Fate/Evil   作:遠藤凍

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〜Aがお送りする前回のあらすじ〜

「……コホン。皆様お久しぶりです。今回ここを担当させていただきますAです。短い間ですがよろしくお願いします。

前回、子供の寝つけに苦労するメイド。見事悪魔に化かされたバット・エンド。そして、ネバーは一体何処へ?

彼らの行動を見させていただきましたが、まさか囮を用意されるとは流石だ、と言っておくべきでしょうか?
……しかし彼は何が目的なのでしょうか?それに、彼の今までの行動を見ている身なので分かりますが、今回彼がやっていることは単純かつ小規模な策ばかり。まるで何かを警戒しているような、そんな気がしてなりません。お義兄様ならば分かるかと思いますがあの人は素直に真実を話されるお方ではありませんので……

……ここからはあくまで推測なのですが、もしかすれば彼は混乱に乗じて誰かを始末するためにこんな策を講じたのではないかと思います。でなくてはわざわざ戦力を分散させ、わざわざルシファー陣と律儀に戦闘する必要はないのでは?と考えたからです。
その過程を踏まえると状況から見て今空いているのは……アーチャー、でしょうか?しかし慢心しているとは言え彼はサーヴァント。たった1人で易々と勝てるようなものではないのですが……っと、ここまでにさせていただきます。これはあくまで私個人の推測。全て鵜呑みにせず、あくまで参考程度ということにしてください。

自称悪は何を企んでいるか。娯楽者は何を思うか。ここ優しき戦闘狂は仲間を救えるか。異常者は大切な人を救えるか。まだまだ答えは見えそうにないですがここはひとつ、気長にお待ち頂ければ幸いです。

では、ご覧ください。」




各々の行く末は

 

 

狂ったように笑い、高らかに声を上げて魔力弾を撃ち込むゼツ。

その対象であるニルは舌打ちし、右斜め前方向へと飛び込むように重心を傾けて回避しつつも前進する。そして回避した彼女の視界が次に捉えたのは敵であるゼツの姿。

 

 

「ッ!?」

 

 

ではなく、夜空の中街灯の光によって光り輝く大量のコインが彼女の進行方向に散りばめられていた光景だった。

 

 

 

「!!」

 

 

咄嗟の判断で腕を交差して顔を庇って正解だった。重心はコインがある方向へと向けており、急な方向転換が不可能であったからだ。

そして予想通りコインは光を放ち、それぞれが溜め込むエネルギーを解き放ち、大爆発を引き起こした。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

爆発をもろに受け、吹き飛ばされて転がるもなんとか地に手を付けて態勢を整える。

次にどう動くか考えながら敵の方を見ようと前を向く。

 

 

「チェックメイトです♪」

 

 

しかし、ゼツの声と共に前頭部辺りに微かにだが柔らかな感触を感じて理解した。

 

ああ、悔しいが彼女の言葉通りなのだと。

 

そう悟るニルの前頭部に人差し指を当てているゼツはニッコリと笑みを浮かべたまま、そのまま魔力弾を撃ち込んだ。

頭部を撃ち抜かれたニルは力なく重力に従って崩れ落ちる。

 

 

「アハハハ♪案外あっけないものですね……さぁて、次は貴女ですが……覚悟は出来ていますか?」

 

 

そう言って少し距離が開いたところで構えているシーと呼ばれた(標的)に視線を合わせる。

正直なところ、もうちょっとニルをいたぶってお楽しみタイムといきたかったところだが、そこから逆転されるとちょっと嬉s…面倒なので諦めてさっさと始末をつけようと考えていた。もし負けでもすれば主人からキツい仕置きを受けるハメになるので真面目にすることにしただけのことである(まあその仕置きも喜んで受けるのだが)

 

そして肝心のシーはというと、相方が殺られたことに動じることなく、じっとゼツを見据えていた。

 

 

(動じていない?うーむ……無表情であることが幸いとなってますね。動揺を誘えているかすら分からないとは……本当、誰に似たんだか)

 

 

まあ体格は全く似てませんがね、と思いながら彼女は不意打ちとして魔力弾を撃ち込んだ。

しかしシーが目を光らせることで目の前の空間が歪み、飛来してきた魔力弾はあらぬ方向へと切り替え、そのまま闇夜へと消えていった。

それを見て彼女は再び思考を始める。

 

 

(やっぱり外れちゃいましたか……爆破、呪札、魔力弾、呪殺。隙あれば試してみましたが効くどころか寧ろ当たる気配すらないのが現状っていうのが辛いですね。……ああ、追い込まれていくこの感覚もまた良いものです!……っと、すると次は?)

