宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第165話  死

宍戸丈 LP1500 手札3枚

場 レベル・スティーラー×2

伏せ 一枚

魔法 冥界の宝札

 

 

バクラ LP1000 手札2枚

場 降雷皇ハモン、神炎皇ウリア、幻魔トークン×2

フィールド 失楽園

 

 

 ウリアとハモンの連続攻撃によって、丈のライフポイントは500まで減らされてしまった。

 プレイヤーのライフを条件なく削るバーン魔法は軒並み禁止されているとはいえ、あのファイヤーボール一枚で消し飛ぶライフである。

 敵の場にモンスターを破壊することで1000ポイントのダメージを与えるハモンがいるため、このターンで挽回しなければ丈に勝機はない。

 だがそんなピンチに置かれて尚も不敵に笑ってみせた。

 

「なにを笑ってやがる? 二体の幻魔のプレッシャーに頭がイカれやがったか」

 

「まさか。これで頭がイカれているのなら、三邪神を目の前にした四年前にとっくにイカれている」

 

「そりゃそうだ」

 

「逆転の布石は既に置かれている。悲観的になるのはまだ早い。俺はこのターンで二体の幻魔を屠り去るぞ」

 

「…………へぇ。デケェ口叩くじゃねえか。ならやってみな、魔王様らしく二言がねえところを見せてみやがれ」

 

「無論だ。俺のターン、ドロー!」

 

 デッキとは数あるカードの中から選び抜かれた試行錯誤の結晶。デュエルという過酷な戦いを共に駆け抜けた最高の朋友。

 故に信じればデッキは応えてくれる。今この瞬間のように。

 

(――――きたか!)

 

 この状況を打破するためのキーカード、正に起死回生のカードが勝利の女神をエスコートして来てくれた。

 女神が態々こんな場所まで来てくれたのならば〝魔王〟としては奮起せねばなるまい。

 

「魔法カード、死者蘇生! 墓地より邪神を復活させる!」

 

「っ! ここで蘇生魔法を引き当てやがったか。だがドレッドルート一体じゃ二体の幻魔を一辺に殺すのは不可能だぜ」

 

「それはどうかな。俺は『邪神』を復活させるとは言ったが、ドレッドルートを復活させると言った覚えはない。俺が蘇らせるのは……邪神イレイザーだ!」

 

「なっ……ん……だとっ!? 馬鹿な、そんなカードをいつ―――――ハッ!」

 

「気づいたようだな」

 

「そうか。THEトリッキーで手札を一枚捨てた、あの時にイレイザーを墓地へ送ってやがったのか。抜け目のねえ野郎だ」

 

「地天よ、遍く消えよ。天空よ、幻と散れ。生きとし生ける者全てを削除する抹殺者、三邪の中で最悪と称されし邪龍。我が敵を殺戮するため顕現せよ! 邪神イレイザー生来ッッ!!」

 

 

【THE DEVILS ERASER】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

A god who erases another god.

When Eraser is sent to the graveyard,

all cards on the field go with it.

Attack and defense points are 1000 times

the cards on the opponent's field.

 

 

 オシリスが天空を舞うのであれば、その邪龍は地獄を這いずる。

 この世界そのものを『無』に呑み込む三邪神最凶最悪の抹殺者。極大の呪いを腸に秘め、邪神イレイザーがここに降臨した。

 同じオシリスをモチーフにしているのであろう三幻魔が一体、神炎皇ウリアが自身の影とすらいえるイレイザーに共鳴し咆哮する。

 幻魔と邪神。二柱の竜の咆哮がぶつかりあい、この世が震撼した。

 

「邪神イレイザーの攻撃力守備力は相手フィールドのカードの数×1000ポイントの数値となる。よってイレイザーの攻撃力は3000ポイントだ。

 このままではウリアには到底及ばない。だが邪神イレイザーが神をも殺す邪神だということは知っているな。その能力はこいつが墓地へ逝った時、フィールドの全てを道連れにする殺戮能力!」

 

「確かにイレイザーならオレ様の幻魔二体を皆殺しにするのも訳はねえ。で、自爆特攻でも仕掛けてくるか? オレ様は構わねえぜ。代わりにテメエの500のライフも巻き添えになっちまうだろうがな」

 

「自爆特攻なぞするつもりはない。――――このターン、俺には通常召喚権が残っている。そう言えば分かるかな?」

 

「――――! まさか、テメエ……」

 

 二体のレベル・スティーラーと邪神イレイザーでフィールドのモンスターは丁度三体。

 奇しくも新たなる『神』を呼び出すための供物が揃っている。

 

「死ぬのはお前のフィールドだけだ。俺はレベル・スティーラー二体と、邪神イレイザーを生け贄にする!」

 

「邪神を生け贄にしやがっただと!?」

 

「天照す日輪よ、黒き太陽の前に汝は退け。万物を凌駕し、その姿を現出せよ! 我が掌中に眠りし無敵の神。邪神アバターよ、起動しろ!」

 

 

【THE DEVILS AVATAR】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

God over god.

