Fate/Evil   作:遠藤凍

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〜とある馬鹿が送る前回のあらすじ〜


「どうもお久しぶりでございます。私たちの時間はそんなに進んではいませんが寧ろ視聴者の皆様の体感時間的には1ヶ月は経っているのでないかと思い、あえてお久しぶりと言わせていただきました。
……さてさて、今回このコーナーをやらせていただくことになったわけですが……いやね、確かに私は本編では名前を公開してはいませんがいくらなんでも『とある馬鹿』は酷すぎませんかねぇ?……おっと失礼。話を戻しますね。
……では、改めて仕事をやらせていただきます。ん……(おや?いつの間にか手元にカンペらしきものが……ほほう、流石我が義妹。いい仕事をしておる)

えっと……199X年!冬木は核の炎に包まれた!しかしある男は何事もなかったかのように平然と生きていた!その男の名はネbーーーどこの世紀末ですかこれ?……失礼、間違えました。表ではなく、裏の方でした。

ーーー前回!最高にハイになって調子に乗った馬鹿は26に顔パンを喰らい。一方、自称悪だと思って戦う幼女は実は桃色変態魔王が変身していたことに気がつき。一方騎士王さんは顔見知りであるネガティヴ騎士(?)と再会する。そして、肝心の自称悪はというと……っとここまでにしておきましょう。

長い長い語りでどうもすみませんねぇ……では、本編の始まり始まり」




悪は何処へいるか

 

 

「桜様。ご就寝の時間なのですよ」

「……やだ」

「そう言われましても……ルシファー様とカリヤ様は朝方に帰ると仰っていましたよ?」

「やだ」

 

 

間桐家の桜の寝室。夜中だと言うのに布団の上で寝ることなく座っている桜。

そんな彼女に寝るように促す銀髪のメイド、マイティアは首を横に振って拒否を示す桜に見て困り果てていた。

 

 

(ルシファー様の命でこの子のお守りを任せられたけど……まさか夕方に寝ていたとは予想外ね)

 

 

先程突然主人に呼び出されて困惑している中頼まれたものの、今夜2人が帰って来ないかもしれないと予感していたのか、よく分からないが夜に備えて夕方に仮眠をとったらしく、そのおかげで目をパッチリと開けており、寝付く様子を見せない彼女にマイティアは溜め息を吐いた。

別に桜がワガママ、なんてことではなく普通に言うことを聞いてくれる従順でいい子、だったのだが……何故かこれだけは頑なに拒否を示すである。

 

 

(……しかし、私はルシファー様に仕えるメイド!こんなことでへこたれる訳にはいかないわ!)

 

 

しかしここで負けじと小さくガッツポーズを取って気合いを入れると彼女は思考する。

 

 

(とは言ったものの……一体どうすれば良いのかしら?子育ての経験なんてないし……あっ、そうだ!)

 

 

何かを思い出したのか、懐から携帯を取り出して誰かに連絡を取り始めた。

 

 

「……あっ、もしもし?サタン様のお電話でお間違いないでしょうか?」

『あっ?誰だよ?』

「突然のお電話すみません。ルシファー様のメイドのマイティアという者なのですが……」

『……ああ、あいつのメイドか。何の用だ?』

「実は……子育て経験のあるサタン様に是非ご教授頂きたいことがありましてこうしてご連絡させていただきました。……お願いできますか?」

『俺に?別に構わねえが……んで?』

「ある子を寝かしつけるようルシファー様に命じられたのですが、夕方頃に寝ていたらしく中々寝付けなくて……」

『ふぅん……だったら温かい飲み物を飲ませたらどうだ?』

「温かい飲み物ですか?」

『あとはアロマオイルとか音楽を聴かせるとかだな』

「ふむふむ、なるほどなるほど……」

 

 

しっかりとメモを取っていくマイティア。子育て経験が全くない彼女にとって、とても新鮮な気持ちであり、少し高揚感のようなものを感じ取っていた。

 

 

