宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第121話  三邪神

「俺のターン」

 

 丈は落ち着いた仕草で指をデッキの一番上にかける。

 デュエリストであれば誰しもが経験するデッキからカードをドローするという行為。三邪神やダークネスとの戦いを繰り広げてきた丈だが、隣りにキング・オブ・デュエリストがいると、らしくもなく緊張してしまう。

 パラドックスの場にはモンスターがおらずがら空き。……言うなれば絶好のチャンスにターンが回ってきたわけだ。

 チャンスがきたのならば最大限それを活かすのがデュエリストのやるべきことである。

 

「ドロー!!」

 

 このターンで勝負を決める、その意気込みでカードをドローした。

 

「丈。パラドックスのフィールドにはモンスターはいない。だが奴ほどの男がただ無防備にターンを譲るとも思えない。だとすればあのリバースカード、あれには警戒しておく必要があるぜ」

 

「はい」

 

 遊戯の忠告に丈も同意する。

 四対一という不利の中で互角以上に戦うパラドックスの強さは想像を絶するものがあった。丈がこれまで戦ったどのデュエリストより、もしかしたらパラドックスは高い位置にいるかもしれない。

 以前に戦ったダークネスもまた生きとし生きる者全てを呑み込もうとする底しれなさを感じたが、パラドックスは世界そのものと戦い打ち勝とうとする苛烈な精神を感じるのだ。

 それにパラドックスの表情はどうみても追い詰められた男のそれではない。パラドックスのライフはたった1600、下級モンスターの攻撃一つで敗北する数値だ。

 やはりあのリバースカードがパラドックスの防壁と見て良いだろう。

 

(攻撃を妨害する防御カード、もしくは激流葬のような全体除去、ミラーフォースの可能性もあるか……)

 

 どちらにせよ安易にモンスターを召喚して攻撃するのは得策ではない。ならば、

 

「罠など踏み躙るほどの絶対的な〝力〟でフィールドを圧巻するだけ。メインフェイズ、神獣王バルバロスを攻撃表示で召喚する。

 バルバロスはレベル8だが生け贄なしで妥協召喚することができる。ただし妥協召喚したバルバロスの攻撃力は1900となるが」

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 巨大な槍をもつ獣戦士が現れ、丈の前に立った。

 従属神において最上位に位置する神獣たちの王は獰猛な唸り声をあげて、パラドックスという時間を超越した化身を睥睨する。

 

「神獣王バルバロス……。〝魔王〟の渾名で畏怖された宍戸丈が愛用した斬り込み隊長か。それでどうする? バルバロスの槍で私の心臓を穿つ気かね?」

 

「ノーだよ。幸いというべきかこれまでのプレイングで墓地にはそこそこモンスターが溜まっている。俺はもう準備万端だ。

 永続魔法、冥界の宝札を発動。このカードは二体以上の生け贄を必要とする生け贄召喚に成功した時、デッキからカードを二枚ドローするカード。未来の住人のお前には蛇足だったかな?」

 

 

【冥界の宝札】

永続魔法カード

2体以上の生け贄を必要とする生け贄召喚に成功した時、

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 遊星が先陣を切ってくれて助かった。速効性のある遊星や十代のデッキと違い、丈のデッキはエンジンがかかるまでやや時間がかかる。

 けれど遊星たちがパラドックスとぶつかりあってくれたお蔭でデッキのエンジンは既にフルスロットル。アクセルを踏めば月まで吹っ飛んで行ける。

 

「妥協召喚して攻撃力は下がったが、バルバロスのレベルは8のまま。俺は遊星の墓地に眠るレベル・スティーラーと俺の墓地に眠るレベル・スティーラーのモンスター効果を発動。

 遊星くん。君のカード、使わせて貰う」

 

「はい。……レベル・スティーラーはモンスターのレベルを一つ下げ、フィールド上に特殊召喚する。レベル・スティーラーを丈さんのフィールドに召喚!」

 

「俺のレベル・スティーラーも同じく召喚」

 

 

【レベル・スティーラー】

闇属性 ☆1 昆虫族

攻撃力600

守備力0

このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する

レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。

このカードはアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

 

 

 バルバロスのレベルが6に下がり、その低下したレベルを食って二体のレベル・スティーラーが出現する。

 600という弱小モンスターの枠を出ないステータスしかもたないレベル・スティーラーだが、別に丈はレベル・スティーラーでパラドックスを倒すわけではない。

 レベル・スティーラーは丈のデッキに眠るデュエルモンスターズにおいて頂点に君臨するカードを降臨するための布石だ。

 

「これは……風、だと?」

 

 パラドックスが怪訝な顔をする。

 フィールド魔法が入れ替わったわけではない。時が止まった空間で風が吹きすさぶ筈もない。なのに五人のデュエリストが戦う決闘場に禍々しい凶つ風が吹き荒れたのだ。

 その中心に丈は立っている。

 怒り、憎悪、復讐、嫉妬、殺意。あらゆる負の感情を肯定し、受け入れたデュエリストは真っ直ぐにパラドックスを見ていた。

 純粋なまでの黒が丈が手札より引き抜く一枚のカードに集約される。

 

「手札より魔法カード、二重召喚を発動。このターン、俺はもう一度通常召喚を行える」

 

 フィールドには三体のモンスター、冥界に送られた魂を可能性へと変換する永続魔法も場にある。

 丈は口端を釣り上げ、自らの担う邪神の真名を謳いあげた。 

 

「我が内に住みし最高位の邪神よ。時空を越えた舞台に宵闇を齎すがいい。従属神と二体のしもべの魂を供物とし、降臨せよ! 邪神アバター!」

 

 

【THE DEVILS AVATAR】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

God over god.

