宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

6 / 200
第6話   恋する乙女登場ナリ

 夏休みというのは素晴らしい。

 改めて宍戸丈はそう実感する。

 中高生で野球部などの厳しい部類に属する部活動に所属すれば夏休みなど平常授業よりも地獄の日々になったりするが、小学生ではそんな地獄とも無縁だ。

 明日も明後日も、明々後日もその次の日も来週も再来週もずっと休日。ビバ夏休み、ジーク・夏休み。エンドレス・サマー。

 丈の場合、お受験ママのせいで完全なフリーとはいかないものの、親の目を忍んではつい最近知り合った未来のカイザーこと亮と一緒に遊んだりデュエルをしたりしている。というより会うと直ぐにデュエルを申し込まれる。亮も大概にしてデュエル馬鹿だ。

 だがこの世界でも屈指のデュエリストである亮と何度も戦ってきたお蔭で、自分のデッキやタクティクスも自然と洗練されていったのは良い意味で想定外だ。しかもサイバー流の後継者と互角に戦える唯一の同年代ということで、ここら辺では少しばかり名が知れるようになってしまった。

 太陽がキンキンと光り、気温も30℃の夏真っ盛りの今日も、何時も行くカードショップの前で亮と約束をしたところだ。

 

「ううーん、やっぱりカードショップの中は良いなぁ、涼しくて」

 

 自販機で買ったコーラをごくごくと飲みながら丈が言う。

 カードショップから一歩でも外に出れば皮膚を焼くような暑さに晒されるが、カードショップの中は一転して天国だ。冷房というものを開発した人はノーベル賞を貰ってもいいと思う。誰が作ったのかは知らないが。

 

「相変わらずだな、お前は。……それより、そっちのターンだぞ」

 

「ん、おぉ!」

 

 丈はカードが並べられたテーブルへ向き直る。

 二人がやっているのはデュエルディスクによるソリッド・ビジョンを使ったデュエルではなく、普通に立体映像もなしにテーブルの上でやる昔ながらのデュエルだ。

 カードショップのデュエルディスクを使ったデュエルのための広いデュエル場が埋まっているから、こうしてテーブルに座ってやっているわけだが、これはこれでいいものだ。ソリッドビジョンのデュエルと違いリアリティーはないが、落ち着いてじっくりとデュエルに集中できる。

 

「バトルフェイズ。バルバロスでサイバー・ドラゴンにアタック、これ通るか?」

 

「残念だが次元幽閉だ。バルバロスは除外させて貰うぞ」

 

「うげっ!」

 

 ソリッドビジョンならバルバロスが次元の裂け目に吸い込まれていく映像が出たんだろうな、と想像しながら丈はバルバロスをデッキの直ぐ真横に置く。

 

「あー、もう俺の手札ゼロだしやることないわ。ターン終了」

 

「ドロー。スタンバイ、メインフェイズ。サイバー・ドラゴン・ツヴァイ召喚。手札のパワー・ボンドを見せてカード名をサイバー・ドラゴンに。パワー・ボンドを発動、サイバー・ツイン・ドラゴン召喚。パワー・ボンドで攻撃力が二倍になったサイバー・ツイン・ドラゴンでバルバロスを攻撃」

 

「負けたァー!」

 

 参ったというジェスチャーを全身で表現するためバンザイのポーズをする。流石カイザー、強い。サイバー流積み込み……もといスーパードロー術はテーブルに座っても衰えなかった。

 これで通算六戦二勝四敗、三分の一の勝率である。

 

「さっきもそうだけど……いきなり初期手札にサイバー・ドラゴン二枚とパワー・ボンドってなんだよ。ダメージ回避用のサイバー・ジラフのおまけつきで」

 

「デッキを心から信頼しリスペクトすれば、デッキの方から応えてくれるものだ」

 

「マジで?」

 

 自分もこれを期にカードと一日中睨めっこでもしてみようか。そうすれば多少なりともデッキとの信頼関係というやつが芽生えるかもしれない。

 

「だけどアレだよな。お前にサイコ・ショッカーなんて上げたせいで、カウンター罠が軒並み封じられて、サイクロンで冥界の宝札を破壊されるわで散々だよ。サイバー・ドラゴン・ツヴァイのせいでぽんぽんサイバー・エンドが飛び出すし」

