Fate/Evil   作:遠藤凍

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〜嫉妬娘によるあらすじ〜

「よく来てくれた、感謝する。
では、早速だが仕事をさせてもらうとしよう。


前回、我がサーヴァントは自分の女に会いに行き落ち込む女を慰め、自身のやるべきことを再確認。
騎士王は部下を手にかけ自分の意思を吐露し、聖杯を得るために前へと進む。
そしてビギナーの奴は我が父の罠にかかってアーチャーを潰し、出会わせたセイバーと連戦。
我が父は……何をしてるんだ?分からんからなんとも言えんのが現状か……まあこのくらいでいいだろう。


うむ……娘とは言え、我が父の考えが理解できぬのは辛いものだな。しかし友曰く、親の心子知らずという言葉があるらしいからそういうものなのかもしれん。
そこで、今思いついたのだが……これが終わったら、甘えさせてくれと頼んでみようかと思う……誰にも言うなよ?わ、私だって子どもなのだ!そういう時もあるということだ。(まあ元々、聖杯にそう願うつもりだったが……)

では、じっくり見ていくがいい。特に、父の勇姿を、その目に焼き付けるぐらいにな。

とは言っても、どうやら今回はその元弟子?がメインらしいがな」





衛宮切嗣

 

 

ーーー終永時にとって、衛宮切嗣という男は面白い男だった。

 

自身の思う正義を貫くため魔術すらも道具の1つと思い、彼の師事も強さを得るための手段の1つとして見ており、そこには師としての尊敬などは毛頭なかった。

だが彼はどんどん自身の技術を学んでいったのは確かで、そこは素晴らしいの一言に尽き、かつて部隊の育成などをしていた時代を思い出し、楽しんでいたのは秘密である。

 

しかし彼にはどこか危うさというものがあった感じはした。目的のためなら手段を選ばない。まさに数少ない自分との共通部分であった。それ故に自分は危なさを感じていた。

 

 

ーーー目的のためならば大切なものですら普通に切り捨てるだろうと。

 

 

現にそれは起きた。彼の母であり姉であり師のようなショタc……ナタリア・カミンスキーがある死徒化研究をする魔術師を追って目標の乗る旅客機に潜入。なんとかその魔術師を倒したが他の乗客はその魔術師の研究の影響を受けてゾンビ化しそんな危機的な状態で1人取り残された。

 

その頃ちょうど永時はと言うと、別の用で魔界の魔王様に会いに行っており、切嗣1人だけだった。

 

そして地上にいた切嗣はその状況を理解した上でーーーミサイルを飛行機にぶっ放した。それも躊躇いなく。

 

確かにこの行動には誰も文句は言えないだろう。飛行機が降りたところでゾンビ共が湧いてきて付近はたちまちバイオハザードな世界へと変貌していたことだろう。

後に事情を調べた永時はこれには驚いた。いや、こうなることは分かってはいたが驚愕、まさにその一言しか出なかった。

知り合いに状況を細かく再現してもらったがまさか母である女を躊躇いなくやるとは、その冷静さと冷酷さに彼は素直に驚き、感心した。

 

 

ーーー正義の味方になりたい。

 

 

前にナタリアからそんなことを言っていたとかなんとか聞いていて、それ故に出会った時の予感は確信へと変わった。

 

こいつは目的(正義とやら)のためなら手段を選ばない(悪を為す)と。

 

これは永時としては面白いの一言に尽きた。何故なら彼は掲げるものが違うとは言え、自分とどこか同じように感じられたからだ。

それがどんなものかはまた語ることになるだろうからその時に語ることにしよう。

 

 

そしてその数日後、ナタリアの死を聞いた永時は彼女の死に場所を隠蔽の魔術を使って訪れ、後ろから現れた衛宮切嗣に打たれた。

 

