Fate/Evil   作:遠藤凍

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〜姐さんが送る前回のあらすじ〜


「ヤッホーお前ら!遂に……遂に、このバット・エンドちゃんが出張してきたぜ!……まあそんな事どうでもいいか。ちゃっちゃと仕事させてもらうぜ。


前回!見事アスモの奴を倒した俺!……まあ見事に騙されちまってホイホイされちまった訳だが、とりあえずネバーの奴は別の場所にいるってことは分かった!……けど一体どこにいるんだ?

そして遂にあの男、伝説の悪魔を持つノットの奴が動き出しやがった!

……あいつは何考えてるかは知らねえけどさ。この辺りを破壊するつもりなら止めねぇといけねえよな……っと、そんな訳であらすじ終わり!以上解散!




……そういや、多分ネバーとかオメガとかノットのこと殺すつもりでいるけどさ……本当にこれでいいのか?それとも、単に俺が甘いだけなのかな?」








集いし猛者共

 

 

 

 

 

ーーーやあ、今日はとてもいい天気だと思わないかい?

 

 

ーーーああ、そうだな……。神々の黄昏(ラグナロク)に相応しい。美しい黄昏時だとは思う。

 

 

ーーーへえ……君、名前は何ていうんだい?

 

 

ーーー人に名乗らせるのならまずは自分から、そう聞いたことはないか?

 

 

ーーーおっと、こりゃ失礼。僕の名前はオメガ。ただ普通の人よりちょっぴり強いだけの、ただの人間さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光に当たる人々は寝静まり、闇夜に紛れる人々が活動する冬木の街。

そこを物凄い速さで通り過ぎる一本の大木。その上にオメガは立っていた。

 

 

「……」

 

 

お前は桃○白かとツッコミたいところだが別世界(他作品)の真似事をするのは彼の特徴の1つでもあるのでそこは目を瞑って頂きたい。

 

しかしそんなことも気にせず、彼の頭は全く別のことを気にしていた。

 

 

(さっきの気配……確かにだが俺の感覚が何かを捉えた。しかもそれは見覚えがあるときた。何だろうねこれは……例えるなら某奇妙な冒険における悪のカリスマと星型のアザを持つ一族のように。某世紀末の世界における世紀末覇者と世紀末救世主のように。まるで壊し、壊し合う……いや、殺し、殺し合う関係と言うべきか。そんな風に感じとれるが……まさかね)

 

 

杞憂であれば良いものだと不信感を漂わせながら彼は街を進んでいく。

 

 

「おや……?」

 

 

しかしその道中で彼はあるものが目に入った。

 

 

「姐さんじゃないか。どうしたんだい?」

 

 

自身のお気に入りの幼女の姿を捉えたオメガは飛行中の大木の上から跳び降り、彼女の真横へと着地した。ちなみにだが大木はそのままのベクトルで進み続けたままの状態、つまり放置である。

 

 

「あっ……オメガか……」

「ん……?」

 

 

それなりの付き合い故かいつもより声のトーンの低さに気づいたオメガ。見れば彼女の手元には傷だらけのドM魔王や知り合いの弟子、挙句の果てには知り合いの娘までが地面に転がるように横たわっているのだ。いつもならば「姐さん!俺だ!愛でさせてくれ!」など言うのだが、彼女が仲間思いと知っているならばその心情を察することは容易でありそれと同時に空気を読むことも簡単なことであった。

 

 

「これは酷い。また随分と派手にやられたもんだ」

 

 

介抱している彼女の側に寄ってそう声をかけるオメガ。見れば分かるが、とりあえず話を理解するために敢えて現状を聞くことにした。

 

 

「で、誰にやられたんだい?」

「それが……俺にも分からねえんだよ。戻ってきたらこうなっててよ……」

「分からない、ねえ……」

 

 

そう呟いてジッと辺りの観察を始めるオメガ。

 

疲弊しているのか、いつもよりか細くなっている姐さんとその横脇にある熱を帯びたように存在を揺らめかす槍。何かの衝撃で壊れたビル。何かが落ちたのか陥没してクレーターのようになっている道路の一部。そして、死屍累々と例えれるように転がっている人物達に見える打撲痕のような痣。これだけのことが出来るものは現状的に限られてくるということだ。