Attack and defense point of Avatar equals to the point plus 1 of that of

the monster's attack point which has the highest attack point among

monsters exist on the field.

 

 

 瞬間、この世界から光が消えた。日輪は姿を消し、代わりに闇を凝縮した黒い太陽が世界に出現する。

 フィールドに存在する全てを必ず上回る無敵の神。ラーと同じく最高位に身を置く神が降臨したことで、デュエル・アカデミア全体が暗闇に包まれていく。

 邪神アバターはフィールドで最高の攻撃力を持つモンスターの姿をとる。よって邪神アバターは神炎皇ウリアの姿となった。

 

「邪神アバター……遂に出てきやがったか」

 

「ふふふふふふっ。そしてこの瞬間、墓地へ逝ったイレイザーの呪いが具現化する。イレイザー、お前の怨念でフィールドを抹殺しろ」

 

 生け贄として墓地へ送られたイレイザーの黒い血が、沼のように地面に広がっていく。黒い血沼は丈のフィールドにある永続魔法や失楽園のみならず、降雷皇ハモンと神炎皇ウリアまで奈落に引きずり込んでいった。

 イレイザーの怨念はモンスターのみならず、デュエリストの精神まで呑み込もうとしたが、バクラは邪神をも凌駕する怨念でそれを弾き返す。

 そして邪神イレイザーが万物を呑み込んだ。しかし唯一つ。この全てが削除される虚無にあって暗く輝くものがある。

 

「邪神アバターは最高位の邪神。よってイレイザーの特殊能力は受けない」

 

 虚無地獄が終わった時、フィールドに残っていたのは邪神アバターのみ。フィールドからアバター以外の全てが消えたため、アバターの攻撃力は1となった。

 邪神イレイザーの特殊能力でフィールドを全滅させつつ、自分の場に無敵のアバターだけを残す。これがイレイザーとアバター、二体の邪神を組み合わせた最悪のコンボだ。

 

「チッ。だが守備表示の降雷皇ハモンが破壊されたターン、オレ様はダメージを受けねえぜ」

 

「……俺はこれでターンエンドだ」

 

 これで全ての幻魔を一掃することができた。

 貪欲な壺などの効果で幻魔をデッキに戻したとしても、その特殊な召喚条件から召喚難易度は半端ではない。

 バクラのデッキのように、ゆっくり布陣を整えていくことで強さを発揮するデッキの弱点だ。一度フィールドをリセットされてしまうと、立て直しに時間がかかる。

 

「オレ様のターンだ。カードドロー」

 

 なのに何故だろうか。バクラがあんなにも機嫌良さげに暗黒の微笑を浮かべているのは。

 

「クククククククッ。ヒャーハハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

「……なにが可笑しい?」

 

「三体の幻魔を墓地送りにしてホッと一息つきてぇだろうが――――甘ぇんだよ。このデッキにはどうやら隠された奥の手ってやつがあるらしいぜ」

 

「奥の手、だと?」

 

「クククククッ。まぁそこにいる老い耄れ爺みてえな小物には扱いきれねえだろうし、そこの爺ならサレンダーでもするような状況だろうがな。オレ様は一味違うぜ。

 俺は手札より天使の施しを発動。三枚ドローし二枚捨てる。更に死者蘇生を発動、墓地へ捨てたファントム・オブ・カオスを蘇生させる! 混沌たる亡霊よ、フィールドに現れやがれ!」

 

 

【ファントム・オブ・カオス】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力0

守備力0

自分の墓地に存在する効果モンスター1体を選択し、ゲームから除外する事ができる。

このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、

このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、

選択したモンスターと同じ攻撃力とモンスター効果を得る。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

このモンスターの戦闘によって発生する相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる。

 

 

 バクラのフィールドに現れたのは黒く混沌とした泥の塊だ。

 ファントム・オブ・カオスは墓地のモンスターを除外することで、そのモンスターの全能力を得る変身モンスター。効果を使用すれば幻魔や神の能力すら奪うことが可能だ。

 

「更に速攻魔法、地獄の暴走召喚を発動! こいつは攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚に成功した時、同名モンスターを手札・デッキ・墓地より全て特殊召喚するカードだ」

 

 

【地獄の暴走召喚】

速攻魔法カード

相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に

攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。

その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から

全て攻撃表示で特殊召喚する。

相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、

そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。

 

