Fate/Evil   作:遠藤凍

51 / 63

〜暴食娘の送るあらすじ〜

『……ども、将来の夢はあの人のお嫁さんになるつもりで生きてるシーです。前々回あたりでビギナーにやられてしまいましたがなんとか生きてます。

前回、リヴァイアサンは衛宮切嗣と決着?を付け、ビギナーはセイバーと戦闘していたけど生きていた衛宮切嗣によって聖杯を無理矢理破壊する結果になった。

……あくまで感だけど、なんか人がたくさん死にそうな気がするけど……まあ、あの人とリヴァイアサンがいれば正直どうでもいい。だってそれが私達の望みなのだから。

さて、私は今からあの人の写真を眺めて自分を慰める仕事があるのでこれで……

……あっ、言い忘れてたけど今回は戦闘シーンがなしでクソ長い会話シーンらしいので悪しからず。あと、今回はあの人がメインの回だから必見ーーーいや、絶対見ろ……以上』




終永時の悪とやら

 

 

ーーー貴様は何を求めてここを訪れた?地位か?名誉か?名声か?財か?それとも死合うに値する強者か?それか……『悪』の名を磐石なものにするためか?どうなのだ?悪を名乗る愚者よ。

 

ーーーいや、どれも違う。俺が欲しいのは……力だ。

 

ーーーなに?

 

ーーー正確にはお前の力の借りたい。目的はただそれだけだ。

 

ーーー愚かな……私を引き込むとどうなるか、簡単に予想出来るはずだ。

 

ーーー分かってるさそんなこと……けど、所詮俺はただの人間。強き者の力を借りることしか出来ることがない哀れな存在なんだよ俺は。例え卑怯者と、悪だと罵られてもいい。俺は勝つためなら手段を選ばん、ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

19??年6月4日生まれのAB型の男児。アメリカで生まれた。

 

 

数年後、両親の元ですくすくと育つもある日、念動力(サイコキネシス)を発現。暴走して両親を負傷させ、そのまま2人は帰らぬ人となった。必然的に彼は孤児となりストリートチルドレンとして生きることとなった。

苦労はしたものの衣食は能力でなんとかできたのでそうして生き残った。

 

 

その実力に目をつけた軍部の者に勧誘されて軍に入隊、12の時だった。

 

 

1931年、少年兵として活躍する中、名も知らぬ軍医の女に養子にならないかと言われ、運命的なものを感じたのか了承した。

 

拾われた家は日本でいう真剣を扱う道場のような場所であった。

 

彼女の名は椿アネモネ。1910年12月25日生まれのA型。日本人の父とアメリカ人の母の2人の間に出来たハーフらしい。名前の由来は彼女の両親が新婚旅行でヨーロッパに行った際、母親の方がアネモネの花を気に入ったからだそうだ。

当時23歳、多いスキンシップとしつこさが売りで、母親のような包容力ある柔和な笑み、親代わりのつもりだからなのか説教をしてくるのが多く、お茶目な部分を持ち、どこか妖艶な母性のような雰囲気を醸し出す女であった。

最初反抗的だったものの、仲良くしようとしつこくされていたせいで半ば諦めて義姉として接することにした(母親扱いするとそんな年取ってません!と説教を喰らった教訓を生かした結果である。)

 

彼女の家は先程記述したが真剣を使う道場。父がやっていたらしく今は閑古鳥が鳴いている道場の看板娘をしており、彼は強制的にそこの門下生になった。

だからこそなのか、やはりというべきか真剣を使うのから実践的なことが多く、彼はどんどん強くなっていったのは確かである。

 

 

それから数年後、彼は超能力を買われて特殊部隊の隊長まで異例の昇進を果たした。

その後、運命的な出会いなのか専属の軍医として彼女がやってきた。彼はカリスマ?のようなものを持っていたようでリーダーとして部下に慕われ、彼女は部隊の花として色んな意味で人気者だった。

 

その時からだろうか?彼女のスキンシップが若干過激なものが多くなってきたのだ。

そんな中、その影響を受けてか彼に最近ある感情が生まれついていた。それは年頃の少年らしい彼女に対する意識の変化があった。

 

 

 

 

 

