どうも皆様、遠藤でございます。
昨日に引き続きの投稿です。
本来なら前回でノット戦を終わらせよう……などと、その気になっていた私の姿はお笑いだったぜw
だが、今話で終わらせること、つまりはノットを終わらせれば私の心配の要素は最早おらん!
これで安心して最終回へと歩を進めていける……というわけだぁ!
ゑ?お前の心境などどうでも良い?……では、本編でも如何かな?
ちなみにタイトル名は『
ーーー男は見続けた。愛する彼女の最後を見る為に。
ーーー男は考え続けた。何故彼女ばかりこのような目に合わねばならないのか。
ーーー男は悩み続けた。平和を望んだ彼女との約束を守るべきなのか否か。
ーーー男は苦しみ続けた。深い悲しみと共にやって来る本能に抗う。
ーーー男は最後は暴れ続けた。考えることをやめた為だ。
ーーー否、もしかすれば。ただ単に誤魔化す為なのかもしれない。
ーーー愛する者の死を、深い悲しみを、誤魔化す為に。
「フハハハハ!」
「クカカカカカッ!」
夜の冬木の街に2人の男の高笑いが響く。金属のぶつかる音、骨が軋み、砕ける音、血が噴き出す音を鳴らしながら、文字通り命を削ってぶつかり合っていた。しかし、金属音以外の音源は全て永時から鳴っていると補足が入るが。
「カカロットォォォォォォォォ!!」
「ぐおっ……!」
ノットの拳が胸部へと突き刺さる。骨が砕ける音が聞こえ、その後手が緑色に光ると爆発。そのまま永時を吹き飛ばした。
「カカカ……クカカカカカッ!」
しかし、永時は寧ろ悪どい笑みを浮かべ、すぐ立ち上がるとその場から飛び出していく。
緑弾を両手に持ってひたすら投擲するノット。永時はそれを新たな得物を含めた2本を振るい、時には銃剣から弾丸を撃つことで弾き飛ばして接近していく。
「死ぬがいい!」
「お前がなっ!」
ぶつかる拳と刀。緑と黒が凌ぎあっていた。
これにはノットは驚いた。いくら何でもあの3人の中で最も弱かった男が自分の拳と凌ぎ合う。その事実に目を見開く。
「チッ」
「!?」
凌ぎ合う途中に空いた片手にある銃剣を向け、発泡。黒い瘴気に包まれた弾丸は頬を掠める程度で終わり、刀を引き離して後ろへ跳ぶことで距離を取る。
「っ!」
しかし、頬に生温かい感触にノットは驚いた。そっと触って手を見れば赤い液体。
血だ……誰の?勿論自分の血であろう。だが、何故今になって傷がついた?
ノットは潰そうと躍起になる本能を一時的に抑えて敵を観察する。何が変わって、何をどう作用しているのか。それだけはしなくては前のような無様な結果にはなりたくないからだ。
「……っ!貴様!」
だがそこで気づいた。紫電を纏うことで身体の傷は治癒し、同じく紫電を照らす刀、そして銃剣にも先程より強い禍々しい黒い炎を強く揺らめかせ、理性で何とかしているようだが、その目はギラギラと獰猛な獣の如く血走っていた。
そこで彼は思い出す。確かこいつには自分のような規格外を傷つけることが可能な手段を持ち合わせていたではないか?確かそれは……
「『闇の活性』……!」
「ご名答、お前にしてはよく覚えていたな。まあ……前より単純に出力上げてるだけだからバレるのも仕方ない」
なるほど、なら魔力源は?と疑問を抱くがすぐそれも何となく理解する。
先程からずっと気になっていたのだが、彼を中心に黒い粒子のようなものが様々な方角から集っており、恐らくそれによるものだろうと推測していた。
名前こそ出なかったが当たってはいる。『
「死に損ないが……!どうやら相当死にたいようだな!」
「そうかもな……だが、ただ1人で行くのは寂しいものでな。仲良く逝こうじゃねえか」
「断る!」
そこから一気に踏み込み、永時の腹部を強く蹴る。それにより永時は吹き飛ぶがノットはそこから飛翔。素早く回り込んで頭上から足を振り下ろす。
