丸藤亮 LP100 手札2枚
場 なし
伏せ 一枚
藤原優介 LP3300 手札2枚
場 大天使クリスティア、堕天使スペルビア、マンジュ・ゴッド
伏せ 二枚
魔法 神の居城―ヴァルハラ
自分ライフは100で相手の場には特殊召喚を封じるクリスティア、手札にはあらゆる攻撃力を超越するオネスト。
絶体絶命というものに自分はあるのだろう。どんな攻撃力の高いモンスターを出そうとオネストにやられ、逆転のモンスター召喚はクリスティアに封じられている。ライフが100しかないので自爆特攻もできなければライフコストを必要とするカードも使えないときた。
「だが良い塩梅だ。俺のターン、ドロー!」
ピンチを嘆く事など誰でも出来る。デュエリストならば今やるべきことは嘆く事ではなく考えることだ。どれだけ劣勢でも考える事を辞めれば、諦めることを止めればそこで負けだ。
勿論諦めなければ必ず逆転できるというほどデュエルは甘くない。どうあっても状況的に逆転不可能なほどにチェックメイトをかけられることはある。しかし諦めてしまったら、あるかもしれない逆転への道筋を見逃してしまうことになるだろう。
「強欲な壺を発動、デッキよりカードを二枚ドローする。さらに速攻魔法、月の書を発動。フィールドのモンスターを一体裏側守備表示にする。俺が選択するのは当然……大天使クリスティアだ!」
「クリスティアが!?」
大天使クリスティアが裏側表示になっていたことで亮を縛っていた鎖の一つが粉々に砕ける。
クリスティアの特殊召喚を封じるモンスター効果はフィールドで表側表示になっている時のみ有効だ。裏側守備表示にしてしまえばその効果が発動することはない。
これで亮には特殊召喚が許された。
「クリスティアはこれで封じた。俺はリバースカードオープン、リビングデッドの呼び声! 墓地のモンスターを一体フィールド上に攻撃表示で特殊召喚する!」
「今度は通させないよ。それにチェーンして僕も罠カードを発動、王宮のお触れ」
【王宮のお触れ】
永続罠カード
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。
永続罠の王宮のお触れだがこのように罠カードの発動にチェーンして使うことで疑似的なカウンター罠としても利用できる。
亮のリビングデッドの呼び声は逆順処理によりその効果を無効にされてしまった。効果を無効にされたリビングデッドの呼び声は意味もなくフィールドに残り続ける。
「こういう風に使おうって直ぐに発動せず温存しておいたんだけどね。さっきは亮が発動したのがカウンター罠だったせいで使えなかった。スペルスピードの関係上カウンター罠にチェーンして永続罠を発動することは出来ないからね」
「しかし今度はこちらも永続罠だったから成功というわけか。だがな藤原、ここまでの展開は読んでいた。魔法カード、天使の施し! 俺はデッキから三枚ドローして二枚捨てる。……俺が墓地へ送ったカードの一枚は人造人間サイコ・リターナーだ」
【人造人間―サイコ・リターナー】
闇属性 ☆3 機械族
攻撃力600
守備力1400
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。
このカードが墓地へ送られた時、自分の墓地の
「人造人間-サイコ・ショッカー」1体を選択して特殊召喚できる。
この効果で特殊召喚した「人造人間-サイコ・ショッカー」は、
自分のエンドフェイズ時に破壊される。
「サイコ・リターナー!?」
「フッ。俺はカードガンナーの効果で墓地へ送っていたサイコ・ショッカーを場に蘇生させる。サイコ・ショッカーのモンスター効果は言うまでもないな。フィールドの罠カードの効果と発動を無効にする」
【人造人間サイコ・ショッカー】
闇属性 ☆6 機械族
攻撃力2400
守備力1400
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いに罠カードを発動する事はできず、
フィールド上の罠カードの効果は無効化される。
脳味噌を剥き出しにした人間を模した機械が王宮のお触れを無力化する。もっとも無効にしようとしまいと罠カードが無効化されるという点に変わりはないのだが。
罠カード封じ。伝説のデュエリストの一人、城之内克也が愛用したカードの一枚だけあってその力は強力無比だ。
「だがこれだけでは終わらない。俺は場のサイコ・ショッカーを墓地へ送り、手札よりサイコ・ロードを守備表示で特殊召喚する。躍り出ろ! サイコ流最強モンスター、サイコ・ロード!」
【人造人間サイコ・ロード】
闇属性 ☆8 機械族
攻撃力2600
守備力1600
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に表側表示で存在する「人造人間-サイコ・ショッカー」
1体を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いに罠カードの効果は発動できず、
フィールド上の全ての罠カードの効果は無効される。
1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在する罠カードを全て破壊できる。
この効果で破壊したカード1枚につき300ポイントダメージを相手ライフに与える。
サイコ・ショッカーの外装が砕け散ると、そこからショッカーを超えた
そういう意味で亮がなによりも頼りとするサイバー・エンド・ドラゴンに並び立つ存在ともいえるだろう。
「サイコ・ロードだって? なんでサイコ流のカードを、サイバー流の継承者である亮が持ってるんだ!?」
「I2カップで戦った好敵手より譲られた絆のカードだ。サイコ・ショッカーは丈より譲られ、このサイコ・ロードはサイコ流の継承者たる猪爪に託された。俺のデッキにはこれまで戦った好敵手たちの魂も宿っている。…………俺のサイバー流の切れ味は一味違うぞ?
