〜前回のあらすじ(by自称悪の義姉)〜
「ご機嫌よう皆様、今回担当させていただきます椿アネモネでございます。
今回は2話連続更新なので次のあらすじはお休みになってますので気をつけてください。
では、早速ですが本題に入らせていただきますね。
前回、また大切な人を救うことが出来なかった悪魔君。遂にやけになっちゃってさあ大変。バットちゃんが止めようとしてるけど、どうなるかしら……?とにかくバットちゃん頑張って!きっと、貴女の王子様(と言う名のロリー好き紳士)が来てくれるはずだから……
一方計画が大きく狂い、苛立ちながらも目的を達成するためにどこかへ向かう彼。しかしそんな彼にイメチェン(?)したセイバーちゃんが立ちはだかったのです。どうやら全てがどうでも良くなったと言ってますが……果たしてそうなのでしょうか?
……正直に言えば2人の殺し合いは反対です。これはあくまで義姉としての勘なのですが彼女はあの子にとって必要な娘なんだと思うんです……ええ、もしあの子に彼女が出来るならばああいう娘が必要なんだと思うんですよね。
……もうこの世にいない私の代わりとして、あの娘ならきっと………」
冬木にある永時の拠点内。そこには警備兼護衛として残されたアリスと祈るかのような姿勢を取るネルフェの姿があった。
「お父様……お母様……」
「ネルフェ様……」
余程両親が心配なのかずっとそわそわしているネルフェにアリスはどう声を掛けるべきか分からず困り果てていた。
(『大丈夫、きっと帰ってきますよ』……は無責任な気がしますし……かと言って『帰ってこないかもしれない』は酷だと推察できますし……)
こればかりは機械である自分が恨めしく思う反面、これが情というものかと感心を覚えてすらもいた。
正直なところ今小型の偵察機で様子を見ているのでその様子を見せるのもありだったが、流石にそれは躊躇った。
理由は2つあるのだが、まず1つとして途中で永時の姿が消え、見失ったから。
そしてもう1つ、ネルフェ自身の特徴とも言える性格にある。
ネルフェ・B・終という少女は非合法な研究の生まれであり、魔王と永時の体細胞を用いて生み出されたホムンクルス。親の2人の影響を受けてないのが不思議なくらい、かなり変わった性格の子ども達がいる中で今のところ唯一まともと言える性格である。
「どうしましょうアリスさん!もしお父様達が帰ってこないかと思うとーーー死にたくなってきました」
だが残念ながら“あの終永時とベルフェの遺伝子を持つ子ども”が普通な訳がない。
今言ったのは冗談とか比喩の表現ではない。これは彼女の本心で、本気なのだ。
現に懐からカッターナイフを取り出し、あろうことか自身の首に向けており、
「ッ!?ネルフェ様!」
気づいたアリスによって、取り上げられた。
「あっ……」
「あっ、じゃありません!またですか?マスターとボケマs……ベルフェ様に止められたはずですが?」
「ご、ごめんなさい……」
いつも仕事しないベルフェを見るような凍りつきそうな鋭い目付きで見られ、思わず俯いて謝る。
そんなネルフェを見やり思わず溜め息のようなものを出すアリス。
そう、そもそもあの一癖も二癖もある魔王達の娘が普通な訳がない。
中でも“普通そうに見える”ネルフェにある特徴的な部分。それは、極度の依存性である。
研究所で生まれ、身体を弄られ、薬漬けにされてなお性格が歪まずに今のような感じでいられたのは、愛が欲しい。その一心で今日まで生きてきたからだ。
やがてとある被験体の暴走により研究所は大破。その隙に研究所からなんとか脱出し、調べにやってきたベルフェによって保護された。
その後自身の娘と知ったベルフェは研究心を抑えつつとりあえず永時の判断に任せようと紹介したのが始まりである。(ちなみにベルフェはこの後、純真無垢な表面により母性が刺激されて半ば親バカになった)
研究所にいた
生まれが生まれなので愛情の欠片もない場所で育ったのだ。愛情持って接してくれたことにより念願が叶ったのだ。こうなってしまうのは仕方ないのかもしれない。
「で、でも……」
「でももクソもありません。あの方々がどうなるか分からない以上私達は信じる他道がありません」
とは言っているものの、魔界に住んでいた娘をわざわざ呼び寄せたのだ。恐らく永時の方は……
「ーーー」
(ええい、何を弱気になっているのです!私はあの方々から作られた娘のようなもの。つまり姉のような存在である私が信じなければ誰が信じると言うのです!)
