やっとこさの新話です。しかも番外です(-_-;)
これはにじふぁん時代に頂いたアンケート結果によって書いた番外で、もしかしたら覚えている方もいらっしゃるかもしれません。
そんなこんなでどうぞ。
前回のあらすじ
ナターシャ=ファイルス研修生
IS学園では新学期早々騒々しい事態になっている頃。
二人の妹達にも新しい出会いや出来事がやってきていた。
◆
「更識姫無です。去年同じクラスだった人も初めて同じクラスになった人も、これから一年間よろしくお願いします」
学年が上がり四年生になった私は、新しい教室で新しいクラスメートたちと自己紹介をしている真っ最中だ。簡潔かつ分かりやすく自己紹介を終えて椅子に腰を下ろし、グルッと周囲を見回してみる。去年同じクラスだった子もいれば初めて同じクラスになった子もいて、新学期はやはり新鮮な気持ちにさせられる。
「もっと面白い自己紹介期待してたんだけどなぁ姫ぇ」
「私にそんなこと期待されても困るわよ。それにそういうのは紗季の役目でしょう?」
「いや違うからね!?」
「ほら、次紗季の番よ」
「うわ……ッ」
私に言われて慌てて席を立ち自己紹介を始めたのはこれで四年間同じクラスになった親友、椎名紗季。苗字の関係上必ずと言っていいほどに私の真後ろの席になる。
ちなみにはじめは彼女は私のことを姫無ちゃんと呼んでいたが、今ではすっかり気心知れる仲になっているので姫と呼ぶようになった。うん、私としても互いに気を使わずにいれる友達というのはとても楽でいい。
「(もう! もっと早く教えてよ!)」
自己紹介を終えて着席した紗季が私の耳元で小声で怒鳴るという器用なテクを披露する。
「普通に考えれば分かるでしょう、真後ろなんだから」
「(わかんないときだってたまにはあるでしょうよ!)」
「三年間私の後ろでなにやってたのよ」
「ひどっ!?」
「椎名ー、うるさいぞ静かにしろー」
思わず声を荒げた紗季に額にイライラマークを浮かべた担任の先生が注意した。こういうのを自業自得というんだろう。先に声を賭けてきたのは紗季なわけだし。
「もう、姫のせいで怒られちゃったじゃない」
え? これ私のせい?
なんて理不尽にも罪を被せられた私は密かに彼女への仕返しを誓い、続く自己紹介に耳を傾ける。
「げ……」
しかし、そんな私はとある人物を見つけてしまった。
何故だ。どうしてまた今年もアイツがこのクラスに居るのよ。偶然にしても出来すぎているでしょう。先生たちの悪意をひしひしと感じてしまう。いや、私別に先生たちから嫌われるようなことは何一つしていないけれど。
「あちゃあ、姫も大変だねぇ。あんなのに目ぇつけられちゃったばっかりに。…………南無」
「いや私死んだわけじゃないから」
目を閉じて合掌する親友にツッコミを入れつつ、私は小さく溜息を一つ。最近兄さんのように溜息を吐く回数が増えてきたような気がする。嬉しいんだか悲しいんだか分からないけど。
私はこの四年間、ずっと同じクラスになり続けている子が二人いる。一人は真後ろに座る紗季。そしてもう一人は、今まさに自己紹介しようとしている身体の大きい男の子。
「丹羽大輝です。特技はバスケ、好きなものはバスケと体育と、」
そこまで言って、大輝はくるりと振り返って(因みに席位置は私の列の二個隣の一番前)。あ、なんか目が合った。
どうしてだろう、物凄く嫌な予感がするのは。
「更識です」
………………もう勘弁してよ。
唖然とする私に、大輝は物凄いイイ笑顔でハンズアップしてくる。
え、なにこの空気。私にどうしろって言うの?
