双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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 遅くなり、申し訳ありません;
 なんとかあがりました。今回はトーナメント開催の準備期間ということで、あまり派手な動きはありません。
 強いて言うなら、うちのナタルはダメな子になってしまったことくらいしか……ww


#42 準備期間はその時点でフラグ

 

 

 

 

 前回のあらすじ

 更識姉妹にもそれぞれの新学期到来

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 今更ではあるが、IS学園に於いて生徒会とは生徒達の中心的存在であり、憧れの的のような立ち位置にある。当然、生徒会役員ともなれば知名度も然ることながら、その実力も折り紙つきの猛者ばかりである。

 生徒会長である自身を筆頭に、千冬、織村に真耶。全員漏れなく学園内屈指の実力者だ。

 生徒会に任命されるにはこれといった条件は存在しないが、基本的には生徒会長による任命、または他役員の推薦によって生徒が選ばれ、その素性を全て加味した上で認められれば晴れて生徒会の一員となる。

 因みに千冬と織村は俺が直接指名し、真耶は千冬が推薦した。

 

 とまあそんな訳で、生徒会役員は四名。全員が日本人ということで国際的な摩擦も生ませず粛々と生徒会として機能してきたわけであるが。

 

「……おいナタル」

 

「は、はい……」

 

 目の前で小動物のように縮こまる金髪少女に対し、今日何度目かの言葉を吐き出さねばならない俺はそろそろ我慢の限界を迎えようとしていた。

 

「何度言えばデータを全損させずに済むんだぁぁああああッ!!」

 

「すみませんんんんッ!!」

 

 先日から、生徒会に新メンバーが誕生した。とは言っても、まだ見習いとしての扱いのため正式な役職には就いておらず、雑事全般や簡単な事務処理を任せている。

 それが今俺の目の前で泣き出しそうになりながらペコペコと頭を下げる少女、ナターシャ=ファイルスなのであった。

 

 彼女が生徒会に入りたいと願い出たのはつい数日前のことだ。俺とクラリッサとの決闘後に生徒会室にやってきて、強く生徒会に入会したいと言われたのだ。俺としては国家間の摩擦などを抜きにしても、いきなり新一年生を生徒会に入れようとは当初考えていなかった。しかし、彼女の実力が確かなことと織村や千冬からも賛成的な意見が出たため、こうして生徒会の見習いとして活動に参加してもらっている。

 

 のはいいのだが。

 

「ナタル、分かったから。分かったから泣き出さないでくれ」

 

「すみません……、私こういうのほんと苦手で……」

 

 この少女。実は機械が全く扱えなかった。

 え? じゃあなんでISは使えるんだよという当然の疑問が浮上してくるため、それをナタルに聞いてみたところISは機械ではなく、パートナーと捉えているらしい。

 生き物として扱っているため、ISを操縦するのにはなんら支障をきたさない。どころか華麗に空を舞う。

 

 が、デスクワークとなると話は全く別。パソコンを触らせればこれまでのデータは全て消え、復元さえできなくなってしまい、部屋の掃除をしてもらおうと掃除機を渡したらナタル自身が掃除されそうになっていた。

 一体これまでどうやってアメリカ代表候補性として活動してきたのか物凄く気になったが、今はそんなことよりも片づけなければならない重要案件があるため、それは一先ず置いておくことにする。

 

「真耶、そっちはどんな感じだ?」

 

「概ね順調です。トーナメントの七割がたは完成しました」

 

 キーボードを打ち鳴らしながら俺の問いかけに答える真耶。ほんとに出来る子だ。

 

「おいおい会長、新人を泣かせるんじゃねぇよ」

 

「いや泣かせてねえからな!? 全部俺の所為みたいに言うんじゃねぇよ織村!!」

 

 割り当てられた仕事に一段落ついたのか、真耶に淹れてもらった紅茶を含みながら言う織村に強く抗議する。大体織村がパソコン触らせたんだろうが、しっかり面倒見て貰わないとこちらとしても困る。

 

