宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第166話  極限

 三邪神と三幻魔。デュエルモンスターズ最上位の精霊たちが激突した神話の戦い。そこに居合わせた全員が目撃した。

 宍戸丈。〝魔王〟と畏怖され二代目決闘王に最も近いとまで呼ばれた男。その男のライフが0となって、大地に倒れる様を。

 大地に斃れたまま〝魔王〟はピクリとも動かない。

 古代エジプトから現代にかけて。闇のゲームは時代の流れと共に形を変えてきたが、一つだけ変わらぬことがある。それは闇のゲームの敗者は『死ぬ』という残酷で公平なる掟。

 そしてデュエルモンスターズにも変わらぬことがある。それはライフポイントが0になったデュエリストは敗北するという絶対のルール。

 つまりライフが0になった宍戸丈は、闇のゲームの掟により死んだのだ。

 魔王の死。

 ある者は信じ難い出来事に目を疑い、ある者は絶対的強さの象徴が折れたことに絶望し、またある者は友の敗北に憤怒する。

 

「クククククッヒャーハハハハッハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! 意外に呆気ねえ幕切れだったな、魔王様よぉ~。これでテメエは地獄逝き。オレ様も四年前の因縁も切れてさっぱりしたぜ!」

 

 地獄のような沈黙の中で、否、地獄だからこそなのか。白髪の盗賊王だけは狂ったように笑い声をあげる。

 それを止める者などは誰もいない。止めるだけの気概は、宍戸丈の敗北という絶望的事実が奪ってしまっていた。

 敗者は散り、勝者が勝鬨をあげるのが戦場の倣いならば。それは正しく戦場跡の光景だったといえるだろう。

 しかし中には絶望に折れない精神力を持つ者もいた。

 

「まだデュエルは終わっていない」

 

「あぁ?」

 

「バクラ。今度はこの俺、丸藤亮が相手をする。カイザーの名に懸けて……いや、丈の友として貴様を倒す」

 

「俺もやるぜ、カイザー! クロノス先生だってデュエルに勝てば戻って来たんだ。丈さんももしかしたら……!」

 

「十代、お前は理事長と戦った後なのだから引っ込んでいろ! 魔王の仇討はこの万丈目サンダーがとらせて貰う!」

 

 三邪神やダークネスの事件を潜り抜けてきた亮のみならず、十代と万丈目も自身の精霊に支えながら奮起する。

 それを見てバクラはせせら笑った。

 

「クククククッ。お友達が目の前で殺られた癖に威勢がいいじゃねえか。いいぜ、どうせ長くは保たねえ傀儡の体。消えっちまうまではテメエ等に付き合ってやるよ。三人纏めてかかってきやがれ!」

 

 幻魔の力を得た盗賊王に立ち向かうは十代、万丈目、亮の三人。精霊と心を通わせる力をもつデュエリストたちは、一丸となって邪悪に挑む。

 そう、挑むはずだったのだ。

 

「―――――何を勘違いしているんだ」

 

 地獄の底から響いてくるような声に、世界が停止する。その声を聴いたことでバクラも漸くあることに気付いた。

 

「なっ! ソリッドビジョンが消えて、ねえ……だと!?」

 

 デュエルモンスターズのソリッドビジョンは、デュエルの決着がつくのと同時に自動的に消えるようになっている。これは他のどのデュエルディスクにも共通することだ。

 だというのに未だにバクラのデュエルディスクはデュエル状態で起動したまま。混沌幻魔アーミタイルもフィールドに残り続けている。

 これらが示すことは唯一つ。デュエルはまだ終了していないということだ。

 そして死んだはずの魔王が、朝目覚めるような気軽さで起き上がる。

 赤く輝く妖しい双眸。黒い外套を風に靡かせ、邪神を統べる魔王が復活した。

 

「まだ俺は死んでいないぞ。どうした、もう掛かってこないのか?」

 