しかしそれが後に両者の関係が変わる原因になるとはこの時誰もが思わなかったことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして彼が20になった年。彼は彼女を襲った。

 

どうやら彼は彼女を姉としてではなく1人の女性として見るようになっていたようでそれが遂に我慢の限界を超えてしまったようだ。現在の彼ならば媚薬を盛られても普通に過ごせたが、彼にも青臭い時代は当然あったということだ。

 

しかし彼女は彼を拒むどころか受け入れた。それも愛情の1つであるかのように。

 

その時語ってくれたのだが、両親を事故で亡くし1人寂しく過ごしていたところ、ちょうど共通点のある彼を知って養子として引き取ろうと行動に出たらしい。

 

つまりは自分の寂しさを埋めるために自分は拾われたと聞かされた。

 

しかし、それを聞いて彼は別に何も思わなかった。正直彼もどこか似ているのではないかと思っていたからだ。

 

そこから2人は互いを求め合うようになった。まるで傷を舐め合うかのように……それはほぼ依存に近いものへと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな2人に不運が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1938年。ある戦場へと出向いた彼率いる特殊部隊。しかし敵に囲まれなんとか切り抜けたものの、彼は動くことが出来ぬほど重症となった。

 

そこで軍医である彼女はすぐさま彼を運び、近くの軍病院で彼はなんとか一命を取り留めた。

 

しかし、彼をまだ生きていると知った敵側は刺客を送り込み病院を襲撃させた。

すぐに狙いが彼だと気付いた彼女は彼に手を貸しながら病院を逃げ回った。

 

だが、運悪く見つかってしまい戦闘。敵を撃退するも悪足搔きで撃ち放った凶弾が彼へと撃ち放たれ、彼女は身を挺して庇った。

 

その後彼の部隊が騒動を聞きつけて慌ててやってきたが、彼女は運悪く致命傷を負ったようで助からないと隊員はそう述べた。

 

突然の余命宣告に呆然とする彼。そして辛うじて生きている彼女はそんな彼にある頼みをした。

 

 

自分を殺してくれと。

 

 

彼は最初は拒んだ。しかし隊員がもう助けることはできないと泣きそうな声で語り、その後彼女と数秒会話した後、何を思ったのか突然隊員の銃を奪いーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー彼は彼女を手にかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時からだろうか。彼が、自らを悪と名乗り始めたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして1943年。上司の勧めである人物が率いる部隊へと入隊。

 

 

1945年人類初の核実験と言われるトリニティ実験に非公式の動員兵として参加。その後被爆し、約1週間程昏睡状態に陥る。

しかし目覚めた時には能力は変質。細胞も変異し実質の不老なった。

 

 

 

こうして、ネバーという男は出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日からここに配属されることになった、コードネーム『NEVER(ネバー)』だ。

先に言っとくが俺は悪だ。大義とか忠義とかのために戦う気はないから悪しからず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

 

気がつけば辺りは暗い闇に覆われた世界。奥行きはどこまであるのか、どの方角を向いているのかさえ分からなくなるぐらい真っ暗な世界に永時は立っていた。

 

どこまで足を踏み締めれるか分からず、ゆっくりと一歩踏み出せば足裏からグチャリとよく分からないが泥か何かの肉片か、それっぽいものを踏んだ感触が歩く度に続いていた。

 

 

「……」

 

 

最初は慎重になって歩んでいた永時。しかし慣れというものは怖いもので段々と臆することなく歩みを早めて先へと進めていった。

 

 

「……趣味が悪い場所だな」

『それはどうも』

「ッ!?」

 

 

見たままの感想を述べた永時に返ってきた返事とどこからか湧いてきた気配に永時は驚愕し、反射的に拳銃を取り出して音源らしき場所に発泡した。

 

 

『危なっ!?っと、とととと……あ痛っ!?』

「チッ……」

 

 

しかし撃ち抜いた感覚と音はなく、女の焦った声と盛大にコケた音が聞こえ、外したと永時は思わず舌打ちした。

 

撃った方向を睨めば、羽衣のような黒い衣服を纏った、この世界では眩しく見えるほど白い女が盛大に転んでた姿を視界に捉えた。

 

 