「……っ」
「!?」
だが、見覚えのある盾の出現によって止められる。一瞬止まったノットに永時は今までにない速さで身体を捻って空へと向き、3発発砲した。
「ぬうう……!?」
咄嗟に腕を盾にすることで銃弾を防ぐ。弾丸は自身の想定より速い速度で自身へと到達し、腕に丸い焦げ目を3つ作り上げ、ノットは顔を歪ませる。
「……チッ」
今度は弾丸が速くなった。何故だと再び疑問を抱くも盾の存在を思い出して思わず舌打ちした。
盾……確かあれはルシファーの持ち物の1つであり、能力は加速だったような気がする。つまりは自身やその他の物体の動きを速くするだったか。それに、あれを出している間に使えるということも、使うと体力も使うということも理解していた。
「貴様……どうやら死ぬつもりかぁ?」
「だから言ったろ?そうかもなってな」
ノットはそこから一気に加速して盾の後ろへ回り込んで蹴りを入れる。だが永時は更にそこから電撃を纏うことで筋肉を刺激させて機動力を上げさせることで寸の所で回避した。
ならばノットは拳を振るい、蹴りを放つを繰り返して攻撃を繋いでいく。
それを避けている永時は同時に少しばかり思考していた。
(……あれだけどんちゃん騒ぎを起こしているというのに、誰も来ないとは……誰か裏で糸を引いている?)
そう、気になっていたのは先程から誰も来ず、増してや援軍すら来ない状態。明らかに可笑しいのは気づいていた。
とはいえ自身は目の前の男の対処で手一杯。現実としてはどうにもならない状況であった。
(援軍は期待しない方が良さそうだn……かはっ!?)
そう結論付けた直後、永時の腹部に蹴りが入って思わず膝をつくもすぐに立ち上がった。
これだけ見れば流石のノットも気づく、奴は死ぬ気で自分を潰す気でいるのだと。
「いいだろう……ならお前を血祭りに上げてやろう」
ならばやるべきことは1つ。自分もそれ相応の力で血祭りに上げ、捩じ伏せてやるまでのことである。
「さあ来い!ここがお前の死に場所だぁっ!」
一方その頃、別の場では……
「どけぇっ!」
ルシファーの叫びと共に振るわれる棘鉄球……
「一体何なのですかこれは!?ルシファー、貴女の仕業じゃありませんよね!?」
艶めかしい身体を黄金の軽鎧で身を包んだマモンはそう文句を垂れながら黄金の矢を射って人影の頭を撃ち抜く。
「ええい、知るか!というより強欲よ!無駄口叩く暇があるならばさっさと奴らを始末しろ!」
「分かっております……わっ!」
キャスター討伐の時のように口喧嘩はしているものの、2人ともそれぞれ人影を確実に潰している辺り、やることはちゃんとしているようだ。
「うむ……やはりこやつら」
「ええ……明らかにわたくし達を動かさないおつもりのようですわね」
さて、何故この2人が共戦しているのか。それは2人が目覚めた時に遡る。
まず目覚めたのはマモンの方であった。辺りを見ればあの悪魔の姿はなく、周りにはルシファーただ1人。
これはしめたと思うマモン。今ここでルシファーより先に永時の所へと颯爽と駆けつければ好感度が上がるのではないかと浅ましい考えが浮かんだようだ。
ならば早速と折れた手足を黄金で代用し、歩を進めようとした直後。突如自分の目の前から黒い人影が現れ、自分を襲ってきたのである。
最初は3体ほどだったので1人で対処し、潰した。だが潰したと思えば復活。更に増援として10体以上どんどん増え始めたのである。これはマズいと慌てたマモンは止むを得ずルシファーは蹴り起こし、現在に至るのである。
「と、いうより貴様!さっさといつもの人形使って殲滅すれば良かろう!?」
「あれは疲れるのですが……なり振り構ってはいられませんわね……!