Attack and defense point of Avatar equals to the point plus 1 of that of

the monster's attack point which has the highest attack point among

monsters exist on the field.

 

 

 雷鳴が落ちた。

 世界が黒く染まる。太陽はさんさんと照りつけているというのに、まるで太陽が影に隠れたかのように暗闇が広がっていく。

 宍戸丈の頭上、そこに浮かぶは太陽を呑み込みし暗黒の太陽。あらゆるものに千変万化し、あらゆるものを超える力をもつ無敵の邪神。

 

「これが魔王が使役した三体の邪神……その中で無敵と称された最悪の化身。邪神アバターか」

 

「……………」

 

 パラドックスはアバターに目を細め、邪神と対になる三幻神を担う武藤遊戯はじっと静かにそれを見つめた。

 遊戯の首にかかった千年パズルが同胞であり宿敵でもあろうそれを感じてか、妖しく黄金の光を放つ。

 

「さらに墓地の光属性モンスター、光神機―轟龍と闇属性モンスター、闇の侯爵べリアルをゲームより除外。

 光と闇を供物とし、世界に天地開闢の時を告げる。降臨せよ、我が魂! カオス・ソルジャー -開闢の使者-!」

 

 

【カオス・ソルジャー -開闢の使者-】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ

ゲームから除外した場合に特殊召喚できる。

1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●フィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

●このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、

もう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 

 邪神アバターの下に丈の魂のカードであるデュエルモンスターズ最強戦士、カオス・ソルジャーが現れる。

 場にカオス・ソルジャーが出現すると邪神アバターにも動きがあった。

 

「アバターの姿が変わっていく、これは……?」

 

 遊星が目を見張ると、みるみる間に邪神アバターの姿は完全にカオス・ソルジャーのそれとなっていた。

 カオス・ソルジャーの姿を完璧以上に投影し、上回ったアバターがカオス・ソルジャーの隣りに並ぶ。

 

「邪神アバターはフィールドで最も攻撃力の高いモンスターに変化し、その攻撃力を常に1上回る。パラドックス、お前がどんなモンスターを召喚しようとアバターを超えることはできない。そして神の前にあらゆる障害は無意味となる」

 

 モンスター効果・罠を完全に寄せ付けず、魔法効果すら上級スペルでなければ1ターンしか受け付けない。さらに戦闘破壊ですら、常に攻撃力を1だけ上回るアバターには通用しないのだ。

 故に無敵。まともな手段では絶対的に破壊不可能な最高位の邪つ神。それが邪神アバターだ。

 

「やっぱいつ見ても丈さんの邪神はおっかねぇな」

 

「この気配、どことなく地縛神に似ている……? だが、どこか違う。禍々しさはあるが地縛神にあった世界を壊そうとする悪意があれにはない……。丈さんはあれを完全に支配……いや、受け入れているのか」

 

 未来において何度か邪神を目にしている十代と、初見の遊星の反応は其々だ。

 もう一人、ある意味で丈よりも三邪神に深い関わりのあるデュエリストは暫く邪神を見つめていたが、やがてふっと笑う。

 

「驚いたぜ、丈。まさかそんなカードを出してくるなんてな。邪神ならパラドックスの仕掛けた罠も通用しない。今がチャンスだぜ」

 

「はい。いくぞパラドックス!」

 

 カオス・ソルジャーとカオス・ソルジャーに変化した邪神アバターが動く。

 しかしパラドックスもこの程度でやられるほどの器ではなかった。

 

「甘いな宍戸丈。デュエルモンスターズについて研究を重ねてきた私が、デュエルモンスターズの頂点に君臨する神のカードになんの対策も用意していないと思ったか?

 リバースカードオープン、威嚇する咆哮! このターン、貴様は攻撃宣言そのものを封じられる」

 

「!」

 

「神には罠は通じないが、これはデュエリスト本人に作用するカード。如何に邪神と言えどモンスターカードであることに変わりはない。モンスターである以上、デュエリストが命令を下せなければ無力だ」

 

「……そう簡単には、勝たせてくれないか。カードを二枚伏せターンエンドだ」

 

 勝ちきれなかったとはいえ無敵の邪神アバターとカオス・ソルジャーを前にしたパラドックスの命は風前の灯。どんなデュエリストでもここからの形勢逆転は困難極まるだろう。

 だが次のターン、四人は知る事となる。逆刹のパラドックス、真の恐ろしさを。

 


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