宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第76話  帝王たちの戦い

丸藤亮 LP4000 手札4枚

場 なし  

伏せ なし

 

田中  LP4000 手札5枚

場 風帝ライザー

伏せ なし

 

 

 

 田中先生の場には攻撃力2400の風帝ライザー。リバースカードはセットされていないため、次のターンに黄泉ガエルをコストに再び帝モンスターを召喚できる用意が整っている。

 リバースカードがなくモンスターが一体だけしかいないというのは亮にとって寧ろ喜ばしいことのはずだ。なにせクリボーのような手札誘発がなければ確実にサイバー・ドラゴンの融合体の火力をぶつけることができるのだから。

 しかし相手が相手だけに喜び以上のプレッシャーがある。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 ドローしたカードは残念ながらサイバー・ツイン・ドラゴンやサイバー・エンド・ドラゴンを召喚することを可能にしてくれるカードではなかった。

 少しばかり不味い状況だ。田中先生の手札如何によっては次のターンにでもチェックをかけられる恐れがある。

 

(あぁ、そんなのはいつものことか)

 

 デュエルにおいて本当の意味での代わり映えもない連続は存在しない。どれだけ優位に立とうと、どれだけの劣性にあろうと、ドローカード一枚で全てが引っ繰り返るものだ。

 亮はプロリーグのデュエルで手札0枚でライフ50、相手の場には最上級モンスターとリバースカードが五枚づつという状況から、ドローカード一枚で引っ繰り返した奇跡の逆転劇すらお目にかけたことがある。

 

(手札がないなら……引き寄せるのみ)

 

 亮はカードをデュエルディスクにおく。

 

「俺はモンスターをセット。そしてカードを三枚セット。ターン終了だ」

 

「私のターン、ドローフェイズ終了後のスタンバイフェイズ。私は墓地より黄泉ガエルを蘇生させる」

 

 田中先生の手札は合計6枚。あれだけあれば帝モンスターの一体くらいは既に持っているだろう。仕掛けてくるか。

 亮の思考を読んでいたかのように田中先生は一枚のカードを手札から抜き取った。

 

「私は黄泉ガエルを生け贄に捧げ、氷帝メビウスを攻撃表示で召喚」

 

 

【氷帝メビウス】

水属性 ☆6 水族

攻撃力2400

守備力1000

このカードが生け贄召喚に成功した時、

フィールド上の魔法・罠カードを2枚まで選択して破壊できる。

 

 

 風の帝たる風帝ライザーに続き降臨するのは、氷の甲冑に身を包む氷の皇帝。氷帝メビウスだった。

 二体の帝が並ぶとその様子は壮観である。周りの観客たちが感嘆の声をあげたのが亮の耳にも届いた。しかし観客は呑気でいいが、対戦者である亮は感心ばかりしていられない。

 なによりメビウスは全帝モンスターの中で唯一、ノーリスクで二枚以上のカードを破壊する効果をもっているのだ。

 

「生け贄召喚に成功した時、メビウスのモンスター効果が発動。フィールド上の魔法・罠カードを二枚まで破壊できる。フリーズ・バースト」

 

 氷の礫が襲い掛かり亮のセットカードを二枚破壊した。二枚以上のリバースカードがあれば一体の生贄で確実に二枚を破壊する。これがメビウスの恐ろしさだ。ミラーフォースのような攻撃誘発の罠などには天敵といっていい。

 

「破壊したカードは……ほほう。パワー・ボンドと融合か。明らかにセットしておくべきカードではないな。となると……魔法カード、抹殺の使徒を発動」

 

 

【抹殺の使徒】

通常魔法カード

フィールド上に裏側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊し、ゲームから除外する。

それがリバース効果モンスターだった場合、お互いのデッキを確認し、

同名カードを全てゲームから除外する。

 

 

「セットしたモンスターを一体破壊し除外する……」

 

「くっ……!」

 

 亮のセットしたモンスターが真っ二つに引き裂かれた。そして表側表示になったモンスターはメタモルポット。

 

