カイザー亮と田中先生こと暴帝ハルのデュエルから一週間。今年の三人の首席の一角を担い、去年の首席でもあるキング――――天上院吹雪の卒業模範デュエルがやってきた。
吹雪が指名した相手は天上院明日香。苗字で分かるようにキング吹雪の実の妹である。
その実力は三年首席三人を除けばアカデミア中等部でもトップクラスで、女生徒だけのランキングなら学園ナンバーワンは固いだろう。
学年が違うということもあって、プライベートはさておき吹雪と明日香が大勢の人が見守る中でデュエルをした事は一度もない。そのため天上院兄妹が遂に正面から激突するという情報は雷光の如きスピードで学園中を駆け巡った。必然、卒業模範デュエルの会場は観戦しにきた生徒や教師などで満員である。
「きたわ!」
デュエル場へと歩いていく吹雪を見つけた生徒の一人が叫ぶ。するとそれを切欠に吹雪のファンクラブである女生徒を中心とした歓声が降り注いだ。
「吹雪様ーーーーーーーー!」
「素敵です、フブキング! こっちを見て下さい!」
「きゃぁぁぁあああ! 吹雪様と目が合ってしまったわ!!」
吹雪も慣れたもので、爆発的な歓声に動じたりはせず逆に観客たちの方を向くと、
「応援ありがとう! 君達の熱い思い……受け取ったよ」
そう言うと吹雪は茶目っ気に微笑み悪戯っぽく投げキッスをした。ファンである女生徒たちの興奮はピークとり、一部の人間は余りの興奮でそのまま失神してしまった。
吹雪のような女生徒に絶大な人気を誇るアイドル的な人間は、その殆どが逆に男子生徒からは冷たい視線を向けられたり嫉妬を抱かれたりするものなのだが、こと吹雪に関してはそれらとは無縁だった。寧ろ男子生徒にも吹雪を尊敬する人間は非常に多い。吹雪のもつ人徳が故だろう。
しかし歓声を受けることに慣れ親しんでいる吹雪はともかく、対戦者である明日香の方はどことなく居心地が悪そうにしていた。
兄妹だからといって性格まで似ているわけではない。端正な顔立ちやデュエルセンスは兄妹ともに恵まれているが、お茶目でプレイボーイでお祭り好きな吹雪に対して、明日香はクールで真面目な少女だった。
「おや明日香、浮かない顔だね」
「……誰のせいだと思ってるの。けど、兄さんらしいといえばらしいかしら」
頭を抑えながらも、僅かに口元を緩める明日香。
どれだけ普段の吹雪がハイテンションで自重しない人間だったとしても、明日香にとって吹雪は尊敬すべき兄でありデュエリストだ。そんな彼の中学生最後の対戦相手に指名されて嬉しくないわけがない。
明日香のそんな内心を知ってか知らずか、吹雪は少しだけ真面目な顔つきになる。
「明日香、僕はこのデュエルが終わればアカデミアを卒業する。このアカデミアで明日香と過ごしたのは一年だけだったし、授業も教室も学年も違かったけど一緒に学生をできて楽しかったよ」
「私もよ。昔は私、兄さんより強いデュエリストなんていないと思っていたわ。最強のデュエリストは兄さんで、私は兄さんに次ぐナンバーツーのデュエリストだった。……けどこのアカデミアで自分が見ていた世界の小ささを知ったわ。
ここには亮や宍戸先輩みたいに兄さんと互角の腕をもつデュエリストがいて、世界にはまだまだ強いデュエリストたちがいる。そのことをこの一年間に身に刻んできたつもり」
「……僕は君の兄であると同時に一人のデュエリストだ。妹が相手でも手加減はしない。君の一年間を見せてくれ、僕もこの三年間の成果を見せよう」
「ええ!」
吹雪と明日香のデュエルディスクが同時に起動する。
自分に負けじとデュエルディスクを構え堂々と立つ妹を見て、吹雪は嬉しいと同時に寂しい気持ちも抱く。これは我が子が独り立ちするのを見送る親の心境にも近いかもしれない。
学園ではI2カップでの騒ぎの余韻も手伝いあまり一緒にいれた時間は多くなかった。だが自分が見ていない間にも大切な妹はしっかりと成長していたのだ。
昔はデッキ構築も色々と手伝ってあげていたが、もうそれも必要ないだろう。明日香はしっかり自分の両足で立つデュエリストだ。
「レディース・エーンド・ジェントルメーン!!」
大きく両腕を広げ、観客席を一望する。視界の端に腕を組み観戦している二人の友人を見咎めて小さくウィンクする。
「御集りの諸君! 君達の瞳にはなにが見える?」
吹雪が真っ直ぐ指を差すのは天井だ。その答えに最初に思い至ったらしい女生徒がポツリと呟く。
「……天井?」
「ノンノン。もっと縮めて」
「えと、じゃあ天?」
「ん~~~~~~~~~~~JOINッ!!」
『きゃぁぁぁああああああああ!! 吹雪様ぁぁぁああああああああああ!!』
天上院、二つにわけると天と上院。上院だからJOIN。合わせて天JOIN。サインなどの時、吹雪が好んで使う呼び方だった。同じものにフブキングなどがある。
最初の真面目な雰囲気はどこへやら。吹雪はダンサーのようにくるくると舞いながら拍手に応えている。
けれどチャらけているようでいて、対戦者である明日香を見る視線だけは真面目そのもの。