 

「お前のバルバロスによる一掃も負けず劣らず凶悪だと思うがな。サイコ・ショッカーにしても直ぐ最上級モンスターで戦闘破壊してくるじゃないか。虚無の統括者で特殊召喚を封じられたこともあった」

 

「虚無の統括者にバルバロスとアスモディウスがある状態で勝つお前は凄いよホント」

 

 月の書で虚無の統括者を裏側守備にして効果を一時封印してからの、融合、サイバー・エンドの流れを喰らった時は冗談抜きで目が点になった。

 一つ分かった事は相手のライフを100とか200とか中途半端に追い詰めるのは負けフラグということである。後腐れなくしっかりライフをゼロにしないと安心できない。ライフがゼロになっても死なない満足先生もいるがそれは一先ず置いておく。

 ちなみに虚無の統括者とは相手の特殊召喚を封じる効果をもつ最上級モンスターだ。同じ特殊召喚メタで上級モンスターの虚無魔人と違い最上級モンスターなので二体の生贄が必要だが、虚無魔人と違い封じるのは相手の特殊召喚のみなので、自分側は特殊召喚だろうと融合召喚だろうとやり放題である。融合を多用する亮のデッキには相性が悪いカードの一枚だ。

 そんな感じで負ける事が多い丈だったが、勝ち星もそこそこはある。一度、サイバー・エンドとキメラティック・オーバー・ドラゴンが並んでいる相手フィールドをバルバロスで一掃してからの直接攻撃を決めた時は快感だった。

 豪快なカードは中々上手く決まることはないが、それが決まった時は最高に気分が良い。

 そうやって話していると、ショップの奥から男の怒鳴り声が響いてきた。

 

「あ~ん、お子ちゃまが何の用だぁ~。ここは子供が来るところじゃねえんだぜ」

 

「餓鬼はママのおっぱいでもチューチューしてな!」

 

 ※カードショップは子供が来る場所です。

 

「で、でもボクはこのカードが欲しくて……お小遣いを溜めて、やっと……」

 

「小遣いだァ! ははははっ、下らねえんだよ! ふざけんな畜生がよぉおおお! 俺なんか小遣い、全部うちの糞婆に持ってかれたんだぞコラ! 大人になったら返すとか言ってたけどよ、その金でブランド物のバックを買ってたのを俺は見逃さなかったんだよ畜生ォ!」

 

「許せねえな。許せねえだろ? だからテメエの小遣いは俺が没収するぜ! 餓鬼が小遣い貰っちゃいけねえんだよ! 俺達のようにな!」

 

 アフロとリーゼントの不良と、それに絡まれる小学一年生か休学前くらいの子供。ズボンを穿いているので見た目だけでは男の子か女の子か判別することは出来ない。

 

「――――――おい、行くぞ。丈」

 

「おォ! ……ってちょっと待て。え?」

 

 子供に絡んでいる不良は着ている学生服といい体格といい明らかに高校生だ。

 対して自分と亮は小学六年生。未来でヘルデュエルだとかヤンチャしていた亮も今はまだ軟な子供の筈。先ず勝てる相手ではない。ここはクールな対応として警察を呼ぶと言うのがベターだと思うのだが、そう説得する前に亮は不良二人組のところまで丈の手を引いてずんずんと来てしまっていた。

 

「止めろ!」

 

「あぁん?」

 

 力強い亮の言葉が不良たちに突き刺さる。不良は警察かと思ったのか一瞬顔を強張らせたものの、亮が子供だと分かるや爆笑し出した。

 

「ぎゃはははははははっはははははは! なにかと思えば餓鬼を守るために餓鬼登場ってか! 最近の餓鬼は連帯感強いなぁ~、おい!」

 

「カードショップは皆が楽しむべき場所だ。年齢制限などない筈だ」

 

「あるんだよ! 今俺が決めた! いいかよ餓鬼ぃ! 餓鬼は年上に従わなけりゃいけねぇんだよ! 年上が死ねって言や死なないといけないのが人間社会の道理ってやつだろうが!」