◆◆
「かんちゃ~ん、今日の給食プリンだよ~」
「……もう、渡さないからね……」
「わかってるよぉ、だからジャンケンしよう」
「話聞いてた?」
四時間目が終わって皆が班ごとに机を移動させていると、本音ちゃんがダボダボの袖をぶんぶん振り回しながら私にそう言ってきた。
彼女の狙いはもう分かってる(というかもう口走っていたけど)、デザートのプリンだ。
本音ちゃんはプリンが世界で二番目に好きらしい。因みに一番好きなものは何かというと、『デザート』と言っていた。
……それ一括りにしちゃってるじゃん、と思わないこともないけど、本音ちゃんなので多分何を言っても無駄だろう。
この子のマイペースっぷりは姉である里虹さんや虚さんでさえも手をやく程だし。
「最初は」
「いややんないからね」
「……さぁいしょぉは」
「目が怖いよ本音ちゃん」
本音ちゃんはどうしても私のプリンも食べたいらしい。というか自分の分はしっかりあるんだから別に二個目はいらないんじゃないだろうか。
私としてもデザートのプリンが無くなるのは回避したいところなのでなんとか本音ちゃんを説得したいところ。
「……本音ちゃん」
「なぁにかんちゃん」
某ハンターのツンツン主人公の必殺技よろしくな態勢で私の呼びかけに答える本音ちゃん。
その格好は作品的にも女の子的にも問題があるような気がするので止めたほうがいいと思うな。もしそのまま拳を繰り出されたら念が使えない私は粉々にされちゃいそうだから。
「……今日は一人休んでる子がいるから、プリン一つ余ってる」
「はっ!?」
盲点だった!! とでも言うかのように目を見開く本音ちゃん。私本音ちゃんがそんな目大きいなんて知らなかったよ。
そこまでしてプリンが食べたいのかな。余り糖分取りすぎると太っちゃうよ。
「だぁいじょうぶだよかんちゃん。私の場合はきっとおっぱいに全部の栄養がいくからぁ」
「心を読まないで……、それにそんな都合の良いこと、あるわけない」
※この数年後、簪は絶望することになる。
閑話休題。
「そぉ言えばさかんちゃん」
「なに……?」
給食の時間。無事にプリンを守ることに成功した私に、ジャンケンで勝ち取った二個目のプリンを食べながら本音ちゃんが口を開いた。
「かたりん、生徒会長になったんだってぇ?」
「……うん、去年の秋頃」
「すごいよねぇ、かたりんて布仏の従者いらないような気がするよぉ」
お兄ちゃんの話題が不意に出て、私は思わず会いたい衝動に駆られてしまう。
つい最近まで春休みで帰省していたお兄ちゃんだったけど、生徒会の書類が溜まってるとかで長く家に居ることはなく、余り遊んでもらえなかった。お姉ちゃんも私と同じように遊んでもらいたかったみたいだけど、お兄ちゃんにかまって貰えずに不貞腐れていたのを覚えている。
「しっかりしてるお姉ちゃんよりもしっかりしてるからねぇかたりんは」
ここの言うところのお姉ちゃんとは布仏三姉妹の長女である里虹さんのことだろう。次女の虚さんもとてもしっかりしているけれど、里虹さんはそれよりもさらにしっかりしている。なんて言うんだろうか、こう真面目が服を着て歩いているみたいな人だ。
そんな人がお兄ちゃんの従者なわけだから、すごく尽くしてくれると思うんだけど、お兄ちゃんは里虹さんのことを従者だとは思っていないらしい。できれば友達みたいに接して欲しいんだって前に言っていた。
でも里虹さんはお兄ちゃんを主人としか見ていないみたいで、なかなかお兄ちゃんが理想とするような関係にはならないみたい。
「お姉ちゃんは真面目だからねぇ」
いつの間にか手にしていたプリンの蓋を嬉々として開けながら、本音ちゃんは言う。
里虹さんは確かお兄ちゃんと同級生だったから、今は高校三年生の筈。成績も優秀で、いつもお兄ちゃんと学年一位を争っているほどらしい。
「……本音ちゃんは、もう少し真面目になったほうがいいと思う」
「やだなぁかんちゃん。私はすっごく真面目だよぉ」
「…………」
「あ、怖い。かんちゃんの目が怖いよぉ」
一体本音ちゃんのどこを見れば真面目だと言えるのか、私には到底分からない。故にジトッと彼女を見ていたら、両腕をパタパタさせて心外だ、と言わんばかりの抗議が返ってきた。