『ん〜他にはなんかあったかなーーー「ママ〜?ごはん!」……ちょっと待ってろ!すぐ作ってやるから!「あーい!」』

「……ビリア様はお元気そうですね」

『まあ俺の娘だしな!……っと、そろそろ切るな』

「はい。ご教授、ありがとうございました。今度お土産持参でお礼に伺わせていただきますね?」

『へえ……楽しみにしとくぜ?』

「はい!では、失礼します……よし!とりあえず試してみましょう。まずは……ミルクティーでも作ってみようかしら?」

 

 

携帯を切るや否や、すぐさま台所へと駆け込んで行った。

ちなみにだが、この後助言された方法を試したものの最初(カフェイン入ってる時点)で躓いているため、結局夜明け前まで戦うことになるのだがこの時の彼女はまだ知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでお前がここにいるんだよ……アスモ!」

 

 

視界にはっきりと映る、痛々しいほどの大怪我をした見覚えのある桃髪の美少女の存在にバットは戸惑いを見せていた。

 

何故かと言えば簡単なことで永時やオメガを止めようと試みる場合。彼らは不老不死、またはそれに近い存在のため、不死殺しの宝具を使用しなければ死ぬことはないので殺す気でかからないと止まらない。(オメガの場合は使用しても死なない気がするが)

しかし対象が彼ら以外の場合はそれなりの手加減をして殺さぬようにしなくてはならない。

 

 

「ハハハ……久し、ぶりだね……バット」

 

 

つまり加減を間違えれば……下手すれば死に至らせてしまう、ということである。

 

 

「今は喋んじゃねえ!……ケアルガ!」

 

 

とりあえず呪文を唱えて外傷を治すものの、流石に失くなった部位の修復までは無理であったようで悔しそうに舌打ちするバットの姿があった。

 

 

「……よし。大丈夫か?」

「フフッ……相変わらず、君は、優しいね……」

「うるせえ」

 

 

とか言いつつも上半身を持ち上げてやり、厳しい目線を向ける。

 

 

「……なんでお前がいる?ネバーの差し金か?」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は永時達が出発する直前に遡る。

 

この時まだ姿を変えてないオメガ、マモン、アスモ、ニルとシーちゃん、永時、そしていつも通り布団に入って寝ているベルフェの7人が集まって会議らしきものを行っていた。

 

 

「……とまあ恐らく姐さん経由で恐らくルシファーに事が伝わっているのは目に見えている訳だが……俺は敢えてそこを突く。あいつらは俺たちがノットを殺ると踏んでいるだろうから絶対妨害してくるのは確定的だろうしな」

「なるほど。だから敢えて姐さんにノットの話を聞かせた訳ですか……しかし、姐さんを利用するとは感心しませんねぇ」

 

 

明らかな怒気を放つオメガを宥めさせるため、永時は事前に考えていたことを話す。

 

 

「まあそう言うと思ったよ。けどな……こうでもしないと後々面倒になるぞ?下手すれば姐さん1人でノットを相手しに行くかもしれないんだぞ?だったら足止めしておくのがベストだろ?」

「……仕方ありません。今回はそちらの話に乗ってあげましょう。で?私は一体何をすればよろしいのですか?」

「……ああ、まずお前はノットの相手をしてくれ。あいつを単体で相手できるのはお前ぐらいしかいないからな」

「なるほど。ではそれなりにやって「ただし」……ただし?」

「出来ればでいいが……いや、確実にノットを戦闘不能に持ち込んでくれ」

「……ほう?」

「ノットは……あいつには悪いが、変身したらかなりマズい。だから……変身する前に奴を、殺してやってくれ」

「……善処しましょう」

「ああ……次にだが恐らく、あのルシファーのことだ。俺たちの戦力に合うメンバーを当ててくるはずだ。ルシファーが1番信頼してる部下のゼツだが……恐らくだがニルとシーが相手するはずだ。そこで、俺なりの対抗策を伝授しようと思う」

『対抗策?』

 

 

それはな……と永時はあるものを取り出してシーに手渡した。

 

 