 

 

ガチャリと金属音が聞こえて意識が引き戻される。視線を移せば先程思わず隙を見せることとなった原因であるサブマシンガン。その銃口をこちらへと向けるシーの姿があった。

先程は不意を突かれるになってしまったが、永時に敗北したあの時から随分と時は流れているのだ。もう銃器を見ても混乱することなどはなくなり、寧ろ自らが絶望に陥ることの喜びを見出せたのでプラスになったぐらいである。

そんな彼女が今銃口を向けられたことで怯むことはなく、寧ろ相方が死んだことに動じることなく立ち向かってくる意志の強さに喜びを感じていた。

 

強い意志を持ち、根拠のない希望を抱いている。それを絶望に染めればどれほど美しく輝けるものか。そして、それが自分を興奮させてくれるか。希望が大きいほど反転させた時はその分絶望も肥大化し、そしてそれを見て悦に浸る。

 

他人の不幸は蜜の味。まさしくその言葉に生き甲斐を感じているものこそ、絶望淑女という女である。

 

 

「うふふっ♪」

 

 

気分が高ぶっていく自分を抑えつつ、飛来してくる弾幕を前進しながら紙一重で避けていく。

 

 

「そ〜れ!」

 

 

そしてそのまま一気に距離を詰めて手刀を叩きつけた。

しかし、振り下ろした手刀はシーに届くことはなく、間に挟むように現れたレイピア状の剣によって行く手を遮られていた。

 

 

「おやぁ?」

「ッ!」

 

 

シーは軽く力を入れて手刀を押し出す。押し出されたゼツは腕を上げて後ろに仰け反る形となり、シーはその間に後ろに跳びながら持っていた剣を投擲した。

ゼツは特に焦ることなくニヤリと笑みを浮かべて魔力弾で相殺させる。

 

その意味深な笑みに疑問を抱いたが、その答えはすぐに分かることとなる。

 

 

「!?」

 

 

僅かながらゼツの視線が自身の背後へと動くのを目にし、ヤバいと体が警鐘を鳴らし始めたが遅かった。

 

ズブリと生々しい音が聞こえて、遅れて鉄の匂いと右胸辺りから激痛を感じ、

 

 

「!!」

 

 

そして漸く、自分が後ろから何かに貫かれている現実を認識した。

 

 

「おやぁ?急所を外した?……いやはや、一瞬とはいえズラすとは流石と言っておきましょう」

 

 

後ろからそう声かけるゼツは突き刺していた手刀を引き抜き、ゆっくりと崩れるシーを見て笑みを浮かべていた。それは不意打ちに成功して喜んでいるからか、はたまた、ただ単に攻撃が通ったことかどうかは定かではないが、とにかく彼女は上機嫌になっていた。

 

そんな彼女は呪符らしきものが大量に貼り付けられた麻縄を取り出し、呼吸が少し荒くなっているシーの全身に巻きつけて縛り上げた。

 

 

(ん〜、見た感じ肺を貫いたって感じですかねぇ?)

「!?」

「どうしてって顔してますねぇ?まあ単純かつありがちな方法ですよ」

 

 

どうして?と不思議そうな顔でこちらを見てくるシーに応えるため、彼女は靴先でトントンと地面を小突く。するとそのまま地面へと身体を沈めていき、やがて黒い人影となって前方にいたもう1人の足元へとピタリとくっついた。

 

 

「……」

「まあ分かりやすーく言えば影を使った分身ですよ」

 

 

確かに単純かつありがち、それ故に強力な一手と言えるだろうそれに見事にやられた、ただそれだけのことである。

まあここだけの話、忘年会の瞬間移動マジックの時に考案したのが由来らしいがそれについては口が裂けても言えないものだ。

 

 

「しかし、予想とはいえここまで的中できるものとは思えませんでしたよ」

「……?」

「いえ、こちらの話ですよ?(……恐らく能力は空間を歪ませる。或いはそれに近いもの。自分自身を歪めることは出来ず、あくまで周りを歪ませて飛び道具を逸らすってところ、私を直接歪ませないところを見ると人体か生物に干渉できないってとこですかね?……しかし、それだとあのベルゼブブ様の娘にしては単純すぎるというかショボいというかなんというか……前にも似たような能力の事例を聞いてますし。確か……歪曲の魔眼でしたっけ?)」

 

 

疑問を解決しようと思考を巡らせる。しかし、それすらも彼女は疑問を抱く。まるで思考すらも歪められているかのような錯覚に陥らされているような気がしてきたからだ。

 

 

(魔眼と言えば直死の魔眼とかが有名らしいですが……ああ、もう!こうこんなことなら知り合いに魔眼のことについて聞いとけば良かった!……待てよ?そもそも魔眼の類ですらない?)

