「不味いね。亮のリバースカードはこれまでの状況からみて大逆転を可能にする類のカードじゃない。もしも田中先生が光の護封剣を破壊するカードを引いたら終わりだ」
デュエルを観戦していた吹雪は友人の圧倒的劣勢を苦虫をかみつぶしたような顔で見守る。
吹雪の言う通り状況は絶体絶命といえるだろう。上級モンスターを四体並べ、防御も手札も万全な田中先生。対して手札ゼロでモンスターゼロの亮。デュエルモンスターズ初心者が百人見ても百人が亮の不利だと断言するだろう。
ライフは互いに1ポイントも削られておらず4000のままだが、邪帝の一斉攻撃の前では4000のライフなど吹けば消える小火に過ぎない。
「しかも田中先生の帝モンスターの多くは場のカードを破壊、または除去する効果をもっている。もしも田中先生の手札にもう一枚の帝モンスターがいれば……」
「炎帝や闇帝とかならまだ良いが氷帝や風帝、それに邪帝ならもうこの時点でアウトだな」
丈も同意する。場のカードを除外する邪帝、場のカードをデッキトップに戻す風帝、場の魔法・罠カードを二枚まで破壊する氷帝。
この三体は帝モンスターの中でも強力な効果をもつカードたちで、恐らく田中先生も使い難い雷帝や地帝などは一枚も投入せず、風帝と邪帝を中心としたデッキを組んでいるだろう。
田中先生の場にはリバースカードがあるため黄泉ガエルの蘇生効果は働かないが、それなら現在フィールドにいる帝を生け贄に新たな帝を召喚すればいいだけだ。
同じモンスターを生贄にして同じモンスターを召喚するなど普通なら無意味な行動でしかないが、生贄召喚に成功して初めて真価を発揮する帝モンスターにとっては有効な戦術となりうる。
「けど……そう上手くいくかな。田中先生が最初にカード・ガンナーの効果を使って九枚のカードを墓地へ落とした時、墓地に送られてこそ意味のある黄泉ガエル以外にサイクロンや神の宣告、それにガイウスとメビウスが巻き添えを喰らっていた。
亮が勝利の女神に見捨てられていないのなら、光の護封剣が保つ可能性は少なくはない」
「全ては運次第、か」
「……プレイイングや知識なんてものは練習や努力で幾らでも磨くことはできる。だけどここぞと言う時にキーカードをひく運までは努力してどうこうなるものじゃない。そして亮はここぞという時に強い勝負強さをもったデュエリストだ」
これまで幾度となく丸藤亮というデュエリストとデュエルをしてきたからこそ分かることがある。
丸藤亮という男はこんなことくらいで負けるような男ではない。カイザーという異名は伊達ではないのだ。
仮に3ターン持ち堪えたとしても、ここから逆転するのは並大抵のことではないだろう。3ターンという時間は亮に逆転のカードを呼び込むかもしれないが、同時に相手に戦備を強化する時間を与えるということでもあるのだ。
それでも丈は信じている。この三年間を共に過ごした幼馴染の実力というものを。
「泣いても笑ってもこれが俺達がこの学園でする最後のデュエルだ。頑張れ」
デュエルは勝敗が全てではない。本当のデュエルとは勝ち負けなど超えたところに価値がある。
しかしどうせなら勝ちたいというのが人情というもの。それが最後のデュエルだというのなら猶更だ。
二人は静かにフィールドで暴帝と向かい合う友人にエールを送った。
丸藤亮 LP4000 手札0枚
場 なし
伏せ 一枚
魔法 光の護封剣
田中 LP4000 手札4枚
場 風帝ライザー、氷帝メビウス、炎帝テスタロス、邪帝ガイウス
伏せ 二枚
「私のターンだ、ドロー」
カードを引いた田中先生の表情が――――集中して観察していなければ分からないほど僅かに、歪む。
首の皮が繋がったようだ。あの様子だと光の護封剣を除去するカードはなかったらしい。
相手を倒す方法は攻撃以外にもバーンや特殊勝利などというものがあるが、田中先生のデッキタイプからしてそれはないだろう。攻撃以外に相手にダメージを与える手段は精々が炎帝テスタロスくらいだろうか。それだって一撃でライフを削りきれるほど大規模のものではない。
「ふん。更にリバースカードを一枚セットしてターンエンドだ」
「俺のターン……封印の黄金櫃を発動。デッキよりカードを一枚選んでゲームより除外。2ターン後のスタンバイフェイズ時、除外したカードを手札に加える」
【封印の黄金櫃】
通常魔法カード
自分のデッキからカードを1枚選択し、ゲームから除外する。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。
