Fate/Evil   作:遠藤凍

54 / 63


〜今回は2話連続のため、あらすじコーナーはお休みです〜






加減知らずの破壊王

 

 

 

「くっ……!」

 

 

地を駆け巡るバットの後方が緑のエフェクトと共に爆破する。

爆発により地面は抉れて地形を一瞬にして変え、廃墟や瓦礫が塵となって消えていく。これでもうかれこれ2桁は達するであろう回数の爆発である。

 

完全に悪魔と化した男に抗っている彼女はというと苦戦、否、ほぼ一方的な蹂躙に必死に凌いでいた。

 

 

「フンッ!」

 

 

ノットによって放たれた1つの緑弾。それが小さく分裂し、散弾の雨の如くバットに降り注ぐ。

しかし、バットには一つひとつがはっきりと見えており、当たりそうなものを2槍を上手く扱って弾き、接近する。

 

 

「ッ!」

「オラァッ!」

 

 

その自慢の速さで後ろに回り込み、雷を纏わせた深緑の槍を振るう。

攻撃の時に出る殺気によって気づいたノットは腕を振るい、槍と激突した。

 

2つの力が激突し、拮抗状態によりバチバチと電撃と火花が色鮮やかに散る。

 

 

「どりゃっ!」

「ッ!」

 

 

先にその拮抗状態を崩したのはバット。空いていた片手にある『祝福の排水龍(ゲオルギウス・シューダー)』による激流の嵐がゼロ距離で腹部に放たれ、ノットはそれをもろに喰らってしまった。

 

 

「……」

 

 

遅れて吹き荒れる衝撃と砂埃をバットは荒れている息を整えながらも槍を構えてただ見据えていた。

 

 

「フッ」

「んなっ……!?」

 

 

しかし返ってきたのは手応えではなく、太い腕だった。砂埃を引き裂くようにそれは飛び出してきて、バットの頭を掴んだ。

 

 

「なんなんだ今のはぁ?」

「ッ!」

 

 

掴まれてすぐ飛んできた無傷のノットの大きな拳。それがバットの顔面に直撃し、彼女は吹き飛ばされた。

 

更に飛んだ自分に合わせたのかこちらに向けてダッシュしてきたノット。そのままラリアットを繰り出すもバットは槍を交差させて防御の姿勢で衝撃を和らげるもあまりのパワーに後ろに下がる結果となる。

 

 

「なっ!?」

「遅い!」

 

 

そんな彼女は次の攻撃を仕掛けようとしたが、その隙に後ろに回り込んだノットがそうはさせなかった。彼女の小さな体躯を掴み、そのまま上空へと蹴り上げた。

 

苦痛の声を漏らし上空へと打ち上げられたバット。だが地にいたノットは両足に力を込めて跳躍。

 

 

「死ぬがいい!」

「があっ……!?」

 

 

そのまま彼女の頭を掴んで、地面に叩きつけた。

 

 

「ぐっ……」

「フンッ!」

 

 

無慈悲にもノットは頭を掴む手を離さずそのまま持ち上げて彼女の腹部に拳を叩き込んだ。骨を砕くような音を響かせ、バットは吹き飛ばされて廃墟に頭から突っ込み、崩壊音と砂埃が視界と聴覚を一時的に阻害する。

 

 

「げほっ、ごぼっ!」

「これでくたばるがいい……!」

 

 

砂埃から吐血するような音が聞こえる。しかしそんなことは関係なしにノットは追い打ち、というより止めを刺そうと右手を彼女の方角へと向けて連続で撃ち込んだ。

放たれた複数の緑弾はそれぞれ緩いカーブを描きながら砂埃の中心部へと向かっていく。

 

 

「『祝福の排水龍(ゲオルギウス・シューダー)』!!」

 

 

だが、砂埃を切り裂いて出てきた激流。被弾する緑弾を破壊し、その後に口の端から血を流すバットが深緑の槍を帯電させて飛来してきた。

 

 

「おらっ!」

「死に損ないめぇ……!」

 

 

ノットは緑弾を右手に持ち、そのまま雷の槍を押しつぶすように押し出した。

2つが接触した瞬間、力の衝突により爆発。遅れて凄まじい衝撃と風圧がノットの身体へぶつかったも彼は応えた様子はない。

 

 

「……何ぃ?」

 

 

