Fate/Evil   作:遠藤凍

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〜自称普通のあらすじ〜


「ブロrーーーノットです……よく来たな、礼を言う。

……何ィ?自己紹介だけ丁寧だと?フンッ、これは癖だから気にするな。

前回、自身の悪を紛い物の悪に語ったネバー。遂に彼女と再会して喜んだ。
よく頑張った(ここまで付き合ってくれたようだ)がとうとう終わリーの時が来たのだ。


















……と思っていたのか?

残念ながらまだ終わリーの時ではない。これからが本番なのだからな……さあ、お楽しみの血祭りの時間だ。



ネバー、お前は大事なものを守り続け、無事取り返したようだが気を抜くなよ……1度失ったらもう、後悔しても戻れないからな………」





目覚める悪意

 

 

「……ク、ソ……が………!」

 

 

何も見えない真っ暗な世界。そこにビギナーこと、ノット・バット・ノーマルは水の中を浮くような妙な浮遊感を感じながら漂っていた。

 

 

「クソがァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

そんな彼は今、怒り狂う鬼の如き形相で雄叫びを上げ続けていた。

 

理由としては主に衛宮切嗣などにいいように利用されてしまったこと。

そして、

 

 

「また誰も、救えなかった……!」

 

 

守ろうと決めた人をこの手にかけてしまったことによる後悔と自分自身への怒りであった。

 

 

アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

 

何故か分からないが、出会った時から彼女を必死で助けようと躍起にさせた女。

 

生まれがホムンクルスだから知らないが、世間知らずで好奇心旺盛。だが、同時にそれなりの教養と気品を持った芯の通った女。

いざ付き合ってみれば、夫である衛宮切嗣を愛し、心から信頼を寄せており、どこか柔和で母性的な部分を感じさせられる姫君。というのがノットから見た人物像である。

 

何故見知らぬ他人にここまで尽くしてきたのか、それは未だに謎だった。

 

 

ーーーじゃあ……アイリスフィールって女性にえらくこだわっとるようだが……まさか彼女と重ねてる訳じゃーーー何のつもり?

 

 

そう、あの一言を言われるまでは。

 

 

(まさかとは思ったが……)

 

 

彼の脳裏に浮かんだのは、お淑やかで温厚で、柔和な笑みをいつも向けてきた抱擁力のある平和主義者(お人好し)な女。

彼が今まで出会った中で癒しという言葉が最も似合う友の姿であった。

 

 

(まさかここでお前のような奴に出会うとは思わなかったぞ……)

 

 

どうやら自分は、彼女のことをかつての友に重ねていただけなのかもしれない。結論的にそう思わざるを得なかった。

 

 

(だが、もう遅い……)

 

 

しかし今頃気づいたところで、衛宮切嗣に裏切られ、アイリスフィールをこの手にかけた事実は、変わらないのだから。

 

 

「俺は……誰も救うことは出来んのか?」

 

 

精神的に参ってしまったのか、思わずポツリと漏らした本音。いくら肉体が強靭な伝説の悪魔とはいえ、中身は普通を目指しているただの男。参ってしまうのは仕方ないことだろう。

 

 

(もう、疲れた……所詮俺は破壊することしかできぬクズなのだ………)

『そうだ。それがお前、ノット・バット・ノーマルという男だ』

「……なんだぁ?」

 

 

突然の返答に対しノットは驚愕する気力もなく完全に気力は削がれているようだ。

 

 

『全てがどうでもよくなったのだろう?』

「ああ……」

 

 

何もやる気の起こらないこのやるせなさ。まるで大切な友が死んだ時と同じであった。

 

 

ーーーコントロールの効かなくなったお前は、もはや俺の足手まといになるだけだ……かわいそうだがブロリー、お前もこの星と共に死ぬのだ。

 

ーーーアイリスフィールという女を救いたいのだろう?ならば俺の使い魔について来い。行き着く先に目的の人と俺はいるはずだがら。

 

ーーー令呪を以って命ずる……今の己の全力を以って、聖杯を破壊せよ。

 

 

そして脳裏に浮かんだのは自分を利用した奴ら(クズ共)の言葉。(2番目はアーチャーの所へ突っ込む前の時に使い魔を経由して永時に言われた言葉だが、利用されたとはいえ、ちゃんとアイリスフィールの所へと案内したのは事実である)

 

だからこそ、それと同時に湧いてくる怒りは仕方ないことであろう。

 

 

ーーー何故だ。何故奴らは俺の邪魔をする……!ただ友に会いたいだけなのにだ!