亮の半歩下がった後方に巨大な黄金の箱が出現した。眩い黄金の光は一目で純金であると事実を突きつけてくる。
箱の中心にはサクリファイスなどにもあるウジャト眼が刻まれていた。
「デッキより俺が選ぶカードは……パワー・ボンド。俺はパワー・ボンドを黄金櫃に封印する」
「パワー・ボンドか。どうせならサイバー・エルタニンや激流葬でも選んだらどうだ? パワー・ボンドを手札に加えたところで手札に融合素材がなければ何にもならん」
「パワー・ボンドは俺の信じる最強の融合カードだ。確かに貴方の言う通り合理性でいうなら他のカードを選択するべきだったのかもしれない。だがデュエルには時に理屈や常識を超えた判断力を求められることもある。
俺は俺の内より沸き立つ飽くなき本能に従ってデュエルをしている。仮にその果てに敗北が待っていたとしても、それが全力を尽くした結果ならば……俺は満足だ」
「…………」
「ターンエンドだ」
「私のターン。このターンはなにもせずターンを終了する。……どっちにせよ光の護封剣の効果は二ターン後に消える。それまでにこの布陣を打開することができなければ、やはり君の負けは動かない」
「だが光の護封剣の効果が消えた後、俺の手札には封印の黄金櫃よりパワー・ボンドを加えることができる」
「そう上手くいくかな。現在の君の手札は0。まぁ二連続でサイバー・ドラゴンをドローできればどうにかなるかもしれないが……」
田中先生はそう挑発してくるが、本当のところはどうだか分からない。
確かに二連続でサイバー・ドラゴンをドローできれば、パワー・ボンドで攻撃力5600のサイバー・ツイン・ドラゴンを召喚することができる。サイバー・ツイン・ドラゴンには二回攻撃できる効果があるので、二体の帝を攻撃すればワンショットキルの完成だ。
しかしそんなことを暴帝と畏怖されたほどのデュエリストが予想できていないはずがない。
あの三枚のカードにこちらの行動を妨害するカードが一枚もない、などと楽観を抱くことなど出来ようはずがなかった。
サイバー・ツイン・ドラゴンを召喚しようとすれば、絶対になにかリバースカードで妨害してくる。
「俺のターン、ドロー!」
このドローに丸藤亮というデュエリストの命運がかかっている。
「……っ!?」
引いたカードはこの状況を100%逆転できるカードではなかった。サイバー・ドラゴンですらなかった。
相手を破壊することも出来なければ、モンスターを特殊召喚もできない。けれど可能性を秘めたカードだった。
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
「伏せた、ということはサイバー・ドラゴンを引き当てることはできなかったようだな。私のターン、ドロー」
最後の3ターンが訪れた。このターンで田中先生が光の護封剣を除去するカードを引いていたとしたら、亮はほぼ間違いなく敗北するだろう。
それだけではない。田中先生がある行動に出ても、亮は本当の窮地に追いやることになる。
亮の前には一本だけ天国へ続く細く長い糸がたらされているが、それが切断されることになるだろう。
「運が良いな丸藤。私はこの3ターンの間、遂に光の護封剣を除去するカードを引き当てることができなかった。あぁ、もしも次のターンで君が見事逆転しなければ……それも無駄になるがね」
「田中先生」
これまでずっと学園生活を送る最中、亮はたびたび疑問に思うことがあった。そしてこのデュエルで田中ハルという男のデュエルを通して疑問は確信にかわった。
田中先生は強い。『暴帝』の名に恥じぬプレイイングセンス、洞察力、読みの深さ。どれも超一流だ。プロリーグを引退して長いそうだが、今直ぐ復帰してもたちどころにトッププロに合流できるだろう。
そう……田中先生は余りにも場違いなのだ。
勿論プロデュエリストが引退後、後進の育成のためアカデミアの教師やプロのコーチになることはある。だがそれにしたって引退するのはプロでの活躍に限界を感じ始めた者や、年齢的にデュエルが困難になった者などが殆ど。田中先生のように栄光の絶頂から突然にプロを引退して教師になるような例はないだろう。
ましてや田中先生はアカデミア本校の教師ではなくアカデミア中等部の教師なのだ。
野球やサッカーでも同じように、中学生と高校生が戦えば大抵は高校生が勝つ。それはアカデミアでも同じで―――亮たちのような例外はさておき――――高等部の実力は中等部より上だ。
