Fate/Evil   作:遠藤凍

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今回はセイバーvs永時編。


注意:今回も(・・・)作者の自己満足な解釈や考えが入っており、矛盾とか生じるかもしれませんが悪しからず……

後、今回も2話連続投稿なので前話の読み忘れのないようご注意を。

それでも構わないと言う方はどうぞご覧ください。





されど悪は堕天の騎士と踊る

 

 

 

「はあぁっ!」

「らあっ!」

 

 

黒い光の剣と黒い炎の刃がぶつかり、炎によって紅く照らされた世界は黒に飲まれ、辺りの酸素は喰らい尽くされる。

 

 

「ふっ!」

「んっ!?」

 

 

両者拮抗する中、それを先に崩したのはセイバーの方であった。

 

拮抗する剣に更に魔力放出を加えることで力を上げ、永時の太刀を押し切る。それにより永時は後ろに仰け反り、僅かながら隙を見せてしまう。そしてその隙を突くように斜めに振り下ろす。

 

しかし彼はその程度ではまだ餌食にはならない。太刀を持つ片手を離して黒炎を噴出。それをブレード状に形取ることで無理矢理前に突き出す。

 

 

「ほう……!」

「ふんっ!」

 

 

間一髪で剣と衝突。剣は身体を掠るだけで済み、剣筋をズラすことに成功。そして追撃するかのように剣を爆破させた。

至近距離の爆発により爆風と共に双方後ろへ吹き飛ばされる。だが2人とも身体を前屈みになるように地に手をつけて着地することで静止する。

 

 

「「……」」

 

 

互いを警戒し、沈黙。静寂に包まれた中、セイバーは口を開いた。

 

 

「まさかここまで出来る人だと思いませんでしたよ……」

「クカカカ……かの有名なアーサー王に褒められるとは、俺もまだまだ捨てたもんじゃあないな」

「それ故に気になるのです」

「何?」

「……そこまで強くなって、貴方は何がしたいのですか?」

 

 

殺し合いと分かってはいるが、それでも気になるのだ。何が彼をここまで動かしてきたのか。何故そこまでの力をつけたのかを。

 

そう言われて永時は固まった。答えに困ったからだとか、意外な質問に戸惑ったとかではない。ただ彼女の目が何か焦燥に駆られるような、何か迷いのある目をしていたからだ。

 

 

(こいつ……)

 

 

普段の彼ならば下らん、この一言で答えることだろう。だが今は戦闘による緊張感や興奮により気分が高ぶった状態、何が言いたいかと言えば、要するに気が緩んだことにより興が乗ったということである。

 

 

「何がしたい?……さて、どうしてかね?」

「惚けないで下さい」

 

 

惚けるな。つまりは答えを持っているということを確信した上で聞いているのだろうと推測された。そして答えをはぶらかしたりは出来ないとも。

 

 

「(……つっても、明確な答えなどは持ち合わせてないのだがな)」

 

 

とはいえ、この男には明確な答えなどは持っていないのだ。あると言えば自身の持つ自己満足で結論付けた思考のみである。

 

 

「哀れで救いようのねえ男の、下らねぇ妄言でよろしいのならお答えするが?」

「その下らない妄言が聞きたいのですよ私は」

「そうかよ」

 

 

下らない妄言でも良かったのだ。それが自分の納得のいく答えになるのならば。

 

そう思うセイバーを横目にネバーは口を開いた。

 

 

「聞いているかもしれんが俺は誰かの為になんざ戦わん、あくまで自分(自己満足)のために戦っているに過ぎん……ならどうして力を付けたのか?……その答えは簡単、思い通りに事を進ませる為に付けたに過ぎんと言うことだ」

「……つまり、目的のために仕方なく付けたと?」

「そういうことになる。力無くてはやりたいことも叶えられん」

「やりたいこと……」

「国の復興の際とか戦闘の際、考えとか講じるよな?けど結局の所それを実行に移すにはある程度の力が必要なんだよ。経済力然り組織力然り説得力然りって感じでな」

「そんな……」

 

 

それでは矛盾しているではないかとセイバーは思った。永時が目的の為に力を付けるのならば、死に場を求める自分自身の本心と矛盾しているのではないかと、その逆もまた然りと。

つまり、力を付けなくては目的は達成されず、かと言って逆に力を付ければただでさえ不老不死紛いなものの所為で低くなっている死の確率が下がるという事になってしまう。そうなればどちらも果たす事が出来ずにその矛盾に死ぬ時まで悩み苦しむのが容易に想像出来た。

