Fate/Evil   作:遠藤凍

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〜遠藤が送るあらすじ〜


「皆さまお久しぶりの遠藤でございます。

皆様が全員やって下さったということらしいので今回から最後まで、私遠藤が最終回までやらせていただきます。


前回、セイバーを元に戻した永時。2人は再び主従を結んだ。そんな2人はオメガとバットの融合、バメガとの戦いに加担することで見事ノットを撃退した。しかし、それはまだ悪夢の序章に過ぎなかった……


では、本編でも如何かな?」






自称悪と自称悪魔

 

 

「ーーー遂にあの宝具まで使用することになったか……これは雲行きが怪しくなってきたな」

 

 

テーブルと椅子、それ以外はゴミ山のような瓦礫や廃墟で飾られた空間で1人の中性的な声が響き渡る。その椅子に腰掛けているのは漆黒の髪を腰まで伸ばした1人の人物。紅い彼岸花の刺繍がついた黒い着物を見事なまでに着こなしており、性別は分からないが、端正な顔を憂鬱に染めている姿が似合うまさしく佳人と言ってもおかしくない人物であった。

 

 

「そうかしら?彼ら相手なら仕方ないと思うけれど?」

「……珍しい客が来たな」

「特に意味はありません。ただ暇だったもので、ね?」

「フン、それでこんな場所に来るとは……」

 

 

そこに1人の女が現れ、目を見開く黒き佳人。女はクスクスと笑いながら何処からか取り出した椅子に腰掛けていた。そして佳人は端正な顔を少し歪ませながらも女に気になることを尋ねてみた。

 

 

「そうだ……貴様はどちらが勝つと踏んでいる?」

「どちらが勝つか、ですか……」

 

 

問われた女は悩ましげに俯いて考える。少し置いた後、女は顔を上げた。しかし、その顔はまだ悩ましげなままであった。

 

 

「恐らく彼……と言いたい所ですが多分あの3人が勝つでしょう」

「ほう?貴様が奴を選ばんとは意外だな」

「私だって冷静に考えることは出来ます。ですが……」

「ですが?」

「……個人的には、彼が勝って欲しいと願っています」

 

 

そう答える女の顔は悩ましげな表情のまま。いや、少し哀愁のようなものを含んでいるようにも見える。佳人はそんなことは一切気にすることなく女に再度問う。

 

 

「理由は?」

「あの3人なら、今の彼を救ってくれると信じているからです」

「救う?殺すではなくか?」

「ええ……悲しみと憎悪、執念によって染まった彼を……何が正しいのかすら判断できなくなってしまった彼を。彼らならきっと、元の彼に戻してくれると。もういない私の代わりをしてくれると、そう信じているんです」

「……本気で奴を殺しに掛かっているのによく平気でいられるものだ」

 

 

半ば呆れ顔で述べる佳人に女は違いますとはっきりと否定した。そのことで佳人は少し目を細め、女の顔を凝視する。

 

 

「本当なら平気でいられるはずがありません。ですが……彼らも分かっているはずなんです。こうでもしないと彼は止められないと」

「つまり、奴の為に全力ですると?」

「そういうことです……それも彼らなりの不器用な信頼の表しなんだと思います」

 

 

確かにと佳人は少し古い記憶を蘇らせる。自身を悪とか何とか豪語しつつ人助けをする自称悪(クーデレ)。仲間の為にと自身を捨ててまでして戦おうとする竜狩り姫(馬鹿)。そして気分次第で敵味方別れる万能(気分屋)。よくよく考えれば3人とも素直ではないのだ。思い出しただけで思わず笑ってしまいそうなぐらいあの3人は素直ではないのだ。

 

 

「愛されているのだなあの男は……」

「そうですよ……だって彼とその周りにいる人達は根は良い人なんです。私が自慢したい程凄いお友達なんですから」

 

 

嬉しそうに語る女の言葉に納得したのか、佳人はそうかと呟く。すると椅子から立ち上がり、背を向けて歩き出した女を呼び止める。

 

 

「もう行くのか?」

「あら?寧ろ出て行って欲しそうな雰囲気を出してませんでしたか?」

 

 

女がそう問うと佳人は鼻で笑って軽くあしらい、返答する。

 

 

