宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第29話  サイコ流の誕生、そしてリスペクトの精神

 人造人間サイコ・ショッカー。

 デュエルモンスターズをある程度知るものなら一度はこのモンスターの名を耳にした覚えがあるだろう。

 このモンスターがフィールドに表側表示でいる限り罠カードは永久封印され、聖なるバリアや次元幽閉などの強力な罠の悉くが無為と化す。効果を抜きにした能力も、星6の上級モンスターで2400という中々の攻撃力を持ち、闇属性機械族ということでサポートカードも豊富だ。

 上級モンスターは2400、という目安もこのカードが作ったといっていいだろう。伝説のデュエリストの一人、城之内克也が使用したということもありサイコ・ショッカーは瞬く間に有名カードとして名を馳せるようになった。

 そんなサイコショッカーを流派の粋にまで昇華したのがサイコ流である。

 人造人間サイコ・ショッカーを切り札としたサイコ流は、多くのプロデュエリストを排出しデュエルモンスターズ界にその名を轟かせるであろうと、そう思われていた。あの流派の存在が世間に知られるまでは。

 サイバー流。それはサイコ流とほぼ同時期に誕生したデュエル流派。サイコ流がサイコショッカーを切り札とするのに対して、サイバー流はサイバー・ドラゴンとその融合体を切り札とした流派だ。

 一般大衆というのは大概にして無知だ。プロリーグの観戦に来る観客だって、その殆どはデュエルのなんたるかを知らないミーハーの素人ばかり。プロリーグで行われるデュエルにどれだけの読み合いや戦術が使われているか理解している客など半分もいれば上々だ。そして素人に限って、単純に攻撃力の高いモンスターを持て囃す傾向がある。

 サイバー・ドラゴンは機械族専用融合カード、パワーボンドと組み合わせることにより簡単に攻撃力8000オーバーのモンスターに化ける可能性をもったカードだ。普通のデュエルでは攻撃力の上限など精々3000か4000だというのに、サイバー・エンドは容易く8000……或いは10000越えすらも達成してしまう。そのパワーとエネルギーに観客は魅せられた。

 大衆がサイバー流を賛美すれば、やがて玄人と呼ばれる者達にも僅かながらの心境の変化も出てくる。社会の波に流されるように、サイコ流の門下生は一人、また一人とサイバー流へと流れていった。

 サイコ流とて努力はした。

 人造人間サイコショッカーというカードが持つ罠封じ効果の強力さにも熱く語って聞かせた。しかし帰ってくるのは大抵が同じようなこと。

 

「あぁ、それってサイコ・ショッカー?」

 

「ショッカーは拾った」

 

「こんなカードオレは36枚持っているよ…」

 

「禿とか要らね」

 

「ダサいんだよ禿」

 

「禿よりサイバー・ドラゴンでしょ。格好よさが段違いだって」

 

「ていうか罠封じとか外道じゃね?」

 

「つぅかサイコ・ショッカーとかどう見ても悪役ですから」

 

「検診のお時間だ!」

 

「おい、デュエルしろよ」

 

「麻婆!」

 

 世間の認識はとてもじゃないが暖かいとは言えないものだった。

 何が外道流派だ。外道というのなら突然攻撃力8000だとか160000だとかを出してくるサイバー流の方が余程外道ではないか。そう猪爪は訴えたが、やはり風向きは何も変わらない。世間の風は禿に冷たいのである。

 それでもサイコ流免許皆伝、猪爪は諦めたりはしなかった。

 サイコ・ショッカーを世間が見捨てるというのなら、改めてサイコ・ショッカーの力を示してやる。どれだけサイコ・ショッカーというモンスターが素晴らしいのか、それを再認識させてやろうじゃないか。

 大衆の賛美するサイバー流を倒して。

 

「それが俺がこの大会に参加した目的だ。あのマスター鮫島からサイバー流デッキを受け継ぎ若干12歳でサイバー流後継者となった男、丸藤亮! 俺はお前を倒す事をもって、サイコ・ショッカーの力の証明とする!」

 

 猪爪は本気だ。固い信念と強い覚悟をもってこの大会に参加してきている。

 ならば、と。亮は猪爪に負けぬ力強い視線で対峙する。

 もし自分がわざと負ければ、サイコ流がサイバー流を上回った事の証明にはなるだろう。これほどの大観衆の前で負ければ必然そうなる。だが、それでは猪爪が納得しない。猪爪もまた一人の誇り高きデュエリスト。だとすれば自身もまた最高のデュエルを持って相手をしなければならないだろう。

 それがリスペクトというものだ。

 

 

 

丸藤亮 LP2800 手札四枚

場  サイバー・ヴァリー

 