しかし目の前にいた筈のバットは消えていた。

逃げたのか?と捜索を始めようと辺りの気配を探るノット。特に不意打ちをされないように後ろは念入りにだ。

 

 

「…………ほう?」

 

 

これにはノットも驚愕した。後ろに振り向けばしたり顔でこちらに笑みを浮かべ、再び深緑の槍をこちらに向ける彼女がいるのだから。

 

 

「竜の鱗すら貫くこの槍……受けてみな!『真槍雷霆・竜堕とし(プレーステール・ケラウノス)』!!」

 

 

槍を持つ腕ごと包むかのように現れたのは嵐の如く荒れ狂う暴風と感電したら死に繋がりそうな凄まじい青い雷。それを纏った槍の矛先がノットの顔に向けられていた。

勿論、喰らったらただでは済まないのは明白で……

 

 

「よくやったようだが……その程度か?」

「……なっ!?」

 

 

だからこそ、投げる前に真っ直ぐ突っ込んできて槍をその手で掴んだ時はさぞかし驚いたことだろう。

 

本来なら焼肉のように肉を焦がすような音が聞こえるはずなのだが聞こえて来なかった。しかしそんなことを気にする間、僅かながら隙だらけとなってしまったバットの脇腹を蹴り抜く。そのあまりの力に吹き飛ばされてしまった。

 

 

「くっ……!」

 

 

飛ばされるも身体に力を入れて回転させ、足に力を集中させて地を蹴ってノットへと駆け出す。

 

しかし視界に捉えたのはノットの太い腕。巨体には合わぬ軽やかなステップで目の前に現れたことにより急ブレーキをかけようと足に力を入れるもノットの太い腕が目前へと迫っていた。そこで彼女は頭を下げることで紙一重で避ける。

 

 

「チッ!」

 

 

攻撃を外したノットはそのまま身体を後ろに倒し、振るった腕も自然と地面へと近づかせ、手をついてその勢いを利用して回転蹴りをするもバットは槍を軽く突き刺して棒高跳びの要領で飛脚、残った槍を片手で引き抜いて回避し、その間に『祝福の排水龍(ゲオルギウス・シューダー)』を背中へと背負う形で収める。

 

 

「何ぃ?」

「ホーリー!」

 

 

バットの口から呪文らしきものが言い放たれると同時、空いた手から光が収束し、それがやがて丸い光弾のようになり、

 

 

「ノット直伝……イレイザーブロウ!」

 

 

この技は昔バットが新たな戦闘法を考えていた際、ちょうどノットの戦う姿を見てピンときたようで頼み込んで1からやり方を教えて貰った結果得た技である。

 

されど放たれるのは悪魔のような破壊の一撃ではない。悪魔にとっては小さき一撃であろう。

 

だがそれは悪なるものを倒すための聖なる光を収縮させた一撃。当たれば効果がある保証はあった。

 

 

 

「はぁぁぁっ!」

 

 

しかしノットはそれに対し胸の前に緑弾を作って光弾とぶつけた。

それが上手く壁の役割を担い、衝突と同時に爆発。バットが吹き飛び、自身は無傷でなんとか事無きを得る。

 

 

「ぐぅっ……!(くそっ、しくじっちまった!)」

「……なるほどな。魔法、いや……その応用か?全く、槍以外でも攻撃方法があったことを忘れていたぞ(まあ効かんが……)そういやイレイザーブロウを昔教えたことがあったな」

 

 

ノットはその攻撃方法に関心を持っている中、バットの中で焦りはどんどん蓄積されていく。

 

槍=唯一の攻撃法と思い込んでいたであろうノット。それ故にその考えを突いた隠し玉とも言える攻撃をあろうことか防がれてしまったのだ。焦るのも無理からぬことだ。

 

 

「(どうする……使えるのはあと数回が限度。それにいくらルシファーの魔力を頼りにしてるとはいえ……それまでに決めれるか!?)」

「(あのゴミのような(クズ)がマスターというのは癪に触るが、無限に近いこの魔力量(バックアップ)には感謝しなくてはな……)さあ、俺の餌食になるがいい!」

 

 

表情から状況を読み取ったのか勝ち誇った笑みでバットを見やる。そして読み取られたのを悟ったのか覚悟を決めたような顔つきになるバット。

 

緊迫した状況の中先に動いたのは奴だった。

 

 