「……っとーーー」
ペシペシと頬を叩いて自身の奮わせるアリス。しかしそんな彼女の肩を叩く人物がいた。
「おーい。ちょっといいかい?」
「なんですか?今忙しいのですがーーー!?」
考え込んでいた時にかけられた声に苛立ちを覚え、強く当たってしまうアリス。しかし後ろを向いて目を見開いた。
「やあ、ブロリーです……じゃなくて、オメガさんですよ」
フフフ☆と言った感じの台詞が聞こえそうな爽やかでウザったらしい笑みを浮かべ、その脇には紫の髪の少女と黒い髪の美女2人を抱えている男がいた。しかも抱えている1人はやられたのかボロボロの姿であった。
「この反応……オメガ!?」
「えっ?ちょっと……?」
オメガの名を呼ぶや否や、ネルフェを後ろに隠して武装を展開した。
しかし武器を向けられたオメガは困惑していたものの、状況を理解したのか軽く溜め息を吐いていた。
「いやね……別に争いに来たわけじゃないのよ?」
ほれ、と譲り渡すように抱えていた2人を床に横たわらせる。アリスにはその行動の心意が読み取ることが出来ず、今度はこっちが困惑していた。
警戒していて張り詰めた空気となる中、ある1人だけは臆することなく話しかけた。
「あ、あの……!」
「ん?なんだい?」
「そ、その方達は一体……」
まあ言わずもがなあの永時の娘であるネルフェちゃんである。驚愕した表情であるも怯むことなく、しっかりとした意志のある目でオメガを見据え、話しかけていた。
そんな彼女の目を見て彼は面白そうにニヤリと笑っていた。
「この娘達かい?この娘はねぇ……君のお姉さん達だよ?」
「お姉さん?」
「そう、お姉さんだ。生まれ的にはね?」
後で出生地でも調べればいい、と言って彼は背を向けて去って行こうとする。
しかしアリスがそれだけで納得するはずもなかった。
「お待ちください」
「何か?」
「……何故わざわざこのようなことを?」
要するに意味が分からないと言っているアリスにオメガはただ1つだけ答えを出した。
「そんなこと決まっているさ……僕は気分屋。口調も、性格も、全てその場の気分でやっていく、それが生き方なんでね……そういやお嬢ちゃん」
「えっ?私ですか?」
「そう、僕から1つだけ贈り物を贈ろう……君が幸せになるためのおまじないをね」
そう言って1本の杖を渡すオメガ。渡されたネルフェとしてはどういう意味か理解出来ず、小首を傾げるだけとなった。
「杖?」
「……君はあのネバーの娘だ。それ故にこの先様々な困難が来るはずだ……されど希望は捨てるな。さすれば必ず、報われる日が来るだろう」
「??」
「僕は子どもの味方、とは断言出来ないがそういうことだと思ってくれればいいさ……きっと、いつか本当にそれが必要な時が来るはず、その時は……手を貸してあげることも、吝かではないさ」
そう言って彼は姿を消した。残されたアリスとネルフェとしてはまあ困ったものであり……。
「えっと……?」
「と、とりあえずこの方の治療をしましょう……」
(全く、本当に甘くなったもんだ。心境を表すなら親戚って気分かな?……だが、偶にはこんなことするのも面白い)
(ネバー……君という男はいつだってそうだ。自己満足のためだとか言ってプライドやモラルとか、終いには自分の命を平気で捨ててまでして誰かの為に戦う。その為には君は手段を選ばんだろうなきっと……)
(だからこそ僕は見させて貰うよ……君の進んだ道の結末がどうなるかを……ただし、もしあの世に行ったとしても姐さんを泣かしたら殴り飛ばすけどね♪)
「……面倒だな」
血痕を身体に多少付けてはいるものの、傷跡がないように見られる永時はアサルトライフルを構えて発砲した。放たれた弾丸は何故か敵であるセイバーの横腹などを貫いた。
「それならば潔く殺されてください」