そうなると必然、レベルの高い教師は中等部ではなく高等部に配属されることとなる。
なのに田中先生は高等部ではなくここにいる。それが余りにもおかしい。
「どうして貴方ほど実力のあるデュエリストが中等部の教師に。いいえ、俺は教師になることを否定しているつもりはない。だが貴方は――――何故、DDへの挑戦という栄光への切符を手にしていながら、それを捨ててプロリーグから去ったんですか? 教えてください」
「……わざわざ聞かせるような話ではない。私から言えるのはプロリーグが子供が思うほどに健全な場所ではないということだ」
「健全では、ない」
「私に言わせれば魔窟だね。日々のデュエルで勝利すれば観客は喜び万雷の喝采が降り注ぐが、一度観客の期待に応えられなかっただけで簡単に歓声は非難にかわる。
暴帝、暴君などと言われた私だがね。私からすれば移り気な観客の方が余程暴君だよ」
そうして「気紛れだ」と前置きしてから、田中先生は話し始めた。
田中先生――――田中ハルは高校一年生の頃に参加した大会で優勝し、そこでスカウトからプロに誘われプロリーグ入りした経緯をもつ。
今でこそ暴帝と畏怖され、全盛期の頃は敵の精神を完膚なきにまで叩き潰し、多くの再起不能者を出したことから史上最低最悪のプロデュエリストとまで言われた田中ハルも最初からそんな人間だったわけではない。
プロデュエリストになった最初の頃はレベルの高いプロでのデュエルを純粋に楽しんでいた。
「゛ズレ゛が出始めたのはプロ入りして一年後のことだ。弱かったせいで観客にそっぽむかれたんじゃあない。逆だ。今思い返せばそっちの方がどれだけ良かったか。
運の悪いことに、私はあまりにも活躍し過ぎた。プロリーグに入った私は連戦連勝、一年間で敗北知らずだった。その頃にはマスコミも天才ルーキー現るって大騒ぎでね。私はヒーローだった」
「ヒーロー? それのどこが悪いことなんですか。活躍できなかったのならまだしも、活躍できているのなら何の問題も――――」
「あるんだよ。言っただろう、本当の暴君は観客だって。華々しい活躍をすれば、それだけ周りの期待は大きくなってしまう。今日勝ったなら次も勝てる。次も勝てばその次も勝てる。私自身はなにもかわらないというのに、期待だけがぶくぶくと肥え太っていく」
それから必死に目を背けようとした。プロとしての責任よりも「デュエルを楽しむこと」。それが一番大事なことなのだと、同じくデュエリストだった従兄より教わって来たのだから。
だが同時に観客をなによりも恐れていた。積み重ねた連勝記録。もしそれが破られたら、観客の歓声は一旦して中傷にかわる。
実際そうやって誹謗中傷に耐え切れず潰れたデュエリストを見た事があったからこそ恐怖は一入だった。
相手のプレイイングを研究し、把握し、それの対策を用意し、万全の用意をもって最適の戦術を選択し勝利する。
けれどある日、気付いてしまったのだ。
「私は、楽しんでデュエルなどしていなかった。デュエルをしていて……まるで楽しくなかったんだよ。子供の頃は楽しかったデュエルは、もはや私にとって最適の戦術を淡々と選択するだけの作業に成り果てていた。
それを自覚したら色々と吹っ切れてね。今までの馬鹿丁寧で良い子をしていた自分なんて捨てて、徹底的に最悪の人間になっていったよ。相手のプレイイングの穴をつき、相手の心を叩きつぶすのは何にも勝る鬱憤晴らしだった。なにより史上最低という響きが良い。評価が最下層ならどれだけ観客が非難しようと下がるということがない。気分的にも楽だった」
史上最低のプロなんて言われ非難されても、田中ハルという暴君が君臨できたのはプロにはそういう人間が必要だったからである。
人は勧善懲悪を好む。皮肉なことだが、その構図を成立させるためには悪役の存在が必要不可欠だったわけだ。
暴帝ハルというデュエリストは正に悪としてうってつけだった。
だがやがてそれも飽きた。悪役としての自分は中々にはまり役だったが、デュエルが面白くないという根本的な問題が解決しない以上、田中ハルの生活が灰色以外の色になることはなかったのだろう。
「暫く表面上の暴帝を演じる無味乾燥の日々が続いたが、やがてSリーグの不動の王者DDと挑戦するって話がきてね。その時には二代目キング・オブ・デュエリスト候補だとも騒がれていたが……」
そして田中先生は一度だけ過去に浸るように目を瞑ると、
