侵入者はたったの三人。その体格やISを所持していないのを考えて恐らくは全員が男性。そう考えて鞘無は口角を吊り上げた。
この程度の連中なら自分一人で十分対処可能。部分的損傷のあるサンライト・トゥオーノであっても制圧することは造作もない。そう結論を出したからだ。柔道や空手といった対人戦闘の心得など全く持っていない鞘無だったが、厨二的な思考が加速度的に進行していた為に『コレいける』的な妙な自信に満ち溢れていた。
その自信が招くのは、油断以外になく。
「ほら、先手は譲ってやる。こいよ」
ISも展開しないまま、鞘無はくいくいと指を動かす。その自信は一体どこから湧いてくるんだと突っ込みたいところだが、今の彼にはもう何を言っても無意味だった。
鞘無は確信していた。もしもこの状態から侵入者である三人が何らかの攻撃を行ってきたとしても、必ず回避もしくは防御できると。鞘無の能力である『電撃使い』を用いれば、自身の身体に電流を流して強引に動かすことも可能である。それこそ常人では反応不可能な速度であってもだ。そうでなくとも、ISの展開には三秒もかからない。一度展開してしまえばもう通常の銃器は一切通用しないのだから、侵入者たちに勝ち目はない。そう高を括っていた。
そんな鞘無を前にして、黒に身を包んだ侵入者たちは。
「アレの準備は」
「既に出来ている」
懐から取り出される、学生には馴染みのない黒い物体。ドラマや映画の中でなら鞘無も見たことがある、人をいとも簡単に殺めることが出来る武器、拳銃。それを三人全員が懐から取り出したことで、にわかに緊張が走る。
(おいおい拳銃だと!? いくらISがあるからって学生になんちゅうもん向けやがる!)
流石に拳銃を所持している人間が只者とは思えなかった鞘無は冷水を浴びせられたように先程までの気持ちが小さくなっていた。が、一度カッコつけて宣言した手前引くことも出来ない。こうなればもうなるようにしかならないと思い直し、鞘無は自らの専用機を弾丸が発射されるより早く展開させる。
「……ん?」
もう一度。
「…………」
反応はない。
ここに来て鞘無はハッとする。自分は何か大きな間違いを仕出かしているのではないか。そして結論に至る。
(……俺、昨日寝てねぇ……!)
鞘無の後頭部辺りにピシャアンッ!! と雷が落ちたような気がした。
睡眠をとっていない、というのは確かに良くない。人間が活動する上で睡眠は欠かせないものである。何日も徹夜する人間もいるが、その末路は健康状態の悪化に他ならない。そういう意味では問題である。
が、鞘無に限ってはそういった意味ではない。鞘無の場合、睡眠を取らないことで一つの問題が発生するのである。
――――電池切れだ。
彼が双六に参加していた神様の一人によって転生する際に得たのは学園都市第三位の能力である『電撃使い』。オリジナルの少女がそうであったように、鞘無もまた電池切れを起こす場合があるのだ。オリジナルの場合、能力を必要以上に行使し脳を酷使したことや体力の消耗によって電池切れ、つまるところのガス欠を引き起こすが、鞘無の場合は違う。本来の持ち主である少女と鞘無の脳の出来が違いすぎるということも関係しているのか、鞘無の場合毎日睡眠を取ることで充電しなければ次の日全く能力を使えないのである。
そんな馬鹿な、と鼻で笑いたくもなるが如何せん事実だ。恐らくは鞘無の容量が小さすぎるのが問題なのだろう。オリジナルのように何日も徹夜して動き回ることなど不可能なのだ。しかも睡眠を取れば能力を使い放題という訳でもなく、当然超電磁砲などを多用すれば限界が訪れる。能力の応用性の高さに半比例するように、鞘無にとって使い勝手の悪い能力となってしまっていた。
昨日の場合は一夏と姫無に負けたことと鈴に散々説教されたことが原因で眠りに付けなかった。なんともまぁ細いメンタルである。