 

 

この時、うんうんと思考にのめり込んでいる彼女はもう少し周りを見るべきだったと思う。

 

 

「……チェックメイトですよ」

「え……?」

 

 

油断大敵という言葉があるが今の彼女はまさにそれと言えたからである。

聞き覚えのある声から放たれた言葉に既視感のようなものを感じたが、確認する間もなく彼女の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー後は縛っておいて、麻酔銃を頭にパシュッっと……大丈夫ですか?シーちゃん?」

『私は大丈夫。……急所は外れてから辛うじて、だけど』

「そうですか……でも凄いですよね貴女の能力は。まさか彼女の認識まで歪められるとは思いませんでしたよ。まあおかげ様で不意打ちを仕掛けることができましたが……肩を貸しますので立てますか?」

『そう……』

「おや?どうされましたか?」

『……怖くないの?』

「ん?怖い?何がです?」

『……その気になれば貴女の思考すら歪ませて洗脳だって出来る。意気投合したとはいえ、お互いにまだ出会って間もない間柄なのに……』

「ああ、つまりは利用し終わったからここで放置して殺すのが妥当ではないか、とでも?」

『その通り』

「んー……そう言われましてもねぇ。私としてはシーちゃんはいい子そうですし、それに……何より貴女は師匠の娘さんですからねぇ。見殺しにした、なんて言ったら師匠に怒られちゃいますし、何より……なんか妹みたいでどうも見捨てられないですよ」

『……妹?』

「まあ要するにこっちが勝手に仲間意識を持ってるだけってことです。気に食わなかったら拒絶してもらっても構いませんし、いっその事殺してくれても構いませんよ。殺されたら私が甘かっただけのことで済むだけですから」

『……そう』

「さて、彼女は拘束したので動けませんし、貴女も状態が状態なのでとりあえずは治療のために戻りましょう」

『私は大丈夫だからあの人のところへ向かって』

「……さっきまで辛うじてと言っていた癖に?」

『……』

「どうせ師匠のことです。心配せずとも帰ってきますよ」

 

 

 

 

 

ーーー絶望淑女。頭を爆破されて気絶。その隙に全身を完全拘束された後、頭部の復元の直後に麻酔を撃たれたため、行動不能(リタイア)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッッッ!!」

 

 

再び身体が悲鳴を上げ始め、雁夜は慌てて小瓶の中身を飲み干そうと手を伸ばす。しかしその手は空を切ることとなる。

 

 

「……ない………ない!?」

 

 

数えるのが億劫なぐらいあったはずの小瓶がいつの間にか尽きていたからである。

 

 

「……これってマズくない?」

 

 

それの意味することは、雁夜は現在ピンチを迎えているということである。

 

 

「ッ!?ーーーーーーー!!?」

 

 

突然襲ってきた痛みに思わず雁夜は声なき悲鳴を上げる。雁夜の体内に潜む刻印蟲が魔力不足を補うために彼の命を喰い尽くし始めたのだ。

 

 

「あ……がっ……ゴホッ!ゲボォッ!」

 

 

喉を痛め、一度咳き込めば吐血して呼吸もままならず、身体の痛みに耐えるために頭を掻き毟り、身体の至るところを強く握り、そのせいか身体中血だらけとなっていた。元々半死状態だったからか、虫の息となるのは案の定早く訪れた。

まるで自分を迎えに来た死神が近づくのを知らせるかのように命の灯火が燃え尽きかけ始める雁夜。そんな彼の脳裏をよぎったのは桜の姿……だけでなく、何故かその中にはルシファー達の姿もあった。

 

 

自分が助けようと必死に、文字通り命懸けで守ろうとした桜。

 

素直ではないがなんだかんだ言って助けてくれたルシファー。

 

