キース LP3200 手札2枚
場 THE DEVILS DREAD-ROOT、THE DEVILS ERASER、THE DEVILS AVATAR
罠 血の代償
吹雪 LP4000 手札4枚
場 セットモンスター
伏せ 一枚
丸藤亮 LP4000 手札1枚
場 サイバー・ヴァリー
伏せ なし
宍戸丈 LP4000 手札3枚
場 アスモトークン、ディウストークン
「俺のターンだ……」
ドローしたカードがこの状況では使えないものだったのだろう。キースはドローカードから直ぐに視線を外すとフィールドを見比べる。
誰を攻撃するかを吟味しているのだろう。三体の邪神を支配するキースはこのデュエルの流れをも支配している。ゲームをどう進行するかの決定権もキースにあるといって良かった。
暫く考えていた様子のキースだったが、心を決めたのか口元から歯を覗かせた。
「ククククッ。そうビビるなよ……別にこのターンでテメエ等全員をやろうってんじゃねえんだ」
こちらの警戒など見越していると言わんばかりにキースが言った。
「心配するなよ。『今』は誰も死なねえよ、俺の思いもよらねえ馬鹿をテメエ等の誰かがしねえ限りはな。俺はメインフェイズからバトルフェイズへ移行。
最初に邪神イレイザーで宍戸丈、お前の場のアスモトークンを攻撃するぜ」
アスモトークンはディウストークンとは違い戦闘耐性はない。カード効果による耐性はあっても邪神の攻撃を防ぐ力は何一つ持っていないのだ。
邪神の標的にされたアスモトークンはいつもよりも小さく見えた。それは決してただの錯覚ではないだろう。
「イレイザーの攻撃、ダイジェスティブ・ブレス!」
丈たち三人のフィールドにカードは五枚。よって5×1000÷2=2500。その力はアスモトークンをあっさりと消し飛ばした。
「このまま連撃といきてえが残る一体ディウストークンは戦闘では破壊されねえ効果をもっている。……たっく面倒臭ぇ。だからよ、今度はテメエだ! レッドアイズ使う小僧!」
「……っ! くっ……」
「ドレッド・ルートでセットモンスターを攻撃、フィアーズノックダウン!」
キースの狙いが吹雪へ移行する。吹雪の場にはセットモンスターが一体だけ。けれどリバースカードが一枚ある。
吹雪ほどのデュエリストが邪神の攻撃に対してなんの準備もしていないとは考えづらい。恐らくはあのセットモンスターかリバースカードはなにか邪神の攻撃を回避しうるカードのはずだ。
果たしてその予測は正しかった。
「僕がセットしていたカードは仮面竜だ。仮面竜が戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、モンスター効果が発動。デッキより攻撃力1500以下のドラゴン族モンスターを特殊召喚することが出来る」
【仮面竜】
炎属性 ☆3 ドラゴン族
攻撃力1400
守備力1100
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
吹雪はチラリと隣のフィールドを流し見する。
「……僕はデッキよりミンゲイドラゴンを守備表示で召喚する」
【ミンゲイドラゴン】
地属性 ☆2 ドラゴン族
攻撃力400
守備力200
ドラゴン族モンスターをアドバンス召喚する場合、
このモンスター1体で2体分のリリースとする事ができる。
自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
このカードを自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
この効果は自分の墓地にドラゴン族以外のモンスターが存在する場合には発動できない。
この効果で特殊召喚されたこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。
仮面竜がリクルート出来るモンスターには仮面竜自身も含まれる。仮面竜で仮面竜をリクルートすることで壁モンスターを維持することができるのだ。
それを捨て敢えてミンゲイドラゴンを召喚したということは、キースの次の行動を見越しての戦術と次への布石。
「更に! 僕の場のドラゴン族モンスターが破壊された時、僕はこのカードを発動していた。速攻魔法、奇跡の逆鱗! 自分の場のドラゴンが破壊された時、デッキより魔法・罠カードを二枚選択し場にセットするよ」
【奇跡の逆鱗】
速攻魔法カード
自分フィールド上に存在するドラゴン族モンスターが破壊された時に発動する事ができる。
自分のデッキから魔法・罠カード2枚を選択して、自分の魔法&罠カードゾーンにセットする。
同時に防御も新たに固めてきた。あれが速攻魔法や罠カードだとしてもセットされたターンに発動できない制約故、直ぐに使うことは出来ないが、このキースのターンが終わればセットカードを使用することができる。
「ミンゲイドラゴン。ステータスは弱小だがドラゴン族モンスター召喚の場合、二体分の生贄になるダブルコストモンスター。本来なら反撃の芽を紡ぐためにも破壊しておきてえがミンゲイドラゴンには蘇生効果がある。
仮に俺が残るアバターで破壊したとしても直ぐに復活しちまうわけだ。だから……」
次にキースが狙いを定めたのは亮だった。
「その前に鬱陶しい壁モンスターを掃討しておくことにするぜ。邪神アバターでサイバー・ヴァリーを攻撃!」
「……サイバー・ヴァリーのモンスター効果。このカードが攻撃対象に選択された時、このカードを除外することでカードを一枚ドローしバトルフェイズを終了させる」
「それでいい。テメエにはそうするしか出来ねえんだからな。俺はこのままターンエンドだ」
「俺のターン」