とまぁ、そんな訳で現在。
鞘無は能力を使えない、ただの男子学生と成り下がっていた。能力が使えないのでISのコアに干渉し起動させることも出来ない。
つまり、目の前の黒光りする拳銃から身を守る手立てが無い。
ここでようやく、鞘無は自身の現状を正確に把握した。把握して、背中から滝のような冷や汗が噴き出すのを自覚する。まずい、これは非常にまずい。
(っ、やべぇやべぇやべぇ! これ俺かなり窮地じゃん! しまったちゃんと寝ておくんだった! つうか、え? 俺まじで死ぬんじゃねぇのこれ。あ、やばいなんか走馬灯見えてきた)
この世界に転生して十五年。前世も含めれば三十年。鞘無は脳内を駆け抜ける走馬灯のようなものを感じつつ、静かに目を閉じる。余りにも焦りすぎた結果、どういう訳か自らの視界を制限するという暴挙に出たのであった。
思わず視界を閉ざしてから数秒。ふと鞘無は気がつく。
未だに聞こえない発砲音。身体のどこかに痛みを覚えるということもなく、健康そのもの。
「……?」
ゆっくりと、瞼を持ち上げる。
その先に広がっていたのは――――。
「大丈夫ですかっ、皿式君!」
鞘無と侵入者たちとの間に割って入るようにして立つ、ラファール・リヴァイヴを展開させた真耶の姿がそこにあった。
◆
アリーナの二箇所で起こった爆発による粉塵が晴れていくと、虚の目に一夏の姿が捉えられた。装甲の至るところを破損し、スラスター系の出力が低下しているのか地面に脚をついたままこちらを見据えている。虚が使用した対IS用ミサイル『撃鉄』は今日この日のために彼女自らが設計したオリジナルの追尾ミサイルだ。一夏の機動力の高さを既に知っていた虚は、ミサイルの速度と命中率の向上を図った。そしてたどり着いたのがこの撃鉄だった。
彼女の想定ではもう少し被弾率が高いと踏んでいたが、そこは一夏の回避能力を褒めるべきだろう。迫るミサイル全てを薙ぎ払うことは不可能だと即座に理解し、出来るだけシールドエネルギーを削られないように致命傷となる箇所に絞って防御と回避を行ったのだから。全く、これでISに乗り始めてまだ三ヶ月も経っていないというのだから末恐ろしい。虚は弟分の成長を内心で喜びつつ、しかしそれを表情にはおくびにも出さずに再び構える。
「流石ね一夏君。もう少し追い詰められると思っていたんだけれど」
「狙いが露骨過ぎますよ。何ですか心臓、後頭部、鳩尾って極悪過ぎて笑えてきます」
「その三箇所の被弾だけは避けてたみたいね」
「あれだけのミサイル、今の俺じゃあ全部迎撃するのは不可能ですから。必要最低限だけのミサイルを迎撃させてもらいました」
言うのは簡単だが、実際にそれをやってのけるとなるとその難易度はかなり高い。何せ虚は一夏がそう来るだろうと予想して幾つかのミサイルにはフェイクの軌道も織り交ぜて攪乱していたのだ。それらに反応していたら本命の迎撃は間に合わない。
「さて。じゃあそろそろ向こうも決着のようだし、こちらも終わりにしましょうか」
「そうですね。尤も俺のエネルギー残量じゃああと数分と持たないでしょうから、こうするしかないんですけどね」
一夏は右足を前に半身に、虚は両手に日本刀を模した近接型ブレードを展開させて脚に力を込める。
ほぼ同時。二人は一直線に突っ込んだ。
ミストルティンの槍はその攻撃力の高さ故に使用者にも危険が及ぶ諸刃の剣だ。姫無もあまりこの技を多用したりはしない。普段ならば周囲に漂わせたアクア・ナノマシンと蒼流旋に内蔵されているガトリングガンの二つを使って戦うことが多い。が、今日に限ってはそんな事を言っていられる余裕は存在しなかった。