「フン……言わばここは世界の最果てにある掃き溜めのような場所。貴様のような純真な女が本来来るべき場所ではない……何せここには偶に来るイカれたものと無駄な時間、それに生命の残滓を喰らおうとする愚者ばかり募っていくものでな」

「それで?何が仰りたいのです?」

「要するに愚者が来たら捻り潰してやるからもう少し付き合えということだ」

「……それならもう少しだけお付き合いしましょう」

「……こう言うのも何だが、相変わらずお人好しだな貴様……まあいい。もう少し付き合って貰おうか……アムール・エフェメールよ」

「あっ、やっぱり交換条件出していいですか?」

 

 

ーーーここは世界の掃き溜め。終焉を迎えたものが集い、流れ着く終着点(ゴミ捨て場)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カカロットォォォォォォォォ!!」

 

 

ビリビリと空気が震えるような獣の咆哮のような雄叫びを上げ、名前らしき単語を口にし、直進する。進行方向に乱雑に放置された自動車や鉄塊があるも無理矢理跳ね飛ばし、そのままの勢いで永時へと衝突する。

 

しかし、衝突する直前で辛うじて瞬間移動(テレポート)が間に合うことでバイクごと上空へと回避する。

 

 

「……こいつ!」

 

 

そのままバイクから飛び降り、落下の勢いを利用して刀を降り下ろす。

 

 

「……チィッ!」

 

 

しかし、金属の擦れる音が響くだけで当然傷などはなく、ノットの憤怒の表情は変わることはなかった。

 

 

「ぐぅ……!」

 

 

鬱陶しそうに腕を横に振るい、横腹を抉られた永時はそのまま薙ぎ払われて後ろへと吹き飛ばされる。

 

 

「くそっ、たれ……!」

 

 

吹き飛ばされながらも手から黒い火炎球を作り、吹き飛ぶ方と反対方向へと投擲。追撃しようと走ってくるノットの進行方向へ着弾した。

 

外したかと嘲笑うノット。しかし着弾点に足を踏み入れた直後には変貌することになる。

 

 

「!?」

 

 

踏み抜いた瞬間。グシャリと泥のようなものを踏んだ感覚を覚えた時には足が少しなくなったことでノットから余裕の笑みが消えたのである。

 

まるで底なしの沼に足を入れてしまったかのように徐々に足が沈んでいくことでノットの顔に少し焦りが見え出す。

 

 

「やれ」

「うし!」

 

 

そしてタイミングを待ってましたかとばかりに左右に出現するセイバーとオメガの姿を見て、してやられたと怒りを込み上がってくるも同時にどうすべきかと考えていた。

 

 

「キルドライバー!」

「『風王鉄槌(ストライク・エア)』!」

 

 

右からは稲妻が走っている灰色の輪が、左からは風の鉄槌がそれぞれ迫り、移動出来ぬノットへと向かい、それぞれ爆発を引き起こした。

 

 

「……!?」

「はぁ……はあ……やっぱダメか」

 

 

だがそれも、彼の前には無意味と同意であった。

 

 

「……」

 

 

爆発が終わり、発生していた煙が消えて視界がはっきりとした時には緑色の壁が彼を守りきっていたこと。その確認が出来たからである。

 

 

「……でりゃっ!」

 

 

声をあげると共にバリアを解除、それと同時に彼を中心に無数の緑弾が左右の2人を襲った。

 

対して2人は咄嗟に得物を構え、無駄のない動きで緑弾を躱し、弾き飛すことで被害を受けることなくノットに接近。2人共それぞれのタイミングで得物を振るう。

 

しかし、左右から来る2人の攻撃を両手を使って器用に捌き、少しだけ出来た隙を突くようにオメガを蹴り飛ばし、セイバーの頭を掴んで下へと投げて叩きつける。

 

 

「ぐがっ……!」

 

 

叩きつけられたセイバー。更にノットはニタリと笑みを浮かべ、片足を上げてそのままセイバーの胴を踏み潰そうと勢いよく足を降ろした。

 

 

「……?」

 

 

思いっきり地面へと足を踏みつけた。何かを踏み潰した感覚がするが……以前やった人が踏んだ感覚とは程遠いものを感じ、何を踏んだのか足をズラして確認した。

 

 

「……!」

 

 

