宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第65話  最高邪神

キース LP4700 手札3枚

場 THE DEVILS DREAD-ROOT、THE DEVILS ERASER

伏せ 一枚

罠 血の代償

 

吹雪  LP4000 手札4枚

場 真紅眼の黒竜

伏せ 二枚

 

丸藤亮 LP4000 手札5枚

場 サイバー・ヴァリー

伏せ 一枚

 

宍戸丈 LP4000 手札6枚

場 無し

 

 

 

 12000ポイントからスタートしたキースのライフはもう4700。あと700ポイント削りきれば通常の初期ライフ4000となる。

 本来なら喜ぶべきことだ。だというのにキースの場にいる二体の邪神がぬか喜びを許してくれない。二体の邪神はたかが8000余りのライフなどよりもよほど凄まじいパワーを秘めているのだから。

 

「どうした……え? I2カップ優勝者さんよ。テメエのターンだ、さっさとドローしな」

 

 ニヤリとキースが挑発してくる。

 丈の手札は六枚。常日頃なら六枚もあれば強気に攻めるものなのだが、相手の場にいる二体の邪神がそれを許してくれない。強気に攻めることはできるだろう。だが並大抵の攻めで邪神を倒すことはできない。

 猛攻をかけた挙句に邪神を倒せなければ一転して圧倒的不利となる。それだけは避けなければならない。

 蛮勇と勇気は違う。

 相手のリバースカードや戦力に構わず我武者羅に攻撃するのはただの蛮勇だ。攻める時を見計らい、それを誤らずに賭けに出る。それが勇気というもの。

 

「俺の……ターン。ドロー」

 

 邪神の威容に押されたのか手札の内容も良いものではなかった。

 

(俺の手札に邪神を倒せるカードはない)

 

 攻撃が出来ないのならば防御を固めるしかない。幸い防御に適したカードもある。

 邪神ドレッド・ルートと邪神イレイザー。どちらも強力無比なモンスターだが完全無敵の万能のカードではない。そも強力なカードは数あれど万能なカードなど一枚もない。

 その力にも抜け道はある。

 

「俺は迷える仔羊を発動! 場に二体の仔羊トークンを召喚し……二体を生贄に捧げる。俺はモンスターをセット! リバースカードを一枚セットしてターンエンドだ」

 

 不用意に場にカードを並べればイレイザーの攻撃力を際限なく上昇させることになりかねない。

 ドレッド・ルートだけでも厄介極まるというのにイレイザーの力まで上昇させるわけにはいかなかった。

 

「最上級モンスターとリバースをセットして終わりか。随分と消極的なターンじゃねえか。俺のターン、ドロー! クククククッ。理解してるか? このターンから攻撃が許されるようになる。

 バトルフェイズだ。邪神イレイザーで吹雪ィ! テメエの場のレッドアイズを攻撃するぜ。そのカードは一分一秒たりとも見ていたくねえんでな。死にやがれ! ダイジェスティブ・ブレスッ!」

 

 イレイザーの口から黒い炎が吐き出された。マグマより熱く雷光よりも鋭い黒い稲妻。

 幾ら最上級ドラゴンたるレッドアイズといえどこの攻撃を受ければ一瞬にして粉砕されるだろう。だがそれを許す丈ではない。

 

「ストップだ! そちらがバトルフェイズになった時、俺は既にリバースカードをオープンしていた!」

 

「神に罠が効かねえってのが分からねえのか!」

 

「それはどうかな。確かに神に罠は通用しない。けれど……それはあくまで神にだけだ! 俺が発動するのは威嚇する咆哮!」

 

 

【威嚇する咆哮】

通常罠カード

このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

 

 

「威嚇する咆哮、このカードは相手の攻撃宣言を封じる罠カード。このカードが対象とするのはプレイヤー自身。よって神に罠への耐性があったとしても攻撃は封じられる」

 

「助かったよ丈。神の攻撃に晒されるなんて初めてだからね。ちょっとだけ肝を冷やした」

 

「……その顔、俺が助けないでもなんとかすること出来ただろ」

 