「私がDDに挑む前日、あの男が私の前に現れた。そう……海馬瀬人が」
「海馬、瀬人!?」
デュエリストなら誰でも知っている名前だ。デュエルディスクの開発者にして海馬コーポレーション社長。
そしてキング・オブ・デュエリスト武藤遊戯と肩を並べる伝説のデュエリストだ。一説によれば純粋なパワー勝負なら武藤遊戯を上回るとすら言われている。
「海馬瀬人は私にデュエルをもちかけてきた。相手は天下の海馬コーポレーション社長、拒否権などあるわけがない。そして私は海馬と戦い、敗北した。これ以上ないほど完膚なきまでに……どんな言い訳も霞んでしまう完敗だった。
どんなにデッキを変えても、相性最悪のアンチデッキを構築して挑んでも、奴は一度もデッキのカードを変更していなかったにも拘らず敗北だった……。
だが海馬とのデュエルは私に教えてくれたよ。私はデュエルが面白くなくなって、デュエルをまるで楽しめなかったんじゃない。私はたかが完璧なる計算と対策と戦術だけで倒せてしまうデュエリストたちとの戦いそのものに退屈していただけだった。
それからの事は語ることのほどでもない。私は強さを追い求める為、つまらない相手ばかりのプロリーグを出奔し、気付けばここで教師などをしている。強さを求める旅の果てに出会った男に一度原点に戻れ、と駄目出しを喰らったからだろうな」
「旅の果てに、出会った男。それは一体」
彼ほどのデュエリストに駄目押しできるほどの人物。そんな人間がいるというのか。
「あぁ。その男の名前は武藤遊戯とか言ったか……」
「武藤、遊戯……そんな、ここ暫く一度も公の場に姿を現してない最強のデュエリスト」
デュエリスト・キングダム、バトルシティ・トーナメント。デュエルモンスターズ創始者ペガサス・J・クロフォードや海馬瀬人などの並みいるデュエリストを倒しキング・オブ・デュエリストの称号を得た生きる伝説。
時がたちDDなど多くのデュエリストがプロリーグに出現した現代においても、彼の名は史上最強のデュエリストとして歴史に刻まれている。
「丸藤亮、いやカイザー亮。この世には常識では測れない力をもったデュエリストがいる。もしお前がその一人だというのなら、この私を倒してみろ。――――私は自らのターン終了を宣言する。この瞬間、光の護封剣の効果が消える」
亮を守り続けた光の護封剣の消滅。次のターンからは並べられた四体の帝の攻撃が解禁となる。
だが亮には一か八かのカードが伏せられている。
「……俺は、この瞬間を待ち望んでいた。貴方の手札が充実し尽くし、俺の手札が限界ギリギリまでなくなるこの瞬間を」
「なに?」
「これがカイザー亮としての一世一代の賭けだ! リバースカードオープン! ギャンブルッ!」
【ギャンブル】
通常罠カード
相手の手札が6枚以上、自分の手札が2枚以下の場合に発動する事ができる。
コイントスを1回行い裏表を当てる。
当たった場合、自分の手札が5枚になるようにデッキからカードをドローする。
ハズレの場合、次の自分のターンをスキップする。
「ギャンブル、だと?」
「このカードは自分の手札が二枚以下、相手の手札が六枚以上の時のみ発動できる。コイントスを行い、表か裏かを当てる。当たれば五枚ドロー、外れれば俺は次のターンをスキップする」
田中先生はこれまで最小限の消費で最大の効果を齎すことを念頭にデュエルを進めてきた。
だがデュエルモンスターズにはピンチの時でこそ発動できない逆転のカードがある。このカードはそのうちの一枚だ。
「ちなみに言うならターンがスキップされた場合、帝モンスターたちの総攻撃を防ぐ術は俺にはない。外れた瞬間、俺の負けが確定する」
勝てば五枚のドロー、外れればターンのスキップ。敗北が死に直結するハイリスクハイリターンのギャンブルカードだ。
「可能性は50%……そんな賭けなど」
「外しはしないさ。さっきも言ったはずだ。俺は丈と違ってこの手のギャンブルは得意だと。コイントス! 俺は表を選択!」
ソリッドビジョンのコインが空中で回転する。それが止まった時、出ていたのは表。
「賭けに勝ったぞ。俺は五枚のカードをドロー。そして俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズ時、パワー・ボンドが手札に加わる!」
0枚だった手札が一気に七枚になった。そして七枚の手札の中には逆転のカードが眠っている。