「おい待てなんで俺がそいつの教育係みたいになってんだ」

 

「当たり前だろう、お前が推薦したみたいなものなんだから。しっかり最後まで面倒みてやれよ」

 

「いや全員こいつの参加には反対しなかっただろう!? なら全員で面倒見るのが筋ってもんだろうが!!」

 

「生憎と俺は生徒会長としての仕事が忙しくてな」

「私は副会長としての仕事がな」

「わ、私もトーナメントの作成が……」

 

「お前ら取って付けたような理由で俺に押し付けんじゃねぇ!!」

 

 こうして織村は半ば強制的にナタルの教育係に任命されたのだった。

 

 さて、若干話は逸れてしまったが、現在俺たち生徒会は今月末にまで迫った学年別個人トーナメントの進行や組み合わせ、各国要人への招待状作成などを授業そっちのけで行っている。本来であれば少なくとも各国への招待状は教師が作成しなくてはならないのだが、今年その役割に抜擢されたのが橘教諭である。

 彼女に関して言えば、はっきり言ってやる気など存在しない。

 技術者としての腕はピカイチだが、如何せん性格に一癖も二癖もあるのだ。あの教師に任せていたらこのトーナメント自体当日まで何も進まないでいただろう。

 

 流石にそんな事態に陥ってしまってからではまずいということで俺と千冬で橘教諭からその仕事を半ば無理やり引き継ぎ(橘教諭は嬉々として押し付けてきたが)、こうして生徒会室で仕事に追われているのだ。

 いや、いくらなんでもこれは量が多すぎるだろう。

 トーナメントの作成は真耶に丸投げしてしまう形で申し訳ないが、それを差し引いても通常なら生徒数人でこなせる仕事量ではない。

 それをこなせているのは偏に俺には高速演算が可能な第一位の頭脳が備わっているのと、千冬たち生徒会メンバーが優秀だからに違いない。まあ、ナタルは置いておくとして。

 

「ふう、なんとかあと二週間で間に合わせられるか」

 

 二日間に渡って行われるトーナメントの進行予定を作成していた千冬が、一旦ウィンドウから視線を外し肩を揉む。四月末に開催されるこの学年別個人トーナメントまで残り二週間。各国への招待状はそれよりも一週間程早く通達しなくてはならないので、そちらは既にほぼ完了させてあるが、それを抜きにしてもギリギリだ。

 

「あとは先生たちの会場設備とかですね」

 

「んなもん勝手にやらせときゃいいだろうに」

 

 真耶の言葉に心底嫌そうに呟く織村。こういう風に悪態ついてる織村だが、最終的にはぶつくさ言いながらも協力してくれる。ほんと最初の頃のキャラの面影が全くと言っていいほどに消滅しているよなぁ織村。

 

「……なんだよ」

 

「ん? いや、なんかお前も変わったなぁと思って」

 

 俺の視線に気づいたらしい織村が怪訝そうに眉を顰めてこちらに視線を向けた。

 

「はん、別に俺は変わってなんかねぇよ。ただお前との約束だからな」

 

 織村の口から出た『約束』という単語に、俺は僅かに目を細める。丁度昨年の今頃だっただろうか。それまでは対立というか意見の食い違いしかしていなかった俺と織村に、徹底的な転機が訪れたのは。

 今でも思い出すとつい苦笑してしまうような、そんな珍事件。あの事件を機に、俺と織村は次第に打ち解け、やがてある約束をするに至ったのだ。

 

「楯無。何度も聞くようだが、お前と織村のその約束とは一体なんなんだ?」

 

 聞き耳をばっちりと立てていたらしい千冬が、俺たちの会話に割って入ってきた。

 

「秘密」

「秘密だな」

 

 俺たち二人に揃ってそう言われた千冬は、若干頬を膨らませつつもいつものことかと思考を切り替えて再びウィンドウに視線を落とした。

 さて、今の問答からもわかるように、俺と織村との間で交わされた約束の内容は、当人の二人だけしか知らない。当然、千冬や束、真耶でさえもその内容は把握していない。俺たちが完全に黙秘を貫いた結果だ。 