「どうだろ?」

 

「更に! 俺の場からカードが一枚減った事により、邪神イレイザーの攻撃力が下がる」

 

 邪神イレイザーの攻守は場のカード一枚につき1000ポイント上昇させる。ドレッド・ルートによりあらゆるポテンシャルが半減されているため500の攻撃力が下がる。

 キースが忌々しげに舌打ちした。

 

「チッ。仲良子よしがァ。だが忘れてねえか。俺には通常召喚が残ってる。まだ最後の邪神は手札にねえが……やりようはある。俺はバトルフェイズを終了させるぜ。更にメカ・ハンターを召喚する」

 

 

【メカ・ハンター】

闇属性 ☆4 機械族

攻撃力1850

守備力800

 

 

 メカ・ハンター、レベル4の機械族通常モンスターとしては最大級の攻撃力を持つカードだ。

 緑色の胴体と蜘蛛のような数多の手。中々のカードだが隣に邪神がいると見劣りする。邪神の一体であるイレイザーをも半減させたドレッド・ルートにメカ・ハンターが抗えるはずもなく攻守が半減する。

 キースの不可解な行動に訝しむ。バトルフェイズ前ならダメージをアップさせるためにモンスターを召喚するのは分かる。だが今更通常モンスターを召喚してなにになるというのだ。

 生贄要因を確保するためなら守備表示で出せばいい。だというのに敢えて攻撃表示で出した理由は、

 その答えは直ぐに出た。

 

「俺がモンスターを召喚したこの瞬間、伏せていたリバースカードをオープン。激流葬!」

 

 

【激流葬】

通常罠カード

モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時に発動できる。

フィールド上のモンスターを全て破壊する。

 

 

「激流葬だって!?」

 

「激流葬はモンスターが召喚・反転・特殊召喚された時、フィールドの全モンスターを破壊する罠カードだ。だが俺の邪神は罠が通用しねえ。つまり……」

 

 濁流がフィールドを洗い流す。その力にレッドアイズやサイバー・ヴァリー、セットしてあった丈の堕天使アスモディウスも呑まれてしまう。

 しかし濁流が洗い流すのはそれだけに留まらない。キースが召喚したばかりのメカ・ハンターをも巻き込んで破壊してしまう。だが邪神は依然として無傷。

 

「なんて男だ。自分のモンスターを餌にフィールドのモンスターを破壊するとは。しかも邪神を残したまま」

 

 これが全米チャンピオンに君臨した男のプレイング。亮はその強さに武者震いをする。

 

「まだだ! 堕天使アスモディウスが破壊されたことにより効果発動! 場にアスモトークンとディウストークンを守備表示で召喚する!」

 

 

【堕天使アスモディウス】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力3000

守備力2500

このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。

1ターンに1度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、

「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。

「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。

「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。

 

 

 壁モンスターにアスモディウスを選んで正解だった。破壊されたとしてもトークンを呼び出す事が出来る。

 もっといえば邪神のカードは戦闘には滅法強いが逆に言えばそれだけだ。墓地に送られることでフィールドのモンスター全てを破壊するイレイザーを除外すれば、除去効果をもつカードは一枚もない。

 故に戦闘で破壊されない効果をもって誕生するディウストークンは中々の壁モンスターとして機能する。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

「僕のターン!」

 

 丈の場にアスモトークンとディウストークンが残ったが、吹雪と亮のフィールドからモンスターが喪われた事に変わりはない。

 今の攻撃はどうにか耐え凌いだが、次はどうなるか分からない。

 

「僕はモンスターをセット、ターンエンドだ」

 

 そして再びのキースのターン。邪神の再攻撃が始まる。

 

 

キース LP4700 手札3枚

場 THE DEVILS DREAD-ROOT、THE DEVILS ERASER

罠 血の代償

 

吹雪  LP4000 手札4枚

場 セットモンスター

伏せ 二枚

 

丸藤亮 LP4000 手札5枚

場 なし

伏せ 一枚

 