「これは……?Vz61?師匠の愛銃ですよね?」

「そうだ……これを奴と対峙した時に使ってみろ。恐らくだが一瞬だけ動揺して隙を見せるぞ?」

『どうして?』

「昔それで奴を蜂の巣にしてやったからだよ」

 

 

サラッと流すように言ってはいるが要するにトラウマに近いものを受け付けたと言っており、ニルは若干引いていた。

実際には『死ぬことができない呪い』を掛けた彼女が死なないことを理解した上で蜂の巣にしたと言うエグいことをしていた訳だが……そこは知らぬが仏ってことでしておこう。

 

 

『貴方の愛銃……オカズになるかな?』

「やめろマジで」

『……分かった』

「……ったく。で、マモンは必然的にルシファーになる訳だが……ベルフェ」

「……ハッ!寝てないよ!……って、どうしたの?」

 

 

涎を垂らし、半目。明らかに寝ていたであろうことは明確だが、永時としてはもう慣れたのでスルーして本題を言う。

 

 

「マモンと共闘してくれないか」

「……え〜?やだ〜!」

「何ですかその間は!?そんなことこっちから願い下げですわ!」

 

 

そう拒絶を示す2人。あまりに予想通りの反応に永時は溜め息を吐きつつ、マモンをじっと見つめる。

 

 

「……頼む」

「い、いくら永時様の頼みでも無理なものは無r「今度1回だけ可能な限りお前の言うことを聞いてやるからさ」是非やらせてください」

 

 

さっきまでの態度は一変し、土下座までしてやろうとするマモンに呆れつつも今度は寝ようとしているベルフェの方を向く。

 

 

「ん〜?何〜?私はマモンと違って「今度ネルフェと一緒にスキーでも行くか?」詳しく聞こうか?」

 

 

聞くや否や布団を投げ捨て、伸び口調を消し、今まで見たことのない俊敏な動きで永時の目の前に現れるベルフェに永時は溜め息を吐いた。

 

 

「……で?やってくれるか?」

「「もちろん(ですわ)!!」」

「オーケー。じゃあ先にマモンが相手をして、途中からベルフェが参加してくれ。そうすればあいつのペースを上手く崩せるだろうか、ら……聞いてるのか?」

「(言うことを1つ聞く……?じゃ、じゃあラのつくホテルに行って激しいプレイを……いや、それとも外で?………いやん♡まずは手錠と首輪と鞭とーーー)」

(永くんとネルフェちゃんとスキー……雪ではしゃぐネルフェちゃん……転んで涙目になるネルフェちゃん……上手く滑れて笑顔なネルフェちゃん………悪くない!)

「……じゃあ次だ」

 

 

なんか自分の世界に入り浸ってるのでスルー。

 

 

「まあ最後であり問題でもあるんだが……姐さん。バットについてだが……アスモ、頼めるか?」

「……え?僕?」

「そうだ。正直こんなことをやらせたくはないが……囮を頼めるか?」

「……要は時間を稼げばいいんだよね?」

「ああ……頼んだ。けど、危なくなったら変身を解けよ?姐さんのことだからお前の姿を見れば殺しはしないだろうからさ」

「オッケー、任せてよ!」

「一応俺の武器を渡しておく。使い方は覚えているか?」

「僕を誰だと思ってるの?」

 

 

ムスッとして永時を睨むアスモ。永時は苦笑しながら答えた。

 

 

「……そうだな。じゃあ頼むぞ“相棒”」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーさあね?よく分からないや」

「なんつー馬鹿なことを……」

「馬鹿じゃ…ないよ……。これは、僕自身が決めたこと、だから……」

「だからって……」

 

 

だからと言って他人である人間のために命を懸けてまでするか?そう言いたかった。

だが弱っているのにも関わらず、まだ闘士のあるように錯覚させられそうな強い意志を持った目で見つめられ、言うことができなかった。それに、よく考えたら自分も似たようなものだったと気づいたからでもある。

 

 

「……まあとにかく。お前はもうその状態じゃ戦うことさえできないんだ。諦めて降参してくれ」

「その方がいいかもね……」

 

 