後から聞いたが、桜を笑わそうと必死になって頑張ってくれたゼツ。

 

 

まるでこれまでを振り返るように浮かび上がる映像を見て雁夜は理解した。ああ、これが走馬灯って奴かと。

 

手足の動きが鈍くなっていき、身体は徐々に重みが増していき、瞼が重くなったような感覚を感じる。彼は直感的に死が刻々と近づいていくのを理解してしまった。

 

 

(ごめん……みんな………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぁにカッコつけているんですか?』

「……えっ?」

 

 

しかし、その寸前で何かが割れた音と共に彼女は現れた。本来ならここにいないはずの人物に目を見開いて驚愕する。

 

 

「大丈夫ですか?雁夜殿」

「ゼ……ツ………なのか?」

「はぁい♡皆のアイドル!絶望淑女こと、ゼツちゃんでーす♪」

 

 

だが肝心な彼女は出現早々顔の前で横チョキをし、キュピーンと効果音がしそうなセクシーポーズ(?)を呑気にしていた。

 

 

「なんで……お前が…ゴホッ!ゲホッ!!」

「おっといけない。治療が先のようね……」

 

 

雁夜が吐血したことで漸く現状を把握したのか、ポーズを解いて雁夜の横脇にしゃがみ込む。

 

 

「なんでって?そりゃあルシファー様の命で来ただけですよ。突然ですがお口は開けれますか?」

「……?」

 

 

どうしてルシファーが?と疑問が浮かんだものの、尋ねるだけの気力は残っておらず、言われるがまま残ったチカラを振り絞って小さくだが口を開く。

するとゼツはどこからか取り出した豆粒のような黒い物体を雁夜に見せる。

 

 

「はぁい、これ飲み込んでくださいね〜♪いや、この場合『仙豆だ、食え』でしょうかね?」

「うごっ!?」

 

 

嫌な笑顔を作り、半ば無理矢理雁夜の口に放り込み、頭と顎を無理矢理動かして飲ませた。

 

 

「……って、いきなり何するんだよ!」

「あら?すっかり元気になられましたね」

「えっ?あっ……そういえば……どうしてだ?」

 

 

さっきまで死にかけていたはずなのに、今では戦闘前の状態に戻っており、その変化に雁夜は驚いた。

 

 

「フッフッフッ……単なる呪いの応用ですよ(まあ代償は少々些細な不幸が続きますがね?)」

「なるほど……凄いなぁ」

「そうでしょうか?そんな素直に褒められたことがないので照れますね…」

 

 

普段ルシファーに褒められたことがないゼツとしては慣れぬ褒め言葉に頬を赤く染めて言葉通り照れていた。

そんなゼツを見てルシファーとはえらくまともだなと内心驚いていた。まあ実際はそのルシファーもドン引きする程酷いものだが、それは知らぬが仏ということかもしれない。

 

 

「(あのルシファーの部下って聞いたから最初はどんな変人かと思ってたけど……やっぱりまともそうだな)……ところでなんだけど、どうしてここに?」

「あら?聞かれてないんですか?」

 

 

するとゼツは雁夜に近づいてポケットに手を突っ込み、ある物を取り出し、そのまま雁夜に見せる。

 

 

「これ、見覚えないですか?」

「あっ……確か前、あいつに貰ったアクセサリー、だっけか?」

 

 

見せられたそれは確かバーサーカーがアーチャーと空中戦を繰り広げる前に渡された黒い十字架のアクセサリーだった。

 

 

「ああ……なんか持っとけって言われて押し付けられた奴だったな」

「これはですね。持ち主の生命力の低さに反応するセンサーみたいなものなんですよ」

「センサー?」

「ええ。雁夜殿の場合は死ぬ少し前に反応するものですね。効果は雁夜殿の場合は私に危機を知らせる。そして、魔力不足の元である原因を解決するってとこですね」

 

 

凄い効果だなと感心したと同時に、流石魔王様ってか?とルシファーの実力の一端を感じ取った。

しかしそれと同時に誰もが思う疑問が浮かんだ。

 

 

「原因を解決……?って、まさか!?」

 

 

漸く気づいたのか、雁夜は手の甲を突然見る。すると、案の定あるものがなくなっていた。

 

 

「令呪が……ない!?」

 

 

令呪の損失。つまりそれは……サーヴァントとの繋がり(契約)を破棄したということだった。

しかし、そこで雁夜にある疑問が浮かぶ。

 

