ご機嫌よう皆様。遠藤でございます。
遂に来た……!この小説を初めて約3年!
今ここに、読者の皆様を迎え、無事最終回という悲願は達成されました。
これも全て、読者の皆様の支えあったのこt……おや?どうされました
……永時殿、お待ちください!明日まで、明日までお待ちください!せめて頼光ママンだけは引かせてください!
……え?ノット殿なら「出来ぬぅっ!」と言うだろうなですって?……くそぅ!
……で、ではごゆっくり。
突然だが結論を述べよう。
あの惨状があった後
だが一応いた痕跡はあった。円蔵山内部、『龍洞』にて物理的に破壊されたと見られる大聖杯だったものととあるサーヴァントの魔力の残渣。
その少し前に崩壊した冬木の地にて所々見られた緑のエフェクト。
そして、とある男の拠点では最近録音されたとされるカセットテープが見つかった。
カセットテープの内容は残された者への謝罪と残すことへと後悔、一部だけ述べられた真実などが記録されてあり、事実どうなったか分からないとのこと。
では、その残された者、そしてその後について語るとしよう。
「ゼツ!また間違えましたね!?」
「も、申し訳ないです……」
とある場のキッチンにて、銀髪メイドのマイティアの怒鳴り声が響き渡る。どうやら料理をしているようで怒られているゼツがどうやら量配分を間違えたようだ。
「おいおい、気をつけろよ」
「バット!貴女もです!」
「はぁ!?」
「油少々って言ってあるでしょ?」
「いや……だから少々入れたろ?」
「だからってどうして新品の油が三分の一も減っているのですか!?」
「いや、俺の感覚で少々とーーー「死にたいですか?」……ごめんなさい」
反論していたバットだが包丁を取り出し、鬼のような剣幕で睨まれたことで蛇に睨まれた蛙の如く萎縮してしまった。
「すまんな煩くしてもうて」
「いえ……構いません」
そんな喧騒が続くキッチンのすぐ近く、木製のテーブルに挟まれる形で2人の人物が向かい合うように座っていた。
1人はマイティアと同じ銀髪の女、マイティアの主人であるルシファー。そして、その向かいには赤い髪の少年が座っていた。
「それで?貴様は料理は出来る方なのか?」
「ある程度なら一応。養父が全く出来ない人だったので……」
「ほう……ん?」
カランコロンとドアベルが鳴り、入り口を見やる。すると紫髪の1人の少女が入ってきたのを見やり、ルシファーの顔に笑みが浮かぶ。
「よく帰ってきたな、桜よ」
「只今戻りました、姉様」
「うむ……今日はえらく早いのだな」
「ええ、予想より早く学校が終わっちゃって……」
「サクラよ、お主は男とデートでも行かんのか?」
「行きませよ……後、そんな人いません」
「なんじゃつまらん」
少女も少女でルシファーを見ると花のような笑顔が浮かび、会話を楽しそうにしていた。
「……なら、すまぬが厨房に入ってあの料理の出来ん馬鹿共に教えてやってくれんか?分からんことはマイティアに聞くが良い」
「分かりました……あれ?」
そこで少女はようやく少年の存在に気づく。ああそういや言い忘れていたなとルシファーはとりあえず紹介することにした。
「言い忘れておったわ……此奴は間桐桜。妾の妹みたいなものじゃ」
「えっと……間桐桜です。お名前は?」
「衛宮士郎です。よろしくお願いします!」
「此奴はこれからここで働く者じゃ、面倒を見てやってやれ」
すると少年、衛宮士郎は立ち上がり、桜とルシファーに礼をした。
「分かりました、よろしくお願いしますね?衛宮さん」
「よろしくお願いします、間桐さん」
「……うむ、なら早速入って貰おうか」
ほれ、とエプロンを2人に差し出す。2人はすぐ様着替えると桜に案内される形で厨房へと入っていく。
「衛宮、か……まあとにかく何であろうと歓迎してやろう……」
