宍戸丈 LP4000 手札五枚
場 無し
明弩瑠璃 LP4000 手札五枚
場 無し
30000フィート上空で行われるでセブンスターズとの三幻魔を巡る戦いの第一戦が始まる。丈と明弩瑠璃は互いに手札を五枚ドローする。
これまでプロ入りした丈をサポートしてくれた明弩瑠璃。だが丈はこれまで一度も瑠璃とデュエルをしたことがない。それとなく「デュエルをするのか?」と尋ねたことは何度かあったが、その度に答えをはぐらかされてしまった。
だから彼女がどれほどの実力をもっているかは完全に未知数であるといえる。ただセブンスターズの尖兵として選ばれるほどだ。弱いということはないだろう。
(しかも……俺のデッキはたった三十秒で構築した六分の一インスタントデッキ)
丈はかなりの実力をもつデュエリストであり、生半可な相手など相手にもならない実力をもっている。
だがしかし三十秒の即席デッキでは実力の十分の一も出すことはできない。
デュエリストにとってデッキとは自分の体も同じ。体が三十秒の即席となれば満足に歩くこともできないのだ。
「先攻は頂きます。私のターン、ドロー」
「……………」
丈の手札は余り良いとは言えない。というより碌に効果も確かめずに投入されたカードも多いため、まるでシナジーのないカードも手札にはあった。
取り敢えず次のターンで上手く立ち回るためにもこの先攻ターンで、瑠璃のデッキについて大まかな予測をたてる。
けれど瑠璃も丈の考えは予測済みだったらしい。
「私はモンスターを裏側守備表示でセット。リバースカードを二枚セット、ターンエンド」
「消極的なターンだ」
「私のデッキ内容について簡単に明かしはしません。僭越ながら宍戸様の実力については間近で見ていたので」
「――――俺のターン、ドロー」
思惑は外れたが外れたら外れたで仕方ない。
新たにカードをドローしたが…………最初のターンにしてはまずまずといったところだろうか。勿論三十秒デッキにしては、という意味でだが。
自分で構築したデッキながら溜息が出る。こんなデッキでは到底自分本来のデッキに及ばないだろう。
「俺のデッキを奪い、勝ったつもりになっているのだったら……まぁ普通のデュエリストならそうだ。しかし生憎と俺はプロデュエリスト。デッキがないなら弘法は筆を選ばないという諺を証明するだけ」
「勝ったつもり? それこそまさかです。貴方相手に勝ったつもりになるなど有り得ません。油断なく貴方のライフをゼロにするまで全力でお相手します」
「それは残念だ。手札からモンスターを攻撃表示で召喚する。ジェネティック・ワーウルフ」
【ジェネティック・ワーウルフ】
地属性 ☆4 獣戦士族
攻撃力2000
守備力100
遺伝子操作により強化された人狼。
本来の優しき心は完全に破壊され、
闘う事でしか生きる事ができない体になってしまった。
その破壊力は計り知れない。
効果なしの下級モンスターとしては最大の攻撃値をもつワーウルフ。白い獣人は闘争本能を剥き出しにして、理性を無くした形相を向けた。
瑠璃の伏せたリバースカードとリバースモンスター。あれだけあれば罠カードが伏せられている危険性は高いが、フィールドにはワーウルフ一枚だけ。犠牲は最小限で済む。
「バトル。ワーウルフで攻撃、白獣の斬爪!」
ワーウルフが大きく跳躍して伏せていたカードを切り裂く。
攻撃を受けた事で表側表示になったのはレベル・スティーラー。丈も愛用している生け贄召喚をサポートするのに有効なモンスターだ。
「レベル・スティーラーの守備力は0。破壊されます」
「発動は無しか。……バトルを終了、ターンエンド」
「私のターン。どうやら貴方といえど、即席のデッキではそう縦横無尽なデュエルを行うことはできないようですね。
これが確認できれば十分。手札よりホルスの黒炎竜 LV4を召喚します」
「ホルスの黒炎竜……! レベルアップモンスターとは、珍しいカードを」
【ホルスの黒炎竜 LV4】
炎属性 ☆4 ドラゴン族
攻撃力1600
守備力1000
このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
コントロールを変更する事はできない。
このカードがモンスターを戦闘によって破壊したターンのエンドフェイズ時、
このカードを墓地に送る事で 「ホルスの黒炎竜 LV6」1体を
手札またはデッキから特殊召喚する。
鳥のようでありながら黒い炎の力を秘めたドラゴン族モンスターは、真っ赤な双眸でワーウルフを睨みつけた。
瑠璃の召喚したホルスの黒炎竜はレベルアップモンスター。条件をクリアするごとに上のレベルにレベルアップしていく特殊なモンスターだ。
特にホルスの黒炎竜は数あるレベルアップモンスターの中でも強力な力をもっている。
LV4の今はまだ弱い雛鳥だが、これが成長していけば殆どのデッキに刺さり動きを封じる恐ろしいモンスターが出てくるだろう。
「バトル。私はホルスの黒炎竜でワーウルフに攻撃、ブラック・ファイヤ! そしてリバース発動、収縮。ワーウルフの攻撃力を半分にする」
瑠璃の魔法効果によりワーウルフが半分の体積に縮まり、そのパワーも半減する。攻撃力を半減させたワーウルフの力は1000。ホルスの黒炎竜の攻撃力がワーウルフを上回った。
その結果、ワーウルフはホルスの黒炎を防げずその身を焼き尽くされる。
宍戸丈LP4000→3400
ワーウルフが破壊されたことで丈のライフもダメージを受ける。
それだけではない。ホルスの黒炎竜がモンスターを破壊したことで、ホルスの進化条件が整ってしまった。
「ホルスの黒炎竜、ということは貴女の伏せたカードの一枚は――――」
「お察しの通りです」
瑠璃はコクンと頷くともう一枚の伏せていたカードを発動する。
発動したのは丈の思った通り永続罠『王宮のお触れ』。このカード以外の罠カードを封じる罠カード版サイコ・ショッカーというべきカードだ。
そしてホルスの黒炎竜はLV8まで進化すると任意で魔法カードを無効する効果を得る。
ホルスで魔法を封じ、王宮のお触れで罠を封じる。このコンボは単純故に強力だ。
丈の三つのデッキの一つであるHEROデッキなど、融合のカードを封じられてしまうので相性は最悪とすらいっていいだろう。
「私はこれでターンを終了します。そして相手モンスターを戦闘で破壊したターンのエンドフェイズ、ホルスの黒炎竜LV4はLV6に進化します」
【ホルスの黒炎竜 LV6】
炎属性 ☆6 ドラゴン族
攻撃力2300
守備力1600
このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
魔法の効果を受けない。
このカードがモンスターを戦闘によって破壊したターンのエンドフェイズ時、
このカードを墓地に送る事で「ホルスの黒炎竜 LV8」1体を
手札またはデッキから特殊召喚する。
進化したホルスの黒炎竜はLV4を凌ぐエネルギーを纏いながら、天高く嘶いた。
LV6になったホルスの黒炎竜はあらゆる魔法効果を無効化する力をもっている。LV8ほどでないが面倒なモンスターだ。
「……ドロー」
だがLV6の攻撃力は上級モンスターとしては弱い2300。このターンで倒せれば倒しておきたかったが、どうもそれは無理らしい。
手札に魔法カードがない今、ホルスの効果については考慮しなくて良いが、攻撃力2300を倒せるモンスターがいないのだ。
だとすれば次善の策でいくだけ。
「手札よりカードカー・Dを召喚」
【カードカー・D】
地属性 ☆2 機械族
攻撃力800
守備力400
このカードは特殊召喚できない。
このカードが召喚に成功した自分のメインフェイズ1に
このカードを生け贄にして発動できる。
デッキからカードを2枚ドローし、このターンのエンドフェイズになる。
この効果を発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚できない。
モンスターというには憚れる玩具の車が場に出現する。勿論、丈は攻撃力800の弱小モンスターでホルスに挑むつもりはない。
