遊城十代 LP4000 手札5枚
場
伏せ
宍戸丈 LP4000 手札5枚
場 無し
伏せ
「いくぜ。俺のターン!」
宍戸丈はデュエルモンスターズ界に彗星の如く現れ伝説を築き続けているデュエリスト。十代自身、以前敗北を喫したカイザーと同格に位置する相手だ。
相手にとって不足どころか御釣りが三千円はくるだろう。だからこそ全身全霊でデュエルをする。なにせこの戦いには翔と隼人の命もかかっているのだから。
「ドロー!」
手札は上々。相手も上々。
十代には二つの選択肢がある。慎重に様子を見るか、それとも臆さず強気に行くか。宍戸丈相手にどちらの選択も最善手かどうかの判別は難しい。
どちらも最善と言えないのなら十代は強気に行く方が好きだった。
「一気に行かせて貰うぜ。手札より融合を発動、バーストレディとフェザーマンを手札融合! 来い! マイ・フェイバリットカード! E・HEROフレイム・ウィングマン!」
【E・HERO フレイム・ウィングマン】
風属性 ☆6 戦士族
攻撃力2100
守備力1200
「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
炎と風、二つの属性により生まれた融合HERO。単体ではなんの力も持たないHEROは融合して力を合わせることで本当の強さを発揮するのだ。
特にこのフレイム・ウィングマンは十代と最も長い付き合いのお気に入りのモンスターだ。
「フレイム・ウィングマン。E・HEROか。フフフフ……早速融合HEROを召喚するあたり伊達に鍵の守護者に選ばれたわけじゃないようだな」
「まだだ! 手札よりカードガンナーを攻撃表示で召喚。モンスター効果によりデッキの一番上を三枚墓地へ送りカードガンナーの攻撃力を1500ポイントアップするぜ。
リバースカードを二枚セット。これで俺はターンエンドだ」
下級モンスターでは超えられない攻撃力のフレイム・ウィングマンに破壊されれば一枚ドローできるカードガンナー。そして二枚の伏せカード。
最初のターンにしてはそれなりの布陣。
けれど実際に〝宍戸丈〟のデュエルをその目で見た事のある明日香の表情は明るいものではない。
「気を付けて十代。あの人は三つの異なるデッキを主力にしているわ。そしてその一つは――――――」
「その通り。遊城十代だったか。お前がHEROデッキを使うのであれば、俺もまた我が三つの力のうち一つ。英雄の力を見せてやる」
「英雄の、力……」
何度か見たNDLでの宍戸丈のデュエル。
デュエリストにはカイザーのように常に一つのデッキを使うタイプと、万丈目のように複数の主力デッキを持つタイプ、三沢のように相手によってデッキを千変万化させるタイプの三種類がいる。
そして宍戸丈は万丈目と同じタイプ。複数の主力デッキを使い分けるタイプだ。
「行くぞ、俺のターン。手札の沼地の魔神王を墓地へ送りデッキより融合のカードを手札に加える。更に魔法カード、E-エマージェンシーコール! 手札よりE・HEROを手札に! 俺はE・HEROエアーマンをサーチだ」
「E・HERO!?」
【E-エマージェンシーコール】
通常魔法カード
自分のデッキから「E・HERO」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
【沼地の魔神王】
水属性 ☆3 水族
攻撃力500
守備力1100
このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
また、このカードを手札から墓地へ捨てる事で、
デッキから「融合」魔法カード1枚を手札に加える。
魔王が支配する三つの力の一つ。英雄――――E・HEROデッキ。
宍戸丈は強力な最上級モンスターを配下として徹底したパワーで敵を蹂躙する以外に、変幻自在のHEROを操るHEROデッキ使いの側面をもつデュエリストなのだ。
当然、十代のHEROデッキについても熟知しているだろう。
「手札よりサーチしたエアーマンを攻撃表示で召喚。そしてエアーマンのモンスター効果、召喚に成功した時デッキから『HERO』と名のつくモンスターを手札に加える! 俺はE・HEROオーシャンを手札に!
そして融合を発動。手札のE・HEROフォレストマンと水属性モンスター、オーシャンを手札融合! 現れろ水のHERO! フィールドを絶対零度に凍結せよ!
