Fate/Evil   作:遠藤凍

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〜自称悪の送る前回のあらすじ〜


「大変長らくお待たせした。まずは4月に投稿するといって遅れてしまったことを謝らせてくれ……すまなかった。
それと随分と久々な投稿なので遠藤の奴も調子に乗っているかもしれんがそこは許してやってくれ。

前回……姉貴がセイバーと戦い、短剣を突き刺した所で終わり、一方ノットの前には謎の1人の女が奴の前に立ちはだかった。
まあ軽く述べるとこうなるが、気になるなら是非前話を読んでくれ。

まあ、こう見れば戦況は均衡?なのかは分からんが……急な変化もまた戦場ではあり得ること……油断禁物で行くとしよう。











……だがいざという時は………いや、今はやめておくべきか」







さらば愛しき敵対者 おかえり嫌悪たる絶望

 

 

 

「『偽似創作・斬り離すは友縁の証(ルールブレイカー・オマージュ)』」

 

 

その言葉はセイバーの耳へ嫌という程はっきりと聞こえてきた。

理性を取り戻したのか、金から碧へと変えた瞳が、片手を自身の頭部に当てて電流を流す終永時の姿をした女(?)を捉える。

 

 

「あっ……」

 

 

その直後、パキンと自分の中で何かが壊れた音が聞こえる。

 

 

ーーー魔力が。

 

ーーー使命が。

 

ーーー殺意が。

 

ーーー意欲が。

 

ーーー悪意が。

 

 

セイバーへと送られていた全ての繋がりが、断たれた瞬間であった。

 

 

「……そうか、やったのか。流石は千の知識を持つと豪語するだけはある」

 

 

そして、ようやく流していた電流が止まったと思えば、相手から発せられた声色がセイバーのよく知る低いものへと変化していた。

 

 

「えい、じ……?」

「ああ……今、楽にしてやる」

 

 

困惑しているセイバーを他所に、まるであの悪魔のような台詞を言いながら頭部に当てていた手をセイバーの肩にそっと乗せた。

 

 

「『罪被りし偽善遣い(ギルティーズ・ヒポクリエイト)』」

 

 

聞き覚えのある低い声色によって発せられた言葉。その直後に黒い粒子のようなものがセイバーから抜け出て、蛇のように永時の腕に絡み向くように永時へと進んで行く。隙だらけの彼に剣を振るおうとするもそれを見ているとなんだが幾分身体が楽になっていくような気分になり徐々に殺る気が失せていくのだ。

 

 

「ぐっ……」

 

 

対して、永時は苦痛で顔を歪めていた。目は血走り、身体の至る所に覚えのない生傷が付いていた。こうして見ている間にも生傷は増えていくばかり。

 

 

「まさか……!?」

 

 

そこで思い出すのは先程述べた言葉の意味を理解した。

 

罪被りし偽善遣い(ギルティーズ・ヒポクリエイト)』は文字通り人の罪を被る偽善者。この場合「罪」は相手の負を意味し、傷や殺意などを吸収し己の糧とするものだ。

 

確かにそれなら吸収された方は楽になるだろう。しかし被った偽善者はどうなるか。罪を持っていたものと同じ境遇になる、つまりは傷や悪意を全て被ると言うことになるのである。

 

 

「何をしているのですか!?今すぐーーー「とりあえず、黙ってろ」……しかしそれでは!」

「それでは何だ?」

「それでは……」

 

 

敵に塩を送るようなものではないかと心配された。しかし永時はそれを鼻で笑って聞き流す。

 

 

「んなこと気にすんじゃねえよ馬鹿野郎。いつもの俺なら『下らんことに巻き込むな』とか言うだろうがな……なぁに、単に利用されて死ぬよかマシだろうと俺が勝手に介錯してやっただけに過ぎん」

 

 

つまりはこう言いたいのだ。お前を助けてやるのは自己満足だから気にするなと。

 

 

「……優しいのですね、貴方は」

「優しくなんかねえ。ただ単に甘いだけだ」

 

 

素直じゃない永時にようやく久々に微笑みを見せたセイバー。

 

そこからなのか時が経つことにより彼女の色素が抜けたような姿が徐々に色が付いていく。

 

薄い金が明るい金色へ、冷酷と傲慢を混じえた瞳は高潔さと気高さを持ったものへ、陶器のように冷たく生の感じられぬ真っ白い肌は生き生きとした明るみへと、黒き鎧は青い布地と銀光に照らされた鎧へと元の姫騎士へと戻っていく。

 

 

「あっ……」

 

 