 

 

「(打撲痕から見て敵は肉弾戦特化。アーチャーは宝具に頼ってるからなし、てか寧ろ肉弾戦なら負けそう。セイバーも剣使うからなし。バーサーカーは必ず得物を持ってるからなし。ネバーなら出来るがわざわざ戦力を減らすようなことをするわけないのでなし。姐さんは……言う必要もないか。つまり、あと残るのは……俺とノットだけになるかな……)」

 

 

この状況を見て彼女はどう判断するのか。楽しみであると同時に少し怖くも感じていた。

 

 

(怖い?つまりは恐怖を感じたということか?ある帝王曰く、「恐怖を持たぬ者こそが世界の頂点に立つ者」だったか?なんかそんな風なことを聞いたことがあるけど……まさか、嫌われることに恐怖を感じている?……んなアホなことあるかぁ?)

 

 

最初こそ否定はしていたものの、考えを変えたのか。いや、あるかもしれない。と彼は自己肯定した。

 

 

(少なくとも姐さんとはそれなりの付き合いとも言える。その間に情が移ったかもしれない。それならばこの恐怖が生まれたのも納得がいく)

 

 

つまりは彼女に嫌われたくない。そういうことなのかもしれない、そう自己解釈した。

そして同時に彼はあることに気づく。いや、気づいてしまって動揺する。具体的には一人称が変わる程。

 

 

(……あれ?もしかして私ってロリコン?)

 

 

もし、これがネバーの耳に入っていたらこう答えていたはずだ。

 

何を今更言ってんだアイツ?と。

 

本人曰く子供好きな性格の影響によるもの(?)というよりその延長(?)らしい。

 

 

(……んな訳ないなうん。きっと気のせいだな。うん、きっと気のせいだ。読者の皆もきっとそう思ってるはずだよね)

 

 

そしてこの男、まさかここに及んでとぼけ出したのである。しかしここには真剣に介抱しているバット1人のみ、読心能力がない彼女に分かるはずもなく残念ながらここにはツッコミは1人もいなかった。

まあ本人がその事実を知るのはもっと先のことになるかもしれない。

 

今やその事実を知るのは今は観測者(読者)創造主(作者)だけ知る得ることである。

 

 

「……あっ、俺がやるよ」

 

 

1人シリアスならぬシリアルになっていた気分を切り替えるため、彼女の介抱の手助けをすることにした。

 

突然の手助けに動揺するバット。どうやら声を掛けられたことにではなく、別のことに動揺しているようである。

 

 

「えっ?いや、けどよ……」

「あー……そういうこと。大丈夫ですよ。別に対価とか取りませんので」

 

 

ほいっとなと気の抜けるような掛け声と共に指を鳴らす。すると見る見るうちに皆の傷は塞がっていき、やがて痣などがない健康的な身体へと変貌を遂げた。

 

 

「……相変わらず凄えな」

「……そうかい?」

 

 

そんな感嘆な声にオメガはドヤ顔をするはずだっただがそれを止め、ゆらりと笑ったまま視線を彼女へと向ける。

背中しか見えないがその背には哀愁のようなものを漂わせており、オメガは少し心配になって彼女には悪いが自分のスキルを使用してその心境を覗かせてもらうことにした。

 

 

(……なるほどねぇ)

 

 

戦うしか能のない自分が恨めしい。簡略化させるとそのようなに語っている心に彼はなんとも言えない気持ちになった。

 

 

(いくら彼女に教えて貰えたとはいえ、姐さんには回復魔法の才はなく、出来ても1時間に1、2回かそこら治すのが限度だった。ただそれだけのことだし、どうしようもないことなんだけど……仲間思いってやつも大変なこった)

 

 

今は亡きお仲間であり、知り合いの異常者の友人である彼女を頭に思い出しながら小さく溜め息を吐いた。

 

しかし自分は気まぐれな狂楽者。名の通り自分が面白いと思うことだけをするだけが生き甲斐であり、だからわざわざ面倒で面白みもない励ましや慰めなんぞするはずもなく。

 

 

