実技試験開始から二時間が経過していた。五人の試験官が急遽来れなくなった為、一時は窮地にあった実技試験だったが丈たち三人が『試験官』となることで、どうにか予定通りに試験を進めることができていた。
少しだけ問題だったのはいつも使うデッキが使えないということだろう。あくまで実技試験は受験者の中からアカデミアに相応強い実力者を選定するのが目的。誰彼かまわず叩き潰せば良いというものでもない。
故に試験用デッキは相手デュエリストの力を最大限発揮できるような構成にされている。
そのデッキパワーは丈の本来のデッキよりパワー面でもかなり劣るものだったが……中等部での授業が役に立っている。いきなり使用する試験用デッキだったが、直ぐにデッキ内容を頭に入れると直ぐに満足のいく運用ができるようになった。
「ラビードラゴンで相手プレイヤーへダイレクトアタック! ラビー・オブ・フレイム・ショットッ!」
これで何人目、否、何十人目だろうか。丈が自分の使役するモンスターに攻撃命令を下すと、白亜の大竜が白いブレスを吐き出した。
受験番号三番を守るモンスターもリバースカードもゼロ。彼にこれを防ぐ手段はない。
「うわぁあああああ!!」
受験番号三番のライフがゼロになる。受験番号三番は一瞬遅れて自分が敗北したことを理解すると、へなへなと崩れ落ちた。
丈はそんな三番に歩み寄ると声をかける。
「良いデュエルだった」
「え?」
「そう落ち込まなくても、実技試験の合否は勝敗で決定されるわけじゃない。デュエルの中でアカデミアに相応強い実力を示せればいいんだ。……俺のライフも500まで追い込まれていたし、これなら問題なく合格だよ」
「本当ですか!?」
「あぁ。ラー・イエローでね」
本当はこんな事を教えるのは良くない気がしないでもないが、別にクロノス先生から止められてるわけではないのだ。こっそりと三番の知りたがっている情報を教えると、三番は顔を一転して明るくさせてデュエル場より出ていく。
しかし試験官なんてものになってしまったからだろうか?
立場は違えど年齢は同じなのだから敬語は使わなくてもいいと言うのに、これまで戦った男女受験者全員が敬語を止めてくれない。
(試験官も楽じゃないな)
次の受験者が来るまでの僅かな間、丈は誰にも見られないよう嘆息する。
相手の実力を測るのが試験の目的である以上、実技試験ではある種の手加減が必要だ。幾ら手札が揃っていようと先攻ワンキルや後攻ワンキルは自重しなければならない。
ただただ相手に本気でぶつかればいいデュエリストと、相手の実力を引き出さなければならない指導者。難しいものだ。
そんな時だった。
丈の担当するデュエル場に一人の少年が足を踏み入れた。
「―――――――」
体が凍てついた、かと思った。一目で、いや目を使わずとも肌で感じるほどのプレッシャー。
デュエル場に来たのはやや緑がかった髪をした長身の少年。ここにくるくらいだから年齢は丈と同じくらいだろう。だが同じなのは恐らく『年齢』だけではない。
「受験番号一番、藤原優介です。よろしくお願いします」
丁寧に藤原と名乗った少年は会釈をした。
デュエル・アカデミアの実技試験で受験番号はそのまま筆記試験のランキングを意味している。つまり受験番号一番は筆記試験でナンバーワンだったという意味なのだ。
だがそれ以上に丈は藤原優介という男の名前を知っていた。
(そうか……彼が)
自分達と同じ特待生としてアカデミアへの入学が確約された唯一の編入組。オーストラリア・チャンピオンシップを三年連続で制した天才少年。
住む場所の違いから直接会うこともデュエルしたこともなかったが、その名声は良く知っていた。
けれど丈が意識を向けるのは藤原だけではない。もう一人、彼の隣にいる黄金の羽をもつ男性。
『マスター、彼のデッキケースからは途轍もない……禍々しいほどのエネルギーを感じます。どうか、お気を付けを』
その男性は藤原の隣に控え、助言をしていた。藤原は丈を前にしているからか声に出して返答はしなかった。だが僅かに首を縦に振ったのを丈は見逃さなかった。
黄金の翼を背中から生やした人間などいるはずがない。そもそもそんな人間が街中を歩いていたら大騒ぎだ。それがないということは彼はデュエルモンスターズの精霊なのだろう。
そして藤原優介は丈と同じ精霊を見ることが出来るデュエリストだ。
「……仲間内以外では初めて見るな。そうか、お前も見えるのか精霊が」
気付けば丈はそんなことを言っていた。吹雪や亮以外で見える人間に巡り合えて少しだけ気分が高揚していたのかもしれない。
「オネストが見えるんですか!? 貴方も……!」
藤原も自分以外に精霊を見ることができるデュエリストに会うのは初めてなのか驚いた表情をした。
「゛オネスト゛っていうのか君の精霊は……。あと敬語はいいよ。同じ精霊を見れるデュエリストのよしみだし、第一俺と君は同級生だ」
「え、えーと……宍戸丈さん?」
「丈でいい」
「それじゃあ丈、君もオネストを見ることが出来るのかい?」