「断る……ッ!」
しかし、それも数刻経てば塞がってしまい永時は思わず内心舌打ちした。
撃たれたのに怯むことなくセイバーは永時に剣を振るう。
「チッ……!」
それを永時は左手に持った黒いオーラで包まれたナイフで受け止めることにより、火花が散る。そしてアサルトライフルを捨て、空いた手で拳銃を取り出して速射した。
対してセイバーは受け止められた剣を戻し、弾丸を避けて剣の柄を銃を持つ手にぶつけた。
「しまっ……!」
「終わりだ!」
思わず銃を手放して少し仰け反り、隙だらけとなった永時にセイバーは一刀両断しようと振り下ろした。
「ぐっ……!」
だが苦痛の声を声を上げたのはセイバーの方。
何故なら脇腹を横から飛来したものによって貫かれたからだ。
「こ、姑息なことを……!」
すぐ再生させたセイバーが見たのは、ふわふわと浮いているさっき落としたはずの拳銃であった。
ネタを明かすと単に
だが、これはセイバーにとっては死角からの攻撃方法があると教えられたもの、つまりは面倒な事態である。
「ハッ、結界内限定で交信遮断、不老不死と再生能力を持つお前が言えることか?」
「事実上不老不死を持ち、超能力染みたものを持つ貴方にだけは言われたくないですね」
言われてみればと永時は思う。現状として互いに死ぬことが困難となっている。だが向こうの方が再生能力は上回っている。
つまり、ほんの一瞬だけ隙を見せたら負ける可能性があるということだ。
「……無理か?」
「何がです?」
「いや、何でも(……あいつらが来れない以上、ジリ貧は確定か)」
ならば少しでも奴が不利になるような要素を増やすだけである。
(……おい、まだか?)
《(もう少し時間を稼いでくれ、流石の私でも時間は喰うのだ)》
(……了解)
斬りかかってきたセイバーの剣を避け、念話する永時。この会話で時間稼ぎがまだ必要なことは理解した。
「まあ時間稼ぎは不得手ではない」
「何?」
避け切った永時は自身の右手から黒炎を作り出し、セイバーへと撃ち放った。
空気中の酸素を喰らい、轟々と燃える黒炎が迫る中、セイバーは黙って剣先を黒炎へと向ける。
「甘い」
すると黒く染まった風の塊が収束し、剣先から放たれた。放たれたそれは黒炎とぶつかり、互いに消滅した。
「……その言葉、そのまま返してやるよ」
だが、セイバーの視線が捉えたのは黒いオーラを纏わせた左手を地面につけている永時の姿であった。
それを見たと同時、密着させていた手から黒炎が放たれたのだ。
放たれた黒炎は地を這うかのように燃え進み、セイバーへと猛スピードで迫るも見えているから何の問題もなく横へ移動することで回避された。
だが更に追撃として回避していた方向から金属片やバイクなどのガラクタなどが飛来してきた。
「……まあ分かっていました」
まあ分かりやすい一撃を入れてきたのだ。こんなことだろうと思っていたセイバーは振り払おうと剣を持つ手に力を入れてーーー更に前へと飛んで漆黒の暴風を撃ち放った。
「チッ」
暴風は目の前から飛んできた黒炎弾とぶつかって爆発。その後ろで苛立ちを見せる永時の舌打ちがはっきりと聞こえて内心ほくそ笑んだ。
「言ったはずですよ……甘いと」
そう言って彼女は永時へと懐へと肉薄し、クルリと身体を捻って自身の持つ美脚で、自分の胸元のナイフへと手を伸ばす永時の手を蹴り上げた。
「っ……!?」
蹴り上げられたことで持とうとしていたナイフを宙へと飛ばしてしまった永時。手も上に上げられ完全に隙だらけとなった彼に剣を切り上げるように振るった。
「ぐっ……!」
反射的に永時は身体を後ろに逸らし、剣先が深く身体を抉ることなく浅いもので済んだ。だがそこで終わるはずがない。
「……がはっ!?」