そんな様子をルシファーは眺め、そう1人独り言ちた。
「(サクラは元気にやっておるぞ……カリヤよ)」
「いや、勝手殺さないでくれよ……」
「なんじゃ?貴様、帰って来ておったのか?」
「まあね……一緒に連れてった慎二君のアレが酷くなってさ……」
『桜〜!愛しき我が義妹よ!僕は帰って来「兄さん」……ん?何だいマイシスターよ?』
「くたばってください♪」
『こばっ……!こ、これもまた……愛か……ガクッ』
桜を見るや否や突撃する前髪海藻類の少年。それを見事なボディーブローで沈める桜。衛宮は困惑しているが他の面子からすればいつも通りのことなので大して突っ込みもせずに作業を続けていた。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
しかし彼は事情を知らぬ他人、衛宮としては困惑するのも無理はないことだった。
「何、あれはいつものこと。放っておけば元に戻る……屍もどきよ、此奴に自己紹介してやれ」
「まだその名で呼ぶのかい?……まあいいや。名前は間桐雁夜、普段はルポライターをしているものさ。それでそこにいる彼は間桐慎二君。俺の甥で桜の兄だよ」
「まあ義理じゃがな……しかし、彼奴の
「それはマイティアさんに言ってくれ……元々あの人のせいなんだからさ」
ワカメが何か違う?そりゃそうである。実は聖杯戦争が終わった直後、雁夜の兄である間桐鶴野。彼が息子を連れて家に帰って来たのが始まりだった。
どうやらあの間桐臓硯が死んだと聞きつけ、息子を連れて資産を持って海外に飛んで行こうと考えていたようだがそうは問屋が卸さない。留守番をしていたマイティアによってあっさり捕縛、帰って来たルシファーが話を聞いた後ルシファーの元の方が安全と考え、土下座して息子を託された。
最初の頃は馴染めずヤンチャな息子をしていたが最近子育てにハマったマイティアによる教育、特に桜の愛らしさを
ちなみに余りに酷いので雁夜のルポライターの仕事を手伝わせるという名目上で家を追い出して落ち着かせようとしてみたが逆効果のようだ。
「大丈夫ですか慎二様」
『ま、マイティアさん……僕はもうダメだ……後は頼んだよ……』
「何言っているのですか慎二様!桜様の手料理を食べないで眠るおつもりですか!?」
『よし、頂こうじゃないか』
「流石は慎二様、貴方こそ私の良き理解者です」
「……もうマイティアがアレの時点でダメじゃろう」
「だよねぇ」
「とりあえず、先に食事にするとしよう。屍もどきよ、準備を手伝え」
「了解」
「そうじゃ、言い忘れておったわ……」
「ようこそ我が店舗『Single Flower』へ」
彼女達は今、残った間桐の財産を使い、喫茶店を開き始め、新たなスタートを始めていた。
ちなみに間桐雁夜の方はルシファーに認められたと言うこともあり、特別にゼツの呪いで今後の運気ダウンを犠牲にある程度生きられるようになったようだ。まあ代わりに何もない所で転けたり、酷い時はマフィアの抗争に巻き込まれたりしているようだが……まあそれでも元気にはやっていた。
一方魔界へと戻ったマモンは政務などをこなす日々を続けていた。
「ディアさん、次はこちらの書類をお願い致しますわ」
『御意』
書類の束を1つ片付けて、部下に持って行かせるマモン。あの変態っぷりからは想像出来ない程真面目な顔付きに本性を知る者なら思わず苦笑いをしてしまうだろう。
「……フン」
現にここにはその者はいた。嫉妬の娘リヴァイアサンである。
「どうされましたかリヴァイアさん?仕事は終わったのですか?」
「いや……あんな姿を見た後だからな、今真面目に仕事をしている貴様に違和感を覚えただけだ」
『失礼だぞリヴァイアサン、少し言葉を選べ』
「構いませんわよ」