そう言って諦めたのか、身体の力をスッと抜いて目を瞑るアスモ。それを見たバットはアスモを地面に横たわらせて背を向けて歩き始める。

恐らく永時がいるであろう場所、冬木公民館へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ僕はまだやれるけどね」

「ッ!?」

 

 

しかしそう声が聞こえた。その直後、直感的に頭を右へ傾けたが正解だった。傾けると同時に長い何かが頭が元あった場所を通過していったからだ。

目を見開いて驚愕し、バットは後ろに振り向く。

 

 

「テメェ……なんで立ち上がってる?」

 

 

目に入ったのは右腕をこちらに向けて異常な程ゴムのように伸ばすアスモの姿があった。しかも失くなっていたはずの両足が綺麗に戻っており、桃色の4本の触手のようなものがゆらゆらと蠢いていた。

よく見ればその4本の触手のようなものの付け根の部分はアスモの頭部に繋がっているのである。

 

 

「あのねぇ……足がなくなったからって、歩けないとでも思ったの?残念、僕の能力は変身・変化だよ?」

 

 

シュルシュルとゴムのような勢いで元の長さに右腕を戻し、口角を少し上げて言った。

 

 

「だったら、他の部位で補って新しく作ればいいだけだよ」

 

 

そう言って髪を伸ばして触手のようなものを数本作り、バットへと勢いよく伸ばす。

 

 

「チッ……!降参したんじゃねえのかよ!?」

 

 

再び槍を手に取って振るい落とす。しかし槍とぶつかった瞬間、金属音が鳴り、予想外の硬さに驚いた。

 

 

「僕はその方がいいかもねと言っただけで、降参するとは一言も言ってないよ?」

「まあ一理ある、かっ!」

 

 

そのまま駆け出して距離を詰める。アスモはただ自由にさせるわけなく触手の数を増やして攻撃する。

しかし、足が速い彼女には遅すぎる攻撃であり、一気に距離を詰めて後ろに回り込み、槍で切り上げる。

 

 

「そうだ、まだ僕が囮をやってる理由を言ってなかったよね?」

 

 

アスモは顔の表情を変えることなく、触手を束ねて分厚い装甲を作って上手く弾き、余った触手を伸ばして攻撃する。見てなかったからか急所は当たらなかったが、彼女の左肩を貫く。

 

 

「くっ……!」

 

 

しかし、刺さると同時に後ろに下がり、深く刺さることを防ぎきった。

 

 

「それは……僕がエイジのものだからさ」

「……はっ?」

 

 

僅かだが動揺し、動きが止まった。

その隙にアスモは触手を地面に突き刺す。

 

 

「あの時からもう決まってたんだ、僕と出会ったあの時から。そう、僕は彼の相棒だ。だから僕は彼のためになんでもやるって決めたんだ。彼のためならどんな汚名も着てみせよう。彼のためなら自らの手を汚そう。彼のためなら喜んで死んでみせよう。そう、それだけの価値が彼にはあるから。彼のおかげで、今の僕があるから。無様でも馬鹿でもいい、狂人と言われても僕は彼の隣に居続ける。それが僕の今の生き方なんだよ」

「……つまりは好きってことか?」

「さあ?生憎と僕は恋愛はまだ1度もしたことがないからね。よく分からないけど君が言うならそうかもしれないね」

「恋愛を1度もしたことがない?おいおい、それじゃあトビト記にあるって言われるサラって女はなんだよ?お前がなんかやらかしたって聞いてるが?」

 

 

トビト記に書かれた物語によればアスモデウス(またはアスモダイ)はサラという美しい娘に取り憑き、彼女が結婚するたびに初夜に夫を絞め殺していたとある。まあ色々あってある若者の案によりアスモデウスはサラから逃げ出し、大天使ラファエルに捕まり、エジプトの奥地に幽閉された。しかし何故かアスモデウスはサラ自身には手を出さなかったという。

 

 