足裏にあった黒く丸い物体(手榴弾)を見た瞬間、光と爆発に飲まれるノット。無論ダメージはなかったものの、足裏にセイバーがいないことに気づき、辺りを見渡して探し始めた。

 

 

「ッ!カカロットォ……!」

 

 

そして見つけた。大体50メートル程離れた場所にいる彼女の手を引いて移動(テレポート)している男の姿を。

 

 

「カカロッ「まあ待ちたまえ」ぬうっ……!?」

 

 

すぐ様跳躍して距離を縮めようと足に力を入れるも両足に冷たい感覚を覚えた時には重心がブレて地面に倒れ込んでいた。

 

何事かと足を見やれば、足に巻きつけられた黒い鎖が後ろへと伸びており、辿ってみれば鎌のようなものを持ったオメガの姿があった。

 

 

「クズがぁ……!」

「エスケープ!」

 

 

少し力を入れて鎖を破壊し、緑弾を撃ち込む。しかし壊されることを理解していたオメガは既に逃げており、頭に血が上っているノットはそれを捕まえようと足に力を込めた。

 

 

「……!」

 

 

だが、バイクのエンジン音が聞こえたことでその動きを一時中断することとなる。

 

 

「ッ!カカロットォ……!?」

 

 

すぐに見てみればどうだ。バイクに跨ってエンジンを吹かしている永時とその横にあるサイドカーに乗り込むセイバーの姿があるではないか。

 

 

「どこへ行くんだぁっ!!」

 

 

溜めていた足の力で地面を踏みしめて一気に距離を詰める。目の前の敵が逃げようとしているのだ。追いかけてしまうのも無理なきことだ。

 

 

「っ……行くぞセイバー」

「了解です!」

「カカロットォォォォォォォォォ!!」

 

 

来ると分かるや否やバイクを飛ばして走り出し、廃墟の連なる街へと進み、その後を悪魔が追っていった。

 

 

「……はあ、疲れた」

 

 

姿が見えなくなった途端、地面に倒れ込んだオメガ。息は荒れ、頭部から血が流れ出ている。

 

 

(何でバイクでなのかは分からないけど……正直もう限界だったから丁度良かった……いや、それが分かっていたからこそ引き寄せてくれている?)

 

 

そこでふと浮かんだ疑問。しかしそれも一理あるのだ。何故ならただバイクを使って離脱するのなら態々エンジンを吹かす理由がないからである。

 

 

(まあクーデレな所あるし、多分そうなんだろうなぁ……)

 

 

すると、仕方ないなぁと動きが鈍っている身体に鞭打って立ち上がって歩き始める。

 

 

(残されたものの責務ってやつだっけ?面倒だとやることはやっときましょう……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方廃墟の連なる街へと飛び出した永時&セイバー。2人は現在、悪魔の猛攻を避けながら街中を逃げ回っていた。

 

 

「カカロットォォォォォォォォォ!!」

「チッ」

 

 

次々と投げ込んでくる緑弾を車体を左右に振るように動くことで躱し続け、避けられないものはサブマシンガンで迎撃し、どうしても無理なものはセイバーが独断で弾き飛ばしていた。

 

セイバーはただ闇雲に弾くだけでなく、永時が避けれるものは手を出さず、どうしても無理なものだけを弾いている。だがあれから数刻程続く攻撃だというのにも回避不可となったのはたったの2回程。永時のバイクテクニックや銃の取り回しなど、中々のものだとセイバーは感心していた。

 

 

「このバイク……以前壊されたものでは?」

「ああ、姐さんにやられたやつか……壊されると思って一応用意していた予備……だっ!」

「っ……!間一髪でしたね。お見事です」

「そりゃどうも……ちゃんと付いてきているようだな」

「はい。大方、貴方の予想通りと言ったところです。ただ……」

 

 

そこで一旦言葉を区切り、後ろで誰かの名らしき言葉を叫んでいる男を見やってから再び口を動かす。

 

 

「ずっと気になっていましたが……“かかろっと”とは?」

「………あいつが一方的に憎しみ続け、挙げ句の果てに殺された男の名だ。その男こそ今の奴を作り上げた原因の1つだと、そう聞かされている……何を勘違いしてるか知らんが、俺のことをそのカカロットと思い込んでるようだな」