「あぁ。前に三千年前の盗賊王の魂やら三邪神やらとどんぱちしたら――――気付いたら見えるようになっていた。ほら」
丈は自分の側にいる精霊のうちの一体、カオス・ソルジャーを見せる。すると守護霊のように半透明のカオス・ソルジャーが丈の隣りに出現した。
『カオス・ソルジャー、デュエルモンスターズ界において伝説の最強剣士とこのような場所で見えることになるとは』
「伝説って?」
「ああ! それってハネクリボー?」
「「……………………」」
二人してアホなやり取りをした丈と藤原は暫くの間、見つめ合い同時に咳払いをした。
気を取り直して丈は真面目に言う。
「さ、さぁ。そんなことよりも早速デュエルをしようか。試験用デッキなのが残念だけど相手が相手だからな、俺も遠慮はしない」
「望む所だよ。頼んだよオネスト」
『お任せを』
藤原と丈のデュエルディスクが起動する。ソリッドビジョンシステムが二人の周囲を囲った。
受験番号一番。オーストラリア・チャンピオンシップを制した技量、実に楽しみだ。なによりも手加減なんてする必要がないと言うのが正しく最高である。
「「デュエル!」」
デュエルディスクが指定した先攻デュエリストは――――試験官である丈の側。
前までの試験なら気を使って相手に先攻を譲り渡していたが、相手が藤原優介だというのならば遠慮はしない。
「俺の先攻、ドロー! 永続魔法、凡骨の意地を発動」
【凡骨の意地】
永続魔法カード
ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、
そのカードを相手に見せる事で、自分はカードをもう1枚ドローする事ができる。
「この効果で俺はドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、そのカードを相手に見せてもう一枚ドローすることができる」
強力な効果をもつ効果モンスターの台頭に従い、通常モンスターは活躍の場を奪われたかにみえた。
だがそうではなかったのだ。通常モンスターは何の効果も持たない故に通常モンスター専用のサポートカードが豊富で、効果モンスターにはない通常モンスターだからこその立ち回りも出来るようになっている。
凡骨の意地もそんなカードの一枚だ。このカードがあれば、もし通常モンスターしかモンスターカードがないデッキなら確実に魔法・罠カードを引くことができるのである。しかも大量のハンドアドバンテージのおまけつきで。
「さらに魔法カード、古のルールを発動! 手札よりレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚することが出来る。俺が呼び出すのはこいつだ。ゴギガ・ガガギゴ!」
【ゴギガ・ガガギゴ】
水属性 ☆8 爬虫類族
攻撃力2950
守備力2800
既に精神は崩壊し、肉体は更なるパワーを求めて暴走する。
その姿にかつての面影はない…。
【古のルール】
通常魔法カード
手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する。
正義の為に力を求めるあまり暴走した悲劇のモンスター、ゴギガ・ガガギゴ。その精神を失う代償に手に入れた力は強大だ。
ゴギガ・ガガギゴの攻撃力2950という数値はブルーアイズに劣るものの通常モンスターでは第二位のパワーである。
「俺はカードを二枚伏せ、天よりの宝札を発動! 互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードをドローする。俺の手札は0! よってドローするカードは六枚だ」
「僕は一枚ドローする……」
「よし。俺は永続魔法、絶対魔法禁止区域発動。このカードがある限り、フィールドに表側表示で存在する効果モンスター以外のモンスターは魔法の効果を受け付けない」
【絶対魔法禁止区域】
永続魔法カード
フィールド上に表側表示で存在する全ての
効果モンスター以外のモンスターは魔法の効果を受けない。
薄青色のバリアーがゴギガ・ガガギゴを包み込む。これでゴギガ・ガガギゴには魔法耐性が付与されたも同然。
ブラック・ホール、地砕き、ライトニング・ボルテックスなどの除去カードも無意味だ。
「このターン、俺には通常召喚が残っている。ジェネティック・ワーウルフを攻撃表示で召喚」
【ジェネティック・ワーウルフ】
地属性 ☆4 獣戦士族
攻撃力2000
守備力100
遺伝子操作により強化された人狼。
本来の優しき心は完全に破壊され、
闘う事でしか生きる事ができない体になってしまった。
その破壊力は計り知れない。
単純な攻撃力ならアレキサンドライドラゴンに並び下級モンスターで第一位の通常モンスター、ジェネティック・ワーウルフ。
このカードといいゴギガ・ガガギゴといい強力な力を得るには心という代償が必要ということを暗示させる……どことなく悲劇的なモンスターたちである。
「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