 

ーーー思えば奴もそうだった。2度に渡って敗北したあの男も、いざ殺そうとしたら邪魔が入って殺すことが叶わなかった!

 

ーーーこのやるせない怒り……どうすればいい?

 

 

『ならば俺に委ねろ。お前の邪魔するものを破壊してやろう』

 

 

ーーーそうだ。その手があった。

 

ーーー邪魔するものがいれば全て破壊すればいい。

 

 

『「それが、悪魔と呼ばれた。俺という存在(ブロリー)なのだからーーー!!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー対象Xによる抑止力への干渉を確認。

 

ーーー被害状況を報告。ある対象の設定への干渉を行った模様。呼称名バット=エンドと推定。修正は不可能と見られる。

 

ーーーしかし運営には影響はなく、状況は様子見の状態で維持。

 

ーーー同時に対象Xを自然的排除から強制排除へと昇格。直ちに排除準備に取り掛かる。

 

ーーー対象の排除への成功率の高い存在を検索中………確認終了。

 

ーーー現在3名程確認。内1名は参加している模様。

 

ーーー直ちに霊基の再生を開始。

 

ーーー適合終了。『ノット・バット・ノーマル(ビギナー)』再起動。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、冬木公民館とその周辺は緑の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれは!?」

 

 

介抱を終わらせ、怪我人を安全なところへ避難させた心優しき戦闘狂は発生した謎の光の真相を探るため、光源に向かって走り出した。

 

自分の予想が外れることを願って……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あーあ……折角細工して姐さんを現存出来るようにしたのにこれとは……絶対あの子行ってるよなぁ………そこまでして排除したいのか?)

(……だけど目的は変わらない。あんな面白い人間はそうそういない。流石に失わせる訳にはいかないからな)

 

 

とある男はお気に入りの人を守るため、覚悟を決めて彼は向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……エイ……ジ………!」

 

 

倒れ伏す少女は、1人の男の名を力ある限り叫び、立ち上がった。

 

全ては男の隣に立つために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

倒れ伏していた魔王は目を覚まし、少しずつだが身体を動かし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《今の光……見たか?》

「ああ……チッ、面倒なことになった……!」

 

 

そして、自称悪はというと……崩壊しつつある建物上空を飛んで移動していた。

 

燃え盛る炎の海に包まれ、灼熱地獄と化した公民館周辺。

 

その地獄の中を長くなった髪を乱雑に切り落としながら移動していた。

 

 

「くそ……まさかこんなにも計画が狂うとはな……」

《どこの奴かは知らんが、見事にやってくれたものだな》

 

 

どうやら計画を狂わされたことに苛立ちを覚えているようだが、彼に

宿る声の主は逆に感心すら持っていた。

 

 

《確か……貴様の計画では奴を取り返した後、私の力で脱出。悪因である大聖杯とやらを潰す予定……だったか?》

「ああ……だから敢えて戦力的に拮抗する状態になるよう組み合わせて足止めさせてたんだよ」

《まあそれが狂ってしまったわけだが……》

「どこかの馬鹿が聖杯を壊すとか誰が思うんだ?」

《人間とは何をするか分からんものだ……》

 

 

だからこそ面白いのだ、と笑みを浮かべているのが想像出来そうな笑いをしていた。

 

 

「楽しそうだな……」

《今はそういう時だということだ。いずれ貴様にも訪れよう》

「ふーん、そんなものか?」

《そんなものだ……ところでだが、貴様。大聖杯の当てはあるのか?》

「無論だ。前々から調べはついtーーーッ!?」

 

 

それは突然のことだった。

 

グニャリと視界が歪み、力が緩み、地へとその身を頭から落とした。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

しかし、落ちる直前で何とか意識を取り戻し、念動力を発動。スレスレのところで身体を無理矢理浮かせ、そのスピードを停止させることでなんとか衝突は免れた。

 

 

《今のは危なかったな》

「……あ、ああ………」

 

 

そして緩やかに身体を縦に半回転させて地に足をつけた永時。しかしその表情は安堵、というよりは焦燥の色の方が濃かった。

 

 

《ふむ……薬が切れたのか?》

「いや、効果が切れるのはまだのはずだが……もう切れたのか?」

 

 

まるで身体の調子を確かめるかのように手を開いたり閉じたりしている永時。

 

 

