宍戸 LP2000 手札五枚
場 無し
伏せ 1枚
マナ LP4000 手札二枚
場 ブラック・マジシャン、ブラック・マジシャン・ガール
罠 王宮のお触れ
フィールド 魔法族の里
状況はほぼ最悪といってもいい。
フィールド魔法「魔法族の里」により魔法カードの発動が封じられ、王宮のお触れにより罠カードまで封じられた。これで丈が前のターンに伏せたリバースカードもただフィールドを圧迫する邪魔者となってしまっている。
(落ち着け、慌てるな俺。Bloo-D、ホルスの黒炎竜、王宮のお触れの完全ロックよりはマシと考えるんだ。いやこの世界でそんな状況になることは先ずないけど。カード環境的に)
それに不幸中の幸いだったのが丈の使用しているのが暗黒界デッキということだ。暗黒界モンスターをどうにかして墓地に送り、自分のターンにもう一度「魔法族の里」を破壊できればどうにかはなる。融合カードに依存する傾向が強い「HERO」デッキでも使っていたら今頃デッキトップに手を置くかどうかを悩んでいたところだ。それに比べればマシである。
「俺のターン」
丈の手札には「魔法族の里」や「王宮のお触れ」を破壊して、ロックを粉砕できるカードはない。ここは悔しいが防戦に徹するしか選択肢がなさそうだ。
(防御は攻撃のための布石だ!)
なにも馬鹿みたいにひたすら攻撃するだけがデュエルではない。形勢が不利ならば防御して、気を見て一気に攻撃へ転じる。それもまたデュエルの極意。
「モンスターをセット、これで俺はターンエンド」
ターンがマナへと移る。王宮のお触れと魔法族の里、二つのカードによるロックを完成させたマナとしては、この隙に一気に勝負を決めたい。マナのロックは強力だがモンスター効果に対する防御はない。もしも時間をかければ丈がモンスター効果でロックカードを除去してくるかもしれないのだ。
「私のターン、闇の誘惑を発動します」
【闇の誘惑】
通常魔法カード
自分のデッキからカードを2枚ドローし、
その後手札の闇属性モンスター1体を選択してゲームから除外する。
手札に闇属性モンスターがない場合、手札を全て墓地へ送る。
マナが闇属性専用の手札交換カードを使用する。二枚ドローした後で闇属性モンスターを墓地ではなく除外する必要があるのはネックだが、それを差し引いても手札を一枚も減らさずに手札交換ができるのは強力だ。
マナは二枚のカードをドローすると、コロリと嬉しげに笑う。
「よーし、いいカードきたっ! 私は永続魔法、一族の結束を発動! 私の墓地の種族が一種類だけの時、私の場の同種族モンスターの攻撃力を800上げます!」
【一族の結束】
永続魔法カード
自分の墓地に存在するモンスターの元々の種族が1種類のみの場合、
自分フィールド上に表側表示で存在する
その種族のモンスターの攻撃力は800ポイントアップする。
ブラック・マジシャン 2500→3300
ブラック・マジシャン・ガール 2000→2800
永続魔法効果により二体の師弟魔術師の攻撃力が一気に最上級モンスタークラスにまでなる。ブラック・マジシャンに至ってはブルーアイズを超える3300だ。800の攻撃力のアップというのは決して少ない数値ではない。このカードを投入できるというのが種族統一デッキにおけるメリットとして扱われるというのがこのカードの強さを表しているといっていい。丈としては吹雪とのデュエルで何度かこのカードを見ているので慣れ親しんだものだ。
「そして私は三体目の魔法使い族、魔道戦士ブレイカーを召喚します!」
「ブレイカー!?」
一族の結束の効果でブレイカーの攻撃力も1900から2700に上昇する。下級モンスターでありながら上級モンスターを超えた。
「念のためブレイカーのモンスター効果発動です。そのリバースカードを破壊」
「ぐぐぐっ、暗黒よりの軍勢が」
「更に魔力掌握で再び魔道戦士ブレイカーに魔力カウンターを乗せます。効果でデッキから新たな魔力掌握を手札に。……バトル! 魔道戦士ブレイカーでセットモンスターを攻撃!」
「残念。俺のセットしていたカードはアルカナフォース0-THE FOOL。こいつは戦闘では破壊されない。魔道戦士ブレイカーの攻撃は無意味に終わる」
ブレイカーの剣による一閃をアルカナフォース0-THE FOOLがさらりと受け流す。
マナは悔しそうに顔を歪めた。やはりこのターンで決着をつけたかったのだろう。
「むぅ~。これじゃ何も出来ない……ターンエンドです」