「憎しみ続けた、ですか……」

 

 

その言葉が深くセイバーの中で残る。何故なら、自身も思い当たるような部分が数多くあったからだ。

 

特にブリテン崩壊の要因であった叛逆の騎士、モードレッド。かの人物と対峙した際は特に憎悪の交えた目でこちらを睨みつけていたことを未だ鮮明に覚えてさえいた。

 

 

「何だ?誰か思い出したのか?」

「……ええ、少しだけ」

「そう、かっ!」

 

 

急にバイクが右に傾き、その方向へと動く。すると遅れて緑弾が元いた場所を高速で通過していった。

 

 

「カカロットォォォォォォォォ!!」

「さて……どうするべきか」

 

 

ただ避けてばかりではジリ貧であることは理解している。しかし生半可な攻撃は効かないことも同時に理解しており、少し困り果てていた。

今は路地裏を走ったり、急に角を曲がったり、敢えて止まって通り過ぎていくのを狙ったりしたがそれも向こうが徐々に学習し始めたことで徐々に距離がかなり縮まってきたこともあり、時間はそんなに掛けられない状況であった。

 

 

(セイバーの宝具をもう一度ぶつけてみるのもありだが……確実に避けようとするだろう)

 

 

そこをどうやって当てるか。躱しながらただそれだけを考え始めていた。

 

突然沈黙を始めた永時にああまた考え事かとセイバーは理解していた。伊達に6ヶ月という月日を過ごしただけのことはあるのだろう。

 

 

「ん?待てよ……」

「エイジ、何かいい案でも?」

「まあな……始めるぞ?」

 

 

エイジの問いかけに無言で顔を見て頷くことで肯定を示すセイバー。それを見た永時は黙ってハンドルについた赤い髑髏のボタンを押した。

その直後、金属の擦れ、動く音が響き、後ろへ真っ直ぐ向いた2本の排気管が追加された。

 

 

「さて……派手に飛ばそうか」

 

 

永時がそう言うと排気管が火を吹き、その勢いを借りて走行速度を上げていきノットと距離を引き離していく。

しかしそれも一瞬のことで加速していると気づいたノットはスキル『伝説の超サイヤ人』により大幅に速度を上げていき、徐々に離れた距離を元へと……否、更に距離を縮めていた。

 

 

「エイジ!」

「もうすぐだ!」

 

 

距離が縮まったことで緑弾の命中率が上がり、弾くことに限界を感じ始めていたセイバーが思わず声を上げる中、永時は更にバイクのスピードを上げてそのまま真っ直ぐ突き進み、トンネルへと入って行った。

 

 

「よし、まずは第1段k『カカロットオオオオオオオオオオッ!!』……声が更にデカくなったな」

 

 

ただでさえ大きな声が更に大音量で響いてきたことでノットがトンネルへと侵入したことを理解した。

 

 

「それで、どうするのですか?」

「ああ、次はーーー「でやぁっ!」……っ!」

 

 

言おうと口を開くも緑弾が飛んできたことで中断させ、横にズレることでギリギリ回避に成功した。

 

 

「……」

 

 

だが躱されたにも関わらず、寧ろ口角を上げていたことに疑問を抱く。

 

 

「ッ!エイジ!」

 

 

その直後であった。セイバーの声で意識を引き戻され、彼女が睨みつけている前方を見やる。

 

するとどうだろうか?躱したと思われる緑弾。真っ直ぐ進んでいたそれは突然方向を変え、少し距離を置いた先の天井へと激突したからである。

 

 

「まさか……アスモ!」

『了解!』

「セイバー、しゃがんでろ!」

 

 

天井が爆発したことで前方から崩れた瓦礫が雨のように降り注ぐ。流石の永時もマズいだろうと理解したのか、相棒とその後に自分のサーヴァントの名を呼ぶ。

 

 

「……っ!」

 

 

その言葉に従ってその場に屈むと同時、永時の身体を中心に稲妻が解き放たれた。

 

解き放たれた稲妻は降り注ぐ瓦礫をあっさりと砕き、分解し、実際に来る被害を最小限にとどめることに成功した。

 

 

「……アスモ大丈夫か?」

『大丈夫、少し電気風呂に入った気分だよ……少し焦げたけど』

 

 

