宍戸丈 LP800 手札6枚
場 無し
小山内 LP4000 手札3枚
場 サクリファイス、マンジュ・ゴッド
根本から腐っていようと教師は教師ということか。デュエルの腕もそれなりにはあるらしい。しかし変態はミスを犯した。あのターンで勝利を決めておくべきだったのだ。
自分のターンのドローで丈の手札は合計七枚。逆転のカードは揃っている。
「俺のターン! 俺は手札の沼地の魔神王を墓地に捨てる。沼地の魔神王のモンスター効果、このカードを手札から墓地に送ることでデッキから融合を手札に加える。俺は手札のE・HEROオーシャンとキャプテン・ゴールドを手札融合、現れろ絶対零度の戦士! 最強のヒーロー、E・HEROアブソルートZero!」
【E・HEROアブソルートZero】
水属性 ☆8 族
攻撃力2500
守備力2000
「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する
「E・HERO アブソルートZero」以外の
水属性モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードがフィールド上から離れた時、
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
「俺は手札からもう一枚のE・HEROオーシャンを守備表示で召喚。オーシャンの属性は水。そしてアブソルートZeroはこのカード以外の水属性モンスターの数だけ攻撃力を500上昇させる」
「攻撃力3000!?」
「アブソルートZeroでマンジュ・ゴッドを攻撃、瞬間氷結-Freezing at Moment-!」
アブソルートZeroが発生させた絶対零度の氷結がマンジュ・ゴッドを氷漬けにする。氷のオブジェは暫くするとそのままバリバリとひびが入っていき砕けてしまった。
小山内 LP4000→2400
「やるわね。入学試験をナンバーツーの成績で突破したのは伊達じゃないということかしら」
「俺は更にリバースカードを一枚セット、ターンエンド」
「私のターン、ドロー。強欲な壺を発動して更に二枚ドロー。ふふふふふ。攻撃力3000……その高い攻撃力が仇となったわね」
「え?」
「不味いぞ丈! サクリファイスには戦闘ダメージを相手にも与える効果がある!」
「つまりサクリファイスがアブソルートZeroに自爆特攻を仕掛ければ……丈のライフは800、丈の負けだ!」
亮と吹雪がそう訴えるが既に遅い。
丈はエンド宣言をしてしまった。既にターンは変態の方へと移っている。
「頭の良い子たちね。私、好きよ。お勉強のできる子は。だから安心していいわ。自爆特攻なんて下品なことはしない」
「…………」
お前の存在の方が余程下品だ、とは思っても言わない。
「その代わりとっておきで逝かせてアゲル。私は二体目のマンジュ・ゴッドを召喚。高等儀式術を手札に加える。更に装備魔法リチュアル・ウェポンをサクリファイスに装備。これで用意は整ったわ」
【リチュアル・ウェポン】
装備魔法カード
レベル6以下の儀式モンスターのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力と守備力は1500ポイントアップする。
「これでサクリファイスの攻撃力は3300ポイント! アブソルートZEROを上回ったわ。だけどまだ終わりじゃないのよ。私はもう一枚のリチュアル・ウェポンをサクリファイスに装備。その攻撃力がまた1500上昇。これでサクリファイスの攻撃力は4800、あの青眼の究極竜すら上回ったわぁ~」
「わお」
サクリファイスがみるみる内にそのオーラを増していき、同時に攻撃力と守備力を高めている。エアーマンと同じ1800の下級アタッカーが今では4800の大台。青眼の究極竜を超えたと言うのも誤りではない。
「どう? 今サレンダーするなら優しく苛めてあげるわよ」
「冗談」
苦境に追い込まれながらも丈はニヤッと笑って見せる。
「あら、サクリファイスが恐くないのかしら? それとも強がり?」
「おあいにく様ですよ。攻撃力4800? まだまだ温いって。どこぞの火力馬鹿とデュエルしていたら攻撃力4000なんて当たり前。8000だって日常だ。酷い時は30000は超える。今更たかが4800で驚いてたまるかこのところてんの助」
「丈、まさかその火力馬鹿とは俺のことじゃないだろうな」
「初手にサイバー・ドラゴン三枚とパワーボンドを集めたことを俺は忘れない」
亮の言葉を適当にあしらう。
前に後攻ワンターン目からサイバー・エンド・ドラゴンの正規融合を見た時は本気で積み込みじゃないかどうか疑った。これで本当にいかさまならまだ救いがあるのだが、ただの偶然というのだから洒落にもならない。
「……その反応は可愛くないわね。いいわ身の程を教えてあげる。バトル! サクリファイスでアブソルートZeroを攻撃、これで終わりよ!」
「トラップ発動! 亜空間物質転送装置!」
【亜空間物質転送装置】
通常罠カード
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
このターンのエンドフェイズ時までゲームから除外する。
「これによりアブソルートZeroを亜空間へ転送! サクリファイスの攻撃はアブソルートZeroに届かない!」
「あはははははははは。トラップだからどんなカードかと思えば。アブソルートZeroを逃がしたと言ってもまだサクリファイスの攻撃は終わってない。貴方のフィールドには壁モンスターが一体だけ。それを破壊すればモンスターの追撃で貴方のライフはゼロ。私の勝利よ」
「そ れ は ど う か な」
「は?」
「アブソルートZeroがフィールドを離れたことにより、アブソルートZero最後の特殊能力が起動する!」
「まだ効果を備えていたというの!?」
