島校長はグッと力強く拳を握った。心強い発言なのだがそれはそれで一つ問題がある。

 

「校長。でもサイバー流師範で亮の師匠なら校長のデッキもサイバー流なんじゃないんですか? 校長と亮がデュエルしてもサイバー流師弟対決にしかならないような」

 

「問題ありません宍戸くん。そういえば亮にも見せたことがありませんでしたね。私にはサイバー流以外にもう一つ……『秘密デッキ』があるのですよ」

 

「本当ですか師範!」

 

「しかも都合よく私の『秘密デッキ』は低ステータスカードを中心としたデッキです。このデッキで亮、お前のサイバー・エンド・ドラゴンを倒し師匠の背中が厚いことを改めて教えてあげましょう。私の頭皮は薄いですけどね」

 

「師範の髪は薄いんではなく無いんですよ」

 

 弟子からの若干酷いツッコミを気にせず鮫島校長が宣言した。秘密デッキが校長の言うように低ステータスモンスター中心のデッキで、もしも亮のサイバー・エンドを倒すことがあれば作戦は成功するだろう。

 ただし問題は校長が亮に勝てるか、ということだ。亮の師範である以上、強いのは間違いないが亮だってこれまでの日々でその実力を格段に増している。もはやサイバー流を継承した当時の亮ではないのだ。

 

「とまぁ対戦カードの一つは決定しましたが、万が一ということもあります。亮以外の皆さんのうちもう一人、頼まれてはくれないでしょうか。出来れば高ステータスモンスター中心ではないデッキを構築して貰えれば嬉しいのですが……」

 

「高ステータスモンスターに頼らないデッキといっても」

 

 デッキを新たに構築するとなると当然ながらカードが必要になる。

 全校生徒に高ステータスモンスター以外の可能性を見せるという目的がある以上、対戦相手も強いデュエリストでなければならない。もっといえば構築するデッキはそんな強いデュエリストに勝てるだけの強さが必要ということだ。

 

「………………あっ!」

 

 天啓のように『余り物のカードで簡単に作れるデッキ』を閃いた丈はポンと手を叩く。

 

「丈?」

 

「少し待っててくれ。ちょっと作ってくる」

 

 特待生寮のスーパー執事こと室地氏……は、休暇でラスベガスに行っていて留守だったので、スーパーメイドの明弩さんに寮にある丈のカードの中から指定したカードを持ってきてもらう。流石の丈もデッキ以外のカードまでは持ち歩いていない。というより量が多いので物理的に持ち歩くのが困難だ。

 

「宍戸様、ご所望のカードです」

 

「ありがとうございます」

 

「……仕事ですから」

 

 相変わらず仕事が早い。電話してから校長室までくるのに十五分しか経っていない。特待生寮にこんな凄いメイドさんを雇ってくれた理事長に初めて感謝だ。

 丈の指定したカードは全て四十枚揃っている。このデッキに融合デッキは不必要なのでこれで完成だ。直ぐにでもデュエル出来るだろう。

 

「良し。それじゃ試に、藤原。少し相手してくれ」

 

 デッキタイプがデッキタイプだけに当日いきなりお披露目するのは気が退ける。

 そこで入学試験で負けを取り返す意味も込めて藤原に相手を頼んだ。

 

「僕は構わないけど、一体どんなデッキを作ったんだい?」

 

「ふふふふふ。それはデュエルしてからのお楽しみさ。鮫島校長もいいですか?」

 

「ええ構いませんよ。デュエル・アカデミアの校長が生徒のデュエルを止めさせることなんてありませんとも」

 

 校長のお許しも出た。それでは遠慮なくやるとしよう。

 総ては運次第だが果たしてどうなることやら。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

「俺の先攻だ! ドロー!」

 

 このデッキでだけは後攻を譲る訳にはいかない。素早くカードをドローした。

 手札を確認すると中々ベストな内容である。朝に見た占いで運勢が最高だったがそれは正解らしい。今日はついている。

 

「俺は永続魔法、魔力の枷を発動! このカードの効果により互いのプレイヤーはライフを500払わなければ、手札からカードを召喚・特殊召喚・発動・セット出来ない。魔法カード、強欲で謙虚な壺を発動。デッキの上から三枚めくりそのうち一枚を手札に加える。俺は成金ゴブリンを手札に。そして成金ゴブリンを発動。相手ライフを1000回復させ自分はカードを一枚ドローする。

 魔法カード、深淵の指名者を発動。1000ポイントのライフを支払い属性と種族を選択し、相手は選択された条件に合致するモンスターを墓地へ送る。ただし該当カードが無ければ不発に終わる。俺が選択するのは神属性天使族!」

 

「え、いや……あるわけないよそんなモンスター。自分からライフを減らすような真似をしてなにを企んでるんだ?」

 

「俺はカードを一枚セット。俺のライフは深淵の指名者のコスト1000、一枚のセットと三枚のカードの発動により残り1000ポイントだ。これでラスト、これが逆転へのキーカード! 俺は魔力の枷の500ポイントを払い手札より魔法カード発動、大逆転クイズ!」

 

「大逆転クイズだって!?」

 

「このカードは自分の手札とフィールド上のカードを全て墓地に送り、デッキの一番上のカードの種類を当てる。成功すれば互いのライフポイントは入れ替わる」

 

「……このギャンブルが成功すれば僕のライフは一気に500。だけどギャンブルが成功する確率はモンスター、魔法、罠の中から一つ選ぶから三分の一」

 

「それはどうかな。俺のデッキは全て魔法カード。よって俺がこのギャンブルを成功する可能性は100%だ。俺が選択するのは当然、魔法カード。デッキの上のカードは魔法カード、強欲で謙虚な壺。よって俺達のライフは入れ替わる。更にここでフィールドから墓地へ送られた風魔手裏剣の効果発動。このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、相手に700ポイントのダメージを与える。おりゃああああ! 手裏剣アタック!」

 

「…………………」

 

 大逆転クイズにより藤原のライフは500となっている。飛んできた手裏剣攻撃を藤原は防げず、ライフが一気にゼロとなった。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 無言。ひたすら無言だった。その無言の空気に耐え切れなくなったのか、亮がおずおずと口を開いた。

 

「なぁ丈。お前のデッキについてとやかく言うつもりはないんだが、そのデッキを使って生徒たちが『カードはステータスだけじゃない』と考えを改めると思うか?」

 

「それに下手してこのデッキを他の生徒が真似し始めて生徒全員緑一色なんてことになったら私がオーナーの社長に殺される。お願いですから他のデッキにして下さい。主に私の命の為にも」

 

 海馬社長だと冗談だと思えないのが凄いところだ。

 確かに丈もこんなアホみたいなゴミデッキで本番に挑むのもどうかと思うので、構築したデッキは早々にばらす。今日は綺麗にワンターンキルが決まったが、このデッキには安定感というものがまるでない。はっきりいって成功確率の方が遥かに低いくらいだ。

 

「あっ! そうだ、もう一つ今度はまともなデッキで良いデッキがあった!」

 

「……頼みますよ、宍戸くん」

 

「任せて下さい。今度はたぶん、なんとかなりますから」

 

 そして次に構築したデッキを鮫島校長たちに見せたところゴーサインが出たため、そのデッキでデュエルをすることとなった。

 問題は勝てるかどうかだろう。




※現実で友人相手にソリティアすると友情のマインド・クラッシュの切欠となります。この場合はソリティアデッキ使用にチェーンして予めソリティアデッキ使用を説明を発動しましょう。この発動が通った場合、友情のマインド・クラッシュを防げます。

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