「でぇやっ!」

「クソッタレッ……!はあっ!」

 

 

両手に緑弾をつくり1つを投擲、だが余裕で見えているバットは悪態を吐きながらを槍で弾き飛ばす。

だが、弾いたと同時にもう1つの緑弾を構え、肉薄してきたのだ。

 

 

「ッ!?」

 

 

投げられたそれを紙一重で避け、攻撃をしようと体勢を整え直そうとノットを見やると投げたはずの手にまた緑弾がそれが彼女の目前迫っていた。

 

 

「くっ……!」

 

 

どうやら投げた後に再び緑弾を作っていたようですぐに避けるには無理な中途半端な体勢だった。

思ったより早かったようで避けられないと判断した彼女は槍を盾にするように持ち直す。

すると間に合ったようで受けの構えが出来たと同時に自身に着弾して爆発した。

 

 

「ぐあっ……!」

 

 

爆発に飲まれたバットはその小さな体躯を宙へと舞い上げてしまう。

これはマズいと体勢を整えようとクルリと半回転し、

 

 

「馬鹿めっ!」

 

 

緑のバリアに包まれたノットの追撃の体当たりをもろに食らった。

 

 

「あっ……がっ…………!」

 

 

そのまま押され、廃墟のビルらしき所に叩きつけられる。その勢いはバットの身体が埋もれ、型が取れるぐらい凄まじいものであると語っておこう。

だが、それでも彼女はまだ生きていた。

 

 

「ぐっ、あっ………!」

「……まだ生きていたのか?今、楽にしてやろう」

 

 

そう言ってノットはバックステップで後ろに下がると右手に緑弾を作り、投げ飛ばした。

手から放たれた緑弾は空気を引き裂き、真っ直ぐと進んでいく。

 

しかしそれは、横から割り込むように猛スピードで飛来したものによって軌道がずらされた。

 

ずらされたことにより緑弾はあらぬ方向へと飛んでいき爆発しバットは命拾いをしたのだ。

 

 

「何ぃ?」

『……ピー……チャン……………ーン……』

「ん?」

 

 

驚愕するのも束の間。何かの音を耳にし、ノットは戦闘をやめて音源らしき場所に視線を移す。

 

 

『ーーーピ-ポコピ-♪チャンチャンチャチャチャチャ-ンチャ-ンチャ-ン♪』

「ま、まさか……こいつは………!」

「ほう、ようやく来たか……」

 

 

その音楽、正確にはその歌い手の声にバットは驚愕に、ノットは楽しそうにほくそ笑んだ。

 

そして、音源を特定し、見たのはほぼ同時であった。

 

 

「……は?」

「……なに?」

『チャ-ンチャチャチャ-ン♪チャチャチャチャ-ン♪』

 

 

だが目にしたのは、誰もおらずラジカセがただひたすら音楽を大音量で奏でていた光景であった。

 

 

『チャチャ-ンーーー虫ケラさんかと思っていたのか?残念!俺だよ!バーカ!』

「ーーー!?」

 

 

曲の終わりと同時になんかよく分からないことを言っているのを認識したバット。

だがガンガンなっていたラジカセが鳴りを潜めたと同時、2人のいた場所が暗い影に覆われた。

 

 

「ーーーと、言う訳でお待ちかねの……ロードローラーだぁぁぁあっ!!」

 

 

次見たときにはノットの頭上にロードローラーが隕石の如く物凄い勢いで降り注ぎ、ノットを押し潰した。

 

 

「……悪い遅れた、姐さん」

「遅いぞドアホ」

 

 

ロードローラーの上に立つ男を見て彼女は安堵の笑みを浮かべたのも束の間のことでそれはすぐに崩れる。

 

何故なら潰していたロードローラーが突如、緑のエフェクトと共に爆発した。

幸い上にいた男は爆発前に跳躍していたので難を逃れた。だが轟々と燃える炎の中から悠々と特徴的なあの足音を鳴らしながら歩んで出て来たノット。しかも無傷で、怖いぐらい恐ろしい笑顔でだ。

 

 

「……クズが、わざわざ俺に殺されに来たか」

「久しいね、君が出るのはいつ振りか?本能(破壊王)さんよぉ」

「さあな、そんなことはどうでもいい……なあ、オメガァッ!」

「うわっ、獲物を定めた肉食獣のような目つき……えらく好戦的だねぇ」

「そりゃそうだ。貴様さえ殺せば後は雑魚。俺が勝ったも同然だからだ」

 