「さぁ! 明日香、デュエルだ!」
「ええ!」
「「デュエル!!」」
天上院明日香 LP4000 手札5枚
場 無し
天上院吹雪 LP4000 手札5枚
場 無し
「レディーファーストだ。先攻は後輩である明日香からだよ。僕は後攻をもらうね」
髪をかきあげながら吹雪は最初のターンを譲る。以前の田中先生と亮のデュエルでも首席である亮は後攻だったが、あれは亮のデッキが後攻有利なデッキだったからだ。
対して吹雪のデッキはセオリー通りの先攻有利なタイプ。それが分かっていて後攻を譲るのは……吹雪の言葉に全てが集約されているだろう。
「私に先攻を譲ったこと後悔させてみせるわ。私はマンジュ・ゴットを攻撃表示で召喚する」
【マンジュ・ゴッド】
光属性 ☆4 天使族
攻撃力1400
守備力1000
このカードが召喚・反転召喚に成功した時、
自分のデッキから儀式モンスターまたは
儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。
数えきれないほどの無数な手に銀褐色に濁った全身。瞳は赤く、怒りの形相を浮かべている。外見は中々凶悪なものだが、その見た目に反してマンジュ・ゴッドは光属性天使族のモンスターである。
「およ、マンジュ・ゴッドということは……?」
マンジュ・ゴッドは召喚・反転召喚した際に儀式モンスターか儀式魔法をデッキからサーチするという優れた効果から、儀式モンスターを主軸とするデッキにおいては必須とすらいえるカードだ。
丈のトラウマであるショタコン教諭のサクリファイスデッキにも投入されていた。
「マンジュ・ゴッドのモンスター効果、私はデッキより機械天使の儀式を手札に加える。カードを一枚伏せてターンエンドよ」
「僕のターン」
明日香の先攻ターンは攻撃が出来ない為、一気にカードを展開するようなことはせず、次のターンでの準備をするだけに留まった。
吹雪は自分の手札に視線を落とす。
「…………」
この手札なら明日香のように次のターンのための布石を整えることも、逆にこのまま一気に展開することも出来る。
やや妹馬鹿に聞こえるかもしれないが、吹雪は明日香の実力を誰よりも知っていた。クールなように見えて明日香は自分の身を削っても相手を倒してみせるという気迫に溢れたデュエリストだ。下手に行動を渋っていれば痛い目に合う。
(それに)
これは天上院吹雪がアカデミア中等部でする最後のデュエル。このデュエルくらい後先考えずに思いっきり戦うのも悪くない。
吹雪の心は決まった。いや既に決まっていた心が定まった。
「魔法カード発動、竜の霊廟! デッキからドラゴン族モンスターを一体墓地へ送る」
【竜の霊廟】
通常魔法カード
デッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る。
墓地へ送ったモンスターがドラゴン族の通常モンスターだった場合、
さらにデッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。
「竜の霊廟」は1ターンに1枚しか発動できない。
弘法筆を選ばずという諺がある。優れた人間はどんな道具でも優れた結果を生むという意味だ。けれど良い道具を使った方が良い結果が生まれるというのも一つの事実である。
吹雪は優れたデュエリストでどんなデッキをもっていたとしても十全に使いこなせるが、やはり優秀なカードがあればあるほど強さは増すだろう。
そういう意味でI2カップで入賞した者に配られた大会限定パックは本当に良い贈り物だった。吹雪のドラゴン族デッキにぴったりのカードを多く封入してくれていたのだから。
お陰で吹雪のデッキは大会前よりも格段に強化された。
「僕はデッキより真紅眼の黒竜を墓地へ送る。さらに墓地へ送ったモンスターがドラゴン族通常モンスターだった場合、もう一体ドラゴン族モンスターを墓地へ送ることができる。
墓地へ送ったレッドアイズは当然通常モンスター。よって僕は追加で輝白竜ワイバースターを墓地へ送る」
デッキのモンスターを墓地へ送るカードには『おろかな埋葬』があるが『竜の霊廟』は通常モンスターを投入するドラゴン族デッキであれば上位互換として使用できる優秀なカードだ。
吹雪のデッキにはレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンなど墓地を利用する効果が多いため非常に便利である。
「そして! 僕はアレキサンドライドラゴンを攻撃表示で召喚する」
【アレキサンドライドラゴン】
光属性 ☆4 ドラゴン族
攻撃力2000
守備力100
アレキサンドライトの鱗をもった幻想的なドラゴンが舞い降りる。
I2カップではレベッカの使用したアメリカで先行発売されたカードだが、I2カップ大会の限定パックに封入されていた為に吹雪も手に入れていたのだ。
通常モンスターのため効果はないが、逆に言えばデメリット効果もない。星4で攻撃力2000というのは単純故に強力だ。
