宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第159話  混沌の剣

宍戸丈 LP1200 手札0枚

場 無し

 

 

田中ハル  LP3500 手札3枚

場 ヴァルキュルスの影霊衣、トリシューラの影霊衣

 

 

 心臓の音がやけに大きく聞こえるのは、高まる緊張のせいか。

 丈の手札はゼロ。リバースカードも壁モンスターも皆無。泣いても笑ってもこのドローで全てが決まる。このドローでなにか引き当てることが出来なければジ・エンドだ。

 

「頼むぞ、俺のデッキ……。ドロー!」

 

 引いたカードを見る。それは形勢を引っくり返す逆転のカードではなかった。されど逆転へ繋げるカードためのカードではある。

 丈は迷わず引いたカードをデュエルディスクに置いて発動させた。

 

「魔法カード、強欲な壺。デッキよりカードを二枚ドローする」

 

「このタイミングでドローソースを引き当てたか。運の良い奴め」

 

「……。モンスターをセット、ターンエンドだ」

 

「だが逆転のカードまでは引き当てられなかったようだな。このターンで決着をつけよう。私のターン、ドロー」

 

 確かに田中先生の言う通りだ。丈は今のターンで逆転のカードを引き当てることはできなかった。

 けれどデュエルモンスターズは、劣勢になった次のターンに逆転しなければ負ける訳ではない。最後までデッキを信じて諦めずに戦うこと、兎にも角にも次のターンに繋げるこそが重要だ。ライフが0になってしまえば、もう戦うことすら出来なくなるのだから。

 それに逆転のキーカードはなくても布石となるカードを引き当てることはできた。後は運を天に委ねるのみ。

 

「手札よりクラウソラスの影霊衣を捨てる。これにより私は影霊衣の降魔鏡を手札に加え、そのまま発動! 墓地のシュリットを除外し、儀式召喚を行う」

 

 墓地のシュリットの魂が鏡に吸い込まれていく。

 影霊衣の術師シュリットは、一体で儀式召喚に必要な生贄となることができるモンスター。故に生け贄にされたレベルから召喚されるモンスターを予想することは不可能だ。

 だが鏡から発せられる魔力(ヘカ)の質から察するに最大級のモンスターが降臨するのは間違いない。

 

「機鋼の甲冑を纏いし龍人が、殺意を宿して進軍する。愚かなる輝きを駆逐せよ! 儀式召喚! 現れ出でよ、ディサイシブの影霊衣!」

 

 

【ディサイシブの影霊衣】

水属性 ☆10 ドラゴン族

攻撃力3300

守備力2300

「影霊衣」儀式魔法カードにより降臨。

レベル10以外のモンスターのみを使用した儀式召喚でしか特殊召喚できない。

「ディサイシブの影霊衣」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードを手札から捨て、

自分フィールドの「影霊衣」モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターの攻撃力・守備力はターン終了時まで1000アップする。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):相手フィールドにセットされたカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを破壊し、除外する。

 

 

 術師の生け贄によって降臨するは神に等しいレベルをもつ最上級モンスター。

 巌のような巨体に、戦車が玩具に思える破壊兵器を装備した龍人。察するにこのモンスターこそが影霊衣で最高レベルをもつカードなのだろう。

 こうして立っているだけでディサイシブの影霊衣から発せられる火傷するほどの殺意が感じられた。

 

「ディサイシブの影霊衣の効果発動。相手フィールド上にセットされたカードを破壊し除外する。私が選ぶのは当然そこのセットモンスターだ。駆逐せよ、ディサイシブの影霊衣! ディサイシブ・ディトネイションッ!」

 

「読んでいた。手札よりエフェクト・ヴェーラーを捨てディサイシブの影霊衣の効果を無効にする」

 

「ならば攻撃するまでだ。トリシューラの影霊衣でセットモンスターを攻撃」

 

「……俺が伏せていたのはメタモルポット。互いのプレイヤーは手札を全て捨て、五枚のカードをドローする。俺の手札はゼロ枚。よって五枚ドローだ」

 

「このタイミングで手札交換して何になる。貴様に次のターンは回ってこない。止めを刺せ、ヴァルキュルスの影霊衣!」

 

「それはどうかな」

 

「なに?」

 