『……ゴホン。久しいな、終永時(我が同胞)よ』

「今頃新ためて言ってもドン踏んだ事実は変わらんからな」

『……久しいな、終永時(我が同胞)よ』

「いや、だからs『ひ・さ・し・い・な!終永時(我が同胞)よっ!』……チッ、なんだよ?」

 

 

無理矢理誤魔化した女に永時は睨み、銃を仕舞いつつも本題を尋ねると女は純粋で、されどドス黒い何かを孕んだ妖艶な笑みを浮かべて話し始めた。

 

 

『なぁに、半世紀ほど会わなければ寂しいものよな?と思ったまでよ。それで、此度は何用でここに参った?』

「……フン、心当たりがあるんじゃねえのか?“ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルン”。いや……“アンリマユ(この世全ての悪)”と呼ぶ方が良かったか?」

『ふむ……どちらも私であって私ではない。それが私という存在だから気にするな。それで?再度問うが何用でここに参った?』

「ああ、そうだった。あまりのマヌケさに要件を忘れてな」

 

 

皮肉をいう永時に彼女は笑みを崩さず永時を見つめていた。そして、要件を思い出した永時はこちらもニタリと笑みを浮かべた。

 

 

『……何故こちらに銃を向けた?同胞に向けるものは、好意はあれど殺意は向けるものではないぞ?』

「おいおい今更そんなことをほざくのか?……まあいい。新ためて言ってやるから聞いておけ」

『……』

「……俺の身体と彼女を、特に彼女の方を元に戻してもらおうか?あと、俺はお前の同胞とやらになった覚えはねぇ」

 

 

要件を聞くなり、笑みを崩してはいないが彼女から殺気が溢れ出し、永時は殺気を受けてなおどこ吹く風と受け流していた。しかし彼女はやがて殺気を沈め、眉をひそめて永時に問いを投げかけた。

 

 

『……何故だ?何故気に食わんのだ?貴様は心の奥底で悪を望んでおった。だから私はお前の半分を(アンリマユ)としてやったのだぞ?』

「それはお前が前回の時にこの俺の身体を奪い取ろうとして失敗して、アンリマユという英霊と半分融合した。そういう結果だろうが。……なにが同胞だから共に過ごさないかだ。要するにこの世に降り立つ器が欲しかっただけ、そういうことだろう?」

『……まあ否定はせん。しかし、死んでなお貴様に巣食う寄生虫(あの女)にこだわると言うのか?自分の知り合いにも嘘をついてまで参加する程重要なことなのか?』

「ああ、そうだよ。好奇心で参加したとか嘘を吐き、かつて自分が愛した女が死んだことを今でも引きづり続けてる哀れな男、それが終永時という存在なんだよ」

 

 

それを聞くなり彼女は眉間に皺を寄せ、険しい顔で永時を睨み始める。

 

 

『だが……私はアンリマユ(この世全ての悪)を冠する存在。悪は全て私が受け入れなくてはならず、ならば同じ悪を掲げる貴様を歓迎するのは当然のことであるがな……』

「へえ、じゃあその必要はないな。なんせ俺はお前が考えているような存在じゃあないからな」

『なに……?』

「……お前と俺では考えが違うってことだ。いいか、お前の場合は世界に悪と認めさせるために悪事を働く。だが俺はお前とは違う」

『なら、貴様にとって悪とはなんだ?』

 

 

まあ予想通りとも言える問いに永時は真剣な表情でことを語る。

 

 

「俺にとって、か……まあ単純に言わせてもらえば、“自己満足(エゴ)”のためだ」

『はっ?』

「お前が掲げるのは悪になるために悪を為すこと。だが俺は自己満足(エゴ)のため、ただそれだけだ。要するに俺は自己満足(エゴ)のために人を利用し、傷つけ、犯し、殺し、守り、受け入れ、愛情をも注ぐ。全ては俺の自己満足(エゴ)のために悪を為す。だから正義とはとてもじゃないが無縁であり、それ故俺は悪を名乗ってるだけで、悪を為すことは自己満足(エゴ)のための手段に過ぎん」

 

 

簡約すると悪として認めて欲しいから悪事を働くのではなく、自己満足のために悪事を働いたから便宜上悪となっているだけ。それだけのことである。

 

似たような意味かもしれないが僅かにその考えが違うことはお分かりだろうか?