 

 

「貴方は……それでいいのですか?」

「……何が?」

「いえ、それでは……」

 

 

それではあまりにも報われないではないか。

自己満足の為に戦って、その過程で誰かを助けたとしてもそれを悪として吐き捨てて、悪としての部分のみを世界に刻み込ませようとする。人に嫌われることを前提として生きているのだこの男は。

 

終わりなき道のり、これこそ悪循環。矛盾に押し潰されて朽ち果てて行くのが目に見えて分かる。

 

 

「報われない?……下らん。俺は正義の為だとか、救われる為だとか、別に他人に認めて貰いたいから戦っている訳じゃねえ。俺は自分勝手に満足して死ぬために生きているだけだ」

「満足……?」

「何度も言うとは思うが俺は自称とはいえ悪だ……正義の味方とやらに滅ぼされる運命の元生きる者。誰が何と言おうと紛うことなき悪だ。……だが、それ故に俺は探さねばならない。こんな俺を殺してくれる正義の味方とやらをな……今はそれが俺の目標の1つだ」

「しかしそれは……」

「正しいのかって言いたそうだな?……別に正しさなんざ求めねぇし、言われた所で考えはするが基本的には変える気なんざ更々ねえよ……最初に言ったろ?『下らねぇ妄言』だって」

 

 

確かにそうは言っていた。それは今悪に染まったセイバーには理解出来た。だが、それで納得するとなると話が変わってくる。

 

 

「……なら」

「何?」

「ならば何故、私を残したのですか……?」

 

 

そう、悪を名乗りそれに従って行動して来たこの男が、自分で言っては何だがどうして正義を重んじる自分を残そうと、共に聖杯を得ようと考えたのか、やろうと思えば自分を自害させて別のサーヴァントを呼ぶか、或いは不老を利用して次回まで持ち越せば良いものを……いや、訂正しよう。確か彼は副人格である彼女(椿アネモネ)を取り戻そうとしていたはずだ。だが、それでも彼は肉弾戦のみならたった1人でもある程度ならサーヴァントと匹敵する実力を持っているように見える、それなのに何故だと問いたいのだろう。

 

そう説明すると永時は邪悪さを感じる笑みを崩さぬまま、ただただ笑っていた。

 

 

「クカカカ……さてな、単に興味を持ったから、とかじゃ納得いかねぇだろう?」

「そうですね……」

「なぁに……単に知り合いに似てたから手を貸してやった、それだけのことよ」

 

 

 

そんな彼の脳裏を過ったのは魔術の師であった魔女。深淵や漆黒そのものを連想させられるような底知れぬ妖艶な雰囲気。されどそれに負けず劣らず、轟々と炎のように燃える炎のような、まるで紅を連想させられる情熱が、混ざることなく、濁ることもなく調和している。色で例えるなら紅蓮と言える、そんな女であった。

 

普段は冷静、話しかければ最低限の返答はするが自ら進んで話すことはない寡黙な女であった。ただし、魔術を師事する時は前述べた通り、持ち得る情熱に火が付き、水を得た魚のようによく喋る、一切の加減がない程厳しいなどの側面が現れた。その勢いは初めて師事を受けた永時をドン引きさせる程のものであった。

 

だがそんな彼女を気紛れで名前を呼んで見れば「師を名で呼ぶんじゃない馬鹿者」と言うものの嬉しそうに笑い、死地へと赴くと聞けば真っ先に駆け込んできて「お前には教えることはまだあるからな……こんな所で死ぬんじゃないぞ馬鹿者」と心配そうに声を掛けてくれた、そんな女だったような気がする。

 

永時から見て彼女はいい女と称しても過言ではない、そんな人物の素顔とそっくりだった、それだけのことである。

 

 

「それだけの為に、ですか?」

 

 

セイバーの声が耳に届き、思考の海に潜っていた永時の意識は持ち上げられる。

 

 

「それだけだが……?」

 

 

何故だ?と疑問を払拭出来ていないセイバーに永時は溜め息を吐くしかなかった。

 

 

(……結局悪として変わった所で、根本的(生真面目な程合理主義)な部分は変わらずか、まあ正直どっちも終着点は変わらないと予想が出来ると思うがなぁ……いかなる事情があろうともお前が効率のみを取り、そこに人の意思を、感情を、組み込んでいない時点で組織としての纏まりなど長く続く訳がないし、どの道滅びは確定しているようなもの……つっても、子供を愛することを選択しない単純な愛すら出来ぬ女が情を理解するなど、到底難しいだろうがな)