 相手ターンでの手札交換は一見すると意味のないことのように思える。攻撃を止める魔法・罠カードは、セットされていない限り相手ターンでは役に立たないのだから。

 だが中にはエフェクト・ヴェーラーや田中先生の影霊衣のように手札から捨てることで効果を発揮する手札誘発のモンスターもいる。

 

「相手プレイヤーの直接攻撃宣言時、手札よりバトルフェーダーの効果発動。こいつを特殊召喚し、バトルフェイズを終了させる」

 

「なんだと!?」

 

 見たところ影霊衣は多彩な能力をもっているようだが、その勝ち筋は他多くのデッキと同じビートダウン。

 バトルが封じられてしまえば、田中先生に勝利を決める術はない。

 

「……ターンを凌いだ上、逆転の手札増強まで行うとはな。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 恐らくこれが宍戸丈にとってラストターンだ。

 先程は持ち堪えたとはいえ、田中先生の手札にはまだまだ余力がある。丈がここで新たにフィールドを万全にさせたところで、暴帝であれば再び引っくり返してくるはずだ。

 そうはさせないためにも、このターンで決着をつけなければならない。

 フィールドを見る。三体の影霊衣と伏せられているリバースカード。そして丈のフィールドにいるバトルフェーダー。

 勝利への道筋はここに完成した。

 

「俺はおろかな埋葬を発動、デッキよりレベル・スティーラーを墓地へ送る! さらに魔法発動、死者蘇生。墓地よりガンナードラゴンを復活!」

 

「だがガンナードラゴンではトリシューラの影霊衣しか倒せはせん」

 

「ガンナードラゴンは導だ、勝利のための活路だ! 墓地のレベル・スティーラーの効果発動、ガンナードラゴンのレベルを一つ下げ、このカードを墓地より特殊召喚する!

 これで俺の場に三体のモンスターが揃った! 俺はレベル・スティーラー、バトルフェーダー、ガンナードラゴンを生け贄に捧げる! 頼むぞ、相棒。神獣王バルバロスを攻撃表示で召喚ッ!」

 

「――――バルバロ、スだと……!?」

 

「バルバロスのモンスター効果は知っているな。三体の生け贄で召喚されたバルバロスは相手フィールドのカードを全滅させる!

 従属神の王、バルバロス。影霊衣を装備した戦士たちを一人残らず消し炭としてやれ。トルネード・ゴッド・ストリームッ!」

 

 バルバロスの槍から放たれた雷に、三体の影霊衣と伏せられていたミラーフォースが破壊された。

 フィールドががら空きになり攻撃の絶好のチャンスが訪れる。しかしバルバロスの攻撃力は3000。このまま攻撃してもライフを削り切ることは出来ない。

 故にもうひと押し。バルバロスに続いて魂のカードの力を借りる。

 

「行くぞ。俺は墓地の闇属性モンスター、ガンナードラゴンと光属性モンスター、ハネワタをゲームより除外!」

 

「この召喚方法は、まさかあのカードまで手札に呼び込んでいたのか!」

 

「光と闇を供物とし、世界に天地開闢の時を告げる。降臨せよ、我が魂! カオス・ソルジャー -開闢の使者-!」

 

 

【カオス・ソルジャー -開闢の使者-】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ

ゲームから除外した場合に特殊召喚できる。

1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●フィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

●このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、

もう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 

 デュエルモンスターズ界最強の剣士。宍戸丈の魂のカード。

 相棒たるバルバロスと魂たるカオス・ソルジャー。この二体が並び立ったのだ。もはや勝利以外の決着などあろうはずもない。

 

「バトルだ! バルバロスとカオス・ソルジャーで相手プレイヤーを直接攻撃! カオス・スパイラル・シェイパーッ!」

 

「ぐ、うぉぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーッッ!!」

 

 カオス・ソルジャーとバルバロスの合体攻撃を浴びた田中先生が、思いっきり後方へ吹っ飛ばされていく。

 田中先生のライフが0になったことでデュエルが終了し、解除されるソリッドビジョン。それと同時に田中先生に憑りついていた邪気も消滅していった。

 

「先生!」

 

 丈は駆け寄って容態を確認する。

 心臓はしっかり動いているし、呼吸も正常。医者ではないのではっきりしたことは言えないが、命に別状はないだろう。

 それでも念のためPDAで保健の鮎川先生に『倒れている人がいる』と伝えると、丈は三幻魔の気配のする場所へと急いだ。

 


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