言葉遣いの悪さに流石のディアも一言述べるが、それはマモンによって止められることとなる。
『いえ、しかし……』
「私達は義理とは言え親子関係なのです。言葉遣いぐらいは気にしませんわ」
『お嬢様がそう仰るなら、私は何も言いません』
そう言って去ろうと部屋の扉へと手をかける。しかし、不意に何か思い出したのか主人へと振り返り口を開いた。
『そうでしたそうでした……お嬢様』
「あら?どうなさいました?」
『終永時……程かどうかは定かではありませんが、またカジノ荒らしらしき者が現れました』
「……ほう」
カジノ荒らしと聞くや否や目を光らせるマモン。自分は伝えることを伝えたのかディアはそのまま黙って退出していった。
「これは面白い……リヴァイアさん、行きますわよ」
「カジノも良いが仕事はキチンとすればどうだ?」
「いえ、カジノ荒らしの懐を寒くするのもわたくしの務め、これこそ強運に生まれた宿命ですわ」
そう言い張るマモンの姿をリヴァイアサンは見つめていた……呆れと侮蔑の篭った眼差しでとつくが。
「……と言いつつ、単にギャンブルしたいだけだろう?」
「あら?バレてましたか」
別に特に隠しもせずあっさりとバラすマモンにリヴァイアサンは更に呆れるばかり。
「ギャンブルはいいですわよ?負けそうになった時の劣等感と今にも射抜かんと見やる鋭い目つき。そこから勝利した時に見る相手の絶望の顔、そして達成感……ああ、たまりませんわ!」
「(マゾなのかサディストなのか、はっきりして欲しいものだ)」
言ってて楽しくなってきたのか、鼻歌混じりに出て行くマモンの背をリヴァイアサンは追いかけって行った。
(とはいえ期待しているのだろうな……昔ここを荒らしたとされる父がいるのではないかと)
あれからというもの、シーは血の繋がりでベルゼブブの所で世話になっており、比較的仲良くしている。
しかしリヴァイアサンは親が親で、何よりこの娘がレヴィアタンを一方的に嫌っている為、一時的な措置としてマモンが引き取ることにした。
最も、時々
「ーーー!?」
「ーーー!!」
とある廃ビルにある地下。そこで2人の少女らしき声と稲妻が走る音が響き渡っていた。
「……アハハハハハハハ!!」
「ネルフェ様!落ち着いてください!」
高笑いを上げるネルフェを止めようとしているアリス。だがそれも仕方ないことだろう。
何故なら彼女は今、自分を中心に周囲へと稲妻を撒き散らし、研究所を所構わず破壊し回っているのだから。
「ぐっ……失礼します!」
流石にやり過ぎたと感じたのか、強行手段を用いることにした。手の関節が外れ、中から銃口が見え、針のような弾丸を放った。
「ッ!」
しかし、辛うじて当たる直前で回避されてしまった。
「ネルフェ様!」
「……うるさい!私に命令しないで!」
「言わなきゃならないことを今言わなきゃいつ言うのですか!?」
「じゃあ、なんで!なんでお父様は帰って来ないの!?」
「……っ!?」
「私がいい子じゃないから?それともお父様に何かあったの?……ねえ、教えてよ!ねえっ!!」
悲痛に歪めた顔で感情の赴くままに電撃を所構わず放つネルフェにアリスは何も言えなかった。
あの後ベルフェの2人で捜索して見たものの、反応などなく、死体すら見つかっていない為死んだか、生きているのか、どちらか分からず困り果てており、はっきりしない為に素直に答えることは出来ない状態であった。
「それはーーー」
「それは……?うっ!?」
困り果てて現状を報告しようと口を開くが、ネルフェが足から崩れたことで中断し、倒れるネルフェを抱き抱えようと動くが先にそれをする人物がいた。
「大丈夫ですかネルフェさん」
「ニルマル様……」
そこにいたのは手に麻酔銃を持ったニルマルがいた。しかし、その顔は状況を理解していたのか、少し哀愁のような雰囲気を漂わせていた。