適当な銀行跡地を見つけ、そこにある金を拝借してノットの時に使用した黄金の巨兵を3体程を一瞬で作り上げる。
「さあ、貴方たち!わたくしを妨げるゴミを掃除しなさい!」
乱戦状態となった戦場を確認すると更に増援を呼ぼうと考えたマモンはルシファーに思い出したかように提案する。
「あっ……というよりルシファー。確か貴女部下を連れてらしているのではなくて?」
「知るかあんな阿呆!さっき呼び出したが『桜さんが寝てくれないとマイティアさんから連絡来ましたのでちょっと寝かしつけて来ます』と言うのだぞ!」
「あらら……」
完全に見捨てられたルシファーに流石に御愁傷様としか言えなかった。
「ええい、妾を哀れむでない!そんなことより貴様もさっさと部下を呼ばんか!」
「いえね、あの人達は多分店の経営で忙しいかと……まあ仕方ないですわね」
緊急事態とも言えましょう。とマモンは地面に液体状にした金を垂らす。するとそれは黄金の魔法陣を形成し、金色に輝き出した。
「まあ妾が露払いをせねばならんよな……」
それを見やりながら邪魔させてはならないと人影に武器を振るい、露払いを行う。一方マモンはこっそり懐からサングラスを取り出して自身に掛けていた。
そして黄金の輝きが最高潮に達した時、巨大な
「ダイヤ、じゃな。ということはまさか……」
嫌そうに見やると突然ダイヤモンドが震え出し、形を変化させ始めた。細長い棒状のものが4つ飛び出し、無骨な形は圧縮されて人型へと整っていく。
『……只今馳せ参じました』
そして顔らしきものが出来上がり、低い男の声が出ると同時。人型は膝をつく。するとカメラのフラッシュのように眩い光が放たれた。
「やはりかーーーって、眩しっ……!」
「御機嫌よう。その話し方は……ディアさんですわね?」
事前にサングラスを掛けていたので事なきを得たマモンだがもろに受けてしまったルシファーは目潰しされた。
悶えるルシファーは置いておいてマモンはディアと呼ばれる人物の額。そこに浮き出ているひし形……
『……ダイヤモンド・ディアマンテ。お嬢様のお呼び出しに応え、こちらに伺った次第です……して、如何なるご命令ですか?』
「他の方は来られないのですか?」
『いえ……彼らは警備、接客、運営で回っております。更にシルバート様は採掘に夢中故悪しからず』
「そうですか……」
まあ仕事で忙しいのは仕方ないだろう。しかし、一応主人のピンチなので出来れば全員来て欲しかったと彼女は内心そう嘆いていた。
「……まあ、仕方ありませんね。貴方がいれば防御面は何とかなるでしょう……」
『了解致しました』
「……そうそう、ディアさん」
膝をついたまま自身の主人へと目を向ける。しかし思わずその目を逸らしたくなった。
彼女から放たれた圧倒的な威圧と共に、強烈な殺気と重圧が彼を襲ったからだ。彼女の魔王としての顔が一瞬見えた瞬間であった。
『っ……い、如何なさいましたか?』
「今のわたくしは機嫌が悪いのです……ディアさん。『今すぐ仕事を放棄。今すぐわたくしの元へ集え』と皆に伝えなさい」
『ですが……』
「……何か?それとも、わたくしの
『了解しました……今の会話を記録しました。すぐお送りします』
「それで良いのです」
そうこうしている内に巨兵とルシファーが撃ち漏らした人影がこちらに迫って来ているではないか。
「ディアさん、わたくしの壁になりなさい。わたくしは後方から狙撃致します」
『はい。このダイヤモンド・ディアマンテ……お嬢様の盾となり、剣となることを保証いたしましょう』
「ええ、期待してますわよ?」
「何でも良いが来たならさっさと手伝え貴様ら!!」
「カカロットォォォォォォォォッ!」
ノットの拳が永時の背中へと突き刺さり、骨を砕いていく。
あれから数分経つも永時が有利になることは1度もなく、ただただノットの攻撃を捌き……いや、殆ど堪えるに等しい状況であった。
「な、何故だ……!?」
しかし、明らかな優勢だというのにノットの顔は焦燥と疑念しかなかった。
緑弾をぶつけた、蹴りで顔面の骨を砕いた、踏み潰した、ギガンティックブローで吹き飛ばした、手刀で内臓ごと貫いた、適当な岩盤に叩きつけた、車に突っ込んだのでそのまま車ごと握り潰して地面に叩きつけた。
「何故くたばらん!?」
なのに、なのにだ。それでも何故この男は立ち上がってくるのだ!?
