双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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#43 再会はその時点でフラグ

 前回のあらすじ

 ナタルのポンコツ具合が露呈

 あと学年別個人トーナメント開幕

 

 

 

 ◆

 

 

 

 さて、いよいよもって今日、今年度最初の大規模イベントである学年別個人トーナメントが開催される。本来であればIS学園関係者以外立ち入ることのできないIS学園だが、今日明日の二日間に限ってはIS学園側から配布された招待状を持つ者は敷地内に足を踏み入れることを許される。

 ISというモノが束の手によって世間に広まってから二年弱。黒白事件によってその知名度を格段に上げたISは、やはり今最も注目されている。

 更にIS同士の戦いなど、ごく普通に生活している人間はまずお目にかかることなどできないだろう。なにせテレビ中継などされていないのだ。モンドグロッソが行われるのは少なくともまだ数年後、現段階ではIS研究所を除いて日本唯一ISでの戦闘を目にすることが出来る場所が此処IS学園なのである。

 

 そんな訳で、朝からIS学園は大忙しである。

 生徒はISスーツに着替えて開会式が始まるまで各々最終準備に追われ、教師たちは会場設備や外部の警備に走り回る。どこかお祭り騒ぎのような雰囲気を醸し出しつつ、学園内は騒がしくも楽しそうに開会の宣言を待つ。

 

 今回の学年別個人トーナメントでは、生徒たちの家族以外にも当然IS関係者たちも数多くやって来る。それはISを造る研究者たちであったり、国際IS委員会の者であったり。

 そんなISの関係者たちに、三年生は二年間で培ってきたものを、二年生は一年間の成果を、そして一年生は入学して一か月間で学んだことを披露するのがこのトーナメントだ。成果を見せるのであれば年度末が望ましいのではないかと思うかもしれないが、これは三年生にとっては推薦などにも大きく関わってくるトーナメントだ。年度末に行っていたのでは、三年生の受験は切羽詰まったものになってしまう。二年生も今のうちから企業や開発会社に目をかけてもらうことが出来れば、これからの進路で随分役に立つ。

 故に、このトーナメントは生徒たちにとっても、また見物に来たIS関係者にとっても重要なイベントなのだ。

 

 とまぁ、多くの生徒たちが興奮や緊張などといった感情を持て余して開会を待っている頃。俺はというと。

 

「……はぁ~、美味い。やっぱ真耶の淹れる紅茶は最高だな」

 

 生徒会室で生徒会メンバーとモーニングティーを満喫していた。

 うん、柔らかな日差しを背中に浴びながら飲む温かい紅茶はなんでこんな美味しいんだろうか。

 

「あ、ありがとうございます会長」

 

 礼を言われた真耶が、嬉しそうに微笑む。

 

 開会式が予定されているのは午前九時で、今の時刻は八時三十分。他の生徒たちは既に寮での朝食を済ませ、校舎内やアリーナ周辺で準備に勤しんでいるが、俺たち生徒会メンバーはそこまで急いで準備する必要などない。そもそも緊張など此処に居る奴らは微塵もしていないだろうから、気持ちを落ち着ける時間なんて必要ないだろうしな。

 

「楯無、開会式の時の挨拶はもう考えたのか?」

 

 持っていたティーカップを机に置いた千冬がそう尋ねる。因みに入学式の時と同様、開会式の司会も副会長である千冬が進行する。

 

「ん? まぁ、とりあえずは」

 

 言って俺は懐から扇子を取り出して慣れた手つきでそれを広げる。書かれている文字は『準備万端』。

 というか、生徒会長の挨拶なんて何時も言うことは大して変わらないのだからすっ飛ばしてもいいんじゃないかとこの頃よく思う。それを千冬に言ったところ、案の定サボるなとシバかれたが。

 

「はぁ、頼むから今回はマシなことを言ってくれよ? 後始末をするのだって大変なんだ」

 

「おい千冬、その言いぐさだと俺が毎回碌なこと言ってないみたいに聞こえるんだが?」

 

