宍戸丈の奇天烈遊戯王   作:ドナルド

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第119話  コンタクト

 世界滅亡の危機、そして強力無比なSinモンスター。

 それらを前にしながらも十代にはまったく怯んだ様子すらない。……というより十代の貌に浮かんでいるのは恐怖や緊張ではなく純粋な嬉しさだ。

 時代の異なる三人のデュエリストと共闘して、パラドックスという強敵と戦っているという現在の状況を十代は完全に楽しんでいた。

 

「いくぜ。俺のターン、ドローだ!」

 

 だからこそ十代のドローには迷いというものがない。デッキのカードをめくった十代は嫌みのない笑みで、自分のペースを崩さず自分のデュエルをする。

 

「強欲な壺を発動、デッキからカードを二枚ドローするぜ!」

 

「強欲な壺!?」

 

 十代の発動したカードに驚愕を露わにしたのは遊星だった。

 遊星は目を見開いて十代……もっといえば十代の発動したカードを凝視している。

 

「ん、どうしたんだ遊星。十代がそんなに可笑しいプレイングをしたのか?」

 

「いえ丈さん、そういうわけではありません」

 

 強欲な壺はノーリスクで二枚のカードをドローする最高峰のドローカードだ。手札に温存していては万が一にもハンデスなどで墓地へ送られる可能性もあるので、あれば速攻で使うのがベストな選択だ。

 そんなことはこの時を超えた舞台に集ったデュエリストならば誰もが分かっている。

 故に遊星が驚いたのはそのことではない。

 

「俺の時代では〝強欲な壺〟は禁止カードに指定されていたので、正直そのカードが使われるところは初めて見ました」

 

「へぇ。未来では強欲な壺が禁止なのか。良いカードなんだけどな」

 

 十代は不思議な面持ちで自分のデュエルディスクにセットされた『強欲な壺』のカードを眺める。

 遊星の時代は兎も角、少なくとも十代のいた時代まで強欲な壺は『強欲な壺のないデッキはデッキじゃない』という格言が生まれる程の必須カードだ。

 それが未来では禁止になっているとなると寂しいものがある。

 

「良いカード過ぎるからこそ、禁止になったのかもしれないな」

 

 十代と同じように『強欲な壺』をデッキに入れている丈も腕を組んで難しい顔をしていた。

 

「――――パラドックス」

 

 そんなやり取りを眺めていた遊戯がパラドックスへ鋭い声を投げた。

 

「なんだ武藤遊戯。デュエル中の私語は関心しないな」

 

「本来ならデュエル前に確認しておくべきだったが、言い忘れていたんでね。今確認させてもらうぜ。俺達は全員が異なる時代からここに集められている。

 そしてカードの環境もまた時代によって変化するものだ。遊星の時代では禁止カードの『強欲な壺』が、十代の時代ではそうじゃないように」

 

「心配せずとも不動遊星の時代で禁止であるカードを使ったところで、遊城十代にペナルティなどはない。このデュエルでは禁止・制限は各々の時代のものが適用される。

 よって『強欲な壺』が禁止されている時代から来た不動遊星は強欲な壺を使えないが、『強欲な壺』が禁止されていない時代から来た不動遊星以外の三人は『強欲な壺』の使用を認められる」

 

「俺が聞いているのはそんなことじゃないぜ。当然俺達はそのルールでやらせて貰う。だがパラドックス、お前は一体どういう禁止・制限が適用されているんだ?」

 

 遊戯以外の三人の視線がパラドックスに突き刺さる。

 未来の住人といえばパラドックスは遊星以上に遥かな未来からの来訪者である。禁止・制限リストも遊星の時代の物よりさらに変化していることは想像に難しくない。

 だがパラドックスはニヤリと笑った。

 

「クククククッ。言った筈だ、私は世界が滅んだ未来から来ていると。そう世界は滅んだのだよ武藤遊戯。デュエルモンスターズの禁止・制限を制定していたインダストリアル・イリュージョン社も含めて。

 よって私の時代の禁止・制限を制定したのは私でありイリアステル滅四星。教えておこう、私の時代において制限・準制限カードはあっても禁止カードは存在しない」

 

「なんだって!?」

 

「私は全ての時代の力をその時代の力のまま操り、君達を倒す。何度も言わせるな、言っただろう? 私は歴史上の最強カードを集めた最強のデッキを使うと」

 

「貴様……!」

 

 まるで悪びれた様子もなくパラドックスは宣言する。

 遊星より後の時代でありながら、まったく禁止という枷のないパラドックス。だがこれでパラドックスの最強の力を留めるものはどこにもなくなってしまった。

 けれどパラドックスと向かい合っている十代にはやはり恐れはない。

 