いや、別に簡単にくたばらないのは分かっていたのだ。それは昔に体験済みだった為理解していた。だが、とある病によって今この時でも弱体化する身体だというのに、いつも並のタフさを見せられる。
その姿はノットには君悪く見え、同時に倒れないことへの怒りを抱いていた。
そんなノットを見かねてか、永時は血祭りに上げられた状態だというのに立ち上がる。そして、未だ尽きぬ闘志の持つ目で見やるとこう述べた。
「そんなのお前と一緒だ……ただ単に執念深いだけ、それだけだろう?あと気合と根性」
あっけらんとした表情でそう答える永時に流石のノットも怒りが胡散。呆然とした表情を思わず見せてしまう。
しかし、それが戻るのもほんの少しだけだった。
「ああ、悪い……あまりに隙だらけだったものでな」
咄嗟に腕を振るうことでそれは防げた。突然会話中に弾丸を頭に撃ち込んできたのだ。
確かに敵と会話する途中に攻撃するのは理にかなっている。義姉も同じことをやっていたので案外似た者姉弟なのかもしれない。
だがそれはノットの怒りを呼び戻すのには充分であった。
「カカロットォ……!」
ああ、そうだ……こいつはそういう男だ。ならば俺がするべきことは昔から変わらない。
圧倒的な力で捩じ伏せ、力尽くで奴の策を、生命力を攻略する。実に単純だが実に彼らしいやり方であった。
「そう来るか……ならっ!」
だが先手を打ったのは永時の方であった。自身の前へ再び盾を複数展開。それを壁にして、ルシファーのように光線を撃たせながら突進し始めた。
「でやっ!」
光線を物ともせず正面から突進し、そのままの勢いで緑弾を握りしめて正面から叩きつける。
「ぐうっ……!」
それを盾で防ぐ。幸いヒビは入るも砕ける寸前の所で持ち堪え、盾の隙間から銃口を向けて引き金を引いた。
「……!」
「……フッ」
しかし軽やかな動きで横にズレて紙一重で躱す。驚く永時を他所にすかさず加速、そのまま後ろへ回り込んで永時の背を蹴り飛ばした。
「があっ……!」
転がりながらも永時は受け身を取って立ち上がり、その姿を消した。
「……っ!?」
その直後、弾丸が自身へと迫ってきた。周囲、360度から張り巡らされたと補足されるが。
なるほど、
ならばどうすべきか。そう、吹き飛ばせば良いのだ。
「でりゃあっ!」
やったことは単純。緑弾を作り上げ、それを地面に叩きつけるだけ。それだけのことで辺りは吹き飛び、弾丸は消滅し、舞い上がる砂塵だけが残った。
「っ……!」
しかし砂塵を割いて自身の顔面大の弾丸が迫り、ノットの左肩を抉り取った。
「ぐうぅ……!」
幸い浅かったようだが、垂れ流れる赤い血液が更にノットの怒りを加速させる。
しくじると分かっていたのか、次弾を撃ち放ってきた永時。それを気を纏わせた手刀で弾き飛ばし接近、その気を球体にして永時の横を通り過ぎる……と見せかけて腹部に緑弾を押し付け、そのまま押し出すと爆発した。
「がぁぁっ!?」
またもや吹き飛ぶ。しかし、すぐに立ち上がって銃口をこちらに向けて発泡してきた。
「チッ……」
余りのしつこさに思わず舌打ちしながら気を纏った手刀で叩き落とす。すると永時は刃物2本で切り掛かってきたので拳の連打をぶつける。
「フハハハハハッ!!」
「ッーーー!!」
高笑いで殴打を続け、必死の顔で盾や異形の腕を上手く扱って捌いていく永時。だがそれと同時にある考えがノットの頭にはあった。
(……しつこい奴だ。このまま続けた所とて無駄なのだが、前のような事がある……)
永時の余りのしぶとさに面倒になったノット。早くしなくては前のように形成逆転されると面倒になったからだ。
「だあっ!」
「うぐっ……!?」