「正にその通りだ。入学式の時だってあんなことを言ってまたファンクラブの会員を増やしおって……」

 

「あん?」

 

 後半部分はボソボソと小声だったために聞き取ることが出来なかった。

 俺そこまで変なことは言ってないと思うんだけどなぁ。原作の楯無みたいになろうとキャラ作って壇上に上がるってことに慣れちまったから、ちょっとやりすぎなくらい挑発することはあるけど。

 

「それはそうと、私たちの組み合わせの抽選はどうするんだ?」

 

 ゴホン、と一度咳払いをして千冬が切り出した。学年別個人トーナメントの作成は俺たち生徒会が作成したため、不正にならないように生徒会メンバーの場所は当日抽選で決めるようにしていたのだ。と言っても、真耶は二年生でただ一人の生徒会役員であるため、自動的に場所は決まってしまったが。

 

「それは開会式の最後にやるよ。つっても俺と千冬と織村だけだから直ぐに終わるけどな」

 

「はん、見てろよ更識。今回こそお前に勝ってやるからな」

 

 今まで黙っていた織村が、自信満々の表情で俺を見た。

 

「はいはいフラグ乙」

 

「ちょ、なんか最近俺への扱い雑じゃねぇか!?」

 

「いつもだバカ」

 

 織村を軽くおちょくりつつ、俺は壁に掛けてある時計に視線を移す。開会式まであと十五分程、この生徒会室から開会式が行われる第一アリーナまでは歩いて数分の距離なので、ギリギリまでここで寛いでいても問題はない。蛇足だが、俺が高電離気体(プラズマ)によって半壊させた第二アリーナは既に修復が完了している。そこで二年生のトーナメントが行われる予定なので、ISの攻撃がアリーナに直撃しても問題ない程にはしっかり修復されているのだろう。

 

「まぁ二年生のトーナメントやるアリーナには真耶がいるから何かトラブルが起きても大丈夫だろう。問題は……」

 

「ナタルか……」

 

 俺の言葉に続いて答えたのは、ナタル教育係に任命された織村だ。織村にはこの二週間、生徒会としての仕事や機械音痴をなんとかすべく奔走してもらったが、やはり機械音痴だけはどうにもならなかった。なのでナタルだけは生徒会の雑事をする時、紙に出力したものを渡して手書きでやってもらっている。アメリカに居た時もそうだったのか、手書きのスピードはもの凄く早く尚且つ丁寧に纏められていた。全部英語なので読む際苦労したが。

 

「アイツも優秀は優秀なんだが、如何せんまだハッキリ周りを見ることに慣れてねぇ。定期的に第三アリーナに見に行ってやったほうがいいだろうな」

 

「そうか、任せたぞ織村」

「よろしくな織村」

「お願いします織村先輩」

 

「そこまで俺がやんねぇといけないのかよッ!!」

 

 当然だ、と言わんばかりに俺たち三人は織村を見つめる。しばし反論しようと頭を悩ませていた織村だったが、その後ぐったりと項垂れた。

 

「……っと、そろそろ移動した方がよさそうだな。一般客も増えてくるだろうし、混雑する前にアリーナに入った方がいい」

 

 時計の長針は五十五分を指しており、俺が席を立ったのを皮切りに千冬たちもそれぞれの席を立つ。

 揃って生徒会室を出た瞬間に偶然居合わせた一年生であろう生徒が何故か顔を赤くして固まったが、話しかけるのも変かと思い、そのままアリーナへと向かう。何故か背後から突き刺さる視線があったが、気づかないようにして先を急いだ。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 アリーナに着くと、そこには既に全員の生徒が揃って座っていた。一般客へのアリーナ開放も既に始まっているため、開会式もまだだというのにアリーナ上部の観覧席には多くの観客たちが押し寄せるようにして席についている。

 開会式は生徒がアリーナの前側に、アリーナを中心に円になるように座っている。開会式が終われば生徒たちが今座っているこの場所も観客たちに開放されるが、それまでは立ち入り禁止だ。

 