「……まああれだよ。適材適所って言葉があってさ。確かに姐さんは身体の回復役は出来ないかもしれない。けど、人に降りかかる火の粉を払うぐらいのことは出来るんじゃないかい?」

「……そいつは慰めのつもりか?」

「さあね?ただあれだよ。ウジウジすんなって言いたいんだよ」

「ウジウジするな、ねえ。けどよぉ……」

「はいはい、ネガティヴになるのはやめましょうね〜」

 

 

このままでは埒があかないと感じたオメガはウジウジする彼女の額にデコピンをした。

 

 

 

「痛っ!……何すんだよ?」

「あのねぇ、俺が言うのもなんだけどさ。後悔する暇があるなら先のことを考えたらどうだい?大事なのはこれまでどうしたかじゃなくてこれからどうするかだと思うんだけど?」

「……そんなもんか?」

「そんなもんだよ人間ってのは。人間は過去にしがみつく生き物じゃなくて未来に生きる存在らしいからね」

「ふーん……」

 

 

何か思いつめたように考え込むバットを見てこりゃあ長くなりそうだと感じ、

 

 

「さて、治療もしましたし、しょげる姐さんもまた可愛いってことで撮影もしたし。先に行かせてもらうよ?」

「……あ、ああ行ってこ……っておい!?今撮影って言ってなかったか!?」

「んじゃ、よろしくね〜!」

「ちょっ、待っtーーー」

 

 

言いたいことだけ言って、バットの静止の呼びかけにも耳を傾けず、彼は姿を消した。残されたバットとしてはポカーンと暫く惚けていた。

 

 

「……ったく。言いたいことだけ言いやがって」

 

 

ハッと気がつき、そう悪態を吐きながら彼女は介抱している手を再び動かし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……これでいい。やっぱりあいつをこっちの方角にわざと逃がして正解だったか。元々逃すつもりだったけど、何かの気配を感じれたことで自然に事を進めれた。……最初、王様をあそこに誘き寄せてくれと頼まれた時はどうしようかと考えたが……上手くいってなにより。予定通りあいつは魔王たちをボコってくれて姐さんは介抱でしばらくあそこに留まるはず。ならば今の内にあいつを潰して、危険性のあるものでも潰しますかね……全く、僕も甘くなったもんだ)

(しかし、気になるのはセイバーちゃん。姐さんの口振りと様子から推測するに彼女はあの場にはいなかった。つまりそれを意味することは……なるほど、予定より早く向かったか……まあ問題ない。邪魔になるなら排除すればいいしね。マスター諸共、だけどね……ああ、面白い。今この状況が面白くて仕方がない。それで彼女が来てくれれば、尚のことなんだけどねぇ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

「ッ!?」

 

 

そして、そのセイバーは言うと誰よりも早く決着をつけていたのである。

 

 

「なっ……!?」

 

 

セイバーの持つ聖剣による突きが敵であるランスロットの胸を貫く結果となったがその結果にセイバー自身が驚いていた。

それもそのはず、セイバー……アルトリア・ペンドラゴンにとってランスロットという騎士は円卓最強の騎士。その言葉が伊達とは口が裂けても言えないぐらいの実力者。そういう男であるはずだったからだ。

 

補正により狂ってもなお衰えを見せぬ卓越した剣技。更にそれを補うかのように併せ持つ無窮の武練。

 

手合わせならば勝利を挙げたことはあった。しかし闘争。勝者が生き、敗者は死ぬ。そんな本当の殺し合いに発展したことはなく、推測の域でしかないが恐らく負けてしまうであろうと考えていた。

 

理由はそれだけではない。彼が持つ得物も結論を出した要因でもあった。

 

 

無毀なる湖光(アロンダイト)

 

 

魔剣と化してしまってなお、その美しさは衰えを見せぬランスロットの愛剣。

竜退治の逸話を持つため、竜を持つものにとっては相性の悪い剣であることは確かで竜の因子を持つセイバーにとって勝ち星を挙げること自体無理かもしれないと頭の片隅に思っていた程。

 

 

「ラン…スロット……?」

 

 