彼女を汚染していた悪意は消えた。しかし、それは彼女がここにいる意味を失くしたことも示していた。

セイバーをこの世に残すための現し身が、明るい光の粒子となって夜空へと溶けていく。だが、残る方法がない訳ではない。

 

 

「もう一度、俺と契約しないのか?」

 

 

そう、消えてはいるものの元は契約関係であった2人。再びサーヴァントとして繋がればセイバーは現世に残ることが出来るのだ。そう永時は言いたいのだろう。

 

 

「いえ……嬉しいお話ですが断らせていただきます」

「ほう」

 

 

意外な返答だったのか、思わず永時の口から感心の声が漏れる。チラリとセイバーを見やれば、強い意志を感じられる瞳でこちらを見つめており、本気だと理解した。

 

 

「何故?と言いたいそうな顔をしているのでお答えしますが……ただ単に見方を変えるべきなのかと疑問を抱いてしまったからです」

「……」

「貴方は先に進もうとする強い意志が必要だと仰っていました。ですが、私は貴方のように強くはありません。例えるならば過去(祖国)という鎖に今も繋がれ続けている囚人です」

「……ああ、それで?」

 

瞳を揺らがせながらも真剣に語るセイバーの言葉一つひとつを聴き逃すまいと黙って耳を傾けている永時。その姿はまるで子どもの話を聞いてやっている不器用な父親のようにも、兄のようにも見えた。

 

やはり優しいではないかと敢えて口には出さず、セイバーは内心苦笑しつつ話を続ける。

 

 

「しかし、鎖に繋がれたままでも前に進めばいいと貴方は言って下さった……ですが、私には前に踏み出すだけの強い意志がありません」

「つまり、まだ迷っていると?」

「要するにそういうことです。だから……」

 

 

少し頭を冷やして考えていこうかと思っています。そう語るセイバーの顔は完全ではないが、少しスッキリしたような清々しい笑みであった。

 

 

「……そうか」

「ええそうです」

「ふん……」

「……そうだ、最後に1つ聞いてもいいですか?」

 

 

思い出したかのように述べるセイバーに永時は黙って頷くことで肯定を示した。

 

 

「嘘偽りなく、誤魔化すことなく答えてください」

「へいへい……そんなに信用ないのか俺は?」

「それは自身の心に問うてください」

「それでなんだ?」

「……貴方は先程、私のことを残したのは知り合いに似ていたからと言ってましたよね?」

「そうだ」

「本当にそれだけなのですか?知り合いに似ているだけではーーー」

「他人であるお前に妙に甘いってか?」

「ええ」

 

 

セイバーの話を聞き、自嘲気味に笑う永時。その様子からマズかったかと思うも、自分から最後に聞きたいと言ったので機会を逃すまいと敢えて何も言わなかった。

 

気を使って黙ってくれていたことに気づいた永時は感謝の意を表には出さず、返答するために言葉を紡ぐ。

 

 

「そう大したことじゃない。そう………あの女に……魔術の師であったあの女に似たお前ならきっと……道を違えようとする俺を……殺してでも止めてくれると勝手に期待してしまっていただけだ」

 

 

それだけ、たったそれだけのことである。

 

誰かに似ていたからきっとこうしてくれるかもしれない。似たような人物が目の前に現れたらそう淡い期待を持ってしまうのは仕方ないことなのかもしれない。

 

 

「失望したか?」

「……ふふっ」

「なんだ?」

 

 

そんな些細なことを気にしているのかと思わず笑いが漏れ出す。それをはっきりと聞いていた永時は少し不満気に尋ねた。

 

 

「いえ……貴方も人の子なのだと理解しただけですよ?」

「……まあいい、お前が納得したならそれでいい……お前の事情は一応聞かされているのでな」

「事情?」

「……お前がまだ死人ではないと言えば分かるか?」

 

 

その一言を聞いてセイバーは固まった。

 

何故この男はその事実を知っているのか、確かそれについては話していないはずではないか。

 

 

「どこでそれを?」

「とある自称事情通に齎されたってとこだ。悪いが詳しくは言えんがな……」

 

 

折角消えていこうと流れに身を任せようとした所にこれだ。そんなことを言われてしまったら気になって消えることを躊躇ってしまうではないか。

 

 

「全く、貴方という人は……」

「貴方という人は……なんだ?」

「どうしてこう……私を惑わせるのかと思っただけですよ」

 

 

そうだ。この男によって私は惑わされているのだ。

 

所詮他人事なのに、語り合い、見聞を広めただけで折角固く誓った信念にすら疑問を抱かせてしまった。これを惑わされたと言わずしてなんなのか。

 

 