《一時的なドーピングとは言え、薬に頼らなくては本気を出すことも叶わぬ身体になるとは、不便極まりないものだな》

「本当にな……」

 

 

まあ俺も好きでこんな身体になった訳じゃねえよと文句を垂れながら、懐から薄い黄緑色の液体が入った注射器を取り出した。

 

 

《……7時の方向だ》

「……ッ!?」

 

 

いざ刺そうと構えるも方向を示唆する声を耳にするや否や、動きが鈍くなった身体を無理矢理動かして咄嗟の判断で横に跳んだ。

 

すると跳んだ直後、飛来してきたのであろう何かが、永時の元いた場所を粉砕した。

 

 

「チッ……敵か?」

《ああ、それも……面倒なのがな》

 

 

面倒ねぇ、と呟きながら襲撃地点を眺める永時。そんな彼の前に襲撃者であろう人物が空から降り立った。

 

病弱に見えもするが、どこか芸術性のあるような美しさ、妖艶な雰囲気を醸し出す青白い肌を闇のような漆黒を基調とした重装の鎧で包んだ、まさに黒騎士と例えるのに相応しい。そんな人物であった。

 

 

「イメチェンか?……と言って終われば楽なんだがな」

 

 

しかもそれは顔見知りときたものだ。金色に染まったその両目で、視線だけで殺せそうな勢いで睨んでおり、とても穏やかな雰囲気は感じることはできなかった。

 

 

「んで?わざわざイメチェンまでして何しに来たんだ……セイバー」

「貴方を殺しに来たと言ったら、信じますか?」

 

 

漆黒と深紅で染まった聖剣らしき得物と禍々しい黒く可視化できる程の濃厚な魔力を永時へと向けるセイバーあったはずの女。

しかし永時は何の反応も示さず、無表情を維持したまま彼女をじっと見る。

 

 

「おいおい、一応これでもお前のマスターなんだが……?」

「それは左手を見てから言ってください」

 

 

そう言われて見てみると……令呪が消えていた。

 

 

「なるほどね。ん……?じゃあなんで現界できている?」

「マスター替えをしたということですよ」

「ふむ……なら殺されても仕方ないな」

「そういうことです」

 

 

サーヴァントとしての契約が切れた以上2人を繋ぐものは何もなく、所詮仮の主従関係から知り合い程度へとランクダウンしたのだ。これならば躊躇う必要もないなと永時は納得していた。

 

そのマスターとやらが誰か、感じる魔力的に分かっているのにだ。

 

 

(まだ生きていたのかあの野郎は)

《(しぶとさだけは貴様とそっくりのようだな)》

(うるさい。しかし……クラスの真面目な学級委員長を形にした女みたいな奴がこちら側()に来るとはな……)

《(……貴様が原因ではないか?)》

(……なに?)

《(貴様があの小娘をこちら()に引き込むに十分な影響を与えたということだ。『罪被りし偽善遣い(ギルティーズ・ヒポクリエイト)』により悪を知り、貴様と話すことで見解を広げた。つまりは貴様との生活で悪という存在の理解を深めておったのだ。穢れに気が付かぬ振りをしていたのに気づいてしまい、悩んでしまった。その隙を突かれた、ただそれだけのことだ)》

 

最も、『罪被り偽善遣い』によって流れた悪意が主な原因かもしれんがなと説明する声の主。しかし永時は少し思い詰めた表情でセイバーを観察するように見つめていた。

 

 

「なるほどな……俺が原因って訳か」

「何を突然?」

「いや、そう思ったから言った。それだけのことだ」

「……それが遺言ととってよろしいですか?」

「いや、悪いが今相手してる程暇じゃないんでね……逃げさせてもらう」

 

 

言うだけ言って永時はお得意の瞬間移動(テレポート)でその場から離脱する。

しかしセイバーは勝ち誇った笑みを浮かべ、それに疑問を浮かべたまま彼は数十メートル先へと次元移動をする。

 

 

「ええ、分かってましたよエイジ。だからこそ先手を打たせてもらいました」

「何……?」

 

 

しかし飛んだのはたった4メートル程。

 

計算が狂ったか?と別の方角へ飛ぶようにもう一度やってみるも、何故か行けなかった。

 

 

「ん……?」

 

 

しかし永時は気づいた。よく目を凝らさなくては分からないが、小さい欠片のようなものが宙に、それも数十個も浮いており、更に瞬間移動の合間にさっきまで見ていたはずの灼熱地獄から一変していたのだ。

 