だが現実はどうだ?一瞬電池の切れたロボットのように動きを止めたその一瞬をついて私は何をした?そう、突きを放ったはずだ。

ではその突きはどうなった?今目の前にいる湖の騎士の胸にしかと刺さっているのが見える。

何故あんな隙を見せたこと、更に致命の一撃が呆気なく入ったことにより驚愕と疑問が彼女の思考を巡らす。彼との戦闘にそのような兆候などがあったのだろうか。いや、殆ど自分に対し憤怒と殺意を向けてきたことしか覚えがなかった。

 

そして、彼女はそれにより別のことを考え始めた。

 

 

(……ああ、ランスロット。そもそも貴方がこうして狂い、剣を向けるということはそれだけ私のことが憎いのですね)

 

 

そう推測するセイバーだが実際はその彼女に裁いて貰うために襲ったのだがそれをセイバーが知る術はない。

 

 

(ですがランスロット。この度貴公と剣を交えて分かったことがある……やはり私は祖国を救いたいと)

 

 

彼と話して考えていたがやはり個人的にあの国はやり直すべきだと考えた。例えどんな結果がなろうと民や円卓の騎士に否定されようとも、何もせずに嘆くよりはとりあえずやってみる価値はあるはずだと結論付けた。

 

 

(……ああそうだ。これは私のただの我欲、子供のような我儘に過ぎない。周りのことを考えず独断と偏見でやろうとするのは暴君と変わらないと言われましたがそれでも……アーサー王としてではなく、アルトリア・ペンドラゴンという1人の人として、国を救いたいのだ。だからこそーーー)

 

 

足の力が抜けてきたのかバランスを崩し、こちらにもたれかかり剣が深く食い込むランスロットの耳元で彼女は自身の思いを吐露する。

 

 

「ーーー聖杯は、私が貰う……!!」

 

 

そう吐き出した瞬間少し気持ちが楽になったような気がした。まるでのしかかった重石を下ろしたようなそんな軽量感が。

 

ああ、気持ちを吐き出すのはこんなにも心地良かったものなのか。

 

少し憑き物が取れたような顔色になるセイバーを僅かに残る視力で見ていたランスロットは苦笑気味に呟いた。

 

 

「ふふ……まだ、そんなことにこだわっていたの……ですか……全く、貴方というお方はーーー」

 

 

そこで彼の言葉は途切れた。いや、正確には身体を構成していたものが粒子となって崩れ、最後の言葉を言い切る前に宙へと胡散したからだ。

 

 

「……それが、今私が願う唯一の望み(我儘)だからだ」

 

 

消えていくランスロットを“片方が濁った金に染まった”目で見やると彼女は辺りを燃やす炎と同じように揺らめく世界を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(今のところは、大体……予定通り、か……)

 

 

ある場所にて本物のネバーは物陰に身を潜め、出来るだけ音を立てぬよう自身の武装の最終確認をしながら、事前に送り込んだ使い魔を経由して状況も確認していた。

 

 

(……ふん、あのロリコン野郎め。一応念を押して殺しておけと言っておいたのに逃すとは……どうせ奴のことだ『いつ殺せとか言ってないでしょ?』とか言うんだろうな……まあ敢えて言わなかったが……)

 

 

そう言って次の武装を手に取って……視界がブレた。

 

 

「ッ!?」

 

 

原因は突然の頭痛と若干の吐き気。ただ痛いのではなく、まるで頭が溶けていくような、そんな錯覚を感じさせられるような痛みであった。更にその痛みによる影響か、手の力が一瞬弱まって危うく銃を落としかけた。

 

 

(チッ……!予想より進行が酷くなってきている。つまりは近づいたということか)

 

 

何が近づいたのかは分からないが、現時点で言えることは彼に何らかの異常が起きているということである。

 

 

「(……クソが)」

 

 

小さく悪態を吐き、痛みになんとか耐えながらも物陰から辺りを見渡す。

 

 

(目標は大体50メートル。側に敵が1人。言峰綺礼がいないところを見ると……リヴァイアサンの奴が上手くやってくれているようだな)

 

 

彼の視線が捉えたのは金色に輝く、まさに万能の釜や願望機の名に相応しい杯、聖杯。しかし、そこから溢れ出ているのは見ただけでヤバいと身体が警鐘を鳴らす程黒い泥のようなものである。

そして、その側で仁王立ちする聖杯に負けず劣らずの輝きを見せる男。アーチャーこと最古の王、ギルガメッシュである。

 