 

 

「だからわざわざこんなこと(デミサーヴァントなんぞに)しなくとも俺はお前のような立派な悪にはなれるわけねえんだよ。なんせ俺は所詮“小悪党”なんだからよ」

『貴様……“そんなもの”を宿しておいて、よくそんなことを……私の予想が正しければそれは人が宿して良いものではない』

「あっ?……ああ、こいつか?こいつは気にすんな。勝手に俺に住み着いただけのただの居候だ」

《……ふん、悔しいがその扱いは的を得ているからなんとも言えんな》

「……んで?どうする?《オイ》俺を殺し《貴様、聞いてるのか?》て身体を奪うか?《無視するな》それとも《オイ、無視するなオワリエイジよ》……チッ、なんだよ?」

《やっと話を聞く気になったか……》

 

 

聞こえてきた声、低い女の声を無視してきたのだがそのしつこさに思わず声をかけてしまった永時。すると声の主はほんの少しだけ弾んだ声でそう語った。

すると先程までになかった息が詰まりそうな、それで持って吐き気を催されるような、更にどこか居心地の良さも感じられるドス黒い邪悪な気配(オーラ)が終永時から滲み出てきた。それも、この世全ての悪を冠する彼女が思わず一歩後ろに下がってしまい、呼吸が荒れる程の強力なレベルのをだ。

 

 

「なんだよお前……今頃になって出てきたのか?タイトルであんだけ悪が出ると言いながら伏線とかなしで終盤にいきなり出てきやがって……ん?今なんか言ったか?」

《(メタいな……)またあの自称人間(オメガ)によるイタズラではないか?……まあいい。此度出た理由は貴様の言う聖杯戦争、その結末に興味が湧いたのが1つ、2つ目は濃厚な悪の気配らしきものを感じたから出てきた、ただそれだけのことよ》

 

 

あっそう、とどこか素っ気ない態度で返答する永時に声の主はそうだと似たような反応で返していた。

そんな会話をしている間にアンリマユは空気に慣れてきたのか呼吸を整え、元の妖艶な、しかしどこかぎこちない笑みを浮かべた。

 

 

『ふぅ……1つ質問を良いか?』

《呼ばれているぞ?》

「なんだ?」

『いや、用があるのは宿っている方だ』

《なに?言ってみろ、紛い物よ》

『紛い物か……言い得て妙とはこのことか……まあ良い。貴様に1つ尋ねるのだが、何故貴様程の存在が人間であるこの男に宿っているのだ?』

 

 

その質問から声の主はこの世全ての悪(アンリマユ)にさえ劣らない。いや、もしかしたらそれ以上の存在であることを示していた。

 

しかしそんなことは知らず声の主はケラケラと笑いながら話す。

 

 

《何故宿るかだと?そんなのは決まっておろう……この男に付いて行くと面白いからだ》

『……面白い?』

 

 

またもや永時の時と似た反応を見せる彼女にケラケラ笑ったまま続ける。

 

 

《そうだ、この男は面白いぞ。波乱万丈、四苦八苦、女難。まさにその言葉に相応しい生き様を見せてくれたぞ?》

《だが、面白いと思うのはそれだけではない。さっきも言ったと思うがこの男は悪を名乗る癖に悪らしからぬ生き方をする。自身を小悪党と評してまで大切な者を救おうとするその生き方に感心したのだ》

『……分からんな。悪とは絶対的なもの。同族を受け入れ、敵対者を滅殺し、常に頂点に君臨する。それが絶対悪ではないのか?』

《ハハハ……紛い物にしてはいい線だと褒めてやりたい。あながち間違ってはおらん。しかし少し違うな。オワリエイジの掲げる悪とは、さっき言ったと思うがあくまで自己満足のための正義悪。……己のために他者を踏み台にして生きる。実に人間らしさが出ていて面白いと思わんか?》

「オイ、別に俺は正義を名乗ったつもりはないぞ。これまでも……そしてこれからもな」

《それは許せ……まあ、詰まるところを言えば、悪とは思考や性格によって変わってしまうのが現状。決して絶対的なものではないということだ》

『……』

 

 