辺りを見渡せばゴロゴロと山に廃棄された粗大ゴミのように転がっている西洋鎧の山々。中には赤黒い錆のようなものがこびり付いているものもある。

次には強烈な死臭と鉄のような匂いが鼻を刺激した。幸い慣れきったものなので大したことないのだが、死とあまり縁のない者は思わず吐き出してしまいそうなぐらいのキツいものであると言っておこう。

 

そんな状況を冷静に見やりながら、その雰囲気に似合わない何かの欠片に触れようと手を伸ばすと、その手が急に止まった。

 

 

「ん?こいつは……」

《どうやら見えない壁のようなものに妨げられているな》

 

 

殴ったり、蹴ったり、銃で撃ったりして試してみるものの、どうやら壊れるには至らず、溜め息を吐いた。寧ろ銃に至っては弾丸が跳ね返ってきた程の硬度である。

 

 

「なるほどな……そっちは?」

《見たところかなり高度な防壁だ。この私ですら干渉が困難とは……それに外への交信なども不可能となっておる。実に興味深い》

「……で、これがお前の先手ってやつか?」

 

 

そう言って死屍累々の中で特に大きいものの頂上を見やった。そこには永時の質問に簡潔に答えたであろう人物……セイバーの姿があった。その顔は自信に溢れており、その様子だと破壊は不可能のようだと判断したのだが、何処か悲痛を醸し出しているかのようにも感じられた。

 

 

「えらく自信があるようだが……こんな宝具を持ち合わせていたのか?」

「……いえ、これは先程新たなマスターから返還して頂いたものです」

「……何?」

「正確には貴方が所持していたものですよ」

 

 

所持していたものと言われ、思考すること数秒。あっ、と間の抜けた声で出した。どうやら当てが思いついたようだ。

 

 

「まさか……アヴァロンか?」

「ええ、そう通りですよ。新しいマスター曰く『落とし物は元の持ち主のところへ返さなくてはならない』と」

「あの野郎、余計なことを……」

 

 

永時の脳裏には勝ち誇った笑みを浮かべるあの女の姿。イラッときたのですぐさま消し去って気分を落ち着かせた。

 

 

「……敢えて説明させていただますが、これは『全て遠き理想郷(アヴァロン)』だったもの。いや、今の私を表して命名するなら……『存在しない理想郷(アヴァロン・ネバーワズ)』としましょう。本来のものでは不老不死と無限の治癒能力を与え、あらゆる攻撃や干渉を防ぐ結界宝具だったのですが……こんな姿になった影響か、色々と欠陥が出てますがね」

 

 

余程自信があるのか、それともマスターだった(よしみ)であったから説明したのか、それか別の理由があったのか。残念ながらその心境はセイバー本人しか分からない。

 

 

「欠陥ねえ……」

「例えば、この結界は本来使用者を妖精郷へと隔離するという代物だったようですが……どうやら変わってしまったようですね」

「……カムランの丘か?」

「よく分かりましたね」

「なんとなくだ」

 

 

正確には前に見た夢と転がっている騎士の死骸の山々から推察した結果なのだが言う必要はないと判断した。

しかし、その説明を受けて永時はある疑問が浮かび上がった。

 

 

「……ちょっと待て。ならなんで自分だけを守らせない?俺を殺すなら一緒に閉じ込めたら結界宝具としての意味がないだろう?」

「そこは簡単なこと、『存在しない理想郷(アヴァロン・ネバーワズ)』の中に閉じ込め、貴方を逃さないことが目的だからですよ」

 

 

つまりは瞬間移動(テレポート)で逃げる永時を逃さないために一緒に入れたということらしい。余程殺せる自信があるのか、他に何か当てがあるのか気になるところだが確信に迫ることは話さないだろうと思い、諦めた。

 

 

「オーケー、つまり俺は逃げられずお前と殺り合わねばならんということは分かった……ならまた疑問が出来るわけだが……お前が俺を殺すメリット(意味)のことについてな」

「なるほど……それは単に全てがどうでも良くなったから、ということにしておいてください」

「嘘をつくならもう少しマシな嘘をつけよ。全てがどうでも良いのなら、わざわざ冬木公民館から離れた俺を追いかける必要もないだろうが……そもそも全てがどうでもいいのならそのままくたばっちまった方が楽なのにどうして現界したって疑問が出るが?」

「……」

 

 

図星だったのか無言になるセイバー。それを見て満足したのか薄く笑みを浮かべた。

 

 