だが吹雪がこのカードを召喚したのは、このカードで攻撃する為ではない。
「いくよ。僕はフィールドのドラゴン族モンスターをゲームより除外し、降臨せよ! レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン!」
【レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン】
闇属性 ☆10 ドラゴン族
攻撃力2800
守備力2400
このカードは自分フィールド上に表側表示で存在するドラゴン族モンスター1体を
ゲームから除外し、手札から特殊召喚できる。
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に手札または自分の墓地から
「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外の
ドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる。
吹雪のデッキの中核を担うドラゴンにして、レッドアイズの最終進化形態。レベルは破格の10であり攻撃力も2800と高い。
「レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン……こんなに早く見ることになるなんて」
いきなりの最上級モンスターの召喚に気丈な明日香が僅かに動揺の色を垣間見せた。
しかしこのデュエル、容赦はしないと吹雪は決めている。
「レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンのモンスター効果! 1ターンに1度だけ墓地または手札のドラゴン族モンスターを特殊召喚する。蘇れ、真紅眼の黒竜!」
【真紅眼の黒竜】
闇属性 ☆7 ドラゴン族
攻撃力2400
守備力2000
真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす。
二体の紅き目をもつ黒竜が並んだ。融合を主軸とする亮、生け贄召喚を主軸とする丈に対し吹雪はレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンの効果を始めとした特殊召喚でモンスターを並べていくデュエリスト。
こと展開速度に限っていえば三人の中でも随一だろう。
「バトルフェイズ!」
明日香のフィールドには攻撃力1400のマンジュゴッドが一枚だけ。モンスターの攻撃が通ればライフを一気に減らすことができる。
けれど、
「……と、いきたいところだけど今はやめておこうか」
「なっ!? 攻撃を止めるですって……?」
相手に大ダメージを与えるチャンスを棒に振る決断に明日香の目が大きく見開かれる。
「兄さん、全力で戦うのじゃなかったの。手加減をしてくれているつもりなら寧ろ屈辱だわ」
「怒らないでくれ明日香。僕は君のことを舐めているわけじゃないし侮っているつもりも侮辱しているつもりもない。僕は全力で戦っているさ、今もね。それとも明日香は僕に攻撃して欲しいのかな?」
吹雪の視線が明日香の場にセットされたリバースカードに注がれる。さすがに明日香も表だって動揺をみせることこそしなかったが、ほんの少し頬の筋肉が歪んだのを吹雪は見逃さなかった。
普段の態度から勘違いされがちだが、吹雪は鋭い洞察力の持ち主である。空気を読めない行動をする時が多いが、それはわざと空気を読んでいないだけで読めないわけではない。読めないと読まないは似ているようで全く違うのだ。
その優れた洞察力は伏せられた危険性を敏感に嗅ぎ取っていた。
「さて。僕はカードを二枚セットしてターンを終了しよう。明日香のターンだ」
「私のターン、ドロー! 強欲な壺を発動して新たに二枚をドローするわ。……兄さんが攻めてこないなら、こちらから攻めるだけ。
前のターン、マンジュ・ゴッドの効果で手札に加えた儀式魔法、機械天使の儀式を発動! フィールド上のマンジュ・ゴッドと手札のブレード・スケーターを生け贄に捧げ、サイバー・エンジェル―茶吉尼―を攻撃表示で召喚!」
【サイバー・エンジェル―茶吉尼―】
光属性 ☆8 天使族
攻撃力2700
守備力2400
「機械天使の儀式」により降臨。
このカードが特殊召喚に成功した時、相手プレイヤーは相手フィールド上の
モンスター1体を選択して破壊する。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。
吹雪は儀式召喚されたモンスターをしげしげと観察する。
機械染みた装飾のされた服装に四つの腕にもった武器。茶吉尼という名前から察するに仏教の荼枳尼天を由来とするカードだろう。
