宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第64話  理を超えるカード

キース LP6200 手札4枚

場 THE DEVILS DREAD-ROOT

罠 血の代償

 

吹雪  LP4000 手札4枚

場 真紅眼の黒竜

伏せ 二枚

 

丸藤亮 LP4000 手札6枚

場 無し

 

宍戸丈 LP4000 手札6枚

場 無し

 

 

 

 丈には……いや、丈だけではない。亮にも吹雪にも、心の中でどこか隙があったのだろう。

 幾ら三幻神に対を為す三邪神といえど所詮はモンスターに過ぎない。神の名がつくモンスターなど探せば幾らでもいる。効果が強力なのは間違いないだろうが、効果や耐性の裏をかけば幾らでも対処はできるなどと。

 だがそれは完全なる思いあがりだった。

 目の前にした邪神ドレッド・ルートの異様は普段目にするモンスターカードなどと比べものにならないものであった。

 こうして前に立っているだけで膝が震えそうになる。どうしようもない無力感は自然災害を前にした人間が抱くそれに近い。

 太古において神とは自然現象の別名であった。まだ文明が未発達だったころ、人間は太陽や大地、雷などを神として畏れ崇めた。ならば邪神とはデュエルモンスターズというゲームにおける自然災害そのものが具現化したカードとすらいえるだろう。

 どれだけ科学力を発展させ進歩した人間であっても自然の猛威の前には非常にか弱い存在だ。そのことを『邪神』を前にして思い知らされた。

 

「邪神ドレッド・ルートのモンスター効果だ。このカード以外のモンスターの攻撃力と守備力は半分になる……」

 

「レッドアイズが!」

 

 ドレッド・ルートの威圧を受け、苦しそうに呻くレッドアイズに吹雪はたまらず叫ぶ。

 ブルーアイズに並び称されることのあるドラゴンといえど邪神の前には無力。神の力を受けたレッドアイズはその能力を半減させた。

 

「攻撃力1200になっちゃレッドアイズも形無しだな。そらさっさとしな! テメエ等のターンだぜ」

 

「…………亮」

 

 丈は隣にいる亮を見つめる。普段いついかなる時もクールな態度を崩さない亮が焦りを露わにしていた。

 サイバー流後継者たる丸藤亮をもってしても邪神の存在は圧倒的なのだろう。

 

「心配するな。そう、恐怖など感じる必要はない。相手は邪神……神のカードだ。だが武藤遊戯とて最初は神のカードなどもっていなかった。神のカードがないまま神のカードに挑み打ち勝った。神に勝つのは不可能なことじゃない

 

 それは丈たちに、というより自分に言い聞かせるような口調だった。

 亮は決意を込めて邪神ドレッド・ルートを睨むとデッキに手を掛ける。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 吹雪の天よりの宝札の恩恵を得ている為、亮の手札は合計七枚。常日頃なら如何に素早くサイバー・エンド・ドラゴンやサイバー・ツイン・ドラゴンを召喚するかに頭を悩ませるところだが、今度ばかりはそうもいかない。

 邪神ドレッド・ルートはそのモンスター効果によって攻撃力守備力を半分にしてしまう。つまり攻撃力4000の邪神ドレッド・ルートを倒すためには、攻撃力8000のモンスターを召喚するしかないのだ。

 

(俺のデッキなら出来ないことはない……)

 

 パワー・ボンドを用いた融合召喚でサイバー・エンドを召喚すれば攻撃力は8000ポイント。邪神ドレッド・ルートの効果で半減されようと、相打ちに持ち込むことは出来る。

 邪神はルールを超越した力をもつモンスターであるが、フィールドに存在している以上は『モンスターカード』というカテゴリーだ。攻撃力が互角ないし上回れば戦闘破壊は可能だ。

 亮は運が良い。

 攻撃力8000など普通のデッキなら先ず叩き出すことなど不可能な数値だ。火力なら随一であるサイバー流だからこその芸当である。

 

(考えれば考える程に恐ろしいカードだな邪神)

 

 肌で感じる威圧感だけではない。カタログスペックのみにおいても邪神ドレッド・ルートは規格外のモンスターだ。

 自分以外のモンスターの攻守を半減するため戦闘ではほぼ無敵。でありながら邪神故にモンスター効果と罠が通じず、魔法効果は1ターンのみしか受け付けない。

 それでも倒すしかないのだ。勝たねば未来はない。

 

「俺はサイバー・ヴァリーを攻撃表示で召喚! サイバー・ヴァリーの攻撃力守備力は0。よってドレッド・ルートの半減効果を受けることはない!」

 

「ハッ! それがどうしたってんだよ!」

 

 ターンが丈にまで回りきるまで攻撃は出来ない。攻撃が出来ないならまだサイバー・エンド・ドラゴンを召喚するべきタイミングではないだろう。

 ならばここはやれることには挑戦してみるべきだ。

 

「俺は機械複製術を発動。攻撃力500以下の機械族モンスターを選択。同名モンスターを二体まで場に特殊召喚する! 現れろ二体のサイバー・ヴァリー!」

 

 

【サイバー・ヴァリー】

光属性 ☆1 機械族

攻撃力0

守備力0

以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このカードが相手モンスターの攻撃対象に選択された時、

このカードをゲームから除外する事でデッキからカードを1枚ドローし、

バトルフェイズを終了する。

●このカードと自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を

選択してゲームから除外し、その後デッキからカードを2枚ドローする。

●このカードと手札1枚をゲームから除外し、

その後自分の墓地のカード1枚を選択してデッキの一番上に戻す。

 

 

【機械複製術】

通常魔法カード

自分フィールド上に表側表示で存在する

攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターと同名モンスターを2体まで自分のデッキから特殊召喚する。

 

 