 

 

まあ精々頑張れやと他人行儀なことを思いながら彼は振り上げた凶刄を彼女に振り下ろそうと太刀を構える。

 

 

(と、言っても本音としては別のこと考えていた訳だが……)

 

 

実はそんな複雑なことをこの男は考えている訳ではなかった。

知り合いに似ていた?確かにそれもある。だが本音として、その続きが肝心な所であった。

 

 

(そう、あの女に似たお前ならきっとーーー)

《(おい……出来たぞ)》

 

 

するとタイミングを見計らっていたのか、都合よく居候(居着いてる者)から声を掛けられ、視線を構え直しているセイバーに留めたまま会話を始める。

 

 

(よし、いつでも出せるようにしておいてくれ)

《なら、貴様がよく使うものに付与しておいてやる……貸し1つだな?》

(へいへい、今度デートにでも連れてってやるよ)

《……フン。1度しか使えぬから上手くやることだな》

(そりゃどうも。ついでにあいつにも声かけといてくれ)

《いいだろう》

 

 

戦闘中故にすぐに会話を終わらせ、セイバーに意識を戻す。向こうはすでに構えが終わっていたのか、鋭い目つきでこちらの様子を伺っていた。

 

 

「さて、セイバーさんよぉ……納得出来る答えが出たかね?」

「いいえ、寧ろ分からなくなりました。自分のやろうとしていることが、正しいのかでさえ」

「はぁ……下らん。正しいとか正しくないのだの、んなもんどうでもいいだろ?要は人の助言を聞いて、考えて、自分が出した答えがそれなんだろ?ならば後はこれから先にやってくる困難に立ち向かう意志さえ持てばいいだけの話だろ?」

「意志、ですか?」

「俺は今までそうやってきた。例え愛した女や大事な知り合いが死んでも、後悔や反省はするが先に進むことはやめる気はなかった、それだけのことだ」

「その愛した女を何度も救おうと過去に抗った人の言葉とは思えませんね」

「まあな。言ったろ?『後悔や反省はするが』ってよ……別に昔のことを悔いるなとは言わん。俺たちは所詮人間だ、するなというのは酷だろう。だが、先に進むことをしないのはただの生きる屍とも言える大馬鹿者になるだけだと昔、何処ぞの筋肉馬鹿に教えられたものでね」

「先に進む……」

 

 

考えごとをするために思考の海に潜ろうと黙り込んだセイバー。しかし、永時が太刀に黒炎を纏わした音で意識を元に戻した。

 

 

「とりあえずお前は一回冷静になるべきだな……と言う訳で大人しく座に帰ってゆっくり考えな」

「お断りします」

「なら、言いたいことは分かるよな?」

「……では、その前に貴方を殺し、聖杯を手に入れるまでです」

 

 

両者得物に黒いオーラを纏わせ、ほぼ同時に動き出した。

 

先に動きを見せたのは永時であった。彼は太刀を片手に持ち替え、空いた手に黒い火球を作って、セイバーへと真っ直ぐ撃ち出した。それに対しセイバーはただ剣を中腰の姿勢で構えて真っ直ぐ突っ込み、当たる直前で剣を薙ぎ払うように振るう。それだけで黒火球は両断され、セイバーはその突進力を殺さぬまま重心を左へと傾ける。それだけで黒い炎の刃が彼女を横切った。

 

 

「チッ……!」

「貰った!」

 

 

片手で刀を振り下ろすも見事に外してしまい思わず舌打ちする永時。しかしそれはセイバーにとっては好機であり、左に右足を1歩踏み出してからそれを軸に半回転。遠心力を乗せて隙だらけの脇腹へと剣をぶつけるように振るう。

 

 

「何!?」

 

 

しかし、剣を振るった先には永時の姿はなかった。それにより剣は空を切る結果となる。

 

どこに行った?剣を振り切った後辺りを見渡し、直感や気配で探す。

 

 

「っ……!?」

 

 

唐突に生存本能や直感が過敏に後ろだと反応。それに従って後ろに向くと同時、2度の斬撃が連続して彼女を襲った。

 

1度目は腹部を裂かれるも、2度目は剣を上手く扱って受け流した。

 

 

「……やはりその程度では死にませんか」

 

 