「違うよ……サラは僕の友人さ。まだ僕が未熟者だった頃に出会った、人間の友人だよ。当時僕達悪魔は存在するだけで嫌われていたもんでね。けどサラはそんな僕に声を掛けてくれたんだ。……優しい子だったよ。暇さえあればサラに会いに行ったぐらい仲が良くなっていたよ。けどそんなある日、サラが結婚するって聞いたんだ。僕は悪魔だから式に出ることはできなかったけど、それでも嬉しかったよ?事の真相を聞くまでは……」

「事の真相?」

「サラが政略結婚をさせられたってことさ。驚いたよ。まあサラは僕から見ても美人だったから、狙う男が多かったから分かってたけどさ。それで、真相を確かめるために、サラが話しているのを盗み聞きしたんだ。サラは表には出さなかったけどすぐ分かったよ。サラはこんな結婚は望んでいないって。だから僕は……」

「彼女に取り憑いて夫を殺してったか?」

「そうだよ。僕はそうやってサラを守ってきた、つもりだったんだ。けどある日サラは教会に赴いてこう言ったんだ。『神よ、私を殺してくれ』って。最初は驚いたけど、後から気づかされたよ。彼女のためにやってたことが裏目になっていたことに……よく考えれば取り憑いているとはいえ、夫に殺るのは彼女本人だったしね。………そんな時だね。ある若者2人が、サラの元を訪れたんだ」

「……それがトビアとアザリアか」

「そう、まあ細かく言えばアザリアはラファエルだったけど流石にすぐに気づいたよ。向こうは隠してるつもりだったらしいけど……まあ、あんなことがあったからとりあえず僕は2人を見守ることにしたんだ。そしたらトビアとサラは恋に堕ちたよ。初めてのことだったね、サラが一目惚れをするなんてさ。相思相愛の2人を見て僕は考えたよ。『彼ならサラを幸せにできのかも』ってね。後は……君が知っている通りさ………まあ、所詮僕の独りよがりな行動だったってオチさ」

「そうかい……だから分からないと?けど俺はネバーに向けてるのは愛だと思うんだけどなぁ……」

「けど、それはそんな単純なもんじゃないんだと思うんだ。多分家族に対する愛でもなければ異性に対する愛でもなく、もはやそれすらも超えた感情、だとでも言えばいいのかな?言うなれば半身のようなものだよ。僕の半分が彼であり、彼の半分は僕である。少なくとも僕はそう思っているよ?」

「へえ、それな、らっ……それで、いいけど、なっ!」

 

 

地面から飛び出し、突き上げてくる触手をバットは上手く避け、対してアスモはそう言ってまた新たな触手を作り出す。

 

 

「まあ要するに……何がなんでも、僕は彼の隣に(相棒として)居続けたいから。ただそれだけの理由さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていたぞ。終永時」

 

 

会えたのが余程嬉しかったのか、あるいは自身の予想が的中していたからか。その真意は定かではないが言峰綺礼は確かに笑みを浮かべていた。

 

 

「……」

「黙りか。まあいい……」

 

 

黙秘を続ける終永時らしき人物に何も思うことなく、まるで立ちはだかるように彼の行き先に立ち塞がる。

 

 

「衛宮切嗣と戦うつもりじゃなかったのか?」

「本来ならそのつもりだったのだが……私も欲が出たようだ」

「欲、か……」

「知りたくなったのだよ。何を持ってして悪を名乗り、掲げるのかを」

「……それだけか?」

「それだけでない。お前はあの衛宮切嗣の師でもある男だ。奴の師であるお前なら、答えが見つかるだろうと踏んだという訳だ」

 

 

無表情ながらも声色から嬉々として語っている言峰綺礼。

 

 

「そうか。ならば精々頑張って答えを見つけてくれ」

 

 

だが、熱心に語る綺礼の話を半分聞き流しながら永時は足を進める。

 

 

「なに……?」

「なんだ?まさかご丁寧に答えてくれるとでも考えてたか?だとしたら貴様は随分とお気楽な思考しているんだな。悪いが忙しい身でな。先に行かせてもらうぞ」

 

 