切り上げから切り替え、突きを放ったセイバーの剣が彼の肉体を易々と貫いた。
吐血し、苦痛に歪めた顔を見てセイバーは嫌な笑みを浮かべた。
「ーーーッ!?」
だからこそ少し気が緩んで油断してしまったのは仕方ないことなのかもしれない。
細く、冷たい陶器ようなその手を掴まれたことによりセイバーの顔から笑みは消えた。
「馬鹿が、その程度で終わるとでも?」
そう彼が言い終わったと同時、掴まれたセイバーの手が爆発した。
「……あぁぁぁぁぁあぁぁっ!?」
遅れてやってきた苦悶しそうな痛みが彼女を襲った。
いくら高速の再生能力を、不老不死を持ったとしても刻み込まれる痛みだけは誤魔化すことは出来ないのである。
綺麗に吹き飛び、焦げ目だけを残す手首をもう片手で押さえながら後ずさり、傷を再生させている永時を睨みつける。
「な、何が……!?」
「ゲホッ……!『闇の活性』っていう、昔教えてもらった魔術だ」
「しかし!私には対魔力が……!」
そこでセイバーはようやく気づいた、よくよく考えたら自身には対魔力があることを1番知っているこの男がどうして魔術を撃ち込んでいるか。
それはダメージを受ける確信があるから放っているからではないかと今頃気づいた。
「
「……!?」
そう言われてセイバーの顔が少し強張った所を見るとどうやら図星のようである。
その顔を見て満足したのか永時はニタリと悪どい笑みを浮かべていた。
「この魔術は面白い性能でな。対象が人間を捨てている、或いはその内に闇を抱えるもの程威力が上がる代物なんだよこれが……今のお前には持ってこいのものだろ?」
「まさかそのような魔術を持ち合わせているとは……」
「つっても、代償はあるがな」
そう言って少し焦げ目の見える右手を苦笑しながら見せつけてきた。
「……なるほど、闇に抱える程威力が上がるということ。つまりは貴方もその対象だということですか」
「所詮俺もちょっと超能力を持っただけの、普通の人間だ。闇の1つや2つ抱えて当然だ」
「このようなものを取得していたとは……師はさぞ腕の立つ人物なのでしょうね」
「ああ……こんな俺に魔術を教えてくれた。常闇のような底知れぬ妖艶さと、燃え尽きぬ炎のように熱心な情で俺の師事をしてくれた。ただのクーデレ魔女……いや、まあ、俺個人としてはいい女だったよ」
少し変質したとはいえ、サーヴァントに生身で傷を与えれる魔術を師事した人物に興味はあったので聞いてみたがまさか答えてくれるとは思えず、懐かしそうに答える永時に少し驚いた。しかし逆にこんな疑問も浮かび出した。
「……思ったのですが、それを使えば簡単に自殺が出来たのでは?」
「何?」
「いえ、貴方は前に死に場所を探していると仰ってたので何故そうしないのかと思っただけです」
「なるほどな。まあ今の所自殺はする気はないさ。前は訳あって黙って消えるつもりだったが……今はやるべきことがあるしな。それに……」
「それに?」
「……前言ったと思うかもしれんが俺は悪だ。今まで俺は少なくともここにいる騎士共の亡骸よりも多くの命という命をこの手で葬ってきた。だからこそ俺は普通の死に方はしてはならないと、悪は悪らしく惨たらしい死に方をしなくてはならないと少なくとも俺はそう考えているんだよ」
だが彼は実質の不老不死。死とはほぼ縁がないとは、なんと皮肉染みたことであろうか。
「それにな。
「……なるほど、それは良かった。私としては助かりますからね」
「何?……まあいい、無駄話はここまでだ。手が戻るまでに、出来るだけやっておくか」
「ッ!?」
変なことを言い残し、ようやく手が再生し始めたセイバーを見るや否、いきなり懐へと入り込み、ナイフを振るってきた永時。辛うじて直感が働いたことと、視界に捉えれたおかげで身体を後ろに反らすことで左胸辺りを少し掠らせることでなんとか済んだ。