丈が今伏せたカードは魔法カードを無効化するカウンター罠、マジック・ジャマー。絶対魔法禁止区域が効果を発揮するのは場のモンスターに対してだけ。別に魔法カードそのものを封じるわけではない。
けれどマジック・ジャマーがあれば、藤原の逆転の魔法カードを封じることが出来る。
そして天よりの宝札を発動前に伏せた一枚は罠カードを封じる『王宮のお触れ』。これを次のターンに発動すれば、絶対魔法禁止区域と合わせてゴギガ・ガガギゴなどのモンスターは更に強力となるだろう。
仮に効果モンスターを駆使して攻めてこようと、攻撃反応型では最上位に位置する罠カード、ミラーフォースもある。
これ以上ないほどの鉄壁の布陣だ。普通の受験者ならまずこのロックを突破することは出来ないだろう。だが、
(藤原優介……その実力、見せて貰う)
オーストラリア・チャンピオンシップを三年連続制した実力が本物なら、理事長に見いだされ特例扱いで特待生となったタクティクスが本物なら、こんな布陣など突破してみせるはずだ。
亮や吹雪が平然とこの陣容を圧巻するのと同じように。
「僕のターン、ドロー! 僕は魔法カード、大嵐を発動。フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する」
「その動きは読んでいる。カウンター罠、マジック・ジャマー! 手札を一枚捨てて魔法カードを無効にする。俺が墓地へ捨てるカードはブラッド・ヴォルスだ」
発生しかけた大嵐が静まっていく。
大嵐が発動成功していれば、丈の伏せた多くのカードは全滅。大きなアドバンテージを失っていただろう。こういう時、カウンター罠というのは頼りになる。
これまでの受験者なら逆転のカードが不発に終わり、絶望の表情でも浮かべそうなものだが、
「ふふふっ」
逆に藤原は微笑みすら浮かべていた。そこに追い詰められたものの脅えは微塵もない。
「なにが可笑しいんだ?」
「……僕にとっても読み通りだったからだよ。確かに大嵐が成功していればいたらで嬉しかったけど、オネストが危険と断言するほどのデュエリストがそんな温い方法で簡単に倒せるはずがない。
だから僕は敢えて大嵐を囮に使ったのさ。僕の本命はこっちだ。手札より天使族モンスター、ヘカテリスを墓地へ捨てる。ヘカテリスのモンスター効果、デッキより神の居城―ヴァルハラを手札に加える」
【ヘカテリス】
光属性 ☆4 天使族
攻撃力1500
守備力1100
このカードを手札から墓地へ捨てて発動する。
自分のデッキから「神の居城-ヴァルハラ」1枚を手札に加える。
神の居城―ヴァルハラ。丈の頭がボケてなければ、それは確か最上級天使族をノーリスクで召喚できる祭壇。
明らかに天使族モンスターのオネストを精霊としていることから予想はしていたが、藤原のデッキは天使族デッキなのだろう。
「ヘカテリスで手札に加えた永続魔法発動。神の居城―ヴァルハラ!」
【神の居城―ヴァルハラ】
永続魔法カード
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
フィールドに天国への入り口のような宮殿が現れる。ソリッドビジョンだというのに空気が神聖なものへとかわり、今にも女神の歌声が聞こえてきそうだった。
「神の居城―ヴァルハラの効果発動、自分の場にモンスターがいない場合、一ターンに一度だけ手札より天使族モンスターを一体特殊召喚できる。
僕が召喚する天使族モンスターはこれだ。光神テテュス!」
【光神テテュス】
光属性 ☆5 天使族
攻撃力2400
守備力1800
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分がカードをドローした時、そのカードが天使族モンスターだった場合、
そのカードを相手に見せる事で自分はカードをもう1枚ドローする事ができる。
女神の歌声が聞こえそうな場所に本当に女神が降臨してしまった。
純白の翼と美しい容貌をした女性。百人が百人、女神と断言するだろう。しかし女神も分類上は天使族だ。正真正銘の『神』を名乗ることが許されたモンスターはデュエルモンスターズ界広しといえど六枚しか存在しない。少なくとも丈が知る限りでは。
「そして強欲な壺を発動、僕はデッキよりカードを二枚ドローする。この瞬間、光神テテュスのモンスター効果発動。自分のドローしたカードが天使族モンスターだった場合、自分はもう一枚ドローすることができる」
「……厄介な効果だ」
言うなれば天使族版の凡骨の意地というべきか。だがドローフェイズ以外でも効果が発動するというところは凡骨の意地よりも上だ。
「僕が強欲な壺でドローしたカードのうち一枚はこれだ。天使族モンスター、神光の宣告者! もう一枚ドローする。ドロー、大天使クリスティア! ドロー、マンジュ・ゴッド! ドロー、創造の代行者ヴィーナス! ドロー……これで終わりだ。
だがこれでパーツは揃った。僕は手札より儀式魔法発動、高等儀式術!