 

1人は歓喜。片やもう1人は呆れとそれぞれ違う反応をする2人。バットはただそれを黙って見守ることしかできなかった。

 

てか本能?つまり、今のあいつは本能のまま行動してるってことか?でも、それだけじゃないような……

 

ここで更に最初に感じた違和感に疑問が深まるバットだが、そんな彼女をほったらかしにして話は進んでいく。

 

 

「……早速だが姐さんのために俺に倒されろ」

「フッ、それを言うのか?やっとやる気になったようだが、今のお前程度のパワーでこの俺を倒せると思っていたのか?」

「そりゃあどうかな?確かに今の俺1人じゃお前には勝てないかもしれんが……2人では変わるかもしれんぞ?」

「流石姐さん……よく言った。それでこそ僕が気に入った人だ」

 

 

だがその言葉にイラっとしたのか、オメガに変わり思わずそう言い放ったバットは槍をバトンのように器用にクルクルと回す。オメガはそんなバットの姿に喜びの表情を見せ、両手の指の間に日本刀を挟んだ。

対してノットはそれを見て尚も2人に対する態度を変えず、嘲笑っていた。

 

 

「クハハハハハ!雑魚が集まったところで無駄なのだっ!」

「本当、何がしたいんだか……」

「俺はただ鬱陶しいクズ共を殺すだけが目的だ。だが……早く俺を倒さなければ俺はバットも破壊するかもしれんぞ?」

「よし、殺す」

「フフフ……そう来なくちゃ面白くない」

 

 

槍を構えたバットと首を鳴らすオメガ。2人は互いに見合い、同時に飛び出した。

ノットは嬉々とした笑みを浮かべ、地を蹴って2人に向かって駆け出す。

 

 

「さあ来い!ここがお前達の……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「死に場所だあっ!!」」ってパクリーですかぁ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず先手はノットであった。

悪魔らしい悪どい笑みを浮かべながら向かってくる2人を見やるノット。すると突然何を思ったのか、その巨体から想像出来ぬ軽やかなサイドステップで移動し、1人に狙いを定めた。

 

 

「なっ!」

「しまっ……!?」

 

 

狙ったのは、丁度さっきの戦闘によりダメージを受けて弱っているであろうバットであった。

狙いを定めたノットは丸太以上に太い腕でラリアットを繰り出した。

 

 

「があっ……!?」

「なっ……姐さん!」

 

 

そのまま近くの壁に叩きつけられたバットは苦痛の声を上げ、あまりの速さに遅れてしまったオメガはその速さに驚きつつも急ブレーキをかけてバットへと方向転換した。

それを感じ取ったノットは腕を元に戻して彼を挑発するかのようにこう言った。

 

 

「オメガ!バットはカワイイかぁ?」

「そりゃ当たり前d……っておいぃぃぃ!?」

 

 

その確認をするや否やノットは軽やかに後ろに飛びながら緑弾をバットへと投げつけた。

前やった時より比べ物にならないぐらい加速している緑弾にオメガは驚きで声を上げるもすぐ様彼女へと駆け寄って、

 

 

「がはっ……!」

 

 

彼女を抱きかかえるようにして背中に被弾して吹き飛ばされた。しかし、彼女を守るように身体を捻り、背を地面に向けて落ちることで何とか彼女を守る。

 

 

「オメガ!?」

「ッ!?……くっ!」

「お、おい!?」

 

 

だが突然何を思ったのか、守るように抱えていた彼女を上空へと投げたのである。

 

何故なのか疑問と共に少し怒りが出て来るが、それはオメガがノットの両手を受け止めているのを見るまでのこと。

どうやら彼は迫り来る悪魔に対応するために自分を逃すついでに投げたとだと理解した。

 

 

「……その程度か?」

「何っ……!?(やっぱりパワーはそっちが上か!)」

「潰れろ!」

「ぐあぁぁっ!」

 

 

力比べで明らかに勝っていたノットはそのまま腕の力でオメガを肩より上に上げて、サマーソルトキックで自分の後ろに蹴り飛ばす。

そのままドップラー効果のように声を出しながら飛んでいって廃ビルへと突っ込んだ。

 

 

「フン、今トドメを刺してやr「甘いなっ!」」

 