黙り込んだ彼女に声の主と永時は疑問を浮かべる。すると急に笑みを浮かべだした。

その顔は何か企む子どものような笑みのように感じられるが、どこか悟ったような、それで持って狂気を帯びたような、そんな雰囲気を感じさせられる笑みだった。

 

 

《(おい……あの紛い物、何か企んでおるぞ?)》

「(ああ、分かっている……)」

『……ああ、なるほど。貴様らの言い分はよく分かった。ならば私は私らしく振るまわせて貰おうか』

 

 

そう言うなりさっきまで沈めてた殺気を静かに醸し出した彼女に永時は咄嗟に銃を構え、引き金に指をかけた。

 

 

《紛い物よ……貴様、何を企んでおる?》

『なぁに、やはり私の考えは間違ってなかったのだと改めて感じただけのことよ』

「……なに?」

『……貴様に宿るその者と共に、それを宿してなお普通で居られる貴様を我が物にすれば、私は真に悪となれる。(さす)ればより本物に近づくことができるのではないかとな』

「こいつ……」

《ふん、哀れなものだ。だから貴様は所詮紛い物なのだ》

『勝手に言っておれ“悪の根源”。何故貴様がここにいるかは知らんが私は私の悪道を貫かせてもらう。私が(本物)になるためのな』

《黙れ紛い物。紛い物の分際で本物になるだと?所詮貴様は贋作。本物を超えることはあれど本物になることは決してないことを理解しておるか?》

『さあな?もしかすれば成れるかもしれんぞ?悪の根源と称される貴様を喰らえばな?』

「……くだらんな。さっさと彼女を返せ。前回いきなり襲ってきて勝手に奪いやがって、まだ要求するかこいつは」

『仕方なかろう?一方的に蹂躙するのも悪の1つ。それに、はいそうですかとあっさりと返すのは善行と言えよう?……そうだ。ならば1つ条件付きでどうだ?』

「条件、だと?」

『なぁに、よく見る誘拐犯が人質の家族に出すあれを浮かべたら良い』

《(待て、オワリエイジ。罠の可能性もあるぞ)》

「……分かった」

《(何だと?)》

「……ただし、その条件を聞いてからやるかどうか考えさせてもらう。(もし気に食わなかったら無視して後で姐さんに泣きついてオメガに消してもらうなりしてその後ゆっくりと別の方法を考えればいいだけの話だ)」

《(なるほどな……私が言うのもなんだがゲスいな)》

「(そりゃどうも)」

 

 

本当は元々潰すつもりで60年を準備して過ごしてきたのだが、条件次第で平和的かは知らないが返してくれるのだ。永時としては万々歳である。

 

 

『ふむ、まあ良いか……条件とやらは至って単純。貴様がこの聖杯戦争で死んだら宿っている奴もろとも私のものとなってもらう、それだけのことよ』

「へえ……どうする?」

《フン……》

 

 

声の主に尋ねるとどうでも良いと言いたいばかりに鼻で返答する。イエスと捉えていいだろうと踏んだ永時は、

 

 

「オッケー。要は生き残ればいいんだろう?なら乗った」

『ほう?怪しまずに乗るというのか?』

「まあ生き残ればいいだけならなんとかなるだろ(オメガは昔撮った姐さんの写真集で買収して、ノットはオメガをけしかけて潰し合わせて、姐さんは説得すりゃワンチャンあるし……最悪逃げるか)」

《(うむ……流石自称悪。中々に酷い小悪党っぷりだ)》

『なら良いが……死んでも文句は言うなよ?』

「さあ?俺は悪だから律儀にやるか知らんな(さて……そろそろ殺るか)」

『そうか……』

 

 

実のところを言うとそんな口約束を永時は守るつもりなど毛頭ない。目的は返して貰ってからアンリマユを殺すことなのだから。

 

姑息?卑怯?何を使おうが要は勝てばいいのだから。勝てば官軍、負ければ賊軍という奴である。

 

 

とりあえず永時は口約束を守るように見せるためマジックを取り出して右手の甲にメモをする。

すると予想通りと言うか約束を忘れずにメモをしていると思い込んだのか、律儀だなと感心したような呟きをしているのを耳にした。

 

 