【高等儀式術】
儀式魔法カード
手札の儀式モンスター1体を選び、そのカードとレベルの合計が
同じになるようにデッキから通常モンスターを墓地へ送る。
その後、選んだ儀式モンスター1体を特殊召喚する。
「手札の儀式モンスター、神光の宣告者とレベルの合計が同じになるよう通常モンスターを墓地へ送り、儀式モンスターを降臨する。
デッキに眠る三体の神聖なる球体を生け贄に捧げ、降臨し神の生来を告げろ。儀式召喚、神光の宣告者!」
【神光の宣告者】
光属性 ☆6 天使族
攻撃力1800
守備力2800
「宣告者の預言」により降臨。
手札から天使族モンスター1体を墓地へ送って発動できる。
相手の効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
藤原のフィールドに光が充満し、そこから一体のモンスターが生来する。
光神テテュスと同じ天使族であるが、こちらはより機械的な天使だった。
「そして墓地にはヘカテリスと三体の神聖なる球体。このカードは自分の墓地の天使族モンスターが四体のみの場合、生け贄なしで特殊召喚することが出来る。大天使クリスティアを召喚!」
【大天使クリスティア】
光属性 ☆8 天使族
攻撃力2800
守備力2300
自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。
このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、
墓地へは行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。
白ではなく赤い羽根を生やした大天使。上級天使三体が並ぶと壮観という他なかった。
しかも大天使クリスティアは場に存在する限り全ての特殊召喚を封じる。虚無の統括者と異なり自分の特殊召喚まで封じるデメリットはあるものの、特殊召喚を多用する殆どのデッキにおいてのメタになりうるカードだ。
「大天使クリスティアのモンスター効果、墓地の天使族モンスターを一体手札に加える。僕はヘカテリスを手札に戻す。このターン、僕には通常召喚が残っている。マンジュ・ゴッドを攻撃表示で召喚。マンジュ・ゴッドのモンスター効果で二枚目の神光の宣告者を手札に加える」
「たまげたな。初期手札から手札消費ゼロどころかプラス2しつつ場に下級モンスター1体、上級モンスター2体、最上級モンスター1体、全部で四体を並べるなんて。けど一番攻撃力の高いクリスティアでも2800……ジェネティック・ワーウルフは兎も角、ゴギガ・ガガギゴには及ばない。どうする気だ?」
「攻撃するのさ。バトル! 僕は大天使クリスティアでゴギガ・ガガギゴを攻撃、無慈悲なる断罪!」
攻撃力がゴギガ・ガガギゴより下なのにも拘らず大天使クリスティアで攻撃を仕掛けてきた。
なにをするか分からないが、ヤバいことはデュエリストの直感で理解できた。故に、
「リバースカードオープン! 聖なるバリア-ミラーフォース-! 攻撃を跳ね返し、相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する」
「……悪いけど、そうもさせない。神光の宣告者のモンスター効果、手札より天使族モンスターを一体墓地へ送り発動。モンスター効果・魔法・罠の発動を無効にして……破壊する」
「なんだって!?」
星6の儀式モンスターにしては攻撃力1800と弱小モンスター並みなのが気になっていたのだが、そういうカラクリがあったとは。
手札に天使族がいる限りどんな効果も封殺できる。天使族モンスターをドローする限り無限にドローできる光神テテュスとの相性も最高だ。
「大天使クリスティアの攻撃は続行される。……そしてダメージステップ時、僕は手札のオネストを墓地へ捨てる」
「オネスト……それは精霊の」
「オネストは自分の光属性モンスターがバトルを行うダメージステップ時、このカードを手札から墓地へ送ることでバトルする光属性モンスターの攻撃力は、このターンのエンドフェイズ時までバトルする相手モンスターの攻撃力分アップする」
【オネスト】
光属性 ☆4 天使族
攻撃力1100
守備力1900
自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で存在する