 

「オレ様はデッキに眠る二体のファントム・オブ・カオスを召喚するぜ。この効果はテメエにも及ぶ。テメエは自分フィールドの同名モンスターを特殊召喚できるが……まさかアバターが二枚もあるはずがねえよなぁ」

 

「くっ……!」

 

 邪神アバターは世界に一枚しかないカード。よって同名モンスターを特殊召喚することは不可能である。

 バクラの場には三体のファントム・オブ・カオス。これで三幻魔全ての能力をコピーすることが可能となった。

 

「だがファントム・オブ・カオスで三幻魔の力を得ようと、邪神アバターを倒すことはできない」

 

「そいつはどうだろうな。オレ様はファントム・オブ・カオスの効果発動! 墓地の三幻魔を除外し、その力を得る!」

 

 幻魔皇ラビエル、神炎皇ウリア、降雷皇ハモン。三幻魔に変身した三体のファントム・オブ・カオスがバクラのフィールドに出現する。

 現身といえど特殊能力は三幻魔そのもの。三体揃うと凄まじい迫力であったが、やはりアバターの前では無力だ。

 

「クククククッ。魅せてやるぜ、こいつがオレ様の切り札だ。魔法カード発動、次元融合殺! 自分フィールドの三幻魔をゲームより除外し、その力を融合させる!」

 

「三幻魔を……融合だと!?」

 

 

【次元融合殺】

通常魔法カード

自分フィールド上に存在する「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」

「幻魔皇ラビエル」をゲームから除外する。

融合デッキから「混沌幻魔アーミタイル」1体を特殊召喚する。

 

 

 ファントム・オブ・カオスは能力をコピーするだけではない。除外したモンスターの『カード名』までも再現する。よって三幻魔融合の礎とするのにはなんの支障もない。

 ラビエル、ハモン、ウリア。三体の幻魔の肉体が溶け合い、ドレッドルートをも超える巨体を形作っていく。

 

「ヒャーハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! 腑抜けのアバターごとテメエを葬ってやるよ! 原初の混沌より生まれ出でよ! 混沌幻魔アーミタイルッ!!」

 

 

【混沌幻魔アーミタイル】

闇属性 ☆12 悪魔族

攻撃力0

守備力0

このカードは「次元融合殺」の効果でのみ特殊召喚できる。

このカードは戦闘では破壊されない。

1ターンに1度、相手モンスター1体に10000ポイントの戦闘ダメージを与える事ができる。

自分のメインフェイズに、

このターンのエンドフェイズまでこのカードのコントロールを相手に移す事ができる。

エンドフェイズ時に、このカードを除くフィールド上の全てのモンスターをゲームから除外する。

 

 

 左半身をウリア、右半身をハモン。体の中枢をラビエル。黄金の翼を羽ばたかせ、紅の尾を震わせて、蒼い頭部で世界を睥睨し。ここに混沌の幻魔が降臨した。

 下手すればアバターをも凌ぐほどのエネルギーの濁流に、アカデミアの結界は崩壊寸前になる。

 後五分もこのままだと結界は消滅し、幻魔の混沌は世界そのもののバランスを崩壊させるだろう。

 

「これが……三体の幻魔を融合させた、原初の姿」

 

「驚くのは早ぇぜ。混沌幻魔アーミタイルの特殊能力。1ターンに1度、相手モンスターに10000ポイントの戦闘ダメージを与える!」

 

「バトルもなしに戦闘ダメージを与えるモンスターだと!?」

 

「混沌幻魔アーミタイル、目障りな邪神を殺し尽せ!」

 

「終わるものか! 邪神にモンスター効果は通用しない!」

 

「無駄なんだよ! アーミタイルは全ての幻魔を融合させた究極の幻魔! 相手が最高位の邪神だろうがお構いなしだぜ」

 

「だ、だが! まだアバターの特殊能力がある。アーミタイルがどれほどの力で向かって来ようと、アバターは必ず攻撃力を1だけ上回る!」

 

「それも無駄だぜ。アーミタイルの能力は相手モンスターに問答無用で戦闘ダメージを与える効果。アーミタイル自身の攻撃力が上昇するわけじゃねえ。よってアーミタイルの攻撃力は0のまま!」

 

 アーミタイルの攻撃力が0ということは、邪神アバターの攻撃力も1のままだ。

 そして攻撃力1のアバターが、10000ポイントの戦闘ダメージを受ければ。

 

「逝っちまいな。全土滅殺転生波ッ!」

 

「ぬっ、うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーッッ!」

 

 宍戸丈LP1500→0

 

 光が、爆ぜる。

 アーミタイルの混沌は邪神アバターごと丈のライフを奪い去っていた。

 

 


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