サイコ・ロードのモンスター効果、1ターンに1度だけフィールドの罠カードを全て破壊し破壊した数×300ポイントのダメージを与える。ハイパー・トラップ・ディストラクション!」
藤原LP3300→2700
効果を無効化され無意味に存在していたリビングデッドの呼び声と王宮のお触れが破壊される。
どうにかライフを半分近くまで削ることが出来た。問題はこれからだ。
クリスティアの守備力は2300。今ならサイコ・ロードで破壊することも出来ただろう。けれどそれをすれば返しのターンで藤原はオネストを使いサイコ・ロードを戦闘破壊してくる。そうなればジ・エンドだ。
だから敢えてサイコ・ロードも守備表示で出さざるを得なかった。守備表示なら攻撃されてもダメージは受けない。
「……俺はモンスターとリバースカードを一枚セットする。ターン終了だ」
攻撃出来ないのは悔しいが耐えるしかない。
「僕のターンだ。ドロー、僕は大天使クリスティアを反転召喚。バトルだ!」
このターンで藤原は決着をつける気だろう。クリスティア、スペルビア、マンジュ・ゴッド。この総攻撃が通ってしまえば亮のライフは一溜まりもない。
「大天使クリスティアでセットしているモンスターを攻撃、無慈悲なる断罪!」
「……セットしていたモンスターがリバースする。そしてリバースモンスター、メタモルポットの効果発動。互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚カードをドローする。これでオネストも墓地へ送られるぞ」
「っ! けどまだ僕には二体のモンスターの攻撃が残っている。堕天使スペルビアでサイコ・ロードを攻撃。スペルビア・オブ・ヘル!」
黒い羽が断罪の雨となりサイコ・ロードの体を貫いた。サイコ・ロードは苦悶の叫びをあげながら、その体を雲散させる。
「最後だ、マンジュ・ゴッドで相手プレイヤーをダイレクトアタック!」
「この瞬間を待っていた! サイコ・ロードが撃破されたことで俺は罠カードの使用が可能になる。リバースカードオープン! 聖なるバリア ーミラーフォースー!」
【聖なるバリア ーミラーフォースー】
通常罠カード
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。
亮の前に出現した透明なるバリアがマンジュ・ゴッドの攻撃を弾き返し、藤原のモンスターを全滅させた。
相手が攻撃してこなければ発動できないという弱点はあるが、やはりミラーフォースは強い。
「ここでミラーフォースとはね……。このターンで決着をつけることは出来なくなってしまったけど、僕にはヴァルハラが残っている。僕も天使の施しを発動。カードを三枚ドローして二枚捨てる。クリスティアはフィールドから墓地へ送られるとき、墓地ではなく自分のデッキの一番上に戻る。僕はヴァルハラの効果で手札より大天使クリスティアを再び特殊召喚。更にモンスターとカードを一枚ずつ伏せターン終了だ」
つくづく簡単に逆転させてくれないものだ。しかし勝利への布石は既に整っている。
「俺のターン、ドロー! 速攻魔法、禁じられた聖杯を発動。モンスターの攻撃力を400ポイント上昇させ、その効果をこのターンの間だけ無効化する。俺が選択するのは大天使クリスティア、その効果は無効だ」
大天使も聖杯の力には敵わなかったのか、その力を上げるものの特殊能力は奪われてしまう。
クリスティアの特殊召喚を封じる効果は融合を多用する亮のデッキにとってオネスト以上の天敵といえる。そのためクリスティアを攻略するためのカードはオネスト以上に多く採用していたのだ。
「魔法カード、死者蘇生。天使の施しで墓地へ送ったプロト・サイバー・ドラゴンをフィールドに守備表示で蘇生させる。更に速攻魔法、地獄の暴走召喚!」
【地獄の暴走召喚】
速攻魔法カード
相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に
攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。
その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から
全て攻撃表示で特殊召喚する。
相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。