殴る速度を少し上げて永時が対応出来なくなった所で殴り飛ばし、吹き飛ぶ合間に上空へと移動する。しかしまだ永時は諦めずに盾を展開して立ち上がっているではないか。
「無駄なことを……今、楽にしてやる!」
そう言った途端、世界は緑一色に染まった。
「これは……!?」
永時がマズいと思った所でもう遅い。やがて緑は引いていき世界に色が戻る。だが緑は禍々しい殺気と共にノットの左手へと収束される。
「……フンッ!」
やがて手のひらに収まる程小さくなったそれを、立ち上がったばかりの永時、正確には少し横へズラして放り投げた。
「チッ……っ!?」
あれは確かノットが誇る必殺の一撃、ギガンティックミーティア。今は小さいがなにかしらの衝撃で膨大する厄介な攻撃だったはずだ。ならば回避するまでだと
永時の後方……そこは彼の住処も含めた、町の一角があったからだ。
「テメェ、考えやがったな!?」
思わずそう悪態付いた永時。先に言っておくが永時は正義の味方とかそんなのではない。永時ならきっと『面倒だからやりたかねぇよ』と述べることだろう。それ故、別に見知らぬ赤の他人が死のうが関係はない。だが、その範囲が知り合いや娘が巻き込まれるとなると話は別だ。
昔、彼が終焉を名乗る人物と本気で殺しあった際の被害は凄まじく、辺りの国を3つ程壊滅させていた程、その内1つは今の一撃によるものでそれを永時はこの目で見ていたのだ。範囲が予測出来ない以上それだけは避けたかったことだった。
要するにこれは永時を確実に逃さず、殺すためにわざとこの方向へも放ったものだと容易に推測できた。
「クソッタレがっ!」
ならばどうすべきか、奴の策に乗るのは癪だが真正面から受け止め、どうにかするしかないようだ。
とはいえ、永時の顔にまだ諦めが見えない以上、そこまで焦っている訳ではないようだ。
「ぐっ……予想より早いが、まあいい」
迫る緑弾に立ちはだかるように位置し、異形の手が持つ刀を銃剣へと突き刺した。
すると刀は黒い粒子となって銃剣へと進んで消えていく。刀が完全に消えた時には突き刺したというのに銃剣には傷1つもついていない。
「……!させるかっ!」
ノットにとってそれは見覚えのあった光景であり、緑弾を1つ先へと飛ぶ緑弾へと撃ち出した。緑弾同士が当たると同時、互いに1つとなったそれは2人の視界が緑一色になる程に肥大化した。
「いや、間に合わせるさ。無理矢理でもな……加速せよ」
盾を2つ出して飛来する瓦礫を払いながら加速していく。
一体何を?……そんなのは決まっている、動く必要も修復させる必要もない。必要なのは決め手となるものを放つまでの
「……時間だ」
《いいだろう……》
ここで、今まで黙り込んでいたダークが声を出す。すると赤錆色の銃剣に変化が起こった。
刃を含む銃身が黒い瘴気と共にひとりでに震えだしたのだ。見れば銃口からそれは漏れ出し、ただでさえ血を連想させられそうな色合いを持つというのに黒い瘴気の所為で更に禍々しいさまで醸し出していた。
《いつも通り演算はしてやろう……外すなよ?》
「ああ……」
震える銃剣を右手で抑え、迫ってきた巨大な緑弾へと銃口を向ける。
「……なあ」
《なんだ?》
「今こいつを撃てば……流石に死ぬか?」
《さあな……》
「そうか……」
語り終え、緑弾と向き合う永時。しかしその顔は少し暗みがあるがどこか達観した様子であった。
《どの道貴様のことだ……しぶとく生き残っていることだろう》
だからいつも通り躊躇いなく引くが良い。そう言われ永時は引き金に指を掛ける。
「我を縛るは封印の鎖。開放されしは貪食の悪意。我は深淵にて闇を焚べ、滅びの時を待つ者なり……見事超えてみせよ我が
「さあ、