いや、正直言えば普通に避けられた。気配も感じ取っていたし、銃口がこっちを向いていたことも知っていた。しかし一瞬だけ後ろを一瞥した時に見たものによって逃げることが出来なくなった。

 

それは彼のハイライトの消えた、死んだ目の奥に映る微かな意志。まるで実家を出て行く決心をした子供のようなそんなことを感じ取っていた。

 

 

ーーーああ、お前は師を切り捨てて(悪を為して)まで正義の味方とやらになりたいのか。

 

 

それは、これから穢れた道を歩まんとする男の、確固たる意志の表れだった。

少なくとも終永時(自称悪)としてはその決意()を踏み躙ることは出来ない……なんて綺麗事は言わない。単に逃げる気力が失せた、それだけのことである。

 

 

「……やはりお前はそうなるか」

「なに?」

「4つだけ、言わせてくれ」

「……なんだ?」

「1つ目。今後一切お前にこのようなチャンスを与えるつもりはないからしっかり狙えよ?チャンスは一撃までだからな」

「……」

「2つ目。この道を歩むことを、決して後悔するな。後悔したらもうそこで終わりだということを理解しておけ」

「……」

「そして3つ目……言っとくが俺はこれをチャラにする程お人好しでなくてね。いつか仕返しさせてもらうからな?」

「……」

「そして最後は……大切なものを蔑ろにはするなよ?」

「……ッ!」

 

 

そして、終永時は撃たれた。しかし、運がいいのか悪いのか死ぬには至らず。慌てて止めを刺そうとした衛宮切嗣だったが、謎の瞬間移動(テレポート)によってその場から逃げられてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、あの時語っていた仕返しがこれ(変わり身)のようだ。

 

 

「がはっ……!」

「クハハハ!」

 

 

リヴァイアサンは嬉々とした表情で異形と化した右腕で衛宮切嗣の腹部を殴り抜く。

ベキボキッ!と拳が腹部へと吸い込まれるように抉っていき、骨が軋む音を立てながら彼は壁へと叩きつけられた。

 

 

「フゥ……流石は我が父の弟子ト言ったところカ?しぶとさダケは一人前ダ、ナッ!」

「ぐっ……!(『固定時制御……(タイムアルター……)二重加速(ダブルアクセル)』!)」

 

 

 

追い打ちをかけようと右足で地面を蹴り上げて突貫してくる。しかし切嗣が持ちうる時間操作魔術を戦闘特化にさせたそれにより、自身の時間経過速度を倍速化させ、改造したトンプソン・コンテンダー(以後コンテンダーと記す)を慣れた手つきで切り札である起源弾をリロード。効果が切れるギリギリで引き金を引いた。その後遅れて若干の疲労感が彼を襲うが構いやしなかった。

銃特有の乾いた音と共に弾丸は彼女との距離を縮めていく。

 

正直これ(起源弾)が効くかどうかは疑問であるが効く理由らしきものはあった。

その理由としては彼女の変化。明らかに異形であるそれは魔術による変化であると推測していた。

彼女が終永時との娘ということは調べで確認しており、ノットから聞いたがあれは悪魔とのホムンクルスだということも。

いくら悪魔との娘とはいえ半分は人間。あのような変化をするには魔術による補助が必要でないのかと踏んでいたからだ。

 

 

「チッ」

 

 

そして彼女は右手で床を握り、その圧倒的な握力で粉砕。手にある瓦礫片を左手で投げつけ、弾丸と相殺させ、その右腕で殴りかかる。だが切嗣は己の魔術を駆使してギリギリ避けて確信した。

つまり、今のことが意味することは1つ。

 

 

(……まさかとは思っていたけど、起源弾の存在がバレている?)