「俺が攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚に成功した時に発動可能。手札・デッキ・墓地より同名カードを全て攻撃表示で特殊召喚する。ただし相手も自分の場の表側表示モンスターを特殊召喚することが出来るがな……」
「しまった……! 僕のデッキにクリスティアは一枚しか入っていない」
大天使クリスティアはかなりのレアカード。そのため藤原はクリスティアを一枚しか持っておらず、二枚目を求めてよくカードショップでクリスティアを当てたパックを買っていたのだ。
藤原と同じようにオネストを求めてパックを買いまくっていた亮はそのことを良く覚えていた。
「プロト・サイバー・ドラゴンはフィールドではサイバー・ドラゴンとして扱われるモンスター。よって俺はデッキと墓地から三体のサイバー・ドラゴンを特殊召喚。
これで俺の場にサイバー・ドラゴンが揃った。手札よりパワー・ボンドを発動、三体のサイバー・ドラゴンを融合。融合召喚、降臨せよ! サイバー・エンド・ドラゴンッ!」
【サイバー・エンド・ドラゴン】
光属性 ☆10 機械族
攻撃力4000
守備力2800
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
サイバー流最強モンスターにして丸藤亮が最も信頼するモンスター、サイバー・エンド・ドラゴン。三つの首をもった機械龍は天地を鳴動させるほどの咆哮をあげた。
パワー・ボンドにより融合召喚された為、その攻撃値は8000。神をも凌駕する数値へと達している。
「バトルフェイズ! サイバー・エンド・ドラゴンで大天使クリスティアを攻撃、エターナル・エヴォリューション・バースト!」
サイバー・エンド・ドラゴンから吐き出される巨大な光のエネルギー。
しかし藤原はそれを前にして大胆不敵に笑う。
「この瞬間、リバースカードオープン! 光の招集。僕は手札を全て捨て、その数だけ僕は光属性モンスターを手札に加える!」
【光の招集】
通常罠カード
自分の手札を全て墓地へ捨てる。
その後、この効果で捨てた枚数分だけ
自分の墓地から光属性モンスターを手札に加える。
デッキを墓地へ送った藤原は手札の光属性モンスターを手札へと戻す。
手札全てを要求する大胆な墓地回収……いや、ここまでくると手札交換カードというべきか。藤原に墓地へあったカードが手札へと戻る。
その中には当然。
「オネストを手札に加えたか……!」
「もう攻撃宣言は出されている。止めることは出来ないよ。これで終わりだ、ダメージ計算時にオネストを捨てることでサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力分だけ大天使クリスティアの攻撃力をアップさせる。迎撃しろ、オネスティ・コンヴィクション!」
黄金の羽を噴出させたクリスティアが光槍をサイバー・エンド・ドラゴンに投擲する。
光槍はサイバー・エンド・ドラゴンの光を押し返していく――――ように見えた。
「なに?」
が、そうはならない。サイバー・エンド・ドラゴンの光は逆に大天使クリスティアの光槍を凌駕し呑み込もうとしていっている。
「こ、これはどうして……?」
「ふふふ。それは俺がこのカードを発動していたからさ。速攻魔法、決闘融合-バトル・フュージョン!」
「決闘融合だって!」
【決闘融合-バトル・フュージョン】
速攻魔法カード
自分フィールド上に存在する融合モンスターが戦闘を行う場合、
そのダメージステップ時に発動する事ができる。
その自分のモンスターの攻撃力は、ダメージステップ終了時まで
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。
「このカードは自分の場の融合モンスターが戦闘を行う場合、そのダメージステップ時に相手モンスターの攻撃力を自分モンスターの攻撃力に加える事が出来るカード。謂わば融合モンスター限定のオネストだ。そして計算時、チェーンブロックは一度しか作られない。そして優先権により俺はお前のオネストよりも先にこのカードを発動することが出来る!」
「しまった! オネストの効果は逆順処理の関係上、先に出した方が勝つ」
決闘融合は厳密には異なるが、対象が融合モンスターのオネストとほぼ同じ効果をもっている。
