宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第172話  光と闇の竜

宍戸丈 LP1550 手札5枚

場 レベル・スティーラー×2

伏せ 無し

魔法 冥界の宝札

 

 

万丈目 LP500 手札4枚

場 ファントム・オブ・カオス、アームド・ドラゴンLV5

伏せ 一枚

罠 リビングデッドの呼び声

 

 

 ライフポイントも手札アドバンテージも宍戸丈の優勢であるが、邪神を撃破したことで確実に流れは自分の方へ持ってくることができた。

 後もうひと押し。もうひと押しで完全に流れを我が物にできる。せめてあと1ターン、このまま攻められれば倒し切る自信が万丈目にはあった。

 だが自分のターンが終われば、次が相手ターンになるのは必然であり自然。流れを断ち切るような、宍戸丈のターンが無情にやってくる。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 本来ならばあのターンで決着をつけたかったが、手札の都合と丈の場にいる二体のレベル・スティーラーが許してはくれなかった。

 最上級モンスターのラッシュに目を奪われがちだが、時に生け贄として、時に壁として墓地より度々蘇生させられるレベル・スティーラーは、宍戸丈のデッキの一番の要なのかもしれない。

 ふと万丈目はそんなことを思った。

 

「場の二体のレベル・スティーラーを生け贄に捧げる」

 

「……くっ! また来るのかっ!」

 

「雷で世界を穿ち貫け。轟雷帝ザボルグを攻撃表示で召喚!」

 

 

【轟雷帝ザボルグ】

光属性 ☆8 雷族

攻撃力2800

守備力1000

このカードは生け贄召喚したモンスター1体を生け贄にして生け贄召喚できる。

(1):このカードが生け贄召喚に成功した場合、

フィールドのモンスター1体を対象として発動する。

そのモンスターを破壊する。

破壊したモンスターが光属性だった場合、

その元々のレベルまたはランクの数だけ、

お互いはそれぞれ自分のエクストラデッキからカードを選んで墓地へ送る。

このカードが光属性モンスターを生け贄にして生け贄召喚に成功した場合、

その時の効果に以下の効果を加える。

●墓地へ送る相手のカードは自分が選ぶ。

 

 

 怨みの力を得た邪帝の次は、轟雷の力を得た雷帝の降臨だ。

 倒しても倒しても、丈のフィールドから最上級モンスターは途切れることがない。敵のライフを刈り取るか、逆に刈り取られるまで延々と最上級モンスターが召喚され続ける。

 

「轟雷帝ザボルグの特殊能力。こいつが生け贄召喚に成功した場合、フィールドのモンスター1体を破壊する。アームド・ドラゴンLV5を破壊する!」

 

「くっ……! しかしこのままやられはせん! 罠発動、和睦の使者!」

 

 

【和睦の使者】

通常罠カード

このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける

全ての戦闘ダメージは0になる。

このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

 

 

 雷がアームド・ドラゴンを打ち抜き破壊する。けれど和睦の使者が発動されたため、轟雷帝ザボルグは『攻撃』でモンスターを破壊しダメージを与えることはできなくなった。

 そしてザボルグにはガイウスと違ってバーンダメージを与える能力はない。

 

「耐え凌いだか。冥界の宝札で二枚ドロー、リバースカードを三枚伏せターンエンドだ」

 

 いきなりLV5を破壊されてしまったのは痛いが、元々LV7が既に墓地へ置かれているため進化がどん詰まりだったのだ。そこまで惜しくはない。

 それに轟雷帝ザボルグは厄介な能力をもっているが、その力はあくまで召喚時点でしか発生しない。よって今のザボルグはただの効果のないモンスターと同じ。

 

「ならば……いける! 俺のターン、ドロー!」

 

 万丈目はドローしたカードを確認して、目を鋭く細めた。

 光と闇の竜。宍戸丈から託され、中等部時代を共に駆け抜けた掛け替えのない相棒。

 高等部に入ってからは自分だけの力で戦うため封印したこともあったが、その存在は片時も忘れたことはなかった。

 

「また……俺と一緒に戦ってくれるのか……光と闇の竜」

 

 光と闇の竜はなにも答えない。ただなんとなく光と闇の竜の絵柄が頷くように光ったような気がした。

 それで万丈目の覚悟は決まった。

 

「いくぞ、宍戸さん! 俺と相棒の力を見せてやる!」

 

「――――くるか!」

 

「手札断殺を発動、手札を二枚捨て、デッキよりカードを二枚ドロー! さらにフィールドのファントム・オブ・カオスの効果を再び発動する!