 何故秘密にしてあるのか。それは約束の内容が千冬や束たちにとって大いに関係しているからなのであるが、そこんところを話し出すと長くなるのでここでは割愛させてもらう。まぁとにかく、俺と織村の仲が現在のようなものになったのは、その約束が存在しているからなのだ。

 

「……っといけね。俺も早くこの仕事片づけちまわないとな」

 

 授業そっちのけで行っているとは言え、流石にまる一日授業に出ないわけにもいかない。出来れば昼休みまでには作業にキリをつけ、教室に向かいたいところだ。というか出ないと流石に虹里になに言われるか分からない。下手すれば説教が待っているかもしれない。生徒会長がそんな失態をするわけにもいかないので、必然、俺はタイピングのスピードを早めた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……ふぅん」

 

 職員室の一角に用意された自分の机に肘を置いた状態で空間投影型ウィンドウを開いていた教師は、得心言ったとばかりに一つ頷いてスーツのポケットから煙草を取り出した。

 シュボッ、と小気味のいい着火音とともに煙草に火を点け、口内に溜め込んだ煙をゆっくりと吐き出す。

 教師――――橘杏子はそこに映し出されたデータをまじまじと見つめる。

 現在は四時間目が行われている時間帯であり、職員室内には彼女以外に教員の姿はない。というかそもそもIS学園内は原則禁煙であり、周囲に教員がいればここまで堂々と煙草を吹かしたりしない。

 

「なぁんか裏でコソコソやってるみたいだけど、まさかこっちにまで手を出そうってのかねぇ」

 

 形無に向かってむちゃくちゃ言いつけるような時の声色とは違い、明らかに低いトーンの呟きが室内に溶けるようにして消えていく。

 

「楯無や織斑だけじゃあ、ちょいとばかし荷が重いか……」

 

 もしもこの言葉を学園の生徒が耳にしていたならば、何を馬鹿なと思ったかもしれない。

 ここIS学園に於いて生徒会長とは最強の称号そのもの。そこに位置するのが更識楯無という少年であり、その少年と互角以上に闘えるのが織斑千冬という少女なのだから。

 言葉の通り、敵無しの彼らに荷が重いことなど学園内には存在しないと言っていい。

 

 しかしながら、今回ばかりは橘の言うことの方が正しかった。

 

 何故なら敵は、IS学園に非ず。

 そしてその標的も、IS学園には非ず。

 

「動き出そうってか――――京ヶ原」

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

「……終わったーーーー!!」

 

 ひたすらに机に向かっていた生徒会メンバー全員が、その場でぐったりと身体を机に投げ出した。

 凡そ三時間程同じ姿勢で作業していた身体は凝り固まり、少し捻ればバキバキと骨が鳴る。

 

「いやぁ、一時は本当に終わるのか疑問でしたけど、なんとか終わってよかったですね」

 

 一安心とばかりに笑顔を見せる真耶に癒されつつ、俺は淹れてもらった何度目かの紅茶で喉を潤す。いや終わってくれて良かったホント。真耶がいなかったらいつ終わるか分かんなかっただろうな、優秀な後輩を持てて鼻が高いよ俺は。

 

「ありがとな真耶。真耶のおかげで予定より早く終わらせることができた」

 

「い、いえそんな!! 私なんて会長に渡された資料を整理しただけですし……」

 

「トーナメントの作成だって大部分は真耶がやってくれただろう? 感謝してるよ」

 

「あ、ありがとうございます。えへへ……」

 

 俺が礼を言うと頬を赤らめて頭を掻く真耶。なんで赤くなってるのかは分からないが、風邪を引いているというわけでもなさそうなので心配は無用だろう。

 そして何故かな、主に千冬の方から突き刺さるような視線を感じるんだが。

 

「……馬に蹴られて死ねばいい」

 

「なんだと織村この野郎」

 

「そうだ織村もっと言ってやれ」

 

「千冬までなんなんだよ!?」

 