斬撃が繰り出された場所に目をやれば4メートル距離が開いた所にその人物(永時)はいた。片手でまだ黒炎を纏ったままである太刀を持ち、余った左手は帯電させながらも頭部に添えてあった。

 

しかし、その声色は永時らしくない綺麗で柔らかいものであった。

 

 

「ようやく来ましたか……椿、アネモネ!」

 

 

どうやらあの一瞬で彼女に交代していたようで永時と同じ容姿であるものの、母が子どもに悪戯された時のような静かな怒気とそれを覆い隠す柔和な雰囲気へと変化していたことで気づいたようだ。

 

そう、永時の義姉である椿アネモネの出陣である。

 

 

「なるほど、その口ぶりからして私のことはご存知のようですね」

「ええ……初めましてと述べておきましょうか?」

「ええ、初めまして。義弟がお世話になりました、ねっ?」

 

 

挨拶を軽く述べると同時に一閃。空気を引き裂いて斬撃がセイバーへと飛来。しかし正面からの攻撃のため、見えているセイバーは斬撃に合わせて剣を振り下ろすことで斬撃は地を抉る結果となる。

 

 

「っ!?」

 

 

しかし、痛みが走ったことで端正な顔が苦痛に歪められる。痛みが走った所を見れば右の肩口がざっくりと切り裂かれていた。

 

一体いつの間にと驚愕するセイバー。そしてそれを愉快そうに微笑む彼女は口を開く。

 

 

「あらぁ?斬撃を飛ばしたことがそんなにも不思議かしら?」

「……(斬撃を放った?しかも魔術の補助をなしで?それに、永時とは全く違う型の持ち主。同じ姿なだけに厄介ですね……)」

「こんなことは極めれば魔術とか云々なしで誰だって出来るものよ?」

 

 

いや、普通は出来ないものである。では先程どうやって傷をつけることが出来たかという訳であるが、やったことは至って単純である。

1回目の斬撃を飛ばした後、セイバーが剣を使って地面に叩き落とした。その時僅かだがセイバーの視線は地へと落ちる斬撃へと集中された。その一瞬の間に次の斬撃を倍速で放っただけのことである。

 

どこぞの物干し竿持ち農民とは違い、同時に斬撃3つ飛ばしなどは出来ないものの、一瞬の隙さえあればサーヴァントすら反応出来ないものを放てる。これは元々永時より真剣の扱いが上手い彼女の巧みな技量と、人外と戦い過ぎていつの間にか人間越えてた永時の身体のスペックのおかげである。ただ、振るっただけで斬撃を飛ばし、尚且つ黒炎が消えないのはただ単にそれだけのことで納得していいものだろうか。

 

 

「黙ったままでは分かりませんよ?何か言ってみたらどうです?」

「……(正直な所言いたいことはある。だが会話に持ち込もうとする所を見るとどうやら話している途中に不意打ちするのが狙い……無闇に会話をするのは危険だ)」

 

 

先程のことから警戒して会話をしようとしないセイバー。軽く挑発染みたことを言ってみたものの、反応しないので結局アネモネの方が折れてしまった。

 

 

「やっぱりダメでしたか。大抵の雑草はこれで反応して隙を見せてくださるのですがねぇ。まあいいでしょう……」

 

 

会話がダメならさっさと殺すまでです。そう言い放ったと同時、空気が凍りついた。

そこから感じたのは背中に冷水を浴びせられたような感覚。対峙している人物が先程まで同一人物とは思えない狂気と覇気であった。

 

 

「ーーーあの子の邪魔をするのなら、全部斬り捨てればいいだけよねぇ?」

 

 

反応できたのは偶然であった。油断ならない相手だと視線を外すことなく見やり、その間に瞬きした一瞬。斬撃がセイバーを襲った。

幸いにも剣を構えていたのでそれを横にし、ぶつかると同時に剣先を少し後ろに引くことで受け流した。

 

 

「しかし、それは愚策とも言えましょう」

 

 

受け流し、いざ攻めに切り替えようと剣を構え直そうと考えた時。彼女は目前へと距離を詰めていた。

そのまま抜刀するかのように太刀を持つ手を捻り、斬り上げ。しかしセイバーは流れるような動きで足を横に動かして横にズレることで回避。意外だったのか驚く彼女に剣先を向け、弓のように少し後ろに引いた後、勢いよく彼女に突き出した。

 

 

「これは……!?」

 

 

