宍戸丈と丸藤亮、この二人のデュエリストにとって先行後攻を決めることほど無意味なことはないだろう。はっきり言って時間の無駄だ。何故ならば宍戸丈が得意とするのが先行であり、丸藤亮の得意とするのが後攻からなのだから。
故に丈が先行となり亮が後攻となるのは必然であった。
「俺の先行、ドロー!」
丈のデッキは前までのデッキではない。コンセプトこそ変わっていないものの、前の世界では禁止カード指定されていたカードが入った事により全体的爆発力が軒並み上昇している。
これで条件は互角だ。
「魔法カード、苦渋の選択を発動!」
【苦渋の選択】
通常魔法カード
自分のデッキからカードを5枚選択して相手に見せる。
相手はその中から1枚を選択する。
相手が選択したカード1枚を自分の手札に加え、
残りのカードを墓地へ捨てる。
苦渋の選択。デッキから五枚選び、そのうち一枚を手札に加え残りを墓地に捨てるカード。捨てる、というのはデメリット効果に見えるが実のところ捨てるというのがミソで、愚かな埋葬が可愛く見えるほど簡単かつ効率よく墓地肥やしを行うことが出来るのだ。その極悪な性能から丈の前世では禁止カード指定されており、サンダー・ボルトなどと同じく二度と制限復帰する事はないだろうと思われるカードの一つである。
しかしこの世界においてはまだ制限カード。
デッキに入れた所で反則になる事も敗北する事もない。
「俺がデッキより選ぶのは三枚のレベル・スティーラー及びネクロ・ガードナー!」
「……やれやれ、最初から飛ばすな」
亮が呆れたように嘆息する。丈の選んだ五枚は全て墓地でこそ効果を発揮するモンスターカード。亮からしたらどれを選ぼうと必ず四枚は墓地に落ちてしまう訳で非常に苦しい選択肢をつきつけられたと言わざるを得ないだろう。正に苦渋の選択である。
「俺は……ネクロ・ガードナーを選ぶ」
仕方なさげにネクロ・ガードナーを選択すると、そのカードが丈の手札に加わり他四枚が墓地におちた。
「亮、これで墓地肥やしが終わったと思ったなら甘いぞ。俺は天使の施しを発動! カードを三枚ドローし二枚捨てる! 俺が墓地に捨てるのは神獣王バルバロス及びネクロ・ガードナー! 続いて強欲な壺、デッキからカードを二枚ドロー! 更に魔法カード、死者蘇生! 墓地のバルバロスを蘇生する!」
【神獣王バルバロス】
地属性 ☆8 獣戦士族
攻撃力3000
守備力1200
このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。
この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。
また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。
この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。
このデッキの中でも丈が最も信頼を置くカードの一枚、従属神でも最強クラスのモンスターが真っ直ぐに亮へと巨大なランスを向けた。
普通のデュエリストならいきなり攻撃力3000のモンスターが出てくれば恐れおののくところだろうが、初手からいきなりサイバー・エンド・ドラゴンを正規融合してくるような丸藤亮である。たかだか攻撃力3000程度で驚くことはなかった。
「☆8のモンスターが召喚されたことでレベル・スティーラーの餌が出来た。バルバロスの星を三つ下げ三体のレベル・スティーラーを墓地から召喚。そして永続魔法、冥界の宝札を発動。そして二重召喚! このターン、俺は二度の通常召喚権を得る!」
【冥界の宝札】
永続魔法カード
2体以上の生け贄を必要とする生け贄召喚に成功した時、
デッキからカードを2枚ドローする。
【二重召喚】
通常魔法カード
このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。
神獣王バルバロス ☆8→5
「二体のレベル・スティーラーを生贄に堕天使アスモディウス召喚! 更にバルバロスの星を一つ下げレベル・スティーラーを蘇生。再び二体を生贄にThe supremacy SUNを攻撃表示で召喚!」
【The supremacy SUN】
闇属性 ☆10 悪魔族
攻撃力3000
守備力3000
このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、
次のターンのスタンバイフェイズ時、
手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。
【堕天使アスモディウス】
闇属性 ☆8 天使族
攻撃力3000
守備力2500
このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。
1ターンに1度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、
「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。
「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。
「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。
神獣王バルバロス ☆5→4
召喚制限があるカードを除けば数あるモンスターの中でも最も召喚の難しい最上級モンスター。それをいきなり三体も召喚してきた事に流石の亮も舌を巻いた。だが過剰なる驚きはない。丈ならばこれくらいはやってのけるという奇妙な信頼が亮にはあったのだ。しかし観衆はそうではなかった。開始早々から超重量モンスターが三体も並ぶという光景にこのデュエルを見守る殆ど全員が息をのむ。
『こ、これはぁぁぁぁぁッ! な、なんということだぁ!? いきなり魔王ジョーのフィールドに三体のモンスターが並んでしまったぁぁ!!』
MCの興奮を余所にあくまで丈は冷静なままに告げる。
「永続魔法、冥界の宝札の効果だ。デッキから四枚ドローさせて貰う」
これで丈の手札は六枚。ある意味こちらの方が最上級モンスターを三体召喚したこと以上に驚天動地の事実だろう。あろうことか丈は手札を一枚も消費せずにモンスターを並べてしまったのだ。
「カードを二枚セット、ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー」
最上級モンスターを前にした亮はニヤリと不敵に笑う。丈のことを舐めているのでも現実を理解していないのでもない。亮は自分が初手にして追いつめられていることを理解しているし、深く認識している。だからこそ楽しいのだ。デュエルにおいて絶望を乗り越えることに勝る興奮はない。追い詰められたのなら、乗り越えればよい。乗り越えて見せる。絶対に。
「魔法カード、融合を発動」
「させない。カウンター罠! 魔宮の賄賂!」
【魔宮の賄賂】
カウンター罠カード
相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
相手はデッキからカードを1枚ドローする。
「カウンター罠か。だが読んでいたぞ」
「なに?」
「俺の本当の狙いはこちらだ。魔法カード、パワー・ボンド! 手札のサイバー・ドラゴン二体を融合。融合召喚、サイバー・ツイン・ドラゴンッ!」
【サイバー・ツイン・ドラゴン】
光属性 ☆8 機械族・融合
攻撃力2800
守備力2100
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。
このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。
パワー・ボンドの効果により融合召喚された為、サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力が5600まで上昇した。これで一度のバトルフェイズで二回攻撃出来るというのだから笑えない。
「サイバー・ツイン・ドラゴンでバルバロスと堕天使アスモディウスに二連攻撃、エヴォリューション・ツイン・バーストッ!」
攻撃宣言をする亮。だが亮も分かっているだろう。この攻撃が丈に通る筈がないと言う事を。丈は一度自分の墓地に目をおとしてから宣言した。
「墓地のネクロ・ガードナーのモンスター効果、墓地から除外することにより攻撃を一度無効にする! 俺は二体のネクロ・ガードナーを除外しサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃を無効!」
「……バトルフェイズを終了する。手札よりサイバー・ジラフを召喚。そしてサイバー・ジラフを生贄にパワー・ボンドのデメリットを消す」
【サイバー・ジラフ】
光属性 ☆3 機械族
攻撃力300
守備力800
このカードを生け贄に捧げる。
このターンのエンドフェイズまで、
このカードのコントローラーへの効果によるダメージは0になる。
「俺は一枚セットしターンエンドだ」
宿命の対決といえる丈と亮の戦いは最初のターンから超重量級モンスターが激突するという派手な開幕となった。
だがこんなものは序の口だ。
戦いはこれからどんどんと激しさを増していく。際限などなく。それは恐らくこの会場にいる誰もが感じたことだっただろう。