 

(さて……どうしてあの男があんなのを守るように立っているかは知らんが……オメガ然り、姐さん然り、ノット然り、長生きしている奴の考えは理解できんが……どうせその類なんだろうな)

 

 

正直なところ正面から行けば勝算はあるにはある。しかし、接近戦を重とするセイバーなら搦め手を使えばどうにかなる。だが相手はアーチャー、銃弾よりも早く飛ばしてくる武具の雨を掻い潜ってどうにかするのは至難の技である。そんなことをしそうなのは速さ自慢を持つ姐さん。ノットなら構わず直感で避けて、そのまま突っ込む。オメガならそもそも打ち込む前に懐に踏み込んで殴り抜くか漫画を読みながら人混みの人を避けていくように武具の雨を避けていくだろう。

 

 

(……こう考えるとやはり俺はつくづく弱者であることを思い知らされるな)

 

 

そう考えるとまともに避けることが出来ない、自称悪らしく姑息で泥臭い方法でしか取れず、勝つことが難しい自分が恨めしく思ってしまった。

正直なところ、他の3人が逸脱しているだけなのは頭では理解しているつもりだった。しかし、本心はそうはいかないようだ。

 

 

(フッ……かつての部下やあいつ(セイバー)の影響でも受けたか?)

 

 

言うなればそれは正面から正々堂々と戦って勝ってみたいという欲求。騎士道精神に近い何かのようだった。

 

 

(……くだらん事を考えるもんだな)

 

 

しかし、彼は自称とは言え悪をかざす者。勝つためなら手段を選ばず、まるで作業のように戦う。

 

どんな手を使おうが勝てばいい。それがネバーという男の戦い方なのだ。

 

 

(……さて、そろそろか)

 

 

だからこそ彼は屑と言われようと利用できるものならどんなものでも利用する。

 

 

「……何?」

 

 

大きな地響きと共に天井が崩れ、砂埃が舞う中、1つの大きな影が轟音を立てて落ちてくる。

 

 

「ネバーは……どこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「貴様……無個性!?」

 

 

ーーー例えそれが、かつての仲間であろうと使えるものは利用する。それが永時という男だから。

 

 

「……フン、まあいい。丁度暇を持て余していたところよ。セイバーと対峙する前の余興にはなるか……」

「何だtーーークソッ!あの野郎……!」

 

 

“都合よく”現れたビギナーにやる気のある視線を向けたアーチャー。そして、背後からの視線に気づいてしてやられたという表情を見せるビギナーだが今頃気づいてももう遅い。

 

 

「フッ」

「クソがァッ!」

 

 

自身の背後に黄金に波紋を広げるアーチャーに背を向けているのは危険と判断し、後ろに向いて対峙する。

正直に言えば逃亡は可能だった。しかしそう出来ない理由がある。いや、出来てしまった。

 

 

(……何故アイリスフィールがここにいる!?)

 

 

対峙するアーチャー。その後ろに見える黄金に輝く聖杯のようなもの。それから何故かアイリスフィールらしき気配を感じ取ってしまったからだ。

すぐに確認したい気持ちではあるが目の前のアーチャーが邪魔で仕方なく対峙しているだけなのである。

 

 

「フン、まあいい……誰だろうが、お前たちがこの俺の邪魔をするのなら関係ない……」

 

 

アーチャーはやる気を感じ取ったのか、背後の波紋から武具の射出を始め、それをビギナーはオメガの時に使ったバリアを張って飛来してきた宝具をいとも容易く弾きとばした。

容易く弾かれたことに目を見開くアーチャー。そして視界に捉えていたはずのビギナーが気づけば顔に肉薄するほど接近し。

 

 

「俺はただ悪魔(ブロリー)として破壊し尽くすだけだぁっ!」

 

 

対応させる暇を与えず、その胴に緑弾が叩きつけられた。

 

 

(クカカ……流石ノットだ。予想通りに動いてくれたな……動くか)

 

 

だがこれも永時の企みだと理解してなお、戦うことを彼は選んだ。

 

 

(まあ精々頑張ってくれノット。俺はその間を利用させてもらうがな……アーチャーまだ生きていたのか)

