双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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何故か予約投稿が機能していなかったようです^^;
頂いた感想で気付きました。


#36 思わせぶりはその時点でフラグ

 

 

 

 

 前回のあらすじ

 クラリッサと遭遇

 

 

 

 

 

『いいか。勝負は三日後、場所は第二アリーナだ』

 

 放課後、入学式という大きなイベントを終えたIS学園はこれまでにない程騒がしかった。

 理由は聞くまでもない、クラリッサが俺に宣戦布告してきたことが知れ渡ったからだ。

 まああれだけ大勢の生徒の前で啖呵を切ったんだ、噂が広まらないわけがないんだが。

 

 しかしそんな周囲の喧騒とはまるで正反対のように、生徒会室は静寂に包まれていた。俺を始めとして千冬に真耶、織村は座ったまま口を開かない。こういうった下級生からの宣戦布告はこれまでにも無かった訳ではないが、こうもあからさまなものは久しぶりだ。

 

 こうして黙っていてもらちが明かないので、俺は真耶が淹れてくれた紅茶を一口含んでから口を開く。

 

「さて、こうやって粋の良い新入生(ルーキー)から堂々と宣戦布告されたわけだが、」

 

「楯無、何でお前はそうも軽率なんだ」

 

 すかさず千冬から厳しいお言葉が飛んできた。ただでさえ鋭い眼光がもうスゴイことになっている。

 

「軽率も何も、向こうから来たんだぞ」

 

「だとしてもだ。ああもアッサリと承諾することはなかったのではないか?」

 

「仕方ないだろう? 俺は生徒会長、誰からの申し出も断ることはしない」

 

 原作でもそうだったが、基本的に生徒会長とはこのIS学園に於いて絶対的な存在でなければならない。理由は以前にも説明したような気がするので詳しくは述べないが、要するにこの学園での頂点が生徒会長、並びに生徒会メンバーなのだ。

 そして生徒会長に限ってはいつ何時であろうと挑戦者からの申し出を袖にしたりしてはならない。これは俺と学園側が決めたルールだ。

 もしも俺がその挑戦者に敗北するようなことがあればその時は直ぐ様生徒会長は入れ替わる。ちなみにこれまでの戦績は十八戦全勝。

 

「それはそうだが……」

 

「まあすることなんてこれまでと大差ない、新入生(ルーキー)にちょっと現実を見てもらうだけさ」

 

「でもクラリッサさん、あの様子だと会長に何か恨みでもありそうな感じでしたけど」

 

 俺の教室までやって来たクラリッサの様子を思い出した真耶がそう言う通り、俺も明らかに敵意以上のものをぶつけられていると感じていた。原作じゃクラリッサの学生時代なんて書かれているわけがないから知らなくて当然なんだけど、一体何があったんだろうか。

 もしかしたらラウラのような事情があるのかもしれないが、分からないことをいつまでも考えていても仕方ない。

 俺は椅子から立ち上がって窓から学園の運動場を見下ろし。

 

「いずれにせよ三日後さ、ドイツ代表候補生の実力、確と見させてもらおうじゃないか」

 

 僅かながらに口元が緩んでいることに、俺は自分でも気づかなかった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「更識楯無。IS学園初代生徒会長にして学園最強のIS操縦者。そして…………男」

 

 IS学園敷地内に建設された一年生寮の一室で、私はパソコンに表示されたウィンドウに目を向けていた。その画面には本国より送られてきたIS学園生徒会長のデータが所狭しと表示されている。

 これまで私のように生徒会長と模擬戦を行なった人間のデータを映像と共に見てみたが、成程確かに強い。先ずISが何故執事服なんだという大いなる疑問が浮上してくるがこれはこの際置いて置く。目を見張るべくはその性能だ。一体どんなスペックなのか全く詳細が分からない。ドイツにもそういったデータは存在していなかったのだ。

 

『黒白事件』で二千発以上のミサイルや軍事兵器を迎撃した。その映像も確かに在る。しかし、どんな機体なのかが解らない。

 噂によればアレは篠ノ之博士の特別製らしいのでそういったデータが開示されていないのかもしれないが、映像を見る限りでは特に隠す風でもなく理解できないナニカを行使している。

 

「何故相手の攻撃が全て通じないのだ……? まるでそのまま跳ね返されているかのようだ」

 

 何処かその言葉に引っかかるものを感じるが、現状最も適切な表現ではあるような気がする。それが『黒執事』のワンオフなのか、はたまた全く別のナニカなのかは解らないが目の前に映し出される映像を私なりに分析した結果、恐らくは攻撃の軌道を逸らす、又は跳ね返すものだと考える。

 

「……なんだそれは」

 

 自分で導き出した考えながら余りにも常識外れなその性能に顔を僅かに顰める。

 攻撃の軌道を逸らす? 跳ね返す?