無表情ながらもどこか不安な交えたと思える表情で問いかける永時に少し上がる黒い煙と焦げ臭い匂いを漂わせているアーマー、変身しているアスモは元気そうに返答した。

 

永時が何故アーマーになったアスモを心配するのか、何故ならいくらアーマーとなったといえど纏っているのはアスモ自身なのである。稲妻が永時自身から放たれている以上、怪我はしていないのか心配するのも無理ないことである。

 

 

「なにっ?」

「……フンッ!」

 

 

だがそれも緑に光った拳を振りかぶる悪魔の姿が横から現れたことで驚愕へと変えられる。

 

 

「なら……こうしようか」

 

 

だが彼はすぐ冷静になり、バイクのブレーキを握って突然減速させた。

 

 

「何ぃ!?」

 

 

急な減速、更にそこからハンドル操作してクルリと向きを反転させることでノットの拳は空を切り、躱すことに成功したのである。そしてそのままスピードを上げて進みだした

 

だがノットはすぐさま笑みを浮かべることとなる。何故なら向きを反転、さっき来た道を引き返すということ。つまり……天井が崩れたことで瓦礫で塞がっている道へ戻るということでもあるのだ。

 

 

「はははっ!」

 

 

これこそ袋の鼠とも言うべきだと内心嘲笑いながらノットは再び距離を詰めていく。

 

だが彼は忘れている。この男がそんな馬鹿をするような人間ではないということを。

 

 

「道がないか……なら作ればいい」

 

 

そういうとセイバーに目線を合わせる。するとセイバーは黙って頷き、永時はそれを見るや否や懐から手榴弾を取り出して、ピンを抜いてセイバーに投げつけた。

 

 

「はあぁっ!」

 

 

それを剣の向きを変え、剣の側面をバットのように振るって前方へと打ち抜いた。

 

 

「捕まってろよ!」

 

 

程よい力加減で打ち抜いた手榴弾は真っ直ぐ進行方向へと飛んでいき、爆発。それと同時に排気管が火を吹き、爆発の中を突っ込んでいく。先程放った稲妻によりある程度は砕かれていたので爆発によりあっさりと道を切り開けたのである。

 

 

「ッ!カカロットォ……!」

 

 

爆炎と煙に紛れるかのように奥へと消えていこうとするバイクを追いかけようと同じく煙へと入っていく。

 

 

「チッ……」

 

 

しかし、勿論のことながら辺りは煙が充満。視界は良好ではなく、バイクのエンジン音と気配だけで探るしかなかった。

 

 

「……っ!」

 

 

予想より数秒遅くなったが煙から抜けることが出来た。しかしすぐに驚愕することとなる。

 

 

「何ぃ……?」

 

 

クリアになった視界が捉えたのはそこに誰もいない。いや、正確には煙を吐き出している筒状のものが地面に転がっている。そんな結果だけであった。

 

 

「どこだっ……!?」

 

 

少し辺りを見渡して探そうかと考えた直後、聞き覚えのある音が“自身の背後”から聞こえて来た。

 

 

「ッ!カカロットォッ!」

 

 

その音とは勿論バイクのエンジン音のことで反射的に後ろの煙へと再び入って走っていく。

 

 

「……!」

 

 

そしてそこに奴はいた。自分が殺すべき男の姿を。

 

 

「カカロットォォッ!」

 

 

見つけた瞬間すかさず飛び出すノット。緑色の気弾をその手に作り、投げた。

 

 

「……少しは疑うことを覚えるべきだったな」

 

 

しかし殺した手応えなどはなく、ただ邪魔なバイクの粉砕音。

 

 

「さあ、セイバー!魔力なんざ気にせずに遠慮なくぶっ放せ!」

「『約束されたーーー(エクスーーー)

 

 

そして、背後から来るのはあの男のサーヴァントの声と迫り来る膨大な光の束であった。

 

 

勝利の剣(カリバー)』ッ!!」

「なっ……馬鹿なっーーー!?」

 

 

急な不意打ちに対応する前に彼は再び光の束へと包まれた。

 

 

「上手くいったか……」

 

 

セイバーの後ろに現れ、少し安堵の交えた声でそう述べる永時。

 

