双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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#21 フラグを避ける考えはその時点でフラグ

 

 

 

 

 前回のあらすじ

 やまやの姉は貧乳だった件について

 

 

 

 

 

『世界初の男性IS操縦者』。

 これは俺の呼び名のようなものなんだが、“世界初”というところがこの名の肝だ。

 

 世界で初めて、ということは当然その後も存在する可能性があるということだ。ISが発表されて一年余り、これほどの短期間では女尊男卑も原作ほどに極端ではなく、さらに男性IS操縦者の登場が早かったこともあった同等とはいかないまでも間違いなく男女平等に近付きつつある。

 

 俺の呼び名が『世界唯一の男性IS操縦者』から『世界初の男性IS操縦者』に変わったのは、あの束の発表から一ヶ月ほど経ってからだった。

 予兆などなく、突然沸いて出たかのように二人目となる男性IS操縦者が発見されたのだ。

 

 これには流石に俺も驚いた。原作では当然一夏しか乗ることの出来なかったISを乗ることの出来る人間が存在したというのだから。

 

 当然ながらこの第二の男性IS操縦者は俺のように束によって公表されたわけではない。

 名乗り出たのだ。自ら。

 

 

 

 

 

 後に『世界で二番目の男性IS操縦者』と呼ばれることとなる男の名前は――――織村一華。

 

 

 

 

 

 そう。あの織村だ。

 

 

 

 

 

 幼稚園の頃からの知り合い(?)であるアイツとはかつて体育祭で二人三脚をした記憶が鮮烈に残っている。ほんとにあのバ……織村は何がしたかったのか今でも疑問だ。

 

 そんな織村が本来ならば女性にしか動かせないはずのISを何故起動させられたのか、実際の所まだ俺には解らない。まだ彼がISを動かしているところを生で見ていないからだ。

 だが束が我が子のように可愛がるISをアイツが使えるなんて有り得ない、と言っていたように俺もなんだか腑に落ちない。

 

 いや、俺が言うのもなんだけどISを動かせる男子なんて有り得ないんだぞ? 主人公フラグでも建ってない限り。俺は例外としてもじゃあアイツは……ということになる。

 

 一度束に本当にアイツがISを起動させられるのか調べてみれば、と進言したこともあったが「あんなのと関わるのは生理的に無理」と一蹴していたために、此処IS学園に入学した今でも詳細は分からないままなのである。

 

 さて、なんだか前置きが長くなってしまったが、つまり俺が一体何を言いたいのかというとだ。

 

 

 

「俺は二人目とは一切合切何の関係もありません。あしからず」

 

 

 

 こういうことだ。

 確かに俺と織村がISを扱えるというニュースが全世界に流れたのは同時期でしかも同い年だが、それだけで関係があると思われてしまうのは相手が相手だけに流石に心外だ。

 

 ……いや、それも無理のない話かな。

 

 なんてったって俺と織村はこれまでの経歴だけ見れば幼稚園から中学校、そしてIS学園に至るまで全く同じ道を歩いてきているんだから。

 

 こっちとしては織村を知ったのは中学に上がったころだし全くと言っていい程に関わりはない。いつだったか織村が俺に向けて『千冬束は俺の嫁』宣言してたけど俺からしたら『何故に俺?』という感じだった。

 

 だから俺は瞳を輝かせてアイツとの関係を聞いてくるクラスメイトたちに言う。

 

「事実は事実です」

 

 何やらぶーたれるクラスメイトたちがいるが、事実は事実でしかないためにどうすることもできない。

 

「はい、他の質問あるかー?」

 

 やまよさん。もういいんじゃないでしょうか。

 

ババッ!!

 

 ほら。限界まで手を伸ばした方々が我先にと今にも立ち上がろうてしてるじゃないか。

 

「はい、じゃあそこのえーと……リリィ=スターライ」

 

 やまよ。生徒の名前くらい覚えておけよ。

 

「『黒白事件』のことについてお訊きしたいのですが、」

 

 リリィ=スターライと言う生徒が立ち上がりこちらを伺うようにして口を開く。綺麗な金髪だなぁ。イギリス人かフランス人だろうか。俺は外国にあまり詳しくないから解らないが間違いなく美人の部類に入ると思う。

 

「貴方の専用機だという『黒執事』にも色々とお尋ねしたいところですけど、先ず貴方と共闘した『白騎士』とは一体誰なんです?」

 

 誰なんです? と聞かれてもなぁ。おいそれと『あそこの席に座ってる織斑千冬です』なんて言えるわけねーし。心無しか千冬が冷や汗を流しているような気がする。

 

 ていうかそれ最重要国家機密に相当する情報だぞ。機密って言っても各国はもちろん当の日本政府でさえ白騎士の操縦者が誰なのか認知できていないんだけど。

 理由は簡単、束の手腕のおかけだ。

 

 束が情報封鎖したものを、俺の口からポロッと言えるわけがない。

 

 だから俺は、

 