「……えっ?」
「申し訳ありません。暫しの間お眠りください。起きられた時には、ちゃんと事を話させていただきます」
「やだ………おと、う……さま……行かない、で………」
ようやく効いたのか彼女は静かに眠る。意識を飛ぶ直前、愛しき父のことを呼ぶ声が、アリスには酷く耳に残ってしまった。
「ネルフェちゃん……」
「ベルフェ様、戻られましたか……」
眠ったと同時、珍しく起きていたベルフェが部屋にやって来ていたようだ。しかし、娘を見るその顔にいつもの笑みに力はなく、どこか哀愁を漂わせてもいた。
「辛いんだろうね」
「それはそうでしょう。成熟しているとは言え、まだ10代に到達していない身。この方はまだ子どもなのです」
「そう言うものなのですか?」
「そう言うものですよアリスさん」
「……そうだね。私達がしっかりしないとね」
ネルフェはまだ子どもなのだ。父親がいなくなったことで不安になっているのだろう。ならば私達大人が支えてあげないと、そう誓うベルフェであった。
その日以降、間延びした口調は変わらないが、日が昇った時は極力起きてネルフェと一緒に過ごすベルフェの姿が見られた。
終永時が消えた今、不安要素があるものの、ベルフェゴール親子もゆっくりと未来に向けて進み始めた。
「っ……!ここは?」
気がつけばあのカムランの丘……ではなく、見覚えのありすぎる白い平原にセイバーは立ち尽くしていた。
「ま、まさか……」
「ーーーThat’s right!……と、言うわけで『第3回這い寄れ〇〇〇さん!〜感動と涙の最終回〜』開幕でーす!」
やはりかとセイバーは呆れ半分諦め半分で自身を包むアニメのような煙を見つめていた。
「……やはり貴方でしたか」
案の定と言うべきか、見覚えのあるテレビスタジオにセイバーは座らされており、もう慣れたのか呆れ顔で何も言わず、向かいに座る黒パーカーの男を睨み付けた。
「安心してくださいアーサー王。今回は最終回故真面目な話をさせていただきます」
「真面目な話ですか?」
「ええ……っと、まずその前にお茶をご用意しましょう」
男が指を鳴らす。すると後ろから白い女Aが現れて紅茶と茶菓子を置いていく。
「今回は前回同様バームクーヘンとワッフル、追加としてクッキーを追加させました」
ではごゆっくりと彼女は黙って去っていく。どうやらこの様子だと真面目な話は本当なのだろうと感づいていた。
「よく生き残りましたね……とりあえずはおめでとうと言っておきますね」
「ありがとうございます……して、何の御用で?」
「……それだけですよ?」
「……は?」
突拍子もない発言に思わず呆然とするセイバー。すると男はそんな彼女を見て小さく笑った。
「フフフ、まあ冗談ですがね」
「……はぁ」
「そんなことは置いといて、本題に入りましょう……アヴェンジャーについて」
いきなり核心を突いた本題に思わず強張るセイバー。それを見て男は肩の力を抜くよう促した。
「アヴェンジャー。その真の名はオメガ。君のマスター終永時を
「対終焉……エンド・コールと呼ばれた人物のことですね?」
「おや?よくご存知で」
大体のことはエイジから聞かされていたと述べると男は頷いて納得していた。
「前話した常勝無敗の男、実はそれこそ彼のことでしてね。生まれたこの方負け知らずだったのですよ。しかも彼は生まれながらの天才にして調子に乗ることなく努力していた。それ故誰も彼に黒星を付けることは出来なかったのです」
「しかし、そんな彼が勝てないものが出てきたのです。その1つが終焉亡き後に起こった病疫、通称『終焉病』」
「終焉病?」
聞いたことない病の名にセイバーは首を傾げるだけで男が答えを述べるのを待つことにした。
「『終焉病』……かの終焉と戦った者、特に終焉の攻撃をかなり受けてしまった者を中心に起こった病気です」