大国ロシアの代表を務める姫無と相対するのは、彼女と同等の実力を持っている簪だ。将来の国家代表はまず間違いないと言われる実力は本物で、ISの技術開発の面で言えば姉である姫無をも上回る程。そんな妹を相手に一瞬でも気を抜けば逆にこちらがやられかねない。
周囲に滞空していた砂塵が晴れていく。その中から現れたのは、膝を地面に着いた簪の姿。姫無からは確認することは出来ないが、簪の視界隅にはシールドエネルギーの残量が尽きたことが表示されていた。残量が尽きたことで、展開していた打鉄弐式が解除される。
「……負けちゃった、か」
ポツリと、誰にも聞こえない声で簪が呟いた。俯いたままの彼女の表情は、アリーナ内の誰にも見えない。
分かっていたことだ。未だ自分の実力では姉には届かないことくらい。国家代表と代表候補生、両者には大きな実力差があることくらい承知の上での戦いだった。出せる武装は全て使い、戦略も三日以上かけて考えた。それでも届かなかった。善戦と呼べるかも怪しい結果だ。悔しさから、思わず奥歯を噛み締める。
「簪ちゃん」
不意に頭上から声が掛けられた。わざわざ顔を上げて確認するまでもない。姉である姫無だ。声を掛けられても、簪は顔を上げようとはしない。悔しさから瞳に溜まった涙が見られたくなかったから。それを知ってか知らずか、姫無は膝を折ってしゃがみこんで。
「強く、なったね」
「――――っ!」
聞こえた姉の言葉に、思わず顔を上げる。
穏やかに微笑む姫無の顔が間近にあった。溜まった涙が一筋、音もなく零れる。
「私嬉しいわ。こんなに優秀な妹を持って」
それは、姫無の偽らざる本音だった。簪が形無と姫無の二人に対して多少のコンプレックスを抱えていることは知っていた。それは無理からぬことだと思っていたし、姫無自身も兄に対してそのような感情を持っていた時期もある。根が真面目な簪のこと、そんな弱音は決して口には出さなかったが、姉である姫無には妹の気持ちの機微など手に取るように分かる。悩んで眠れない夜もあったことだろう。誰にも相談しない、できない辛さは想像することすら出来ない。
でも。それでも。こうして簪は腐ることなく自己研鑽を積み、ここまでの実力を身につけた。それを姫無は姉として誇りに思う。
「……でも、届かなかった」
「そう焦らないの。簪ちゃんだってこれからまだまだ強くなるわよ。それこそ私なんて相手にもならないくらいにね」
「……それは、無理」
割と冷静に返されて姫無の表情が固まった。
「……でも、ありがとう」
羞恥からか姫無と視線は合わせようとせず、あらぬ方向を向いたまま呟いた簪だったが。
「でもいつか必ず、お姉ちゃんの横に立ってみせる」
その言葉を言う時だけは、まっすぐ姫無の顔を見て断言した。
「ふふっ、待ってるわ」
「向こうも終わったみたいね」
「そうですね」
ガシャンと持っていたブレードを離し、虚は息を吐き出した。向こうが終わったというのであればこちらが戦闘を続ける意味は薄い。いや、というか既に決着はついているのだけれど。
「ふぅ。相変わらず反則じみてるわよね、ソレ」
「虚さんだって使えるじゃないですか」
「一夏君程の威力は出ないわよ。ほら、女の子だし私」
エネルギー残量の尽きた虚が一夏へとそう言った。最後の激突の末、先にエネルギーが底をついたのは虚の方であった。近接型ブレード二振りを用いて一夏へと斬りかかった虚に対し一夏が使ったのは先の鈴との戦いを彷彿とさせる戦法。ただし今回の場合は三つの技を接続して使用したが。まず、更識流の一つ『菊』である。振り下ろされたブレードを背面と肘関節で受け止め、梃子の原理で真っ二つに折って見せた。続いて向かってきた二つ目のブレードには折ったブレードを投げ飛ばす『
流れるような技の連撃に、アリーナの観客たちが思わず息を飲んだ程だ。
「まさかここまで完成されてるなんてちょっと予想外だったかな」
「俺だってIS学園に来てから毎日鍛えてますから」
