双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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#10 天才に想われるのはその時点でフラグ

 

 

 

 

 前回のあらすじ

 授業参観なんて消えて無くなればいいんだ。

 

 

 

 さて、あの授業参観からさらに月日が流れ(ツッコンだら負け)、桜は散り、緑の葉は赤や黄に染まり始めた今日この頃、我が更識家に新たな家族が加わった。

 

 

 

 更識(さらしき)簪(かんざし)。

 うちの部下を黙らせる姫無をも黙らせる最強の0歳児だ。

 

 

 

 うん。いやもうね。

 姫無も可愛いけど簪もヤヴァイ。可愛さが留まるところを知らないとは正にこのことか。

 

 そして簪が生まれる少し前、例の如く家族総出の名前会議が開かれた。俺こと形無、姫無と『~無』という字が付いているから今回もそういう名前になるのかと思いきや、そういう類の名前候補は驚くほど少なかった。

 

 ただ、前回の姫無の時に却下されたことが諦められなかったのか『棟無』が再び案の中に紛れ込んでいたが、親父が即刻削除した。ついでにこの案を出した部下は一ヶ月間絶食の刑に処された。

 

 というわけで最終的には『簪』、『小鳥遊』、『轍』などが残ったが、多数決の結果最も多かった『簪』に決定したというわけだ。

 

「あうあう」

 

 まるでオットセイかなにかのような声を上げている簪を、姫無があやしている。姫無も簪も祖母の血を濃く受け継いだのか透き通るような水色の髪色をしている。俺はそんな明白な水色じゃないがやはり少しは祖母の血が流れているのか、紺色の髪の毛だ。まあそれは置いておいて、姫無ももう二歳だ。言葉も話せるようになってきて、一緒に居る時間も増えた。

 立派に育って兄さん嬉しいよ。……二歳じゃまだなんとも言えんか。

 

 家族がまた増えたことで、親父の最早病気とも言える親バカっぷりは更に加速。更識家の十六代目だってのに今やその威厳は俺の中から消し去られようとしている。

 仕事ほっぽり出して娘と遊ぼうとする父親なんか尊敬出来るわけねえだろ。

 

 まあそんな体たらくっぷりを見せられて、我が更識家最強との呼び声も高い母さんが黙っているはずも無く、授業参観の時のように襟首ひっつかまれてオハナシされることもしばしばだ。 

 そんな光景も、もう見慣れたもので『またかよ』くらいにしか思わなくなってきている自分が居る。慣れって怖い。

 

 

 

 ……そう、本当に慣れって怖い。

 だって、神様(おっさん)から貰った一方通行(アクセラレータ)の超能力、使えない期間が長すぎてなんかもうこのままでもいいやあ(ヤケクソ)的考えに至ってしまっているのだから。

 

 いや超能力、使いたいよ? つーか使えなかったら俺この世界で生きていけないし。こんな束やら国家間の謀略のせいで死亡フラグ建ちまくる世界で丸腰じゃ殺してくださいって言ってるようなもんだ。

 もちろん俺はそんな自殺志願者ではない。故に今も毎日かかさず演算を試みてはいるものの、やはりというかなんというか、うんともすんとも反応しない。

 

 これじゃ間違いなく能力が開花するより先に俺の心が折れる。

 というか既に折れ掛けだ。

 

 だから演算をしようとするときも『どうせ今日も無理なんだろうなあ、』的諦めが思考の何処かに少なからず存在している。

 これじゃお先真っ暗だよ。妹達の花嫁姿を見る頃には俺遺影になってるよ。

 

 と、こっちがこんなお先真っ暗(比喩でもなんでもなくリアルに)状態だから、必然的に更識流のほうの修行には力が入るわけで。小学二年生ながら親父の部下の下のほうになら勝てるくらいにまで成長している。こっちが案外順調だから、能力のほうもなんとか諦めずにやっていられるんだ。だっていくら一方通行の『ベクトル操作』があるとは言ってもまだ使えないし、なによりも能力に依存しすぎてあんなひょろっちいモヤシにはなりたくない。どうせならしっかりと筋肉つけたいじゃないか。

 

「形無」

 

「父さん」

 

「今日は四の型を教えてやる。道場にこい」

 

 普段はダメ親父全開な我が父だが、こういうときはなにやら精悍だ。仕事してる時もそうだが、いつもこのくらい真面目なら母さんのオハナシも受けなくて済むのに。

 

 俺はそんなことを思いつつも、足早に親父の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ……何故だ。

 必要な条件は全てクリアしている筈だ。

 転生者って時点でもう既にフラグは建ってるはずだし(主にハーレム)、名前だってこの世界で重要な意味を持つ名前だった。

 幼稚園も原作キャラ二人と同じでもうこれは運命だと思ったし、なんと俺の家の近所にはあの五反田家の食堂まであった。

 

 小学校に上がっても千冬、束とは同じクラスになったし、これはもう間違いなく俺は彼女たちにフラグを建てていると思った。

 

 ……思ってたのに!!