まさか思いもよらない返答に固まる綺礼。そんな彼を何も思うことなく普通に横切る永時に焦った綺礼は……。

 

 

「くっ……ならば…「実力行使か?」……!?」

 

 

 

片手に3本ずつ、両手で計6本の黒鍵を指に挟んで後ろを振り返る。しかし、その行動が読まれていたのか、後ろを振り向いた瞬間、永時の拳が綺礼の目の前まで迫っていた。咄嗟の判断で片手に挟んである黒鍵に魔力を流して盾にして拳を受け止めるも、拳はごり押しするかのように黒鍵を砕き、綺礼の顔面を捉える。だがその砕く時に発生する僅かながらの時間で綺礼は身体を左へと重心を傾けることで拳を避け、その勢いのまま周り、蹴りを顔に放つ。

 

 

「……ッ!」

 

 

永時は咄嗟に拳を引いて少し屈み、頭上を通り過ぎる足を回避。だが綺礼は更にそのままもう1回転して先程より少し下げた位置に蹴りを放つ。

永時は足に力を入れ、重心を後ろに傾けてそのまま地面を蹴り、後ろへ跳ぶ。そして、そのまま半回転して地に両手をついて更に半回転しながら後ろへ跳ぶ。その空中にて装備していたサブマシンガンを2丁抜き取って引き金を引く。

放たれた銃弾は綺礼へと迫るが、綺礼は再び両手に黒鍵を持ち、飛んでくる銃弾を捌き切る。そして全ての銃弾を捌き切った頃には永時は地に足を付けた。

 

 

「難なく銃弾を捌くとは……流石は執行者とでも言っておこうか」

「お褒めに預かり光栄だ。それで……話す気になっていただけたかな?」

「ほざけ(さて……どう動くか)」

 

 

右手の銃を直して相手の動きを待つ。すると綺礼は黒鍵を構えて接近してきた。

とりあえず手に持つ銃で牽制のつもりで撃つ。すると案の定黒鍵で弾かれてしまい、そのまま黒鍵を突き出す。

 

 

「……ハッ!」

 

 

予想通りだったので永時は内心ほくそ笑みながら右手に力を込めて突き出された黒鍵を裏拳で横に逸らす。そして隙だらけとなっている言峰に銃口を向ける。

 

 

(何!?)

 

 

しかし、先程とは別格の速さで姿勢を戻し、前へ進む勢いを利用していつの間にか黒鍵を消して空いていた手で永時の腹部を殴り抜いた。

 

 

「ッ……!」

 

 

そのまま押し出された永時はベクトルに従って後ろに飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 

 

「ガハッ……!?」

 

 

叩きつけられた衝撃で肺の中の酸素と血液が吐き出され、そのまま地へと倒れ込む。

確かな手応えを感じていた綺礼はその呆気なさに落胆しつつ踵を返して歩み出す。

 

 

(……終わったか。もう少しできるものだと踏んでいたがーーーッ!)

 

 

だがそれは終永時を前にやってはいけないことだった。

 

突如後ろから殺気とガチャリと鳴る金属音のような音を感じとった綺礼は咄嗟に後ろへ身体を半回転させると。

 

 

(ーーーなんだと!?)

 

 

彼の視界に捉えたのはすぐ側まで迫ってきているミサイルだった。

 

 

「くっ!」

 

 

咄嗟の判断で腕を交差させて爆発を防ぐ。幸い、強化魔術により軽度の火傷で済んだが、爆発による煙が彼の視界を遮る。

そして、新たに響く2回の発砲音。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

1発目は腹部左側を貫き、2発目は左手を貫き、交差していたためそのまま右肩をも貫いていった。

痛む左手で穴が空いた腹部を抑え、右手に力を込めて拳を作ろうとするも肩をやられたせいかあまり力が入らなくなっていた。

 

 

「……甘いぞ」

 

 

流石は耐久チートと評される程の男。ミサイルを放り投げ、左手に拳銃、右手にサブマシンガンを手に持ち、何事もなかったかのように首をゴキゴキ鳴らしながら銃を構える。

 

 