「永続魔法、未来融合-フューチャーフュージョン発動! 自分のデッキの融合モンスターを互いに確認し、決められた融合素材モンスターを墓地へ送る。そして2ターン後のスタンバイフェイズ、その融合モンスターを特殊召喚する」
【未来融合-フューチャーフュージョン】
永続魔法カード
自分の融合デッキに存在する融合モンスター1体をお互いに確認し、
決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、確認した融合モンスター1体を
融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。
「俺はキメラテック・オーバー・ドラゴンを選択、キメラテック・オーバー・ドラゴンはサイバー・ドラゴンとそれ以外の機械族モンスターを素材とする融合モンスター。
よって俺はサイバー・ドラゴン三枚、プロト・サイバー・ドラゴン三枚、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ二枚、サイバー・エルタニン。サイバー・ジラフ、サイバー・ヴァリー三枚を墓地へ送る!」
「墓地へ送ったモンスターは合計13枚か。だがキメラテック・オーバー・ドラゴンが召喚されるのは2ターン後。だというのにここで使ったと言う事はあのカードがあるということか」
「お察しの通りだ。魔法カード、オーバー・ロード・フュージョンを発動ッ!」
【オーバー・ロード・フュージョン】
通常魔法カード
自分フィールド上・墓地から、
融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを
ゲームから除外し、機械族・闇属性のその融合モンスター1体を
融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
「俺はサイバー・ドラゴン三体、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ三体、プロト・サイバー・ドラゴン三体、サイバー・ラーバァ三体、サイバー・ヴァリー三体、サイバー・エルタニン、サイバー・ヴァリー三体、サイバー・ジラフをゲームより除外! キメラテック・オーバー・ドラゴンを融合召喚するッ!」
【キメラテック・オーバー・ドラゴン】
闇属性 ☆9 機械族
攻撃力?
守備力?
「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが融合召喚に成功した時、
このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。
このカードの元々の攻撃力・守備力は、
このカードの融合素材としたモンスターの数×800ポイントになる。
このカードは融合素材としたモンスターの数だけ
相手モンスターを攻撃できる。
融合素材としたモンスターの数は20。よって攻撃力は16000だ。
更にキメラテック・オーバー・ドラゴンは融合素材モンスターの数だけ攻撃できる効果がある。この攻撃が通れば亮の逆転だ。
だが田中先生もさるもの。それを許しはしない。
「させはしない。私は奈落の落とし穴発動。召喚したキメラテック・オーバー・ドラゴンを破壊して除外する」
「読んでいた。リバースカードオープン、禁じられた聖槍! エンドフェイズまで選択したモンスターの攻撃力を800ポイントダウンさせ、このカード以外の魔法・罠の効果を受けなくする。俺はキメラテック・オーバー・ドラゴンを選択ッ!」
【禁じられた聖槍】
速攻魔法カード
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は800ポイントダウンし、
このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない。
「これで奈落の落とし穴の効果は不発に終わる」
「それはどうかな。こちらも速攻魔法、禁じられた聖杯を発動! モンスターを一体選択、そのモンスターの攻撃力を400あげ、効果をこのターンの間まで無効化する。チェーンにより逆順処理により、後に発動した禁じられた聖杯の効果が先に適用され……キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は400ポイントとなる! 更にお前の禁じられた聖槍が適用され攻撃力800ダウン!」