「メタモルポットはリバース効果モンスター。よって抹殺の使徒の第二の効果。互いのデッキを確認し同名カードを全て除外する。

 しかしメタモルポットは制限カード。よって君のデッキにはもうないが、私のデッキには存在する。私は私のデッキよりメタモルポットを除外する」

 

 一旦デュエルディスクからデッキを引き抜いた田中先生は、山札からメタモルポットのカードを取り出すと除外ゾーンに置く。

 これで相手のメタモルポットを失わせることが出来たが、この状況では亮にとってなんの救いにもなりはしない。

 

「バトルフェイズ。氷帝メビウスで相手プレイヤーをダイレクトアタック。アイス・ランス!」

 

「罠発動! 攻撃の無力化、バトルを無効にしてバトルフェイズを終了させる」

 

 

【攻撃の無力化】

カウンター罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 

 

 氷帝メビウスの攻撃が亮の前に発生した渦に呑まれ消失した。

 間一髪のところだった。もしこのカードが無事でなければ合計4800のダメージを受けて敗北が決定していたところだ。

 

「……攻撃の無力化を予めセットしておきながら、敢えて二枚のリバースカードを次の自分のターンではなくメタモルポットと同時に伏せたのはメビウスを警戒してのことか。慎重なことだ」

 

「俺の目指すプロリーグに嘗て名を馳せた人物を相手にしているんです。慎重にもなりますよ。俺のターン、ドロー!」

 

 少しは運が向いてきたらしい。パワー・ボンドと融合を失ったためサイバー・エンドを召喚することはできなくなっているが、ドローソースを引き当てることができた。

 

「俺は天空の宝札を発動、手札より光属性天使族を除外して二枚ドローする。ただし俺はこのターン、特殊召喚とバトルを封じられる。シャイン・エンジェルを除外して二枚ドロー」

 

 

【天空の宝札】

通常魔法カード

手札から天使族・光属性モンスター1体をゲームから除外し、

自分のデッキからカードを2枚ドローする。

このカードを発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚する事ができず、

バトルフェイズを行う事もできない。

 

 

 バトルも特殊召喚も出来ない為、速効性を捨てることになるがデュエルモンスターズは兎に角ドローすればドローするだけ可能性が広がる。

 事情がなければドローソースはバンバンと使うのが吉だ。

 

「モンスターとカードを一枚セット、ターン終了」

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズ時に黄泉ガエルを蘇生させ……強欲な壺、デッキよりカードを二枚ドローする。そして黄泉ガエルを生け贄に炎帝テスタロスを召喚。攻撃表示だ」

 

 

【炎帝テスタロス】

炎属性 ☆6 炎族

攻撃力2400

守備力1000

このカードが生け贄召喚に成功した時、

相手の手札をランダムに1枚捨てる。

捨てたカードがモンスターカードだった場合、

そのモンスターのレベル×100ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

 風・氷と続いて次は炎だ。全身を西洋騎士を思わせるフルプレートで包み、手から灼熱の焔を発している姿は正に炎の皇帝だ。

 

「炎帝テスタロスの効果は相手手札を一枚捨てさせるハンデス。だが俺の手札は0、よって効果は発動できない」

 

「理解しているとも。今はそれで十分だ。私は炎帝テスタロスでセットモンスターを攻撃、灼熱鬼神斬ッ!」

 

 炎帝が手から炎で構成された大剣を現出させる。煌々と輝き空気を燃やす炎剣は幻想的でありながら見るものに恐怖心を植え付けるだろう。

 テスタロスは炎の剣で十文字にセットモンスターを引き裂いた。

 

「セットしていたモンスターはサイバー・ラーバァだ。効果によりデッキからサイバー・ラーバァを守備表示で召喚」

 

 

【サイバー・ラーバァ】

光属性 ☆1 機械族

攻撃力400

守備力600

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが攻撃対象に選択された時、

このターン戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

自分のデッキから「サイバー・ラーバァ」1体を

自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 サイバー・ドラゴンの蛹のようなモンスターはステータスこそ弱小だが、その身を挺してプレイヤーを守る。

 こういう時は本当に頼りになるカードだ。

 