「まあいいや。理由なんぞ知る必要はどこにもないわけだし?知った所で何か変わるわけでもないから構わんがな」

「……」

 

 

とりあえず、と永時は持っていた注射器をようやく自身に打ち込んだ。

何か企んでいるのかと考え、様子見に徹しているのかと思っていたが、何故か疑問を浮かべたような顔をするセイバーを視界の中心に収めながら注射器を抜き取り、放り捨てた。

 

 

「(……あの注射の中身、どこかで見覚えがあるような気が………気のせいか?)」

「ーーーやるか」

 

 

深い闇のような左目が深紅に染まる。

 

それと同時に肌でビリビリと感じる重圧がセイバーを襲い、突然のことにセイバーは目を見開き、元凶であろう永時を睨みつけた。

 

 

「クカカカ………」

 

 

しかし、そこにいたのは獰猛な笑みを浮かべ、まるで自分を狩猟対象である獲物のような目で見る、まさに狩りをしようとする悪鬼のようだった。そこには優しい父の顔を持ち、なんだかんだ言って面倒を見てくれる兄のような男の姿などは欠片もなかった。

 

無意識かは知らないが、周りに散っている瓦礫や鉄片、終いには車やほぼ崩壊した家などが独りでに浮かび上がっており、ここで初めて永時が生半可な超能力者ではないということをはっきりと理解した瞬間でもあった。

 

 

「まさか、ここまでの力を隠していたとは……」

「フン、なんのためにわざわざサーヴァントの戦いに乱入したと思う?それは簡単な答えだ。ただ単に自分の力量を確認していた、ただそれだけだ」

「なるほど、私との手合わせもその一環だと?」

 

 

その通りだと答える永時。余裕があるのか遂には葉巻を吸い出す始末である。

 

 

「煙草、吸っていたのですね……」

「ウチにはガキがいるからな……煙草はやめろとベルフェの奴に止められてたんだが……やはり吸うと落ち着くものだ」

 

 

呑気に紫煙を吐き出し、さっき見せた獰猛な笑みが嘘かのようにリラックスしている永時をただセイバーは観察するように凝視していた。

自身と契約した新たなマスターからある程度話を聞いていたので分かったことだが、本来の永時は不意打ちなどは当たり前、勝つためには手段をあまり選ばない男とのこと。ならばいつ攻撃されても可笑しくないようにセイバーはただ臨戦態勢を維持し続けていた。

 

 

「「……」」

 

 

両者様子見をするかのように沈黙する中、そんな静寂を先に破ったのは、永時だった。

 

 

「……お前を見習って、マスターの誼ということで敢えて言うが……案外俺を殺すのは簡単だぞ?」

「……?」

 

 

いきなりの弱者宣言に何を言ってんだこいつ?みたいな怪訝な表情を見せるセイバー。

それを見た永時は葉巻を摘んで口から離し、自嘲的な笑みをただただ浮かべているだけ。

 

 

「だって俺さ……こう見えて不治の病にかかってんだぜ?今でもこうしてる間に弱体する程、酷いのをな?」

「!?」

 

 

不治の病と聞き、驚くセイバー。そんなセイバーを永時は見つめ、葉巻を指で正面へと弾き飛ばした。

 

ゆっくりと落ちていく葉巻。セイバーは罠かと思い、構えを解かずに警戒しながら葉巻を凝視し、

 

 

「ーーーblast(爆ぜろ)

 

 

案の定それは爆発した。

黒い紫炎が一瞬にして広がり、セイバーの視界を塞ぐ。

 

 

「……やはりか!姑息なことを!」

 

 

聞いていた通りの汚い男だ。内心そう悪態を吐きながらセイバーは後ろへと跳んだ。

推測でしかないが恐らくこれは目くらましのためのもの。つまり本命はこれを利用した正面からの銃撃だろうと踏んだ。

 

 

「敢えて言ってやる……汚いは褒め言葉だってな」

 

 

だが、セイバーの跳ぶ先では鉄パイプや長く尖った鉄片がこちらに向かって迫っていた。それもかつて自分が操ったバイク並みの速さで。

 

 

「ッ!小癪な!」

 

 

片足を地面に置き、そのまま身体を捻って後ろへと半回転し、飛来物を斬り伏せた。そしてそのまま勢いを殺さぬままクルリと永時の方を向き、

 

 

「……!?」

 

 

視界に捉えたのは電撃を見に纏い、右拳をこちらに向けて振るっている永時の姿であった。

 

