前回のあらすじ
原作キャラたちと絡んだら、得体の知れない悪寒が走りました。
一ヶ月後。
え? 飛んだろって?
そこはあれだ。気にしたら負けってやつだ。
あの日以降、幼稚園では何かとあの原作キャラ二人と過ごすようになった。
俺が驚いたのは、原作では小学校から仲良くなる筈の千冬と束が僅か一週間で打ち解け、既に親友というレベルにまで親しくなっていたことだ。彼女たちに俺を足した三人は所謂『いつメン』というものになったらしく、つい先日その証として三人でお揃いのミサンガを付けることになった。
あ、そのミサンガは俺の母さんの手作りだ。最初は千冬が作ると豪語していたんだが、僅か一日で挫折したため母さんにその役を頼んだというわけだ。
天然というただ一点を除けば容姿、性格、技術もろもろパーフェクトな母さんは、たった数十分で三つのミサンガを作り上げてしまった。
それを知った千冬が項垂れていたがそこは置いておいて、三人お揃いの赤いミサンガを俺は右手に、千冬と束は左手に付けてそれから毎日幼稚園に通っている。
さて。
今日は日曜日。
つまり幼稚園は休みなわけだ。時刻はまだ早朝だが、この時間帯になれば更識家ではそれぞれの一日が始まる。親父を始めとする男衆は朝の鍛錬を始め、母さんたち女衆は全員分の朝食を準備するために大忙しだ。
じゃあ、俺は?
俺はまだ幼稚園児だ。朝食の手伝いくらい出来るのかもしれないが母さんたちのあの手際のよさを見ていると邪魔にしかならないんじゃないかと思う。
父さんたちの鍛錬に参加しようとした時もあったが、メニューの最初にあった町内一周ランニングを見た瞬間に心が折れた。前世で別段体力に自信があったわけでもない俺にとってあのメニューに付いていくのは不可能だ。
だって親父の部下たちメニュー終えたら所構わず大の字で寝てるんだぞ?
朝食食べる元気すら失ってんだぞ?
ということでやることが全くと言っていいほどない日曜日の朝。俺が一体何をしているのかというと。
「う~ん、どうやって能力使うんだ?」
あの理不尽な神様から貰った一方通行の能力、『ベクトル操作』をマスターすべく頭を悩ませていた。
いや能力を使うのに演算ってのが必要なことは理解できるんだよ。でもさ、まず演算て何するんだ。
この能力を貰った時点で(おそらく)一方通行のこの能力が使える演算処理能力は俺の脳にある筈なんだが、如何せん発動させるまでが解らない。
「何を考えればいいんだ……」
頭を使うイメージで真似てみても、一向に使える気配はない。
結局、この朝は能力を使用することは出来ず、まずは理論立てをしっかりしないといけないことを学んだ。
何だよテンプレ的に能力貰ったんだから簡単に能力使えると思ったら違うのかよ!!
◆
最近、わたしは幼稚園に行くのがとても楽しい。入園したばかりのころはみんなと一緒に遊べないことが悲しかったけれど、そんな私を助けるみたいに一人の男の子が話しかけてきてくれた。
男の子の名前は更識形無。
その日からよく形無と同じくして仲良くなった束の三人で遊ぶようになった。最初は束は嫌がっていたような素振りも見せていたけど、今じゃ三人でお揃いのミサンガを付けるくらいに仲良しだ。
私、織斑千冬は形無たちと友達になれて本当によかった。
だからこそ、今日が日曜日であることが嫌だ。普通の子なら休みだとはしゃぐんだろうけど、私にとって日曜日は幼稚園に行けない退屈な日なんだ。
自分の腕に付けられた赤いミサンガを見ながら、私は思う。
「はやく明日にならないかなあ……」
などと思っていると。
「ちーちゃーん!!」
家の外から私を呼ぶなんとも聞き覚えのある声が聞こえてきた。誰だと思うまでもない、最近仲良くなった、あの女の子だ。
私は二階の部屋の窓をガラッと開いて。
「なんだ束ー!!」
「遊ぼうよ~!!」
「おまっ、まだ朝の七時だぞ!!」
「束さんに時間という概念は通用しないんだよっ!!」
「わたしをお前と一緒にするなっ!!」
全く、朝の七時から遊ぶなんてどれだけ元気なんだ。などと思いつつもわたしの身体は部屋を出て階段を降り、しっかり外へと向かっている。
そして伸ばした手は家の扉を開き。
「まあとりあえず、入って」
我が友達を家へと招き入れた。
わたしにとって退屈でしかなかった日曜日が、一瞬で騒がしくも楽しいものへと変わった。
「あ、そうだ」
玄関に上がった束が思いついたように声を上げる。
「どうした?」
「えへへー、あのね」
その内容を聞いたわたしは、すぐに靴を履いて外に出た。
◆◆
「……で?」
俺は今驚きを通り越して半ば呆れていた。時刻はまだ七時半。日曜日の七時半といえば、俺みたいな特殊な幼稚園児でなければ間違いなくまだ夢の中の時間帯だ。
しかし。
「おはよう形無」
「おはようかーくんっ!!」
……何故、この二人の幼稚園児は俺の家の門の前に立ってるんだ?
そもそも俺はこの二人に実家の場所を教えた記憶などない。何れは教えるつもりだっけど、一ヶ月やそこらで実家まで行くことなどなかったからだ。
「何しに来たんだお前ら」
「遊ぼうよかーくん!!」
「今日は日曜日だぞ?それにまだこんな時間だし」
「束さん的にはかーくん家を探検したいな!!」
「うんまず人の話を聞こうか」
最初の頃の『私に近寄るなオーラ』は俺に対しては全くと言っていいほど無くなったけれど、そうしたら次はこんな風に向こうから絡んでくるようになった。
いや自分が招いた結果なのは分かってるよ? 分かってるけどこうも対応が違うとビックリするでしょうが。
「ごめん。迷惑だったか……?」
「……いや、そういうわけじゃないけど」
頼むからそんな潤んだ瞳でこっちを見ないで。
罪悪感に磨り潰されそうになるから。
俺は幼稚園児らしからぬ溜め息をついて、
「ちょっと待ってて。母さんに聞いてみる」
そう言って座敷のほうへと走っていく。
いや、あの天然母のことだダメと言うわけないのは判りきっていたが、形式上勝手にというのもマズイだろう。
俺は朝食の準備を終えた母さんのところに言って友達が二人来たという旨を伝えた。
俺は『いいわよ遊んでらっしゃい』か『どんな子たちなの?』みたいな反応を予想していたんだが、流石は天然というか、我が母はそれを上回る発言をしやがった。
「あら、なら一緒に朝食にしましょうか」
「……え?」
「形無朝食まだでしょう?」
「いやそうだけど……」
「大勢で食べたほうが楽しいじゃない」
「まぁ……」
「呼んできなさい」
との事で二人を招き入れ、更識家の食卓につくことに。
千冬は見た目ヤクザみたいな更識家の男衆にビクビクしていたが、束は俺の隣でニコニコとかまぼこを頬張っていた。
朝食後は束がどうしてもというので俺の部屋に案内し、仕掛けようとしていた小型カメラを見つけ出して壊し束を一喝。
どうやらこの家に辿り着いたのも束が俺に仕掛けたGPSのおかげだったらしい。
幼稚園児がオリジナルでそんなもん作んなよ。
その後も似たような流れを繰り返し、結果として幼稚園児は日曜日も遊びたい盛りということを痛感する一日となった。
あと束の作る機器は危険。ほんとプライバシーとか丸裸にされるから。