 蒼黒いオーラを漂わせながら、丈は冷笑した。

 間違いなく宍戸丈のライフポイントは0となっている。

 どんなデュエリストも超えてはならないラインを超えてしまい、もう戻ることは出来ない奈落の底。

 無限の手札があろうと。無敵のモンスターがいようと、無尽の伏せカードがあろうと。ライフを全て失ったデュエリストに訪れるのは敗北だけ。

 そんな自然法則にも等しい掟を平然と踏み躙り、宍戸丈は生きている。

 

「テメエ……なにをしやがった?」

 

「ライフを0にした程度で魔王を殺れると思うな。俺は不死身だ」

 

「なんだと!?」

 

「俺がダメージを受ける瞬間、手札のこいつが場に特殊召喚されていた……インフェルニティ・ゼロ!」

 

 

【インフェルニティ・ゼロ】

闇属性 ☆1 悪魔族

攻撃力0

守備力0

このカードは通常召喚できない。

自分のライフポイントが2000以下の場合に相手がダメージを与える

魔法・罠・効果モンスターの効果を発動した時、

このカード以外の手札を全て捨てる事でのみ、

このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、

自分はライフポイントが0になってもデュエルに敗北しない。

自分の手札が0枚の場合、このカードは戦闘では破壊されない。

自分がダメージを受ける度に、このカードにデスカウンターを1つ置く。

このカードにデスカウンターが3つ以上乗っている場合、このカードを破壊する。

 

 

 紫色の魔力を纏った、土偶にも似たモンスターが、気配もなく気付けばそこに在った。

 インフェルニティ・ゼロの亡霊めいた雰囲気に誰も声を出すことができなかった。

 

「こいつはライフ2000以下の場合に、相手がダメージを与える魔法・罠・モンスター効果を発動した時、手札を全て捨てることで特殊召喚できる。

 インフェルニティ・ゼロがフィールド上に存在する限り俺はライフが0になっても敗北することはない」

 

「なんだと!?」

 

「デュエルモンスターズにおいてライフポイントは決して0を下回ることはない。魔王は死すことで不死身となった……。フフフ、そしてインフェルニティ・ゼロは手札が0の時、戦闘では破壊されない……」

 

「チッ。んなカードを手札に握っていやがったとはな」

 

 ただし自分がダメージを受ける度に、このカードにデスカウンターが一つずつ置かれていき、三個置かれればインフェルニティ・ゼロは自壊する。

 そうなれば当然ライフポイント0の丈は敗北することになるだろう。

 

「だがこのターン中にその土偶野郎をぶっ殺しっちまえば問題はねえ。混沌幻魔アーミタイルのもう一つの特殊能力を使うぜ。アーミタイルはエンドフェイズまでコントロールを相手に移すことができる。

 オレ様からの復活祝いだ。混沌幻魔アーミタイルをテメエにくれてやるぜ」

 

「……俺にアーミタイルを?」

 

 アーミタイルがバクラのフィールドから、丈のフィールドに移ってくる。

 エンドフェイズ時までとはいえ、レベル12の幻魔を味方にした丈だが、最上級モンスターが存在するが故の安心感などはまるで感じない。

 厭な予感だけが丈の心中に渦を巻いていた。その予感は的中する。

 

「そしてエンドフェイズ時、アーミタイルを除く全てのモンスターをゲームより除外する! インフェルニティ・ゼロが除外されっちまえばテメエも纏めてお陀仏だ。今度こそ死にやがれ!」

 

「やらせはしない。アーミタイルが俺のフィールドに移った瞬間、リバースカードオープン。闇霊術-「欲」、闇属性モンスター1体を生け贄に発動。デッキからカードを二枚ドローする」

 

「なに!?」

 

 

【闇霊術-「欲」】

通常罠カード

自分フィールド上の闇属性モンスター1体を生け贄にして発動できる。

相手は手札から魔法カード1枚を見せてこのカードの効果を無効にできる。

見せなかった場合、自分はデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 通常の幻魔は罠カードの効果を受け付けない。よって闇霊術の効果で生け贄にすることも不可能だ。