「俺のターン、ドロー。右に同じ、やることがない。ターンエンド」
「今度こそ私のターン、ドロー。……ッ!」
マナの表情が強張る。なにか現状を打開しうるカードを引いたのかもしれない。丈がドローカードを警戒し身構える。
「ちょっと賭けになっちゃうけど……ええぃ、ままよ! 壺の中の魔術書を発動。互いのプレイヤーはデッキからカードを三枚ドローです」
マナの手札が一気に補充される。だがそれは丈も同じだ。マナと同じように丈もデッキから三枚のカードをドローする。しかしそれだけ引いて尚、ロックを潜り抜けるキーカードはこなかった。今日は如何もツキがない。
対するマナはといえば、こちらは何か良いカードを引き当てた様子だった。口元に広がる笑みからもそれが伺える。
「これでどうにか……、そのアルカナフォース0-THE FOOLは破壊できますよ。魔法カード、死のマジック・ボックス!」
【死のマジック・ボックス】
通常魔法カード
自分と相手フィールド上に存在するモンスターを1体ずつ選択して発動する。
選択した相手モンスター1体を破壊し、
選択した自分のモンスター1体のコントロールを相手に移す。
「私が選択するのはアルカナフォース0-THE FOOL、そして魔道戦士ブレイカー」
「!」
フィールドのブレイカーとアルカナフォース0-THE FOOLを手品などでマジシャンが使うボックスが閉じ込める。片方のボックス、魔道戦士ブレイカーのいたところには無数の剣が突き刺さった。マジック・ボックスの中から聞こえてくるのは身の毛もよだつ断末魔。そのマジック・ボックスがぎぎぎっと開いていくと最初にブレイカーの入っていたマジック・ボックスには「アルカナフォース0-THE FOOL」が串刺しになっていた。対する丈の場のマジック・ボックスには無傷のブレイカー。
「これでアルカナフォース0-THE FOOLは消えました。ブラック・マジシャンで魔道戦士ブレイカーを攻撃! ブラック・マジック!」
マナのフィールドを離れたことにより魔道戦士ブレイカーの攻撃力は1900まで落ち込んでいる。ブラック・マジシャンとブレイカーの差の分だけ戦闘ダメージを受けた。
宍戸丈 LP2000→600
「そしてこれが止め! ブラック・マジシャン・ガールで直接攻撃!」
「!」
この攻撃が通れば丈のライフは0。敗北が決定する。何が何でも通す訳にはいかない。幸いライトロード・ハンター・ライコウのお蔭であのカードが墓地に落ちてる。
「墓地のネクロ・ガードナーのモンスター効果、このカードを墓地から除外することにより戦闘を無効にする!」
「むむぅ。また失敗かぁ。私はこれでターンエンドです」
「俺の、ターン」
完全に追い込まれている。
将棋でいうなら王手というところまで追い込まれてしまった。魔法カードと罠カードを封じられ、手札だけ多いものの逆転のカードは皆無。
頼もしい壁モンスターのアルカナフォース0-THE FOOLも既に墓地。ネクロ・ガードナーの攻撃無効能力も二度目はない。次のドローで逆転のカードを引けなければその瞬間、丈の二回戦敗退が決定する。
『おおっと! 宍戸丈、ここにきて長考かぁぁぁ!? デッキからドローする手が止まってしまったぞぉ!?』
何ともないと思っていたMCの実況が、心臓にズトンと圧し掛かってくる。
これがプレッシャーというものだと、丈は初めて強く感じた。
「丈!」
その時、観客席の中から聞きなれた声が耳に届く。驚いてその方向を見ると、そこにはサムズアップした吹雪が親指を立ててグッドサインをしていた。その隣には亮がどこか試すような視線を送っている。言葉はないものの長い付き合いの丈には亮が何を言おうとしているのかが直ぐに分かった。
『お前はここで終わるのか?』
目がそう語っている。
それが無性に腹が立って、心の中に再び闘争心が滾ってきた。友人に試されて、ただ泣き寝入りする何て男のやることじゃない。前時代的なつまらないプライドと思うかもしれない。だが、ちっぽけなプライドまで捨てたら人間は終わりだ。
風のない草原のように丈の焦りが静まっていく。あれほど重かったプレッシャーもどこかにいってしまっていた。
大丈夫だ。もう良い。これで戦える。
全ての鍵は次のドロー。しかしどうしてだろうか。このドローに何もかもが賭かっているのに、不思議と恐れなんてものはない。逆に感じるのは興奮、どういうカードを引き当てるのだろうかという期待。まるで初めてカードと触れ合った時のような、そんな楽しさがある。