だが、ただのナイフでやられた跡が焼け焦げているのを見たことで少し焦りが生まれた。
「くっ……!(まさかただのナイフで傷付くとは……やはりこれも『闇の活性』の効果を受けていたか!)」
「俺の魔術は特殊でな……こういうのでも持たなきゃ
そう言って新たに武器を取り出し、1歩踏み出す永時。それに対しセイバーは逆に1歩後ろへ下がった。
本来なら敵を前に引くことなどあってはならないと思っているが、片手がなく剣も満足に触れぬ状態で、更には相手は何を仕出かすか分からないのだ。これは仕方ないことだとそう自分に言い聞かせた。
ジリジリとにじり寄ってくる永時とゆっくりと下がっていくセイバー。客観的に見れば今まさに襲われようとしている美少女のようにも見えるだろう。まあ現にそうなのだが……
「さて、悪いがしばらく動かなくなって貰おうkーーーっ!?」
だが、そう甘くないのが現実というものである。
「ま、まさか……!?」
突然重力が何倍にも掛かったかのように膝から崩れ落ちた身体、そして驚愕する2人。しかしその意味はそれぞれ違うことを意味していた。
1人は予想が付くだろうが予想外な出来事によるもの、そしてもう1人は……思ったより早く身体が動かなくなってしまったことによる驚愕であった。
(嘘だろ……さっきよりも早く切れただと!?)
その証拠に動かそうにも震えることしか出来ぬ手足に彼はただ焦ることしか出来ずにいた。
「なるほど、そういうことですか」
急なことで呆然としていたセイバーが意識を戻したようで、戦闘前の強烈な気配が消えた所から全てを理解し、もう元通りとなった手をチラリと見て笑みを浮かべた。
「か……神様って、のは………酷い、よな?」
「そうですね。神は見守るだけの存在らしいのであながち間違いではないかと……」
そう言いながら剣を構えてこちらに歩み寄るセイバー。その顔には油断らしきものがあり、完全に動けないと判断されたようだ。
まあ事実動けないのが現状であるが。
(チッ……マズい。このままじゃあ確実になぶり殺しか斬殺されるか……何か打破する方法は……)
幸いまだ脳は動くので頭を回転させて現状打破の方法を思考する。だが、ゆっくりと迫るセイバーを見て焦りが積もっていく。
(……………あった)
あるではないか。まだ自分は負けた訳ではないようだ。
目の前で振り下ろされる凶器を前にして永時は内心笑みを浮かべた。
「これで、終わりです……!?」
振り下ろした剣が今度こそ永時の身を斬り裂いた……つもりだった。
いや、正確には斬ったのだが剣先が途中で止まってしまったのだ。何故かバチバチと音を鳴らす動かないはずの彼の左の手首によって。
「……ッ!?結構、いっ、たなぁっ……!」
そう言って彼はもう片手をセイバーと反対の方へと向ける。すると物理的に手が飛んで行った。さながらロケットパンチの如く。
「なっ……!?」
まさか手が飛ぶと思わず驚愕するセイバー。
手はロープのようなものを付け、尾のように揺らめかせながら遠ざかっていく。その方角は永時の後方、そこに突き刺さっている剣を強く掴んだ。
「ッ!?まだ動く力を残してたのか!?」
「(ワイヤー付きアーム……昔立体移動用に付けたものが役立つとは………人生何が役立つか分からんものよな)」
スパイ映画でよくありそうな感じでワイヤーに引っ張られてその場から高速で離脱する永時。
だが当然それをセイバーは追ってくるのは必然であり、現に剣を自身の背後に向けて暴風を放ち、ジェット噴射の要領でこちらに急接近しつつあるのを確認した。
「っ……!(喰らえっ!)」
ガシャンと金属音が鳴ったと思ったら、突然右肘にポッカリと空洞が出来た。
そして、その空洞からは複数の砲身が環状に並べられた……