宍戸丈 LP4000 手札4枚

場 アスモトークン、ディウストークン

 

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

 丈たちのフィールドにあるカードは合計6枚。よって邪神イレイザーの攻撃力は3000だ。もしもドレッド・ルートがいなければ攻撃力は倍の6000にまでなるのだから恐ろしい。

 三人はサイバー流デッキを使う亮のせいで攻撃力8000オーバーは日常的に見慣れているのだが、それが『神』となると格の違うプレッシャーを受ける。しかも邪神が二体だ。

 

「ククッ」

 

 ドローカードを確認したキースが不気味に笑う。まるで神に抗おうとする三人を嘲笑うかのように。

 邪神を使役しているからだろうか。黒い影のようなものがキースの背後から沸き立っているのを丈たちは見た。

 

「……イイねェ。良いカードを引いたぜぇ」

 

「まさか、引き当てたのか! 最後の邪神をっ!」

 

 亮の張り上げた声にキースは口元を三日月に歪めることで答える。それが亮の懸念が正解であることを暗に示していた。

 場に出ている二体の邪神。ドレッド・ルートはオベリスクに、イレイザーはオシリスに対応するという。ならば最後の邪神に対応する神は三幻神の中でも最高神とランク付けされるラーの翼神竜に他ならない。

 

「ホワッツ!? ユーはバンデット・キースッ!」

 

 屋上に張りの良い声が響き渡る。声のした方向に目を向ければ、ここまで走ってきたのかやや息の切れたペガサス会長がデュエルをする四人を見比べていた。

 そして片方しかない瞳はグールズのローブに身を包んだキースに釘づけとなっている。

 

「ククククッ。ようペガサス、会えて胸糞悪いぜ。こうしてテメエのいけ好かねえ面ァ拝むのはデュエリスト・キングダム以来だな。地獄の底からテメエへの恨みを晴らすため蘇ってやったぜ。俺と同じように死んでた組織を叩き起こしてな」

 

「アイ・シー。ユーがネオ・グールズのボスというのならば、邪神を製造し盗み出したのは……この私への復讐、なのですか?」

 

「恨まれてる自覚はあるみてえだな。え? テメエの方からここに来たのは好都合だ。そこの若造三人を血祭りにあげたら次はテメエだ。テメエが掘った邪神アバターであの世に送ってやるよ。……いいや、ただ潰すのが面白くねえな。裸一貫で裏賭博にでも放り出してやろうか。負ければ死ぬデスゲームによぉ……」

 

「………そうですか。私の過去は、まだ」

 

 ペガサスが失われた目を抑える。ペガサス・J・クロフォードが己の目を犠牲にしてまで手に入れた呪われた力。そこにはもうその力はない。

 しかしその力が齎した過去は時代が流れようと失われはしないのだ。

 

「おい、ペガサス島でテメエは俺に言ったな。゛俺はデュエリストとしての魂を失った。だから素人(城之内)に負けた゛ってなぁ。

 笑わんなよペテン師がっ! なにがデュエリストの魂だ。テメエがその片目でやってたイカサマに比べりゃ俺のしたことなんざチープなもんだ! テメエの築き上げた地位も名声も全部そのオカルトアイテムで手に入れたものじゃねえか!

 長年の疑問が解けたぜぇ。ニューヨークでの俺とのデュエルでも、その力を使ってアレを演出したんだろう?」

 

「……全て、ユーの言う通りです。嘗て私は千年眼(ミレニアム・アイ)の力を使い多くのデュエルで戦い勝利してきた。遊戯ボーイや海馬ボーイとのデュエルでも私はこの力を使った。遊戯ボーイにはこの力を使いながらも、二人の魂の結束に敗れ去りましたが。バンデット・キース、ユーとのデュエルもその一つデース」

 

 キースがそれみろ、というような表情を浮かべる。

 

「キース、貴方には私を恨む権利がある。私は嘗て貴方のデュエリストの魂を侮辱する行いをし、貴方を地獄へ落とす切欠を作り上げてしまった。もし私があんなことをしなければ、貴方がネオ・グールズなどに身をやつすこともなかったでしょう」