 俺が除外するモンスターは手札断殺の効果で墓地へ捨てたカイザー・シーホース! こいつは光属性の生け贄に使用する場合、一体で二体分の生け贄とすることができるダブルコストモンスターだ!」

 

「!」

 

 丈の目が見開かれる。万丈目のデッキに投入されている『光属性』で生け贄二体を要求する最上級モンスターがなんなのか、宍戸丈には万丈目の次に分かっていることだろう。

 なにせ光と闇の竜は元々宍戸丈のカードだったのだから。だからこそ宍戸丈を倒すのにこれほど相応しいカードもない。

 

「二体分の生け贄となったファントム・オブ・カオスを生け贄に! 俺と一緒にあの人と戦ってくれ……光と闇の竜!」

 

 

【光と闇の竜】

光属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力2400

このカードは特殊召喚できない。

このカードの属性は「闇」としても扱う。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にする。

この効果でカードの発動を無効にする度に、

このカードの攻撃力と守備力は500ポイントダウンする。

このカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。

自分フィールド上のカードを全て破壊する。

選択したモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 その片翼はまるで天使のように純白の翼だった。純白の翼と同じ純白の肢体は触れるだけで汚れてしまいそうなほど清純だった。

 その片翼はまるで悪魔のように漆黒の羽だった。漆黒の羽と同じ漆黒の肢体は触れるだけで溶けてしまいそうなほど邪悪だった。

 光と闇、二つの属性を重ねもったドラゴン。三年前は万丈目に敗北を齎した光と闇の竜が、今度は勝利を齎すためフィールドに顕現する。

 

「バトルだ! 光と闇の竜で轟雷帝ザボルグを攻撃、シャイニングブレスッ!」

 

「攻撃力は互角。しかし光と闇の竜には破壊された時、墓地のモンスターを特殊召喚する能力がある。敢えて自爆特攻させることで、復活させたモンスターを使い追撃をしかけるつもりなのだろうが甘いぞ

 罠カード発動、針虫の巣窟。デッキの一番上から五枚を墓地へ送る」

 

「……! 光と闇の竜のモンスター効果、このカードの攻撃力と守備力を500ポイントダウンさせ針虫の巣窟の発動を無効にする」

 

「だがこれで攻撃力は下がった」

 

 光と闇の竜の効果が発動したことで攻撃力は2300にまで下がった。既に攻撃宣言はされている。このまま攻撃すれば自滅するだけだが、攻撃を止める術は万丈目にはない。

 もっとも攻撃を止める術がないだけであって、成す術はない訳ではないが。

 

「まだだ! 俺は更にその先をゆく! 俺は光と闇の竜の効果の発動にチェーンして速攻魔法発動、禁じられた聖杯!」

 

 

【禁じられた聖杯】

速攻魔法カード

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。

エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は

400ポイントアップし、効果は無効化される。

 

 

 聖杯の加護が光と闇の竜に齎されて、減少した攻撃力が元に戻り、更に400ポイントの力が加わる。

 かわりに光と闇の竜のモンスター効果は失われたが、それもこのターンの間のみのこと。安い消費だ。

 

「光と闇の竜は同一チェーン上で二度発動を無効にすることは出来ない。更に禁じられた聖杯により光と闇の竜の攻撃力は3200となった。

 今度こそバトルだ! 光と闇の竜、轟雷の化身を漆黒の闇で消し払え! ダークバプティズム!」

 

「……!」

 

 宍戸丈LP1550→1150

 

 轟雷帝ザボルグが光と闇の竜の吐いた闇色のブレスに呑まれ破壊される。

 遂に宍戸丈のフィールドから全てのモンスターが消えた。

 

「バトルフェイズを終了。メインフェイズ2へ移行しリバースカードを二枚セット。ターンエンドだ」

 

「……エンドフェイズ時、メタル・リフレクト・スライムを発動する。そして俺のターン、ドロー」

 

 だが丈の顔に追い詰められた表情はない。寧ろどこか楽しげな表情をしていた。

 楽しげといっても、別に丈が手心を加えているということはない。邪神を繰り出してきたことからしても、間違いなく宍戸丈は全力で向かってきているだろう。

 その笑みに見覚えがある。遊城十代と同じ、ギリギリの攻防を心から楽しむデュエリストの顔だ。

 

「万丈目。お互いエースも殆ど出し尽くした頃合いだろう。恐らくこのターン中で決着がつくはずだ」

 

「……! 望むところだ。アンタがこのターンで俺のライフを削れればアンタの勝ち、そうでなければ――――」

 

「俺の負けだろう。だが俺にも四天王としての意地がある。学生時代最後のデュエルで負けるわけにはいかん。悪いが勝ちは俺がもらっていく!

