双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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#27 海に出るのはその時点でフラグ

 

 

 

 

 

 前回のあらすじ

 ニンジンは痛い

 とてつもなく

 

 

 

 

 

「ゲホッ、ゲホッ……一体何だってんだ……?」

 

 襲いかかってきた鋼鉄のニンジンは辛うじて俺に直撃はしなかったが、部屋にはぽっかりとニンジンが開けた穴が。うん、半壊。なんかとてつもなく奇妙な光景が目の前に広がってるんだが、これきっと外からみたら旅館からデカいニンジンが生えてるように見えるんだろうなぁ。

 

 ――――というかだ。

 こんな巨大な鋼鉄の塊、しかもとある動物を連想させるニンジンを旅館に直撃させるなんていう破天荒極まりない行為が出来る人間を、俺は世界でたった一人しか知らない。

 

 言わずもがな、それは世界最高の天才。そして同時に天災でもある俺を含むいつメンの一人。

 

「……出てこいよ束」

 

 篠ノ之束である。

 

 俺がそう言うと、巨大なニンジンからプシューッと空気が抜けるような音が聞こえ、直後にニンジンの横にあったらしい扉が開いて中から少女が飛び出してきた。

 

「かーーくぅぅぅぅん!!」

 

「やめろ」

 

「ぶへっ!!」

 

 俺に向かってダイブしてきた束の顔面を足で踏みつけて抑え込む。なんだそのデタラメな跳躍力は。

 

「うぅ、かーくんの愛が痛い……」

 

「いや愛とかじゃないからな?」

 

 顔を擦りながら起き上がる天災。前々から思ってたけど、こいつ不死身なんじゃないだろうか。今の蹴りって多分骨折じゃ済まないレベルだったんだけど。

 

「で? 束がこんなもんで飛んできた理由は?」

 

「ふっふー。分かってるくせにかーくんはいじらしいねぇ」

 

 ニヤッと悪人が浮かべるような笑みを浮かべて束が言う。どうやらアレのことでこんなものを飛ばしてやって来たらしい。

 

「――――『黒執事』のことか」

 

「ピンポンピンポーン」

 

「ちゃんと盗聴盗撮対策はしてあるんだろうな?」

 

「もちろんだよかーくん。束さんはそのへん抜かりないよ」

 

 いやお前の背後にどでかいニンジンが大穴開けてるんですけど。見晴らしよくなってるんですけど。

 

「……騒ぎを聞き付けた人たちが来るかもしれないだろう」

 

「それも大丈夫。この部屋の周囲100メートルには近付けないように色々罠(トラップ)を仕掛けてあるから」

 

 しれっと言う束だが、俺としては一体いつの間にという感じだ。というかトラップってコイツは何を仕掛けたんだろうか。…………やめよう、考えるだけ無駄な気がしてならないしな。ただ一つ言えるのは、束トラップにこれから掛かる人たち御愁傷様ということだ。

 

「ならいいか。で? 結局どんな設定になったんだ」

 

「ふふーん。これを見てよかーくん」

 

 そう言うと束は空間投影式のウィンドウを展開、カタカタとキーを叩いてとあるファイルを呼び寄せる。そのファイル名は『Black Butler』。まんま黒執事じゃねぇか。

 

「色々と考えたんだけどね、やっぱりこれが一番現実的だと思うんだよねぇ」

 

「どれどれ」

 

 俺は開かれたファイルに目を通す。

 

「!! これは……」

 

「ふふ。どうかーくん? これなら執事服のことも説明がつくようになるし、あの能力(チカラ)もISの性能として思う存分使用することができるよ」

 

「確かに……、こういうことなら今までこの格好で学園に居たことにも説明がつくな」

 

「でしょう? そしてこれならかーくんは普通に海で泳ぐこともできちゃうんだよ!!」

 

 ばーんっ!! と腰に手を当てて得意気に言い放つ束。うん、確かにこの設定なら俺がこれから執事服をずっと着続ける必要も無くなるし、ベクトル操作もIS性能としての説明もつく。というか、これよりも良い設定は無いと思う。やっぱり束は天才なんだなぁ。

 

 そもそもだ。

 俺が束に『黒執事』の正式なISとしての設定を頼んだのはまず第一にこれから先、ISと闘うことになった場合の明確な性能や能力を決めておかなくてはならないからだ。俺の能力である一方通行(アクセラレータ)のベクトル操作では、人間離れした戦闘能力を誇るがまず前提としてISには乗れない。つまりは俺は生身で敵対するISと闘わなくてはならないということだ(俺はまだデフォルトで反射は出来ない)。

 

 となるとまずは見た目。何故執事服で闘っているのか、ISは一体何処に展開しているのかという周りの疑問を解消しなくてはならない。

 

 ――――それを解消してくれるのが、この設定ってわけか。

 

 これなら大丈夫だろう。この設定なら、誰も俺が執事服着て闘っても違和感は覚えない筈だ。しかも『黒白事件』のときに既に一度執事服のスタイルで闘ってるしな、データとしては問題も矛盾も出てこない。

 

「満足してもらえたかな?」

 

「あぁ。これなら問題なさそうだ。ありがとうな、束」

 

「えへへ、面と向かって言われると照れるなあ」

 

 照れくさそうに笑う束。不覚にも内心でその可愛さにドキッとしてしまったのは秘密だ。

 

 ということは俺が執事服着たままあの炎天下の浜辺に行く必要もなくなったというわけだ。

 さて。じゃあ行くとしますか。青い海へ!!