構わず殴り抜く永時。しかし気づいたセイバーの方が早かったようで剣を横を横に向けて面の広い部分で受け止めた。

 

 

「「……ッ!」」

 

 

力が拮抗し、火花が散る。永時は空いている手に持ったナイフを首に向けて薙ぐように振るい、セイバーは屈んで避け、剣を持つ手を戻して切り上げる。

 

だが永時は重心を左へ傾け、迫る剣を紙一重で避ける。

避けられたセイバーは切り上げた剣を斜めに振り下ろしながら身体を捻って回り、回転斬りを繰り出す。剣先が永時の胴を捉え、その身を両断する。

 

 

「ーーー!?」

「オラッ!」

 

 

しかし、彼には瞬間移動(テレポート)がある。

瞬間移動(テレポート)によって消えた永時はそのままの態勢でセイバーの頭上に現れ、隙だらけの頭部に回転蹴りをぶつけた。

 

頭を蹴られたセイバーは吹っ飛ぶも態勢を整えて地を踏みつけて立ち上がる。

 

 

「……お見事、と言っておきましょうか?」

「そりゃどうも。まさかこれ(テレポート)が卑怯とは言わないよな?」

「まさか!それ(超能力)も貴方の持つ武器の1つ。使うなというのは酷というものでしょう?」

「まあそれはそれで助かるが、なっ!」

「!」

 

 

両者ともに睨み合い、再びぶつかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……なあ、頼みがあるがいいか?)」

《(ほう……なんだ?)》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフ……ハハハ………フハハハハハハッ!」

 

 

冬木公民館だった廃墟であろう瓦礫の上。そこにそれはいた。

 

逆立った黄緑色の髪、可視化できる程の緑がかった黄金のオーラを漂わし、身体中が盛り上がった筋肉の鎧に包まれた3メートル近くはある大男。

 

 

「そうだ……そうだ!これでこそ本来の俺……これが俺なのだ」

 

 

異常と言っていい程盛り上がった筋肉の付いた身体を観察するかのように己の手を開いたり閉じたりする。しかし有り余るぐらい溢れ出る力に歓喜どころか寧ろ哀愁のようなものを漂わせているのは気のせいだろうか?

 

 

「久々になったこの状態。後にやることと言えば1つ……やはり力試しをしたいものよな………そう思わんか?バット=エンドよ?」

「……」

 

 

そう言って悪魔のような顔つきに似合う白目がその者を捉えた。轟音を鳴らし、地面の形を変えながら急停止する少女を。丁度その位置は男の目の前であり、身長差的に見下げる形となっていた。

 

しかし、彼女が向ける視線は仲間に向けるような親愛ではなく、懸念と怒気が混ざった明らかな敵意だった。

 

 

「お前……何してる?」

「何だと……?俺がこうなったのだ。後はどうなるのか想像がつくだろう?」

「……本気か?」

「ああ、本気だとも」

 

 

以前仲間として付き合ってた身としてこれからノットがしようとしていることは何か理解出来ていた。だが、前と何か違うと彼女の直感は告げていた。それは以前仲間として(向こうはどう思ってるかは知れないが)それなりの付き合いがあり、なおかつ仲間に執着心を持っているバットだからこそ感覚的に分かることなのだ。

 

そんな指摘を受けた男は少し驚く顔を見せたがすぐにそれは笑みへと変わっていった。

 

 

「フン、流石は仲間を大切にするお前らしいな。だが、それも全てすぐに終わる」

「お前……何する気だ?ノット」

 

 

そう言って男、最後に会った時とは大違いの変化を遂げたノット・バット・ノーマルである男を、不安を孕ませた視線で睨みつけた。

しかし、男は分かりきっていた反応なので何食わぬ顔で受け流していた。

 

 

「別にお前が怒ろうが俺には関係ないこと。俺は俺らしく生きる、それだけだ」

「俺らしく?お前!まさか……!」

「当たり前だ。俺は奴らに散々利用され、ゴミのように切り捨てられた……このやるせない怒り、全てを破壊せねば収めることは出来ぬっ!」

「……!」

 

 

今度は逆に向こうが怒気を醸し出す始末。しかも余程怒っているのか、怒気だけで周りの空気が揺がし、地震が起こったかのように感じる程の空間の揺れが感じられる。更に彼の足元の瓦礫は消え去り、彼を中心に巨大なクレーターを作り上げていた。

つまり、この男が強者であることを意味することでもあった。

 

 