「惑わせるか……それが不快に思ったのなら謝ろう。だが……俺は自分が思ったことを言ったまで。考えを変えさせるつもりで言ったわけじゃなねえ……だから、俺の話を聞いてどう思い、どう捉えようがそいつ自身の問題だろ?」

 

 

つまりはこう言いたいのだ。「自分は思ったことを言っただけで、意見などはしていない」と。

 

……ああ、確かに彼は悪なのだろう。言いたいことだけを言うだけ。フォローするとしたとしてもそれも自分がフォローしなくてはならないと思っているから。

 

それで、向こうの考えが変わった所で「そう決めたのはそいつの勝手」だと簡単に済ませるのだろう。

 

 

(貴方は本当に酷い人だ……正に悪に属する者だ)

 

 

文字通り悪い男に捕まってしまったようだ。だが、不思議と後悔のようなものはなかった。

 

 

そう……例えるならば甘美な毒。

 

空気のように身を潜め、侵されているとは知らずに何気なく過ごし、気づいた時には手遅れとなってしまう遅延性。気づいていたとしても未心地の良い夢のように陥ってしまって後戻りをさせない中毒性。その二面性を備えた毒、それが終永時という男の(カリスマ)なのだろう。

 

 

人間は例外はあれど1度強く心に決めこむとそれが正しいと思い込んでしまい、簡単に変えさせることは難しいものだ。特にそれが否定された時は寧ろ逆効果になることが多いのだ。

その点永時は上手いと言えた。否定的ではなく、あくまで参考程度にするように言ってから自分の考えを述べる。つまりは相手を尊重しつつ自分の考えを述べることで自身に印象付けさせた。

 

問題はそれを意識的にやったのかそうでないかが気になるがこの際どうでもいいことだろう。

 

 

「そうでした、貴方はそういう(自分勝手な)人でしたね」

「否定はしない。それが俺だからな……」

 

 

そろそろかと唐突に呟く永時。その視線を追ってみれば自身の身体。だが下半身が半分程既に消えていた。

 

 

「思ってたより長かったですね……」

「そのようだな」

 

 

ここだけの話だが、『罪被りし偽善者(ギルティーズ・ヒポクリエイト)』を応用してこっそりセイバーに魔力を流して延命していたのは内緒である。

 

 

「……エイジ」

「なんだ?」

「……ありがとうございました」

 

 

突然の礼の言葉が意外だったのだろう。表現してあれだがその時の永時の顔は間の抜けたような顔で呆けていた。

 

 

「意味が理解出来んのだが?」

「あれですよ……一時的とはいえ、お世話になりましたので」

「ふん、別に礼などはいらんぞ」

「(貴方なら絶対そう言うと思いましたよ……)」

 

 

だが本心は違う。一時的に世話になった礼とかではなく、何かと最後まで付き合ってくれた、それが嬉しく思ったからその礼である。

 

どうせ言った所で今みたいに「礼などいらん」とか言いそうなので敢えて誤魔化したのだ。

 

 

「……エイジ」

「なんだ?」

「お気をつけて……」

「あっ、ああ……」

 

 

忠告のつもりなのだろうか。永時としてはこれからしようと考えていたことが図星だったようで少し戸惑いを見せ、曖昧な返事で返した。

 

 

「ん?……何っ?」

 

 

だが、視界が緑色に染まったことで彼の意識が戻される。セイバーへと向けていた穏やかな視線は一変。鋭い目つきをある方向へと向けており、その視線の先には巨大な緑の光の柱が天に向かって伸びていた。

 

 

「あの光は……?」

「ノットの奴だ……だが、あの光の量………明らかにさっきより増している?」

「エイジ?」

 

 

下半身が消えかける中、思わず見ていた光の柱から永時へと視線を戻す。

 

驚愕を交えてはいるものの、鋭い目つきは変わってはいない。しかし、額から流れる汗が彼の焦りを物語っていた。

 

 

「セイバー……」

「何でしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー予定が変わった。悪いがもう少しだけ付き合ってくれ……全て終わらすためにもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男……ノットには今の現状がとてもじゃないが受け入れがたいものであった。

 

考えてみて欲しい。さっきまで雑魚だと思っていた、自分より華奢な女に吹き飛ばされているのだ。無理もないことなのかもしれない。

 

 

「クソがぁっ……!!バットォッ!」

『だから少し違うって言ったろ?』

 

 

地面に着地と同時にロケットのように飛び出し、そのままの勢いで殴りかかるも余裕な顔のまま避けられてしまう。

 

 

「チィッ……!」

『そうだな……』

 

 

そこからすぐ身体を捻って反転し、攻撃をしようとするも目の前には女の黒い拳が迫っていた。

ノットはすぐ様左に重心をズラすことで回避。そのまま手を握りしめて横腹に拳を振るう。

 