 

 

使い魔越しに彼女を観察していたが、遠距離攻撃は氷の槍を使っての投擲が基本的だったようだが、どうも彼女は瓦礫片を投げるなど魔術のまも感じられぬ攻撃しか行っていないのである。

あからさまな攻撃方法の選択にそう思わずはいられないのだ。

 

 

(いや、あり得る…使い魔を通じて感づかれたのかもしれない……)

 

 

正確には直接自分の師のような男が教えたからであるが、そんなことは切嗣は知るはずもない。

 

しかし彼はやり方を変えない。何故なら避けるということはつまり、当たればこちらに軍配が上がることを示していると踏んだからだ。

 

 

(さて……どうしようか)

 

 

問題は彼女の異常な程強化されている身体右半分。あくまで予想だが彼女は半身しかその強化は出来ないのではないかと踏んでいた。

 

 

(チッ、あの男……露骨なマデに右半身を狙ってくルな……ヤハリ父から聞いた起源弾トヤらを当てるノガ狙いか?)

 

 

一方彼女は彼女で父である終永時から起源弾の詳細を聞いてはいたが、だからと言って対策は取れど、勝ち星を上げるには至らず少しイラついていた。

 

 

(正直言えば強化をカケずにやりたいところダガ、奴は普通ノ銃器まで所持してイル。解いて挑めば蜂ノ巣は確定だから困ッタものダ……)

 

 

どちらも言えることだが、相手の手の内はある程度理解しておりそれ故に下手に出ることが出来ない状態が今の現状であった。

 

 

(……レプリカとは言え、アヴァロンのおかげでさっきの傷は完全に治癒した。残るのはグレネード2つとナイフ4本、キャリコの弾薬は僅か…起源弾は後2発)

(……正直言えバ、この強化は持ッて大体数分程度、それマデに決着をつけレるカ?……クソ!体力を使ッテしまうのガ難点ダナこれは……!)

 

 

互いの戦力的にも短期決戦になることは必須。一体どちらが先に手を出すのか。いや、この場合治癒力を高めるアヴァロンを体内に入れている切嗣にとっては時間をかけるほど回復していくのでリヴァイアサンの方が若干不利なのかもしれないが。

 

 

「……」

「……」

 

 

両者様子見に徹しているそんな中、先に手を出したのは……

 

 

「……フン!」

 

 

リヴァイアサンの方だった。

彼女は変化している右手で地面を強く殴り抜き、瓦礫片と共に砂塵を撒き散らした。

 

 

(なに……!?目潰しか!)

 

 

完全に視界から逃れられたことに切嗣は冷静に状況を確認し、下手に出ると突っ込むと奴の思う壺だと考え、ナイフを1本、砂塵の中心に向けて投擲した。

 

 

「ッ!」

 

 

しかしそれは藪から蛇だったようで砂塵からナイフの倍近い数の瓦礫片がこちらへ飛んでくる。

魔術を使用して避けようとするもたったの2詠唱を言う前に被弾。左肩と左横腹を貫く結果となった。

 

 

「『固定時制御・二重加速(タイムアルター・ダブルアクセル)』!」

 

 

だが彼は気合いで堪え、コンテンダーに起源弾を再び装填。装填と同時にキャリコをもう片手に持ってキャリコの方の引き金を引いた。

 

 

「ぬっ!?」

 

 

狙うは彼女の左半身。飛来する弾丸に気づいた彼女は右腕を盾にするように前に構える。

 

 

(ここで……もう一度!)

 

 

疲労感が襲うのが分かってはいるが切嗣は更に魔術を酷使し、グレネードの1つのピンを抜いて放り投げる。

 

 

「何だと!?」

 

 

彼女の驚愕の声、そして解除と共に爆破。しかし無傷ではあったのは最初から予想していたこと。

爆発と砂塵で周囲の確認が出来ない彼女を横目に切嗣は斜め後ろのところに回り込んでコンテンダーを右半身に向けてその引き金を引いた。

 

 

「うおっ!?」

 

 

しかし化け物並の直感が働いたのか運良く下に屈んでしまい、避けられてしまう。

 

 

(『固定時制御・二重加速(タイムアルター・ダブルアクセル)』!)