 

 全米チャンピオンだった頃のキースは横柄で傲慢なところはあったものの、情熱と向上心に溢れたデュエリストだった。当時から狡猾的な戦術をとることはあってもイカサマなどは行わないプライドも持っていた。

 だがペガサスとの敗北をきっかけに闇賭博へ堕ち、やがて勝たなければ死ぬという極限状態がキースの魂をすり減らし、イカサマや非道な所業を平然と行う悪人へと変貌させてしまったのだ。

 その原因はペガサスにあり、ペガサスは自らの罪を何の偽りもない事実だと受け入れる。

 

「キース! 貴方が私に謝罪を求めるのであれば幾らでも頭を下げましょう。名誉を返せというのならば幾らでも弁解をしましょう。こんなことで貴方の怒りが収まるとは思いませんが、私にできる事ならなんでもやりましょう。

 ですが邪神のカードを使ってデュエルするのは止めるのデース! 神は使い手を選ぶカード。三幻神と違い三邪神は使い手に裁きを下すことはしないので直ぐには気付きませんが、邪神の邪念は使い手の魂を貪り……やがて魂を闇に染め上げる! そうなっては遅いのデース! 貴方の命に関わりマース!」

 

「しゃらくせぇんだよ! 命に関わる? 上等じゃねえか。こっちはなぁ。六分の一の確率で死ぬ地獄(ロシアンルーレット)ってやつを何度も経験してんだよッ! そんくれえ可愛いもんだぜぇ。

 俺はグリーン・ガジェットを召喚ッ! 更に血の代償のコスト1000を払いレッドとイエローを連続召喚だっ!」

 

 ペガサスの謝意も届かずキースの場に邪神の供物となる三色のガジェットが召喚された。

 

「くっ……! 三人とも聞いて下サーイ! 三邪神は一見すると攻略不可能なカード。しかし弱点はありマース! 邪神の弱点、それは――――」

 

「おっと! 外野がアドバイスするんじゃねえぜ!」

 

 キースが手を掲げると、黒い波動がペガサスの体を弾き飛ばした。

 ペガサスの体はそのまま屋上の壁に叩きつけられる。

 

「ペガサス会長っ!」

 

 丈は慌てて駆け寄ろうとするが、その前に不可視の壁のようなものに阻まれた。

 

「逃がさねえよ。邪神を召喚した時から、このデュエルから降りることなんざ出来なくなってんのさ。テメエ等全員のライフ()がゼロになるか、俺のライフ()がゼロになるかするまで殺し合い(デュエル)は終わらねえ。

 覚悟は、出来たかぁ? 俺は三体のガジェットを生贄に捧げる! 最高邪神よ! 太陽を闇に染め上げ降臨せよ! 生きとし生ける者全てを凌駕する現身となりて!」

 

 三体のガジェットが三つの魂となって天上へと吸い込まれる。光り輝く太陽を覆い隠しながら、空から黒い太陽(ラー)が降りてくる。

 遂にキースのフィールドに三邪神全てが揃った。

 

 

【THE DEVILS AVATAR】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

God over god.

Attack and defense point of Avatar equals to the point plus 1 of that of

the monster's attack point which has the highest attack point among

monsters exist on the field.




キース「今日の最強カードは激流葬だ! こいつを使えば相手がどんだけ場にモンスターを並べようが一掃できるぜ」

カイザー「現在では古き良き攻撃誘発、ミラフォよりも採用されている罠カードだ。本編でキースがやったように自分でモンスターを召喚した時に発動することもできる」

吹雪「ただ最近な破壊耐性をもったカードも多いし、展開力があるデッキも多いから、下手すれば発動した後にモンスターを大量展開されることも多いから注意が必要だ。発動するタイミングを見誤るとがら空きのフィールドを敵に晒す事になるからね」

宍戸丈「俺の…タァ↑ーン! 激↑流→葬↓ キヒャッヒャッヒャ!」

カイザー「このカードでデュエルをカオスに陥れてやれ!」

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