「……症状は?」
「症状は至ってシンプルです……身体に残った終焉の残渣が潜伏した人物の全てを終わらせていく。それ故我々はそう名付けました」
「終わっていくとは何か?それは簡単です。才能、身体能力、知識。ありとあらゆるものが蝕まれるかのように弱っていき、やがて身体すら動けぬ状態となり、心身共に苦しんで死んでいく。そんな病気です」
「……患者は約20名以上。全員が組織の者である程度攻撃に耐え切った者がかかったようです。その中にはバット=エンド、そして、リーダー終永時も含まれていました」
「ッ!?」
『……お前を見習って、マスターの誼ということで敢えて言うが……案外俺を殺すのは簡単だぞ?』
『だって俺さ……こう見えて不治の病にかかってんだぜ?今でもこうしてる間に弱体する程、酷いのをな?』
その中に永時が入っていたことによる驚き、更に前言っていたことを思い出し、それが事実であったことにセイバーは言葉が出なかった。動揺させる為の嘘だろうとあの時思っており、まさか本当の病人を痛ぶっていたとは騎士道を重んじるセイバーにとっては知りたくない現実だった。
「それで……治療法は見つかったのてすか?」
「いいえ、あの病気のタチの悪い所はそこです。どんな治療法を、異能を駆使しても身体に残った終焉の残渣はそれを許さず無効化していく。勿論彼も色々したようですが全て失敗に終わり、結局は現代医療で延命するのが精一杯でした」
「そして、遂に彼女……バット=エンドが亡くなったのです」
「その時彼は始めて虚しい敗北感を覚えました、だがあくまでそれだけだったのですが、ほんの少しだけ後悔と怒りが浮かんだのです……彼女に対する運命とやらに」
「理不尽だとは分かっているです。ですがそれでも彼は遣る瀬無い怒りを如何にかしたかったのです……その後、終永時と『普通求めし異常者』の2人は行方を眩ました」
「なるほど……終焉に対する復讐者と言うわけですか」
「その認識で構いません……だから彼は現れたのです。もう一度自身の気に入った人を失くさない為に」
セイバーの印象としてはおちゃらけた雰囲気だった故に内情は意外と重みがあったことに驚きつつも、それを顔に出さぬよう努めていた。
「……話は以上です。長い間お付き合い頂き、ありがとうございます。これにて閉会とさせて頂きます」
そこで話を切り上げ、指を鳴らす。するとセイバーの背後に真っ白い扉が閉じたまま現れた。
「お帰りの際はあちらをご利用下さい」
手で扉を指し、遠回しに帰りを促す男。しかし、セイバーとしてはアヴェンジャーの謎を解けたので出て行こうと椅子から立ち上がって扉へと向かっていく。
「ああ、そうだ」
しかし、思い出したかのように声を上げる男によって歩みは止められ、後ろへと振り向く。
「何か?」
「いえ、ただ一言だけ言わせて頂きたい……ありがとう。ビギナーを止めて頂いて」
「感謝すべきはエイジの方だと思えますが……」
「いいえ、本来貴女は無関係な身上。それなのに彼を止めるのに一役買ってくれた、それは感謝されて、寧ろ英雄扱いされても当然のことだと思いましたので……かの悪魔を止めるのはそれだけの事なのです」
「そうですか……」
感謝の言葉を述べ、頭を下げる男。セイバーは断るも説明を聞いて対峙した相手の狂暴さを改めて認識し、頭を下げ続ける男を見て素直に受け入れることにした。
「……話はこれで打ち切りです。お疲れ様でした」
「では、失礼します……オメガ。いや……アヴェンジャー」
「……なんと」
まるで男がオメガのように確信めいた言い方をするセイバーに男は驚きはするものの、否定もせずに黒いフードをそっと外した。
「やはりでしたか……」
そこには永時に聞かされていたオメガという人物像、白髪で黒い瞳が晒され、セイバーは確信した。