 

「……ちょっと待ってくれ。じゃあ桜ちゃんとの契約はどうするんだよ?」

 

 

自分より桜を優先する雁夜は令呪のことをそっちのけでそう問いつめる。

言われたゼツはあー、そんなことありましたねぇと明らかに今思い出したかのように呟いた。

 

 

「あー……前に桜さんと契約したと言っておられましたねぇ。確か……『雁夜殿を勝利へ導け』でしたっけ?それならご安心を。サーヴァントはまだ残っておりますので」

「……はぁ?」

 

 

いつの間にそんなことを……と感心半分、呆れ半分で再び問いただそうとする。

 

 

「それってどういうこと?」

「実はですね。バーサーカーだけでは戦力的にキツくないかとルシファー様はお考えになられましてね。それでちょこちょこーっと裏技を使って新たにサーヴァントを召喚したって訳です」

「……ん?サーヴァントの召喚?」

「そうですよ……何か?」

「何か?って、ルール違反とかにならないのかそれ?」

「あー……多分大丈夫だと思いますよ。調べによりますと前回アインベルリンとかアインツベルーとかなんとか言うところがサーヴァント関係でやらかしたそうですがまあ恐らく大丈夫でしょう。……要するにバレなきゃいいんですよバレなきゃ。一応はランサー陣から令呪を奪い取り、それに使って新たにサーヴァントを召喚したってことになっておりますのでご安心を」

 

 

それでいいのか?と言いたいところだが、グッと堪えることにした。

するとそんな雁夜を見てゼツはフッと優しい笑みを浮かべる。

 

 

「雁夜殿は心配性ですねぇ。そんなことばかりしていると……禿げますよ?」

「禿げますよって、あのなぁ……まあいいや。んで?どういう根拠で契約を破ってないことに繋がるんだ?ただ単にサーヴァントを召喚しても俺のサーヴァントはもういないから実質的敗北確定だろ?」

「……そう言うと思っていましたので理由はちゃんとご用意してありますよ。……ルシファー様と桜さんとの契約は雁夜殿を勝利へと導くこと、でしたがまあ要するに最終的に雁夜殿が生きており尚且つサーヴァントを所有している状態になれば良いわけですから。とりあえず現在はルシファー様がマスターとして行動し、敵を全て片付けたらマスター権限を雁夜殿に譲るという算段を立てておられます」

「……まあ理に適う、かな?」

「納得されたならそれで良し。されなくてもまあ関係ありませんがとにかく、今は雁夜殿の安全が最優先事項です。とりあえずここから非難しましょう。今は変わり身で誤魔化していますがいつまで持つかは分かりませんのでお急ぎを」

「あ、ああ……」

 

 

 

 

ーーー間桐雁夜。魔力枯渇による体力の低下により一時離脱。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デェヤァッ!!」

「っと!」

 

 

目にも止まらぬ速さで飛来してくる緑弾を何の苦もなく、晴天のような余裕そうな表情でヒラリヒラリと避けていくオメガ。

 

 

(ヤベェ、どうしようかこれ……)

 

 

しかし内心は曇天であった。

 

 

「なんで伝説のスーパーサイヤ人かよく分かんねえ姿になってるのかね?」

 

 

何故なら髪色を緑色に変色させ、されど他は金髪だった頃のままのビギナーが目の前にいるからだ。つまり、見覚えのない姿への変貌に困惑しているのだ。

 

 

「よっと、のわっと!(何、あの状態……?しかもなんか理性ありそうだし……)」

「考え事をしている余裕があるのか?」

「!?」

 

 

推測しているオメガの視界からいつの間にか姿を消したビギナー。驚く間もなく、気付けばいつの間にか背後から声が聞こえ、巨大な足が迫っていた。

 

 

「フンッ!」

「ぬっ……おっと!」

 

 

後ろを振り向くと同時に右手を強く握り、迫り来る足を裏拳で受け止める。

 

ゴキッ!