 

 

憤怒を纏って立ち上がってきたアーチャーに対して生きていることに驚愕しながらも暴れだした2人に気をつけながら彼は移動を開始する。

 

 

「ッ!?」

 

 

パッと姿を消して出来るだけ死角になる場所に出現してまた消えるを繰り返して聖杯へと近づく永時。しかし限界というものがあり、バレないと思われるその移動にアーチャーはその卓越した感覚と視界により気づいてしまった。

 

 

「ッ!?貴様ーーーッ!?」

 

 

突然の出現に驚愕しつつも葬ろうと武具の矛先をそちらに向ける。しかし、目の前のビギナーはまだ気づいておらず攻撃しようとも分裂した小さい緑弾によって射出前に潰されてしまい。

 

 

「!?」

 

 

幸いというかべきなのか本人の被害はなかったもののが爆発により舞う砂塵によって肝心の永時を見失い。

 

 

(じゃあ、後は2人で頑張っておけ)

 

 

見事聖杯に辿りついた永時は泥らしきものによって穢れていく聖杯に直接触れる。

 

 

「ッ!?へぇ……こいつはーーー」

 

 

すると泥が口のように形取り、永時を喰らうかのように飲み込んだ。音もなく飲まれ、残ったのはアーチャーとビギナーの戦闘による轟音のみが響くのであった。

 

しかし誰もが気づかなかった事実が1つ。

 

飲まれる瞬間の彼の顔が悪どい笑みを浮かんでいることに。恐らく誰も、本人でさえも気づいてはいないだろう事実に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ようこそ、悪を名乗る我が同志(愚者)よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつての知り合いをこの手に掛けたセイバーは警戒を怠ることなく公民館内部を進んでいく。しかしその内心は焦っていた。

 

先程まで感覚的に感じ取れていた永時の気配が公民館辺りで消えたからである。

いくら1人で何とかできてもこの身はサーヴァント。肝心のマスターがいなくては彼女はすぐに消えてしまうそんな存在だからだ。

 

 

(エイジ……一体どこへ?)

 

 

奥へと足を進めるがその足取りは少しずつだが遅くなっていく。何故だと言えば進めば進むほど、帰れと生存本能と直感が警鐘を鳴らし続けていたからだ。

しかしそれと同時に彼女の直感は永時の行方がこの先だと語っている。何もしないよりはマシだと彼女は足を止めず前へ前へと歩みを続ける。

 

そして、最奥らしき広がった空間へと足を踏み入れ、驚愕した。

 

 

「ほう、また虫ケラが1匹死にに来たか……」

「ビギナー!?」

 

 

すぐに視界に入ったビギナー。何故髪色が緑色になっているかは疑問だが、そんなことよりその彼の大きな手の中には赤黒い染みを付けた黄金の鎧だった何かを纏い、顔を掴まれて宙へと上げられているアーチャーの姿があったことに驚愕した。

しかしビギナーはそんなことなぞ気にすることなく何故彼女がここへと来たのか大体予想は出来るが一応問うてみることにした。

 

 

「……貴様も聖杯を狙うのかぁ?」

「そうだと言ったら?」

 

 

はっきりと答えたセイバーは剣を構え、戦う意思を見せる。するとビギナーはニタリと悪魔のような笑みを見せ、アーチャーを横へと乱雑に放り投げる。だがそれはすぐさま無表情へと切り替わり、聖杯の前へとそり立つ壁の如くセイバーの前へと立ちはだかる。

 

 

「……フン、まだ祖国のやり直しなぞにこだわるのか?」

「そうだ……だからそこを退け、ビギナー!」

「くだらん妄言を!これだから正義面する(クズ)は嫌いなんだ!」

「違う!これは私個人の願望(我欲)だ。正義などではない!」

「……まあいい。どの道この金ピカのように血祭りに、いや……跡形もなく破壊してやるだけだぁっ!!」

「くっ……!ならば、押し通すまで!」

 

 

話にならない。そう判断したセイバーは構えのままビギナーへと詰め寄り、ビギナーは緑弾を手に持って相対する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーこれで、殆どの猛者達が集うことになるが……もしかしたら、終幕の時はそう遠くないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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