宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第193話  相反する表裏

 海馬ドームに集まった観客の誰もが、絶体絶命の状況を新たなる切り札たちで覆したカイザー亮の華麗なる戦術に酔いしれていた。

 カイザー側の観客とエド側の観客のムードはまるっきり逆転し、会場には来れなかったデュエリスト達も今頃はサイバー流の強さに感動でも覚えている頃だろう。

 しかし極一部――――カイザー亮という偶像ではなく、丸藤亮を知る人間達の反応はまるっきり逆のものだった。

 不動博士の好意で研究室のTVを見せてもらっていた丈は、サイバー・ダークを見詰めながら眉間に皺を寄せる。

 

「サイバー・ダーク……………これは、ちと不味いかもしれないな……」

 

「君がそこまで深刻になるとは、サイバー流裏デッキはそんなに危険なのか?」

 

「そうじゃない。確かにサイバー・ダークは危険なカードだ。こうしてTV越しでも貪欲なまでの力への渇望がびんびん感じる。下手なデュエリストなら、サイバー・ダークの持つ『力への渇望』に生命力を奪われ、身体を傷つけていくだろう。

 だが亮は三邪神やダークネスとも一歩も引かずに戦い抜いたデュエリスト。今更サイバー・ダークの渇望にやられるほど軟じゃないはずだ」

 

 研究を休みにして、丈と一緒にTVを見ていた不動博士の疑問に応える。

 サイバー・ダークは危険なカードであるが、流石に三邪神や三幻魔のように世界そのものを壊すほどの力は持っていない。四天王の一員であり、幾度となく世界の危機に巻き込まれた亮ならば抑え込むことは難しくはないだろう。

 

「ならば何が危険なのだ?」

 

 不動博士の疑問は同じようにデュエルを視聴していたルドガーとレクスも抱いたようだ。その視線を丈へ向ける。

 

「難しく考える必要はない。デュエルの勝敗だよ」

 

 一方その頃。久方ぶりに実家へ帰郷していた藤原は、従兄妹の雪乃に丈とまったく同じ話をしていた。

 藤原は裏サイバー流のカードであるサイバー・ダーク・ホーンと、禍々しくはあるがサイバー流表デッキに分類されるキメラテック・ランページ・ドラゴンを見比べる。

 

「デュエルの勝敗? それのなにが危険なのかしら? 私にはどこからどう見てもカイザーが押しているように見えるのだけれど」

 

「今のところはね。だけど所詮は今現在の戦況さ。別にエドのライフが0になったわけでもなんでもない」

 

 ある一定以上の実力をもつデュエリスト同士が戦った場合、戦況がターン毎にコロコロと逆転するのはよくあることだ。デュエル・アカデミア時代も四天王同士でデュエルをすれば、何度もそういう事態が発生した。

 エドの手札はゼロで、亮のフィールドにはサイバー・ダーク・ホーンとキメラテック・ランページ・ドラゴン。だがそういう劣勢をたった一枚のドローで覆せるのがデュエルモンスターズというものである。

 

「理屈は分かるけれど、そんなことは他のプロとのデュエルでもあることでしょう。あのカイザーにとってエド・フェニックスは貴方や他の四天王以上にトクベツな男なの?」

 

「それは違うよ」

 

 特別のところを妙にエロティックな響きで発音したことはスルーして、藤原は冷静に続ける。

 

「今回のデュエルがいつもと違うのは、亮のデッキにサイバー流裏デッキのカードが投入されていることさ。一口に表と裏といっても、デュエルを見る限りサイバー流裏デッキ……サイバー・ダークの動き方は、表サイバー流とかなり異なる」

 

「慣れないデッキを使っているから100%の力を出し切れない…………そういうことなのかしら?」

 

「いいや」

 

 藤原が口を開くよりも早く、自室で最愛の妹からの電話を受けていた吹雪が答える。

 吹雪もまた他の二人と同じように、カイザー亮VSエド・フェニックスのデュエルを視聴しながら、珍しく厳しい目をしていた。

 

「亮はサイバー流の爆発的火力ばかりが注目されがちだが、パワーを活かすためのテクニックもトップクラスだ。表サイバー流とは異なるサイバー・ダークも100%力を引き出すことが出来るはずだよ」

 

『意味が分からないわ。サイバー・ダークを100%使いこなせているのに、どうして兄さんは亮が危険だなんて言うの?』

 

「アスリン。カイザー亮というデュエリストはね。僕達『四天王』の中で最もカードへの愛が深い男なんだ……。僕達のカードへの愛が浅いとか言うんじゃないよ? でもね、亮ほどたった一枚のカードを一途に愛せる男なんて、それこそ僕は他に海馬社長くらいしか知らない」

 

 世界に四枚しかないと伝えられる『青眼の白龍』を誰よりも愛した海馬瀬人という男は、余りにも強烈過ぎる愛から、強引な手段を用いてでも『青眼の白龍』を独占し、自分のものにならなかった一枚は破き捨てたという。

 流石に亮は他の誰かがサイバー・ドラゴンを使っても同じ凶行などしたりはしないだろうが、サイバー・ドラゴンに深い愛をもっているのは間違いない。

 

「確かに亮ならサイバー・ダークを100%使いこなせる。だけどこれまで亮はサイバー・ドラゴンの力を300%引き出していたんだ。或は亮が使っているのが純粋なサイバー・ダークだけのデッキで、サイバー・ドラゴンはサポート程度なら問題は起こりはしなかったかもしれない。