カードカー・Dには汎用性の高いモンスター効果があるのだ。
「カードカー・Dを生け贄にする。カードカー・Dの効果、このカードを生け贄にしカードを二枚ドローする。ただしこの効果を発動した瞬間、強制的に俺はエンドフェイズを迎えるが」
「成程。確かに場にモンスターを召喚しなければホルスの黒炎竜はレベルアップすることはない。ですがその選択は無防備なフィールドを晒すことと同じ。
私のターン、カードをドロー。天使の施し、三枚ドローして二枚捨てる。ホルスのレベルを一つ下げ、墓地よりレベル・スティーラーを特殊召喚。更にレベル・スティーラーを生け贄に捧げ炎帝テスタロスを攻撃表示で召喚します」
【炎帝テスタロス】
炎属性 ☆6 炎族
攻撃力2400
守備力1000
このカードが生け贄召喚に成功した時、
相手の手札をランダムに1枚捨てる。
捨てたカードがモンスターカードだった場合、
そのモンスターのレベル×100ポイントダメージを相手ライフに与える。
ホルスとは違い黒い炎ではなく紅蓮の業火を纏った帝王が降臨した。
そして生け贄召喚をしたことで帝の効果が発揮される。
「炎帝テスタロスの効果。生け贄召喚に成功した時、相手の手札を一枚ランダムに捨て、捨てたカードがモンスターカードだった場合、そのモンスターのレベル×100のダメージを与える」
「その効果は通さない。手札より朱光の宣告者の効果発動。相手がモンスター効果を発動した時、このカードと手札の天使族モンスターを墓地に捨てることで、その効果を無効にして破壊する! 俺は朱光の宣告者とヒステリック・エンジェルを捨て効果発動」
【朱光の宣告者】
光属性 ☆2 天使族 チューナー
攻撃力300
守備力500
このカードと天使族モンスター1体を手札から墓地へ送って発動する。
相手の効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。
朱光の宣告者が炎帝に飛びつき、炎を放とうとした炎帝を逆に爆発させる。
しかし朱光の宣告者だけではモンスターの攻撃まで止めることはできない。
「効果が駄目ならばバトル。ホルスの黒炎竜でプレイヤーを直接攻撃、ブラック・フレイム!」
「……ライフで受ける」
宍戸丈LP3400→1100
丈のライフが1100まで削り取られる。けれど丈もただではやられない。攻撃を受けたことにより手札にあるモンスターの召喚条件が整った。
「この瞬間、手札より冥府の使者ゴーズを特殊召喚!」
【冥府の使者ゴーズ】
闇属性 ☆7 悪魔族
攻撃力2700
守備力2500
自分フィールド上にカードが存在しない場合、
相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。
●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」
(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。
このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。
●カードの効果によるダメージの場合、
受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。
ゴーズとカイエン、二人の冥府の使者が降臨する。
冥府の使者ゴーズは自分フィールドになにもない時にダメージを受けると特殊召喚できる最上級モンスター。場に攻撃力2700のゴーズと、ダイレクトアタックのダメージと同じ攻守のカイエントークンを出現させる。
場合によっては逆転のキーカードにもなりうる強力なカードだ。
「ゴーズとカイエンですか。カードを一枚伏せ、ターンを終了します」
ライフでは完全に劣勢だが手札にあったゴーズのお蔭で逆転の兆しが見えてきた。
瑠璃のデッキが亮のそれのように速効性のあるデッキでなかったのが幸いしたといえるだろう。そうでなければ今頃洒落にならないことになっていた。