 

『とりあえず、バットとオメガの融合だから……バメガと名乗っておこう、かっ!』

 

 

だが彼女、バメガと名乗った女は手を伸ばしてノットの腕を横から押すことで拳をズラす。そのことによって顔が驚愕に染まるノット。そんな中バメガは押した勢いを利用して身体を回転させ、その勢いを殺さぬまま回し蹴りを顔に放った。

 

 

「うおぉっ!」

 

 

横から直撃し、そのまま身体が横へと傾くノット。すぐ様態勢を整えようとするも突然身体が引っ張られるような感覚に襲われる。見ればバメガの拳の黒が剥がれ、同色の鎖が拳から伸びて自身の腕へと絡め取られていた。

 

 

「こ、こいつ……ぐおぉっ!?」

 

 

そのまま引っ張られる……ことはなく寧ろ向こうから引っ張られるように急速に距離を詰め、腹部にバメガの肘が喰い込んだ。

 

 

「が、はっ……!」

 

 

今までにない腹部から走る激痛にあり得ないことと顔を歪ませるノット。それもそうだろう、さっきまでとは違い今度はこっちがあしらわれている。その事実が受け入れがたいものであった。

 

 

「…な……ちょう……しに、乗るなっ!」

 

 

認めてなるものかとノットは緑弾を3発連続して打ち出す。放たれたエネルギー弾はそれぞれ軌跡を描いてバメガへと迫る。

 

 

『よっ、ほっ……おりゃ!』

 

 

しかし彼女は巻きつかせていた鎖を戻し、軽い声を出しながら槍をクルクルと器用に回す。それだけで緑弾はあっさりと弾かれてしまった。

 

 

「うおおぉぉらぁぁっ!」

 

 

だが、それは囮に過ぎなかった。本命はその後ろで突貫してくるノット本人。

 

 

『おお、少しはやるな。だがよ……まだ甘いぜ』

 

 

しかしバメガには遅く感じるようで槍を半回転させて急接近。ラリアットの態勢で突っ込むノットに対して身体を左に傾けることであっさりと避け切り、すれ違い様に石突きの部分でノットの顎を打ち抜いた。

 

 

「がぁっ……!」

 

 

顎を打ち抜かれたことで意識が少しだけ揺らぎ、バランスを崩して後ろへと倒れ込む。辛うじて地面に身体が着く前に意識が覚醒。片手を地面についてそのまま上へ足を上げるように蹴り上げる。

 

 

『ぐぅぅぅっ!』

 

 

バメガの肩に当たり、ダメージが通ったのか苦悶の声を上げて少し後ろへ飛んでいく。その間にノットは態勢を整えて後ろへと跳んで距離を取った。

 

 

「はぁ……はぁ………はぁ……クソがぁ……」

『……いい加減諦めたらどうだ?』

 

 

とは言ったもののこちらは思ってたより体力が削られておりこの始末。それを見かねたバメガも降参を勧めるも返ってきた返事は怒りであった。

 

 

「諦めろ……だと?………お、俺に……命令するなぁぁぁァァァァァァァァァァ!!」

 

 

叫ぶと同時、力を溜めるポーズを取ると共に変化は起きた。

 

解放される力の余波で地はノットを中心に陥没して巨大なクレーターを作り上げ、同じく余波によって出来た瓦礫が浮かび上がる始末。

勿論情景だけではない。今でさえ大きい筋肉の鎧が更に一回り程肥大化したかのように膨れ上がり、身体の至る所から血管が浮き出ており、彼を包んでいた緑がかった黄金のオーラは崩壊したダムのように勢いを増して溢れ出ていた。

 

 

『こ、こいつは……!?』

 

 

まるで地震が起こったかのように激しく揺らぐ空間を感じて驚愕を隠せないバメガ。流石にマズいと感じて止めようと飛び出すもいつの間にか距離を縮めていたノットに蹴られて吹き飛ばされた。

 

 

『がっ……!やってくれたなこの野郎!』

「誰も俺に命令など出来ない……!俺は、俺の意思で戦う!」

 

 

吹き飛ぶバメガに追撃として緑弾を投擲。だがそれは彼女の持つ槍によってあっさりと弾かれて終わった。しかし、槍で弾いたはずにも関わらず手が麻痺したかのように痺れを起こしており彼女の目は驚愕で見開いていた。

 

 

「お前ら如きにこの俺の邪魔は出来ぬぅ!」

『ぐっ……!正気かお前!?』

「これでくたばるがいい……!」

 

 