されどそれはただの突きではない。そこから放たれるのは黒く染まった暴風の塊。ただ標的に向けて乱雑に放たれたそれは永時が纏っていた黒炎より黒く、悍ましく思えた。

 

それを例えるなら竜の息吹。乱雑だが強力な一撃と言えるそれは竜の因子を宿して誕生したとされる彼女にピッタリだろう。だが喰らえば死ぬのは目に見えていた。

 

 

「ですが……甘いわね」

 

 

しかし、彼女はそれでも嗤っていた。足を前に出して力強く踏み出す。それを軸にもう片足を勢いよく前へと出してそのまま蹴りを放った。

 

 

「なにっ!?」

 

 

ーーー狙いはセイバーではなく、今力を放とうとする剣の剣先へ向けての蹴り上げだった。

幸いにも剣を吹き飛ばされることはなかったものの、上に逸らされた剣は放つ相手がいない上空へと暴風を放ち、闇色の夜空へと消えて行った。

 

後に残ったのは剣を空へと掲げるように上に向けているセイバーと1人の狂者のみ。

 

 

「それじゃあ、サヨウナラ」

 

 

そんなセイバーに彼女は前ポケットから歪な短剣を取り出し、別れの挨拶と共にセイバーの胸に向けて突き刺した。

まるでビデオのスロー再生のように短剣がゆっくりと己の身体へと入っていくのを見開かせた碧眼が捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自爆だと……!?」

 

 

近くにいたノットに爆発が襲いかかるも、元よりオメガの動きに警戒していたので咄嗟にバリアを張ることで防ぐに成功する。

 

 

「無駄なことを……その程度のパワーで、この俺を倒せると思っていたのか?」

 

 

爆発が収まると同時にバリアを解除、腕の一振りで自身の周囲にある煙と砂塵を薙ぎ払う。

 

 

『いや、そうでもないぞ』

 

 

その声に、ノットは動きを止めた。先に言っておくが、別にその声に恐怖を感じたとかではない。

 

知っている声が同時に聞こえたこと、そして感じる気配が少し違うことに驚愕したためである。

 

 

「……どういうことだ?」

 

 

しかし、自身の視界の先にある砂塵の中に降り立った人影は1つ。聞き間違いかと思うが、次の言葉でそれは正しいと証明される。

 

 

『多分お前の考えは間違えてはいないぞ』

 

 

だが、やはり聞こえた声は1つ。しかし、どういうことだと彼はない頭で考える。

 

何処ぞの人参男(カ◯ロット?)とは違い、細かい気の認識が出来ぬが、大まかな気配察知ぐらいは出来る。だがその数は人影と違って2つ。それも何故かその人影から感じられるのだ。

 

もしかしたら重なっているように並んで立っているのだろうか?いや、何かが違うと直感が言っている。

 

 

(……分からん)

 

 

しかし考えるのが苦手な故に、発想性の乏しいノットでは答えに辿り着くのは時間がかかることであろう。

 

 

『多分分かっていないと思うから、敢えて教えてやるんだよ』

 

 

理解力の乏しい自分に対する呆れだろう。落胆するような言葉と共に、砂塵が一気に吹き飛ばされる。

 

だが、次に見た人影の正体にノットは驚愕することになる。

 

 

「……誰だお前?」

 

 

常人より少し高めの身長の女。深緑のコートらしきものの内で見られるすらっとした女体であるにも関わらず、程よい筋肉がついている肉体。艶のある純白の長い髪を垂らし、こちらを見る紅い瞳は今までにない凄みを感じられる程のものであった。

 

疑問を重ね、首を傾げて尋ねるノット。女に三叉槍を向けられ、そこでようやく、1人の人物が頭に思い浮かんだ。

 

 

「その槍……バット?だが白い?」

『残念ながらちょっと違うぜ……俺はオメガでもバットでもない、お前を倒す者だ』

「……ククク…………ハハハ……ハァッーハッハッハッハ!!」

 

 

聞いた途端、上を向いて大笑いするノット。それを見た女は癇に障ったのか不服そうに顔を歪めていた。

 

 

『……何がおかしい?』

「別にお前が何者でも変わらない。俺は、俺の意志で敵を倒すだけだぁっ!」

『そうかよ』

「さあ来い!ここがお前の死に場所だぁっ!」

 

 

それでも悪魔は嘲笑っていた。ただどうやって目の前の敵を血祭りに上げようかと考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








次回、いよいよ決着……予定










最近忙しいので、もしかしたら4月頃になるかもしれません。by遠藤凍






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