 手始めに墓地のレベル・スティーラーの効果を発動。メタル・リフレクト・スライムのレベルを一つ下げ、このカードを墓地より復活させる。この効果は光と闇の竜によって無効になるが、お前ならばこの先なにが起こるか理解できるだろう?」

 

「くそっ!」

 

 レベル・スティーラーはコストなく墓地から『何度』でも特殊召喚できるモンスターだ。

 よってフィールドにレベル5以上のモンスターがいれば、光と闇の竜の攻撃力守備力を即座に最低値まで落とすことができる。

 

「俺はレベル・スティーラーの効果を四回発動させ、これで光と闇の竜の攻撃力は800、守備力は400まで下がった。これ以上、ステータスを下げることができないため光と闇の竜は無効化効果を喪失する。

 よって俺はメタル・リフレクト・スライムのレベルを二つ下げ、二体のレベル・スティーラーを蘇生させる。ゆくぞ、三体のモンスターを生け贄に神獣王バルバロスを召喚ッ!」

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 最強の従属神バルバロス。その効果は相手フィールド上全てを破壊する。

 こんな効果を使われてしまえば、如何に光と闇の竜が墓地から後続を呼び出す能力を持っていようと終わりだ。

 

「カウンター罠、天罰を発動! 手札を一枚捨て、モンスター効果を無効にして破壊する!」

 

「……いいプレイングだ。だがカウンターならばこちらに一日の長がある! カウンター罠に対してカウンターを発動! 盗賊の七つ道具!」

 

「なんだと!?」

 

「1000ポイントのライフをコストに天罰を無効にする! 更にカウンター罠の発動により、手札から冥王竜ヴァンダルギオンが降臨する!」

 

 宍戸丈LP1150→150

 

【冥王竜ヴァンダルギオン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力2500

相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、

このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

この方法で特殊召喚に成功した時、

無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。

●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。

●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して

自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 宍戸丈のライフが150ポイントとなり、死に限界まで近づく。それでも宍戸丈は死すことなく、手札から冥界の竜が現れる。

 天罰は無効となり万丈目のフィールドのカードは全て破壊された。頼みの綱でもあったミラーフォースも諸共に。

 

「……光と闇の竜の効果だ。墓地のアームド・ドラゴンLV5……いや」

 

 万丈目の手札にカードはなく、墓地にも、フィールドにも発動できるカードはない。

 清々しいまでの完敗だ。デュエルに負けたことの悔しさはある。

 だが自分はやるだけのことは全てやった。全力を出し切ったのだ。デュエルは勝ち負けが全てではないなんて綺麗事を言うつもりはないが、後悔は欠片もなかった。

 真っ直ぐに冥王竜を見据えると、万丈目は自分のデッキのエースの名を呼んだ。

 

「おジャマ・イエローを墓地から復活させる!」

 

「なに? おジャマ・イエローだと?」

 

 これには丈も驚きを露わにする。しかし一番驚いていたのは当の本人、おジャマ・イエローだった。

 

『ちょ、万丈目の兄貴~! こんな時に攻撃力0のアタイを呼んでどうするつもりなのよぉ!』

 

「自分を卑下するな。光と闇の竜が俺の相棒ならば、お前が……いいやお前たちおジャマ三兄弟がこのデッキのエースなんだ。胸を張れ」

 

『ま、万丈目の兄貴? そ、そこまでオイラたちのことを……。それじゃ万丈目の兄貴には、ここからオイラたち兄弟の力で逆転するプランがあるのねぇん?』

 

「いやない」

 

『へ?』

 

「俺のエースならば、俺と共に死ね!」

 

『いやぁああああああああああああああああああ!』

 

「来い、宍戸さん! バトルだ!」

 

「――――ああ! いくぞ、万丈目。冥王竜ヴァンダルギオンでおジャマ・イエローに攻撃! 冥王葬送ッ!」

 

「――――ッ!!」

 

 万丈目LP500→0

 

 ライフポイントが0となって、万丈目は膝をつく。

 全力を出し切ったのだから後悔はない。後悔はないが、やはり負けたことが溜まらなく悔しい。

 拳を握りしめ思いっきり地面を殴りつける。

 

「万丈目」

 

「……宍戸さん」

 

 丈が差し出してきた手を握って、引っ張り起こされる。

 瞬間。周囲からは爆発的な拍手が鳴り響いた。

 

「うぉぉぉおおおお! あの魔王をあそこまで追い詰めるなんて凄ぇぞ万丈目!」

 

「いいデュエルをありがとう!」

 

「素晴らしいデュエルだったノーネ」

 

「サンダー! サンダー! 万丈目サンダー!」

 

「魔王! 魔王! 魔王! 魔王!」

 

 そこに敗者である万丈目を貶める声はなく、ただ二人の健闘を称える歓声だけがあった。

 

「いいデュエルだった。万丈目、学生時代最後に素晴らしいデュエルをありがとう」

 

「……宍戸さん。俺は諦めん、今度はアンタを倒してみせる」

 

「ああ、楽しみにしているよ」

 

 そうだ。まだまだ万丈目準のデュエル人生は始まったばかり。今回負けたのなら次は勝てばいい。

 万丈目と丈は改めて再戦の約束をした。

 


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