頭に血が上ってしまっているのか、完全に言葉のキャッチボールが成り立っていない2人。バメガは抗議するもノットはそれを抵抗と見立てたようで、怒りの視線を外さぬまま緑の光を右手に収束させながら後ろへと下がった。

 

収束する光から溢れる禍々しい気配にすぐに決着をつけなくてはマズいとすら感じさせられた。

 

 

「とっておきだぁ……!」

 

 

収束し終わった緑の光弾。オメガブラスターと呼んでいるそれをバメガへと投げ飛ばした。

 

 

『だがな……遅い!!』

「ーーー!?」

 

 

はずだった。そう、だったのだ。

 

目の前の敵に放ったと思っていたつもりが、いつの間にか目前へと迫ってきたバメガによって右手を下から蹴り上げられ、光弾は手から離れて上空へと消えていった。

 

 

「なんだと……!?」

『言い忘れていたがな……俺たちは2人で1つになった存在!速さと瞬間的な筋力ならお前になら勝てんだよ!』

 

 

驚愕で目を見開くノット。しかし、敵はその隙を見逃すはずがなかった。

 

 

『終わりだ、ノットォッ!!』

 

 

そう言ってノットへと槍投げのように構えるバメガはどこか悲哀を混ぜたような声色で切り札である宝具の真名を言い放った。

 

 

ーーー『滅竜神槍・竜狩り(インフェルノ)

 

 

その直後に槍を投擲した。飛翔する槍は街を燃やしているのと同じ……いやそれより紅い炎が彼女の槍を紅蓮に染めていく。差し詰め、紅蓮の業火と言ったところだろうか。

 

 

「その程度のパワーで……俺を倒せると思っていたのか……!!」

 

 

至近距離で放たれてしまったため、絶対的な硬さを誇るバリアを張る時間すら与えて貰えないのにも関わらず、反射的に黄金のオーラが燃え盛るかのように大きく揺らがせながら、もう片方の手が燃える槍を掴んでいた。徐々に押され、槍が纏う炎は自身の手へと燃え移ってきているがそんなことはどうでも良いことだった。

 

 

「お……おおおおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

やがて動くようになったもう片方で掴む。すると押されていた状態から一変。徐々に拮抗し、逆に押し始めているではないか。

 

 

『何……!?』

 

 

まるで獣の咆哮のような声を上げ、徐々に押し返していくノット。だが彼女は驚きはするも焦ってはおらず、寧ろ逆に冷静になっていた。

 

 

『だが想定通り……頼んだぜ!』

「なるほど、概ね理解した」

 

 

彼女はそう叫ぶと爆音に近いエンジン音が聞こえた。その後聞こえたのはノットにとって嫌という程聞き覚えのある男の声であった。

 

 

「セイバー……宝具を放て!」

「ぬうっ!?」

 

 

サーヴァントの名前を呼ぶ。それだけ、たったそれだけのことをしただけだ。だが……拮抗している状態の直後の効果は絶大であった。

 

 

「束ねる星の息吹、輝ける命の奔流……闇夜を照らし、世界を切り開け……!」

「何ぃっ!?」

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!!」

「な、なんだとぉぉぉ!?」

 

 

槍を掴んで押し返し出したノットの右方向。その方向からバイクに乗った永時、その頭上にはセイバー、アーサー王が視界へと飛び出してきて自身の持つ伝説の聖剣に光を纏わせて撃ち放った。

 

 

「ば、馬鹿なっ……!」

 

 

眩い光の束がノットに迫り込むもあまり頭の良くない彼はどうすればいいのか分からず、為す術なく槍ごと光に包まれた。

 

 

「ッ!?貴様ぁ……!?」

 

 

光に包まれる中、彼は見た。自身の中で最も印象に残されているあの男の姿を。

 

 

「ネバーァァ……ネバーあ゛あ゛ァァァァァァァぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

またもや嵌められたと思い込み、空気を大きく揺らがす断末魔のような雄叫びを上げ、吹き飛ばされながら夜空へと消えて行った。

 

 

『お、終わったか……』

 

 

そして、勝ったと確信。それによる小さな安堵の声が、燃える炎の音によって掻き消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹き飛ばされ、いつの間にか手にしていた槍から漏れ出した炎がノットの身体を包み込む。

力を込めれば多少時間は要するも抜くことが可能なのだが、格下と思っていた存在に力で押し負けたということにより衝撃で意気消沈。力すら入ることもままならない状態へと陥っていたことが抜けない理由でもあった。

 

 

(俺は……何をしたかったのだ?)