『では、まずは……貴様が求めた女を返してやろう』

「変な細工はするなよ?やった瞬間殺るからな……“こいつ”が」

《オイ、何故そこで私の名が出る?》

「いや、考えてみろよ?俺は確かに頑丈かもしれないが一応人間。もしも呪いとかの細工があれば何も出来なくなるのは必然。なら俺より圧倒的に強いお前が動くしかないだろう?それともあれか?人1人殺せるようなショボい呪いで幕を閉じたいのなら諦めるが……」

《ほざけ。何故私があんなもの(贋作如き)に命をやらねばならんのだ。昔言ったはずだが?貴様が死んだら1人でまた暇潰しを探しに行くとな》

「それでいいさ。実にお前らしい答えで安心した」

『もう良いか?』

「《構わん、続けろ》」

 

 

同時にハモり、アンリマユは苦笑しつつもその手に小さな光を出して照らし始める。その光はこの世界ではとても眩しく、美しく見えた。

 

やがてその光はアンリマユの手から離れ、吸い込まれるかのように永時へと向かい、永時の胸へと入って行った。

 

 

「……ッ!?」

 

 

途端。意識が遠のき出し、足元がおぼつかなくなった。しかし彼の内心は焦りより心地よさと懐かしさで包まれていた。

 

 

「ぁ……あぁ………この、感覚は……まさしく、彼女の……」

 

 

歓喜の見える表情を見せるも、突然電池が切れたかのように膝をつき、だらんと(こうべ)を垂れた。

 

しかしその様子に2人(?)は大して驚きも、意識を確かめようともせず、じっと永時を黙って見続けていた。

 

しかしそれも束の間のことでそれを破ったのは声の主であった。

 

 

《……そろそろ起きろ》

「ん……」

 

 

声の主が呼んだ途端。バチバチィッ!と電撃が彼を包みながら彼は立ち上がる。

 

 

『ほう……こうも変わるとは』

「あら?ここは……?」

 

 

そこには毒気のあるような黒みがかった紫の髪を腰まで伸ばし、冷たく厳しい目つきは全く違う柔和な目つきを見せ、立ち上がってからこちらを向くまでの仕草一つひとつが優美でどこか可憐さを感じさせられ、発せられる声は普段の低い威圧感のある声色とは真逆の高い柔和な声色。そう、まるで女性かのような……

 

 

《久しいな、“椿アネモネ”よ。ざっと半世紀ほど振りと言ったところか?》

「あらあら?久しぶりね、ダークさん」

 

 

さん付けに慣れていないのか、むう……と言葉を詰まらせる声の主。

その反応の原因が分かっていたのか椿アネモネと呼ばれる終永時はクスクスと笑っていた。

 

 

《……相変わらず喰えん女だ》

「あら?何かおかしなことでも?」

《いや、何でもない。流石はあのオワリエイジの“義姉”をやっていた女だけはあると改めて思っただけのことよ》

「……まあ、正確には今は彼の副人格なんですけどね」

『なるほどな。それで仕草も口調も何もかも女性寄りになっているということか』

 

 

つまりそれを示すのは……終永時は二重人格者であった証明であり、しかもダークという者曰くそれはかつての義姉のようだ。

 

 

『しかし、皮肉よな。会いたいと思っておっても、この者が出るにはこの男が意識を失くす必要があるとは……これでは会えぬと同義だというのになぜ必死に求める?』

《そんなのは簡単だ……それだけ奴は孤独を嫌っているという証明であろう》

『なんだと?あの終永時が?あの自称悪がか?』

「……」

 

 

ダークから出た意外な仮説に目を見開いた。しかし肝心の終永時(椿アネモネ)は何も語ることなく、ただ黙って頷くことで肯定の意を示した。

 

 

《前に奴の深層心理を覗いたことがあって知ったのだが……訳ありとは言え、あの者はこの女を直接手をかけたのだろう?亡くしたのならば余計に求めたくなるのが人間。そうだろう?》

「……ええ、まあそんな感じですね?」

《会えなくともこの女は自分がいた痕跡を必ずしも残す。それを見た奴はこの女が自分の中に存在している実感を得る。それもまた、奴の自己満足なのだろう》

「流石はと言っておくべきかしら?なんだかんだ言って彼のことを見てらっしゃるんですね?」

《……否定はせん》

 