「だが、昔ある奴に負けたことで俺は学んだ。お前らをまとめて相手すると骨が折れることに気づいたのだ。だからこの機を狙っていたのだ。お前らが散り散りになるこの時をなっ!」

「ッ!?」

 

 

突然、緑弾を作り出し投擲してきたノット。それを回避するバット。緑のエフェクトを横目で見ながらノットをきつく睨みつける。

しかし彼女の怒気は収まるどころかまた更に強くなるばかりであった。

 

 

「そうだ、その目だ……お前が戦う意思を見せなければ、俺はこの星を破壊し尽くすだけだぁ!」

「やめろノット!こんなことしてもあいつは喜ばねえぞ!」

「うるさい!俺に……命令するな………!」

 

 

そう怒りを吐露するノットだが突然姿を消した。

多分高速移動したことによりそうなっているだろうと推察したバット。どこに来るのか感覚と目を凝らし……

 

 

「ーーーフンッ!」

 

 

後ろから突然現れた殺気。それを敏感に感じ取り、彼女は前へ重心を傾けて転がった。すると遅れてノットの拳が風を切って振り下ろされた。振り下ろされた拳は2メートル程のクレーターのような陥没が出来上がり、その男の強さを物語っていた。

 

 

「………相変わらずすばしっこい奴だ」

「フンッ(勝てねえって分かってるけど……やるしかねえなこりゃあ!)」

 

 

緑弾を構え、殺る気満々のノット。前やりあった時のことを踏まえこれは不味いとバットは判断した。ほっといて逃げるのも考えたが相手は怒りで理性がない。ほっとけば何を仕出かすか分からないと思ったからである。例え、勝てないと分かっていてもだ。

 

 

「これでも昔は竜狩りで生計を立ててたんでな。元がつくとは言え、『竜狩りの姫君(スレイヤー・クイーン)』を舐めんじゃねえぞ!」

 

 

そう言って石突(いしつき)を地面に叩きつけるように振り下ろし、ガンッ!と金属音と共にそれは現れた。

 

雷雲と清水が彼女の身を包み、変化させていく。

黒一色の服装は漆黒の鎧へと早変わりし、持っていた三叉槍は紺の色が特徴的な2叉の槍が左手に。穂先が1つになった黒に近い黄が入った深緑の入ったものを右手へと手にしていた。それはランサー、ディルムッド・オディナの持つ2振りの槍を連想させる部分があるが違うところが2つある。

1つはその長さ、『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』はディルムッドの身長程の紅い長槍であったが、彼女の場合、2本とも彼女の身長の約倍はあるであろう長さを持っており、紺の方が深緑のものより少し短めである。そんな長さの得物をその小さな身体で扱おうとする彼女の力強さを物語っていた。

 

これこそバット=エンドと呼ばれる本来の姿、『最速の黒槍姫』という女の姿であった。

 

 

「フフフッ……そうこなくちゃ面白くない」

 

 

もう1つは能力。ディルムッドの2振り程ではないかもしれないがそれに劣らぬような槍であることは自負していた。

紺のものからは清さを感じられる水流が、深緑のものからは嵐を連想させられそうな暴風と(いかづち)がその役割を示すかのように槍に纏われた後、主の命を待つかのように鳴りを潜めていた。

 

2振りの槍を構え、挑発的な笑みを浮かべて彼女は言う。

 

 

「……来いよノット。少し、頭冷やそうか?」

「ほう、元仲間とは言えこの俺に情けをかけるか……流石バットと褒めてやりたいところだ」

「……俺は、俺のしたいように生きて死ぬ。お前もそうだったろ?」

 

 

減らず口を……とノットは少し大きめの緑弾を左手に持つ。対してバットは負けじと思い、それに応えるかのように紺の槍が光を放ちながら激流として右腕ごと槍を包み込む。

 

2人は今できる最大限まで力を溜める。

 

 

「イレイザーキャノン!!」

「『祝福の排水龍(ゲオルギウス・シューダー)』!!」

 

 

放たれたのはほぼ同時。溜め終わった2人は同時に力を解放する。

 

片方はただの緑弾だが、手から離れた瞬間1回り程肥大化。その威力は星の一部を削るには充分な、まさにイレイザーキャノン(消し去る砲)の名の通りの技である。

 

対してもう片方は暖かい光と共に螺旋状に渦巻く激流の如き清水。名を言い放つと同時にそれは放たれた。

一層輝きが増す光と共に激流の嵐が槍のように形を成して、彼女の前方へと敵を貫かんと真っ直ぐ突き進む。

 