 

 

「な、に……?(折れた……パワーが上がってんのか?)」

「フフッ……その程度か?」

 

 

骨の折れる音を聞いてビギナーはニタリと嫌な笑みを浮かべ、両者は後ろへ下がる。

 

 

「……どうした?まさかもう終わりか?」

「馬鹿言うんじゃねえよ……まあ安心しろ。お前が満足いくぐらいには付き合ってやるよ」

「フハハハ!この俺を前にしてそう言えるとは、流石はオメガだと褒めてやりたいところだぁ!」

「そりゃどーも(しかし、見事にオリジナルに染まってきてるな……こりゃあマズい事体になるかもな)」

 

 

オメガは折れた右手を痛そうにぷらぷらと揺らし、ビギナーはオメガの動きを見極めるためにじっと相手の出方を伺っていた。

 

 

(さて、なんでここまでパワーアップしたか……まあ見た目が変わったのが関係ありそうだけど)

(チィッ……!理性を保つギリギリ辺りまで出力を上げさせてみたが……やはり奴はこの程度では終わらんか!)

(ふむ……見た感じで判断するならば極限まで出力を上げてるって感じかな?じゃあやることは単純化される)

(恐らくさっきの攻撃で奴は理解しているはずだ。だから敢えて……)

(とりあえず……)

 

 

((更に出力を上げる!!))

 

 

「ヘェヤァッ!!」

「喰らえっ!!」

 

 

消えたのは一瞬。そして次に姿を見せたのは緑弾と拳がぶつかり、爆発と共に緑のエフェクトが森の一部を巻き込んで2人を包み込んだ。

 

 

「オメガァッ!!」

「ノットォッ!」

 

 

しかしその爆発の中から2人が飛び出し、再び激突する。

 

 

「イレイザーキャノン!」

「甘い!」

 

 

ビギナーの腕から放たれた緑弾がオメガへと迫るもどこからか取り出した日本刀で切り上げ、上空へと打ち上げた。

 

 

「ふんっ!」

「フハハハ!」

 

 

そのまま持っていた日本刀をビギナーに向けて放り投げる。真っ直ぐ一直線に飛んでく刀をビギナーは手刀で弾き、空いた手で緑弾を持って放り投げる。

 

 

「無駄無駄ァッ!」

 

 

飛んできた緑弾を上に跳んで回避し、跳躍中に両手にナイフを構える。

来るかとビギナーも構え、瞬きをした。

 

 

「ッ!小賢しい!」

 

 

その一瞬の内にビギナーを囲うようにナイフの弾幕がすぐそばまで迫っていた。しかし、飛んできたそれらを緑色のバリアで身体を包み込みながら前進することでやり過ごし、緑弾を片手に持って急接近する。

 

投げてくるか叩きつけると思い込んでいたオメガは迎撃のためにまだ無事な手を手刀にして構え、振るうために力を込めた。

 

 

「フッ」

「んんっ……!?」

 

 

しかし、それは杞憂となった。

 

確かにビギナーは緑弾を叩きつけた。しかし、それはオメガではなく地面にだ。

 

 

「くっ……目くらましか!?」

 

 

無論叩きつけられた緑弾は着弾に続いて緑のエフェクトがオメガの目先に眩く光りながら広がっていき、オメガの正面を遮る。

だが目くらましをされたと言えどまだ攻撃手段がないわけではない。

 

 

「ならば、直感と感覚を駆使して狙い撃つだけのこと!」

 

 

そのまま突っ込むという手段もあるのだが、下手すれば蒸発なんてことになりたくはないので念のために遠距離にすることにした。

どこからか取り出した刀を指の間に3本挟み、ビギナーの気配を探って全力で投擲する。

 

 

「……?」

 

 

つもりだった。そう、だったのだ。

 

折角追い打ちをかけるチャンスだと言うのに何故かその手を引いたオメガ。基本的に笑みを浮かべている彼だが、今はとても怪訝そうな顔をしているのであった。

 

 

(さっき感じた気配……なんだ?)

 

 

先程確かに自分はビギナーの気配を探ったはずだったのだが……それらしいものは見つかったのだが、何故か複数の気配がしたのだ。それが今浮かんだ疑問点であり、違和感。それがビギナーを取り逃がしてしまった理由でもある。

 

 

(明らかに別のものが複数……まさかあいつは偽物だった?それじゃあ分身?……いや、あいつにそんな器用なことは出来ないはずだよな。じゃあ伏兵……?いや、それなら何故今頃になって感じるようになった?アサシン?いや、アサシンは序盤で消えたと聞いているからないな)

 

 

辺りがはっきりと見えるようになった頃にはビギナーの姿は勿論なく、されどそんなことはお構いなしにオメガは思考を続ける。

 

 

