宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第71話  本当の強さ

バクラ LP3200 手札3枚

場 バトルフェーダー

 

宍戸丈 LP2000 手札3枚

場 カオス・ソルジャー -開闢の使者-

伏せ 一枚

魔法 冥界の宝札

 

 

 

 邪神アバターをエクスチェンジで奪取したことにより、アバターの再臨という最悪の事態だけはどうにか避けられた。

 他の二体の邪神も強力ではあるがアバターほどの無敵性はない。最上位の邪神をバクラの戦術から排除できた意義は大きいといえるだろう。

 だがアバターに劣るといっても残る二体が強力無比なポテンシャルを秘めているのは動かしようのない事実。決して油断は出来ない。

 

「俺様のターン。カードドロー。俺様は運命の宝札を発動、サイコロをふり出た目の数だけカードをドローし、その後同じ枚数だけカードを除外するぜ。運命のダイスロール!」

 

 

【運命の宝札】

通常魔法カード

サイコロを1回振る。出た目の数だけデッキからカードをドローする。

その後、同じ数だけデッキの1番上からカードをゲームから除外する。

 

 

 バクラはサイコロに自分の魂を宿して、好きな目を意図的に出させるというイカサマを仕組んだことがある。けれど魂を物質に埋め込むパラサイトマインドを可能にする千年リングが既になく、サイコロもソリッドビジョンによるものである以上、なにかイカサマめいた事をする事は出来ないだろう。

 それにバクラ――――正しくは操られているキースの腕に装着されたブラックデュエルディスクにはイカサマ防止機能がある。

 

「出た目の数は3。よって俺様は三枚ドローし、デッキの上から三枚ゲームより除外する。更に手札断殺を発動! 互いのプレイヤーは手札を二枚墓地へ送り、二枚ドローする。

 俺様が墓地送りにするのはパーフェクト機械王とテメエの堕天使アスモディウスだ」

 

「……………」

 

 予想通り、堕天使アスモディウスを捨ててきた。唯でさえ邪神を筆頭に最上級モンスターの多いデッキだ。特にシナジーもないアスモディウスを手札に留めておくメリットはバクラにはない。

 トークン精製能力を鑑みれば完全に役立たずという訳でもないだろうが、やはり重いデッキをこれ以上、重くするほどの価値はないといえる。

 丈も手札にあるレベル・スティーラーともう一枚を墓地へ送った。

 

「オレ様はイエロー・ガジェットを召喚。こいつの効果で手札にグリーンをサーチし、魔法カード。デビルズ・サンチュクアリを発動。フィールドにメタルデビルトークンを呼び出す」

 

 

【デビルズ・サンクチュアリ】

通常魔法カード

「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を

自分のフィールド上に1体特殊召喚する。

このトークンは攻撃をする事ができない。

「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、

かわりに相手プレイヤーが受ける。

自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。

払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

 

 

 メタルデビル・トークンとイエロー・ガジェットが召喚される。が、問題はそこではない。

 

「三体のモンスターが並んだ!?」

 

 バクラの場には三体のモンスター。通常召喚権は行使してしまっているものの邪神降臨のための生贄が揃ってしまった。

 仮にバクラの手札に邪神が既に眠っているとすれば、次のターン、生贄要因を減らせなければ邪神が降臨してしまう。いや、そうでなくともあのカードさえあれば次のターンを待たずとも邪神を召喚することは出来る。

 丈の抱く最悪の想像は的中してしまう。

 

「クククッ。ヒャハハハハハハハハハハハハハ! オレ様の場には生贄が揃った。これからテメエの努力を台無しにしてやるぜ。魔法カード、二重召喚! このターン、俺様はもう一度通常召喚を行うことが出来る!」

 

「ッ!」

 

 血の代償のように永続効果ではないが、通常召喚権を得る魔法カード。このカードをこのタイミングで発動したということは十中八九バクラの手札には神がある。

 

「そして……俺様は三体のモンスターを生贄に捧げ、フィールドに再臨せよ。恐怖の根源! 邪神ドレッド・ルートッ!」

 

 

【THE DEVILS DREAD-ROOT】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/4000

DEF/4000

Fear dominates the whole field.

Both attack and defense points of all the monsters will halve. 