二度目の丈のターンがやってくる。三対一の変則マッチなので自分のターンが回ってくるのは随分と遅いはずなのだが……なぜだろうか。ターンが回ってくるのがいつもよりも早い気がしてならない。
もしかしたら丈の心は隠していても三体の邪神に対してどこか恐怖心を抱いているのかもしれない。
「くそっ」
勝てない、と思っては駄目だ。心の中でそう考えれば現実のデュエルの流れで呑まれてしまう。
気を強くもたなければ邪神相手に勝つことは出来ない。
「俺は天使の施しを発動……三枚ドローして二枚捨てる」
普段は投入していない手札交換カード。それを使っても手札の内容はパッとしなかった。
それも当然といえる。丈のデッキは最上級モンスターを次々に出していくという点において亮や吹雪と同じだがその実態は大きく異なる。
丈が主力とする最上級モンスターの殆ど全てが3000のラインかそれより少し下のモンスターで、攻撃力4000クラスのモンスターは皆無といっていい。
別にデュエルは攻撃力が全てではない。亮を相手にする時はどれだけ攻撃力10000クラスのモンスターが出されようと、最上級モンスターの強力な効果を活かして何度かの勝利を掴んできた。
けれど相手はモンスター効果と罠を完全に無効にし、魔法カードすら上級スペル以外は通用しないという邪神。デッキタイプの相性が余りにも悪すぎるのだ。
(手札には最上級モンスターもいるが……今は動けない)
恐怖に萎縮したのでもない。ただ一つの導き出した結果として、この場で動くことは出来そうになかった。
下手にモンスターを出せば逆に不利となりかねない。
「俺はこのままでターンエンド」
「何もせず終わりか? ククククッ。消極的じゃねえか、少しはサイバー流の小僧を見習ったらどうだ。まぁ積極的になったところで意味なんてねえがな。
俺のターン、ドロー! 魔法カード発動、サイクロン! レッドアイズ使いの餓鬼、テメエの右のセットカードを破壊するぜ」
「サイクロン!?」
破壊されたカードは強制終了。強制終了以外の場のカードを墓地へ送ることでバトルフェイズを終了させる永続罠カードだ。
攻撃の無力化と異なりコストはあるが、永続罠故に破壊されない限りフィールドに留まり続けることができる。しかもバトルフェイズを終了させる効果のため邪神にも有効だ。
吹雪は恐らくこのカードを駆使することでターンを保たせるつもりだったのだろう。だがその吹雪の目論見は崩れ去った。たった一枚のサイクロンによって。
「強制終了か。一番ちゃらけているようで強かなこと考えるじゃねえか。このターン、がら空きのサイバー流の餓鬼に総攻撃をかけるって選択肢が俺にはある。
しかしだ。デュエルモンスターズで最重要なのは手札だ。サイバー流の餓鬼の持ち札が二枚なのに対してテメエの手札は四枚。次のターンが回ってくりゃ五枚になる。おまけに場にはミンゲイドラゴン……」
「吹雪!」
呼びかけるが吹雪は黙したまま何も答えない。いつものようにふざけた態度で笑ってはくれなかった。
ただじっと自分のフィールドを見つめ……やがて溜息をついた。
「はぁ。……ホントに……仕方ないなぁ」
遠くを見つめながら、どこか諦めるような声色で呟く。
「仕方ない? 覚悟を決めたってわけか。それなら遠慮はいらねえな。バトルフェイズへ移行! 邪神イレイザーでミンゲイドラゴンを破壊する!」
吹雪はリバースカードを発動しなかった。邪神の攻撃はミンゲイドラゴンを容赦なく爆殺する。
「この瞬間、僕はセットしていたリバースカードを発動。奇跡の逆鱗! デッキより魔法・罠カードを選択して場にセットする」
「二枚目の奇跡の逆鱗だと? だが無駄だぜ。セットしたターン、速攻魔法と罠カードは発動できねえんだからな! これで止めだ。喰らいやがれ、邪神ドレッド・ルートの攻撃、フィアーズノックダウン!」
邪神ドレッド・ルートがその巨大な体躯を動かす。攻撃が通れば吹雪の負けだ。
それを阻止するため亮が動く。
「吹雪、今……!」
「待って!」
けれど亮の助けを吹雪は拒んだ。
「攻撃誘発なら僕もある。助けは不要だよ」
自信満々に言ってみせた。亮もその言葉を聞き手札から発動しようとしていたカードを引っ込める。
直接攻撃宣言時に発動する手札誘発といえば速攻のかかしかバトルフェーダーだろう。吹雪が自分で防げるというのならばわざわざ助けを差し伸べる必要もない。
だというのに――――
最初に気付いたのは丈だった。亮の助けを断っておきながら、吹雪にはまるで手札誘発を発動させる気配がない。邪神ドレッド・ルートの鉄槌は刻一刻と迫っているのに吹雪は微動だにしないのだ。
「吹雪!?」
叫んだが遅い。吹雪は何の抵抗もしないまま邪神ドレッド・ルートの攻撃を受けると、そのまま衝撃で殻を浮かび上がらせた。
天上院吹雪LP4000→0
吹雪のライフが無慈悲にゼロを刻む。4000のダメージを受けたのだから自然なことだというのに、動揺を隠す事が出来ない。これほどまでに自然を受け入れたくないと思ったのは初めてだった。
もはや反射的だった。吹雪が吹き飛ばされた時にはもう二人の体は動いていた。デュエル中だということすら忘れて吹雪に駆け寄る。
「どういうことだ吹雪、どうして……。手札誘発があるんじゃなかったのか!?」
「…………。僕には、邪神を倒すことは、出来ない。………邪神を倒せないデュエリストに一々ターンを回してもデメリットだろう。だから――――」
それ以上、言い切ることはなかった。吹雪の体が闇に取り込まれたかと思うと、まるで蜃気楼だったかのように空気に溶けて雲散する。
何も出来なかった。何もすることが出来なかった。
自分たちの目の前で掛け替えのない友人だった天上院吹雪はこの世界から消滅した。