「……お嬢様を振り向かせないといけないものね」
くすりと虚が笑い、一夏の顔が少しだけ紅くなる。が、それも一瞬のこと。
「姫無さんを守れるくらい強くなるって決めたんで」
その言葉と瞳に迷いはない。清々しいくらいに真っ直ぐだった。
「あとは楯無さんを説得しないとね」
「うぐっ……、そうなんですよねぇ」
げんなりと肩を落とす。一夏の恋路に立ちはだかる最初にして最大の難関、その名を更識楯無。自身では否定しているが周囲から見れば明らかなシスコンである彼の屍(?)を踏み越えていかない限り、一夏の恋は決して成就することはないだろう。それ以前に楯無のことを師匠と慕う一夏は、どうしても姫無への想いを楯無へと伝えることが出来ていない。主に全殺しされる可能性が非常に高いという理由から。更識楯無の妹たちへの溺愛っぷりを知っている一夏には、そんな自殺志願者のような真似は出来なかった。
「でもいつまでもそんなこと言っていられないのだし、そろそろ覚悟を決めたら?」
「それは俺が死ぬ覚悟ですか」
「…………」
「何か言ってください目を逸らさないで!」
◆◆
「何とか間に合ったか……」
管制塔でカメラの映像を目の前に安堵の息を吐く。ラファールを展開させた真耶が皿式と侵入者たちとの直線上に割って入ったことで一先ず生徒の危機は免れた。ここで安心することは出来ないが、山田真耶というIS操縦者の技量を考えればそこまで重大な事態にはならないだろうと推測する。彼女に遠距離用の武装を持たせれば正に鬼に金棒状態なのだが、今回の場合は近接での対処になりそうだ。別段近接格闘が苦手というわけではないので大丈夫だとは思うが、一応周囲の警戒レベルを上げておく。
『楯無。様子はどうだ』
着けたインカム越しに聞こえてくるのは千冬の声。
「今現場に到着した。生徒一名は無事のようだ」
『そうか。しかし意外だな』
「なにが」
『皿式のことだから規則を無視してISを展開、そのまま敵を撃退しにかかりそうなものだが』
「流石にそこまで命知らずではないだろ」
そうであると信じたい。幾ら専用機を持っているとはいえ、正体不明の侵入者たちに食ってかかるようなことだけは避けなければいけない。そういう荒事に対処するのは教員の役目である。この約三ヶ月程皿式を見てきての印象は学園時代の織村を彷彿とさせるものだった。女子生徒たちには愛想を振りまいているようだが、その戦いぶりや言葉の端々から感じられる傲慢さは隠そうとしても隠せるものではない。あとなんか簪にちょっかいかけているとかいう噂を耳にしたので今度会ったときにちょっと話をしよう。大丈夫だ、主任室で消灯時間まで話を聞くだけだから。
などと考えている俺に、通信が入る。現場に到着した真耶からだった。
『更識先生』
「どうした?」
『学園に侵入してきた三人ですが、ここで揉め事を起こす気はないそうです』
「ふむ、それで?」
『この場は見逃してくれないかと』
「真耶の考えは?」
『論外です』
「同意だ。山田先生、なるべく怪我はさせずに無力化を」
『了解しました』
通信を切って、暫し考える。奴らがIS学園に侵入してきた理由はなにか。タッグマッチトーナメントが開催されるにあたって各国の要人たちに紛れようと考えていたならばあんな分かり易い黒服を着る意味が分からない。かといって隠密に行動しようとしているにしては真昼間から目立ちすぎだ。
わざと俺たちの目に付くように行動している可能性もある。だとすると彼らは囮で本命は別にいるということになるが、他の場所で異変が起こった様子はない。
こうした行事が行われる際は人数不足もたたって警備がザルになりがちなことは分かっているが、だとしてもこの学園は侵入者やなにやら入り込み過ぎではないだろうか。今年だけでもう二件、俺の学園時代も合わせれば片手の指では足りない。そろそろ轡木さんに本気で警備強化を申請したほうが良さそうである。