「それは俺にもわからない。共闘したのは確かだけど、俺は白騎士の正体は知らないんだ」

 

 こう言うしかない。

 怪しまれようがなんだろうが、こうシラを切るしかないのだ。

 

「あれだけ息のあったコンビネーションだったのに、あれは即興のものだったと?」

 

「あぁ」

 

 事実だ。だって千冬がISに乗ったのはあの時が初めてだったわけだし、二千発以上のミサイルが降ってきてるってのにコンビネーションもなにもないだろう。

 

 ……なのにどうしてお前はちょっと嬉しそうなんだ千冬。ニヤニヤしながら窓の外を眺めるのやめろ。

 

「……そうですか。では最後に一つだけ」

 

 まだあるんですかリリィ=スターライさん。

 

「あなたの『黒執事』。アレは一体何なんですか?」

 

 瞬間。

 俺の背中から嫌な汗が噴き出すのを感じた。

 

 この少女。疑っている。

 俺が本当はISに乗れないのではないかと。

 

「あの映像は見なかったのか?」

 

「もちろん拝見しました。だからこそです。ただの黒スーツ、執事服と言ったほうがいいのでしょうか。アレがISだということが私には信じられません」

 

 鋭い眼光が俺に穴を開けるくらいにまっすぐに見つめてくる。

 まぁ確かに。宇宙空間での活動を想定されたマルチフォーム・スーツであるISが黒スーツで執事服って何の冗談だって感じだよな。俺だって当人じゃなかったら絶対に信じないだろうし。

 

 だから俺はリリィという少女の意見には全面的に肯定するよ。

 だけどそれはあくまでも俺の心の内だけの話だ。

 

 束が折角こうして俺を守ろうとしてくれた以上、俺だって相応の対応をしなくてはならないだろ。

 

 だから言う。

 束のためにも。

 俺は平気で嘘をつく。

 

「アレは篠ノ之博士の試作品だよ。通常じゃ見えないシールドがあのスーツ全体を覆ってる。まぁ他のISと比べて見た目が特殊なのは認めるけど、元々は普通のISだったんだぜ? アレ」

 

「貴方が起動させてあの姿になった、と?」

 

「そういうこと。何と言われようとそれが事実なんだからしょうがない」

 

「ですが……」

 

「なら、あの映像で俺はどうやってミサイルを迎撃していた? ただのスーツを着たサラリーマンみたいな人間に、そんな常識はずれなこと君はできると思うのか?」

 

「そ、それは……」

 

 言い淀むリリィ。彼女自身もまだそこの理由が説明できないみたいだ。いや、逆に説明されても困るけれども。俺が使ってるのは超能力であってISを動かしているわけじゃない、なんて言われたら俺はその人を超能力者だと断定するぞ。

 

「リリィ=スターライ。もういいだろう」

 

 このままでは埒が明かないと判断したのかやまよが俺たちの間に割って入る。

 

「更識も座りなさい」

 

 言われて座った俺たち。リリィはまだ不服そうだったが。そんな二人を見てやまよは自己紹介の続きを始める。

 

「えーと次は……篠ノ之束。いきなり休み?」

 

 本来ならば俺の後ろの席に座っているはずの束の席は見事に空席。

 

 束はほんとに興味のない人間と関わるのを嫌うからなぁ。こんな空間には居たくないんだろう。

 

「しょうがないわね。じゃあ次の――――」

 

 続けられる自己紹介をぼんやりと聞きながら、俺は遠目に窓の外に視線を移す。

 

 今更ながらに信じられないという思いが込み上げてくる。

 

 

 

 

 

(ほんとに入学しちゃったんだなぁ……、IS学園)

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 周囲が俄にざわめき立つのを感じる。無理もない。何せこの俺、織村一華が今から自己紹介を始めようとしているんだからな。

 

『世界で二番目の男性IS操縦者』

 

 それが俺の肩書き。

 二番目、というところがとてつもなく不満だが、所詮肩書きなんてもので俺の全てを表現出来るわけがないんだ。そんな些細なことを気にするほど俺は器の小さい人間じゃないからな。

 

「次、織村くん。自己紹介お願いね」

 

「はい」

 

 言われて俺は立ち上がり、後ろに振り向く(因みに席位置は形無と同じ)。

 

「織村一華。みんな知ってるだろうけど世界で二人しかいないISに乗れる男だ。みんなヨロシクな」

 

 まず手始めはこんなもんだ。掴みは大事だが行き過ぎたアピールはまだ早いだろうしな。

 

「質問ある子いるかな?」

 

 俺がそう言うと何名かの女子が手を挙げた。そのうちの一人を指名する。

 

「織村くんはあの篠ノ之博士とは知り合いなんですか? 隣のクラスの更識くんは篠ノ之博士と仲が良くて専用機まで持ってるみたいですけど」

 

 更識?