(こういうところだと思うなぁ……)
親友のためにも決して口には出さず、私はデザートのプリンを手に取った。
「…………、」
そこで私は初めて気づく。今手に持っているプリンの容器が、既に空だということに。
正面に視線をやれば、そこには口の周りにプリンの残骸を散りばめた本音ちゃん。何故(・・)か、その口には二つ以上のプリンが入っているように思われる。
「……本音、ちゃん……?」
「なぁにかんちゃん」
「絶交」
「ひぇっ!?」
◆◆◆
放課後、新学期初日を無事に終えた私は紗季と共に帰路についていた。これまで三年間も通い続けている通学路だけにこれといった真新しさなど何もない道を、二人で他愛無い話で盛り上がりながら歩く。
「しっかし丹羽には笑った笑った、アイツ本気で姫に惚れてんのねぇ」
「もう、笑いごとじゃないわよ。それに私には兄さんがいるんだから」
「うわ、出たよ姫のブラコン」
「なんとでも言いなさい。私には兄さん以上の男なんて存在しないと思ってるから」
紗季の言い分に、更に強く言い返す。誰になんと言われようが、私には兄さん以外の男なんて眼中にないのだ。同年代の男子なんて論外、子どもっぽすぎて話にもならない。因みに私がブラコン(私自身はブラコンだと思っていないが、紗季にそう強く言われた)を公言しているのは特に親しい友人数人だけなので、ほとんどの同級生たちは私がそうであることを知らない。
だから私が貰うラブレターや告白すべてを断っているのは、他に好きな人がいるからだと思っているらしい。ということを紗季から聞いた。まあ、間違ってるわけではないけど。
「姫のお兄さんかぁ、私は直接は会ったことはないけど、世界で二人しかいないISを操縦できる人なんだよね」
「ええ、そうよ」
なんとはなしに呟かれたその言葉に、私は自慢げに頷いて見せる。今となっては兄さんは世界的な有名人。知らない人の方がもしかしたら少ないかもしれない。
「しかも姫が言うのを聞いてる限りじゃ、ものすごくカッコよさそうだし。そんなお兄さんなら、私も欲しかったなぁ」
ぼやく紗季の横顔を、私は苦笑して見つめる。
彼女にも中学生になるお兄さんがいるけれど、紗季曰くダメ人間を絵に描いたような人なんだとか。きっと家族だから恥ずかしくてあまり他人に言えないだけだと思うけれど、本人は絶対お兄さんのこと好きだと思うなぁ。私の勘は十中八九当たることが多いから。
「紗季のお兄さんだっていい人じゃない」
「はぁ!? アレが!? 冗談やめてよ姫、あんなののどこをどう見ればいい人そうに見えるんだか」
「中学一年生にしては大人っぽいところとか?」
「ただ背が高いだけでしょ、中身は幼稚園児以下よ」
どうやら意地でもお兄さんをいい人と認めたくないらしい。私にはよく分からないけれど、こういうのが普通の兄妹関係だと以前紗季に言われたのを思い出した。
「そんなことよりさ姫、今月末にあるIS学園の学年別個人トーナメント。観に行くんでしょ?」
紗季の口ぶりから考えるに、どうやらこの話題が本題らしかった。
問われた答えは、決まりきったこと。
「当然、兄さんは生徒会長をしてるからどの組に入るかは当日まで分からないって言ってたけど、優勝するところを見に行くわ」
「うわこの子さらっとお兄さん優勝宣言したよ」
「当たり前でしょう? 生徒会長は生徒達の頂点でないといけないんだから」
「いやそれはそうなんだろうけど……、もういいや今更何言っても無駄な気がしてきた」
私を見て大きくため息を吐く紗季。どうして私が呆れられないといけないのよ。
「で? そんな話を切り出した理由は何?」
「う、いや、その……」
珍しく歯切れの悪い様子で中々切り出せない紗季。そんな姿に疑問を感じたが、意を決したのか口を開いた彼女の言葉でその疑問は解消した。
「あ、あのさ。もし出来ればでいいんだけど、私もそれ、観に行きたいなぁって」
ああ、成程。と私は内心で納得。
通常、IS学園には如何なる行事であっても関係者以外は立ち入ることは禁止されている。しかし例外というものはあり、そういった行事の際には生徒一人に対して一枚の招待状が配布され、それを親しい友人などに渡すことでその友人はIS学園内に足を踏み入れることが許されるのだ。