「……よく分かったね」
「いえ、アヴェンジャーのことを語る際妙な程詳しいと思いまして、感情面に関しては特に。それ故違和感を覚え、後は直感で」
「そっかぁ……こりゃやられてしまったな」
お見事と言わんばかりの惜しみなく拍手を送る。
「騙して悪かったね……でも、ネバーと共にノットを止めてくれたことによる感謝は本物だ。それだけは念頭に置いておいてくれ」
「そうですか……」
感謝されたことは久々なのか、少し戸惑いを見せるセイバー。しかし、時間は有限。彼女を待ってはくれない。
突然オメガの横へ現れたA。彼女は懐から銀の懐中時計を取り出し、オメガに時間を見せていた。
「おっと、そろそろか……」
「時間ですか?」
「ええ、ですがまだ余裕はあります。今回は追い出しはしません」
つまりは自身の足で戻れと言うことなのだろう。そう認識した彼女は扉へと歩いていく。
「……では、失礼します」
そして、扉の前に立つと後ろにいる2人に一言述べ、扉に触れた。
その直後、扉はゆっくりと独りでに開き始め、セイバーは扉から漏れ出た光に飲まれた。
『這いよれ〇〇〇さん!』改め『這いよれオメガさん!』。これにて閉幕である。
「……さあ、早く行こうか。皆が集まっているはずだ」
「はい、お義兄様」
「……んで、いつまでその遊びやるの?そんなカツラまで態々被ってさ」
「あら?別に私はいつでもいいわよ?これはこれで楽しいものだし」
「趣味が悪いよ……アムールちゃん」
「オメガ君に言われたくないわね」
「じゃあ今すぐやめてくれ」
「お断りします、お義兄様♪」
「(殺される……絶対バレたらノットに殺されるぅ……!!)」
2度と来ないはずの俺視点……と言いたいがそれは置いといて、今俺の目の前とその横には見覚えのある人物が5人いた。
白い髪のウザったらしい笑みを向けてくる奴。
その横で腕を組んで少し仰け反って偉そうに座る着物の佳人。
緑色の髪で俺の苦手な柔和な笑みを浮かべる女。
背中まで伸ばした黒髪、顔だけ見れば優男だが、身長は2メートル強程あり、金剛力士のような無駄のない体型の大男。
そして、俺の隣で困惑した表情を見せる桃髪の女。
最後の奴以外丸テーブルを囲むように座っており、ご丁寧に俺たちの分なのか空いた椅子が2つ用意されている。
ちなみにいつの間にか失くなったはずの俺の身体の部位が元に戻っているがオメガがやったことだろうと気にしないことにした。
「……これは何の余興だ?」
「いや別に、特に意味ないけど?」
俺の質問に曖昧な答えを出す白髪、オメガ。意味深な笑みがかなりウザったらしい。
「お前らが突然いるのはもう何も言わん、だがこいつは予想外だぞーーー」
そう言って俺は着物の奴を指差す。そう、俺としては何故こいつがいるのか不思議で仕方ない。それにあり得ないと思った。
「ーーーどうしてここにいるんだ?エンド・コール」
そうだ、こいつエンド・コールの存在が俺の中の警戒心を強くする。かつて俺たちが殺したはずの奴がどうしてここにいるのか不思議でならなかった。
「それはこちらの台詞だ自称悪よ。折角休息をしていたというのに、護国の聖女を筆頭にゴロゴロ湧いてきよってからに……」
そう言ってエンド・コールは緑髪の女を指差す。
その意外性に思わず俺は目を見開いた。それは仕方ないことだ。よりによって殺し、殺された間柄の2人が仲良くしていたなんざ想像が出来ん。
だがこの女、アムールならあり得るとも思えた。よく考えてみろ、この大男、ノットの野郎の仲の良いお友達とやらを続けれているんだ。余程の馬鹿かお人好しでなければ付き合いきれん。
「お前……今アムールのことを馬鹿にしたな?」
ほらな?緑弾作ってすぐ殺る気満々の馬鹿の友人なんざ性格が限られてくるだろ?