「ぐっ……義肢か!」
まさか腕が義肢とは思わなかったようで、その証拠としてセイバーの顔が驚愕に染まっていた。
この義肢はベルフェによって作って貰ったもので、脳さえ機能すれば動いてくれる代物である。とは言っても、あのマッドな女がただの義肢を与えるはずもないのだが……。
「なっ……!?」
しかし、それは“剣を手放したこと”によって紙一重で回避された。
まさかあれだけ騎士道とか何とか拘っていた女が得物を手離すとは思えず、今度は逆に永時が驚愕。しかし風を放っていた剣の勢いは止まらず、弾丸を弾き飛ばして永時の肩に直撃した。
「うがっ……!?」
「はあっ!」
バランスを崩して降下、地面に身体が接することで減速。剣は回りながら地へと落下していく。
それをみすみす逃すつもりはないのかセイバーはそのまま足に力を込めて跳躍する。そしてそのまま剣を掴んだ彼女は跳躍の勢いを殺さぬまま、失速する永時の右腕を肩の接続部分ごとばっさりと切り落とした。
「……!」
青白い電気を僅かに放ちながら、弾丸を吐き出したままワイヤーに引っ張られて離れていく右腕。それにより距離を取るのに失敗。
だが永時は右腕だったものを黙って一瞥し、相も変わらずの嫌な笑みへと戻した。
「まさか義肢だったとは……貴方には驚かされてばかりですよ」
「寧ろただの人間が、魔王と戦ってきて……生身で残ってる方が不思議だろ?」
「ええ、確かにその通りです……ねっ!」
多少話をするなり間髪入れずに剣を振り下ろすセイバー。何故なら彼女の直感と今まで付き合ってきた際の経験と贋作によるもたらされた情報が物語っているのだ。
早く始末しなくては、長期戦になるとこの男は何を仕出かすか分からない。だから彼女は迷いなく剣を振り下ろしたのだ。
それに対して永時も簡単には殺されまいと残った左腕を動かすも剣の迫る方が早く、永時の身体を引き裂いた。
「……エイジ!!」
と思いきや、残念ながら甲高い金属音と共に振り下ろされたはずの凶器は寸の所でまた止められた
しぶとさが売りなのが終永時という男である。
「……何っ!?」
もう止められることはないと確信してたが故に、セイバーは目を見開いた。
そして、自身の剣を止めたであろう見覚えのあるピンク頭の長身の美女の姿とその者が持つ太刀を見て、更に大きく目を見開いた。
「まさか貴女がここに入ってこれるとは思わなかったですよ……アスモ」
「……」
いつもほぼずっと笑みを浮かべていた時とは一変。憤怒の交えた、溢れ出す禍々しい殺意を視線に込めて睨んでいた。その姿はまさに魔王というには相応しいものと言えた。
「なるほど……魔王というのは伊達ではないということですね」
「……エイジ、これを」
「……黙ってた、つもり………だが、流石と言っておこうか(……何も言ってないのに来れるとはやるな)」
「まあ君の相棒のつもりだからね。君の魔力を辿って来てみれば……凄い所に来たね」
語りかけてくるセイバーを軽くスルーし、アスモであろう美女は永時の所へ歩み寄り、懐から黄緑の液体が入った1本の小瓶を取り出した。
「……飲める?」
「少し、時間が……かかる、がな」
「……そう、なら仕方ないね」
「それをさせるとでも?」
そこで、黙っていたセイバーがようやく動きを見せた。
まず、永時を庇うように自身の前に立ちはだかるアスモに剣を向けた。
「……小娘が、そう易々とこの男をやらせると思うなよ?」
(へえ、こいつが魔王らしくするとか……似合わんな)
来ると分かるや否や、更に殺気立つアスモ。それを見てらしくないと内心苦笑しつつ頼もしい相棒だと称賛する永時。
しかし彼は同時に思考する。いくらアスモが魔王でも彼女はその性格故に戦闘はあまり得意ではないはず……まさか戦うというのか?