 しかし幻魔の中で混沌幻魔アーミタイルにだけは例外が適用される。

 

「アーミタイルは凶悪無比な力を得た代償に、三体の幻魔が持っていたモンスター効果・魔法・罠への耐性を喪失している。よって闇霊術の効果で生け贄が可能だ。

 相手は手札から魔法カードを見せることで効果を無効にできるが、お前の手札はゼロ。よって俺はカードを二枚ドローする」

 

「……っ!」

 

 生け贄にされてしまえばアーミタイルも特殊能力を発動することは出来ない。

 アーミタイルは墓地へ送られ、これでバクラへの攻撃を邪魔するカードはなくなった。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 そして既に止めを刺すためのカードは引き当てている。

 

「フォトン・サンクチュアリを発動、二体のフォトントークンを場に特殊召喚。更に二体のフォトントークンを生け贄に銀河眼の光子竜を召喚ッ!」

 

 

【銀河眼の光子竜】

光属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは自分フィールド上に存在する

攻撃力2000以上のモンスター2体を生け贄にし、

手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップ時、

その相手モンスター1体とこのカードをゲームから除外する事ができる。

この効果で除外したモンスターは、バトルフェイズ終了時にフィールド上に戻る。

この効果でゲームから除外したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、

このカードの攻撃力は、そのエクシーズモンスターを

ゲームから除外した時のエクシーズ素材の数×500ポイントアップする。

 

 

 三幻魔と三邪神の死闘に幕を引くのは銀河の眼をもつドラゴン。

 丈のデッキの切り込み隊長として活躍してくれた銀河眼の光子竜だ。

 

「………………」

 

 バクラは苛々しく銀河眼の光子竜を睨んでいたが、手札とフィールドに一枚のカードもないバクラに直接攻撃を防ぐ術はない。

 墓地から効果を発揮するネクロ・ガードナーのようなカードも、丈の記憶が正しければ存在しないはずだ。

 やがて自分の負けは不可避だと悟ったバクラは、一転して口端を釣り上げる。

 

「ククククッ、宍戸丈……。今回はオレ様の負けにしておいてやるぜ。どうせこのオレ様は本体の影に過ぎねえ。消えっちまったところで本体にはなんの影響もねえんだからなぁ。

 だが覚えておけ。オレ様はいつか再びお前の前に現れ、テメエを殺す。その時はこんな二流デッキじゃねえオレ様自身のデッキで相手してやるよ」

 

「……銀河眼の光子竜で相手プレイヤーをダイレクトアタック」

 

「さぁ。来な!」

 

「破滅のフォトンストリームッ!」

 

「ヒャーハハハハハッハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハーーーーッ!!」

 

 狂笑は止むことはなく。闇の魂は銀河の光に呑み込まれて消えていく。

 バクラのライフポイントがゼロを刻むと同時、アカデミアを覆っていた暗雲は跡形もなく消え去った。さっきまで戦っていたバクラも同じ。

 バクラの立っていた場所に落ちているのは、彼の使っていた三幻魔のデッキだけ。それだけがバクラがここにいたという痕跡だった。

 

「……次は、か」

 

 掌を強く握りしめる。今回はなんとか勝てはしたが、バクラは他人のデッキを即興で使ってあれだけのデュエルをやってのけたのだ。もしもバクラが自分自身のデッキで戦っていれば、勝敗は逆だったかもしれない。

 この勝ちに驕ってはならない。次にバクラと邂逅する時、丈自身も強くなっていなければ確実に敗北するだろう。

 

「俺もまだまだ精進が足りないな」

 

 




【悲報】混沌帝龍エラッタされ釈放、カイザーが更に強化される模様


……というわけで烏と共に遊戯王の環境を文字通りカオスに陥れた混沌帝龍が還ってきてしまいます。それによりI2カップで地味に混沌帝龍をゲットしていたカイザーが更に強くなるという不味い事態が発生しました。正直邪神抜きならカイザーがこのssで一番強いかもしれません。

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