詠唱と共に引き金を引き、膨大なドス黒い瘴気が前方に解き放たれた。
「っ……!?」
解き放たれた瘴気が帯状へと形を成し、緑弾へとぶつかる。流石のノットもそれに気づいたようだ。
「無駄だっ!雑魚がいくらパワーを上げたとて、この俺を越えることは出来ぬっ!!」
ならばと後ろから緑弾を複数撃ち込み出す。すると巨大なそれに当たると同時勢いが増したではないか。
「はぁ、はぁ……クソがっ!舐めるなよ……!」
だが侮る事なかれ。
自称悪が撃ち放ったのは悪意。刀……『朧月』に宿った闇の奔流。
『闇の活性』の元となった貪欲な闇はあらゆるものへと宿り、闇や生命を好んで貪る。特に双方が強い、人ならざる者なら尚の事。人外が惨禍に呑まれると評するに相応しいものだ。
仮に彼がサーヴァントならこう表記されるだろう……『対人外宝具』と。
「……?」
それは突然だった。いや、必然だったのかもしれない。
勢いが増し、押していた感覚に突然違和感が生じたのだ。何事かと思いきや、何かが割れる音がした。
「っ!?」
その音が緑弾の砕けた音と気づいた時にはもう遅い。貪欲な闇は緑弾を喰らい、それにより徐々に勢いは増していき、更なる獲物を求めてノットへと迫る。
「くっ……カカロットォッ!」
だがまだ負けてはいないと緑弾を数発、迫り来る闇へと放つ。
しかし貪欲な闇は緑弾すらも喰らい、止まることなくノットへと迫り続けた。
「何だと!?」
流石のノットもこれはマズいと思った……訳はなかった。
「馬鹿が……その程度でこの俺が死ぬと思っていたのか!?」
焦ったのは一瞬。しかし、そうなることはノットには想定内だった。
やったことは単純。迫ると同時に変身を解いて再びあれを使っただけだ。自身の名前でもある宝具の1つを。
「なっ……!?」
「『
発動と同時に闇は迫る。だが普通の人間だと自身へ干渉。強制的に
確かに、人ならざる者に対しては有効。ならば化け物であるノットにはよく効くのは分かりきったこと。
だが相手を理解しているのは
異常がダメなら普通になればいい。賭けに近いそれだがどうやら成功したようだ。
「クックックッ……ハァーハッハッハッハッ!」
通り過ぎていく闇の中、偶に喰らってくる闇を気にしない程、己の感情が高ぶって笑い声を上げる。向こうは撃つことで夢中、しかも瀕死に近い状態で無理している為にほぼ動くことは出来ていない。
ならば後は止めを刺すだけだ。片手に緑弾を作る準備だけをしておき、時を待つ。
狙うのは奴が撃ち終えた時、そうすれば奴は魔力を使い切ったことで動くことすらままならない。そこに今出せる全力の力で存在ごと消し去ればいいだけのこと。このまま撃つことも可能だが、それで闇に過剰に反応されると面倒なので保険も兼ねてあるのだ。
「よく頑張ったがとうとう終わりの時が来たようだな……!」
我ながら完璧だと思って数秒、すっかり勢いが衰えてきた奔流を見て思わず笑みが浮かぶ。
「ぐっ……!クソがっ!」
緩んだ奔流をもう一度撃ち直そうと『
「さあ、止めを刺してやろう!」
勢いが止まると同時、ノットは左手に今出来るありったけの力を緑弾へと集中させる。変身前程威力はない。だが、目の前の死に損ないを跡形もなく消し去るには充分すぎるものであった。
「死ぬがいい!」
左手に持った緑弾。イレイザーキャノンを目の前の死に損ないに向けて投げ放つ。
動けない永時は悔しげに歯を食いしばり、迫るその時を眺めるしかなかった。
現実とは非情であり、奇跡なんざ起きることなく緑弾は迫り、永時を光に包んで大爆発を引き起こし、爆発による轟音に混じってノットの高笑いが街の一角にて響き渡った。
「クハハハ……ハハハ……ハッハッハッハッハッハッ!!」