(……なんだ?このなんか覚えがあるようなないような感覚は?まるで気づかずに地雷原をスキップで歩き渡っていくような、そんな感覚だ……っと、考えたい所だが今はそれどころじゃねえしな。あいつを逃すと後が面倒だ)

 

 

とりあえず追いかけるかと怠そうに呟き、彼は森の中を疾走する。

 

 

 

 

ーーービギナー。突如行方を眩ましたため戦闘中止。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

動く気配を見せない言峰綺礼だった亡骸に腰掛け、悠々とした調子でガスマスクを外し、煙草に火をつけた。

 

 

(父が吸っていたのに憧れて初めてみたが……今ではすっかり日常的になってしまったものだな。流石に友の前では吸うに吸えんが……)

 

 

紫煙を燻らせ、先程の戦闘で使用した銃器を顔を近づけると鼻を動し始めた。

 

銃を形取る鉄の匂いと自身の身体にも漂う鉄臭い匂い。先程の発砲したためか最も濃く漂う硝煙。そして、自身が恋い焦がれる人物の体臭が僅かながら嗅ぎとれ、うっとりとした表情を見せた。

 

 

(ああ……漸く、漸く悲願は叶った。研究所から友を連れてこの世界に逃げ出した時はどうなるか心配していたものだが……あの女に出会い、とりあえず執行者になって今の地位に登り詰め、そしてこうして父に会えた。あの女は今頃何をしているのだろうか?……まあ行方知らずの者なんかはどうでも良いな。それより友だ、頼まれたことは成し遂げた、後は好きに行動しろと父も言っておったし、我が友の様子でmーーー?)

「……誰だ?」

 

 

コツン、と足音が聞こえた。感慨に浸っていた彼女は意識が戻されたことに不機嫌になり、いつもより低い声を出した。

 

 

「……」

 

 

しかし、返事の代わりに返ってきたのは銃声と共に飛んできた銃弾。

溜め息を吐きながら彼女は持っていた拳銃を後ろへと放り投げる。すると弾丸の軌道上に飛んでいき、2つはぶつかってあらぬ方向へ弾かれていった。

正直今のは宝物として残しておきたいものだったが父が持っているものなど後からいくらでも拝借すれば良いかと苦渋の決断の上だということは分かって欲しい。

 

 

「……衛宮切嗣か」

 

 

腰を上げ、後ろを向く。すると案の定と言うべきか銃口と一緒にナイフのように鋭い眼差しを向ける衛宮切嗣の姿があった。

 

 

(衛宮切嗣……なるほど、我が父の弟子なだけはある。先程のエセ神父もそうだがこれは骨が折れそうだ)

 

 

そう愚痴りながらも敵の動きを見ようと目を凝らす。

 

くたびれたコートにボサボサの黒髪、そして何かを諦めたのか絶望したのか、死人のような目をこちらを見ていることに苛立ちを感じていた。

自分の友も無表情故か昔あのような目をしていたことを思い出してしまったからである。

 

生まれ故か自身の境遇を嘆き、定められた未来を諦め、悲劇のヒロインのように振舞っていた彼女を思い出したからか?それとも単に彼女と重ねてしまったからか?

 

 

(……いや、今はそんなことは関係ない。今は目の前のことを集中しなくては……)

 

 

意識を切り替えて再び衛宮切嗣に意識を向ける。

こちらを見やる死人のような目が今度は見開いたかのように見える気がして……ん?見開いた?

 

 

「終永時では……ない?」

「なんだと?」

 

 

思いもよらぬ言葉に思わずボロを出してしまった彼女。

それもそのはず、出発前少し前自身の友の助力に寄りどう見ても終永時としか認識出来ぬよう存在を歪めて貰っているのだ。掛けた本人がやられない限り声も姿も終永時として認識するはず……

 

 

(……まさか)

 

 

そこで彼女の頭の中で当たって欲しくない仮説が1つ浮かび上がった。

 

 

(可能性としてはあり得るな。こうなるならガスマスクを外さなければよかったか……いや、どのみち声でバレてしまうか)

 

 

まあバレてしまったのは仕方がない。下手にすれば父の作戦の邪魔になるかもしれない。

 

 

「まあいいーーー」

 

 

友のことは心配だが、その前にやらなくてはならないことが1つ増えた。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーとりあえず死ね」

 

 

 

 

 

 

 

障害は排除する、ということだ。

 

 

 


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