 

 

弱体化していたとはいえ、何故負けたのか分からず彼は揺らめく炎を呆然と眺める。そんな彼の頭上には丸い月が浮かび上がっていた。烈烈と勢いが衰退することなく燃える地上とは違い、神秘的な光によって慎ましく、されど美しく存在を表明していた。

 

ふとそれに目がいった。されど炎に包まれていたノットにはそれが灼熱の太陽にすら見えていた。

 

同時に脳裏にある光景が過った。憎き男……そう、孫悟空と呼ばれていた男との死闘の記憶。明らかに優勢であった自分が気がつけば押し返され、吹き飛ばされてそのまま灼熱の太陽に叩きつけられた忌々しい記憶。

 

 

(俺は……また負けるのか!?)

 

 

次に浮かんだのは緑髪の少女。癒しという言葉がとても似合っていた……自分の友だった女が微笑む姿。

 

 

(……こんな所で、諦めろとでも言うのか!?)

 

 

そうだ、思い出した。自分は彼女に会いたいが為に参加したのではないのか?確かに召喚されてから現状を見て変えたが、それはあの女(アイリスフィール)が友に似ていたから助けてやろうと考えただけだ。その彼女亡き今、態々叶えてやる必要はない!

 

 

(…………るか………!!)

 

 

皮肉にも過去と似た状況に陥っていることで彼の中の忌まわしい記憶が彼を再び動かそうとしていく。

 

 

(……こ……で……お……か………!?)

 

 

自分は誰だ?そうだ、俺は友との安らぎを破壊しようとするクズ共を血祭りにあげる悪魔だ!

 

 

(……こんな所で、終わるのか………!?)

 

 

思い出せあの時の屈辱を!

 

 

ーーーあの男に無様に負けたあの時を!

 

ーーー再び負かされたあの時の自分の姿を!

 

ーーー友やそれに似た女ですら守れなかったあの時の自分を!

 

 

(……ロット!……カカロット!カカロットォッ!)

 

 

思い出せ!記憶の奥底で眠らせていた憎きあの男の名を……!俺の生きる動力であった感情を……!

 

 

『そこまでして負けたくないのか………仕方のない奴だ。今回は私も手を貸してやろう。だが……やりすぎるなよ』

 

 

自分を負かそうとする敵への憤怒と殺意、かつて負かした敵への復讐心、友との再開への執着心、そしてそれらの基盤となる深い悲しみが理性を染めていった。

 

 

「カカロットオオォォォォォォォォォォッ!!」

『さあ行くがいい……ノットよ!全てを終わらせる時が来たのだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー蘇生宝具『伝説よ再三にて蘇りて』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事が上手くいったことによる安堵なのか、思わず彼女は膝をついて高まっていた気持ちと疲労を抑える。

 

 

『あっ……マズい』

 

 

しかし、限度があったのだろう。突然身体が光だし、やがて光は2つに別れ、光が消えると元のオメガとバットの2人へと戻っていた。

 

 

「はぁ……はぁ………」

「姐さん、大丈夫かい?」

 

 

相変わらず笑みを浮かべたままだが、疲労の色を見せているオメガ。心配そうにバットに声を掛けるも、自分より疲労の色が濃い彼女は返事すらまともに出来る状態ではなかった。

 

 

「大丈夫……じゃ、ねえよなこりゃ……」

「えっ、ちょっと!?」

 

 

心配させまいと笑みを浮かべていた彼女だが、身体は正直に疲労を示しているかのように重心が揺らぎ……地へと倒れ伏した。

 

だがそこはオメガ。素早く無駄のない動きで受け止め……ることなく、何処からか取り出した布団にそっと寝かせた。

 

「なんなんだぁ?この無駄に無駄を重ねた無駄のない行動はぁ?」とどこかの誰かさんならこういうツッコミを入れるだろう。だが今はそんなことはどうでも良いことだろう。問題は彼女が倒れたことなのだから。

 

 

「相変わらず馬鹿だね君は」

「うっせえ」

 

 

恐らく性格上かなり無茶をしているだろう。あまりの馬鹿さ加減による呆れで怒るに怒れないオメガ。馬鹿と言われてバットは頬を膨らませることで怒りを表現していた。

 

 

「全く……いくら回復したとはいえ、融合時のベースが君である以上無茶はしないで欲しいね(やべぇ、今の可愛好きだろオイ!脳内保存脳内保存っと……)」

「うっせえなぁ……お前は俺のオカンか」

「どっちかというとオトン……いや、お兄さんですねこれは」

「なんだ?お兄ちゃんとでも呼べってかオイ?」

「いや、違うね……お兄たまと呼びたま「一回死んどけ」ーーーゴフッ!」

 

 

君が悪い発言をしたものの、流石の彼女も攻撃出来まいと考えていた自分が甘かったようだ。いつの間にか腕に巻きつけていた鎖を上手く扱ってロリコンクソ野郎の顔面に叩きつけていた。

 

 

「痛い……だが、これも愛の鞭と思えば……「もう2度と話さんぞ?」すいませんでした」

 

 

怒りを見せるや否や土下座までして謝罪するオメガ。この男にはプライドなどはないのだろうか?