 

 クソ、今思い出しても腹が立つ。あれは小学校に入学して千冬、束と同じクラスになり、二人でなにか話していた所へこれからもよろしくなと話しかけに行った時のことだ。

 

『よう』

 

『『……』』

 

『小学校でも同じクラスになったな。また一年間よろしくな。千冬、束』

 

『またお前か……』

 

『束さんに話しかけないでくれるかな。馬鹿と残念なのが感染ったらヤだし』

 

 おいおい二人ともツンデレだな。ま、すぐにデレてくれるとは思うが。

 

『そんなつれないこと言うなよ。俺たちの仲だろう?』

 

『お前と友達になった記憶はない』

 

『……(がん無視』

 

 ガラッ

 

『はー、今日から小学生かあ』

 

『形無!!』

『おはようかーくん!! ちょっと今から束さんとかーくんを別々のクラスにしたこの学校に特製のウイルスをぶちまけてくるから!!』

 

『千冬、とりあえずソイツ押さえて』

 

『わかった』

 

『離してちーちゃん!! こんなの横暴だよ、不公平だよ!!』

 

『何が横暴だよ……。クラス分けなんて運みたいなものだろ』

 

『きっとかーくんと束さんを引き離すために学校側がなにか巨大な陰謀を』

 

『あるわけないでしょうが』

 

 なんて楽しそうにこの俺を差し置いて嫁たちと会話してやがるのは馬野郎。千冬たちにたかるハエみたいな奴だ。

 つーかこいつ!! こいつが俺の計画を台無しにしてやがるんだ!!

 本当なら幼稚園の時点で二人から、

 

『私、大きくなったら一華くんのお嫁さんになる!』

 

 みたいなイベントを発生させてラブラブになる筈だったのに、二人の近くにはいつもアイツがいて俺の邪魔をしやがる!!

 いつもいつもいつもだ!! もう能力使ってアイツぶっ飛ばそうかと思ったよ。まあ、まだ使えないんだけどな。

 

 そんなアイツはどうやったのか束にゴマをすって近づき、パソコンを見ながら時々アドバイスしているが、お前何様のつもりだよと言いたい。

 お前が偉そうにアドバイスしてる相手はのちの天才科学者、篠ノ之束なんだぞ? お前なんかが気安く話していい相手じゃねえんだ。

 千冬だって『ブリュンヒルデ』と称されることになる最強のIS操縦者だ。本来ならお前なんか同じフィールドにすら立てない人間たちなんだ。

 ま、俺は彼女たちと同類、所謂天才ってやつだからいいんだけど。

 

 更識形無。

 

 ここまで俺をムカつかせたのはお前が初めてだ。いいだろう、認めてやるよ。お前が俺にとっての障害であるってことを。

 俺はそんな怒りを込めて、自宅の部屋で口を開く。

 

「更識形無。ムカついた、テメエじゃ俺の足元にも及ばねえってことを教えてやるよ」

 

 某常識が通用しない人のセリフを言って、俺は不敵に笑う。

 ぶっ倒す。……能力が使えるようになったらな。

 

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 

「ん!?」

 

 ゾワゾワっと悪寒が全身を駆け抜ける感覚に俺は身震いした。なんだ、なんか前にもこんなのあった気がするぞ。

 

 誰かに恨まれてんのか?

 そんなことした記憶はないんだけどなぁ。

 

「どうした形無。集中力が乱れているぞ」

 

「あ、ごめん」

 

「さあ続きだ」

 

 俺は気を取り直して再び親父の前に構える。

 

 しっかし今のは一体なんだったんだ?

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

「ふむふむ。かーくんはこんな修行してるのかぁ。なんか漫画の主人公みたいなことしてるねぇ」

 

 かーくんの家にこっそり仕掛けた(大部分は形無によって処分された)超小型カメラによって撮影されているかーくんの修行を見て私は素直にそう思った。

 しかもあれはどう見ても私と同じ小学校二年生の少年がやるような修行じゃないよかーくん。普通の子供がやったらソッコーで病院送りだよ。

 

「ふふ。やっぱりかーくんは面白いなあ」

 

 こんな厳しい修行もこなして、私と同等、もしかしたらそれ以上の頭脳を持っている。そしてなによりも、優しい。

 むりやり家に押し掛けても意見を求めても、最後は結局了承してくれるのだ。これを他の子にもやってるのは納得いかないけど、それもかーくんだし、と言ってしまえばそれで納得できてしまう。

 

「また明日、かーくんにコレのアドバイスもらおっと」

 

 目の前にあるノートパソコンに表示された設計図のようなものに視線を移し、彼との会話を想像して頬が緩むのを自分でも自覚する。

 

「~~~~、明日まで我慢できない。今からかーくん家に行こう!!」

 

 即断即決が身上の私はノーパソを小脇に抱えて外へ飛び出した。

 彼の家の門で困惑する少年は、結局話を聞いてくれるのだろう。それを考えると、どうしようもなく私は嬉しくなるんだ。

 

 

 

 


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