 ならばこちらの攻撃は全く通じないではないか。

 

 ギリッ、と奥歯を食縛る。自ら宣戦布告しておきながらだが、やはり生徒会長という肩書きは伊達ではないのだと思い知らされる。

 しかし、認める訳にはいかない。男が最強であるなどと、決して認める訳にはいかないのだ。少なくともISが世界最強の軍事兵器として存在している間は。

 あんな俗物たちに、私の前を歩かせるなどあってなるものか。

 

「負けはしない。必ず」

 

 ウィンドウを閉じ、椅子の背凭れに背中を預け天を仰ぐ。

 学園最強は、女で在って然るべきなのだから。

 

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 

「……なんだこりゃ」

 

 俺は視界の先に広がる光景に唖然とした。

 クラリッサとの決闘当日。放課後に第二アリーナを使用して行うことになっているため俺と生徒会の面々が行ってみると。

 

「なんでこんなに生徒たちがいるんだ……?」

 

「ふむ。おかしいな、しっかりと立ち入りのほうは禁止しておいた筈なんだが」

 

 基本的に生徒会が出した御触れは絶対だ。生徒会が立ち入りを禁止したならば、まずこんな人集が出来る筈がないのだが。しかもこんなアリーナの外にまで。

 試合開始時刻である午後五時まではまだ三十分もあるにも関わらず、既にアリーナ内の観覧席は生徒たちで埋め尽くされていた。

 

「流石に多すぎますよね」

 

 俺の隣で観覧席を見回す真耶が小動物のようにキョロキョロと首を動かしている。うん、なんか愛くるしいな。思わず抱きしめてしまいたくなりそうな勢いだ。

 

「楯無……?」

 

 なんて考えていたら千冬からの殺気がやばい。

 

「そ、それよりもだ。これは一体どういうことなんだ?」

 

「私たちが許可していない以上、この判断は先生たちが行なったと考えるのが妥当ですけど」

 

「そのとーり、私らが許可したんだよ」

 

 背後から現れたのは橘教諭。相も変わらず見た目だけはできそうな人だ。性格が破綻しまくってるが。

 

「生徒会(俺たち)が許可を出してないのに、どうしてアリーナを開放したんだよ」

 

「バカ野郎楯無ぃ、あんな大々的に喧嘩売られておいて他の生徒どもが黙ってるわけないでしょうが」

 

「……そういうことか」

 

 つまり、生徒たちが教師陣に直談判でもしたんだろう。考えてもみれば当然と言える、何しろ対戦カードは学園最強を背負う生徒会長である俺とドイツの代表候補生であるクラリッサ。まず間違いなく滅多に見られない高レベルの戦闘になるだろう。更に新入生たちにしてみれば入学してから初めて生で観るISの戦闘。いくら立ち入りを禁止したって抑えようがなかったのだ。

 

「楯無の戦闘がいきなり観られるなんて今年の新入生は運が良いなぁ、ハッハッハ」

 

「見世物じゃねえんだぞ俺は……」

 

 はぁ、と俺は小さく息を吐く。多分教師たちからしても勉強になるだろうってことでアリーナを開放したんだろうけど、俺としてはあんまり観せたくないんだよなぁ。ほら、多分互角の勝負とかにはならないだろうし。新入生たちには申し訳ないけど、クラリッサを含めてちょっと現実を見て貰わないとな。

 

「大丈夫だいじょーぶ。私も楯無とドイツのがいい勝負するなんて思ってないからさあ」

 

 手をヒラヒラと振ってそう言う橘。いやそれは教師としてどうなんだと思わなくもないが、まぁ橘杏子という女はこういう人間であるのだから仕方がない。

 

「……楯無、解ってるとは思うが、アレ(・・)は使うんじゃねえぞ?」

 

「……解ってるよ」

 

 数秒前までとは打って変わって真面目なトーンでそう言う橘教諭に俺も小さく答え、そのまま千冬真耶と控え室へと歩を進める。橘も心配症だな、俺はそこまで大人気無くないってのに。

 そんなことを考えながら、俺は控え室のドアを潜る。

 ドイツ代表候補生との決闘まで、あと十五分――――。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 辺り一面IS学園の生徒たちで埋め尽くされた第二アリーナ観客席の一角。位置としては観客席後方の座席に俺、織村一華は座っていた。それも自分でもはっきりと分かるくらい不機嫌顔で、だ。

 なんでかって? そんなもん決まってる。生徒会メンバーで俺だけが控え室に入れなかったからだ。理由は人数制限、更識(あいつ)の試合なんざはっきり言ってどうだっていいが、それでも一応はこの俺を倒した男だ。あの約束がある以上、仕方なく付いていってやろうと思ったら千冬と真耶が付いていくよ言って聞かず、溢れた俺はこうして他の生徒たちと同じように上から試合を観る羽目になってしまったわけだ。

 

(ったく、なんで俺が……)

 

 なにやら周囲から『あの人って生徒会の……』やら『世界で二人目の』みたいな話し声が視線と共に伝わってくるが、いつもなら愛想良く笑顔を振りまく俺もこの時は出来なかった。

 

 はあ、と溜息を吐いて頬杖を付く俺。こんなことなら態々アリーナの使用申請とか下見とかした時間返せってんだよ。

 なんて今更なことを考えていた時だ。不意に隣から、声をかけられたのは。

 

「織村先輩」

 

「……あん?」

 

 目だけを動かして声がした方向を見ると、そこにはリボンの色から判断するに一年生であろう少女がこちらを向いて立っていた。

 ……つうか待てよ、コイツなんか見覚えあるぞ。どこで見たんだっけか。

 

 ああ、そうだ。真耶が作ってた資料の写真――――

 

「少しお時間、いただけますか?」

 

「……一体俺に何の用だ? ――――ナターシャ=ファイルス」

 

 金髪の少女は微笑んだまま、俺を見据えていた。

 

 

 

 

 

 


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