レベル8の最上級儀式モンスターだけあってカオス・ソルジャーに劣るものの攻撃力も2700と高い。けれど吹雪の場には攻撃力2800のレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンがいる。これをどう突破してくるか。
「サイバー・エンジェル―茶吉尼―のモンスター効果、このカードが特殊召喚された時、相手モンスター1体を破壊する。けどその破壊するモンスターは相手が選ぶことができる」
「……なら僕が破壊するのは真紅眼の黒竜だ」
レッドアイズが茶吉尼の武器に貫かれ撃破される。だがレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンがいる以上、茶吉尼がレッドアイズを破壊したところで無駄だ。次のターン、レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンの効果で直ぐに復活するのだから。
ドラゴン族デッキは場にレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンがいる限り不死身の力を授かるといっても過言ではないだろう。
「そうすると思っていたわ。けどね、私の攻撃はこれで終わるほど温くないわよ。私は召喚した茶吉尼を生け贄に捧げる!」
「儀式召喚した機械天使をまた生け贄にするだって!?」
「新たに私はサイバー・プリマを攻撃表示で召喚するわ」
【サイバー・プリマ】
光属性 ☆6 戦士族
攻撃力2300
守備力1600
このカードの生け贄召喚に成功した時、
フィールド上に表側表示で存在する魔法カードを全て破壊する。
フィールドを舞い踊るプリマドンナ。上級モンスターにしては攻撃力2300と及第点に少し及ばないものの、場の表側魔法カードを全て破壊する効果がある。ロック系デッキには天敵として機能するだろう。
しかし吹雪の場に表側の魔法カードはなく、この状況で茶吉尼を生け贄にしてまで召喚する価値のあるモンスターではない。
一体なにを考えているのか。その答えはすぐに示される。
「勝利の布石は整ったわ! 私は魔法カード、死者蘇生で墓地に眠るサイバー・エンジェル―茶吉尼―を蘇生する! そして茶吉尼の効果が再び発動するわ」
「そうか。サイバー・エンジェル―茶吉尼―の効果は特殊召喚をトリガーにするもの。儀式召喚時のみを指定する効果じゃない」
「当たりよ兄さん。茶吉尼の効果で相手フィールド上のモンスターを一体破壊する。その選ぶモンスターだけど……必要ないわね。兄さんの場にはレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンしかいないのだから」
明日香の宣言通り、茶吉尼がレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを破壊してしまう。
怒涛の効果二連発。吹雪のフィールドはゼロになった。
「サイバー・エンジェル、機械天使……どれも前は使っていなかったカードだ。お気に入りのカードを見つけられたみたいだね」
アカデミアに入学する前、明日香は勝つ為に単純に強いカードばかりを入れたデッキを使っていた。
確かに強いカードばかりを入れれば単純に強いデッキが出来上がるだろう。しかしデュエルモンスターズというゲームは強いカードばかりを入れれば良いわけではない。デュエルモンスターズの真価はカードとカードの力を組み合わせることにより
好きなカードと信頼関係を結び、そのデッキだけの可能性を見つける。明日香はそのことをもう身に着けていた。これはもう自分もうかうかしてはいられなさそうだ。
「兄さん、新たな門出に泥を塗るようで悪いけど……やるからには勝つわ! バトルフェイズに突入!」
吹雪のフィールドはがら空きだ。二体のモンスターの攻撃力の合計は5000。
二体のモンスターの攻撃が吹雪に襲い掛かった。
「妹の全身全霊の攻撃、受け止めてあげたいのが兄の情だけど時に突き放すのも愛情ってね。リバース発動、和睦の使者! このターンのダメージを0にする。よって二体のモンスターの攻撃は無意味」
「っ! 後少しだったのに……!」
掴みかけた勝利を逃した悔しさで明日香が唇を噛む。
このターンで勝負をかけるため明日香はかなりの数の手札を消費していて現在の手札は僅か一枚。最上級モンスターと上級モンスターがいるとはいえど痛いだろう。
「私は、これでターンを終了するわ」
「僕のターンだね、ドロー」
幸先が良い。待っていたカードがこのタイミングできてくれた。それにこのフィールドの状況……悪くない。
慈しむように明日香を守る二体のモンスターを見つめる。明日香が見出した自分だけのフェイバリットカード。それに応えるにはこちらのフェイバリットで応じなければならないだろう。
(だろう? レッドアイズ……)
明日香には見えないし、ここにいる観客のほぼ全員が見えないだろう。コレが見えるのは吹雪が知る限りでは同じようにバクラに一度取り込まれた亮と、三邪神の担い手となった丈くらいだ。