一方、面倒なことになったと内心独り言つセイバー。まさかこんなにも早く来て、しかもここに入られるとは思ってもおらず目標が遠のいてしまったのだ。独り言つのも仕方ないことだろう。
「(どうやら永時は悪運が強いようだ……厄介な程に)」
今すぐ目標である永時をさっさと始末したいのだがそうは問屋が卸さないと言った所が現状である。護衛の様に永時の前に位置するアスモ。アスモが小瓶の中身を飲んでいるのが見えるが……目の前の女の行動に集中しなくてはならないためハッキリとは見えない……
「エイジ、ちょっと失礼するね?んっ……」
「……!」
前言撤回、何故かアスモと永時が接吻……まあ要するにキスをしているのがハッキリと見えてしまった。しかも深いやつを。
しかし、永時の目が見開いているのは気のせいだろうか?
「なっ……!」
知識としては知ってはいたものの、女としての経験がないため思わず手を緩め、目を見開いて凝視してしまう程驚愕していた。
だがそんなことはお構いなしに2人は続ける。
「ん……んく……んちゅ……」
「……」
「(あれがキス……流石は色欲の魔王というべきか)」
さっきまでのシリアスはどこに行ったのやら。コクコクと小さく喉を鳴らす永時に頬を染めながら口付けをするアスモ。
だがそれと同時になんとも言えない怒りがマグマの如く、グツグツと煮えたぎるように込み上げてきた。
まるで自分のおもちゃを取り上げられた子どものような気分。別の例えなら慕っていた兄に彼女が出来てしまった感じ。
まあ要するに嫉妬のようなものなのだが、彼女が気付くことはないだろう。
そして手を出すことも出来ず、眺めること30秒程。ようやく2人は口を離す。
「んっ、くちゅ……ぷはっ……これで良し、だよね?」
「……ああ」
恥ずかしそうにモジモジするアスモと動じることなく立ち上がる永時。
そして、最初の時に感じた重圧が
「すまないアスモ。助かった」
「別にいいよ。僕は君のもの、ならば助けるのは道理というものでしょ?」
「……少し語弊があるが、まあいい………んで、ベルフェの奴はどうした?」
「いやね、ここに向かう途中で彼女と合流したんだけど……どうやら入れなかったようだね」
お忘れではないだろうか?この結界は固有結界並みに落ちたと言えど、妖精郷を再現しようとしたものの成れの果てだったもの。その効果は内部からの攻撃による破壊や交信は不可能ということを永時が証明していたではないか?