 

 

 再臨する邪神ドレッド・ルート。一回イレイザーにより滅ぼされても、底が深すぎて覗き見ることすら出来ない力は健在だった。

 恐怖の根源という名を与えられし破壊神に対応する邪神。その重圧によりカオス・ソルジャーの攻撃力は半減する。

 想定しうる限り最悪の邪神の登場だ。

 邪神イレイザーならまだ攻略法は残されていた。自分の場に最低限のカードしか並べなければ、邪神イレイザーの攻撃力は0。戦闘破壊する場合でも最低で1000ポイントまで落とすことができる。その後、全体破壊がまっているが、強力な最上級モンスターを主軸としたビートダウンが持ち味の丈のデッキなら攻略は比較的容易な部類だ。

 けれどドレッド・ルートはそうではない。邪神ドレッド・ルートを戦闘破壊しようと思えば攻撃力8000という数値を叩きださなくてはならない。こんな数値、亮のサイバー・エンド・ドラゴンでもなければ易々と出せる数ではないのだ。

 

「くっ……! この瞬間、罠カード! 和睦の使者を発動! このターン、俺のモンスターは戦闘では破壊されずダメージも0となる!」

 

 

【和睦の使者】

通常罠カード

このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける

全ての戦闘ダメージは0になる。

このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

 

 

 故にここは防御カードで防ぐしかない。丈の場にいるカオス・ソルジャーはデュエルモンスターズ界最強剣士と謳われたカードだが、邪神を前にすれば悲しいまでに無力だ。

 強力な除外効果も邪神相手にはまるで効果がない。

 

「このターンは凌いだか。だがそう何度も都合の良い防御カードを引き当てられるかな。俺様はカードを一枚セットしてターンエンド」

 

 再臨したドレッド・ルートは恐ろしいが、一度は倒したのだ。どうにか良いカードを引き当てることができれば突破できる可能性はある。

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 手札は可能性というのならドローカードは未来だ。けれど未来がキーカードでないのだとすれば可能性もまた泡と消える。

 丈のドローしたカードでは邪神ドレッド・ルートを倒すことは出来ない。

 

(……ここはカオス・ソルジャーを守備表示にしてターンを凌ぐしか)

 

 幸いドレッド・ルートは一体だけだ。ここに更にモンスターを守備表示で召喚すれば上手くいけば数ターン持ち堪えることもできる。

 攻撃力4000という元々の攻撃力としては最高クラスのステータスをもち、モンスター効果と罠を受け付けず魔法も1ターンしか影響のない邪神。しかも自身を除いたモンスターのステータスの悉くを半減させてしまうため戦闘破壊はほぼ不可能。

 こんなモンスターを倒せるカードなどそうそうありはしない。

 

「本当に、そうか?」

 

 バクラが丈の心中を読んでいるかのように声をかけてきた。

 

「テメエの手札の中には、ドレッド・ルートを倒せるカードがあるんじゃねえのか?」

 

 言葉に誘われるがまま、丈の視線は手札にある一枚のカードに釘づけとなった。

 邪神アバター。

 エクスチェンジで丈がバクラの手より奪取した最上位の邪神。

 このカードを使えば邪神ドレッド・ルートを倒すことなど簡単だ。アバターのステータスはフィールドの最も攻撃力の高いモンスターの攻撃力に+1した数値となる。

 最上位の神故にドレッド・ルートの効果もまるで意に介さず、邪神アバターはドレッド・ルートを倒すだろう。

 そして丈の手札にはアバターを召喚するためのカードも用意されていた。

 

(……駄目だ、こんなカードを使うのは!)

 

 邪神アバターは大邪神ゾーク・ネクロファデスを三つに分けて創造されたカード。使用者の魂を食い潰し、邪念で埋め尽くす悪魔の具現である。

 幾ら勝つ為とはいえ大邪神の力を使うなど間違っている。

 このカードは本来なら永久に封じるべきもので、あってはならないものなのだ。

 

――――本当にそうなのだろうか?

 

 嘗て亮はI2カップで言った。俺はこの地上に存在するあらゆるカードをリスペクトしている、と。

 そしてここより遥か先の未来において一人のデュエリストは、どんなカードでも存在する以上、必要とされる力があると言った。

 三邪神は闇の力を秘めたカードである。そこは疑いようもない。

 だが、だからといってただ単に悪と決めつけ拒絶し存在を否定するのが正しいのか。

 邪神を悪というのなら、邪神に敵対する人間は『正しい』のか。

 丈は自分のことを悪人であるとなど思ってはいない。これでも人間として正しくあろうと生きてきたつもりだ。けれど自分のことを完全なる聖人君子であり絶対的善人であるとなど考えてはいない。

 人間ならば誰だって善性と悪性をもっている。もしも悪性の一切を排除して、善性しかもたない人間がいたとすれば、それは人間ではなく、もっと悍ましい゛なにか゛だ。

 三幻神に対する抑止力としてデザインされ、創造主に誕生を拒絶された三邪神。

 