 

追撃で手の平を向けるノットに上空にいたバットは槍を向けて強襲する。

だが、頭上にいることに気づいたノットは彼女を頭突きで反撃した。

 

 

「ぐあっ……!」

 

 

槍を物ともせず無理矢理頭突きで上へと打ち上げられたバット。そしてノットは悪魔のような笑みを浮かべ、足に力を入れて真上に跳んだ。

 

 

「ギガンティック……ダァーンクッ!!」

 

 

そして手に緑弾を練り上げ、それを上から叩きつけた。

 

爆発と同時に地へと落ちていくその姿はさながらバスケットボールでダンクシュートされたボールそのものだった。

 

しかしボールとは違い、地面に付くと同時に跳ねることなくその動きは止まった。

 

 

「うっ……ぐ、あっ……!」

「ククク……」

「南◯獄◯拳(もどき)!!」

 

 

足と腕に力を入れてゆっくりと立ち上がろうとするバット。

だがその上にいたノットは踏み潰そうと重力に従って降下する……つもりが、飛来して来たオメガの飛び蹴りによって失敗した。

 

 

「ッ!?クハハハ……」

「おいおいマジかよ……」

 

 

顔面を蹴られたことにより落下地点がズレたことに安堵するオメガ。しかし顔面を狙い、当たったはずなのに喰らった当の本人はただ笑っているだけだったことに思わず笑みを引きつらせてしまう。

 

 

「どりゃぁぁあっ!!」

 

 

だが立ち上がったバットが槍でノットに斬りかかったことにより、引き締まった表情となり、彼女の勇気に便乗して負けじと殴りかかる。

 

 

「……鬱陶しい!」

 

 

だが、それはノットにとっては蝿が集ると同意であったようで寧ろ苛立った口調で言うや否や、腕を横に広がるように伸ばし、2人の顔を掴んだ。

 

 

「ぐおっ……!?」

「むごっ……!?」

「……ぶっ飛べ」

 

 

そして、ただ純粋に腕を振るって手の力を抜く。それだけのことで掴まれていたバットは廃墟をいくつも貫きながら流星の如く視界から消えた。

 

 

「んんんっ!?っん、んんんんんんんんっ!!(姐さん!?って、離せや脳筋!!)」

「……チッ」

 

 

顔を掴まれてぐぐもった声で怒りを吐露し、掴んでいる腕を殴るオメガにノットは腹が立ち、

 

 

「うるさい」

「うがっ……!」

 

 

手を下の方へと持って行き、そのまま彼の後頭部に強く膝蹴りした。後頭部を蹴られ、脳を揺さぶられて身体は宙へと浮いたオメガ。

 

そしてそんな彼の顔を後頭部から鷲掴みし、顔から地面に叩きつけた。

 

 

「クハハハハハハ!!」

「がっ……!ごがっ……ぼはっ……!?」

 

 

しかも1度ならず、2、3、4と何度も何度も顔を地面に叩きつける。

叩きつける度に出血し、返り血が血飛沫となって顔にかかってしまうが寧ろ舐めて嬉々として続けていた。

 

その酷い行為は流石悪魔としか言いようがない諸行であった。

 

 

「……死ぬがいい!」

 

 

そして叩きつけた回数が2桁に到達した辺り。トドメと言わんばかりに血みどろの顔となったオメガを持つ手を緑色に発光させて……ロケットの如き速さで放り投げた。

 

 

「ぐぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

ミサイルの如く飛ばされて行った先で遅れて響くバットの叫び声。そう、オメガを投げたのはバット諸共攻撃する算段だったと言うことである。

 

敵を圧倒的な力でねじ伏せている。その事実に思わず悦に入ったのか爆風の音に混じって悪魔のように高笑いをしていた。

 

 

「フッ、フハハ……フハハハハハハーーーッ!」

 

 

しかしそれも束の間のこと。悦に入っていたノットが気づいたのはそれが目前へと迫っていたからだ。

 

しかし気づくのが遅く、それはノットの腹を突き刺した。

 

 

「グゥッ……!?」

 

 

流石にダメージが通ったのか少し後ろへと1歩後ずさるノット。だがすぐに元の体勢へと戻し、それを睨みつけた。

 

 

「バットォッ!」

「へへへ……ほんのちょっとは効いたようだな」

 

 