 理不尽な怒りをぶつけられ、訳が分からず首を傾げる。なんでだ、俺は真耶を褒めただけだぞ。別に浮気してるわけでもないのに何で千冬はあんなご機嫌斜めになってしまったんだ。

 

「……そこまで分かっていながら辿り着かないお前の鈍感さは最早賞賛に値するな」

 

「なんか知らんが褒められてはいないってことだけは分かった」

 

 このままでは俺が標的にされたままになってしまいそうだったので、話題転換も兼ねてさっきから床で這いつくばっている金髪の少女に視線を移した。

 

「どうだナタル。そろそろ慣れてきたか」

 

 問いかけられた少女、ナターシャは先ほどから織村指導の下パソコンに慣れるためにネットについてあれこれ指導を受けていた。何故床で這いつくばっているのかと言えば、彼女がその指導についてこれずパンクしたからである。

 

「ぜ、全然ダメです……。私、機械ホント無理です……」

 

 涙目というか最早半べそかきながらこちらを見てくるナタル。なんというかこう保護欲を掻き立てられるような見た目だが、残念ながら彼女の機械音痴加減はその保護欲を掻き消してしまえるほど重症だった。

 

「参ったな。確かにいきなり慣れろってのは難しいかもしれないが、後に生徒会役員として活動することを考えると、せめてパソコンは使えないと厳しいぞ」

 

「ふぇ~ん……」

 

「こら楯無。またナタルを泣かせて」

 

「いや泣かせてないって!!」

 

 幾らアメリカの代表候補正と言えども、中身はまだ十三歳の幼気な少女だ。こういった事務的な作業は慣れるしかないので、あとは織村が上手いこと教えていくしかない。アイツも教えることに関してはまんざらでもなさそうだし、教育係にして正解だったかな。

 

「おいナタル、またフリーズしてんぞ」

 

「えっ!? ほんとだカーソルが動かない!!」

 

「おいだからって配線ごと引っこ抜くんじゃねぇぇええええ!!」

 

 ……まんざらでも、ないよな?

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 放課後。基本的にIS学園の生徒は部活動に参加するか、訓練機を使って自主トレをするか、寮に戻って自由時間を過ごすかのどれかである。訓練機は使用するのに申請書を出さねばならず、またその数も生徒数に対して余りにも少ないため中々使用許可は下りてこない。となれば必然、アリーナを使用する生徒も訓練機を借りられた生徒だけに限られるわけで。

 

 そんなアリーナの一角に、俺と千冬は立っていた。

 無論、千冬はISを纏った状態で、だが。

 

「で、なんで俺は執事服着てこんな所に立たされてるんだ?」

 

 真っ黒な執事服に身を包んだ俺は、一応はIS装備状態である。あくまで一応だが。

 

「ふむ。最近何かと忙しくて形無と手合せしていなかったからな」

 

「あのな千冬。ここじゃおれは楯無……」

 

「もう放課後だ。今くらいはいいだろう?」

 

「……はぁ。ま、いいけどさ。こんな格好でアリーナに立たされてるんだ。今から何するか、なんて野暮なことは聞かねぇよ」

 

「結構。……ならば、行くぞッ!!」

 

 直後、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用した千冬は一直線に俺へと斬りかかってくる。因みに千冬が装備している機体はつい最近完成したばかりの彼女の専用機ではなく、訓練機として一般生徒にも貸し出されている純国産の第一世代型IS『鉄(くろがね)』だ。この機体はどちらかというと近接戦向きの機体で、装備もブレードや至近距離用のマシンガンなどを搭載している。

 

 一直線に斬りかかってくるなど、本来ならば愚の骨頂。俺の反射でダメージなど与えられる筈もない。

 のだが。

 

「……ふッ!!」

 

 上から下へとブレードを振り下ろす千冬の軌道が、巻き戻るかのように一拍置かれてから繰り出される。

 

(いきなりかッ!!)