 

 

ならば次だと更に負荷がかかることを覚悟して更に加速し、再びコンテンダーに装填をする。

 

 

「甘いわ!」

「ガハッ……!?」

 

 

しかし、2倍加速しているはずの切嗣を普通に認識してきて、装填する前にその異形の右手が顔を捉え、そのまま殴り抜いたことに彼は吹き飛ばされながらも驚愕した。

 

 

「……フン、最初の内はマダしも、ソウ何回も加速したラ対処の1つや2ツ出来るワ」

 

 

正確には昔研究所にいた際に対傲慢として加速する機械相手に訓練していたのが皮肉にも功がそうしたのである。

まあ彼女としては機械の方が強かったというのが素直な感想でもあるが……。

 

 

(さアどう出る衛宮切嗣よ……マさかこれで終ワリか?)

(さっき受けたのはなんとか癒えた。だが、今のでキャリコは弾切れ……コンテンダーはあと1発。ナイフはあと3本……流石はあの化け物の巣窟(埋葬機関)で生きてきただけはある……調べによれば彼女は身体能力は化け物並で有名。やはり接近されると圧倒的に不利になるか)

(ウム。強化の残リ時間は持って後4分強といッタところか……食屍鬼(グール)ヤ吸血鬼相手なら慢心してイルところを殴リ抜イテ頭部を握り潰せバ勝テルのだガ……そう上手クはイカンか)

 

 

切嗣は口端から垂れた血を拭い、リヴァイアサンは右手を開いたり閉じたりする。そんなことをしているが内心は互いが互いに冷静に自己分析をし、次の手立てを考え始めていた。

 

 

(『固定時制御ーーー(タイムアルターーーー))

 

 

先に動いたのは切嗣。彼は使い切ったキャリコを投げ捨て、

 

 

(ーーー三重加速(ーーートリプルアクセル)』!!)

 

 

今度は3倍速で加速し、ナイフの1本に手をかけて投擲した。

 

 

「なんダtーーーグッ!?」

 

 

先ほどより明らかに速くなった急激な加速により反応が遅れて、左足にナイフが突き刺され、僅かながら怯んでしまった。

だが切嗣にとってはその怯みは充分だった。

 

敢えて切嗣は虚をつくようにナイフを抜いて敢えて接近戦へと持ち込んだ。実際まさか接近されると思ってなかったのか驚愕に染める彼女の顔があった。

 

好機だと踏んだ切嗣は彼女の左半身目掛けてナイフを振り下ろす。

 

 

「ガッ!?」

「……何!?」

 

 

しかし彼女は笑みを浮かべてそれを左手で突き刺されるように手のひらを向け、ナイフをわざと刺ささせて、強化していないはずの左手が純粋な握力でナイフを粉砕させた。

 

流石の切嗣もこれには驚きを隠せず、思わず顔に出る。

だがこの瞬間にも彼女は空いた右手で拳を作り、殴りかかった。空気を裂く音が聞こえるほどの人間離れし、今までで最も速い速度を出した拳に切嗣はマズいと感じ取り、

 

 

(『固定時制御・四重加速(タイムアルター・スクウェアアクセル)』!!)

 

 

無茶だとは分かってはいるが死ぬよりはマシだと言い聞かせて限界まで飛ばす。

4倍速に加速した体感世界で切嗣は頭を屈めることで拳を避け、最後のナイフを手にかけて彼女の左横腹に突き刺した。

 

 

「グガッ……!」

 

 

強化されていない部位を刺され一歩後ずさる。それと同時に切嗣は後ろに飛び、空中でグレネードのピンを抜いて投げつけた。

 

 

「チィッ!」

 

 

思わず右腕で庇ってしまうリヴァイアサン。その間に切嗣はコンテンダーに起源弾を装填。

 

 

「舐メルナ!」

 

 