そこにはノットを突き刺した青い雷電を纏った槍をくるりと回す、したり顔のバット。

彼女の言う通りで放った、と言うより持ったまま一緒に突っ込んだ槍はノットの皮を少し抉る結果となっていたからだ。

 

 

「雑魚共がぁっ……!貴様らだけは簡単には死なさんぞぉっ!!」

 

 

だからこそ、滅多と攻撃が通らないこの男にとって目に入っているバットとその投擲者であるオメガを危険と判断したようだ。

 

怒声と共に彼に纏う気が膨れ上がり、それは一瞬世界を緑に染め上げる。それはまるで別世界ではないかと誤認するほど凄まじいものと言っておこう。

 

 

「おいおいマジかよ……!」

 

 

やがて染まった世界は元の色を取り戻すが、緑の光が彼の右手へと収束されていく。そこから感じる濃厚な殺気と膨大な力にバットは冷や汗を流す。

 

 

「これでくたばるがいい!」

 

 

迎撃しようかと考えたが、それに込められた禍々しい気が彼女の直感が警鐘を鳴らしており、気づけばその場からノットに向けて駆け出していた。

しかし辿り着く前に奴は放った。ノットの手の中に簡単に収まるぐらいの小さき緑弾、それをバットへと飛んで行く。

 

 

「なっ!?」

 

 

出遅れたのが原因か、駆け出した直後にはもう緑弾は目前へと迫っていた。

しかしそこは敏捷EXの女。軽やかな足取りでステップを踏むかのように横へと跳んで間一髪で躱した。

 

目標を逃した緑弾は廃墟と化した街の一角へと向かい、緑の光が包み込んだ。

光が晴れると同時、壮大な爆発音が辺りに響き渡る。遅れて爆発によって砂塵と爆風、そしてそれに吹き飛ばされた鉄片が数キロ離れたバットを襲った。

 

そして戻った視界で現状を確認した時、その光景に驚愕した。

 

 

「くっ……やり過ぎだろ!あいつ!」

 

 

その光景とは……緑弾が落ちたであろう街の一角が一瞬にして何もない荒地へと変貌していたからだ。

 

前見たことあるので慣れていたというのもあるが、まさか本気でやるとは思わず悪態付いた。

 

 

「ククク……クハハハハハハハハッ!!」

 

 

爆風に混じってノットの悪魔のような高笑いだけが耳に入り思わず彼女を声を荒げた。

 

 

「テメェ……少しは手加減しろよ!!」

「手加減ってなんだぁ……?」

 

 

ニタリと笑みを維持したまま小首を傾げるノット。それが単にふざけているからか、或いは本当に手加減というものを知らないのか、バットには分かっていたため舌打ちをした。

 

 

「チッ……」

「ククク……次は躱せるといいなぁ」

「えっ……?」

 

 

だがそれで終わった訳ではなく、寧ろこれからである。

 

またしても世界は緑に染まり光が収束する。ここまではさっきと変わらない。

 

だが、それが“本人の周りに収束しなければ”の話だが……

 

 

「嘘、だろ……!?」

「気が高まる……溢れる……!ウォォォオォォォオォッ!!」

 

 

叫びと共に見たのは、ノットを中心に無数の緑弾が雨の如く辺り一面に降り注ぐ光景だった。

 

 

「クソッタレ!(あいつ……当たらないからって適当に撃ってんな!?)」

 

 

降り注ぐ緑弾の雨を躱しながらどう現状を打破しようかと考えるバット。しかし、考えることが苦手なバットには何も思い浮かばず苛立ちと疲弊が募るばかりである。

 

 

「チッ……オメガ!!」

「あいよ!」

 

 

だからもう面倒になったので仲間に頼ることにした。

 

待ってましたと言わんばかりにバットの呼びかけに応え、彼女の目の前にいい笑顔(血塗れの顔)ですぐ様現れたオメガ。出てくるや否やどこからか取り出した大量の刃物類を連続で投擲する。

 

投擲された刃物類は全てこちらに飛来してくる緑弾へと当たり、緑の光と共に互いに消えていく。

 

 

「クズがぁ……!」

「こいつは……どうよ!」

 

 

そう言ってある物を両手で持ち上げて全力で放り投げる。それは2メートルは優に超える剣……いや、剣とはとてもいいにくい不恰好な石刀であった。

 

 