 

 何が来るのかを察知した俺は、反射でその攻撃を受けることなく、脚力のベクトルを操作して真横に高速で移動しその斬撃を避ける。

 バタバタとはためくテールが落ち着く間もなく、体勢を整えた千冬から繰り出される二撃目。この剣筋も、初撃と同様に一瞬巻き戻るかのような違和感を覚えるものだった。

 

「チッ、反射対策はバッチリってかぁ!?」

 

「形無が種明かしと対策を教えてくれたのだろう!!」

 

「まさか本当に出来るとは思ってなかったけどな!!」

 

 繰り出される斬撃を紙一重で交わしつつ、俺もベクトル操作を駆使して千冬でと攻撃を繰り出す。アリーナに転がる石を蹴り上げ、触れれば吹き飛ぶような突きを繰り出す。しかしそれを、千冬はブレードで、あるいは回避で防ぐ。

 相変わらずスゴイ戦闘センスだと俺は内心で舌を巻く。現時点でこれほどの力を持っているのだ。将来的にモンド・グロッソを制するのも頷ける。

 

 だがしかし。

 俺とてIS学園最強を背負う生徒会長。例え訓練であっても、負けることなど許されないのだ。

 

「少しばかり本気で行かせてもらうぜ千冬。遠慮はなしだ」

 

「フッ、当然だ。行くぞ形無!!」

 

 これまで一直線に加速していた千冬の軌道が、上下左右に目まぐるしく変化する。通常瞬時加速を連続そて使用するのは相当にハイレベルな技量を必要とするが、それを千冬は苦も無くやってのける。

 一閃。

 

 振りぬかれた剣は、しかし俺を貫くには至らない。

 

「……読んでいたのか?」

 

 ポツリと千冬が呟く。

 あれだけ上下左右に動き回られては、どこから一太刀がくるか予測は困難だ。事実、まさか真上からと見せかけて背後からとは思いもよらなかった。俺以外であれば、その一撃で決まっていただろう。

 

「読んだというよりは、脳内で千冬のこれまでの軌道を思い出して、一番可能性が高いルートで張ってただけだけどな」

 

「……これまでというのは、まさか入学してから今日までの私の戦い全てか?」

 

「当然」

 

「はあ……。そんなことが出来るのはお前くらいだ」

 

 ISを待機状態に戻して、千冬は溜息を零す。

 なんだ、もうやらなくていいのか? そっちのシールドエネルギーはまだ残ってるだろうに。

 

「続きをしたいのはやまやまだがな。もうこんな時間だ」

 

 指示された時計に目をやれば、そろそろ寮に戻らなくてはいけないような時間になっていた。

 

「だが決着はつけるぞ。個人トーナメントでな」

 

「まず俺と千冬が当たるかわかんないけどな」

 

「当たるさ。形無は生徒会長として絶対負けられん。私も負けるつもりなどない。となれば、私たちが戦うことになるのは道理だろう?」

 

 自信満々というように語る千冬は、そのまま俺のほうに近づいてきて不敵にほほ笑んだ。

 

「さて、兎にも角にもだ。一度部屋に戻るぞ」

 

 腕を絡ませてきた千冬の発言に、俺は一瞬固まって。

 

「……それって、まさか俺の部屋?」

 

「当然だろう」

 

 なに言ってんだお前? 的な表情を浮かべられ、俺は返す言葉を失った。

 こういう時の千冬には、最早何を言っても無駄である。伊達に一年以上付き合っているわけではない。そして俺の部屋に押し掛けるということは、多分そういうことなのだろう。

 

「……嫌か?」

 

 身長が俺よりも少し低い千冬に、こうして見上げられるような形で聞かれたら、嫌などと言える筈もなく、そして嫌な訳がない。

 今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られるが、ここがまだアリーナであることを思い出して動きかけた腕を引っ込める。

 

 俺は千冬と並んで歩きながら、寮への道を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 そして二週間後、学年別個人トーナメントが、いよいよ開催される。

 

 

 

 

 

 

 




 そんなわけで多少伏線をぶちまけたりしましたが、次回から学年別個人トーナメント開始です。
 これまで本編で出番がなかったシスターズも活躍!! ……するかも。

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