装填終了と同時に彼女はナイフを抜き取って逆に投擲、そしてその後ろについていくように右腕を構えて走り出す。

だがそれに対し切嗣はもうリロードは終えており、銃口を彼女に向けて引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし2人が想定しない神の悪戯ともいうべき事態ことが起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

「ナッ……!?」

 

 

ちょうどその真上には聖杯戦争における最狂と最優の激突する激戦区。ならばその床であるこの天井が崩れるのは必然というべきか偶然だったというべきか。

 

……とにかく、何が言いたいことかと言うと、戦闘による余波により崩れた天井から黒い泥のようなものが激流の如く溢れ出し、その噴出地点が皮肉にも2人の頭上だったということである。

 

流石に戦闘中で負傷していた2人は突然の出来事に対処出来るはずもなく、あっさりとその激流に飲まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『世界(ザ・ワールド)』!!時よ止まれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんてね?まあ時間止めてるのは事実だし?ちゃっちゃっと取り掛かりますか……おっと、失礼。観測者(読者)の諸君はまあ僕の正体を理解しているかもしれないが決して言わないことを約束してくれ、オッケィ?……よろしい。ならば僕はもう行くね?……そうだ。ついでにネバーにメタ発言でもさせておこうっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衛宮切嗣は夢を見ていた。

 

自分が認識している世界が、平和に満ちている。まさに世界平和。恒久的な平和と言えよう。

しかし、世界は自分の知りえないところが多くある。そこでは怒鳴りあい、殴り合い、殺しあう。

 

 

だがそれでも、自分の周囲は平和である。

 

 

 

 

 

 

衛宮切嗣は夢を見ていた。

 

人々は争いなく暮らしている。暴力は愚か、人を傷つけることすら絶対にない世界。

 

ある夫婦がいた。2人は子を成すためにある行為をしようとする。しかしその過程には女性は必ず傷つかなくてはならないことがある。敢えて言わないが分かる人は分かること。しかし、人を傷つけることは出来ぬ世界であるため、結局2人は子を成さぬまま生涯を閉じた。

 

他にもそのような人々が増え続け、少子高齢化が悪化の一途を辿っていった。全ては争わぬために。

 

 

やがて人々はいなくなり、世界は平和となった。

 

 

 

 

 

 

衛宮切嗣は夢を見ていた。

 

目が覚めれば1人だった。

愛する家族や友を探すも何故かいなかった。だから次に外に出てみた。だが、家族どころか人の気配が1つもなかった。

 

とりあえず、走った。駅、交差点、公園、学校、デパート、空港、電車。思い当たるところを探したが、誰もいなかった。

 

そして気付いた。自分以外の人がいないのではないかと。

 

否定したいがためにまた走った。しかし、誰もいなかった。

 

 

自分以外の人がいなくなる。確かにこれも平和なのだろう。

 

 

 

 

 

ーーーだが、これは自分が望んだ平和と言えるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しかし、それもまた一種の救済というものよ』

 

 

『ーーーさあ、どう出る?衛宮切嗣よ』

 

 

『肯定か、否定か。それを決めるのは貴様次第』

 

 

『だが、それはどちらも同じかもしれぬ』

 

 

『何故なら聖杯如きに委ねる時点で、終わっているのだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ」

「……!」

 

 

作った緑弾をパシッと掴み、そのまま放り捨てるように放つビギナー。小さいながらもセイバーを吹き飛ばすには充分な威力を持つそれが分裂し、散弾として降り注ぐ。

幸い、数だけで1つ1つの爆発力や威力はそんなになく、剣1本で上手く捌き、『風王結界(インビジブル・エア)』の応用で風の防御膜のようなものを張っていたおかげで、このまま上手くいけばダメージといったものはないまま終わりそうである。

 

そう、上手くいけばの話。

 

 

「フハハハッ!」

「しまっ……!」

 

 

そんなことでこの悪魔の攻撃が止むはずがないからだ。

 