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「あっ! 更識君だ!!」

「ほんとだ!!」

「いつもの執事服じゃない!!」

「あの身体つき……イイ」

「文句なしでカッコイイよ!!」

 

 男子の更衣室で水着に着替え浜辺にきてみれば、そこには水着の女子女子女子。いや全くもって眼ぷ……なんか殺気を感じたから考えるのはよしておこうかな。

 にしてもすごいな。いや、今考えるのをよそうとか思っておいてなんなんだけど皆発育良すぎじゃないか? なんだ君ら、ほんとに十五歳とかなのか?

 

 なんていうか……目の毒すぎるんですが。

 

「あ……」

 

 俺がキョロキョロしていると、たまたまリリィと目が合った。彼女は自らの金髪に合うように選んだのかオレンジのビキニ、下には黄色のパレオを巻いている。いやぁ、似合ってるなぁ。元が美人なだけにものすごく映える。あれで性格が良ければさぞ男たちからモテるだろうに、残念だ。

 

「なんですか黒執事さん。あまりジロジロこちらを見ないでもらいたいです」

 

 うわ。思いっきり睨まれた。まあ、俺が見ていたってのも間違いではないけども。

 

「ああ、それは悪かったな。リリィの水着姿が綺麗だったからついな」

 

「…………」

 

 ん? なんか顔赤いな。日射病とかだったら日陰で休まないとダメだぞ。

 

「どうした?」

 

「……そうやってこれまでも女性を落としてきたの?」

 

「は?」

 

「(……そりゃ確かにイケメンでしょうけど、私はこんな程度じゃ落とされないわよ)」

 

「なんか言ったか?」

 

「な、なんでもないわッ!!」

 

 いきなり大声を出したせいで近くにいた生徒たちが不思議そうにリリィのほうを見ている。それに気が付いたリリィはゴホン、と一度咳払いして。

 

「そ、それよりも。何故今日は水着を? アナタはいつもあの執事服を着ていたじゃないですか」

 

「ん、ああ。ようやく『黒執事』の調整とデータを取り終わってな。ようやくあの堅苦しい執事服から解放されたんだよ」

 

 因みに俺はこの前ショッピングに行ったときに千冬に見立ててもらい購入した黒のトランクスタイプの水着を着用している。

 

「? 調整? データ? そんなことは初耳ですけど」

 

「政府のほうから内密にってお達しがあったからな。たかだか一介の生徒たちに情報は回らないだろう」

 

「……成程」

 

 多分たかだか一介の学生ってところに引っ掛かるところがあったんだろうな。リリィは若干眉を顰めながらそう言った。でもうでも言っておかないとのちのち厄介なことになりそうだからな。主にクラス対抗戦(リーグマッチ)とか。どうにかしてこの男を蔑むような性格を治してやりたいんだけど、それには時間かかりそうだからなあ。この辺りからいろいろ画策しておかないと。

 

 え? おせっかい?

 馬鹿だなもうこの性格は治らないよ。

 あの二人のせいでなんかこういうのが板についてきちゃってるし。

 

「ああ誤解しないでほしいのは別に俺はリリィたちと違うってことを言いたいわけじゃないんだ。ほら、俺って世界に二人しかいないIS操縦者だから、色々と面倒なんだよ」

 

「そういうことですか。それならば分かりました。にしてもアナタ、かなり鍛えているんですね」

 

 俺の上半身を見たリリィは少し驚いたように言った。言うまでもないが、これは更識流の修行の過程で勝手についていった筋肉だ。自分ではあまりガッチリしているとは思わないが、女子から見ればかなりの筋肉質に見えるらしい。

 

「まあ、それなりに鍛えてはいるかな」

 

「それなりでつく筋肉ではないと思いますが……」

 

「俺のことはいいからさ、折角の日本の海なんだ。楽しめよ」

 

「そうですね、日本の海がこんなにも綺麗なんて思いませんでしたし」

 

 そう言ってリリィは俺に背を向けて同じクラスの友達の元へと戻っていった。

 さてと。俺も折角水着になったんだしちょっとくらい泳ぐかな。

 

 

 

 

 

 ……なんて思ってたら。

 

 

 

 

 

「おい」

 

 あまり聞きたくない声が聞こえてきたような気がして、恐る恐る振り返ってみる。

 

「なんだあ? いっつも執事服着てるくせに、今日は地味な水着じゃねえか」

 

 今の俺の顔はきっと他人には見せられないような酷い顔をしていることだろう。

 なにせそこに居たのは俺と相部屋の人物、織村一華だったのだから。彼の服装は真っ赤なトランクスタイプの水着にアロハシャツにサングラス。おまけに首元にはジャラジャラと金色のアクセサリーが。

 それなんて土御門? 状態の彼だが、次の瞬間とんでもないことを言い出した。

 

「俺とお前、同じ部屋で寝泊りするなんて冗談じゃねえ。どっちかがあの部屋を出て外で野宿だ」

 

 いや、その部屋も半壊してんだけど。

 

「勝負だ馬野郎!!」

 

 もうやだなんか今日一日で変なフラグ建ちすぎだろ……。

 

 

 

 


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