 サイバー・ヴァリーが三体並ぶ。サイバー・ヴァリーは攻撃対象となった時、このカードを除外することでバトルフェイズを終了させ一枚カードをドロー出来る効果がある。

 これが三体並ぶということは防御はかなり厚くなったということだが、防るばかりではデュエルには勝てない。

 

「更に! 俺は魔法カード、精神操作を発動! 相手モンスターのコントロールをこのターンの間だけ得る!」

 

「………あ?」

 

「神への魔法効果が1ターンのみ受け付けるというのならば……邪神ドレッド・ルートを俺のフィールドへ!」

 

 透明な糸が邪神ドレッド・ルートに絡みついていく。

 精神操作の効力が正しくルール通りに進めば、邪神ドレッド・ルートはキースの手を離れ亮のフィールドにきただろう。だがそうはならなかった。

 ドレッド・ルートが雄叫びをあげたかと思うと、透明な糸を引きちぎった。

 

「クククッハハハハハハハハハハハハハーーッ! 神に精神操作なんてものが効くと思ってんのかァ!? 理屈でしか物を考えられねえならさっさとサレンダーしな。テメエ等が相手してきた生半可なモンスターと神は一味違うぜ。こいつは神! 真っ当な常識は通用しねえんだよ!」

 

「くっ。やはり駄目か!」

 

 亮は歯噛みするが、どこか予想のついたことではあった。精神操作なんてチープな手で簡単に神を乗っ取ることができるのならば、武藤遊戯は神のカードに苦戦などしていなかっただろう。

 神以外にも禁止カード指定された混沌帝龍など強いモンスターはいるが、それらのモンスターはただ単純に強いだけだった。しかし神の強さは別格だ。

 

「俺はサイバー・ヴァリーのモンスター効果。サイバー・ヴァリーともう一体のサイバー・ヴァリーを除外し二枚ドローする。俺はカードを一枚伏せてターンエンド」

 

「結局、防御しか出来ねえってか。俺のターン、ドロー。さて、忘れてねえだろうな。このターンのスタンバイフェイズ、俺の手札に邪神イレイザーが加わるぜ」

 

 ニヤリと笑いながらキースが邪神イレイザーを手札に加える。キースの手札にはイエロー・ガジェットの効果でサーチしたグリーン・ガジェットがあり、場には血の代償が発動中。

 もはや止める術などはない。既にキースには二体目の邪神を召喚する用意が整っていた。

 

「いくぜ! 俺はグリーン・ガジェットを攻撃表示で召喚し効果でレッド・ガジェットをサーチ! 更に500のライフを支払いレッド・ガジェットを召喚。そしてレッドの効果でサーチしたイエローを血の代償の効果で召喚だ」

 

 キースLP6200→5200

 

 邪神ドレッド・ルートの横に並ぶ三色のガジェット達。ドレッド・ルートの効果は全フィールドに適用されるため、レッドアイズと同じように攻守が半減しているがそんなものは関係ないだろう。

 キースはガジェットを攻撃のために召喚したのではないのだから。

 

「情けだ。祈る時間はくれてやる。血の代償のコスト500を支払いう。俺は三体のガジェットを生贄にして……出やがれ! 二体目の神! 邪神イレイザーッ!」

 

 三人は二体目の邪神の降臨を見ていることしか出来なかった。

 I2カップの後、丈がペガサスより受け取るはずだったネオ・グールズに奪われることを免れた唯一の邪神。それが召喚される。

 ドレッド・ルートに対応する神がオベリスクならば、イレイザーに対応するのはオシリスの天空竜なのだろう。黒い暗雲の中から雷鳴と共に出現したイレイザーは聖書に記されたウロボロスのように長い胴体をもった竜だった。

 

 

【THE DEVILS ERASER】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

A god who erases another god.

When Eraser is sent to the graveyard,

all cards on the field go with it.

Attack and defense points are 1000 times

the cards on the opponent's field.

 

 

「邪神イレイザーの攻撃力守備力は相手の場に存在するカードの数で決定する。テメエ等の場にあるカードは合計五枚。攻撃力は5000だ。だがドレッド・ルートの半減効果の影響はイレイザーも受ける。それでも攻撃力は2500だがな」

 

 それだけではない。邪神イレイザーには墓地へ送られた時、フィールドの全てのカードを道連れにする効果もある。

 丈たち三人はその効果をペガサスにカードを見せられたことで知っていた。やっとの思いで邪神イレイザーを倒しても、イレイザーは置き土産にフィールドを焼野原にしていく。

 守りを固めようとカードを並べればその分だけイレイザーのパワーは跳ね上がっている。カードが並びやすい三対一のデュエルにおいては強力無比なカードだ。

 

「俺はカードを一枚セット、ターンエンドだ。ククッ。次の俺のターンから攻撃が解禁になる。もしかしたらテメエ等にとっての人生のラストターンになるかもしれねえターンだ。よーく時間かけてやるんだな」

 

 そして遂にターンが丈にまで回ってきた。




キース「今日の最強カードは血の代償! 500ライフを支払うことで何度でも通常召喚を行う事が出来る。まぁ手札にモンスターがいたらの話だがな」

カイザー「キースが本編でやったようにガジェットと組み合わせることにより、最大で九連続の通常召喚を行うことができる」

吹雪「面白いくらい簡単にモンスターが並ぶからランク4のエクシーズ召喚も簡単だよ。そんなこともあって現在は制限カードだ」

宍戸丈「エクシーズに比べたらマイナーだけど、キースがやったように生贄要因を揃うにも一役買う。ただこっちは事故率が限りなく低いことが売りのガジェットの事故率を上げる要因にもなるから注意が必要だ。……いや、俺のデッキよりは低いけどね。事故率」

カイザー「事故率? なんだそのカードは。どういう状況で発動する」

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