この場合、効果はオネスト→決闘融合の順に処理され先にオネストの効果によりサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力8000がクリスティアに加わることとなる。そして更にその後、オネストの効果により攻撃力11200となったクリスティアの攻撃力がサイバー・エンド・ドラゴンに加わるのだ。
よってサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は19200。大天使クリスティアを完全に凌駕した。
「流石はカイザー亮。確実に勝ったと思ったのにこうも引っ繰り返される。けど……最後に僕も足掻かせて貰う! リバースカードオープン、決戦融合-ファイナル・フュージョン! このカード効果でお互いのプレイヤーは互いの戦闘モンスターの攻撃力の合計分のダメージを受ける!」
【決戦融合-ファイナル・フュージョン】
通常罠カード
お互いのプレイヤーは、お互いの攻撃モンスターの攻撃力の合計分のダメージを受ける。
サイバー・エンドとクリスティアの攻撃力の合計。
亮は呆気にとられた後、苦笑してしまう。天才だとなんだの言いつつこれは、
「負けず嫌いめ……」
サイバー・エンド・ドラゴンと大天使クリスティアがぶつかり合い、その波動が二人のデュエリストを襲った。
そのライフが二人ともゼロになるのは同然の帰結であった。
デュエル場は静寂に包まれていた。
だが漸くデュエルが決着したことを観客の一人が悟ると、一転して凄まじい歓声が爆発した。
「亮が大きな一撃を通せるか通せないか。それで決着がつく……だったっけ? 丈の読み通りになったね」
吹雪が感心したように話しかけてくる。
「そうでもないよ。流石に引き分けなんて結末は予想外だった」
にしてもお互いに30000オーバーのダメージを受けて引き分けとは、プロリーグを見渡してもそうは見れないほどに派手な結末だった。
この観衆たちの興奮も頷けるというものである。
「すみません、ちょっといいですか?」
丈がデュエル場で大の字になって倒れ、笑い合っている亮と藤原を見下ろしていると隣から声をかけられる。
「どーも新聞部の者なんですけど、このデュエルについてご友人のお二人に是非インタビューをと思いまして」
「後は任せたよ、丈」
「あっ! 吹雪、こら待て!」
インタビューに来た新聞部が女子ではなかったからだろう。吹雪はさっさと何処かへ消えてしまった。
丈もそれに倣い逃げようとしたが、新聞部の生徒が立ち塞がる。強引に突破しようと思ったが……どうも敬語を使ってきているが相手は上級生らしい。上級生相手に力ずくというのは駄目だろう。
(……まてよ。これは寧ろ)
高等部に入り自分達と同じ特待生になった藤原。しかし藤原には自分の魔王や亮のカイザー、それに吹雪のキングのような恥ずかしい二つ名がない。
同じ特待生としてこれは実に不平等といえなくはないだろうか。
丈は賄賂を貰う御代官のような顔をすると、一転営業スマイルで取材を受ける。
「ええ、いいですよ。なんでも聞いて下さい」
「では遠慮なく。アカデミアの三天才とも謳われた一角カイザーと〝天才〟藤原優介のデュエルでしたが、この結果について〝魔王〟はどう思われますか?」
「――――間違ってますよ」
「は?」
「あらゆる攻撃力を無為とするオネストを傍らに、神の居城―ヴァルハラを支配し無慈悲なる大天使や地獄に堕ちた堕天使、全てを支配する存在。そんな彼はもはや〝天才〟なんていう矮小な枠組みに収まる器じゃありません」
「!」
出来るだけ大仰に聞こえるように芝居がかった仕草で丈はあることないこと捲し立てる。
「で、では天才でないなら藤原優介はなんだというのですか?」
「フッ。決まっているでしょう。人の身でありながら人を超え、天界をも制するデュエリスト、その名は――――〝天帝〟藤原優介!」
この日、藤原に新しい二つ名が出来上がった。後日、元凶である丈は藤原に追及され、一時はしらばっくれようとしたものの「ドボゲラァ!」の一喝の前に自白することになるが、それはまた別のお話である。
……オネストとの差別化とか、強さ調整やら、原作における十代VSカイザーの再現などを模索していったら最終的に決闘融合がTF効果、決戦融合がアニメ効果という訳のわからない事になってしまいました。混乱したらすみません。