 

消えそうな暗い小さな声でそう呟いたダークにアネモネはあらあら、とクスクス笑っていた。

 

 

『……要はどういうことだ?』

《要するに、奴は捌け口が欲しかったと思うのだ。自分の弱さ(寂しさ)というストレスをぶつけるためだけの捌け口が》

《オワリエイジという男は貴様が思っているよりずっと弱い存在であり、奴は人間だ。軍役時代の隊長。『終焉末路(カウンター・ラグナロク)』という組織の頭などをしていたが、奴は部下に悩みは言えど、弱音と弱味だけは決して明かさなかった。ならどうやってストレスの捌け口を用意したか。そこで思い浮かべたのがこの女(椿アネモネ)だった……だから奴にとって一番本音を出すことが出来るこの副人格を生み出した、ということだろう?》

「……ええ、よく推測できましたね。87点です。残り13点は私を生み出した時代の間違いによるものと素直じゃない貴方へとの失点、ということで。私が生まれたのは(本物)が死んで少しした頃なので」

 

 

フン……と慣れたかのように鼻であしらう態度にアネモネもただクスクスと笑って楽しんでいた。

そんな中ほぼ聞くだけとなっていたアンリマユは驚愕で染めた顔をずっとしていた。

 

 

《フン……まあいい。貴様と話せたから今回は良しとしてやる》

「フフッ、それは良かったわ。私も貴方と話せて楽しかったわ」

『……もう良いか?』

 

 

いい加減聞くだけで放置されるのが癪に触ったのか、低いドスの効いた声で2人に尋ねる。

するとアネモネはあっ、と気の抜けたような声を出し、頬を赤らめて恥ずかしそうに照れていた。

 

 

「あらやだ……私としたことが、つい話し込んでしまいましたね。ごめんなさいね?」

《ふむ……いささか話し込んでしまったか》

『分かれば良い』

 

 

では、そろそろ御暇(おいとま)しますか。というアネモネに声の主はそうだなと肯定すると彼女はアンリマユに向き合う。

 

 

「あの、御暇したいのですが……」

『分かっておる。あと1分程経てば自ずと出れる仕組みになっておる』

「そうですか……」

 

 

残り時間何をしましょうかと呑気な会話をしだす彼女にその呑気さに思わず力を抜いてしまう。

思い残したことはないのか?とダークが尋ねると思い出したかのように声を上げた。するとアンリマユの方に近寄っていく。

 

 

「そうでしたそうでした。最後に1つよろしいですか?」

『なんだ?』

「いえ……死んだら彼を貰うと言っていましたが……刺客なぞは差し向けてませんよね?」

『……さあな。そういう約束はしておらんからな』

「そうですか……」

 

 

少し思いつめた表情で思考する彼女、しかしそれはすぐに引っ込み、花のような笑みを向けた。

 

 

「なら……こうしましょう」

 

 

ニコリと笑みを向けたまま、彼女の……アンリマユの胸に1本の日本刀を突き立てた。

 

グチュリと生々しい音。そして遅れてえっ?と間の抜けた声が聞こえた。

 

 

『な、に……?』

「なにって……だって、あの子のことを邪魔しようとするんでしょう?ならば、お義姉ちゃんとして邪魔なものは失くしてあげないといけない……例えるなら、あの子が綺麗なお花で貴女は雑草。花の成長を邪魔する“草”は伸び切る前に刈り取らないと、あの子がダメになっちゃうでしょ?」

『き、貴様ァ……』

 

 

今頃になって彼女(アンリマユ)はようやく気づいた。この女の笑みの意味が。それは友好的な意味ではないただの貼り付けた笑み、ただ単に自分を油断させるためのものと、そしてどこか狂気染みたものを孕ませた笑みであることに。

 

だがまだこちらは負けていない。否、負ける要素が足りてない。

 

 

『ク……クハハ……フハハハハハハッ!!』

《……なんだ?遂に頭でもイカれたか?(いや、この笑いは……)》

『……ああ、実にやられたわ!何故意識を共有せん貴様がこのような手に出たのか不思議ではあるがな!』

「……それならここに」

 