「アブソルートZeroはフィールドを離れた時、相手フィールド上のモンスターカードを全て破壊する。つまり」
亜空間から絶対零度の冷気が変態のフィールドにいるモンスター達を瞬時に凍らせる。マンジュ・ゴッドの時と同じく氷に段々とひびが入っていき、壊れて消滅してしまった。
「私のサクリファイスが……」
「サクリファイスの相手にもダメージを与える効果は戦闘時のみ発生する。効果の破壊にはサクリファイスは無力だ。効果破壊耐性もないし」
「くっ。可愛くない子! でもまだよ! こんなこともあろうかと私は奥の手を用意していたわ! バトルフェイズを終了させメインフェイズ2に移行! 手札から高等儀式術を発動!」
【高等儀式術】
儀式魔法カード
手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が
同じになるように自分のデッキから通常モンスターを墓地へ送る。
選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。
「私はデーモン・ソルジャー二体を墓地へ送り、手札から仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーを攻撃表示で召喚!」
【仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー】
闇属性 ☆8 悪魔族
攻撃力3200
守備力1800
「仮面魔獣の儀式」により降臨。
馬のような下半身と人間の形をした上半身。馬のような体には所せましと装着された不気味な仮面。しかし多様な面相の仮面に相反するようにその頭部には顔というものがなかった。
「私はこれでターンエンド。さぁ貴方のターンよ、たぶん最後の」
「エンドフェイズ時にアブソルートZeroはフィールドに戻ってくる。そして俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズにフィールドのE・HEROオーシャンのモンスター効果を発動。墓地のE・HEROキャプテン・ゴールドを手札に加える」
「あはははははははは! アブソルートZeroの攻撃力は3000! 亜空間物質転送装置で戻ってきたアブソルートZeroで私に直接攻撃しようとしてたみたいけどそうはいかないわ」
もしもこの世界に神様というものがいるとして、丈の人生をまるで小説のように眺めているとしたら、面白い運命もあったものだ。
丈の手札には一枚の魔法カードがある。
この運命、折角の機会だ。乗ってみようではないか。
「なら先生に教えてやるぜ。HEROにはHEROに相応しい戦う舞台ってもんがあるんだ」
それはアニメGX第一話の遊城十代と同じ言葉。
ならば必然、丈の手札にあるのはあのカード。
「フィールド魔法、スカイスクレイパー!」
【摩天楼-スカイスクレイパー-】
フィールド魔法カード
「E・HERO」と名のつくモンスターが戦闘する時、攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。
主人公が頻繁に使用したカードだからか、このカードはOCGでなくアニメ効果だ。
地面から次々に高層ビルが生えていき、暗い保健室は一転してアメコミのヒーローが活躍するマンハッタンの街並みのように変わる。
「俺はE・HEROキャプテン・ゴールドを召喚、攻撃表示!」
【E・HEROキャプテン・ゴールド】
光属性 ☆4 戦士族
攻撃力2100
守備力800
このカードを手札から墓地に捨てる。
デッキから「摩天楼 -スカイスクレイパー-」1枚を手札に加える。
フィールド上に「摩天楼 -スカイスクレイパー-」が存在しない場合、
フィールド上のこのカードを破壊する。
「さあ舞台は整った! アブソルートZeroで仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーに攻撃!」
「冗談でしょう? アブソルートZeroの攻撃力はマスクド・ヘルゲイザーの足元にも及ばない」
「HEROは必ず勝ァァァァつ! スカイスクレイパーの効果、自分より攻撃力の高いモンスターとHEROが戦う場合、攻撃力を1000ポイントアップさせるフィールド魔法」
「んなぁんですって!?」
「喰らえ! スカイスクレイパー・フォース・ブリザード!」
小山内 LP2400→1600
アブソルートZeroに氷漬けにされて撃破されるマスクド・ヘルレイザー。
小山内先生のフィールドからモンスターが消える。
「いけぇ! キャプテン・ゴールド! スカイスクレイパー・ゴールド・シュート!」
「ひぎぃぃいいいいいい!」
小山内 LP1600→0
「な、なんとか勝った」
心臓がバグバグいっている。
本当に勝てて良かった。負けたら一生忘れないトラウマが出来ていたかもしれない。
「流石だな。しかし一瞬冷やりとしたぞ」
「悪いって亮。でも勝ったんだしいいじゃないか」
「二人ともそんなに悠長にしてないで、小山内先生が……あ、あれ?」
JOINが固まる。
「あは……ふっふはははははははははは、逃げさないわよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「デュエルには勝ったのに! このショタコン、まだ」
「いいから逃げるぞ! 丈、吹雪! 既に彼女は錯乱している!」
「「りょ、了解!」」
亮に従い保健室から飛び出すと、脱兎のごとく逃げる。
パンドラの箱と同じだ。自分達は決して触れてはならぬものに触れてしまった。あのショタコンにデュエル脳的な理屈を求めてはいけない。早く逃げなければ。
「ショタっ子くんかしたいお! スーハ―スーハ―! くんかくんかくんかァ!」
丈達は兎も角学校の校舎を滅茶苦茶に逃げ回る。
アカデミアの昼は長かった。