だが、その逆のことは試してはいなかったのではないかと。
「(空間操作の能力を持つベルフェが無理となると……)やはりそういうことか」
そこでようやく気づいた。この結界の
(今の所、ベルフェとアスモの違いを踏まえると……
また1つ欠陥らしきものを知れて少し喜ぶ永時だが、そうも言ってられない。今戦闘続行が出来た所でまた直ぐに薬が切れてしまうのが現状。しかも徐々に早くなっていると来たものだ。2人で優勢になった所か、寧ろ足を引っ張ってしまい不利なことには変わりようがなかった。
「(……どうする?アスモの奴と手を組んだ所で俺が足を引っ張るのは目に見えているが……何か打開策は………)」
「あっ……エイジ、いいこと考えたよ」
いつもの間の抜けた感じでまるで永時の内心を読んだのかのように話を切り出したアスモは永時へと近づいていき、そのまま抱きついた。すると突如永時の足元に魔法陣のようなものが浮き彫りになり、そのまま彼は光に包まれた。
「……!?」
光が晴れた時にはその姿は大きく変貌しており、セイバーはそれを凝視した。
黒をベースの戦闘服は紫色に染まった黒とで塗装され、淡いピンクのラインが入ったパワードスーツのようなものに早変わりしていた。
「こいつは……パワードスーツ?」
『昔使っていたのを参考に永時に纏う形で僕が変身したんだよ。ほぼ一心同体みたいなものだから動かない部分は僕が動かすから安心してね?』
説明を求める永時にいつの間にか太刀へと変化して左手に収まっているアスモが簡潔に説明し、聞くや否や永時は喜びを表に出した。
「ほう、そいつはいい……(流石アスモ、これなら薬が切れることを恐れずに済むというわけか。切られた右腕部分も動く………なるほど、一心同体というのはあながち間違いではないようだな)」
手を閉じたり開いたりし、動きに誤差がないことを確認する。
そしてガチャンと軽そうな金属音を鳴らしながらセイバーへと身体の向きを変え、まだ少し頬を赤らめている彼女を見て、ニヤリと愉快そうに笑みを浮かべた。
「何だ?小娘には刺激が強すぎたか?」
「そんなことではありません。戦場であのようなことをしている貴方達に驚愕しただけです。ええ、決して初めて見たことによる羞恥心ではないので悪しからず……」
そうかと楽しげに言う永時と言われて少しムキになって反論するセイバー。その姿はまるで少し前にもあったかどうか忘れたが、とにかく軽い口喧嘩をする兄妹のようにも思えてきて、もしかしたらこんな関係があったら面白かったのかもしれないと少し思う永時であった。
(……
今は肉体はなく人格だけの存在となった義姉のことを思い出し、思わずクスリと笑ってしまった。
しかし、そんな考えをしているなど知りもしないセイバーは小馬鹿にされたと思い、永時を睨みつけた。
「……何か?」
「いや、少し知り合いを思い出しただけだ。気にするな」
「そうですか……」
「そうだ……2つ、聞いていいか?」
「なんでしょうか?」
バイザー越しに見つめてくるのに妙な違和感を感じ取りながらもセイバーは応答した。
「お前がわざわざ俺を殺しにきた理由……どうせ聖杯を使用させてやる契約の元だと踏まえるが……どうだ?」
「ええ、そうですが?」
「了解、じゃあ2つ目だ……お前、もし聖杯を使えたとしてその後どうするんだ?」
「……その後?」
「だからな。何処まで戻すかは知らんが、もし選定の剣を選ぶところまで戻すのなら普通の小娘として過ごす。他には自身が再び王となって違うやり方をしてやり直してみるとかあるが……お前は具体的にどうするつもりなんだ?」
「そうですね……最初の内は選定の剣をやり直し、王としてではなく別の形で国を支えようと考えていましたが………今はもう一度王になるべきかと考えています。前のような甘さを捨てて行く、そういうつもりでいる所存です」
「なるほど、甘さを捨てるということは……
「あくまでそれは私の
「なるほど……だが、圧政をしたところで到達点は同じだろうがな」
そう言って刃先をセイバーへと向けるように太刀を構える永時。
本当は何がと聞きたかったセイバーだが流石に何もしないのは不味いと剣を構えてから口を開いた。
「……それはどういうことでしょうか?」
「付き合いが短い俺でも気づけたんだ。悪いが自分で考えな(まさか奴の言う通りとは……腹が立つが今回は奴が情報源で良かった)」
これはお前が気付くべきことなんだよ、と彼は告げると剣を身体から垂直になるよう構え、そのまま踏み込み刀を下から振り上げた。
(……方針や思考を変えた所で、お前自身が根本的な所で変わらねば意味はないと気づかんとは……全く持って哀れだ。ああ、哀れ過ぎる……)
(だからこそ