「――――――…………………」

 

 気分は不思議と晴れやかだった。雲一つない晴天が胸に広がっている。

 

「俺は手札より魔法カード、未来への想いを発動。墓地のレベルが異なる三体のモンスター、仮面竜、黒竜の雛、ミンゲイドラゴンを特殊召喚する」

 

 

【未来への思い】

通常魔法カード

自分の墓地のレベルが異なるモンスター3体を選択して発動できる。

選択したモンスター3体を特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は0になり、効果は無効化される。

その後、自分がエクシーズ召喚を行っていない場合、

このターンのエンドフェイズ時に自分は4000ライフポイントを失う。

また、このカードを発動するターン、

自分はエクシーズ召喚以外の特殊召喚ができない。

 

 

 一気にモンスターが丈の場に三体並んだ。丈の墓地では効果を発動するためのモンスターが揃っていなかったが、吹雪の墓地にはモンスターが眠っている。

 バクラは発動した魔法カードに目を見開いた。

 

「未来への思いだと!? なんだそのカードは……!」

 

「知らないのも無理はない。これはI2カップの賞品として大会入賞者に贈られるオリジナルパックに封入されていたカード。ペガサス会長曰く一般には出回っていないカードが三足早く入っているそうだからな。

 未来への思いは墓地のモンスターを三体場に特殊召喚するカードだ。ただそのデメリットは大きい。このカードを発動すれば最後、俺は確実に4000のライフを失い特殊召喚も封じられる。そしてこのカードで特殊召喚したモンスターの攻撃力は0となり効果も無効化される。中々リスキーなカードだ」

 

「……オリジナルパックか。粋な真似してくれるじゃねえか。だが三体の生贄を確保したってことは」

 

「ああ、俺はこのターン。神を召喚する!」

 

「なるほどね。最後は神頼みってことかい」

 

 邪神召喚を宣言した丈を見て、バクラは口元を釣り上げた。アバターを召喚するとは即ち丈の精神がバクラに乗っ取られることを意味する。そうすればデュエルの勝敗など関係なくバクラの勝利が確定するだろう。

 

「違う。……俺は神に頼るわけじゃない。神と共に戦うだけだ!」

 

 本当に強さとは『悪』を倒そうとする心ではない。悪を倒したところで悪は消え去りはしないのだ。

 悪を本当に消し去る唯一の道、そして本当の強さとは――――――悪を許す心だ。

 

「俺は三体のモンスターを生贄に捧げる! 創造主に誕生を拒絶された邪神、お前達がこの世の誰からも疎まれるなら、俺がお前達の居場所になる! 誰もお前達がこの世に存在することを否定するのなら、俺がお前達を肯定する。

 未来永劫、どれだけの時間が流れようとお前達を担ってやる。だから力を貸せ! 降臨せよ、邪神アバター!」

 

 誰からも拒絶され憎まれ、創造主にすら否定された黒い太陽が、暖かな光を纏いフィールドに顕現した。

 

 

 

 

 空は夜よりも黒い雲で覆われている。もしかしたらこのまま永久に晴れないのではないか、という懸念すら抱かせるほどの深い闇。

 それを荒野にたつ一人の人物は見上げていた。

 数年前は少年と呼ばれる年齢で、あどけなさを残していた顔も今では多くの苦難を乗り越えた精悍さが色濃く表れている。もう彼は少年ではなく青年と呼ぶのが正しいだろう。

 

「そうか……少し焦ったけど、大丈夫そうだな。誰か勇気あるデュエリストが、なんとかしてくれたみたいだ」

 

 青年は何もいない虚空に向かって呟く。だが他人にはその姿を視認できないだけで彼の隣には彼以外のものが存在していた。

 魔力(ヘカ)を用いてその隣に立っていた存在が実体化する。

 

『はい。一時は肝を冷やしました。しかしこの気配は嘗て我等が相対したゾークそのもの。それに……何故でしょう。アクナディン様……いえ闇の大神官の気配も感じた』

 

『そうなんですかお師匠様? 私にはゾークの気配しか感じられませんけど……』

 

『お前は修行が足らんのだ。そんなことでマスターをお守りできると思っているのか』

 

『ごめんなさーい!』

 

 青年の左右に出現したのはブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールの精霊そのものだ。

 二人は三千年前ファラオを守護した神官の魂を宿した精霊で、現代ではファラオの魂を宿したデュエリストを守護する役目を帯びている。

 