あのペガサス会長にすら気配を感じることはできても姿を視認することは出来なかった存在――――お伽噺の中だけの存在だと思っていたデュエルモンスターズの精霊。
吹雪の隣には黒竜の雛が赤い瞳で真っ直ぐに明日香を見ていた。そしてデッキの中にはレッドアイズも眠っている。
「明日香、僕はこのターンで……茶吉尼とプリマを倒す!」
「そう簡単にいくかしら。幾ら兄さんでも上級モンスターと最上級モンスターを一気に倒すのは至難の業じゃなくて?」
「至難の業をしてみせてこそのフブキングさ! 僕は光属性モンスター、輝白竜 ワイバースターと! 闇属性モンスター、レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンをゲームより除外するよ」
「この召喚方法は!?」
吹雪の行動に最初に反応したのは『カオス・ソルジャー開闢の使者』をエースモンスターとする丈だった。
魔王と怖れられる男の反応で周囲もざわめき始める。口ぐちに「まさかカオス・ソルジャー……?」「いや、カオス・ソーサラーなんじゃないか」などと囁かれる。
「……I2カップの三位入賞者にカオス・ソーサラーのカードが送られていたけれど、兄さん」
「ふふふっ。確かに闇属性と光属性モンスターを其々除外するっていうとカオス・ソルジャー、混沌帝龍、カオス・ソーサラーが先ず思い浮かぶね。
けどこの方法で召喚できるモンスターはこれだけじゃないんだよ。混沌の
【ダークフレア・ドラゴン】
闇属性 ☆5 ドラゴン族
攻撃力2400
守備力1200
このカードは自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを
1体ずつゲームから除外し、手札から特殊召喚できる。
1ターンに1度、手札とデッキからドラゴン族モンスターを1体ずつ墓地へ送る事で、
自分または相手の墓地のカード1枚を選択してゲームから除外する。
暗黒の閃光星より地上に降り立ちし漆黒の龍。真紅眼の黒竜と同じ黒竜であり攻撃力も同じ2400だ。
ダークフレア・ドラゴンは威嚇するように天に向かって嘶くと、翼を羽ばたかせながら吹雪の前に降り立つ。
「そんなドラゴンが兄さんのデッキにいたなんて! でもダークフレア・ドラゴンの攻撃力は2400よ。サイバー・プリマは倒せるけど、サイバー・エンジェル―茶吉尼―を倒すことはできないわ」
「それはどうかな。僕は伏せておいたリバースカード、竜魂の城を発動する」
【竜魂の城】
永続罠カード
1ターンに1度、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体をゲームから除外し、
自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで700ポイントアップする。
また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが墓地へ送られた時、
ゲームから除外されている自分のドラゴン族モンスター1体を選択して特殊召喚できる。
「竜魂の城」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。
「竜魂の城?」
このカードが初見だった明日香が首を傾げる。
「ふふふ。このカードは、1ターンに一度自分の墓地のドラゴン族モンスターをゲームから除外し、自分フィールドのモンスターの攻撃力を700ポイントアップさせることができる永続罠カードだよ」
「その効果でダークフレア・ドラゴンの攻撃力を上げて茶吉尼を倒す気!?」
「NOだよ! それでもまだ不正解。本命はこれだよ。速攻魔法発動、ダブル・サイクロン! 自分の場の魔法・罠カード一枚と相手の場の魔法・罠カードを破壊する。僕が選択するのは竜魂の城。そして明日香のフィールドにあるリバースカードだ」
【ダブル・サイクロン】
速攻魔法カード
自分フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚と、
相手フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して発動する。
選択したカードを破壊する。
二つのサイクロンが吹雪の竜魂の城と明日香のリバースカードを破壊した。
破壊した明日香のリバースカードはミラーフォース。もしも前のターンで攻撃を仕掛けていれば吹雪のモンスターは全滅していただろう。
「ど、どうして……そのカードを発動して、私のリバースカードを破壊するなら竜魂の城を発動する必要なんてなかったのに」
「先輩として兄としてワンポイントレッスンだよ。明日香、デュエルモンスターズにはね。破壊されてこそ真価を発揮するカードというものがあるのさ」
「破壊してこそ、効果を発揮するですって!」