時間が掛かってしまったがここまで来れたことに悦に浸っている。それもそうだ。あれだけしぶとく立ち上がって来たのだ、やりごたえがあったかどうかは兎も角、充分やった感覚は得ていた。
「……どれ、一応死体は見ておくか」
だが彼は油断しない。昔それで原因で負けたことがあった為に少し思慮深くなっているのだ。流石に死体を見ないと完全に倒した気はならなかったので確認しようと下へと降りる。
ーーーはずだった。
「……っ!?」
空気が暴発するような音が聞こえ、後ろを振り向こうとするとグチャリと生々しい音が静かになった街に響き、反響して自分の耳へ届く。そして音と共に自身の身体が少しだけ前に押されるような感覚を覚えた。
どこからの音だ?そう思い首を下へと動かす。
「……あっ?」
するとどうだろうか?何と自身の胸部が真っ赤に染まった刀に後ろから貫かれているではないか。
「……なん、だと!?」
それを知った途端。胸部から激痛が走り出した。しかも遅れて呼吸が苦しくなり、口の端からは赤い何かが垂れ流れ出したではないか。
「……君の負けだよ。ノット」
焦燥と混乱に駆られるノットに後ろから声を掛けられる。その特徴的な語り方と中性的な声色は久しく聞いていなかったある人物のものであった。
「アスモ……デ、ウス………!?」
「そうだよノット……」
「何故、だ……?き、さま、が……俺が……きぬ……そんな速度……ない!」
呼吸が難しくなって来たのか、掠れた声でそういうノット。要約するならば『貴様が俺が気づかず反応出来ぬ程の速度が出せる訳がない』と言っている。
つまりは遅く接近すれば流石に気づくが、逆に気付かさず反応出来ない速度を出せるわけないだろと言いたいのだろう。
「あれ見ても?」
胸部へと刺さっている刀、正確には足から生えたそれが深く入っていく。暴れようとするもどうやら心臓部をやられたようで上手く身体が言うことを聞かず、仕方なくアスモの視線を辿る。
「『
そこには息を切らして剣の切っ先をこちらに向ける女……セイバーの姿がそこにはあった。
そこで彼は思い出す。確かその名はその剣から暴風の塊を排出することが可能なはず、ならばその風に乗って無理矢理飛んで来たのではないかと言う仮説が成り立ってしまった。
「何ぃっ!?な、なんて奴らだ……!」
「まあ何考えているか知らないけど……大体分かった感じかな?でも、お別れだよ……」
「ぬうっ……!?」
そう言って刀、正確には足から生えたそれを引き抜く。胸部へと刺さっていたものが抜けたことで支えとなったものが消え、重力に従って落ちていく。
「ばぁかぁなぁぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あああァァァァァァァァァァ!!」
力が抜けていくのを感じるも怒りと憎み、それらが混ざり合った叫びを冬木に響き渡らせながら、異常者は地へと落ちていった。
熱戦とか撃戦とかにありそうな感動的なものではない、何とも泥臭い勝利であった。
補足事項
『人外惨禍・自称悪道』
エゴイズム
ランク?
対人外宝具
嵐雨と朧月、この2つを合体させて撃ち込む特殊銃。1度撃つにはそれなりの充填か魔力が必要。
真名解放で『闇の活性』のオリジナルとなる全てを喰らう闇の奔流を前方に撃ち放つ。貪欲な闇は人間ならざる者に過敏に反応し、喰らおうと勢いを増す。
つまり効果は対人外。人間をやめた者程威力が増すというまさに人外キラー。ただし人間である場合は威力はかなり落ちる。
最弱が最強へと勝つために相応しいものといえる。
例えどんなものが阻もうとも自称悪は突き進む。それこそ悪、自称悪故致し方なし。
次回、遂に最終回。