緑弾を1つ弾いた瞬間、目の前には100キロは優に超えるスピードですぐ側まで迫っているビギナーの姿があった。

 

セイバーは間に合わないと判断し剣を横にかざして少しでもダメージを減らそうと防御の構えをとった瞬間。彼は接触し、小柄なセイバーへとタックルをかました。

筋肉の鎧とも言える引き締まった筋肉質の肉体と、防御が出来たとはいえ、ギリギリで気づくところまで迫ったその圧倒的なスピードから繰り出された力に押し負けてセイバーは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。しかもその力が強すぎたのか少し壁に埋もれてしまう形となってしまった。

 

 

「ぐっ……!」

「くたばれ!」

 

 

それを好機だと見たのか、更に追い討ちをかけるように両手に緑弾を持ち、交互に投げた。投げられた緑弾は吸い寄せられるかのようにセイバーがいるであろう場所に飛んでいく。

 

 

「くっ……『風王鉄槌(ストライク・エア)』!」

 

 

しかしセイバーは剣から放たれる暴風の塊を壁に打ち付けることでジェット噴射の要領で脱出。しかし、彼は攻撃を止めることなく鬼のような怖い顔をしながら緑弾を投げ続けるもセイバーは紙一重で避けながら走って期を伺う。

 

 

「チッ」

 

 

当たらないと理解したのか、緑弾を投げるのを止めてセイバーへと接近し始める。これは遠距離攻撃が少ないセイバーにとっては好機とも言えよう。

だから、この期を逃さず攻め込めるだけ攻めようとセイバーは画策する。

 

 

「デェイッ!」

「はあっ!」

 

 

その強靭な腕から繰り出されるパンチがセイバーに襲いかかる。それを剣を上手く扱って綺麗に受け流す。

顔を驚愕に染めるビギナーの懐に入り込み、腹部を斬りつけた。

 

 

「馬鹿がっ!」

 

 

しかし案の定と言うべきか、その頑丈さに弾かれてしまう。前にやった時は出力を上げる前から弾かれていたのにまだそのような愚行をするセイバーにビギナーは嘲笑いながらセイバーにラリアットを繰り出した。

 

 

「ぐ、あっ……!」

 

 

流石の速さに防御もとる暇もなく、諸に喰らってしまい吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 

 

「フンッ!」

「なっ……!」

 

 

同じ目には合うわけにはいかないとクルリと身体を半回転させて壁に蹴り上げようと足に力を込め、蹴り上げようとする壁に視線を向ける。

しかし、彼女が見たのは叩きつけられる前にいつの間にか壁際に移動していたビギナーの悪魔のような笑みであった。

 

 

「フフフッ!」

 

 

先回りしたビギナーは彼女の華奢な(ビギナーから見て)身体を両手で掴み、サマーソルトキックのように蹴り上げた。

 

 

「ぐあっ……!」

 

 

苦痛に顔を歪ませ、天井近くまで打ち上げられたセイバー。しかし、下では緑弾を右手に持って腕を後ろに引いているビギナーが今まさに追撃の体勢を取っていた。

 

 

「とっておきだぁっ!」

 

 

低い風切り音を鳴らしながら放たれた緑弾は変な軌道を描きながらも確実にセイバーの方へと迫っていき、

 

 

「『風王鉄槌(ストライク・エア)』!」

 

 

セイバーから放たれた暴風の鉄槌によって、潰された。

ビギナーの視界一面を覆う規模の土煙が舞っており、2人の放ったものの力加減が伺える。

 

 

「……なにぃ?」

 

 

潰されたことに驚きつつも再度攻撃しようと視界の悪い土煙の中にいるであろうセイバーを視線で索敵する。

 

 

「ッ!そこか!」

 

 

気配を感じ取ったのか、手の平を土煙に向けて緑弾を複数撃ち出す。

 

 

「なんだと!?」

 

 