 

 

 

 

 

「来るがいいバット!まずお前から血祭りに上げてやる!!」

 

 

 

 

 

かつての英雄(ヒロイン)反英雄(裏ボス)の力を持つ男。因縁とも言えるぶつかり合い(殺し合い)が始まった瞬間であった。

 

 

ーーー終わりの時はすぐそこだ。

 

 






*追記項目


ビギナー 伝説化

【概要】悪の泥によって復帰したノット。しかし、悪の泥の影響かステータスなどが本来のものより下がっている。

《 》の表示は本来の表記の予定。

【ステータス】
・筋力A《A+++》
・耐久EX
・敏捷A《A+++》
・魔力C《B+》
・幸運D《C》

【保有スキル】
・狂化B+《EX》(普段会話ができるが、細かな指示や命令などは難しいとされる)

・加虐体質A

・魔力放出A(気)

・単独行動C《A》

・戦闘続行B+《A》

・千里眼B《A》

・直感C《B》

・破壊衝動A++
(伝説化限定のスキルで1度戦い始めると滅多なことがない限り破壊活動をし続ける。逆に言えば高い追跡スキルがついたようなもの〈長所とは言えないが……〉)

・サイヤ人体質A
(サイヤ人特有の死にかけたら戦闘力が上がるチート設定。戦闘による瀕死又は重傷を負って回復した場合、筋力・耐久・敏捷のいずれかが1ランク上がる)

・アンチヒーローB《A》
(ボスとか裏ボス的存在であるブロリーだからこそついたスキル。相手が英雄の場合、加虐体質・戦闘続行のランクがA+になる……というのが本来のものだが、無理な受肉の影響で加虐体質がA+になる代わりに戦闘続行のランクがBに下がる)

・覚醒の悪魔B《A+》
(親父ぃのコントロールをものともしなかった伝説の超サイヤ人化限定のスキル。あらゆる精神干渉や狂化などを無視する。そう、まるでスルーで有名なパンツのように……と思っていたのか?残念ながら今回は精神干渉が低確率だが効くようになっている)

・祖龍の寵愛C《B》
(無視できぬ程の完全な異常故に上がった。あらゆる属性攻撃の耐性が上がる、はずだが悪の泥のせいで前のままである)

・伝説の超サイヤ人A《EX》
(異常体質が変化したもので、伝説化限定のスキル。死ぬまで力が無限に溢れるスキル。本来なら26秒毎に幸運以外のステータスが高確率で1ランク上がるが、その分マスターの負荷もかかるというものなのだが、弱体の影響で確立が中確立にダウン)


【廃棄スキル】
・騎乗B-








*バット=エンド宝具説明


『竜狩りの姫君』

スレイヤークイーン

ランクA

竜狩りの一族に伝わる鎧を纏う。その防具はかつて岩を纏った龍から作られたとされ、非常に頑強とされている。

ドラゴンスレイヤーの異名もあるため武器や鎧に竜に関わる者に追加ダメージを与える補正がつき、耐久が1ランク上がる。


『祝福の排水龍』

ゲオルギウス・シューダー

ランクB+

かつて討伐した修陀というその大きさ故に、龍と呼ばれた大蛇を元に作った2又の槍。それの体液は祝福された聖なる水となっている。その属性故に吸血鬼や邪竜などに強いとされ、生前邪竜殺しの武器として重宝していた。

竜に関わる者に追加ダメージを与え、更に悪に属する者にも追加ダメージを与える。

真名開放で祝福と流水が混ざり、槍となって敵を貫く。









*セイバーオルタ宝具説明


『存在しない理想郷』

アヴァロン・ネバーワズ

ランク?

この世全ての悪(アンリマユ)によって返還された『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の鞘である。しかし、持ち主諸共悪意に汚染されたため性能が変質してしまったようだ。

例えば中は妖精郷ではなく、セイバーにとっては忘れられない記憶とも言えるカムランの丘となっており、そのせいで防御結界が固有結界へと変質している。これは悪意に呑まれたセイバーにとって最も印象に残っている世界がここであったため、妖精郷より影響が大きくこのような結果となってしまったようだ。
もしかしたら騎士王(アーサー王)としてではなく、セイバー(アルトリア)としての闇そのものを映しているのかもしれないが。

他にも欠陥があるだがそれはまた次の機会で記述する。





〜後に変更や追記あり〜



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