「フッフッフッ、こいつはその昔、騎士狩りと呼ばれた人物からパク……譲り受けた刀のレプリカ!そう安安と折れまーーー」

「フッ」

 

 

だがそれはがっしりと、それに余裕そうな笑みを浮かべて片手で受け止められた。そして、そのまま両端を両手で持って……膝でへし折った。

 

 

「……あれぇ?確かかなりの重量と硬さだったはずだけど……?」

「……その程度のもので、この俺を超えれると思っていたのか?」

「デスヨネー」

 

 

まあ分かってたよとオメガは苦笑。だが焦ってる様子は見られず、ノットは疑惑を抱いていた。

 

 

「貴様……何を企んでいる?」

「企む?ノンノン、企んでなんかいないさ。強いて言うならーーー」

 

 

言い切る直前。オメガの遥か後方、黒い世界を照らす光が光線となって闇夜を切り裂いてノットへと直撃した。

 

 

「!?」

「ーーー援軍を呼んだだけさ」

 

 

身体中を光線が貫くも、肉体には何の変化もなく健在であったがその顔には青筋が浮かび上がっていた。

 

 

「チィッ!」

 

 

不意打ちをされたことに苛立ったのか目の前のオメガ達を無視して緑弾を光線の飛来源へと放り投げた。

 

 

「ゴールデンプリズン!」

「へあぁっ!?」

 

 

しかし緑弾が手から離れる直前、急に視界が暗い闇に包まれた時は思わず声を上げてしまった。

 

それを側から見れば金色の膜のようなものがノットを球体状に囲い込んでいただけなのだが、中にいたノットには分かることのないことである。

 

 

「なんだあれ……金?」

「ーーー金は昔から富、権力、威厳、才能などがイメージされますが……つまりそれは全て人の欲、それこそまさに強欲と言えましょう!」

 

 

大声で演説を締め括ると同時、地から黄金の水が湧き出る。その光景にバットとオメガは呆然と固まった。

 

 

「そう、強欲こそわたくしのアイデンティティ!それがこのマモンなのです!」

 

 

そう大声で自画自賛と言う名の語りが終わった直後、オメガとバットの後方から黄金に輝く水が地から間欠泉のように湧き出て、そこから1つの人影が中から飛び出した。

 

まあ本人も言っている通りマモンなのだが、手をついて綺麗に着地すると綺麗なジョ◯ョ立ちを決めていた(3部Di◯風)

そしてそんな彼女の横に白銀が降り立った。

 

 

「えっと……?」

「やあマモンちゃん、ルシファーちゃん。よく来てくれたね」

「フン、別に貴様らの為にここに訪れた訳ではない」

 

 

オメガの声掛けを鼻であしらう白銀の女、ルシファー。それを見てマモンはただクスクスと苦笑していた。

 

 

「……なんだ強欲よ」

「フフフ……素直じゃないですわね」

「煩いぞ強欲。貴様の場合は素直過ぎて問題であろう?」

「仕方ありません。わたくしは強欲、自分に素直でなくては務まりませんので」

「貴様……『ァァァァァ!』フン、そういうことにしておいてやろう」

 

 

いつもなら口論が始まるのだが、今回は空気を読んだのかルシファーが引くことで話を強制的に終わらせた。

 

何故なら、ノットを囲んでいた金の膜にヒビが入る音を耳にしたからである。

 

 

「でぇやぁァァァァァっ!!」

 

 

案の定と言うべきか。次の瞬間、ヒビが入るとすぐに緑のエフェクトと共に爆発が起こり、ノットを縛っていた檻は跡形もなく蒸発した。

 

 

「ハァーッハッハッハッハッハ!!また虫ケラ共が死ににきたか!」

「うーん、結構固めにしたのですが……自信無くしてしまいますわ」

「文句を言うでないわ……とにかく奴を何とかして討伐する。後に続け貴様ら!」

「「「了解(しましたわ)!」」」

「ワハハハ……!所詮雑魚は雑魚!何をしようとこの俺を超えることは出来ぬのだ!」

 

 

 

ルシファーの一言に答え、全員が飛び出す。しかしそれでもなおノット(悪魔)はブレなかった。全員が手負いであることで勝利を確信。それに獲物が増えたことで喜びを感じ、嬉々として突撃していく。

 