「と、終わったみたいだな」
映像を見れば真耶が侵入者三人を行動不能にしたところだった。ISで生身の人間の膝を叩き折るとかなかなかえげつないことをするな真耶。俺もなるべく怪我をさせるなとしか伝えていないし、話す口が無事ならそれでいいんだが。真耶が時間をかけることなく事を終えてくれたことで、幸いにもトーナメントのほうに支障は出なさそうだ。唯一の目撃者である皿式には箝口令でも出しておけば大丈夫だろう。あいつはプライドが高そうだから、好んで自分が活躍できなかった場面の話など持ち出さないだろうし。
「さて、じゃあここからは俺の仕事だな」
管制塔から真耶に捉えた三人を地下区画へと連れて行くように言って、俺もその場へと向かう。無論、尋問のためだ。更識の人間であれば尋問の術は心得ている。俺の場合はそこに肉体的なダメージも付加されることになるが。姫無へ話術を教え込んだのは何を隠そう俺である。カツカツと地下へ続く階段を降りていき、目的の部屋の前に着く。そこには既にISを解除した真耶が待っていた。
「お疲れ、山田先生。苦労かけたな」
「いえ。ではお願いします」
「ああ、山田先生は俺の代わりに管制塔で指揮を取ってくれ。多分遅くなる」
「わかりました」
言い終えて、ロックされていたドアをスライドさせる。何もない、無機質な正方形の部屋の中央に並べられた三つの椅子に、侵入者の三人は手を縛られた状態で座らされていた。予め武器の類は全て取り上げてあるし真耶が膝を折ったこともあって逃走する可能性など限りなく0に近い。俺は部屋に入り、一人の前にしゃがみ込んで顔を見つめる。
「よ、こんにちは」
返事はない。ただのボロ雑巾のようだ。
「お前ら、何でココに侵入したんだ? まさか間違えたとか言うなよ。こんなもん持ち込んでんだから」
離れた場所に置いてあった拳銃を取ってくるくると回しながら男の一人を見る。その瞳に写るのは大きな憎悪と、ほんの少しの嫉妬と羨望。ふむ、なかなか珍しい感情だ。こういう場合の人間の感情ってのは恐怖と怒りが大抵で、そこに類似した感情は入り込んでも羨望なんて感情が入り込む余地はない。これは手間取りそうだ、と内心で溜息を吐く。三人の表情を順に見てみても、絶望や恐怖といった感情は見て取れない。真耶に戦闘の意思はないと言っていたことから非戦闘を好むのかとも一瞬考えたが、どうやらそんなことはなさそうだ。この獰猛な瞳が何も言わずとも語っている。
はてさて、どうしたものか。いや、別に口を割らせる手段が無くて困っている訳ではない。どういう角度と切り口から精神を揺さぶっていくか考えているのだ。こういう男にありがちなのは自分たちの弱みを突かれるとつい反応してしまうパターンだ。弱みねぇ。IS学園に侵入した理由が分からないままでは弱みもくそもないが、カマをかけることも立派な戦術だ。どれ、一つ適当な話を放ってみるか。
「ま、別に言わなくていいぜ。お前らがココに忍び込んだ理由はもう分かってる、トーナメントが開催されてる期間なのがいい証拠だな」
「…………」
未だ返答はない。が、男の一人の瞳に微かな揺らぎを認めた。
この程度の事で動揺が表に出るってことはこいつら組織の中でも下の方か。使い捨ての駒みたいにされたってとこだな。そして多分、本人たちはそのことに気がついていない。だから、ここまで頑なな態度を崩さないでいられる。
シャツのボタンを二つほど外して息を吐き出す。
いつまでも時間をかける訳にもいかないし、手早く済ませることにしよう。
「さ、洗い浚い吐いてもらおうか――――」
このひと月ちまちま書き溜めたストックが切れるまでは定期的に投稿できると思います。まあ全然ないんですけどね。