「面白ぇ。ってことはお前、遊星すら知らないようなカードもばんばん出せるのか。倒しがいがあるぜ」

 

「……ふん。流石は覇王の魂をもちしデュエリスト、私の力を前にしてそうも平然としているとはな。だが私の最強のSinモンスターたちの布陣、果たして突破できるかな?」

 

「してみせるさ! HEROは必ず勝つ、お前にもそれを見せてやるぜ! メインフェイズ、俺はコンバート・コンタクトを発動。

 自分の手札とデッキからネオスペーシアンを一枚墓地へ送ることで俺は二枚のカードをドローする」

 

 

【コンバートコンタクト】

通常魔法カード

このカードは自分フィールド上にモンスターが存在しない場合のみ発動する事ができる。

自分の手札及びデッキから1枚ずつ「N(ネオスペーシアン)」と名のついた

カードを墓地に送り、デッキをシャッフルする。

その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

「フレア・スカラベを手札から、グラン・モールをデッキから墓地へ送り、二枚ドローだ!」

 

 強欲な壺に続いての手札増強。これで十代の手札は合計8。全ての用意は整った。

 

「いくぜ。俺はE・HEROプリズマーを攻撃表示で召喚だ!」

 

 

【E・HEROプリズマー】

光属性 ☆4 戦士族

攻撃力1700

守備力1100

自分の融合デッキに存在する融合モンスター1体を相手に見せ、

そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体を

自分のデッキから墓地へ送って発動する。

このカードはエンドフェイズ時まで墓地へ送ったモンスターと同名カードとして扱う。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

 数あるHEROの中でもHEROデッキ以外でも力を振るうHERO、プリズマーが降りたつ。

 攻撃力は1700と下級モンスターとしてはそこそこの数値だが、このカードの真骨頂は特殊能力にある。

 

「プリズマーのモンスター効果を発動、自分の融合デッキに存在するモンスター1体を相手に見せ、その融合モンスターの融合素材モンスターを一体デッキから墓地へ送り、このターン。プリズマーのカード名はそのモンスターカードと同じになる。

 俺が見せるのはこのカードだ。E・HEROマグマ・ネオス! 俺はプリズマーの効果によりE・HEROネオスを墓地へ送り、プリズマーのカード名をネオスへ変更する」

 

「カード名を変更したところで、私のSinモンスター達は倒せはしない」

 

「そいつはどうかな。魔法カード発動、ラス・オブ・ネオス!」

 

「ネオスの必殺技と同じカード名だと!?」

 

 

【ラス・オブ・ネオス】

通常魔法カード

自分フィールド上に表側表示で存在する

「E・HERO ネオス」1体を選択して発動する。

選択した「E・HERO ネオス」をデッキに戻し、

フィールド上のカードを全て破壊する。

 

 

 水晶のような体にネオスを映したプリズマーの手に不思議なエネルギーが宿っていく。

 緑色の光を放つそれはまさしく宇宙の力の結晶だ。

 

「ラス・オブ・ネオスは自分フィールドのE・HEROネオスをデッキに戻すことで、フィールド上のカードを全て破壊する魔法カード。

 俺はカード名がネオスとなっているプリズマーをデッキへ戻し、フィールドのカードを全て破壊する!」

 

「そうか! SinモンスターはSin WORLDがなければ存在できない。つまりSin WORLDを破壊してしまえば……」

 

「今いるSinモンスターを倒すだけではなく、続くSinモンスターを抑えることもできる」

 

「考えたな十代」

 

 遊星、丈、遊戯の三人が十代の戦術に舌を巻いた。

 十代は照れているのを隠すように鼻を掻く。遊城十代、冷徹な計算をしてデュエルを進めるタイプではないが、十代は本能的にベストな戦術をとれるセンスというものを持ち合わせている。

 

「流石だと誉めておこう、遊城十代、だが私はそう甘くはない。ラス・オブ・ネオスにチェーンして私は速攻魔法カード、禁じられた聖衣を発動。

 フィールドの表側表示モンスターを一体選択して発動。選択したモンスターはこのターンのエンドフェイズまで600ポイント攻撃力をダウンさせ、カードの対象にされず破壊されない耐性を与える。 私が選択するのは当然Sinレインボー・ドラゴンだ」

 

 

 【禁じられた聖衣】

速効魔法カード

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。

エンドフェイズ時まで、

選択したモンスターは攻撃力が600ポイントダウンし、

カードの効果の対象にならず、カードの効果では破壊されない。

 