「俺のターン、ドロー!」
引いたカードを見る。ドローしたのはモンスターカード。暗黒界をその名に冠さない闇属性悪魔族モンスター。
そして丈は自分が幸運を手繰り寄せた事を確信する。デッキはしっかりと自分の願いに応えてくれた。
「俺はトランス・デーモンを攻撃表示で召喚!」
【トランス・デーモン】
闇属性 ☆4 悪魔族
攻撃力1500
守備力500
1ターンに1度、手札から悪魔族モンスター1体を捨て、
このカードの攻撃力をエンドフェイズ時まで500ポイントアップする事ができる。
自分フィールド上のこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
ゲームから除外されている自分の闇属性モンスター1体を選択して手札に加える事ができる。
「えっ? 攻撃表示? ブラック・マジシャン・ガールよりも攻撃力が劣ってるのに……」
「確かに攻撃力は劣ってる。けどこいつには手札の悪魔族を捨てることで攻撃力を500ポイント上げる特殊能力がある。俺が棄てるカードは……暗黒界の龍神グラファ!」
「グラ、ファ?」
「不死身の龍神を墓地へ送ることの痛さと恐怖を思う存分に教えてやる」
散々ロックされたことへの苛立ちのせいで、丈はやや過激な発言をする。
墓地に龍神グラファが置かれると、ついに暗黒界の住人達がその力を解き放つ。
【暗黒界の龍神グラファ】
闇属性 ☆8 悪魔族
攻撃力2700
守備力1800
このカードは「暗黒界の龍神 グラファ」以外の
自分フィールド上に表側表示で存在する
「暗黒界」と名のついたモンスター1体を手札に戻し、
墓地から特殊召喚する事ができる。
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合
相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。
相手のカードの効果によって捨てられた場合、
さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。
確認したカードがモンスターだった場合、
そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
「龍神グラファのモンスター効果、このカードが手札から墓地に送られた時。相手フィールドのカードを一枚破壊する。俺が選択するのは魔法族の里!」
「きゃっ!」
フィールドが元のデュエル場へと戻る。
これで魔法カードの使用が解禁となった。思う存分、魔法を使える。
「ここからはずっと俺のターンだ。魔法カード、手札抹殺! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、その枚数分のカードをドローする!」
【手札抹殺】
通常魔法カード
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから
捨てた枚数分のカードをドローする。
「俺が新たに捨てたのは二枚の暗黒界の術師スノウ、狩人ブラウが一枚、尖兵ベージが二枚! よって其々のモンスター効果を発動する!」
【暗黒界の術師スノウ】
闇属性 ☆4 悪魔族
攻撃力1700
守備力0
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、
自分のデッキから「暗黒界」と名のついたカード1枚を手札に加える。
相手のカードの効果によって捨てられた場合、
さらに相手の墓地に存在するモンスター1体を選択し、
自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する事ができる。
【暗黒界の狩人ブラウ】
闇属性 ☆3 悪魔族
攻撃力1400
守備力800
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
相手のカードの効果によって捨てられた場合、
さらにもう1枚ドローする。
【暗黒界の尖兵ベージ】
闇属性 ☆4 悪魔族
攻撃力1600
守備力1300
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、
このカードを墓地から特殊召喚する。
「術師スノウの効果によりデッキから龍神グラファ二枚をサーチ! 更に一枚ドロー! フィールドにベージ二体を特殊召喚!」