攻撃力16000のキメラテック・オーバー・ドラゴンが一気に攻撃力0の弱小モンスターに早変わりした。
幾らこのターン、魔法・罠の効果を受け付けないと言ってもこれでは壁にもならない。
「まだまだァ! 魔法カード、次元融合! 2000ポイントのライフを支払いお互いに除外されたモンスターを場に特殊召喚する! 現れろ三体のサイバー・ドラゴンッ! プロト・サイバー・ドラゴンッ!」
【次元融合】
通常魔法カード
2000ライフポイントを払う。
お互いに除外されたモンスターをそれぞれのフィールド上に可能な限り特殊召喚する。
場に三体のサイバー・ドラゴンが勢ぞろいする。更に亮の手札には封印の黄金櫃により手札に加えたパワー・ボンドのカードがある。
「いくぞ。俺はパワー・ボンドを発動! 今こそ降臨しろ、我が魂! 我が信念! 我が命の化身! サイバー・エンド・ドラゴンッ!」
【サイバー・エンド・ドラゴン】
光属性 ☆10 機械族
攻撃力4000
守備力2800
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
ここまでのデュエルで召喚しなかった時などないのではないか、そう思わせるほど常に共にあったサイバー・エンド・ドラゴンが主の前に降り立つ。
攻撃力はパワー・ボンドの効果により8000ポイント。彼のオベリスク、オシリスといった神々でさえこの攻撃力の前には膝を屈しよう。
「場のプロト・サイバー・ドラゴンとキメラテック・オーバー・ドラゴンを融合しキメラテック・フォートレス・ドラゴンを召喚! 総攻撃を仕掛ける! サイバー・エンド・ドラゴンで邪帝ガイウスを攻撃! エターナル・エヴォリューション・バーストッ!!」
「まだだ……まだ超えられると思うな。罠カード、次元幽閉! 相手が攻撃してきた時、その攻撃モンスターをゲームより除外する」
邪帝ガイウスの前に次元の歪が現れ、それがサイバー・エンド・ドラゴンを呑み込む。
幾ら神をも超える攻撃力をもとうとサイバー・エンド・ドラゴンに罠に抗う力はない。為す術もなくそれに呑まれるしかなかった。……………はずだった。
「な、に?」
けれど田中先生が目にしたのは次元に呑まれるサイバー・エンド・ドラゴンではなく、亮の前に並ぶ三体のサイバー・ドラゴンだった。
「貴方ならサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃を回避できると思っていた。これが……俺の本当の切り札。速攻魔法、融合解除。サイバー・エンド・ドラゴンの融合を解除し三体のサイバー・ドラゴンを墓地より召喚した。
田中先生、貴方は強さを求めてプロリーグをやめて旅に出たと言った。俺もデュエリスト、強さを追い求める気持ちは俺にもある。その果てに丈や吹雪たちと道を違える日がくることもあるかもしれない。
だが俺は一人ではない。孤高であっても孤独ではない。何故ならば俺には常にサイバー・ドラゴンがいるからだ! 俺は超えてみせる。パーフェクトという限界を求めず、超え極限を超えた先へ辿り着く! これが最後の力だ! 速攻魔法、リミッター解除! 場の機械族モンスターの攻撃力を倍にする!!」
三体のサイバー・ドラゴンの攻撃力は2100。それの二倍なのだから攻撃力は4200だ。
チェックメイトを告げるように亮は振り上げた手を落とした。
「三体のサイバー・ドラゴンの一斉攻撃、トライアングル・エヴォリューション・バーストッ!」
同時に放たれる三つの攻撃はまるで亮と丈と吹雪。三人常に共にあった学園生活を象徴するものだった。
三つの閃光が三体の帝王を貫き、暴帝の命を断つ。
田中先生のデュエルディスクが0を刻んだ。
「……これだからデュエリストというのは。どれだけ若くても馬鹿に出来ない。この爆発力、常識を超えた強さこそが……私が、俺が敗れた力そのものだったか。
見事なデュエルだった。丸藤亮、卒業おめでとう」
自然と会場中から拍手が鳴り始める。喝采の中、亮は握手を求めたが田中先生は応じる背中を向けてしまう。
「私は歓声や拍手というやつが大の嫌いでね。失礼する」
最後まで嫌味たっぷりに、田中先生は背中を向けると行ってしまった。
「先生! 最後にもう一つ、なんで貴方はレベルの高い高等部ではなく中等部に? 貴方の実力なら高等部の教師になるのも楽だったでしょう」
「ん? 私は歩いて五分以内に24時間営業のコンビニがある場所にしか住まない主義なんだ」