「流石は衛宮切嗣の師だ。生半可な気持ちでは致命傷を与えることすら厳しいものだ」

「……生憎と貴様と違って場数を多く経験してるものでな」

 

 

そう言って両者は沈黙し……再び動き出す。

 

永時はサブマシンガンを綺礼に向けて発泡する。

放たれた銃弾は綺礼へと迫るも綺礼はまだ使える左手に黒鍵を3本持ち、弾きながら永時へと接近していく。その道中で永時に向けて持っている黒鍵全てを投擲する。

 

 

「……!?」

 

 

飛んできた黒鍵に対し、永時はサブマシンガンで応対しようと標準を合わせて引き金を引く。だが弾切れを起こしたのか引き金を引く音だけが聞こえ、舌打ちして放り投げてもう片手の拳銃で撃つ。

放たれた銃弾は6発。2発は上手く黒鍵に当たって軌道を変えることに成功したが、残り4発は当たらずに通り過ぎる。

 

 

「チッ!」

 

 

残った1本の黒鍵は空いた手で腰元に付けていたナイフを抜き取って斬り払う。

しかしその間に言峰は距離を縮めて永時の目の前まで接近し、拳を作って心臓部目掛けて放つ。

 

 

「ぐうっ……!」

 

 

それに対して身体を反時計回りに捻り、避けようとするも間に合わず、拳は右腹部を抉る。

 

 

「……!?」

 

 

しかし、怯むことなく寧ろ無傷な気配を見せるかのようにニヤリと笑みを浮かべ、そのまま身体を捻って綺礼の脇腹に右足を叩き込んだ。

 

 

「ぐおっ……!!」

 

 

ベキボキッ!と骨の折れる音が鳴り、そのまま吹っ飛ばされる。

少し距離が空いてしまうも上手く受け身をとって着地し、再び接近を試みようと態勢を整える。

 

 

「遅い」

 

 

しかし、態勢を整えて立ち上がった瞬間、銃声が4回聞こえ……

 

 

「……見事だ」

 

 

綺礼の胸部を全ての弾丸が見事に貫き、綺礼は肘を曲げて地に肘をついた。

それを見た永時は構えた銃を下ろし、ゆっくりとした足取りで綺礼へと近づく。

 

 

「……」

「っ!」

 

 

だが、歩いている最中に2発を発泡。1発は左肩に、もう1発は左腕の二の腕部分を貫き、攻撃しようと構えていた綺礼を驚愕させた。

 

 

「終わりだ」

 

 

そのまま力なく膝をついている綺礼の所に歩み寄り、その頭部に銃を突きつけた。

 

 

「……死ぬ前に1つだけ答えろ。何が目的だ?」

「目的、だと?……先程話した通りだが?」

「何?まさかそんなことのために命を懸けるのか貴様は?」

「……フッ。残念ながらそんなことに命を懸ける程なのだよ私は」

「くだらんな。そんなくだらん好奇心だけで命を張るとは……哀れだな貴様は。好奇心は猫を殺す、または馬鹿の一つ覚えのどっちだったか忘れたが……くだらなすぎて笑いがこみ上げてくるわ」

「そうか……すまないが冥土の土産として教えてくれないだろうか?何故悪を掲げるのかを。そして、その掲げる悪とはなんだ?」

「……まあいい。気が変わったから答えてやる……実に簡単な答えになる訳だが、正直言うと悪を掲げる理由は……分からん」

「なんだと?何故だ?」

 

 

目を見開いて驚愕する。まさかあれだけ悪を名乗り、掲げていたのにその理由がないときたのだ。綺礼が驚くのも無理からぬことだった。

 

 

「何故だと?なあに、とても単純でシンプルな話だーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー何故なら私は、終永時ではない(・・・・・・・・)からな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにーーー「残念ながら時間切れだ」」

 

 

何か言おうとした綺礼の言葉を遮るかのように永時は引き金にかけた指を引いた。

 

 

 






今回使用した武器詳細

拳銃→ベレッタM92
サブマシンガン→Vz61 スコーピオン
ミサイル→M72LAW


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