このカードを手札に戻す事ができる。
また、自分フィールド上の光属性モンスターが
戦闘を行うダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、
エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。
大天使クリスティアの赤い翼が太陽の光を受け止め跳ね返すほどの輝きをもつ黄金の翼へと変わる。クリスティアの攻撃力はゴギガ・ガガギゴの2950を加算して5750だ。
(なんて強力無比な効果だ。オネストがある限り、光属性モンスターは例え攻撃力が0だろうとサイバー・エンドだろうとF・G・Dだろうと撃破できる攻撃力をもつことが出来る)
しかも攻撃が通れば、ダイレクトアタックと同じだけのダメージも与えることができるときた。
手札からの発動のため奇襲性も高く、無効化されにくい。亮が見たら喉から手が出る程に欲しそうな顔をすることは間違いないだろう。
「なるほどね。つまりは……俺の、負けか」
ゴギガ・ガガギゴが破壊され、丈は2800ポイントのダメージを受ける。
けれど藤原のバトルフェイズはまだまだ終わりはしない。
「光神テテュスでジェネティック・ワーウルフを攻撃、ホーリー・サルヴェイション。続いて神光の宣告者で相手プレイヤーを直接攻撃、デクレアラー・フラッシュ!」
二体の攻撃を受けて丈のライフは0になった。ライフ0になったことでデュエルが終了する。
蓋を開けてみれば受験者側、藤原の後攻ワンターンキルだ。周囲からもデュエルを見ていた者達の声が聞こえてくる。
「幾ら試験用デッキとはいえあの魔王をワンキルなんて」
「藤原優介……その実力は本物か」
「理事長直々にスカウトしたっていうのは伊達じゃないわね」
「天使族をあれほどまでに使いこなすタクティクス、アカデミアの三天才と同格の特待生扱いされるだけある」
「魔王様に栄光あれぇえ!」
「丈くーん、いつでも待ってるから来てネー!」
またも一部変な声もあったが、概ね藤原のワンターンキルに度肝を抜かれているようだ。
丈はデュエルディスクを畳むと、藤原に手を差し出す。藤原はキョトンとしていたが、直ぐにこちらの意図を理解したようでその手を握り握手をした。
「やられたよ、凄いデュエルだった。今度は俺の本当のデッキでデュエルをしよう」
「あ、あぁ。僕もそれまでにデッキを調整しておくよ」
どうやら次も控えているようなので、そこで藤原と別れる。しかしもう直ぐアカデミア高等部の授業も始まる。
同じ特待生寮に藤原もくるので、再戦のチャンスはいつでもあるだろう。
気を入れ直し丈は次のデュエルに意識を傾けた。
――――おまけ――――
『もしも三人がデッキを変えずに試験をしていたら……』
宍戸丈「俺のターン! 手札抹殺、三体のグラファを墓地へ送り相手のカード三枚撃破ァ! 続いてレイヴン召喚して三体のベージを捨ててベージ特殊召喚、その後でグラファ三体蘇生! ダイレクトアタック!!」
受験生A「ぎゃぁぁぁあああああああああああ!!」
吹雪「僕のターン! 大嵐を発動してBF-暁のシロッコ召喚! 更に黒槍のブラスト二体に疾風のゲイル召喚! ゲイルの効果で相手の攻撃力を半分にしてシロッコの効果! シロッコに全攻撃力を集中して攻撃、さらにダメージステップにBF-月影のカルートを捨てて攻撃力1400アップ! 合計攻撃力は8100だァ!」
受験生B「いやぁぁぁぁあああああああああああああ!!」
カイザー「大嵐&ブラック・ホール! からのパワー・ボンド、三体のサイバー・ドラゴンを手札融合。融合召喚、サイバー・エンド・ドラゴン! サイバー・エンドの攻撃、エターナル・エヴォリューション・バーストォォ!!」
受験生C「ひぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいい!!」
宍戸丈「うぉぉぉぉぉお! いけぇえええグラファぁぁぁ!」
藤原「オネスト、やれぇえ!!」
クロノス「今年の合格者は一名、藤原優介だけナノーネ!」
宍戸丈「少し……やり過ぎたかな……」
クロノス「少しどころじゃないノーネ!」
……アカデミアの試験でワンキルする主人公は数あれど、ワンキルされて負ける主人公は初めてかも。なんの自慢にもなりませんが(笑)