「二人とも。ブラック・マジシャン・ガールの修行不足よりも、今はこの黒い雲をどうにかする方が先決だよ。問題の大本は僕達が行かなくても大丈夫そうだけど、この雲を放置していたら被害が出るかもしれない」

 

『分かりました。マスター、それでは我々が』

 

「頼むよ」

 

『了解でーす。それじゃぱぱっとやっちゃいますね!』

 

 マジシャンの師弟が実体化したまま黒い雲に突入していく。精霊となっても二人は地上で最上位の魔術師達だ。こういう時は本当に頼りになる。

 そして青年――――史上最強のデュエリスト武藤遊戯は三枚のカードを天に掲げる。

 

「二人に力を貸してあげて。オシリスの天空竜、オベリスクの巨神兵、ラーの翼神竜!」

 

 三枚のカードから赤、青、黄の三つの魂が飛び出していく。三千年前ファラオに力を貸した三体の神。

 三幻神と二人の魔術師たちが協力すれば、この暗雲など物の数ではないだろう。

 

「後は任せたよ」

 

 遊戯は顔も見た事のない、だが確実に今を戦っているデュエリストにエールを送った。

 

 

 

 

「くそっ! なにがどうなってやがる……! 邪神アバターが俺様の制御を離れやがった、だと……」

 

 バクラの体は崩壊しつつあった。本体を失い弱り果てたバクラは三邪神を核にしてこの世に現出していた。

 その大本の力である邪神アバターが宍戸丈の制御下に入り、デッキで眠るイレイザーまでもがそれに呼応したことでバクラの力が急激に衰えて行っているのである。

 もはやバクラの体を保っているのは場にいるドレッド・ルートのみだ。

 

「冥界の宝札の効果。デッキから二枚ドローする。そして邪神アバターの攻撃力はフィールドで最も攻撃力の高いモンスターの攻撃力に+1した数値となる。よって邪神アバターの攻撃力は4001だ」

 

 アバターがドレッド・ルートの現身へと姿を変化させる。

 ドレッド・ルートのあらゆる生命の力を半減させる力もアバター相手には無力だった。

 

「まさか……こんな結末とはな。始めっから宍戸丈に靡いていたイレイザーは宍戸丈を殺すまでデッキに投入するべきじゃなかったってことか」

 

 憎々しげに自分と同じ大邪神の欠片でありながら、自分の手から離れた邪神アバターを睨む。

 しかしこれまで悪を否定し、悪を断罪しようとする人間とは何度も戦ってきたが、よもや大邪神なんて世界を呪うしか能のないものを許そうとする人間と戦うのは初めての経験だった。

 これが邪神イレイザーが宍戸丈を担い手として選んだ理由なのだろう。

 

「バトルフェイズ。邪神アバターでドレッド・ルートを攻撃、フィアーズノックダウンッ!」

 

「だがな。俺様は許しなんざ求めてねえんだよ! 迎撃しろ、邪神ドレッド・ルートッ!」

 

 同じ姿をした邪神同士が激突する。ドレッド・ルートは格上の神を相手に執拗に噛みついたが、攻撃力1の壁は途方もなく厚い。

 邪神アバターの拳がドレッド・ルートの心臓を撃ち抜いた。

 

「ごふっ!」

 

 ダメージが伝わり、バクラは血を吐きだす。アバターとイレイザーの二体の制御が丈に移った今、ドレッド・ルートはバクラの魂そのものだった。

 それが壊されたということは、バクラが肉体を維持できなくなるという事でもある。

 

「…………ああ、くそ」

 

 この世に悪性しかもたない人間も善性しかもたない人間もいない。

 盗賊王バクラの魂は間違いなく悪だ。これは動かしようもない一つの明確なる答えである。

 けれどもし彼の村が千年アイテムのための生贄になどされることがなく、もしも彼が温かい家族に囲まれて育ったのならば――――彼は果たして悪となったのだろうか。

 

「まだだ!」

 

 くわっとバクラの閉じかけた両眼が開かれた。バクラはキースとの繋がりを完全に切断すると、そのまま丈の体を右手で貫いた。

 

「な……にを……」

 

「クククククッ。育ちの良い王様と違って、俺様は泥啜るのは慣れてんだよ。往生際が悪いことは理解してるが、生きてる限り足掻かせて貰うぜ」

 

 バクラは丈の体から魂の一部を抜き取ると、それを喰らい新たなる核とすると何処かへと消え去る。

 闇のゲームの根源たるバクラの消失により、闇に囚われていた亮と吹雪が解放されて元に戻ってきた。


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