「してねえよ……所でここは何処だ?俺はどうなった?」
とりあえず話題を変えようと気になったことを述べてみた。恐らく最悪オメガの奴は知っていると踏んで聞いてみた。
「ここは『世界の掃き溜め』。深淵の闇溜まりに最も近く、終焉を迎えたものが自然と集う終着点だ」
しかし、意外にも俺の問いに答えたのはエンド・コールだった。あっさり話したことに少し驚いたが情報を得られたので良しとしよう。それより更に気になるワードが飛び出たのでそちらが気になる。
「終焉を迎えたもの?」
「文字通り終わったものが全て集う。しかし、形として残るのは主だって無機物。意思あるものや生命があるものは深淵の闇に飲まれ消える。しかし一部には例外もあるのだ」
「それが俺だと?」
「そうだ……闇は気まぐれ、時に通り過ぎて他へと移ることもある。特に一度に多くのものが終わればその可能性は高まるのだ。その場合そのものはまだ生命や意思を残したまま流れ着くのだ」
成る程、要するに俺はまだ生きている可能性があって運良くここまで来られたという訳か。
「とはいえ、残った生命の残渣は深淵から湧き出る愚者共が喰らおうと活動し出す。大抵のものはどの道消える」
「……」
成る程、世の中それ程甘くはないという訳か。しかし、深淵か……えらく久しく聞いた名だな。
《そうだな、貴様との出会いもそこだった訳だからな》
「ほう……懐かしいものがいるではないか」
突然、俺自身の中からあいつの声が響き、エンド・コールはその声を懐かしそうに言った。
「久しいな……深淵の主人、ダークソウル。いや偽名だったな……そうだろ?悪の根源、アジ・ダハーカよ」
《ふん、その名で呼ばれるのは久しいな……終焉よ》
互いが互いに悪巧みするかのように悪どい笑いを漏らす2人。黒い雰囲気が漂い、誰もが声を掛けられない状況……だった。
「お話は終わった?なら、早く行きましょう」
そんな雰囲気の中声を出したのはアムールであった。まあこの女自身天然が入っているので若干空気を読まない部分があるが、今回は良い方向へとなったようだ。現に2人は元の素の声へと戻っているからだ。
「ああそうだ……探索する話だったか」
探索?……ああ、アムールが言い出したのか。この女自身子どもっぽい所があるからな。あり得んことはない。
「ここは偶に古い道具とかが流れて来るのでしょう?」
「そうだ……両手に持つ規格外な大盾など奇妙なものを見かけている」
大盾ねぇ……またふざけたものがあるもんだ。しかし……探索なぁ。
「危険はないのか?」
「俺がいるだろ?」
そう言うのは小首を傾げているノット。確かにまあ戦力としては問題なし、味方としては頼もしいが過剰戦力にも程があるがな。
「で?ネバー君行くの、行かないの?」
「……好きにしろ」
とりあえずやることもなくなったのだ。ここにいた所で暇そうだし安全面も考えて付いていくのが妥当だろう。
「よし、なら皆で行きましょう♪」
「……ああ」
相変わらずこの女は無茶を言いやがる……まあノットの奴と会うまでは箱入り娘だったはず。好奇心旺盛なのは良いことだ。逆に好奇心猫を殺すとも言うが……。
「所で、バットちゃんはどうするの?」
「あー……彼女はちょっと訳あって呼ばないんだよね〜」
ならば姐さんを呼ぼうと提案するアムール。まあ愛らしい弟子を置いて行きたくないと言うのが心境だろう。
「アムールちゃん、姐さんなら今は新しいスタートを切ったばかりで忙しい。暫く安定するまではそっとしてやってくれないかい?」
「まあ!それなら仕方ないわね」
オメガの奴に言われて納得するアムールに正直安心している。
考えてくれ、こっちには
だが姐さんが新しいスタート?……後で聞いておくべきことが増えたな。
「じゃあ行きましょう♪」
「どこへ行くんだぁ?」