 そして今、俺はアリーナの中心に居た。設置された壇上に立ち、これから生徒会長としての挨拶をしようとしているところだ。管制室からマイクを使って司会進行を行う千冬の声が、アリーナの隅々にまで響き渡る。

 

『生徒会長から挨拶』

 

 言われ、俺は一息吸い込んでそれを吐き出しながら声を張る。

 

「生徒諸君、おはよう。そしてこのアリーナに見えている来賓方、ようこそIS学園へ。俺はこの学園の生徒会長、更識楯無だ」

 

 パンッ、と軽快に開かれた扇子には『歓迎』の二文字。

 マイクを使用しているわけではないが、アリーナ全体に自分の声を響かせるのは造作もないことだ。ベクトル操作でちょちょっと工夫するだけである。

 

「三年生はこのトーナメントで進路が決まるかもしれない。二年生は企業に目をかけてもらえるかもしれない。一年生は今の実力を知るいい機会だ。皆、思う存分に戦ってくれ」

 

 ……ああ、もちろん。

 と俺は付け加えて。

 

「――――俺を倒せばソイツが最強だぜ」

 

 ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて、俺は生徒たちへと発破をかける。学園最強の称号である生徒会長。俺を倒せばそれを得ることができる。黒執事の強さはIS関係者にとっては周知の事実なので、倒したとなればそれこそ企業からは引く手数多になることだろう。

 当然、俺も負ける気なんて更々ないが。

 

「さて、前口上はこのくらいで十分だろう。そろそろ待ちきれなくなってきてる奴も居るみたいだしな」

 

 ぐるっとアリーナを見渡し、ちらほら見受けられる好戦的な目をした生徒たちを視線に捉えながら。俺は高らかに宣言する。

 

「ただ今より、学年別個人トーナメントを開催するッ!!」

 

 一度閉じられ再度開かれた扇子には、『開幕』の文字が躍っていた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 午前九時三十分。この時間より、学年別個人トーナメントは各アリーナで開始された。

 既に上部の観客席は満員状態で、後方では立ち見で試合を観戦する来場者も少なくない。特に人が集まっているのはやはり三年生が使用する第一アリーナで、その観客数は既に一〇〇〇人に迫ろうとしている。

 そんな中、生徒会長たる俺はというと。

 

「兄さーん!!」

「……お兄ちゃん……!」

 

「久しぶりだなぁ、姫無。簪」

 

 我が愛しの妹たちとの再会を喜んでいた。

 いや、確かに最後に会ったのは今月の初めだから、実質は一か月も経ってないわけだけどさ。やっぱり子供の成長は早いというかなんというか、この短い期間でもしっかり成長してるなと感じられることがもう、ね。

 お兄ちゃん的には最高だよね。

 

 外出用の洋服(二人ともワンピース型のドレス)に身を包んだ二人は、俺の元へと駆け寄ってくるなり笑顔で抱き着いてきた。おうおうなんだ、ちょっと背伸びたんじゃないか姫無。簪もなんだか普段の引っ込み思案的な性格が改善されてるような気がするぞ。

 

「流石だったわ兄さん。あの挨拶は完璧」

 

 どうやら開会式での俺の挨拶をバッチリと耳にしていたらしい姫無からそうお褒めの言葉を頂いた。

 

「ありがとな、そう言って貰えると嬉しいよ」

 

 言って、俺は姫無の頭を優しく撫でてやる。気持ちよさそうに目を細める姫無を横目に、簪の方へも視線を落とす。

 

「簪も聞いてたのか?」

 

「うん……。かっこよかった……」

 

 俺の制服の裾を軽く掴みながら、簪も俺の挨拶を褒めてくれた。やっぱり身内から褒められると素直に嬉しいものだな。

 

 少女二人に囲まれる生徒会長、という何とも珍妙な光景が出来上がっているわけだが、俺は全く気にしない。

 可愛いは正義だ。異論は認めない。

 

「……楯無。あまりそうベタベタするなよ」

 

 不意に掛けられた声に俺は振り返る。

 そこに居たのは、少年と手を繋いだ状態の千冬だった。

 