ちなみに私は既に二回IS学園に行ったことがある。勿論、兄さんからの招待状があったからだが。そして当然簪ちゃんも付いてきた。
本来であれば生徒一人に対して招待状は一枚しか配布されないのだけれど、その招待状を作成しているのは教員たちではなく生徒会なんだとか。なので特例として生徒会役員にだけは枚数制限がないらしい。かといって何十人にも招待状を配ったりすることはなく、呼んだとしても精々が三人程度みたい。
なので私は紗季の分の招待状も兄さんに頼んでみて、了承を得られればという結論を下し、早速兄さんに電話してみることにした。
数秒の間もなく、コールされた番号は通話状態に入った。
『もしもし、どうしたんだ姫無』
「もしもし兄さん、今時間大丈夫?」
『ああ、別に今な』
『会長手が止まってます!!』
『今日中に仕上げねばならん資料はあと何枚あるんだ!?』
『だーッ!! こんなの四人で終わるわけねーだろ!!』
『……問題ない』
「そ、そう……」
絶対今生徒会室は地獄だ、と確信しながらも兄さんの優しさに甘えて、私は招待状の件を話した。
『なんだそんなことか、いいよ。じゃあその子の分の招待状も手配しておこう』
「ありがとう兄さん」
『このくらいなんてことないさ。じゃあ、俺はまだ仕事が残ってるから』
「うん」
そう言って電話を切り、招待状を用意してくれると紗季に告げたら、それはもう大喜びしていた。
そんなにIS学園に行きたいのだろうか。確かにISでの戦闘は生で見ると迫力が違う。テレビ中継で見るものなんかとは比べ物に成らないほどに。
「あ、じゃあ私こっちだから。また明日、姫」
「またね紗季」
左右に別れる曲がり角で紗季と別れて歩くこと数分、大きな屋敷が見えてきた。周りに建つ現代的な家とは違い、昔ながらの木造建築で悠然と聳えているのが私の家だ。
私の背丈の二倍程の門を潜り、玄関の戸を開く。
「ただいまー」
そう言った私の元に、奥からトタトタと眼鏡を掛けた少女がやって来た。
「お帰りなさい、今日は早かったですね」
「ええ、新学期初日だしこれといった授業もなかったしね」
ランドセルを少女、布仏(のほとけ)虚(うつほ)に持ってもらい、自室へと続く階段を上っていく。彼女は私に去年から仕えてもらっている私専属の従者だ。
年は一つ上の小学五年生。彼女の淹れてくれる紅茶がとにかく絶品。
従者、と言ってもなにからなにまでお世話をしてくれるというものではなく、必要な時に私を横でサポートしてくれる存在、謂わばパートナーのようなものだ。虚もIS学園入学を希望しているので、これから先長い付き合いになることだろう。
「紅茶淹れますね」
「ありがと」
自室にランドセルを置いた虚は、一旦部屋を出て行った。恐らく給湯室に向かったのだろう。しばらくしたら鼻をくすぐるいい香りを振り撒きながらトレーに紅茶を載せて再び姿を現す筈だ。
「……学年別個人トーナメントか」
兄さんに最後に会ったのは今月の始め。つまりまだ二週間も経っていないけれど、一日兄さんの顔をみないだけで私にはもう耐えられない。声を聴けただけで今日はまだマシな方だろう。酷い時はベッドで塞込んでしまう日もあるくらいなのだから。
「早く会いたいなぁ、兄さん」
その時にあの女さえいなければもっといいのに、などと考えてしまったことは決して口には出さない。兄さんの口から彼女が出来たと聞かされたのは去年の春だから、かれこれもう一年になる。
織斑千冬。
兄さんの幼い頃からの友人で、生徒会副会長にして現日本代表候補生。
お似合い、と認めざるを得ないくらい、二人は相性がいいみたい。実際、私も二人を見てそう思った。兄さんと血の繋がってる私はどうしたって結婚なんてすることは出来ないし、そこまでの感情は抱いたことはない。と思いたい。
しかしながら、家族として大好きな兄さんを取られるのはやはり納得がいかないものだ。
「とにもかくにも今月末。兄さん、どうしてるかなぁ……」
ベッドに横になりながらそんなことを考えていたからか、自然と襲いくる睡魔に耐えることが出来ず、いつの間にか私は眠りに付いていた。紅茶を持ってやってきた虚が苦笑しながら毛布を掛けてくれたのは、言うまでもない。