 

そう言って彼女はさっき永時がメモを書いていたであろう右手の甲を彼女に見せる。

 

 

【隙あらば殺せ】と。

 

 

『……クク、クハハハハハハ!!そりゃそうだ!あの男が素直に話を聞き、増してやメモをキチンと残すなどするから変だと思っていたが、今思えば疑えば良かったか!』

「まあそれが彼ですから……で、遺言はそれでいいかしら?」

『……いや、あと1手足りなかったようだな』

「えっ?」

 

 

素っ頓狂な声を上げる彼女。するとグラリと視界が揺れた。

 

 

「な、何が……地震?」

《……なるほどな。見事にしてやられたな。地震などの規模の小さいものではない、この世界が揺れているのだ。恐らく推測だが、この世界が崩壊しているのではないか?》

『その通り。時間切れだ』

 

 

グラグラと大地震のように揺るぐ世界に思わず手をかけていた刀を手放し、後ろへ下がりながらもおぼつかない足でなんとか立ちながら彼女は同じくふらつくアンリマユに視線を外すことなく今にも射抜きそうな視線を向け続ける。

 

 

「どういうことかしら?」

『うむ、どうやら何者かが小聖杯を物理的に壊したようだな』

「……なんですって?」

《ほう、そんな馬鹿がいたのだな……(これで聖杯をどうにかしようと考えてた案は……かなり狂うことになるのか?)》

「くっ……!(ならばせめて、あと1回だけでも!)」

 

 

更に揺れを増す世界。不安定ながらも確かな足取りで地を踏みしめ、クラウチングスタートの態勢をとって電気を纏う。身体に纏った電気が、細いながらも引き締まった永時の身体中の筋力を刺激し、筋力を強制的に強化することで通常より高いパフォーマンスを披露できる状態にする。

 

 

「……っ!」

 

 

強化された足で地を踏みしめ、轟音を鳴らしながら一気に飛び出した。人間離れした速度に乗ってアンリマユとの距離を徐々に縮めていき刺された日本刀に手を伸ばした。

 

 

『言ったはずだぞ?時間切れだと』

 

 

しかし間に合うことはなく、急に辺りが真っ白に染まり、意識が遠のいていく。

 

 

 

薄れていく意識の中、彼女が最後に見たのは口端から血を垂れ流す、殺し損ねた者の勝ち誇った笑みであった。

 

 

 

 

 

 

 

『本当は奴の狂気のようなものを知りたかったが……まあ仕方ない。おっとその前に、貴様の持つ“あれ”を貰っておくぞ?失くしたとはいえ、落とし物は元に持ち主に返さなくてはならんのだからな』

例の奴ら(刺客)も動き出したか……これでようやく舞台は整った。後はのんびり鑑賞させてもらうとしよう』

『期待しておるぞ……悪を宿した人間(自称悪)よ。貴様の悪とやら、じっくり見させてもらうぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーさて、突然だが今話が終わる前に、貴様らに言っておきたいことがある」

 

「これから始まるのは終幕(エピローグ)への第1歩。物語において必ずしも存在するありがちなものだ。そう悲観することはない」

 

「ただそれが、いい形(ハッピーエンド)で終わるか、悪い形(バットエンド)で終わるか、そのどちらか決まるだけなのだから」

 

「だからこそ刮目せよ!ポップコーン片手に、これから起こるであろう戦いを目に焼き付けるがいい!」

 

 

 

 

 

 

「ーーーさあ、最終決戦(ファイナルバトル)の開幕だ」

 

 

 

 





*補足

椿アネモネ

かつて終永時、否、ネバーとなる前の男が生涯の中で唯一愛した女性。それが親愛か情愛か、愛情かどうかは彼しか分からない。
戸籍上は義姉だったようだが。まあ彼も若い時代だったから仕方ないと言えばそうなのかもしれない。

彼女が死んだ後、未練が若干あった彼だったが、ある日気づけば自分宛のメッセージが残っており、後に二重人格ということに気づいた。

日本刀の扱いが上手く、その点においては永時は勝利を収めることができなかったようだ。
母のような優しさを持ち、永時の優しさは彼女の影響も大きい。

※後に追加する可能性あり。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。