 

「そうだそうだ!」

 

「道理に合わない。お前達、デュエルディスクを付けている事はデュエリストなのだろう。暴力で子供にデュエルさせることを妨害するなどデュエリストのすべきことではない」

 

「んだとゴラァ!」

 

 ヒートアップする亮と不良二人組の言い合い。

 その陰で丈は絡まれていた子供を安全な場所へと非難させていた。

 

「あぁー、大丈夫? 怪我とかない?」 

 

「うん。ボクはいいけど……あの人が」

 

 亮は小学生ながら真っ直ぐに高校生の不良と相対していた。

 何故か崖の上にあるサイバー流で修行してきたそうなので、年齢こそ小学生でも肝っ玉は大人顔負けだ。

 

(うーん。俺は社長や牛尾さんみたくリアルファイトが強い訳じゃないから、不良二人相手は無理だな。一人ならまだしも……って俺今小学生の体だから一人でも無理だな。此処は善良な市民として一番適切な方法、警察への通報という手を――――――)

 

 ポケットからケータイを取り出し、110番を掛けようとしたその時だった。

 

「―――――――いいだろう。俺"達"とデュエルだ! 負けたらお前達はその子に謝って、二度とこのようなことをしないと誓え!」

 

「ほえ?」

 

 聞き間違いだろうか。

 さっき俺『たち』という不穏な言葉を聞いたような気がする。

 

「いいぜ。お前とそこの餓鬼ィ!」

 

 不良が亮と……物影に潜んでいた丈を指差す。

 

「年上の強さってもんを良くその身に教え込んでやるよ!」

 

 どうやら自分もあの不良のターゲットとしてロックオンされてしまったらしい。

 

「あのー、亮さん?」

 

「すまないな。お前まで勢いで巻き込んでしまった。勝つぞ、丈。あの二人にデュエリストとして当たり前のものを思い出させてやろう」

 

 聞く耳持たずとはこのことだ。

 この世界では何事においてもデュエル優先というのは知識として知っていたが、こうして実体験するとより深く理解できる。

 暴力的な解決よりはマシ、そう思うしかないだろう。

 やれやれと溜息をつきながらも、丈はデュエルディスクを装着した。久しぶりの亮以外とのデュエル、二重の意味で負ける訳にはいかない。




 この作品の設定あれこれ。

・このssはアニメ基準

・Rや漫画版GXを始めとしたストーリーはアニメ時系列で存在しないので、漫画版のカードは普通に一般で流通している

・三邪神やドラゴエディアなど特殊すぎるカードは非流通

・GX終了後に登場したサイバー・ドラゴン・ツヴァイ、レベル・スティーラーなども普通に流通

・シンクロないしエクシーズ関連のカードは非流通

・BFやシンクロンなどのカテゴリーに入っているカード群も非流通

・当たり前だけど地縛神や機皇帝も非流通

・チューナーモンスターは特殊イベントをこなした後に使用可能となる可能性あり

・GXアニメ本編が終了するとシンクロモンスターが解禁になるかも

・青眼の白龍は世界に四枚

・トゥーンはペガサスしか持ってない

・カード効果は基本OCG遵守で満足

・例外としてバブルマンやスカイスクレイパーなど使用率の高いカードはアニメ効果で満足できる

・神のカードは原作効果、ラーが最高神で満足できる。ヲーなんてなかった

・邪神のカードも漫画効果なので、罠とモンスター効果無効で満足できる

・バトルシティでのルールを基本にファイヤーボールなどといったカードは禁止なので不満足

・フルバーンは出来ないのでロックバーンで満足するしかない

・鬼畜烏と混沌帝龍は禁止カードなので満足できる

・D-HEROはエドしか持ってないのでエドで満足するしかない

・ネオスとかは十代が宇宙にいかないと出てこない

・強欲な壺と天使の施しは制限カードなので満足なドローができる

・未来融合は制限カード扱いなのでFGDも満足できる

・ついでにTFキャラは登場せず(TFを知らない方は満足できないと思うので)

・初代キャラは普通に出るので満足できる

・蟹パパなど5D'sの親世代は登場するかもしれないので満足

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。