「おう千冬。一夏に招待状渡してたのか」

 

 千冬と手を繋いだ少年――――織斑一夏に目線を合わせるためにしゃがみこんで問いかける。

 

「まぁな。以前から一夏はISでの戦いを間近で観たいと言っていたしな」

 

「そうなのか。ま、楽しんでけよ一夏」

 

「おう!!」

 

 わしゃわしゃと頭を撫でながら一夏に笑いかける。やはりというか、この年頃の少年にとってはISというのは憧れの的なんだろう。ほら、あれだ。俺で言うところのガン〇ムみたいなものだ。生憎ISに乗れるのは圧倒的に女性だが、それでもやはり憧れずにはいられない。なまじ俺や織村といった例外的な男性IS操縦者が存在するため、余計にその憧れは強いものになっているに違いない。

 

「形無兄ぃも頑張れよ! 俺応援してるからな!!」

 

 どうやらかなり興奮しているらしい。鼻息荒く、今にでも何処かに飛び出して行ってしまいそうだ。

 ……ああ、だからさっきから千冬が手を握ってるのか。

 

 などとそんな呑気なことを考えていると。

 

「……あら千冬さん。お久しぶりです」

 

「ああ、姫無も元気そうだな」

 

 すぐ横で、二人の少女たちが火花を散らしていた。

 

「さっきも言ったが姫無。あまりこういった公衆の面前で男にくっつくものではない」

 

「あら、だって私の兄さんですよ? くっついたところで何も問題はありません」

 

「お前ももう十歳だろう? そろそろ兄離れしないといけないぞ」

 

「する必要がありませんし、する気がありません」

 

「……楯無もあまりそうくっつかれると動きづらいだろう。離れてやれ」

 

「兄さんは私一人がくっついたくらいで動けなくなるような軟な人じゃありません」

 

「…………」

 

「…………」

 

 あー、うん。

 俺はこの状況を一体どうしたらいいんだ?

 というか千冬よ、あまりムキになるな。相手は小学生だぞ。確かに姫無の話術は既にかなりのレベルだから言い負かされそうになるのは分かるけどな。一旦落ち着かないと。小学生に言い返せない生徒会副会長の図が出来上がってしまうぞ。

 

「とりあえず二人とも落ち着けって。千冬もあんまカッカするな。姫無も年上に対する態度は考えろよ?」

 

「ごめんなさい兄さん……」

「すまん……」

 

「ん、わかればよろしい」

 

 そうしてようやく皆が落ち着きを取戻した頃。本日二度目の火花が散ることになる。

 

 最初に気が付いたのは俺だった。この広い第一アリーナ内には大勢の人間が集まってきている。それは生徒であったり企業であったり様々だが、明らかに一人、このアリーナ内で浮いている人物がこちらに猛スピードで向かって来ているのを捉えたのだ。

 日本人とは思えない、ピンクにも似た髪色。学園指定の制服など知るかとばかりに着ているのは、不思議の国のアリスに出てくるような水色のドレスにも似たワンピース。

 

 そして極めつけに、頭上でピコピコと動くウサ耳。

 

 その余りにも浮いた格好に、千冬、姫無たちも気が付いた。

 ここ一か月行方を眩ませていた彼女が何故突然この場に現れたのかは分からないが、これだけは断言できる。

 

「……こりゃ一波乱あるな」

 

 ボソリと呟かれた俺の言葉が聞こえていたのか、千冬が「だな」と答えた。

 そんな俺たちの思いもいざ知らず、目の前にまでやってきた少女はこちらを見るなりとんでもないことを言った。

 

「ひっさしぶりだねぇかーくん、ちーちゃん。――――あ、束さんは今から国際IS委員会の奴らを皆殺しにしてくるから」

 

 ウサ耳少女、篠ノ之束は満面の笑みでそう殺戮を宣言した。

 

 

 

 

 

 




 そんな訳で久々登場束ねーさん。

 世間はクリスマスだってのに今日もテストだったよ畜生ッ!!

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