 

 

「プライド?んなものあったら姐さん愛でられんでしょうが!」

「おい馬鹿やめろ」

彼ら(観測者の諸君)ならきっと分かるはず!可愛い幼女が居たら愛でたり弄ったりしたくなるこの俺の気持ちが!」

「何かよく分からんがやめろ……次やったら本気で話さんぞ」

「ウス」

 

 

流石にそれは勘弁とまたもや土下座するオメガ。彼にはプライd……これ以上すると同じことの繰り返しになりそうなのでやめておこう。

 

オメガの見事な態度の切り替えに流石のバットもツッコむ気にはならず、呆れと蔑みの視線を向けるだけ。

 

 

「あの……私達のことを忘れてませんか?」

「「あっ……」」

「……そんなことだろうと思った」

 

 

だがここで、漸く空気になってセイバーが言葉を放つことでやっと2人がいたことを思い出し、それを見て永時はいつものことだと深々と溜め息を吐き出した。

 

 

「と、とにかくセイバーちゃん。ネバー、助かったよ」

「いえ、お気になさらず」

「いつものことだから気にするなセイバー……「なあ、ちょっといいか?」何だ?」

「ん?」

「……勝てたと思うか?」

 

 

バットにそう質問され、答えようとするもオメガは困ってしまった。

 

それもそうだ。彼女(バット)の気持ちを考えれば否と答えるべきだ。だが、現状から推測すれば肯定せざるを得なくなるからだ。

 

 

(優しい彼女のことだ……前者と答えれば期待を持ちながらも探しに行くだろうし、見つけたら止めを刺すだろう。逆に後者ならば自分が殺したと思い詰めるだろう……さて、どうすれば良いのやら……)

 

 

悩ましいものだと頭を捻るオメガ。出来れば彼女を傷つけたくないと考えているため、どう返答すべきか分からないのである。

 

 

「あー……その、ねーーー」

 

 

曖昧な返答でとりあえず誤魔化そうと口を開くーーーも突然視界が緑に染まることで中断せざるを得なくなってしまった。

 

 

「!?」

「これは……?」

「こいつは!」

 

 

光を見た途端、浮かび上がる最悪の事態を想定した彼女。布団から起き上がり飛び出そうとするもその腕を咄嗟に掴むことで阻止するオメガ。彼女はそれを振り解こうと必死に抵抗するも、体力の消耗が激しい身体では敵うことが出来なかった。

 

 

「なんだよオメガ!離しやーーー!?」

 

 

ならば説得するしかないと後ろへと視線を向けて……そこで彼女の視界は黒く染まった。

 

 

「悪いな姐さん……」

 

 

原因は近くにいたオメガ。掴んでいた手に電気を纏わせることで彼の手はスタンガンの役割を果たし、彼女を気絶させたのである。

 

 

「アヴェンジャー!貴方一体何を……「セイバー」しかしエイジ「セイバー」……!?分かりました………」

 

 

無理矢理気絶させたことに抗議しようとするセイバーを永時は名前を呼んでアイコンタクトで何とか静かにさせ、それ以上何も語らずにオメガを見つめていた。

 

そしてオメガはというと倒れこむ彼女を支え、再び布団に横たわらせた。そして、人差し指をクイっと振るうような動作をする。たったそれだけで布団と共に彼女の姿が視界から消えたのである。

 

 

(行き先はルシファーちゃん家に送ったし大丈夫かな?……さて)

 

 

無事に着いたかどうか確認したい所だが、そうは言ってられない状況に陥っていることに溜め息を吐くことで自身を落ち着かせる。見せる相手がいなくなったことで貼り付けたような笑みを消して無表情へと切り替えたのだ。

 

 

「まだ生きてたんだ」

 

 

そう言って後ろへ振り向く。そこには見覚えのある筋肉隆々の男の姿があった。

 

元々大きかった身体は変わってはいない。だが、彼が纏う黄金のオーラは以前にも増して揺らぎ、何よりこちらに向ける殺気と威圧感がかなり増しているようにも感じられた。

 

 

「なんだい?まだ彼女のことを諦められないのかい?」

「……」

「それか、単に負けたくないとか?」

「……」

 

 