我がデッキに眠りし最強の英雄。E・HEROアブソルートZeroここに降臨!」
【E・HEROエアーマン】
風属性 ☆4 戦士族
攻撃力1800
守備力300
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●自分フィールド上に存在するこのカード以外の
「HERO」と名のついたモンスターの数まで、
フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊する事ができる。
●自分のデッキから「HERO」と名のついた
モンスター1体を手札に加える。
【E・HEROアブソルートZero】
水属性 ☆8 戦士族
攻撃力2500
守備力2000
「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する
「E・HERO アブソルートZero」以外の
水属性モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードがフィールド上から離れた時、
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
高温のマグマの上に相反する属性をもつ〝水〟のヒーロー。巨大な氷柱を突き立て、白い外套を靡かせる絶対零度の英雄が降臨する。
魔王に仕える最強のHEROは冷たく同じHERO使いたる十代を見下ろす。
『――――――』
『――――――』
融合HERO同士、睨みあうフレイム・ウィングマンとアブソルートZero。
水と地の融合体と風と炎の融合体。奇しくも真逆の属性により生まれた者同士、フレイム・ウィングマンとアブソルートZeroは敵意をむき出しにした。
「まだだ! 速攻魔法発動、マスク・チェンジ! 自分フィールド上の『HERO』を墓地へ送り、融合デッキより同じ属性の『M・HERO』と名のつく融合モンスターを特殊召喚する」
「折角召喚したアブソルートZeroをいきなり融合素材に……?」
最強のHEROと言っておきながら、自分からいきなり消し去るような行為。
十代はその行動の訳が分からず首を傾げた。しかし兄の傍らでそのコンボを見た事が合った明日香だけが顔を青くした。
「不味いわ十代! これは宍戸先輩の必殺コンボよ!」
「なんだって!?」
「もう遅い! 俺はアブソルートZeroを変身させ、M・HEROアシッドを攻撃表示で召喚!」
【M・HEROアシッド】
水属性 ☆8 戦士族
攻撃力2600
守備力2100
このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、
相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。
Zeroと同じく水の属性をもつHERO。ただし冠につけるアルファベットはEではなくM。
エレメンタルとは異なるマスクド。アメリカンコミックのキャラクターを原型にしたE・HEROとは違う日本の変身ヒーローを原型としたM・HERO、未知のHEROモンスターの登場に敵でありながら十代は目を輝かせた。
「凄ぇ。E・HEROじゃないM・HEROなんて俄然燃えて来たぜ」
「なに呑気なこと言ってるの! もうコンボは始まってるのよ!」
「え? うおおおおおおおおおおおおお! 俺のモンスターたちが!」
十代のフィールドのモンスターたちの全てが瞬間凍結する。
抵抗することすら出来やしなかった。あらゆる命を許さぬ絶対零度の冷気は一瞬にして十代のモンスターたちの命を摘み取った。
だがそれだけには留まらない。
「俺の伏せたカードまで」
あろうことか二枚のリバースカードまで凍てついていく。
完全に凍り付いた十代のフィールドのカードたちは、パチンッという丈の指の音に合わせて砕け散る。
「アブソルートZeroのモンスター効果、Zeroがフィールドを離れた場合、相手フィールド上のモンスター全てを破壊する。更にアシッドの効果。このカードが特殊召喚された時、フィールドの魔法・罠を全て破壊する」
「……!」
Zeroとアシッド。同じ水属性HEROによる連携攻撃により十代のフィールドのカードは完全に薙ぎ払われた。
「融合召喚したZeroをマスク・チェンジさせ相手フィールドを完全に〝ゼロ〟にするコンボ。単純だけどこのコンボで多くのデュエリストが次のターンを迎えることなく敗北してきた」
「やばいっスよ! これで兄貴のフィールドはがら空き」
「それどころか相手フィールドには攻撃力2600のアシッドと1800のエアーマン。直接攻撃を受けたら十代はおしまいなんだな!」
明日香と翔と隼人の悲痛な声がフィールドに響き渡る。けれどその嘆の声で攻撃の手を緩める程セブンスターズは甘くはない。
「これで終わりだ小僧。二体のモンスターで――――」
「待った!!」
「小癪な、なにを」
絶対勝利を妨害された丈が舌打ちする。だが十代は悪戯小僧そのままの笑みを浮かべながら「チッチッチッ」と指を振る。
「焦ると怪我するぜ先輩。俺はアシッドの効果にチェーンして速攻魔法を発動させて貰ったぜ。クリボーを呼ぶ笛をな!」
「く、クリボーを呼ぶ笛だと!?」
「クリボーを呼ぶ笛、こいつの効果でデッキよりハネクリボーをフィールドに特殊召喚する。頼むぜ相棒、ハネクリボーを守備表示で召喚!」
【クリボーを呼ぶ笛】
速効魔法カード
自分のデッキから「クリボー」または「ハネクリボー」1体を選択し、
手札に加えるか自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
【ハネクリボー】
光属性 ☆1 天使族
攻撃力300
守備力200
フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時に発動する。
発動後、このターンこのカードのコントローラーが
受ける戦闘ダメージは全て0になる。
絶対零度の中、白い羽をつけたクリボーが特徴的な鳴き声をあげながらフィールドに舞い降りる。
フィールドに召喚されたハネクリボーは直ぐにZeroの絶対零度により凍りつき破壊された。けれどその効果は発動する。
「ハネクリボーの効果発動。このカードが破壊され墓地へ送られた時、このターン俺が受ける戦闘ダメージは0となる! ヘヘっ。どうやら俺のフィールドだけじゃなくてダメージまでゼロにしちまったみたいだな。
更にカードガンナーの効果、俺はカードを一枚ドローする。あれ? カードをドローできたってことは、ゼロじゃなくて1か。ナンバーワンってところかな」
「クッ……小癪な真似を……。カードを一枚伏せターンエンドだ」
「ふぅ。どうにか凌いだか」
一安心する。鼻持ちならない挑発をしてみせた十代だが、本当に危ないところだった。
もしもクリボーを呼ぶ笛をセットしていなければ、十代はターンを凌ぎきることなく1ターンで沈んでいた事だろう。魔王という異名とカイザーと同格という評判が偽りでないことを再確認した。
「俺のターン、ドロー」
出来ればこのターンで巻き返したい。しかし残念ながら今の手札ではアシッドとエアーマンを倒し、ダメージを与えるのは不可能だ。
ここは時間を稼ぐしかない。そして逆転の機を伺うべきだ。
「モンスターをセット、カードをセット。ターンエンドだ」
デュエルはまだ始まったばかり。だが丈のフィールドには二体のモンスター。
形勢は以前として十代の不利。次のターン持ち堪えなければ、勝ち目はない。