ここで一旦説明するとやったことは単純だ。まずトンネルに入ったのはセイバーの宝具を確実に当てるため、横幅が狭く、縦に長いこの場を選んだのだ。

次にしたのはグレネード。これは単なる障害排除と共に視界を阻害し、次の一手への布石でもあった。その次の一手こそ重要である。

 

その一手こそ爆発に紛れて取り出した発煙筒(スモークグレネード)である。

辺りを煙で充満させたらセイバーをトンネルの隅に降ろし、自身はその向かいでバイクに乗って待機。奴が通り過ぎた所を狙って反対方向へ逃げることで姿を表し、奴が追いかけてくるのを狙ってセイバーに後ろから宝具を撃たせた。そういう算段であった。

 

流石のノットでもあれを諸に喰らえば耐え切れることは不可能だろうと彼は考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それも無意味だとすぐに知らされることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ォォ!」

「えっ?」

「!?」

 

 

突然、ノットの声が聞こえたかと思えば次の瞬間2人は驚愕することとなる。

 

 

「カ………ォ…………カカロットォォオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 

驚くのも無理もない。何故ならあの男が伝説の聖剣による究極の一撃として放った光の束。それに逆らうかのように止まることなく突き進んでいるからだ。それもあの絶対性のあるバリアも貼らず生身でだ。

 

だがお忘れではないだろうか?この伝説とも言われる聖剣が星の力を収束させたものを放てど、対峙するのは星すら容易く砕く同じく伝説と呼ばれた悪魔なのだ。寧ろ先程ダメージを与えた方が奇跡に近かったのかもしれない。

 

 

「雑魚は、すっこんでいろ……!」

 

 

声を上げながら一気に突き進み、セイバーの目前で上半身だけを見せる。後ろへ手を引いて手の中に光を収束させている邪悪な笑みを浮かべた悪魔の姿を。

 

 

「がっ……!ああぁぁっ!」

 

 

頭部より同じ大きさの拳がセイバーの側頭部へと食い込み、更にその後光から発生した爆破によって吹き飛んでいった。

 

 

「チッーーー!」

 

 

マズいことになったと理解し、とりあえずセイバーをカバーしようと刀を持って後ろから接近。しかしそれを理解していたのかこちらに振り返ったと同時に殴りかかってきた。ならばと跳んで横へ回転しながら回避。そのままの勢いを利用して回転斬りを胸部へと繰り出した。

 

 

「カカロットォ!」

「……!」

 

 

胸部と刀がぶつかり、金属同士が擦れる音だけが響く。負けじと永時は回転数を増やすべく刀を振るう力を強め、遠心力を利用して回転を早める。

 

しかし、それも刀を掴まれることで動きを止められた。

 

 

「がっ……!?」

 

 

急速に止められたことで逃亡を図るもその前にノットの片手が永時の顔を掴んだのが先だったようだ。

 

そのまま手を下へと下ろし……自らの膝へと吸い込ませるように永時の顔をぶつける。

 

 

「ーーーッ!」

 

 

ゴキャリと鼻が砕けるような音が嫌という程周りに響かせながら永時は声なき声を上げる。

 

 

「……!」

 

 

そこでノットの攻撃は止まることはない。永時が少し浮いたその合間に両手を組んでそのまま胴へと振り下ろして地面に叩きつけた。

 

 

「あがっ……!?」

 

 

更に足を上げ、叩きつけられた永時を踏み潰そうと一気に足を振り下ろした。

 

 

「っ!?ほう……!」

 

 

しかしそれは彼の両手によって潰す前に勢いは止まっていた。そのことにノットは腹立つことはなく寧ろ感心すら覚えていた。

 

しかしそれはあくまで一時的なもの、すぐに押し返され、両腕の義手の各パーツが軋み、鈍い金属音を鳴らし始める。

 

 

「おおおおおおおっ!……なんてなっ!」

「あっ?」

 

 

負けると分かるや否や瞬間移動(テレポート)で離脱。急に消えたことで足はあっさりと振り下ろされ、地面を踏み砕く。

 

踏んだ手応えがないことに首を傾げる男の真横から出現。そのまま疾走し、すれ違いざまに斬りつけた。

 

 

「っ……そこか!」

 

 

勿論傷はなく、衝撃だけが身体を走る。ノットはすぐさま後ろへ振り返り緑弾を撃ち出した。

 