「ならば続いて氷帝メビウスの攻撃」

 

 二枚目のラーバァが氷柱が突き刺さり破壊される。

 

「サイバー・ラーバァのモンスター効果、三体目のサイバー・ラーバァを守備表示で召喚」

 

「こちらもモンスターはまだいる。風帝ライザーでサイバー・ラーバァを攻撃」

 

 三体目のサイバー・ラーバァは風の刃により切り裂かれた。しかしこれで攻撃モンスターは全て攻撃したことになりバトルは終了する。

 

「上手く回避しつつデッキを圧縮したか。しかし防戦一方とはカイザーの名が泣くな。それとも悶々とサイバー・エンド・ドラゴンを召喚する準備でも整えているのか?」

 

「………………」

 

「まぁいい。私はターンエンドだ」

 

「俺のターン。一時休戦を発動、互いのプレイヤーは一枚カードをドローする。そして次の相手ターン終了時まで互いのプレイヤーが受ける全てのダメージは0になる」

 

 

【一時休戦】

通常魔法カード

お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。

次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 

 

 これでまた1ターン、時間を保たせた。田中先生にもドローを許し、手札を増やすことになるが止むを得ないだろう。

 

「カードを一枚セット、ターンエンド」

 

「私のターン、黄泉ガエルを蘇生して……邪帝ガイウスを攻撃表示で召喚する」

 

 

【邪帝ガイウス】

闇属性 ☆6 悪魔族

攻撃力2400

守備力1000

このカードの生け贄召喚に成功した時、フィールド上に存在するカード1枚を除外する。

除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、

相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

 

 

 風帝ライザーと同じく帝モンスターでも頭一つ飛び抜けた性能をもつ帝モンスター、邪悪なる皇帝。邪帝ガイウスが現れた。

 邪帝ガイウスは腕から闇の波動を発しながら、亮を見下ろす。

 これで帝の中で邪、風、氷、炎の帝が揃ったこととなる。これで地帝がいれば風林火山の発動条件が揃っていたところだ。

 

「邪帝ガイウスの効果、生け贄召喚に成功した時にフィールドのカード一枚を除外する。バーン効果は今は色々な意味で関係はないがね。デス・ヘイル・リジェクター」

 

 亮の伏せていたカードのうちミラーフォースがゲームから除外される。

 一発逆転のカードを消し去った田中先生は口元を釣り上げた。

 

「さて、これで追い詰めたな。一時休戦の効果で攻撃しても無意味なのでしないが……君の手札は0枚。所謂、絶体絶命の窮地というやつだ」

 

「手札は0枚だがライフはまだ1ポイントたりとも失っていない。尤もそれは貴方も同じですが」

 

「ライフなどものの数ではない。デュエルモンスターズにおいてより重要となるのはライフではなく手札コスト。手札0枚とはそれだけで絶望的だ。ましてやリバースカードが一枚ではな」

 

「……………」

 

「私は更にカードを二枚セット、ターンエンドだ」

 

「俺のターン」

 

 確かにこのままでは亮の負けだろう。伏せているもう一枚のカードもこの状況ではなんの役にも立ちはしない。

 しかも田中先生は黄泉ガエルの蘇生効果を捨ててリバースカードを二枚もセットしてきた。となればあの二枚は亮の逆転のカードを封じるカードに違いない。

 どちらにせよ次のドローでどうにかしなければ勝ち目はないだろう。

 

「ドロー!」

 

 そしてデッキは応えてくれた。

 

「光の護封剣を発動! 相手は3ターンの間、攻撃を封印される」

 

 

【光の護封剣】

通常魔法カード

相手フィールド上のモンスターを全て表側表示にする。

このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。

このカードがフィールド上に存在する限り、

相手フィールド上のモンスターは攻撃宣言できない。

 

 

 天空より三つの光剣が落ちてきて、帝モンスターたちの前に立ち塞がる。これでもう帝は獲物を前にして攻撃を封じられた。

 後は田中先生の手札に光の護封剣を除去するカードがないことを祈るしかない。

 

「ターンエンドだ」

 

 この3ターン、それが勝利のカギとなる。


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