猪爪誠 LP4000 手札三枚

場 無し

伏せカード1枚

 

 

 デュエルが再開される。

 幸いにして相手フィールドにモンスターはいない。今ならばがら空きの所を攻撃できる。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 しかし猪爪とて伊達にサイコ流免許皆伝を名乗っているのではない。

 そう安々と直接攻撃を許してはくれなかった。

 

「お前がドローしてスタンバイフェイズになった瞬間、俺はリバースカードを発動。永続罠リビングデッドの呼び声!」

 

 

 

【リビングデッドの呼び声】

永続罠カード

自分の墓地のモンスター1体を選択し、表側攻撃表示で特殊召喚する。

このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。

そのモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

 

 

 

「俺は天使の施しで墓地に捨てていたサイコ・ショッカーをフィールドに特殊召喚。更に墓地から蘇生したサイコ・ショッカーのモンスター効果、リビングデッドの呼び声の効果を無効とする!」

 

 

 

【人造人間サイコ・ショッカー】

闇属性 ☆6 機械族

攻撃力2400

守備力1400

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

お互いに罠カードを発動する事はできず、

フィールド上の罠カードの効果は無効化される。

 

 

 

 サイコ・ショッカーの効果でリビングデッドの効果が消え、サイコ・ショッカーは完全蘇生を果たした。リビングデッドとサイコ・ショッカーの組み合わせはサイコ・ショッカー使いでなくとも知っているメジャーなコンボの一つである。

 

「人造人間サイコ・ショッカーか」

 

「どうした? 我がサイコ流のエースモンスターに恐れをなしたのか丸藤亮。サイバー流がサイコ流に劣ることを認めサレンダーをするならここで終わらせてやってもいいが」

 

「フッ。悪いが俺の辞書にサレンダーなどという単語は一切記述されてはいない。自分の引導は自分で渡す。それが俺だ! カードを一枚伏せ俺は場のサイバー・ヴァリーを生贄に捧げる!」

 

「生贄召喚をするつもりか! 一体を生贄ということは……クククッ、貴様も自身のエースモンスター、サイバー・ドラゴンを呼び出し雌雄を決しようというのか。面白いぞ、それこそ待ち望んだ展開!」

 

 サイバー・ドラゴンの星は5。

 攻撃力は2100の半上級モンスターだ。サイコ・ショッカーの2400には劣るが、装備魔法などで強化すれば超えられない数値ではない。だが、

 

「違うな」

 

「っ?」

 

「俺が召喚するのはサイバー・ドラゴンじゃあない。ましてやサイバー流のモンスターですらない」

 

「サイバー流のモンスターじゃないだと! だとしたら、何のモンスターを召喚するというんだ!?」

 

「そのカードは俺の友とトレードで譲り受けたカードであり、俺がサイバー・ドラゴンと同じように信頼しリスペクトするカードの一枚だ。お前にも見せてやる。出でよ、人造人間サイコ・ショッカー!」

 

「な、なにぃぃぃぃいいい! さ、サイコ・ショッカーだとぉ!?」

 

『こ、これはどうしたことだぁぁぁぁぁッ! サイバー流後継者、丸藤亮! 自身のエースカードであるサイバー・ドラゴンではなく、召喚されたのはなんとなんと! 対戦者サイコ流継承者猪爪選手のエース、人造人間サイコ・ショッカーだぁぁぁぁあッ!』

 

 猪爪が自分のサイコ・ショッカーの前に立つサイコ・ショッカーを信じられないもののように見る。いや、事実として猪爪には信じられないのだろう。サイバー流正統継承者である丸藤亮が、よもや外道流派と罵られ迫害されてきたサイコ流のカードを使うなどと。

 鏡に映る影のように対面した二体のサイコ・ショッカーはお互いを威圧するかのように、そのオーラを増していく。

 

「そして速攻魔法リミッター解除! 人造人間サイコ・ショッカーの攻撃力を二倍にする!」

 

 人造人間サイコ・ショッカー(丸藤亮) 2400→4800

 

 亮のサイコ・ショッカーが自身に掛けられていたリミッターを外すことで、刹那のオーバーパワーを得る。猪爪のサイコ・ショッカーの攻撃力が超えられた。

 

「人造人間サイコ・ショッカーの攻撃、サイバー・エナジー・ショック!」

 

 猪爪誠 LP4000→1600

 

 見慣れた攻撃。慣れ親しんだ攻撃名。それと共に放たれるサイコ・ショッカーの攻撃を猪爪は初めて自分自身で受けた。

 

「これが俺の返答だ猪爪! サイバー流もサイコ流も関係ない。俺はこの地上に存在するあらゆるカードをリスペクトしている! これが俺のスーパーリスペクトデュエルだッ!」


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