ダメだ。全くもって会話が成り立っていない。恐らくだが先程負けてしまったのが応えてしまったのか、こちらに向く殺気ばかりが強くなるばかりで、怒りのあまり無言になってしまっていた。

 

 

(……無理矢理サーヴァントとして現界してきたのがここで仇となるとは………ここまで弱体化ってのも些か問題だなこりゃ)

 

 

実を述べると彼という存在は本来この戦争……いや、そもそも聖杯戦争では召喚されることはない。だがあの3人が参加していると聞いたので万能性を駆使して本来あるべきではないクラスへと無理矢理押し込み、世界に強引に干渉してまでして召喚されたのだ。それによる反動、即ち弱体化は本人すら想像出来ない程酷いぐらいのものであり、勝てるかどうかとなれば否と答えざるを得ない状態まで落ちてしまっていた。

 

合体していた場合はもしかしたら…と考えるもそれでも無理だと悟ってしまっていた。

 

 

「……まあ、どっちにしても僕自身やることは変わらないから問題ないけどね」

「まさかまだ立ち上がってくるとは……」

「落ち込む暇があったら構えろセイバー」

 

 

だが彼にはそんなことは関係なかった。今はとても誰か(彼女)の為に戦ってみたい気分になったから。まあやる気を出し始めた2人に影響されたというのもあるのだが。

 

 

「……トォ……カ………ォォ………!」

「だけど、折角君とやるんだ。僕自身も君なりのやり方(DB風スタイル)でやってあげるよ」

 

 

彼は今宵も気分次第で動く気分屋なのだから。だから戦闘スタイルを少し変えるのも気分なのである。

 

 

「……カカロットォォォォォォォォォ!!」

「さあ、始めようか!」

 

 

漸く出した言葉らしき雄叫び。彼の叫ぶ言葉の意味を理解した上でオメガは構えて彼を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーさあ、闘え英雄(ヒーロー)達よ。相対する相手は星すら容易く砕ける悪魔の中の悪魔。

 

 

ーーーそれ故に絶え間無き絶望へと恐怖を焚べ、終焉へと抗え。

 

 

ーーー所詮誰が終わろうと、終焉は全てを受け入れるのだから。

 

 

 

 

 

 






※補足事項

補足1 終永時

『偽似創作・斬り離すは友縁の証』

ルールブレイカー・オマージュ

ランクE

彼の中に住まう者が自身の知識を持ち得て作り上げた短剣。

ギリシャ神話におけるコルキスの王女メディア。彼女の逸話が具現化した短剣……を擬似的に作成したものである。それ故1度きりの使い捨てだが、効果はほぼオリジナルそのものであるため、作り手の技量の高さが伺えることだろう。





補足2 バット

『滅竜神槍・竜狩り』

インフェルノ

ランクA+

バットの持つ2つの槍を合わせた三又の槍。そこから漏れ出る炎は如何なる竜の鱗をも溶かし、肉をも焼き尽くす。

その炎はまさに神の如き炎。相手が人の身であれば当然ただでは済まない。当然、それを振るう者自身も。発動と共に投擲、敵を貫き、全てを燃やす。自身の片腕を代償に。

されど、今回は万能と融合したためにそれは無くなったようだ。つまりは万能が余程過保護とも言えよう。





補足3 ノット

『伝説よ再三にて蘇りて』

ランクEx

ノット・バット・ノーマルという男の力の元となっている悪魔の復活。1度蘇り、2度目は記憶を持たず、執念だけが受け継がせた同意個体として蘇ったその事実を宝具化したもの。

瀕死、致命傷など死に関わる程発動しやすくなり、1度発動すると全ての傷を癒し、万全の状態となる。更にスキル『サイヤ人体質』が併用され、復活する度に強くなっていく。しかし、低確率で狂化スキルが上がっていくが……元々狂っている彼には関係ないことだろう。

かの悪魔は常に万全の状態で蘇り、1人の男を殺したい程憎み続けた。それ故か蘇る度にその憎悪は増大し、狂暴さは増していった。




補足4 オメガ

『真正潰しの贋作者』

メイキング・リアリティー

ランク?

気分屋で万能と呼ばれた男の宝具。

生きてきた人生の中で見たありとあらゆる技能をそのまま模倣するだけの単純なもの。能力然り技術然り性格然り、気に入ったものだけを選び抜く。だがあくまで模倣なので弱点などもそのまま模倣するのは欠点とも言えよう。

だがそれと同時に、個性がないと晒しているようなものではないだろうか?




今回行ったのは某龍球漫画から融合(フュージョン)する技術を用いてバットと融合し、バメガとなっている。













*後に本編諸共修正するかもしれないが作者の力量不足故悪しからず。



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