「えっ? ええぇ!?」
「まだまだぁ! フィールド魔法、暗黒界の門発動。ついでに暗黒界の取引も発動!」
【暗黒界の門】
フィールド魔法カード
フィールド上に表側表示で存在する
悪魔族モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
1ターンに1度、自分の墓地に存在する
悪魔族モンスター1体をゲームから除外する事で、
手札から悪魔族モンスター1体を選択して捨てる。
その後、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
【暗黒界の取引】
通常魔法カード
お互いのプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローし、
その後手札を1枚選んで捨てる。
「暗黒界の取引の効果で一枚ドローして龍神グラファを捨てる。更に暗黒界の門の効果で墓地の術師スノウを除外、龍神グラファを捨てて一枚ドロー!」
「え? ちょっとタンマ――――――」
「二枚の龍神グラファのモンスター効果、ブラック・マジシャン及び一族の結束を破壊! そして再び暗黒界の門を発動しフィールドを上書き。今度は狩人ブラウを除外して尖兵ベージを捨てる! そしてベージの効果でフィールドにベージ復活!」
「そ、そんなまさか……」
「準備は整ったぁ! 墓地の龍神グラファのモンスター効果、フィールドの暗黒界と名のつくモンスターを手札に戻すことによって、このカードをフィールドに特殊召喚する! 俺は三体のベージを手札に戻し龍神グラファ三体を墓地より蘇生!」
地響きと共に三体の龍神がその巨大な口を開けて姿を現す。その攻撃力は「暗黒界の門」の効果で上昇しており3000。最上級モンスター三体が並ぶ光景は壮観そのものである。尤も丈だからこそそう思えるのであり、対戦相手のマナからしたら最悪な気分だろう。
「ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は2000。墓地に師匠がいることで攻撃力は300上昇しているけど、それでも2300。これでジ・エンド」
「そ、そんなぁ~。ワンターンでいきなり最上級モンスターが三体なんて」
「龍神グラファ三体の同時攻撃! アルティメット・ダークネス・ストリームッ!」
「きゃぁあああ!」
マナ LP4000→0
マナのライフが一気に0を刻んだ。一瞬、会場にいる観客たちは何が起きたのか分からずに混乱していたが、それもマナのライフが0になるまで。敗北したのが誰で、勝利者が誰かが分かった途端に観客席が騒がしさを取り戻す。
男性陣からは嘆きの声、一部の女性陣からは品のない野次、そして一部の心温まる賛辞の声。
『き、決まったぁぁぁぁぁ! ま、まさかの超大逆転! 魔法カードと罠カードの双方を封じられ絶体絶命かに思われた宍戸丈! まさかの逆転。僅か1ターンで三体の最上級モンスターを特殊召喚、そこからの流れるようなダイレクトアタック! 凄い! 圧倒的なる強さ! 未だ嘗て見たこともないパワー! 強い! これが究極のダークホース、あのカイザー亮に並ぶデュエリストの実力なのかぁ!? 宍戸丈、いいや「魔王ジョー」! これはこの大会、当初の予想を大きく外れた展開となりそうだぞぉ』
「…………は?」
(おいおい魔王はないだろうが魔王は。それじゃあ俺が悪役みたいじゃないか!)
龍神グラファという最大級の鬼畜モンスターを使用していながら、丈はそうMCに文句の念を送る。しかしMCは根性はあろうと単なる人間。テレパシーも読心術を嗜んでもおらず、丈の心が届くことはなかった。
「うぅ~、負けちゃった。今度は負けないからね、魔王さん」
「魔王はやめぃ」
マナがウィンクをしながらそう言う。
しかし疲れた。ロックデッキを相手すると心なしか普通のデュエルの十倍は疲れる気がする。別にロックを批判する気はないが、このズッシリとくる疲労感ばかりはなんともしがたい。
嘆息しつつ少しだけ頭を下げた、その時だった。不意に首を上げると既にそこにマナの姿はない。
(そっか、元の場所に還ったのか)
誰もいない虚空を何気なしに見つめる。
普段はなんとも思わない何もない場所、しかしもしかしたら自分が知らないだけで精霊たちは自分達のことを見守っていてくれているのかもしれない。デッキに感謝の念を送るようにデッキを撫でると、丈はデュエル場を後にした。
グラファってば最強ね!