 

「……!?」

 

 

しかし、振り向いて撃ったと同時に再び身体に衝撃が走ったことで驚愕させられる。

 

 

「!?……!?……!?!?!?」

 

 

更に後ろを向くと走る衝撃。つまり、それの意味することはただ1つ。この男、ダメージを狙うことよりとにかく捕まらずにダメージを与え続ける一撃離脱へと戦法を変えたようだ。

 

確かにそれは賢いやり方だ。一撃が重いが故ノットには有効と言える手段だろう。

 

 

「鬱陶しい!」

 

 

だがそれもノットが周りを攻撃することをしなければの話である。常に後ろを取るように相手が動くのならそこもカバーすれば良いだけなのだから。

 

 

「うおっ!?」

 

 

突然自身を中心に緑弾を辺りに適当に撃ち放つことで永時は回避せざるを得ない状態へと持ち越される。

 

 

「……フハハハ!」

「チッ……」

 

 

回避に専念する永時の前方に緑弾をばら撒きながら突進してくる男を捉え、思わず舌打ち。避けたい所だがばら撒いている本人が近いため寧ろ飛んでくる数が増えて難しいと踏んでいた。

 

ならばと緊急回避として瞬間移動で少し距離を取ればいい。そして適当に弾幕を張って挑発し、怒らせて動きを単調にさせたらいいだけのことなのだから。

 

 

「……フン」

「……!?」

 

 

それは奴が瞬間移動先に現れたことで崩れる。確かに今の状況ではそうなると予測されていたのだろう。しかし数メートル先の物陰に出たつもりの者をどうして見つけられようか。

 

恐らくは直感と感覚で探し当てたのだろうが、外すことなく真っ直ぐここに来るとは、この男の執念(しつこさ)としか言い表しようのない事実であった。

 

 

「クソっ……!」

 

 

だが感心している場合ではない。今も緑弾をばら撒きながら体当たりをして来る男が目前へと迫ってきている。瞬間移動しようにも間に合いそうになかった。

 

 

「ええい、クソッタレ!」

 

 

だから永時は賭けに出た。

 

 

(目が覚めているなら、力を貸しやがれ……ルシファー!)

 

 

永時は心の内でそう強く叫ぶ。するとそれに呼応するかのように見覚えのある白黒の盾が重なって壁として永時の前に積み重なった。

 

 

「何ぃ?」

 

 

この状況を打破するには避けることより、塞ぐことが重要になると踏んのだ。では運良く耐えるか?いや、ならば賭けに出てやろう。どの道喰らうのならそっちの方が幾分マシである。

 

本来この魔王の武具の召喚は持ち主である本人の意識がある状態でなければ使用できないという点があるが、使えた所を見ればそんなことは些細なことであろう。

 

 

「チィッ!」

 

 

大きく舌打ちし、拳に力を込めて殴る。一撃でダメなら更にもう一撃。もう一撃と拳のラッシュが始まった。

 

 

「ぐっ……」

 

 

どうすればこの状況を打破出来るか、いや……あるにはある。とっておきと言っていいものが永時はまだ残っていた。しかしその手は向こうは一応知っており、かなり部の悪い賭けであった。

 

 

(だが……こいつ相手に出し惜しみはしない方がいいだろうな)

 

 

ああ、分かっている。そんなことは分かっているのだ。ただ、これは運が良ければ恐らく勝てると踏んでいる。

 

例え姐さんが悲しむ結果となろうと、自分は勝たなくてはならないのだ。

 

 

(それでいい……罪を被る(悪になる)のは俺だけでいい)

 

 

彼女が情愛を抱く男を今から殺す。こんな自分を仲間と呼んでくれたお姫様を絶望へと落とすようなことを俺はする。

 

影に手を沈ませ、更に得物を取り出す。自身の胴程、赤錆色の1本の剣であった。だが一眼見ればその形は少し違うものと理解し出来る。

 

具体的に挙げるとすれば刀身。その中央部は細長い筒状となっており、その上下には刃がそれぞれ地と天へと向いている。更には柄の部分には引き金らしきものが取り付けられている。

切っ先や刃そのものは一部として残っており、まるで太刀の刀身部分に筒状のものを詰め込んだもの……まるで銃剣のようだと例えた方が分かりやすいかもしれない。

 