しかし、返ってきたのは当たった感覚ではなく2度目の暴風の鉄槌だった。正確には、脱出時に1度使っているので3度目なのだがそんなことはどうでもいい。

とにかくその暴風の鉄槌が別方向から飛来してきて、気づいた時には直撃し、2度目の土煙が上がった後だった。

 

 

「(……フン、無駄なことを。例え貴様があの有名なアーサー王だろうと、その程度のパワーでは傷をつけることなどできぬっ!!)」

 

 

ビギナー自身が知る中で現在、自分の身体に傷をつけられそうな存在は1人。万能チートと呼ばれるあのロリコンだけなのだ。増してや相手は自分に傷すらつけられず一方的にやられているだけのセイバーとなれば、そう高を括っているのは仕方ないことなのだろう。

 

 

「ッ!な、なんだと……!?」

 

 

だからこそ、そんな自分の身体から痛みが走ったらさぞかし焦ることなのだろう。

 

痛む場所を正確に手で辿るとあるところでグチョリと生暖かい感触が感じられ、手を見ると……その手は真っ赤に染まっていた。

 

その痛む場所は……後頭部であった。

 

後頭部。そこは人体で鍛えられない、急所の1つ。確かに彼は伝説の悪魔となってはいるがまだ本気には至っておらず最高の防御力を持っていない状態。

 

 

「クソがっ!」

 

 

油断していた。まさか雑魚だと思っていた奴に傷をつけられたのだ。彼を怒らせるには充分なことである。

そして、その判断材料として証明するかのように後ろには血の付いた聖剣を持つセイバーの姿が、

 

 

「セイバァァァァァアアアア!!」

 

 

気に食わなかったのだろう。怒りが頂点へと達し、後ろにいるセイバーへとさっきより速い速度で急接近し、ラリアットを繰り出した。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

苦痛の声を上げてセイバーはまた吹き飛ばされた……と思っていたと思うが寧ろ逆。声を上げたのはビギナーの方だった。

 

 

「く、クソ!……目がァッ!」

 

 

痛々しい切傷を見せながら彼は右目から流れる流血を手で押さえる。

この時彼は2つのことに驚愕した。1つは鍛えられない部分である目を正確に狙ってきたこと。もう1つは、

 

 

(ぐっ……何故だ!さっきは避けられなかったはず!ま、まさか……!)

 

 

自分のスピードについて来て、なおかつ避け切ったという事実にだ。まだ殺り始めてまだ数分程度。あのバットやネバーでさえ初対面だった当時はこの状態でも追いつくのに日数を費やしたことを覚えている。すぐに覚えた奴など今のところ1人だけのはずだった。そう、だったのだ。

 

 

(こ、この女……!戦闘感覚だけはオメガ並だと言うのか!?)

 

 

つまり彼女は、生前から戦の戦線に立っていた時の積み重ねと直感が体に染みついていることが嫌でも理解させられる。そしてそれだけを活用するだけでこの悪魔と渡り合えている才能を併せ持っている事実にビギナーはほんの少しの焦りと恐怖。大きな憤怒を内に溜め込んでいた。

 

 

(ッ!この俺が恐怖するだと!?くっ……!早くこの女を始末しなければ!)

 

 

何度殴ってもその意思を変えることなく、折れることなく立ち上がって、果敢に挑むその姿に悪魔(ブロリー)としての本能が警鐘を鳴らす。まるでこの感覚は……

 

 

(カカロットォ……!)