「大丈夫よノット君、一応これでも戦えるのよ?」
「待て」
席から立って先々行こうとするアムールの手を掴み止めるノット。そしてそのまま引っ張って自身の側へと寄せていた。
「えっ……?あの……ノット君?」
「もう、俺の側から離れないでくれ……2度とお前を失いたくない」
そう言って彼女を抱き締めるノット。まあこうなるのは分からんでもない。愛するものを失う気持ちは痛い程分かるから何とも言えん。
だがこれで友人関係のままで止まっているのだ。何故それ以上にならんのか未だに不思議で仕方がない。
「(まあ、アムールの方は自覚しているようだがなぁ……)」
「ヒュ〜、ラブッラブですなぁ」
現に顔を真っ赤にして茹で蛸のようになっているから恐らく脈ありなんだろう。後オメガ、煽るな。
「……チッ」
まあその前に今にも立ち上がって手を出しそうなぐらい怒気を放つ終焉の奴をどうにかしなくてはならんのだがな。
「エンド・コール。今回は抑えておけ」
「……ああ、分かっている」
本当に抑えるのかどうかは定かとして、とにかく当初の本題に戻るとしよう。
「ノット、いちゃいちゃするのはやめて早く行くぞ」
「いちゃいちゃって……」
「ってなんだぁ……?まあいい」
更に顔を赤くしていくアムールの反応を楽しんだ所でノットは首を傾げて離れる。
「あっ……」
「ほら、さっさといくぞ」
とりあえず名残惜しそうにするアムールを放っておいて歩く俺たち。アムールはそれに気づいて慌てて追いかけてくる。
「……んで、どこを探索するんだ」
「目的は特にない。とりあえずは深淵に近づかないように進む。私はともかく、姫君は持たんからな……とりあえずはある場所へと赴くつもりで進むつもりだ」
「ある場所?」
「『影の国』……世界の果てに存在するとされる国の名だ。その領主の名はスカサハ。貴様も聞いたことがあるだろう?」
スカサハ……?ダメだ、全く知らん。今度勉強しておくか……。
「その様子では知らんか………なぁに、ここは世界の終着点。前に暇潰しで歩いていた際偶然侵入出来た場だ」
「つまりは今繋がっていると?」
そういうことだと述べるエンド・コールは歩き出す。
「影の国……なんかお化けが出そうな名前の国ね」
「安心しろ、俺はお前を襲う敵を血祭りに上げる悪魔だぁ……だから、何かあっても俺がお前を守ってやる」
「ノット君……」
「チィッ……!」
「まあまあまあ、その怒りは愚者にぶつけたまえ」
「……ふん」
仲良く歩く2人の前方、苛立ちを抑えるよう咎めるオメガと並ぶようにエンド・コールは歩き、その最後列を俺と刀になったアスモが付いていく。
ーーーだが1つ言わせろ……仲良く手を繋ぎながら歩くのは構わんが今すぐやめてくれお前ら、エンド・コールが今にもキレそうでこっちがヒヤヒヤするから。
しかしまあ、あれだ……当てもない旅路。まるで俺たちの最初の頃を思い出すようで、懐かしく、それで持って少し楽しい気分になってしまったのは内緒である。
ーーー彼は今日も己の道を突き進む。結局戻ることがなかった
ーーー彼は今後も悪になり続けるだろう。
ーーーだが、それこそ終永時……
ーーーそれでこそ、自称悪に相応しい。
「……所詮、自分の欲を叶えようと生きていく強欲な男だという訳だ」
「とある奴の言葉を借りるなら世界を気ままに流離って、好きな時に戦い、美味いものを食い美味い酒に酔う……それが俺の
「それこそ俺の生き方。それでこそ悪に相応しい生き方……この性格は死んでも治らんよ」
「では、またいずれ会おう……悪と共にあらんことを」
なんとまあ気になる所を残したと思いますが、この作品は此処で終了とさせていただきます。
消えた3人についてはまた書くかもしれないのでその際はまたよろしくお願いします。
皆様どうもありがとうございました!