 けれど亮が使用しているのは、これまでのデュエルを見る限り表と裏を兼ね備えた表裏一体。これじゃ表が裏を、裏を表が足を引っ張って十分に力を発揮できないよ」

 

 余りにも表サイバー流を極めすぎてしまったが故に、それ以外の異物が混ざるとバランスを崩してしまう。

 亮の強さはサイバー・ドラゴンへのひたむきな愛を柱としたものだったが、サイバー・ダークという表にとっては異物なものを投入したことで、逆にサイバー・ドラゴンへの愛が重荷となってしまっているのだ。

 

「うーん。例えるならサイバー・ドラゴンは十年来付き添ってきた王妃で、サイバー・ダークはいきなり王が連れてきた第二王妃といった感じかな? ほら、正妻と愛人のドロドロした関係だよ。離婚調停とかでもよく見るあれさ」

 

『兄さん。その例えは分かり易いけど、なにかがおかしい気がするわ』

 

「そうかい?」

 

『でも――――――だけど私には、あのカイザー亮が負けるとは思えないわ。だいたいエド・フェニックスは幾らプロといっても、私や十代達よりも年下じゃない』

 

「明日香。それはエド・フェニックスを舐めすぎだよ」

 

 ネオ・グールズとの戦いやダークネス事件。それらを悉く解決に導き、また常勝無敗を誇った四人のデュエリスト達。デュエル・アカデミアの生徒達にとって『四天王』という存在は、ある種の信仰とすらいえる程のカリスマをもっていた。

 それは天上院吹雪の実妹で、四天王に近い位置にいた明日香とて同じである。あのカイザー亮がデュエルで遅れをとるはずがない――――そんな考えがあるのだ。恐らく明日香だけではなく万丈目は翔、あの十代にまでも。

 

「エド・フェニックスはあのHEROシリーズやプラネットシリーズを世に送り出したカードデザイナー、フェニックス氏の息子だぞ。しかも彼の親代わりなのはアメリカ・アカデミアのマッケンジー校長で、後見人はあのDDだ。

 言うなればエド・フェニックスという男は、デュエルモンスターズ界のサラブレッド。万全だったとしても、必勝を誓えるような相手じゃないよ。ましてや万全の力を発揮できない今の亮じゃ、勝つのは厳しいかもしれないね」

 

 吹雪はそう締めくくった。

 場所こそ異なるが不動博士、雪乃、明日香は、カイザーを知る三人のデュエリストの下した評価に沈黙する。

 しかしやはり三人はほぼ同時に悪戯っぽく笑うと、

 

「もっとも亮が負けるとは言ってないけれど」

 

 

 

 

 

 

 

カイザー亮  LP1900 手札1枚

場 サイバー・ダーク・ホーン、キメラテック・ランページ・ドラゴン

伏せ 一枚

 

エド・フェニックス LP1300 手札0枚

場 バトルフェーダー

伏せ 一枚

 

 

 

 丈、吹雪、藤原の三人が言っていたことなどは、当の本人である亮自身が一番身に染みて理解していた。つい先程のターンで満を持してサイバー・ダークを召喚しておきながら、結局相手モンスターの一掃をキメラテック・ランページ・ドラゴンに任せてしまったのもその証明といえる。

 極端な話をすれば、表サイバー流のギミックを廃除して、サイバー・ダークに特化させてしまった方が勝率は上がる可能性が高い。しかしサイバー流を更なる強さへ到達させるためには、どうしても表と裏を一つとする必要があるのだ。

 その為ならばカイザー亮は敢えて茨にも飛び込む。

 

「どうしたんだ、カイザー。追い詰められているのは僕なのに、そちらのほうが切羽詰った表情じゃないか」

 

「…………」

 

 明日香たちは気付かなかった亮のデッキに起こっている異常。それを実際に対戦しているエドは感付いているのか、見透かしたように言ってきた。

 亮は腕を組んだままポーカーフェイスでエドの言葉を聞き流す。

 

「僕のターン、ドロー。僕の手札はこれで一枚……………この戦況を打開するには、手札が心許ない。なので一つ休憩といこう。僕は一時休戦を発動。このエフェクトにより互いのプレイヤーはカードを一枚ドローし、次の相手ターンが終了するまで互いのプレイヤーはダメージを受けない」

 

 

【一時休戦】

通常魔法カード

お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。

次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 

 

 これで亮がターンを終了するまでエドも亮もダメージを受けることはなくなった。

 相手にもドローさせるというのが難点であるが、手札を消費せずにターンを引き延ばせる一時休戦は良いカードである。丈が前に『便乗』とのコンボを使用していたので、その効果は亮もよく覚えていた。

 

「僕はこれでターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。バトルだ、サイバー・ダーク・ホーンでバトルフェーダーを攻撃」

 

 一時休戦はあくまでもダメージを0にするだけ。モンスターを戦闘破壊することは可能だ。サイバー・ダーク・ホーンの攻撃で亮の勝利を妨害したバトルフェーダーは破壊される。

 効果によって特殊召喚されたバトルフェーダーは除外されるので、このデュエル中にバトルフェーダーが再利用される可能性は低いだろう。

 

「メインフェイズ2。リバースカードを一枚伏せターンエンドだ」

 




表サイバー「裏に浮気するなんてカイザーの馬鹿! もう離婚よ!」

裏サイバー「カイザーは私のものだ。元嫁……もとい表は消えろ」

混沌帝龍「光と闇が喧嘩してるせいで出てこれない件」

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