 ……あぁ、あの馬野郎のことかよ。

 

 あの野郎、きっと束に無理言って専用機造らせたんだ。酷いことしやがる。

 

「束とは懇意にさせてもらってるけど、あいつとは何の関係もないし親しくはないね」

 

「そうなんですか? じゃあ織村くんもいずれ専用機を?」

 

「束がいつか作ってくれれば、俺も専用機を持てる日が来るかもね」

 

 一応、こういうことにしておこう。専用機。確かに欲しいかと聞かれれば要らないとは言わないだろうが、俺がこのIS学園にやってきた理由は、千冬や束と一秒でも長く同じ時間を過ごすためだ。

 

 それを邪魔するような野郎(主に形無のこと)は、誰であろうと容赦しねぇ。

 

 俺の『未元物質(ダークマター)』に常識は通用しねぇんだからな。

 

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 

「……ふぅ、」

 

 自己紹介が全員終わったところで一旦休憩となって一年一組の教室。その一角で俺は机に突っ伏して小さく息を吐いた。ついさっきまでいろんな女子から質問攻めにされ、ようやく解放されたんだ。千冬に助けを求めても全く助けてくれないし、さっきまで嬉しそうにしてたのになんだこの機嫌の豹変は。

 

「なあ千冬。なんで機嫌悪そうにしてるんだよ」

 

「……悪そうじゃない。悪いんだ」

 

「さっきまであんなニヤニヤしてたのにか?」

 

「っ!? べ、別にニヤニヤなどしていない!」

 

 うん、説得力皆無だぜ千冬。

 そんなワタワタしてたらいつものクールなイメージが一瞬で崩壊しそうだ。

 

「そうか?」

 

「そうだ!!」

 

 本人は断固として認めない気らしい。

 

「そ、そんなことよりもだ形無」

 

「ん?」

 

「どうするんだ」

 

「何を?」

 

 そこまで言って、千冬は俺の耳元まで口を近づけて小声で呟く。

 

「(あのリリィとかいうイギリス人のことだ。彼女、間違いなく形無のことを疑っているぞ)」

 

 ああ。そういうことか。

 千冬まで心配してくれてるんだな。

 

「(心配してくれるのか?)」

 

「(む……。当然だろう。お前の正体がバレてしまえば冗談抜きで実験動物だぞ?)」

 

「(それは是非とも遠慮したいな。まあ大丈夫だ。そんな自分の正体バラすようなヘマはしないさ)」

 

「(形無なら心配は要らないとは思うが……、気を付けろよ? 何時ボロが出るかもわからんからな)」

 

「(おう)」

 

 俺は千冬に対して頷いて言う。

 俺のことを信頼し、心配してくれる友達が持てるなんて、俺はほんとに恵まれてるな。

 

「はい皆席につくー」

 

 なんて思っていると前のドアから担任のやまよが教室内に入ってきた。いつの間にか休憩は終わっていたみたいだ。

 やまよが入ってきたのを合図にして他の女子生徒たちも一斉に席に戻る。

 

 全員が席についたのを確認して、やまよは切り出した。

 

「えー、みんな入学式のパンフには目を通したと思うけど、このIS学園には幾つかの行事があります」

 

 パンフをパラパラと捲りながら話を続けるやまよ。

 

「それでこの時期から一番近いのは『クラス対抗戦(リーグマッチ)』ね。これは各クラスで代表者を一人決めて戦うものなんだけど。今からそのクラス代表を決めたいと思います。あ、クラス代表ってことはこのクラスの顔になるわけだから、自薦・他薦は問わないけれど相応の覚悟を持ってね?」

 

 クラス対抗戦か。

 確か原作じゃ一夏と鈴が戦ったんだよな。途中で邪魔が入って決着はつかなかったけど。

 

 まあこのクラスじゃ、千冬が一番適任なんじゃないか? 皆は知らないだろうけどこのクラスの中じゃ唯一ISの搭乗時間が二時間以上あるし。

 

「はい」

 

 すると、一人の少女が手を挙げた。

 

「私、立候補します」

 

 先程俺に突っかかってきたイギリス人、リリィ=スターライだ。

 さっきも思ったけどこの子絶対セシリアタイプだよ。女尊男卑を体現しようとしてるタイプの人だよ。

 

「他にはいないの?」

 

 まあ彼女でもいいんじゃないか?

 他にいないってんならやる気のある人がやるのが一番だろうし。

 俺? やだよ。クラス代表なんてやったらそれだけでフラグ余分に建てちゃいそうじゃないか。

 

「はい」

 

 するともう一つ手が挙がった。そちらを向いてみれば、誰であろう千冬が手を挙げていた。

 なんだ千冬もやる気なのか。

 

「織斑さん。あなたも立候補ということでいいのね?」

 

「いいえ」

 

 ……挙手しといて否定しやがった。

 てことは必然的に……。

 

「私は更識形無を推薦します」

 

 

 

 手遅れだった。

 千冬さん。アナタは一体俺をどうしたいんだ……!!

 

 

 

 


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