馬鹿正直に突撃して来るノットにルシファーとマモンは飛び道具で応戦。ノットは腕で庇おうともせずに単純に真っ直ぐ突っ込んでいく。

 

 

「……やっぱりやめだ」

「はっ……?」

 

 

しかしオメガは違った。気分が変わったのか急に方向転換、バットへと走ってそのまま掴んで抱え込んだ。

 

 

「どこへ行くんだぁ……?」

「姐さんを連れて、避難するところだよっ!」

 

 

思ったより状態が酷いバットを思って戦略的撤退を選択したオメガ。バットの文句に対応せずして彼はノットから背を向けて逃亡を始めた。

 

だがそれを悪魔が見逃すはずもない。

 

 

「この俺が逃がすと思っていたのか?」

「まあ無理だよね……だから!」

 

 

そう言って彼はどこからかサングラスを取り出して装着し、ポケットから出した筒状の物を地面に叩きつけた。

 

叩きつけられたそれは爆破し、耳をつんざくような爆音と激しい閃光が辺りに拡散され、ノットを襲った。

 

 

「チィッ……!目くらましか!?」

「どうよ俺の太陽拳(物理)の威力、思い知ったか!」

 

 

どうやらスタングレネードの類だったようで目と耳がやられ、強制的に目を瞑らされ、若干だが足元がおぼつかなくなっており、彼でも一応効くことが証明された。

 

 

「下らんことをっ!」

 

 

だがそれも一瞬のこと、2秒も経たぬうちに地を軽く砕くぐらいの勢いと確かな足取りで強く踏みつけた。そして閉じていた目を大きく見開き、確実に戻った視界で(オメガ)を探す。

 

 

「……どこへ行った?」

「こっちだよ!」

 

 

しかし実際背後から声が聞こえ、すぐ様後ろへと振り向き……左胸辺りに衝撃が走った。

 

 

「……ぬうっ!?」

 

 

驚くことにまたもや怯み、後ろへと仰け反ってしまった。しかもさっきより数歩後ろへと下がってしまったのだ。

 

 

「……なんだと?」

 

 

それだけではない。驚くことに目の前にいる下手人らしい人物がオメガだと言うこと。そして僅かだが衝撃を受けた部分がビリビリと痺れを感じることにノットは二重の意味で驚愕した。

 

 

「クズが……まだそんな力を残していたのか?」

「まあフェアじゃないけど全快させて貰ったよ」

 

 

そう言うオメガの言葉にノットは気づく。よく見れば血だらけの顔が綺麗になり、身体にあった生傷が消えていたのだ。更にその後ろには同じく手負いではなくなった魔王2人の姿があった。

 

 

「クズが……大人しく殺されていれば痛い目に合わずに済んだものを……」

 

 

だがそれでも悪魔は無駄なことだと嘲笑う。こちらは薄皮1枚で再開するのだ。明らかに不利なのは分かっているはずなのにそれでもなお挑む姿は滑稽だと。バットの姿がないのが気になるがあの程度ならばどうにでもなると。

 

本来の彼ならば纏めてやるのは面倒なので個々撃破を狙う所だが、狂化と破壊衝動、加虐体質の重複のせいでまともな思考が出来ない。ただ敵を破壊する、それしか今の彼の頭にはなかったのである。

 

 

「だが……そう来なくては面白くない。すぐ壊れるなよ?」

「フン、滅びつつあるこの街のど真ん中に貴様の墓を建ててやろう!」

「ほざけ!逆に貴様らを血祭りに上げてやろう!」

 

 

ノットの言葉を合図に3人とノットは同時に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『真槍雷霆・竜堕とし』

プレーステール・ケラウノス(プレーステールはギリシャ語で暴風、ケラウノスは雷霆《らいてい》)

ランクA

バットの故郷にある竜狩りの槍。1度投げると嵐のような雷風が固い竜鱗を貫き、天翔る竜を地に堕とすと言われている。バットが戦士としてら生きていた頃からのもの故に扱いが1番上手い。

竜に関わるものに者に追加ダメージを与える。鎧と組み合わせるとかなりの大ダメージを期待できる





『ギガンティックダンク』

ノットが作ったオリジナルの技。
頭突きで敵を真上に打ち上げ、その後自身も真上に跳躍し、緑弾を作って上から叩きつけ、敵を地面へと打ちのめす技。
その威力は軽くクレーターを作る程で、実に彼らしい力技といえよう。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。