 

 

そう、油断していたところに致命的な1撃で自分を倒し、2度にわたって倒すことが叶わなかった憎きあの男とどこか重なるところがあるのだ。

何度潰しても泣き言1つ言わず、何度も立ち上がってきたあの男と。

 

 

「……ォォ………カ…………トォ………カカロットォォォォォォォォォッ!!」

 

 

獣のような咆哮を上げてセイバーに突っ込もうと足に力を込めるビギナー。

そこには ノット・バット・ノーマル(理性)ではなくブロリー(本能)が勝っているのが現状であった。

 

 

『ーーー令呪を以って命ずる……』

「「!?」」

 

 

だからこそなのだろう。

 

 

『……今の己の全力を以って、“聖杯”を破壊しろ』

 

 

抗う理性がなくなった今なら、令呪が効きやすくなってしまっているのだから。

 

 

「「なっ……!?」」

 

 

突然の令呪の使用に驚くサーヴァントの2人だが、それぞれ意味は違っていた。

 

セイバーは令呪を使って正気を疑いたくなるような命令をするマスターに。

 

ビギナーは命令をしている内容の重大さに。

 

 

「なっ、なんだと……!?」

 

 

すると突然。錆びついたブリキ人形のようにぎこちない動きで聖杯の方へと向きを変え、緑弾を、それも今まで投げてきた中で1番だと言えるような大きさのものを右手の平に作り上げて向け始めたのだ。

 

 

「き、貴様……!正気か!?」

『……』

 

 

マスターである衛宮切嗣に大きな声で抗議をしようとするビギナー。しかし返ってくる返答は無言であった。

 

 

「わ、分かっているのか!?そんなことをすればどうなるか!アイリスフィールがどうなっても構わないというのか!?」

「ッ!」

 

 

抵抗しているのかぎこちない動きだが、手の平は少し下へと反れ、身体を後ろへと捻ろうとしている。

 

そしてセイバーは突然のことに若干呆然としていたが、意識を戻す。

今聞いたところ、ビギナーの言葉通りならこのままでは不味いことが起きるのではないかと直感が言っており、騎士道に背くも動きの鈍っているビギナーへと攻撃を仕掛ける。

 

 

「ビギナー……許せ!」

 

 

自分も聖杯が欲しいのだ。何があったかは知らないが、それをこんなところで壊されてたまるか。

 

彼女は一言謝り、隙だらけの彼の後頭部へと剣を振り下ろした。

 

 

『もう1画を以って命ず……今の己の全力を以って、聖杯を破壊しろ』

「ッ!オオオオオォォォォォォォォォォォ!!」

「しまっ……!?」

 

 

轟っ!とビギナーを中心に凄まじい暴風と衝撃波が起こり、彼の力が増したように感じた。その力は空中にいて、不意を突かれたセイバーはあっさりと吹き飛ばされてしまう程で、距離を取ってしまった。

抵抗する力を消されたのか、先程までぎこちなかった動きが滑らかなものへと変わり、再び標準を聖杯へと合わせる。

 

 

「衛宮切嗣!貴様ァァァァァァァァァ!!」

「不味い!」

 

 

素早く立ち上がったセイバーは地面を踏みしめ、ビギナーへと一気に距離を詰める。

 

 

 

 

 

ポ-ヒ-

 

 

 

 

しかし、非情にもそれは放たれた。

 

気の抜けそうな音と共に緑弾がビギナーの手から離れ……聖杯と接触。緑のエフェクトと共に、大爆発を引き起こした。

 

 

「クソがァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

聖杯の破壊により、この世に留まる理由を失くし、構成する身体が光の粒子となって消えていく中、溢れ出る感情に身を任せて叫んだ。

 

 

「ーーー!!」

 

 

そして、何故かセイバーが必死そうに叫んでおり、その珍しさに顔を上げると……

 

 

「ッ!?」

 

 

黒い泥のようなものが、目前に迫る光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衛宮切嗣はミスを犯した。

 

咄嗟と言えば仕方ないだろうが、壊すものを間違えたこと。そして、壊すタイミングをも間違えたこと。

 

 

それが後に大災害を引き起こすことになろうとは思わなかっただろう。

 

 

 

 

だがもう遅い。

 

 

 

 

終焉への足取りは今流れる時と同じくして、止まることなく進んでいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 


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