「竜魂の城も数あるうちの一つさ。フィールドで表側表示で存在する竜魂の城が墓地へ送られた時、このカードの隠された効果が発動する。除外されているドラゴン族モンスターを一体、フィールドへ帰還させるよ」
「……除外? まさか最初からその為にダークフレア・ドラゴンを召喚してレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを除外していたというの!?」
「Yes! これで全部正解だよ! 僕は除外されていたレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンをフィールドへ帰還、更にレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンの効果で墓地の真紅眼の黒竜を蘇生させる!」
相手の罠カードを除去しつつ、場に強力なドラゴン族を三体呼び出す。モンスター召喚の布石が次のモンスター召喚の布石となっている。
無駄のない華麗なプレイイング。これがキングと呼ばれる吹雪のデュエルだった。
「バトルフェイズ。真紅眼の黒竜でサイバー・プリマを攻撃、ダーク・メガ・フレア! そしてレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンでサイバー・エンジェル―茶吉尼―を攻撃、ダークネス・メタルフレア!」
二体のドラゴンの黒炎が明日香の呼び出したモンスターたちを燃焼破壊する。
しかし攻撃はまだ終わらない。吹雪にはまだ一体のモンスターの攻撃が残っている。
「ダークフレア・ドラゴンの攻撃、ダークフレア・ストリームッ!」
「きゃぁぁぁあ!」
明日香LP4000→1400
黒いレーザー光線が口から吐き出され、明日香の体を貫いた。けれど闘志を失わなかったのは流石は吹雪の妹というべきか。
「僕はリバースカード二枚を場にだし、ターンエンドだ」
「……私、恥ずかしいわ。兄さんの力を侮っていた。私より強いと思っていたし、そう考えてデッキを調整してきた。けど、私の認識していた強さより兄さんは強過ぎた」
「明日香?」
「でも、私はデュエリストよ! どれだけ劣勢でも膝を屈したりはしないわ! 私のターン、ドロー! 光の護封剣を発動! 相手は3ターンの間、攻撃を封じられる。そしてモンスターを守備表示でセットしてターンエンド」
我が妹ながら逞しい。女性に逞しいというのは失礼かもしれないが、明日香はデュエリスト。賞賛の言葉に値するだろう。
世の中は甘くない。諦めなければ絶対になんとかなるほど優しいシステムでは成立していないし、努力が報われないことも悲しいが起こり得てしまう。
だが諦めない者だけがその先にある『奇跡』を掴む権利を得ることができるのだ。
「僕のターン、ドロー! 仮面竜を攻撃表示で召喚」
【仮面竜】
炎属性 ☆3 ドラゴン族
攻撃力1400
守備力1100
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
これでフィールドには四体のドラゴン族。召喚できるのは残り一体だけだ。
「ターン終了だ」
問題は……明日香がここからどう挽回してくるか、だ。これはデュエリストとしての直感だが、あのセットしたモンスターに仕掛けがある
吹雪の直感は的中した。
「私のターン! 私はセットモンスターを反転召喚、私が反転召喚したモンスターはメタモルポットよ。互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚カードをドローする」
リバース効果モンスターのために少し遅いが、その効果は最強ドローソースである『天よりの宝札』に迫りうるものだ。
ただしこれは天よりの宝札にもいえることだが、相手にもドローを許してしまうのがネックといえばネックだ。
「いくわよ。機械天使の儀式を発動、手札の氷の女王を生け贄に捧げサイバー・エンジェル―茶吉尼―を攻撃表示で召喚!」
二度目の正直ならぬ茶吉尼だ。しかし茶吉尼の効果は吹雪の場に四体ものドラゴン族が並んでいる現状では余り役に立たないだろう。
「茶吉尼の効果、相手のモンスターを一体、相手が選んで破壊するわ」
攻撃力が一番低いのは仮面竜だが仮面竜には後続をリクルートする効果がある。レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンは論外。
ダークフレア・ドラゴンにする手もあったが、通常モンスター故に蘇生手段が豊富なことだから吹雪は真紅眼の黒竜を選択した。
「……僕が選ぶのは、真紅眼の黒竜だ」
「ふふっ」
「なにが可笑しいんだい?」
「兄さんなら仮面竜を残すと思っていたわ。お蔭で私にも勝利の可能性が見えてきたわ!」
「……ふっ。そうかい?」
「手札より装備魔法、巨大化によりサイバー・エンジェル―茶吉尼―の攻撃力を倍にする!」
【巨大化】
装備魔法カード
自分のライフポイントが相手より下の場合、