 

 Sinレインボー・ドラゴンがラス・オブ・ネオスの一撃を耐え凌ぐ。

 けれどSinレインボー・ドラゴンは無事でもSinワールドはそうではない。Sinモンスターを維持している空間はラス・オブ・ネオスによって砕けつつあった。

 しかし、

 

「更に私の伏せていたもう一枚のカードは『Z-ONE』!」

 

「Z-ONEだと?」

 

「このカードは破壊をトリガーにして発動する魔法カード。私の手札・墓地・デッキに眠るフィールド魔法カードをゲームより除外。墓地にあるこのカードを、除外したカードとして発動できる。

 更に発動したこのカードは如何なる手段によっても破壊する事は不可能だ!」

 

 

【Z-ONE】

通常魔法カード

フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時に

自分の手札・デッキ・墓地からカード1枚を選択して発動する。

選択したカードをゲームから除外する。

墓地に存在するこのカードを選択したカードとして

フィールド上に発動する事ができる。

この効果でフィールド上に現れたこのカードは破壊されない。

 

 

 破壊されたSin WORLDが復活する。だがただ復活したわけではない。厄介な事にSin WORLDは破壊耐性まで得てしまった。

 これではもうフィールド魔法を破壊するという攻略法は使えない。

 

「なに勘違いしてるんだパラドックス。俺の狙いはSin WORLDを破壊するだけじゃないぜ。見せてやる、ネオスペーシアンの本当の力を!

 魔法カード発動、ミラクル・コンタクト! 自分の手札・フィールド・墓地から融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターをデッキへ戻し、E・HEROネオスを融合素材とする融合モンスターを特殊召喚する!

 俺はE・HEROネオス、フレア・スカラベ、グラン・モールをデッキに戻しコンタクト融合!」

 

 

【ミラクル・コンタクト】

通常魔法カード

自分の手札・フィールド上・墓地から、

融合モンスターカードによって決められた

融合素材モンスターを持ち主のデッキに戻し、

「E・HERO ネオス」を融合素材とする

「E・HERO」と名のついた融合モンスター1体を

召喚条件を無視してエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

 十代の墓地より三つの光が飛び上がり、それが一つの人型を形造る。

 宇宙から来た新たなるHERO、ネオスはネオスペーシアンたちとコンタクト融合することによって真の力を発揮する。

 その究極といえる三体のコンタクト融合体の一体が降臨しようとしていた。

 

「現れろ、E・HEROマグマ・ネオス!!」

 

 

【E・HERO マグマ・ネオス】

炎属性 ☆9 戦士族

攻撃力3000

守備力2500

「E・HERO ネオス」+「N・フレア・スカラベ」+「N・グラン・モール」

自分フィールド上の上記のカードをデッキに戻した場合のみ、

エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」魔法カードは必要としない)。

このカードの攻撃力は、フィールド上のカードの数×400ポイントアップする。

また、エンドフェイズ時、このカードはエクストラデッキに戻る。

この効果によってこのカードがエクストラデッキに戻った時、

フィールド上のカードを全て持ち主の手札に戻す。

 

 

 大地の力と炎の力を得たネオスが十代の前に降り立つ。その迫力はSinレインボー・ドラゴンと比べて尚も上回るものだった。

 

「装備魔法、インスタント・ネオスペースをマグマ・ネオスに装備。これでマグマ・ネオスはエンドフェイズ時に融合デッキへ戻る効果を発動せずにずむ。

 カードを一枚セット。マグマ・ネオスはフィールドのカード一枚につき攻撃力を400ポイントアップする。フィールドにカードは合計五枚。よって攻撃力は5000ポイントだ!」

 

「攻撃力5000だと!?」

 

「マグマ・ネオスでSinレインボー・ドラゴンへ攻撃!」

 

 マグマ・ネオスの放ったマグマがレインボー・ドラゴンを焼き尽くしていく。

 さしものレインボー・ドラゴンも攻撃力5000のマグマ・ネオスの相手にはならなかった。パラドックスのライフが一気に1600まで下落する。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 パラドックスに大ダメージを与えた十代はガッツポーズをしながらエンド宣言をする。

 しかし――――パラドックスからはまだ闘志が失われてはいなかった。

 




 遊星がシンクロしたので、十代はコンタクトしました。
 告知しお忘れてましたが「遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―」の作者であるmasamune様がこの作品とのコラボを書いて下さりました。この場を借りてお礼を言わせて頂きます。ありがとうございました。

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