 

「でりゃあっ!」

 

 

新たな得物を取り出した直後、ノットの拳が遂に盾を砕く。そのまま勢いは止まらず、永時の顔面へと入った。

 

 

「終わりだ!」

 

 

吹き飛ばされて瓦礫の山へ頭から入った永時。普通ならここで一旦様子見するが、今のノットは警戒心というものを持っていた。それ故間髪入れずに緑弾を撃ち込むのは当然のことといえよう。

 

だが、それは飛来した黒い瘴気に包まれた弾丸によって弾かれる。

 

 

「……まだ生きていたか」

 

 

瓦礫の山を見やれば、そこにはさっき使っていた刀を杖代わりにして立ち上がる永時の姿。しかし彼を纏う鎧は消えており、その代わりに周囲は黒い炎に包まれて……いや、それ自体彼自身から漏れ出ているものであった。

変化はそれだけではない。切断されていたのか、右肩の関節部より先にあるはずの腕、それらしいものは見当たらず代わりに漆黒の黒い異形の手が刀を掴んでいた。大きさは普通の人のそれだが、指先に生えた鋭利な爪が鉤爪のように形をなしていた。

 

 

「ああそうだ……」

 

 

彼は何か思い出したのか、1本の注射器を取り出すと自身の首元へ打ち込んだ。

 

 

「っ……別に勝たなくてもいいんだよ……相打ちなり何なり、要はお前を殺せばいいんだからな」

「それがどうした?逆に血祭りに上げてやる……」

 

 

ーーー来いよ自称悪魔。堕ちるとこまで叩き落としてやるよ。

 

 

深淵の如き底見えぬ黒い瞳。その両目の奥には業火の如き悪意が揺らいでいた。

 

 

 

 

 

 

ーーーさあ、悪に堕ちろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





補足事項



『弾罪刀・嵐雨』

ランクA

とある気分屋が気分で作った銃剣。とある悪の断罪者に相応しいものという考えの元に作り上げた作品の1つ。

魔力を流すことで切れ味は増す。銃弾は『闇の活性』の篭った魔力弾を使用。魔力が尽きぬ限り使用できる。更に1発に込める魔力を増やすことで威力が増す。
色は赤……なのだろうが錆びが酷くほぼ赤錆色となっており、そのことよりかなり酷使してきたのか使い込んできたのどちらかということが窺える。いや、僅かに血臭がする為、もしかしたら血によって錆びたのかもしれないが。

これ自体性能はここまでのようだが、あることをすれば……?




『朧月』

ランクA

かつて愛した女の遺品の1つである刀。元々装飾用のものであったが、幾多もの人や人外を殺め続けた結果、その刃は血や油、闇に染まった。しかしその凶刃は欠ける所か寧ろ、鋭くなるばかりでかなり手に馴染むものとなっている。

油と闇により黒き炎を纏う。『闇の活性』の元となったそれは常人ならば闇に侵されてしまうはずだが悪の加護によるものなのか持ち主は闇に染まることはなくそれ故苦悩し続けた。一層染まってしまえば楽になると理解しながらも彼は刃を振るい続けた。その姿は見えない罪を被る罪人のようであり、所詮は彼も自称悪党ということの表れなのかもしれない。

貪欲な闇は刃へと宿り、闇や生命を喰らい続ける。特に人ならざる者には容赦なく貪ろうとするだろう。























ふと浮かんだ前回の蛇足的なおまけ小話(台本式)


〜令呪〜

セイバー「1つ思ったのですが……契約するのは構いません。ですが令呪はどうされたのですか?確か失くされたのでは?」

永時「教会跡らしき所からパクってきた」

セイバー「……」




〜融合〜

バット「こ、こうか?」

オメガ「違う違う、もっと指を真っ直ぐにピシッと!」

バット「こ、こうかよ?」

オメガ「もっと背筋を真っ直ぐに!恥ずかしがらないで!」

バット「お、おう……(俺一体何してんだろ?)」

オメガ「ちがぁぁぁぁうっ!もっとない胸を張って!」

バット「プツン」

オメガ「あっ……」

バット「……野郎ぶっ殺してやるぁぁぁァァァァァァァァァァ!!」








……ってなことがあったとかなかったとか?




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