装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値になる。
自分のライフポイントが相手より上の場合、
装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を半分にした数値になる。
サイバー・エンジェル―茶吉尼―が二倍に巨大化していった。
巨大化はライフが相手より下でなければ倍加することが出来ない装備魔法だが、明日香のライフは1400なので問題なく倍加が起動する。
「サイバー・エンジェル―茶吉尼―の元々の攻撃力は2700。よって攻撃力は5400に倍加するわ!」
「そして仮面竜の攻撃力は1400、か」
仮面竜への攻撃が通れば、吹雪は一気に4000のライフを失い敗北する。
「バトル! サイバー・エンジェル―茶吉尼―で仮面竜を攻撃!」
無論、通ればの話だが。
「この瞬間、トラップ発動。ガード・ブロック、戦闘ダメージを一度だけ0にしてカードを一枚ドローする。仮面竜は破壊されるが僕への戦闘ダメージは0になるよ。
そして速攻魔法、奇跡の逆鱗を発動。自分の場のドラゴン族モンスターが破壊された時、デッキから魔法・罠カードをフィールドにセットする。最後に仮面竜の効果で新たな仮面竜を守備表示で特殊召喚」
「そんな……攻めきれなかった、なんて。私はカードを一枚セットして……ターンを終えるわ」
「僕のターン、ドロー……サイクロンを発動して光の護封剣を破壊。さらにレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンのモンスター効果、墓地のレッドアイズを蘇生するよ」
メタモルポットとガード・ブロック、竜の逆鱗で伏せられた二枚のカードとこのドロー。
勝利への方程式はもはや何通りも出来上がっている。だが、やはり最後は自分の全力で倒すのが相手へのリスペクトというものだろう。
「明日香……僕からの模範デュエルの申し出を受けてくれてありがとう。一人のデュエリストとして、このデュエルは一生忘れられない思い出として胸に刻む。
僕が最後に見せるものは僕のフェイバリット『真紅眼の黒竜』がもつ可能性だ」
「レッドアイズの、可能性?」
「青き龍は勝利をもたらす。しかし、赤き竜がもたらすのは勝利にあらず、可能性なり。……レッドアイズはそれ単体ではそれほど強いカードでもない。けどね、他のカードたちと組み合わせることで無限大の可能性をデュエリストに齎すんだ。
その可能性の一つ、攻撃力というパワーにおける最終形態を――――僕は呼び起こす!」
吹雪は一枚のカードをデュエルディスクに置く。
「魔法カード、竜の霊廟。デッキよりメテオ・ドラゴンと真紅眼の黒竜を墓地へ送る! そして龍の鏡を発動! 僕は墓地の真紅眼の黒竜とメテオ・ドラゴンを融合する」
【龍の鏡】
通常魔法カード
自分のフィールド上または墓地から、
融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、
ドラゴン族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。
(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)
「照覧せよ! 勝利をも砕く可能性の竜が最強形態! メテオ・ブラック・ドラゴンッ!」
【メテオ・ブラック・ドラゴン】
炎属性 ☆8 ドラゴン族
攻撃力3500
守備力2000
「真紅眼の黒竜」+「メテオ・ドラゴン」
レッドアイズの細い四肢は隕石のような隆々とした胴体で覆われ、その鱗からは灼熱の焔を撒き散らす。
存在するだけで周囲に熱量をばら撒くそれはレッドアイズとメテオ・ドラゴンが融合した――――純粋な攻撃力ならば最強の姿だ。
「攻撃力3500……? ブルーアイズを超えた!」
「それだけじゃ終わらないよ。僕は奇跡の逆鱗でセットした装備魔法、団結の力を発動してメテオ・ブラック・ドラゴンに装備」
【団結の力】
装備魔法カード
装備モンスターの攻撃力・守備力は、自分フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体につき800ポイントアップする。
メテオ・ブラック・ドラゴンに四体のドラゴンたちの力が流れていく。
フィールドのモンスターが一体につき装備モンスターの攻撃力守備力を800あげる団結の力。吹雪のモンスターカードゾーンは完全に埋まっているため攻撃力は4000ポイントアップする。
よってメテオ・ブラック・ドラゴンの攻撃力は7500だ。
「メテオ・ブラック・ドラゴンでサイバー・エンジェル―茶吉尼―を攻撃、メテオ・ダイブ!」
「ただではやられないわ。罠カード、ドゥーブル・パッセ! 相手モンスターの攻撃をダイレクトアタックとして受け、自分のモンスターは相手プレイヤーへダイレクトアタックをする!」
【ドゥーブル・パッセ】
通常罠カード
相手モンスターが自分フィールド上の表側攻撃表示モンスターを攻撃してきた時に発動できる。
その攻撃を直接攻撃としてプレイヤーが受ける。
この時攻撃対象となったモンスターは相手に直接攻撃できる。
このカードが決まれば、互いにメテオ・ブラック・ドラゴンとサイバー・エンジェル―茶吉尼―の攻撃を喰らいドローゲームだが、そこは吹雪も予想済みだ。
吹雪はセットしたもう一枚の効果を発動する。
「カウンター罠、魔宮の賄賂。相手の発動した魔法・罠カードを無効にする」
ドゥーブル・パッセが消滅してメテオ・ブラック・ドラゴンの攻撃がサイバー・エンジェル―茶吉尼―を撃破した。
その戦闘ダメージにより明日香のライフが0を刻む。
「………………負けたわ、完敗よ。まさか1ポイントのライフを削ることも出来ないなんて」
「兄としての矜持は見せられたかな。ナイスデュエル、明日香」
にっこり笑いながら手を差し伸べると、明日香もその手を掴み握手をする。
瞬間、会場中から莫大な歓声が降り注いだ。
「……亮に続いて卒業生サイドは二連勝か。これで俺が負けたら一人だけ恥さらしになるな」
腕を組んだ丈は「やれやれ」と言いながら溜息をついた。それを見ていた亮が苦笑する。
二人の眼下では勝利した吹雪が強引に明日香の手を握りながら観客席に手を振っていた。明日香の方が恥ずかしさで頬を赤く染めてうつむいているのが印象的である。
「お前はデュエルのことを考える前に対戦相手を決める事を考えた方が良い。俺達が前にいたから今まで呑気にしてられたが、お前のデュエルは一週間後だ。そろそろ決めないと不味いだろう」
「ふー、同じ人間を選択することも出来ないから……そうだな。セオリー通りに二年生の首席を指名しておこうか」
丈はその場から離れる。
「どこへ行く?」
「指名、だよ。準備もあるだろうし当日いきなり指名ってわけにもいかないだろう」
丈が向かうのは生徒たちのいる場所ではなく職員室だ。
二年生首席を指名する、と決めてみたものの生憎と丈は二年生の首席が誰なのかを知らない。卒業模範デュエル中だからとはいえ職員室を留守にするということはないだろう。職員室に行けば二年生の首席が誰なのか教えてくれるはずだ。
(まてよ? 別にわざわざ職員室に行かなくても亮に聞けば良かったじゃないか。あぁ、間抜けしたなぁ~)
自分のちょっとしたドジに苦笑いするが、もうここまできたら観客席に戻るよりも職員室へ行く方が早い。
面倒な用件は手早く済ませようと足を速めたところで、
「宍戸さん」
背後から鋭い声で呼び止められた。
振り向くと特徴的な黒い髪の少年が真っ直ぐに丈のことを見ている。いや、もはや睨んでいるといった表現の方が正解だろう。
少年の両隣には同年代と思われる二人の少年がいる。しかし同年代にしてはどことなく畏まった態度を黒髪の少年に向けていた。きっと真ん中にいる少年がリーダー格で二人は取り巻きのようなものなのだろう。
さしずめ真ん中がジャイアンとするなら他二人はスネ夫か。
「えーと、見たところ後輩のようだけど……俺に何の用かな? 俺はこれから職員室に行こうと思っていたのだけど……」
「俺は万丈目準、一年生の首席だ。宍戸さん、アンタの卒業模範デュエルの相手がまだ決まってないと聞いてね。その模範デュエルはこの万丈目準が引き受けた!」
「ちょ、ちょっと万丈目さん!」
「相手はあの魔王ですよ……流石に失礼じゃ……」
「ええぃ喧しい! 俺は常にナンバーワンを目指してデュエルをしている。相手が魔王だろうとカイザーだろうとキングだろうとへーこらしていられるか!?」
同じ一年生同士なのに万丈目以外の二人が万丈目に敬語を使って会話しているあたり、やはり二人は取り巻きなのだろう。丈を含めた三人も同じような人間がなにかと多いので良く分かる。
にしても元気が良い一年生がいたものだ。思わず自分が一年生だった頃を思い出して微笑ましい気分になってしまう。
「すまないが万丈目くん、俺はその卒業模範デュエルの相手には二年生の首席を指名する予定だ。悪いんだが――――」
「その二年生首席なら昨日倒しておいたよ。卒業模範デュエルの対戦相手を賭けたデュエルで。二年生首席がこの俺、万丈目準に敗れた以上! 俺はアンタの相手として一番相応強いはずだ!」
「……ふぅ。そういうことなら、分かったよ。いいだろう、俺は君と卒業模範デュエルを行う」
どの道、卒業模範デュエルそのものに消極的だったこともあってあっさりと丈は頷く。
それに二年生首席を倒したというのなら実力も資格も申し分ない。
「ただしやるからには俺にとっても学園最後のデュエルだ――――油断する気はない」
卒業模範デュエルの相手は決まった。二年生首席の名前を聞くために職員室へ向けていた足を逆にする。
万丈目の横を通り過ぎると、亮たちのいる観客席へ戻っていった。
遂に遊戯王世界どころか現実世界のカードまで先取りし始めました。新しいストラクのせいで吹雪のデッキが超絶強化されました。吹雪さんは自重しませんね。